八幡が会議室を出て、数分は誰も言葉を発しなかった。
明らかに全員が、八幡の行動に不自然さを感じていたのだ。
美咲side
比企谷くんが帰ってから誰も喋らない。
きっと何を喋っていいかわからないんだと思う………
すると、はぐみが意を決したように口を開いた。
はぐみ「は、はちくんどうしちゃったんだろうね?用事があるって言ってたけどはぐみ達なんにも聞いてなかったし。」
薫「そうだね。
先程の八幡は少し……いつもとは違う雰囲気だったね。」
そう。はぐみの言う通り、比企谷くんはいつもバイトや予定があったら言う人だと思う。
だからさっきの用事は十中八九嘘だと思う。
本当だったら謝るしかないけども。
それに雰囲気も確かに違かった。
違うというか一気に変わった。
原因がわからない。
なんで急にこんなことになったんだろう?
花音「比企谷くんの様子が変わったのは、ピアノの話をした時…………だよね?」
ミッシェル「確かに……そうですね。」
そうなのだ。ピアノの話をするまではこっち側……というか3バカを相手するツッコミ係というか。
……それにしてもあの弦巻こころが喋らない。
なにか悩んでるのかな?
こころ「あたしね。この前、いつもの楽しい事探しで色んな所を散歩していたら、八幡を見かけたの。」
美咲「……えっ?急になんの話?」
ゆっくりとその日を思い出すかのように話す。
でも少し、いつもの喋り方ではないからなのか、違和感がある。
こころ「八幡がピアノを弾いていたのよ!
傍には泣いてる小さな女の子がいたんだけど、八幡の演奏を聴いてるうちにその子は笑顔になったわ!
他の周りにいた人たちも笑顔になっていったのよ!」
とても嬉しそうに弦巻こころは語る。
話し方も戻ってるし。
はぐみ「はーくんすごいね!」
こころ「でもね?ピアノを弾いてる時少しだけ悲しそうな……苦しそうな顔をしていたの。」
こころ「原因はわからないわ!
でも、『どうしてそんなに苦しそうな顔をしてるの?』って思ったの。
八幡のおかげで周りのみんなは笑顔になったのに、八幡自身は笑顔じゃなかったのよ。」
こころ「あたしはね?
まずはクラスのみんなの笑顔が見たくて、入学式から色々な人に話を掛けて沢山の笑顔を見てきたわ」
こころ「そして八幡にも話を掛けたわ。
でも、未だに八幡の笑った顔を見たことがないのよ。」
「「「「………」」」」
薫「そう言えば………確かにそうだね。」
ミッシェル「あたしも……ないかも」
こころ「だからね!ピアノの……キーボードのことはもういいの!
この問題は八幡自身が解決しなきゃ行けないものだと思うのっ!」
こころ「だからね?まずは、あたしは八幡を笑顔にするわ!
『世界を笑顔に』これがあたし達の目標よ!
八幡を笑顔に出来なきゃ世界だって到底笑顔に出来ないわ!
だからあたし達のバンドは八幡を笑顔にしてからがスタートなのよっ!」
はぐみ「うん…………うん!そうだよっ!」
こころ「あたしは………笑ってる八幡の演奏を見て聴きたいのっ!
それなのにちーっとも、笑ってくれないから八幡には困っちゃうわ!
でも、八幡と出会って、それから花音と薫、はぐみにミッシェル、キグルミの人と出会えてバンドが組めたわ!」
ミッシェル「そう…………だね。」
こころ「だから今は待ちましょ!
その間にあたし達は、練習よ!
みんなで上手くなって八幡を驚かせるわよっ!」
はぐみ「こころん………
うんっ!そうだよね!よぉーし!根性根性だよっ!」
薫「何もしなかったら何も起こらない。
今は出来ることをやろうか!」
花音「…………うん。そう…………だね。
八幡くんならきっと大丈夫………だよねっ!
私も心配されないように練習しなきゃ…!」
ミッシェル「………はぁ。
無理矢理の勧誘は絶対に止めますからね。」
こころ「それじゃあ練習をはじめるわよ〜〜!」
3バカ「「「おー!!」
美咲、花音「「お、おー!」」
×××
ふらふらと目的もなく歩いていたら、見覚えのある場所に着いた。
たしかこの先を歩くとCiRCLEに着くはずだ。
まぁ、今日はバイトもないしどうでもいいんだけど。
空は夕方から夜に変わろうとしていて、道ではサラリーマンなどが帰宅をしている。
???「あ、あった!」
???「はや……」
???「やっぱりつぐは一番星見つけるの早いな!」
???「つぐってるからね〜」
???「う〜〜!私が1番先に見つけるつもりだったのにー!」
前には5人組?の女が歩いている。
楽器らしき物を背負ってるのでCiRCLEかどこかのライブハウスの練習終わりといった所か。
にしても歩くのが遅い。
遅いのは構わないのだが、広がって歩かないでもらいたい。
5人ほど横に並ばれてしまうと通る幅もない。
コレはこいつらの後ろを歩いてるしか無さそうだな。
………ストーカーとか言われないよね?
言われたら訴えてやる!…………負ける気しかしねーな。
歩きながら脳内裁判を始めてると前の奴らが急に騒がしくなる。
???「あ、沙綾じゃねーか!」
???「あ〜、ほんとだ〜」
???「巴にモカじゃん。こんな時間までバンド練?お疲れ様!」
???「そ〜なんだよ〜。モカちゃんもうおつかれ〜。
だからご褒美パンが欲しいな〜なんて。」
???「こらモカ!………モカがすいません!
モカはやまぶきベーカリーのパンが大好きなんですよ。」
???「あはははっ!ごめんねー!今は持ってないから今度オマケしとくね!
いつも沢山買ってくれるからね!」
???「それにしても沙綾。その子達は沙綾の弟と妹さんか?」
???「あ、そうだよ。ほーら、さな、じゅん?
このお姉さん達に挨拶して。」
???「…………こ、こんにちは」
???「ど、どうも………」
???「あはは……………ごめんねー、2人共恥ずかしがり屋で。」
???「ははっ!全然大丈夫だぞ!」
???「そうだよ〜。蘭だって似たようなもんだし〜」
???「ちょっ!モカっ!」
「「「あはははっ!」」」
わー、たのしそうだなー。
………だけどココでやるの辞めてもらってもよろしいですかね?
ほら、あの奥の方に公園見えます?
そこでなら何時間でも何年でも話していいからさ。
はぁー。もう1度来た道戻ってから違う道で帰った方が早いかもな…………
???「あ!」
1人の女の子が後ろを見て来たので目が合うと声を上げた。
あ、やっべぇ。今のため息が聞こえてたとか?
陰でヒソヒソとウザがられるのは構わないのだが、直接的に攻撃されたらどうしよう……
そして、ストーカー扱いされたら………
???「す、すみませんっ!
あたし達、話に夢中になってて!
本当にごめんなさい!!」
………なにこの子。めちゃくちゃ優しいじゃん。
ストーカー扱いとか言ってすいません。
???「あ、本当だ〜。すみませんでした〜。どうぞどうぞ〜」
???「ちょっとモカ!本当にすみません………」
八幡「いや、その、謝らなくても大丈夫……です。
じゃあ、その……失礼します。」
OK。ちょークール俺。
折角道を譲って貰ったので早足で通らせて貰う。
???「あ!この間のお兄ちゃん!」
「「「「「へ!?」」」」」
なんか小さな女の子に服を掴まれたんだけど、ナンデ………?
×××
???「えっ!?じゃあこの人が、紗南と純が言ってたボール取ってくれた人?」
紗南「うん。このお兄ちゃんが取ってくれた!」
純「うん、俺もちゃんと覚えてる。目で」
ちょっとちょっと?
少女に捕まった後に近くの公園に拉致られたんだけどなんか色々とおかしくない?
俺の知らない所で話が進んでるんだけど。
……ん?ボール取ってくれた人?
あ、てかよく見たらこの前公園でボール遊びしてた小学生か。
なるほどな。それで知ってる人だから拉致ったと…………うん、さっぱり分からなかったわ。
紗南「あ、あの……!こ、この前はごめんなさい!
お兄ちゃんはボールを取ってくれたのに、さなは………」
純「お、おれも!ごめんなさい!
俺たちのためにやってくれたのにひどいことを………」
紗南、純「「ごめんなさい!」」
えーーーーーー。
え、マジで!?お、おおおおおおちつけ。
コレはダメだろ!?
今にも泣きそうな小学生が2人。
その子らが俺に謝ってる。
………うん。明らかに知らない人が見たら通報しちゃうレベル。
とにかくなんとかしなければ!
八幡「い、いや「私からも謝ります!弟と妹が失礼なことを言ってすみませんでした!」
???「い、いま、この人何か言おうとしてなかった?」
ナイス赤いメッシュがかかってる女!
八幡「いや、その、アレだ。そもそも俺は怒ってない。
だから謝る事もない…………です。
それにだ。突然声掛けた俺も悪いし………うん、俺が悪いんだ。………ほんとに。」
???「めちゃくちゃ下向きだ…………」
×××
???「本当にありがとうございました!ボールの事とか、紗南と純の事とか」
八幡「あー、はい。全然大丈夫です。
じゃあ自分はコレで。」
???「あ、ちょっと待ってください!
その制服って花咲川の生徒ですよね?」
八幡「え、はい。そうですけど……」
なに花咲川の制服着てるんだお前?とか言われる?
???「私も花咲川の生徒なんです!
1年の山吹沙綾です!
この2人は私の弟と妹で、紗南と純です!」
八幡「お、おう。
…………えーっと、俺は比企谷八幡です。1年です。」
沙綾「同級生なんだね!
じゃあタメ口で大丈夫だよ!」
結構グイグイ喋るなこの人。
コミュ力高すぎだろ。
あと、そこにいる5人がなんか気まずそうな顔してるのに気づいてあげて。
5人にチラッと視線を向けると銀髪の女の子と目が合った。
???「ん〜?もしかしてモカちゃんの名前も知りたいの〜?」
八幡「いや、別にいいです。じゃあ俺はコレで。」
そう言うと5人組の女の子たちが、銀髪の女の子に「モカ、振られてやんのー」等とからかっている。
沙綾「あー、ごめんごめん!みんなの紹介もしとくね!」
いや、だから別にいいって。
人の話を聞こう?ね?
沙綾「この5人は『Afterglow』っていうバンドを組んでて、みんな幼馴染なんだ。」
巴「じゃあまずは私から行くぜ!
羽丘学園の1年!宇田川巴だ!よろしくな!」
ひまり「私も羽丘の1年で上原ひまりです!
よろしくね!」
つぐみ「わ、私も羽丘の1年で羽沢つぐみって言います!
そ、そのっ!よろしくお願いします!」
モカ「羽丘1年〜、青葉モカちゃんで〜す。
よろしく〜」
蘭「………みんなと同じで羽丘1年。
美竹蘭。よろしく。」
八幡「お、おう。その、えーと、よろしく……?」
えー、なんでこんなことなってんだっけ?
よろしくと言われましても学校違うしもう会うこと無くない?
………いや待てよ。コイツらバンド組んでるって言ってたから、CiRCLEで会う可能性があるってことか。
モカ「さ〜や〜。モカちゃんはパンが食べたいんだけどお店もう閉まってるの〜?」
沙綾「あー、ごめんねー。今日はもう全部売り切れでキリが良かったからそのまま閉店にしちゃったんだ。
それで今、買い物の帰りだったんだー」
つぐみ「やっぱり、やまぶきべーかりー大人気ですね!
私も頑張らなくちゃ!」
蘭「つぐみがつぐってる…………」
沙綾「あ、比企谷君も是非やまぶきべーかりーに来てね!
サービスしちゃうよ?」
へー。こいつの家お店やってんのか。
まぁ、場所も知らんし行く気はないがな。
八幡「お、おう。いつか行ってみるわ」
巴「それは行かない奴のセリフだろ……」
即バレた。
いや、お金ないからな。あー、残念残念。
ひまり「モカはちょっと食べ過ぎだよ!
朝も沢山買ってたのに………」
モカ「チッチッチッ。甘いよひーちゃん。
パンは別腹なんですよ〜。
それにカロリーは全部ひーちゃんに送ってるからね〜」
ひまり「んなっ!?」
沙綾「あははっ。今後共やまぶきベーカリーをよろしくね!」
それから女子たちの話し合いが始まり、俺はお役御免しようとした時に、ある2人に服を捕まれデジャブを感じつつ振り向くと山吹の弟と妹が「お兄ちゃん遊ぼー」と言われたので30分ほど付き合った。
八幡「じゃあ、俺はここで。」
沙綾「あ、うん!純たちと遊んでくれてありがとね!
じゃあまた学校で!」
帰ろ帰ろ。
公園を出る寸前にまた服が掴まれた。
紗南「…………バイバイ。」
恥ずかしそうにボソッと言う少女。
それにしてもだ。
あんなこと気にしなくていいのに、謝ってくれるとは2人ともすごくいい子なのだろう。
俺はしゃがんで頭に手を乗せた。
八幡「じゃあな。」
頭をワシワシと撫でると、くすぐったいのかわからないが目を細めてる。
さぁ、そろそろ帰らないと変態扱いされそうなのでこの場を去りますか。
モカ「コレって110した方がいいのかな〜?」
八幡「おいちょっと待て。いや、待ってください。
そのケータイを今すぐしまえ。」
言った傍からへんたいふしんしゃ扱いしやがって、コレはつい小町で培ったお兄ちゃんスキルが発動されたにすぎない。
特に他意はない。
つぐみ「モ、モカちゃん!
す、すみません比企谷さんっ!
コレはその、モカちゃんのちょっとした冗談なので気にしないでくださいっ!」
モカ「そういうこと〜、さっすがつぐ〜。
モカちゃんの事をよくご存知で〜」
その冗談で俺は冷や汗かいたんだけど。
こいつはアレだ。俺の苦手なタイプだ。
別に得意タイプもなく苦手ばっかりなんだけどな………
それにしてもこの羽沢つぐみって子、めちゃくちゃ良い奴だ。
天使か。天使だな。
……いや、辞めよう。今度こそ通報されそうだ。
そしてやっと公園を出て帰宅に入る。
今日は疲れた。精神的にも肉体的にも。
早く帰って休もう。
………てか、あの山吹って女子が「また学校で」とか言ってた気がするけど、「また」って何?
×××
公園を出てからしばらく経ち、やっとのことで自宅へと着いた。
八幡「たでーま。」
小町「おかえりー!今日遅かったね?
バイトだったの?」
八幡「いや、バイトではなかったんだがな。
ちょっと用事があってな……」
そう言えば今日は、さっきの事件?的なことで忘れてたけど、弦巻の家の話し合いで勝手に帰ってた事忘れてた。
あー、明らかに俺の様子がおかしかったってバレてるよな……
奥沢と松原さんいるし。
でもまさか、弦巻が俺にキーボードをやれって言ったのは驚いた。
弾けると知っていたような口調だったのが気になる。
黒服の人達か………………?
まぁ、そんなことはどうでもいいか。
ただ今日は、早く寝たい気分になっていた。
×××
数年前の話である。
小学校4年生の冬頃に事故が起きた。
お父さんが車に轢かれた。
道路に飛び出した子供を助けた後に、自分は間に合わず轢かれたらしい。
病院に搬送されたが、助からずに息を引き取ったらしい。
あまりにも現実味がなく理解が出来なかったが、隣で泣いてるお母さんと小町を見て夢ではない事がわかった。
父親がいなくなったことにより、お母さんは仕事を増やしていた。
一緒に食べていたご飯も作り置きになり、俺と小町の分しかなく、お母さんとは一緒に食べることはほとんどなかった。
お母さんは言っていた。
「心配しなくていいのよ。大丈夫だから。」と。
お母さんは1人で俺たちを養わければならない。
朝から働いているのに、夜の仕事も増やていた。
夜遅くにお母さんが家から出る姿を何度も見た。
それからだ。俺がピアノを弾かなくなったのは。
小学5年生になる頃にはめちゃくちゃ勉強していた。
苦手だったが必死になってやった。
中学校では、成績上位者には学費免除が与えられる学校が近くにあったためそこに入学し、成績やテストでは1位を取り続けてた。
家の事も出来るだけやっていた。
少しでもお母さんの為になればと。
小町も同じ気持ちだったのか、2人で協力していた。
大好きだったピアノ。
毎日のように弾いていたピアノ。
何故弾かなくなったのか…………
自分だけ楽しくピアノを弾くなんて事が出来なかったから。
お父さんは死んで、お母さんは辛い思いをしてるのに、
1人………自分だけ楽しむなんて事は許せなかった。
そう。こんなのはただの自己満足だ。そんなのはわかってる。
わかっていた。
せめて、妹の小町には楽しく生きていて欲しいと思った。
だけど、小さいのに家事も出来るようになって、俺と違って友達も多いのに家の事を優先して………
小町は俺が思ってるよりもずっと強かったんだ。
こうして時は経ち、高校生になった。
俺が通う花咲川高校でも、特待生制度があったので入学した。
数年前は女子校だったらしいので運が良かった。
だが、俺にしては中々内容が濃い学校生活を送っていたな。
誰かさん達のせい………………いや、おかげなのだろうか。
だけどそれももう終わり。
悲しくないなんて言うつもりもない。
ただ、元に戻るだけ。何も無かった中学の頃のように。
それだけだ。
…………それだけなのに、、、