きっとあなたも思い出す。

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夕焼けと僕と彼女の白い肌

 毎日何かに束縛されているように感じる。

 

 朝、眼が覚める。けたましくなるアラームを止め時間を見る。七時十五分いつも通り。パンを焼き、顔を洗い、食べ、身支度を整える。そして、なんの変化もない今日が始まる。

 

 一体いつからだろうか、自分の見ている世界が色をなくしたのは。

ふとあの頃を思い出す、幼かったあの頃は世界はもっとキラキラ輝いていた。今の僕にはきっとその頃の面影はないだろう「フッ」と僕は自嘲を浮かべた。

会社に入ってからは、毎日が何も変わらず、ただ起きては会社に行き帰って泥のように寝るという生活を送っている。

いつのまにか慣れてしまった、酒とタバコは僕を手放してくれない「あんなに、吸わないって行ってたのにね。」家で一人ボソッと呟いた。

 

 有給を久々に取った、全部の時間寝てやろうと思っていたが習慣は抜けないもので、起きたくもないのに七時十五分に起きてしまった。

やることもない、久々に見る朝の情報番組では、梅雨明けをしたとアナウンサーの人が笑顔で言っていた。「そっか、今は夏だったな。」と気づいた。

 外に出るか、何の気なしにそう思い最低限の持ち物で外に出た。私服を着るのはいつ以来だろう、もっぱら休みは寝るか、返上かどちらかしかなかったからタンスの奥に寝ていた服を引っ張り出した。

他の人が働いているのに、自分だけ休んでいいのかという罪悪感を感じながら駅方面へ歩いた。少し気張った若い子や、目の虚ろな中年の男性などを尻目に、僕は空を見上げた。「こんなに空って小さかったっけ。」と疑問に思った。あの頃はもっと空は大きくてどこまでも続いていると思っていたのに。僕は少し悲しくなった。

もっと遠くに行こう。僕は少しの焦燥感に駆られて川辺の方へ早歩きで向かった。

 何故だろう夏の日差しのせいか、幼き日の思い出が蘇る、川辺を歩きながら、微かな思い出を思い出していった。

 あの頃は、何かあったら、いや何もなくても外にいたと思う。川辺で虫取り網を持って走り回って、公園に行けばそこには友がいた。楽しかった、どんなバカなことでも世界がキラキラしていた。

ふと目元が潤む。「また、バカやりたいな。」胸の奥に必死に抑え込んでいたものが溢れ出てきたような気がした。

 気がつけばもう夕方になっていた。沈む夕日を目の前に、僕は慣れたアイツに火をつけた。

夕日を見ると、彼女のことを思い出す。確か、小学五年の時だったと思う。彼女は白く華奢で大人びた子だった。彼女はよく窓がはの席で本を読んでいた。多分僕は夕日に染まる彼女の本を読む横顔に惚れたんだと思う。何故かは覚えていない、でも僕たちは付き合っていたんだと思う。幼かった僕たちは恋もよくわからないまま、友達の延長線で付き合っていた。でもその時間は人生の中で一番幸せだったと思う。でも別れは急に訪れる。彼女は親の都合で遠くに引っ越すことになった。僕は彼女の引っ越しの前日に彼女とキスをした。彼女の白い肌は、夕焼け色に染まり顔がほんのり赤くなっていたと思う。そのあとは覚えてない、ただ彼女の唇の柔らかさともう会えないという悲しさがぐちゃぐちゃに混ざっていたと思う。

「フゥ」白い煙を口から出し、タバコの火を消した。もう太陽は沈みかけていた。

 家に帰り、夕飯を久し振りに自炊し、少し早い時間に眠りについた。

 明日は少し世界に色がつくそんな気がした。

 




ここまで読んでいただきありがとうございます。
少しでも、古い青春のかけらを思い出せていただけたら幸いです。


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