ルドロス → 海獣 という扱いです
「ロアルドロス……!」
苦々しい私の呟きは、一際大きく響き渡る咆哮にかき消されていった。
その形相には、憤怒の色がありありと浮かんでいる。群れの一員であるルドロスたちが多く倒されていることに、怒り狂っているようだ。
統率を失っていたルドロスの群れも、リーダーの出現に従って士気を取り戻し始めていた。
私は条件反射のように背にかけた大剣に右手を伸ばそうとした。
しかし、その手は虚しく空を切る。苦々しい顔で私は右手を引っ込めた。
(そうだ、今の私は……)
そんな私の葛藤など意にも介さず、ロアルドロスは間髪おかずに私に向かって突進してきた。そのスピードは砂地でも衰えることがない。
「くっ!」
一瞬だけ反応が遅れてしまった私は、慌ててその身を突進の進路外へ投げ出した。その横を、ロアルドロスが猛スピードで駆け抜けていく。
ほっとしたのもつかの間、恐ろしい考えが頭に浮かんだ。
私に攻撃を避けられたロアルドロスはその後に何を見るのか、私と真向かいに突進した延長線上にあるものは……
あの少女だ。
ざわっと全身が総毛だった。それだけは絶対に避けないといけない。
弾かれるようにロアルドロスの方を向いてみれば、既に少女の方にも気付いてしまったようだ。その周りに散乱する死体を見てさらに怒りが増したようで、鼻息荒く再度突進しようとしていた。
その目標なのであろう少女の方は、水獣の気配には気付いているようだ。しかし目の前のルドロスの相手に手いっぱいで避けられそうになく、苦しげな顔で剣を振り回し続けている。
(まずい!)
あれを、止めなければ。
私は咄嗟に片手剣を投擲していた。手持ちの大剣もない状態で唯一の武器を手放すなど論外なことだが、剥ぎ取りナイフを持ち出す暇さえなかったのだ。
投げナイフのように一直線に飛んでいったサーブルスパイクは、運よくそのスポンジ状のタテガミに突き刺さった。
小さく苦悶の声を漏らすロアルドロス。大したダメージにはなっていないようだ。しかし注意を引きつけるには十分だったようで、再び私の方へと向き直る。
「お前の相手は……私だ!」
張り合うように大きな声で言った私は、じりじりとロアルドロスに接近していく。
対して相手の方は息を吸い込むように首を上に向け、さっきと同じ水球を三連続で放ってきた。
もろに食らうと非常に厄介な状態になってしまうこの水のブレスだが、今のようにしっかりと意識していれば避けるのは造作もない。大きさと方向を見極め、ひらりひらりとステップを踏むように躱す。
攻撃を全て避けられたロアルドロスは、このままではらちがあかないと判断したのか水ブレスを吐くのを止めた。
そのかわりに、地面をしっかりと踏みしめるような仕草のあと今度は思いきり飛びかかってくる。
(よし、かかった!)
私は少し安堵しながらも、大きくバックステップした。とりあえず誘い込みには成功。少女から引き離すことができた。
次は手持ちの武器をどう取り戻すか、だが――
(……寄ってきたか)
私の周りにも、生き残りのルドロスが集まりつつあった。リーダーを筆頭として、数で押し切るつもりのようだ。
冷や汗が私の背を伝う。
彼らは今までの私に警戒して慎重になっているようだが、今の私は丸腰同然で攻撃手段を持っていない。襲い掛かられたら打つ手がないのだ。
(――いや、これを使えば)
しかし、そんな状況をひっくり返す策をハンターは持っている。
要は武器さえ取り戻せば戦える。だとしたら、この策が一番有効だろう。
ゆっくりと左腕を動かして腰のベルトに装着しているポーチから、こぶし大の大きさの物体を取り出しその手に握らせた。
同様に、右腕の方は剥ぎ取りナイフへと向かわせる。
状況をリセットするための狩人の秘密道具。ただ、敵が十分近くにいてかつその物体に注目していないと効果を発揮しない。一斉に飛びかかられるギリギリのタイミングを見極める必要があった。
(まだ、もう少し引きつけて)
呼吸を落ち着けて、手に掴んだそれを持ち上げていく。急な動きをしては相手もすぐに飛びかかってくるので焦りは禁物だ。
私の手にある見慣れない何かに、ルドロスは否応なくその視線を集めることになる。
(3……2……1……)
じりじりと、ルドロスたちが探るように距離を詰めてくる。
少女が戦っている喧騒もどこか遠くへ置いていき、動き出すのは私か、ルドロスたちか――。
そのとき、私は声を張り上げた。
「目を
戦闘中の少女がしっかりと聞こえるように。
瞬間、私は右手に持っていた物体を手放す。と、同時に左腕で顔を覆い、
今まさに飛びかからんとしていたルドロスたちは、私の不可解な行動に半数が身構え、半数が足に力を込めた。
だが、それらはもう遅い。
ナイフがその物体を切り裂いた瞬間、暴力的なまでに明るい光が彼らを襲った。
腕越しでも、漏れ出す光だけで閉じているはずの視界が真っ白に染まる。
とたんに溢れる、怒号と絶叫の嵐。
凄まじい光でモンスターの動きを止める道具「閃光玉」を私は使ったのだ。
目を開けてみると、凄惨たる光景が広がっていた。
悲鳴を挙げながら転げまわっている者、夢遊病者のようにふらふらとあちこちをさまよう者、全て、今の光によって目を焼かれたルドロスたちだ。
かのロアルドロスでさえ、たたらを踏んで何かを振り払うかのように首を振っている。
(そうだ、あの子は!?)
被害を受けていないだろうか。人がもろに食らってしまえば暫くの間何も見えなくなってしまう。
焦りを感じて見やってみると、辛そうにしながらも再び剣を構えようとしているのが見えた。どうやら影響は少なかったらしい。
目をつむれ、と言わなくてよかった。あの光は瞼など軽々と貫通してくる。目をつむる程度は到底防げるものではない。
しかし、向こうのルドロスたちにも効果は届かなかったらしく、中断された戦闘が再び始まろうとしていた。
(大丈夫そうかな……って、ゆっくり見てる暇なんてない!)
今のはサーブルスパイクを取り戻すための一手だ。
私は出来る限り音を立てないように、ロアルドロスの側面へと回り込む。視界が閉ざされた今、相手が自分たちを感知するには音と匂いしかない。
幸い今は周りのルドロスたちも口々に悲鳴を上げているため、音だけで私の居場所を特定することは出来ないだろう。
明後日の方向を向いているロアルドロスに対して、私はそのタテガミに浅く突き刺さっているサーブルスパイクを抜き取った。噴き出た血が、黄色のスポンジを朱色に染めていく。
同時に私は、壁蹴りの要領でロアルドロスの体を蹴って距離を取った。
苦しげな声を漏らし、忌々しげにこちらに向き直すロアルドロス。出血の痛みを振り払うように爪を払ってくる。既にその場から離れていた私は、その闇雲な攻撃から逃れていた。
続いてポーチから手のひら程度の容器を取り出し、栓を取ってその中身を一気に呷る。
決して甘いとは言えない。しかしそれなりの清涼感のあるゼリー状の回復薬が、私の喉を潤していった。
(次は……)
閃光玉の有効時間を経験則で判断すれば、まだ時間の余裕はありそうだった。周囲のルドロスは依然ふらふらとしている。
その間に出来ることは、周りのルドロスを攻撃しておくか、炎剣を回収しに行くかの二択だ。
(……状況をよくするにはやっぱり炎剣を取りに行った方がいいね)
一瞬だけ逡巡した私は、後者を選択した。ルドロスの数を減らすのも大切だが、片手剣だけで戦うのにも限界がある。
そして、この限られた時間を無駄にしないためにも地を蹴ろうとして――
丸太のように太い何かに強かに背後から打ち据えられた。
「か、はっ――」
視界がぶれる。
それに気付いたころには即座に地面に叩きつけられていた。受け身を取ることもできない。その強い衝撃に、臓腑が押しつぶされるような重圧が加わった。
「ぐ……!」
腰から方にかけて、焼けるような痛みが走り抜けていく。思わず悲鳴を上げそうになったが、歯を食いしばってそれを耐えた。
手足には反射的に力が入り、一刻も早く立ち上がろうとしている。
(今のは……尻尾?)
動転しかける意識をどうにか押さえて、痛みに支配されないようにそれ以外のことを必死に考えた。
ロアルドロスの薙ぎ払った尻尾に当たってしまったのだろう。砂浜を満たすルドロスの悲鳴のせいで、風切り音さえ聞こえなかった。
暴れてくるとは運が悪い。いや、あるいは――
ふらふらと立ち上がって、手放さなかった剣をしっかりと握りしめた私は、尻尾が飛んできた方向へ振り返る。
結局追撃が来なかったことを不思議に思いながら。
「嘘、でしょ……」
そして、愕然とした。
一瞬見間違いなのかと思ったが、そんな甘い幻想は現実の前に無力だった。
剣を構えなおす私の顔はさぞひどいことになっているのだろう。受け入れるしかなくても、信じることは出来なかったのだ。
「いくらなんでも、立て直すの早すぎるよ……!」
ロアルドロスが憤怒を湛えた双眸で、こちらを確かに見ていることが。
怒りに満ちた咆哮が、砂浜に響き渡った。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
ルドロスの何倍もの大きさを誇る巨体が、私を押しつぶそうと突っ込んでくる。
右斜め前に大きく前転することでそれを避けた私は、起き上がりざまにその後ろ脚を水平に切り裂く。幾ばくかの出血と共に、新たな赤い線が刻まれた。
そのまま二撃目へとつなげようとしたが、直感で剣を引いてサイドステップ。距離を取った。
すると、その一瞬後に水球が今まで私がいた場所に着弾する。二撃目を決めるために踏み込んでいたら被弾していただろう。
大きさはそれほどでもなく、ルドロスのものであることが分かる。しかし、当たると厄介な状態になってしまう点は相変わらずで、決して無視できない攻撃だ。
ほっとするのもつかの間、またも背後から迫るさっきとは別のルドロスと、振り上げられたロアルドロスの尻尾が挟み撃ちのように私を襲ってきた。
「――――っ!」
僅かに息を吐いて、その尻尾から背を向けた。ルドロスの方に向き直って剣を構える。
そのまま駆け出し、目の前までルドロスが迫ったところで跳躍。鎧の重さのせいであまり高くジャンプすることは出来ないが、上手く突進を躱すことができた。
左右ではなく、真上に避けられたのは予想外だったらしく慌てて振り返ろうとするが、その側面からは統領の尻尾が風切り音と共に迫っている。
尻尾に見事に打ち据えられたルドロスは、私のすぐそばまで吹き飛ばされて甲高い悲鳴を上げる。
私はその首筋に素早く剣を閃かせた。今度は致命傷だったようで、血を吐きながらそのルドロスは絶命した。
(――息が詰まるな……)
囲い込もうとするルドロスたちをけん制しながら、焦燥にも似た気持ちで呟く。
あのままロアルドロスと攻防を繰り返し、立ち直ったルドロスたちと再び戦線を開いてしまってから数分が経過している。事態は泥沼化しつつあった。
砂浜は既に十頭を超したであろうルドロスの死体と血で彩られており、心なしか空気も淀んできているような気がする。
ただ、今になってそのルドロスの討伐数も一気に減った。理由は明白。あのリーダーが現れたからだ。
彼の支持は的確だった。主に動くのは自分で、部下には遊撃を任せる。消耗戦に持ち込んで、私たちのスタミナ切れを狙う気なのだろう。
私はそんな状況下でも戦える自信があるが、少女の方が心配だった。
私は大きく息を吸い込み、大声で呼びかけた。
「そっちは大丈夫!? きつくない!?」
「――――ダイじょうブ、だっ!」
少しの間をおいて、返事が返ってくる。だが、その内容とは裏腹に、声は息切れを必死に押し隠しているようだった。
これは、いよいよまずいのかもしれない。捌ききれず、被弾し始めている可能性もあった。
ぎりっと歯噛みする。――なんて、情けない。
あの子に負荷ばかりかけているくせに自分は戻ってこず、大剣さえ回収できていない。
ロアルドロスのころがり攻撃とルドロスの噛みつきを同時にいなしながら、私は悔しげな表情で呟いた。
「一撃の重さが、全然足りないよ……!」
そう、火力不足。これに尽きるのだ。
私の片手剣は手数を重視するから、重量は軽めに作られている。
片手剣を主力に用いるハンターはもっと剣先を重くして殺傷力を上げるが、剣筋がずれやすくなる。私にはそれを制御できるだけの繊細さを持ち合わせていなかった。
さっきまで順調に敵を殺せたのは、一撃に力を籠められる状況であったからで、乱戦になった今はその軽さが逆にネックになってしまっている。
(やっぱり、大剣を取りに行くしかない)
この状況を打開するには、周囲一帯を薙ぎ払えるくらいの広範囲かつ重い打撃を与えられる武器が必要だ。
それができるのは、あそこに突き刺さっている炎剣のみ。目測で二十歩ほどのところにある。
しかしロアルドロスは私のそんな思考を読んでいるのか、あの剣の恐ろしさを知っているのか、決して私をそこに近づけようとしない。賢い統率者だった。
今も私と大剣の間に立ってボディプレスを仕掛けてくる。いつもならガードしてやり過ごすが、今は周りのルドロスの動向を見ながら後ろに飛び退くしかなかった。
(どうする……いや、まだこれが一つだけ残ってる)
砂に膝と手をついて受け身を取りながら、ポーチにあと一つだけ残っているのであろう閃光玉の感触を確かめた。
もう一度これを使って隙を作れば、その脇をすり抜けて大剣を回収できるかもしれない。
しかし、この道具にはある欠点があった。これを使うたびに、モンスターはその光に慣れて効果が薄れていってしまうのだ。一回目に比べて、立ち直るのがぐっと早くなるはず。
取りに行っているうちに背後から水球でも食らったら目も当てられないことになる。
(しかもあいつ……たぶん閃光玉のことを知ってる)
ハンターとの交戦経験がある個体なのだろう。そこで閃光玉を使われ、その仕組みを学習した。
そうでもないと、あの復帰の早さは説明できない。
「だったら、なおさら近くで炸裂させる! ――閃光玉もう一発、使うときに合図するから!」
私はそう彼女に向けて言って、今度は自ら突貫する。
取り巻きのルドロスたちは、私がロアルドロスに肉薄している間は積極的な攻撃をしてこないようだ。巻き込まれる可能性があるからだろうか。
ただ、こちらの動向には常に神経をとがらせて見ているようで、閃光玉を使う方としてはまさに願ったり叶ったりだ。
後は、この厄介なロアルドロスにどのタイミングで使うか、だ。
それについては、先程からある策が浮かんでいた。振り払われる左手を避けて、懐の中へと入りこむ。
どうせ、どんなに近くで光を浴びせたところであのモンスターはすぐに立ち直ってしまうだろう。
だとしたら、その短い間に何をするかが重要になってくる。当然、何もしないで愚直に大剣を取りに行くわけにはいかない。
薄くタテガミを裂いて意識をそらさせてから、右後ろ脚まで駆け抜け、尻尾の付け根辺りに陣取る。
そして、さっきつくった傷跡に重ねるようにして二連撃を加えた。先程よりも確かに深い手ごたえが私の手から伝わってきた。
ロアルドロスは尻尾を振り上げ、執拗に攻撃する私を薙ぎ払おうとする。
私は剣をしまわずに右手でロアルドロスの背中に手をついた。そのまま屈伸し、跳躍。垣根を飛び越えるような形で、左後ろ脚のそばに着地した。
当然、尻尾の一撃は不発となっている。攻撃のために踏ん張り、隙だらけになった後ろ脚に剣閃を叩き込んでいく。
ひとつひとつの攻撃は丁寧に、力を込めて、筋に沿わせること。
片手剣の基本的な教えに沿った斬撃は、余裕がなかった時と比べ明らかに深い傷を刻んでいた。
(これくらいにしといて、と)
僅かに怯むロアルドロスを尻目に、私は早々に今自分が経っている場所に見切りをつけた。そして再びタテガミの下、彼にとっての死角部分へとその身をすべり込ませる。
いくら取り巻きが攻撃しづらいとはいえ、同じ場所に居座り続けていては何かしらの攻撃を加えてくるだろう。敵を翻弄させたいとき、停滞は禁物なのだ。
巨体の影に隠れ、正座立ちになって目の前の立派な厚皮を切り裂こうとした私だったが、不意にその影が消え去った。ロアルドロスが大きく首をもたげたのだ。どうやら移動した時点で捕捉されていたらしい。
「――やばっ」
(しかも、ボディプレスじゃないとか!)
焦りのせいか読み違いが連発し、うめき声を漏らす。バックステップだけでは避けられそうもない。
せめて装甲のしっかりした部分で衝撃に備えようと、後退し背を向けた瞬間に、私に向かって右の方へロアルドロスは転がった。
その重厚な肉壁に引っかけられて、私は盛大に吹き飛ばされた。急速に加速度を加えられ、体中が軋むような悲鳴を挙げる。自分の体が宙を舞うという状況は、強烈な違和感と恐怖を刻み込んでくる。
ただ、それくらいの衝撃で正気を手放さないくらいには、私もハンターを続けてきたのだ。さっきのように予想と対策ができていなかった場合は話が別だが。
目まぐるしく移り変わる視界の中で地面がどこにあるかを探し、姿勢を安定させるためにお腹の底に力を込める。
地面を捉え次第そこに向けて膝頭を向け、吹き飛ばされている方向とは逆向きになるように手足をひねって折り曲げる。
そして着地。ひっくり返らないように前傾姿勢を保ったまま膝から下の足で速度を殺し、手をついて上半身を制御した。この時点でロアルドロスの方に顔を向けることが出来るようになる。
結果、片膝立ちで手をついたような格好で静止した。
受けたダメージは最初の衝撃分くらいしかない。
吹っ飛ばされている間にここまでのことをすべてやるのだ。既に反射に近い反応なのかもしれなかった。
(――――あっ……)
衝撃の余韻はともかく、着地の時点で動けるようになっていた私は、しかしその場から動こうとしなかった。
ある考えが閃いたのだ。いつ突破口が開けるのかと焦りばかりが募る中で、それはまさに名案と言えた。
(これなら、いけるかもしれない。あいつを……欺けるかも)
そのためには、このまま項垂れておくことが大切だった。取り巻きのルドロスに、そしてそのリーダーに、
たくさんの目線が私に突き刺さっているのが、ひしひしと伝わってくる。
遠くから、少女が声をかけているのが聞こえた。ただ、その声はこちらの身を案ずるものではない。こちらが見えているのなら、おそらく気付いているのだろう。
私の今の体勢は、手負っていては決してできないであろうことに。そしてその手にある片手剣がわざとらしく地面に突き立てられていることにも。
どちらかというと、少女の声に濃い疲労が混じってきていることの方が心配だった。肩で息をしているかのような声だ。
(待ってて。もうすぐ、もうすぐで助けに行けるから!)
心の中でそう叫びながら、私は唇をぐっと噛みしめた。
今度はかなり長くなってしまうという。ばらつきが大きいですね。
次回までは早い間隔で上げられると思います。