女子高生はケーラ・スゥ?   作:くとろあ

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「……アムロ、何をしている? それは艦長としても見過ごせない」

 

 ブライト・ノアはその様子を、自分の部下を根拠もなく疑うその様を静視してみて居られる男ではなかった。それは例えホワイトベース隊からの付き合いの戦友、そしてのちに伝説のエースと言い伝えられる男でもそれは同じことだった。

 

「……」

 

 気まずい静寂が訪れアムロ・レイは黙り、ブライトを軽く見た後、恐らくのケーラ・スゥの顔をじっと見つめる。

 

 ブライト・ノアはそれは昔、よく見た光景だった。アムロ・レイが、自分は正しい事を突いているのに周囲が認めてくれない時、自分の中で気持ちがごちゃ混ぜになってしまって不器用な言い回しになってしまうその癖。

 

 ……ブライトは息を呑んだ。

 

「……いや、……すまないねケーラ。不仕付けな事を聞いた、アストナージには言わないでくれよ」

 

 そしてその小さな緊張の最中、アムロ・レイはその顔から急にまた何時もの優し気な笑顔に戻り、その顔に沿うように軽くジョークを一つぶつけた。

 

 未熟だったアムロ・レイはもう居ない。

 

 そんなブライトの不安を拭い去る男に、モビルスーツ隊の長らしく、いや、後の伝説とまで言われた男の名に違わぬ器をアムロ・レイは長い戦いでとうに身に着けていたのだった。

 

 

 ……。

 

 ……。

 

「……っはぁっ! ……はぁっ!」

 

 アムロ・レイが通り過ぎた後、私はいつの間にか止まりかけていた呼吸器官を活性化させた。

 

 ……間違いなく危ない橋を渡った。

 

 これからもこんなことが頻繁に起こる。早く、少しでも早くこの世界に干渉するのか否か決めなければきっとこの様な状態は私が死ぬまで起こるのだろう。

 

「死ぬ……まで……?」

 

 ……今、ようやく理解した。私は危ない橋を「渡った」のではない。

 

 恐らくまだ「渡っている」のだ。

  

 ……少し踏み外せば、この世界の破滅という地獄と隣り合わせの危険な橋を、私は今渡っているのだ。

 

 ◇ ◇ ◇ ◇

 

 宇宙世紀0093年2月27日。

 

 地球とコロニー、その両方が驚愕する、あるビックニュースが出回った。

 

 それはとある人物が、地球連邦政府を糾弾するインタビュー動画であり、その記録媒体は後の貴重な歴史資料としていくつもの端末に記された。

 

 高官が連邦を非難するだけであれば、その様な動画はありふれている。すぐに時の中に消えゆく一陣の風だろう。だがしかし、その質問に答えているその、ある人物が問題だった。

 

 ジオンの純粋な血を持ち合わせ、戦争の引き金を引いたザビ家をたった一人で打倒し、世界を破壊せんとするティターンズの悪行を世に広めたその人物。

 

 ……シャア・アズナブルがネオ・ジオンを率いて地球に宣戦布告した動画である。

 

 ◇ ◇ ◇ ◇

 

「……動きがあったというのは本当か?ブライト?」

 

 先ほどの有耶無耶を無かったかのように、だがしっかりと心に留めて、アムロ・レイは無重力下の壁を蹴り、ブライトの座る横まで来た。

 

 ブライトの方はと言うとその言葉を受けては居るのだが目線を合わせずに、静かに艦内モニターを睨む。

 

 いや、間違いだ「それ」を睨んでいるのはブライトだけではなかった。今は先ほど声をかけたアムロ・レイも、だけではない。このブリッジに居る全員が船のモニターを見ている。

 

 ……そしてそのうちの誰かが声を漏らす。

 

「……5thが……動いてる……!」

 

 見ていたのは、数時間前のとある映像。ネオジオンに電撃的に占拠された、小惑星の成れの果てだった。

 

「……一瞬だったそうだ、敵と言えど素晴らしい手際だ、さぞ優秀な指揮官が居るのだろうよ」

 

 ブライト・ノアがまるで呆れるかのように褒めると、アムロ・レイはこの場の誰よりも速く直感した。

 

「―――――シャア」

 

 ……その名が口から漏れ出た時、瞬間全てが凍り付いた。

 

 まるでその言葉に呼応するかのように赤いMSが写ったからだ。

 

 誰も見たことが無いそのMSにロンド・ベルは釘を打ち付けられたように動かなくなった。

 

 その、赤い鷲の様な機体に連邦軍墨付きのMSジェガン部隊が交戦に入ろうとした刹那……閃光と共に塵と化す。

 

 残った赤い機体が、遠く離れた方に次々にか細い光を放つと、ジェガンが触れる事すらできなかった「それ」の周りに小さな光がぽつぽつと……湖の気泡の如き儚さの様に散っていく。

 

 一切の反撃も、否、自分を殺めた原因すらも解らず消えていく命の様子。その様子はもう戦いではなく、一方的な虐殺に近しかった。

 

「シャア・アズナブルは生きていた……か、解ってはいたが、ようやく実感したよ」

 

 ブライト・ノアは苦しそうに牙を剥き深く、深く大きく息を吐いた。

 

 

 ――――――――――数時間前。

 

「5thを奪うのは重要な任務になる、……私も出よう」

 

 舞台上で主役の前では誰一人声を挙げる者はいない。静まりかえった艦内でシャア・アズナブルがそう口にすると感嘆の声が上がった。

 

 脇役の高官たちが立ち上がり、次々にイエスと言葉にしたが、同時に疑を呈する者達が居た、ホルスト・ハーネスとナナイ・ミゲルである。

 

 ホルスト・ハーネス……彼の政治に置いての手腕は非常に高い。なぜならそれはジオンの再興という己が信念ともいえる「夢」を持っているからだ。彼の性格は決して良いものではない。が、この話になると答えは変わってくる。

 

 そもそも彼は、生粋のジオニストである。ジオン設立からその身を置き、尽くしてきた。

 ダイクンの死後、敗戦から今まで何回もジオンは残党とまで名前を変えて連邦軍と大規模な交戦をしている。しかし彼はそれに静観を、我慢を続けた。

 

 何故なら、それらは全てジオン・ズム・ダイクンが望んだ事ではない。己が信念に反するような気がしたからだ。彼は何時も己が信念を見定めてきた。今まで起こしてきたジオン「もどき」の行動は彼の心には響かなかったのである。

 

 だから、多少の手助けはしたもののそれ以上はしなかった、自分の心に眠る忠義の炎はメラメラと熱く燃えているのにも関わらず静観を続けた。

 

 ……ジオンの遺児キャスバルが現れるまでは。

 

 ホルストは賛同者たちを邪魔な羽虫の様に押しのけ、静かに、だが重い声で漂っていた活気を静める。

 

「……いえ、総帥。失礼ながら出撃は許可できません、ここは我々を信用して頂きます」

 

 賛同していた高官たちは手を止めホルストの方を見る。

 もし、他の者がこの様な冷水を差す真似をしたら出る釘は打たれるのだろう。

 

 だがしかし、今回は優秀かつ何よりもジオニズムの塊であるホルストが賛同を押し切っての意見であるから、だれも次の言葉を言えないでいた。

 

「私も、その意見に賛成です。総帥、お止めになった方が宜しいかと」

 

 次ぐナナイ・ミゲルまでも反対したのだから、先まで賛同していた高官たちは立つ瀬がない。

 

 シャア・アズナブルとしては周囲の賛成で押し切る目論見もあったのだが、やはりと言うかこの二人は賛同しなかった。それは何故か?簡単な事だった。

 

「総帥、貴方はネオ・ジオンの全てです。貴方が発起しなければ私達は一生狭い岩石の中で眠る唯の猿人です。どうか、ここは押さえてください。重要な作戦ですが、我々だけでも遣って退けられます」

 

 シャア・アズナブルという存在が唯一無二だからだ。だからホルストが火を焚いて、自分たちを猿とまで呼びシャア・アズナブルに縋る。そして最後にここまで言った。

 

「我々を信じてください」

 

 感動的なまでの愛国心からくるそれは、妄言なのかもしれないが理には適う。自分たちを埃の様に扱ってでも止める。なぜなら今は、シャア・アズナブルと言う男の徹底的なまでの安全を作るのが彼ホルスト・ハーネスの全てであるからだ。

 

「……そうか」

 

 シャア・アズナブルはその熱意に静かに頷いた。

 

 だがしかし、ここで終わるほど彼は自己犠牲に駆られてはいないし、我が薄いわけでもない、例えこの世の全ての人間が自分を否定しようとも、本当に大切な者さえが認めれば彼はその腕一本で数億人分の働きをしよう。

 

 ……ただ彼が認める大切な人々は、その殆どが血に濡れていた。ただそれだけの話だ。

 

「……ホルスト、正直に話せ。成功の確率はどの位だ?」

 

 そして続けて冷酷に、絶対に返せない文句を付けた。だがあえて、あえてホルストは力強く答える。

 

「100%です。艦からとは言え総帥自ら指揮するこの作戦、失敗は有り得ません」

 

「……嘘だな」 

 

 シャアはその力強く答えた虚勢をいとも簡単に切り捨てた。

 

「ネオ・ジオンは、その多くが私に付いてきてくれた。しかしその戦力は地球と比べれば一と千の差だ。到底足りない。例えば、この警備がそこまで厚くない5thルナに攻め入るとしても、私含む多くの戦力と、奇襲、情報、我々が勝利するために必要な手全てを使っている。そこまでしてようやく「勝てる」程度だ。」

 

 弁慶の泣き所を突かれたホルストは静かになりシャアをじっと見た。次に言う言葉は聞きたくは無かったのだが、それでも黙って総帥の決定を待つ。

 

「この作戦、失敗はできない。「完膚なきまでに勝つ」いいな、ホルスト」

 

 総帥と参謀、正論と虚像、指導者と信者、元々が勝てる話ではなかったのだ。もうすっかりとホルスト・ハーネスは静かになってしまった。

 

 そして、その様を横から見ていたナナイが最後に意を告げたのだが、それは彼女らしい保障と補填にまみれた上等な妥協案だった。

 

「……ギュネイ……ギュネイ・ガスを付けます。それだけは譲れません、総帥」

 

 ……シャアは微笑む。その様子は、まるで愚かな罪人たちを優しく闇に誘うハーメルンの角笛吹きのよう。

 

 ――――――――――

 

「5thルナの占拠及び掌握、ほぼ完了との事です。」

 

 ネオ・ジオン、ニュータイプ研究所の長ナナイ・ミゲルは言葉を紡ぐ。

 

 彼女の目的は、驚くなかれ、地球と宇宙ほぼ全ての戦力と自分たち田舎小惑星の戦争だ。

 

 ……そしてそれは誰が見ても敗北は明らかだろう。

 まともな思考回路の人間ならば銃を捨て裸足で逃げだしている。

 

 いや、そもそも反抗すらしないか。並の人間ならそれに犬の様に足を舐めるだけである。

 

 しかしそれを可能にする力が現れた。

 彼女は、いや、かつての公国軍の民は、この力を、彼を、待ち焦がれていた。

 

 ……かつて、ジオン公国と名乗るスペースコロニー一帯があった。

 

 世紀のカリスマ、偉人ジオン・ズム・ダイクンが提唱した人類の次のステージ。

 

「ニュータイプ」

 

 それは、宇宙に進出した人間は新たな才能に目覚める。という「願い」

 

 言ってしまえば、半塲ば無理やり地球から追い出された貧困層、いや、宇宙に人が住めるのかという実験に使われたモルモット達が自分を救うための言葉。

 

「宇宙に行けば、自分たちを見捨てた人間達を超えた人間に、ニュータイプになれる」

 

 それは、宗教染みた「願い」だった。

 

「何時かニュータイプになれたら人と人は心の底から解りあえる」

 

 それは、人類の心の底にある純粋な「思い」だった。

 

 だけれども、それはジオン・ズム・ダイクンが毒により、その瞼を閉じた時に、ただの私欲を満たす「願望」へとなり下がった。

 

 人口を減らすための戦争と呼ばれた「一年戦争」

 

 敵を憎み、宇宙全てまで憎悪をまき散らした「グリプス戦役」

 

 内から臓物を食らう様な痛みと悲しみしか生まなかった「ネオ・ジオン抗争」

 

 ……その言葉は、幾数もの、幾千もの争いを生み出した。

 

 人類の進化は、ずっとまだ、まだまだまだまだまだまだまだまだまだまだ我ら人類には早すぎたのである。

 

 人はその何千ともいう戦いの中で、本来のニュータイプの意味である「人と人が解りあえる力」という言葉すらも理解できず、その進化した能力を、誰よりも「人を殺す力」を持った人間と歪める事しかできなかった。

 

 最悪だった。

 

 いくら戦争という痛みを地球に教え続けても、地球はそれをすぐに忘れ、宇宙は何度も痛いと叫び続けるだけで報われず傷は広がるばかり。

 

 ……そんな腐った世界は「変化」を求めていた。

 

 ジオン・ズム・ダイクンのたった一人の遺志を継ぐもの、キャスバル・レム・ダイクン。

 

 世界は、その「シャア・アズナブル」に引き金を弾かせた。

 

「……そうか、案外、楽なものだった」

 

 シャア・アズナブルはまるで、つまらないものでも見たかのように一息と共に笑い、ナナイにそう語り掛けた。

 

「みんな、期待してるんですよ、シャア・アズナブルが、キャスバルが世界をひっくり返す……って」

 

 そしてナナイ・ミゲルもまるで呆れた笑いでも誘うかのように、くすりと笑った。

 

 だが、自分もその一人だと、その大衆の一部だと理解している彼女は、きっとそんな自分を含めて笑ったのだろう。

 

 そして、その笑みは破滅と自虐をひっくるめた怪しさ光る大人の顔であった。

 

「はは、君のそんな顔が見れて嬉しいよ、それだけでも、この行動に価値があった」

 

「お上手ですね大佐……いえ、今は総帥と、お呼びするべきでしたか?」

 

 そんな女が今は自分の心を埋めてくれている優越感を心に掛けたネオ・ジオン総帥シャア・アズナブルはその大人のジョークを鼻で優しく笑い、自身もまたその大人の一つであると実感して答える。

 

「ナナイが好きな方でいいさ、君の判断はいつも正しい」

 

「なら……キャスバルと呼んでも?」

 

 少し、相手の様子を見て話すナナイ・ミゲルに軽い笑いが心に差すが、顔には出さなかった。

 

 シャア・アズナブルには、彼の心の中には自分が引き継いだ組織、このナナイが属するネオ・ジオンも、そして今しがた掌握した5thルナも、スウィート・ウォーターというコロニーや自分を信じる数多の民にすらも興味がない。 

 

 言い過ぎてしまえばこのナナイにも興味がない。

 

 自分が本当に愛した女、ララァ・スンは死んだ。もう、この世にはいない。会えない。出会う事も無い。

 

 そして今の自分に残っている感情はそのララァを殺したアムロ・レイとの決着。

 

 もう彼に残った、意志らしい物はそれしかなかった。

 

「アムロ・レイを倒さなければ自分は前に進めない」

 

 その、鎖に、永遠の輪に、シャア・アズナブルは囚われていた。

 

「構わないさ、好きに呼んでくれ」

 

 心の中の薄い笑いを閉じ込めるように更に笑ったような顔で押しつぶす。

 

 救世主シャア・アズナブルは乾いた様に笑う。

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