ケーラ・スゥ
諸君。人の後悔は星の数ほどあるというがそれは君自身が体験している通り本当の事だ。
宇宙世紀、時代が変わって人の体に鉛をを討ち込むその手がアームレイカー(ハンドルの一種)越しになっても、鉛をぶち当てるその体が鉄塊になり、人の絶命する様がみえなくなったとしても、誰かを狙うその手が震えるように。もう殺したくないと誰しもが考えるように。
誰もが真夜中に後悔し、歯を食いしばって、泣いて、震える。……無論私も例外ではない。
……後悔。誰かはそれを「若さ」とバッサリ切り捨てるのかもしれない。
……だけれどそれを見つめる、見つめられる強さも人は持ち合わせている。
過ちを繰り返す人類だが、それでも未来を信じ進んでいけるという願いを人は何時か手にする。
一人一人が暖かい思いを、明日を願えば隕石が動く程度の奇跡は起こるのだ……と。
……それは私がケーラ・スゥになってみて分かった事の一つだ。
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「……相も変わらず情報不足だな」
とあるコロニーの民間区画で話をしている、男二人。
少々怪しさ漂う二人組だが恐らく想像容易く、すぐに立ち去っていく事だろう。周りからも怪訝な目で見られている。
なぜなら、男たちは血の臭いをその手から、きつく匂わせているからだ。
二人は、決して外見などからその香りを漂わせている訳ではない。見すると唯の、優し気な好青年とピンと筋の通ったダンディズムな30前後の男性であるが、どうにも染みついてしまうものなのだ。この「香り」というべきものは。
……二人は会話しながら周りを見渡す。
大きな滑り台が目印の少し寂れた公園、子供を見守る母親、狭い住居のベランダから洗濯物を干すために柵に少し乗り出す若者。あまり使われない道路は少しコンクリートが剥がれてしまっている。ここはどうやらあまり裕福な人が暮らす場所では無いらしい。
「だが、奴を止めるには……」
「ここで話す事でもないだろうに。焦るのは解る……。が」
顔を直接動かさず目だけで辺りを見渡しひそひそと話し込む。だが、この様に話せば話すほど辺りの色は険悪になる事を知ってすぐに黙った。
恐らく会話の内容から、二人は散らばったごみ屑よりも価値のない時間を過ごしてしまったであろう事が伺える。
そして、ほんの少しばかり自棄を起こした好青年が滑り台で遊んでいる少年に声をかけた。
「そこの君、少し話を聞かせてほしいのだが」
少し意外を突かれた子供が、滑り台に向かおうとする足を止める。
……そして、軽く礼をするわけでもなく、逆に睨みつけて足早に母の下へ去って行った。
「……駄目だな」
「ここまで地球のイメージが悪いとはな」
ブライト・ノアは小さく両手を広げ呆れと深刻さを持ち合わせため息をついた。
……始めは、その行動に批難が溢れた。
猿をロケットに乗せて宇宙に運び、漂わせて着陸させる。
その一見、無意味な行為は、周りから幾ら罵られても絶対にせねば成らない実験だった。
それは、人が宇宙に住むための……誰もが望む「夢」に必要な、礎だった。
誰もが、空を見上げて鳥の様に飛びたいと願った。
そして何時か人は
だけれども、それは望んだわけでは決してなかった。
地球に残ったのは富と権力を持つ人々ばかりで、力のない民は、人口が増えすぎて限りあるものしか住めなくなった地球という星から「間引き」されただけの人類だった。
富裕層から見た、下の物などは全て猿にでも見えたのかもしれない。
そして、望まずして宇宙に昇った貧困層は、発展途上の枯れた土地を見て何を思ったのだろう。きっと、「救い」を求めたに違いない。
―――――――――――――「ジオン」という一筋の光に。
「いつになったらたどり着ける……! シャア……!」
ロンド・ベルのアムロ・レイはその言葉を静かに吐き捨てる。
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町外れのbar 少し古めかしさを模した外装に甘いネオン。そこに久しぶりに来客する恋人同士の姿があった。漏れるのは二人きりの会話、甘いため息交じりの独り言。
「じゃあ、あなたが仕事を始めるようになった切っ掛けは?」
その様は二人の客が同じ酒を酌み交わす様に愛を語らっているようにも見えた。
「古い話だね。そうだな……ただ私は家族が欲しかった、それだけなのかもしれない」
そうだきっとこの二人はただの恋人同士なのだろう、素直に見た通りの。しがない牧師と妖美な女。きっとこれから二人が待ついくつもの未来に胸をときめかす唯の普通の愛……それならばよかったのに。
「ふふ、その家族はお母さん?お姉さん?……弟?」
女の小さなバッグに入ったいやに武骨な通信機が鳴り響く。
「……全てさ、もう悲劇はおしまいだ。だから私はまた教壇に立つ」
「……スウィートウォーターへの政治的介入?」
シャア・アズナブルは疑問の声を漏らした。
新生ネオ・ジオン総帥補佐及び戦術指揮官ナナイ・ミゲルは、その自分の手綱を握るべき人間、いや人類の歴史を、未来を指すべき人間。総帥シャア・アズナブルに課題を提示する。
「はい。スウィートウォーターは我々の拠点と呼ぶに非常に近しいコロニーになる事でしょう。しかし、問題があります。それは我々ネオ・ジオンに相反する派閥です。確かに総帥自ら統治するこのブロックはその殆どが整頓整理されると思われます。ですが、ネオ・ジオンを良く思わない人々は必ず出てきます」
……短いため息を着いて、総帥はまるで呆れたように声を漏らした。
「その人々を弾圧する法でも作れと?」
「……それに近しい事をしなければ、我々の情報を漏らすのは避けねば。と、思います」
「ふむ……」
拳を唇に当て少し考える。
いや、ナナイの提案にはほとんど賛成と言っていいのだが、自分なりに考える事は考える。
この様な大事に、例え自分にとって興味が無い事であっても、確実に自分の手には一つのコロニーの命全てが、未来が掛かっているのだ。そう易々とその場で判断できるようなことではない。
例えそれは、能力にある程度の信用は置いている、ナナイ・ミゲルであっても、その提案を簡単に丸のみする様な事はシャア・アズナブルには出来なかったのだ。
……それは民を思っての王としての判断なのか、単に自分の政治屋としての血の騒ぎなのかは本人にもわからなかった。
「スウィート・ウォーターは、その殆どが私に同意しているのではなかったのかな?だから、ここの掌握も私の名前を出せばすぐに通してくれた」
確かにそうなのだが、敢えてシャア・アズナブルは言葉を濁らせる。その方がナナイという女は細かな指示を仰いでくれるからだ。理性的でいて女らしさも感じさせる。我ながら悪くない女を選んだものだ。
そして期待通りにナナイは説明をした。律儀なものだ。と、心の中でふと考える。
「確かにそうなのですが油断はできません。ロンド・ベルも各コロニーに我々の事について聞き込みをしているでしょう。せめて拠点にするこの土地は意見を100%に近い形でシャア・アズナブルに統制するのは望ましい事だと思います」
全く、よくできた女な事だ。
私の思いどうりに動いてくれる。御しやすい上に私の事と政治を客観的に見ての答えも出す。ある種の男にとっては最高の女の形ではないだろうか?
「ナナイの言うとうりだな。正しい方に着こう」
「……つまりは、政治屋の真似事をやればいいのだろう?」
「……恐れ入ります、総帥」
++++++
「戻ろうかブライト、このコロニーにはシャアは居ない」
散りばめられたごみ屑をかき集めて出来た情報は、それより少し大きくなった紙くずの様な結果しか生まなかった。ふりだしにまたも戻されたブライト艦長率いるロンド・ベルのエース、アムロ・レイは苛立ちと落胆を押し付ける。が、それを匂わせない言葉遣いでその場をしのいだ。
「コロニー側は、もうシャアの手が回っている様だ」
実る事が在るのだろうかという希望だけでは桃の花は咲かない。水を如雨露で組み入れ毎日与え続けなければならないのだ。
井戸水をくみ上げる手間暇を、何年も続けてやっと人は桃の実を手にする事が出来る。それを知る、そしてそれが出来る「執念」が必要なのだ。燃やさなければならないのだ。
それがまるで自分の命を削るような行為であっても。
「シャアを倒さなければ、俺は死に切れない。ブライト」
「……チェーンがそれを聞いたら悲しむ、アムロ」
ブライト・ノアには、その言葉を諫める事しかできなかった。
「……?」
……ふと、アムロがラー・カイラム内で通り過ぎた女性士官を目で追う。
それを優秀な指揮官ブライト・ノアが少し笑い、指摘した。
「おいおい、チェーンの話を持ち出したのにそれか?」
……だが、茶化されたその言葉を放り捨てて、何時もの「アムロ・レイ」らしからぬ行動をとった。
「……君!」
ラー・カイラムの、同じ船の、命を共に預ける仲間を不仕付けに呼び止めたのである。そして、通常ならば決して在り得ない、まるで新兵の様な行動をとった。
「……名前は?」
ラーカイラムの船員は百を超える。そしてそれを全員覚えているかと問われれば、船員は当然「覚えている」と皆言うだろう。
それほどまでに、命を預ける仲間は尊重して接するべきなのだ。
そして今、その「当たり前」を犯してまで口にした疑いの言葉は、たとえ相手がアムロ・レイであっても、失礼という言葉があて嵌っている。流石のブライトも困惑した、口説き文句ではない事は声の様子で解る。しかし疑問しか浮かばない。この船員の名は……。
黒髪長髪、目は少し釣り目、兵としてはとても若い、コスモスの花が似合いそうな女。
そもそも、戦場に置いて女性兵はかなり少ない。その中でもパイロットをやる女性などは、一握りだ。乗船しているとごく自然に、いや、まず間違いなく、いの一番に覚えるだろう。
そんな、不自然さを覚えたブライトが、アムロ・レイにその乗組員の名を告げる。
「何を言っている、アムロ?」
……そしてブライトはそれがまるで当たり前の様に言葉を続けた。
「……「ケーラ」だよ。……「ケーラ・スゥ」」
……そう言われ、振り向いた黒髪長髪の女は、我々が知っているケーラ・スゥという女性の、金色で短かく切り揃えた髪とはまるで一致しない。勿論顔も違う、ヘアスタイルどころか、身長も、何もかも、全てが。
……そして、眉一つもまるで似ていない別人を指してブライト・ノアは続ける。
「……忘れたのか……?……アムロ・レイ?」