現在艦内では先遣隊が向かってるという情報に、ヘリオポリスの避難民は皆一様に喜んでいた。
しかし、乗組員は喜んでいる場合ではなかった。
何せフィルの言葉から戦闘になる可能性があるため、乗組員は休んでる状況じゃなかった。
それはフィルも同じで格納庫で機体のチェックを行っていた。
「あの、フィルさん」
「何だいキラ君?」
キラもフィル同様にストライクのチェックのために格納庫に来ており、フィルより早くチェックを終わらせていた。
「先遣隊と合流するのにどうしてこんなに慌ただしいんですか?」
「俺の杞憂なら問題ないけど、もしかしたら戦闘になる可能性があるんだ」
「どういうことですか?」
「この船にはラクス・クラインが乗っている。おそらくザフトは今も彼女を捜索しているはずだ。その捜索隊と先遣隊が遭遇してしまったらどうなるか君ならわかるはずだ」
「そ、それは……」
そうなってしまえばどうなるかはキラにもわかっている。
先遣隊が全滅されてしまうことを。
いくら艦艇やMAの数が多かろうと、MSの前では歯が立たない。
「だから、その為の準備をしておく必要がある。それに、一応戦闘を止める方法があるがな」
「え?あるんですかそんな方法が?」
「う~ん…だけど、賭けになるかもしれないところがあるんだよな」
願うなら何も起こらないことが一番である。
しかし、そんな願いも叶うことはなかった。
警報が艦内に鳴り響いたのだ。
「フィルさん、これって!?」
「そううまくいかないか。キラ君はいつでも発進できるように準備してて!」
フィルはそう言って機体から出ると、何処かに向かいだす。
「何処に行くんですかフィルさん!」
格納庫から何処かに行くフィルが出撃準備をせずに何処かに行くフィルに、キラは不思議そうにフィルの後姿を見ていた。
格納庫から出たフィルはある場所に向かっていた。
「っと…。失礼しますよ」
「あら?どうなされたのですかフィル様?」
そこはラクスが軟禁されている士官室だった。
「現在貴女を捜索するザフトの部隊と友軍の戦闘がおこっています」
その言葉にラクスが表情を暗くする。
自分を捜索してくれてることは嬉しいが、だからといって無用に命が散ることは望んでいない。
それがザフトだろうと連合だろうと。
「戦闘を止めるために貴女の力をお借りしたい。私に同行してもらえますか?」
「……はい、参りましょう」
そして、フィルはラクスを連れて艦橋に入る。
「状況はどうなってますか?」
「レオルド少尉!?それに…」
突然艦橋に入ってきたフィルに驚き、その上ラクスを連れてきたことにマリューは言葉が出なかった。
「状況はどうなってるんですか!」
「す、すでに先遣隊とザフトの戦闘は始まってます。本艦はこれより援護に向かうつもりです」
フィルの大声に落ち着いたマリューは方針を告げる。
「艦長、急いで通信回線を開いてください」
そこへフィルは通信回線を開くよう頼む。
「何処に回線を開くんだ?」
ナタルは冷静にどこに回線を開くか尋ねる。
「ザフトと友軍にです」
「え、でもどうしてザフトにも?」
友軍にだけではなくザフトにも回線を開くことにマリュー理解できなかった。
「……なるほど、そういうことか」
ナタルはフィルの考えを理解できたつもりだが、フィルとしてはナタルが考えていることとは全く違った。
「急いでください!こうしてもたついてる間にも友軍が危険なんです!」
「護衛艦バーナード沈黙!」
そこへノイマンがドレイク級駆逐艦バーナードの撃沈報告が入る。
「わかったわ。急いで両軍の通信回線を開いて!」
「は、はい!」
キラを手伝うために艦橋にいるミリアリアが不慣れながらも急いで回線を繋げる。
「両軍の通信回線を開きました!」
「よし、はぁ~ふぅ~。両軍に告ぐ!戦闘を停止してほしい!こちらは地球連合軍所属艦アークエンジェル!当艦はプラント最高評議会委員長の令嬢、ラクス・クラインを保護している。当艦はラクス・クラインの身柄をザフトに返還したい。そのためにどうか戦闘を停止してほしい!」
「な!レオルド少尉!」
マリューはフィルの策がラクスを返還することだということに気づき驚いていた。
しかし、戦闘が止まる気配がない。
「やはりそうなるか。申し訳ありません、お願いします」
ザフトからしてみれば連合の言葉を信用できるわけがないだろう。
だが、彼女の言葉なら違うだろう。
「皆さん、私はラクス・クラインです。偶然にも私は連合の方々に救助されました。そして、連合の方々は私を丁重に扱ってくださいました。どうか戦闘を止めてください」
ラクスの声が聞こえた途端、ザフトの攻撃の手が止まる。
そうなるのも当然と言えるだろう。
フィルの言葉が嘘だと思っていたのが実際は真実だったのだ。
それに下手に攻撃してしまえば、ラクスの身が危険だと考えてるのだろう。
「こちらはストライクにラクス嬢を乗せて引き渡す。受け取り相手にはイージスであることが条件だ。この条件をのめない場合はラクス嬢の身の安全は保障できない」
そうして通信を終えたフィルはその場にへたり込んだ。
「はぁ~こういうのは俺に向かないな」
フィルとしてはこういうことには向かないというか、緊張するので向いてほしくないのである。
「それで、本当にラクスさんをザフトに返すの?」
「ん?それは当然でしょ」
「な!戦闘を止めるための方便ではないのか!」
ナタルとしては戦闘を止めるための方便だと思っていたのだろう。
「そんなわけないでしょう。彼女は民間人なんですからちゃんとザフトに身柄を渡すべきでしょう」
「しかしだな……」
「今は言い争っている時間はないわ。それでこの後はどうするつもり?」
「当然この宙域の離脱を優先すべきです。今は敵の戦力がナスカ級一隻ですが、もし増援が来ればこちらに勝ち目はありません。ですのでここからは賭けの部分が大きいです」
敵の増援の数やいつ到着するかによって戦況は変わる。
「賭けでお前はあれほどの大見得を切ったのか」
「ええ。賭けでもなんでも利用しなければ味方の命が危険ですからね」
堂々と言うフィルにナタルは頭を抱える。
「モントゴメリのコープマン大佐より通信です!」
モニターにコープマンが映し出される。
『第8艦隊のコープマンだ。アークエンジェル、先程の通信はどういうことだ?』
コープマンとしてもラクス・クラインを保護してることを知らなかったため、未だに状況が理解できないのだろう。
「失礼しますコープマン大佐」
『君は?』
「アークエンジェル所属のMSパイロットのフィル・レオルド少尉であります!」
『MSのパイロット?ということは君が例のGの?』
「はい、ただ一人だけ生き残ってしまったテストパイロットです」
『そうか…。それでこれからどうするつもりだ?』
コープマンの問いにフィルはマリューを見る。
この場合、自分が答えるべきか艦長であるマリューが答えるべきなのかわからないからだ。
『おい!先程の通信はどういうことだ!』
そう悩んでいるところに別のモニターに一人の男が映し出される。
無理やり先遣隊に同乗した事務次官のジョージ・アルスターだ。
「仰っている意味が分かりませんが?」
『何故彼女の身柄を返還すると言うんだ!』
ジョージにとっては最高評議会委員長の娘であるラクスという存在は外交において大きな手札になる。
そんな手札をみすみす返すことに納得できないのだろう。
「ああしなければ戦闘を止めることはできませんでした。それとも貴方はこのまま撃ち落されたかったのなら構いませんでしたが?」
『な……!』
暗にこうしなければお前は死んでいたんだよというフィルの発言に艦橋の乗組員は驚いていた。
「こうして話す間にも敵は近づいています。話なら後でしましょう、それではラクス君こちらへ」
フィルはラクスの手を引いて艦橋を出る。
艦橋を出たフィルはラクスにパイロットロッカーに向かう。
「あの!」
呼び止められて後ろを振り向くと、そこにはサイにフレイがいた。
「どうしたんだい?」
「ほら、フレイ」
「う、うん」
サイに押されてフレイは前に出る。
「あの、パパを助けてくれてありがとうございます!」
「……その感謝はまだ早いよフレイ君」
「え?」
「私がやったことは戦闘を一時的に止めてだけだ。本当に大変なのはここからだ」
「そんな…」
フレイは悲痛そうな顔をする。
しかし、フィルの言う通りここからが本番だ。
「っとそういえば丁度よかった。フレイ君、君に頼みたいことがあるんだ」
「え?何ですか?」
この頼みを聞いてくれるわからないが、聞いてくれなければフィルが一番困るのだ。
「すまないけど彼女の着替えを手伝ってほしい」
それはラクスの船外作業服の着替えを手伝ってもらうことだ。
流石に女性の着替えをフィルが手伝うわけにはいかないのだ。
だが、問題はフレイがこのお願いを聞いてくれるかだ。
フレイはコーディネイターをひどく嫌っていた。
ラクスの着替えを手伝ってもらえるかわからないのだ。
「………い、いいですよ」
「へ?」
フレイが承諾したことにフィルはもちろんサイも驚いていた。
「だから、彼女の着替えを手伝えばいいんでしょ」
「そうだけど……いいのかい?」
酷くコーディネイターを嫌っていたため、承諾したことが信じられないという思いが強かった。
「だって、フィルさんが言ったじゃない。他人の言葉を鵜呑みにせず自分が知ることが大事だって」
フレイはあの時食堂で言われた言葉をこれまで考えていた。
父からはコーディネイターは危険な存在だと何度も言われていた。
しかし、フィルの言葉を聞いてから父の言葉が正しいのかわからなくなっていた。
キラとラクスを見て本当にコーディネイターが危険な存在なのかわからなくなったのだ。
キラは確かにMSを操縦することができるが、トールたちと気軽に話す姿はコーディネイターなど関係なく、自分たちと何処と変わらない姿だった
ラクスは誰かを襲う様子はなく、少しぼんやりとしたお嬢様のように感じた。
そんな二人を見て自分の考えが正しいのかわからなかった。
そして、フレイはラクスの着替えを手伝うことで本当にコーディネイターが危険なのか話して確かめるつもりなのだ。
「それなら助かるよ、なら急ごう」
4人はパイロットロッカーに到着すると、フレイとラクスは中に入る。
着替えを待つ間、フィルとサイは喋ることなく静かな時間が過ぎていた。
「あの…本当にフレイのお父さんを助けることができるんですか?」
「……本当のことを言えばわからないの一言だ」
「わからないってそんな……」
「だから、助けるためにできることをしないければいけないんだ」
その為の一つがラクスの返還だ。
おそらく先遣隊でも宙域を離脱する準備が進められてるはずだ。
「そのために君も自分ができる限りのことをするんだ」
「……はい!」
元気よく返事をしたサイは艦橋に戻ていった。
「はぁ~。何か色々と凄いことやってしまった気がする」
壁に寄りかかって溜息を吐くフィルは自分がやったことを思い返していた。
「だけど、やるって腹括ったんだからな」
自分の行動がどんなことになるかわからないが、すでに覚悟を決めたのだ。
「フィルさん!」
そう思っているフィルに近づくのはパイロットスーツに着替えたキラだった。
「どうしたんだいキラ君?」
「どうして僕が引き渡し相手何ですか?」
自分が引き渡し相手になったことを聞きにフィルに会いに来たようだ。
「理由としては不甲斐ない話だけど、君のほうが俺より操縦技術が上ということかな」
「……ならどうして受け渡し相手をイージスに指定したんですか?」
「イージスを指定したのはあの機体が敵部隊の中で一番の性能を持つ機体だからだ」
「そうなんですか…」
もちろんこの2つの理由に嘘はないし本当のことであるが、もう一つの理由がある。
それはキラとアスランを接触させることだ。
キラの意志をここではっきりさせとかないと、迷っていては撃ち落される可能性があるからだ。
「キラ君、まだ何か悩みがあるならあとでゆっくりと聞くよ。だけど、これだけは覚えていてほしい。何が大切なのかを、君が何のために戦うことを決めたのかを忘れてはいけない」
「何のために戦うのか…」
何のために戦うことを選んだのか。
それを忘れなければアスランと対話も大丈夫だろう。
パイロットロッカーの扉が開き、中から疲れた様子のフレイと船外作業服に着替えたラクスが出てきた。
ポッコリと膨れたお腹を見てフレイを見ると、着替えに苦労したことがわかる。
「全く、大変だったわよ」
「申し訳ございません、フレイさん」
「もういいわよ」
「次からはもうちょっと着替えやすい服してよね」
「はい!」
着替え中に仲良くなった二人にキラとフィルは驚くが、今は驚いている時間が惜しいためフィルたちは格納庫に向かう。
「大丈夫かい?」
ストライクのコックピットにキラとラクスは二人乗りしているため、フィルは窮屈であるか尋ねる。
「はい、何とか大丈夫です」
「そうか。それではラクス君、また縁があればお会いしましょう」
「ええ、本当にありがとうございましたフィル様」
「キラ、その…この前は…ごめんね!」
そう言うとフレイはストライクから離れる。
キラはフレイの言葉に嬉しそうにしていた。
「よかったなキラ君」
「はい……!」
そして、ハッチを閉じたストライクはカタパルトに向かう。
「さて、俺も準備するか」
フィルも自身の乗機であるプロトストライクに向かうのであった。