女子高生はケーラ・スゥ?   作:くとろあ

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幸せ

「あの違和感……覚えたくは無いな」

 

 先ほどあった、事の一件から自室。ぐしゃぐしゃになった心を掛ける様に壁にもたれかかったアムロはある予感を感じていた。

 

 ……その予感を、アムロが抱くことは必然だった。

 

 シャア・アズナブルが本格的に動きだしてしまった今と、ある日の強大な力の感覚。そして先ほどのケーラ・スゥ。抱いたのは、恐らくこの三つは「彼女」で繋がっているのではないかと言う疑問。

 

 ……静かに目を瞑る。

 …………あの悪夢の様な現実を、何時からか見なくなった。

 

 明確な理由などは解らない。だが、それはきっと、きっと今の自分は「ここ」に居る事に満足しているからだ。微塵も寂しさを感じさせない仲間達や、チェーン・アギの存在。今生きる自分の人生の使命。それを感じていたからだ。

 

 ……そう思っていた。

 

 ……そして、何時しかシャア・アズナブルの陰謀を知り、自分も是非にと加わった。そうすれば自分は自分に納得できる。……そうだ。

 

 

 ――――アノヒヲノリコエタノダト、ジブンニナットクデキルノダ。

 

 

 ……思わず手に力が入る。

 

「……それで、……それで! 奴と決着して楽になろうとしていた俺を笑いに来たのか!? ……ララァ・スン!!」

 

 ……アムロと少し離れて「そこ」に確かに彼女は居た。後悔し、懺悔もできなかった最低だらけの小さい、小さいあの日の自分に戻った頃の様に。だが、それは今のアムロにとって全く好ましくない事だった。

 

 ……目線も合わせることなく、先ほどから変わらない、片腕を壁に押し付けた姿勢でアムロ・レイはララァを否定した。

 

「何を考えている、ララァ! ……赤の他人すらも巻き込んで笑っているのか……!!」

 

 そう、アムロが叫ぶとララァ・スンはあの日から何一つ変わっていない花の様な笑顔でアムロを優しく見つめる。その顔はとても純真無垢で吸い込まれそうと比喩しても可笑しくない程の不思議な魔力が込められていた。

 

「答えろ!! ララァ!!」

 

 ようやく目を見開いたアムロ・レイは、怒りを隠せないでいた。

 何故ならケーラ・スゥとなっていた彼女は言った、「アストナージに謝れ」と。

 

 話を信じるならば彼女は戦争など無い平和な国で育った唯の小さな少女だ。その少女に謝れと言われた時、本当に彼女は闘争が無い世界から来たのかと問いたくなった。なぜなら彼女は強かったからだ。

 

 突如自分の居場所が無い、金の価値すら分別出来ない世界に来て、自分だったらと思わない訳が無いだろう。

 

 話では触れていなかったが彼女が経験した、突然知らない暗い部屋で叫び声をあげてドアを叩かれることの何が恐ろしいか。 

 

 突然、見知らぬ命を守れと知らぬ者に心から信用される何が恐怖か。

 

 戦争の中に巻き込まれ、人殺しを強要される重圧と言うものは手が震えて眠れぬ日々が続く。

 

 夢に出て、一生その死が離れず……そして身近な死を見てこう思うのだ「次は自分の番かも知れない」……と、その何が自分を追い詰めるのか。

 

 その辛さをアムロ・レイは総じて知っている。……そして彼女はそれを知って尚、アストナージを守ったのだ。

 

 そんな余裕などない事は顔を見れば丸わかりだ。今にも泣き出しそうで、震えていて、他人の顔色一つで如何様にも変わる力のない追い詰められた顔。そんな不安でいっぱいの顔。

 

 そこまで崖っぷち状態で、誰かを守れる人間は間違いなく、他ではない真の「強さ」を持ち合わせているのだ。

 

「あの子に戦争など……教えてはいけないんだ!! あの少女に勉学や恋をさせてやるのが……俺たちのやるべきことだろうに……!!」

 

 ……ララァ・スンは何一つ変わらない表情でこちらを見ている。

 

「君は……! なぜ彼女を呼んだ……!! ……あれではまるで(ひび)が入った飴細工だ!!」

 

「……簡単に壊れるぞ……!」

 

 鬼もすらも怯ませることが出来るだろう刃の様な眼光で目の前の悪夢を睨む。

 

 ララァ・スン。彼女もまた年端もゆかぬまま散った命の一つだ。

 少女らしく恋焦がれ、女らしく振舞い、そして戦士として愛する人に最後まで殉じた。そんな彼女だからこそ、あのケーラ・スゥを呼んだ事をアムロはより一層許せなかった。

 

 最後の最後にシャア・アズナブルを思い散っていった彼女だからこそ、別視点から戦争を自分以上に知っている彼女だからこそ、せめて戦争を知らない幸せな少女には、幸せなままでいいのだと自分たちは告げる立場ではないのかと、アムロ・レイは心から叫んだ。

 

「……答えろ! ララァ・スン!!」

 

 そうしてようやく、夢の中の彼女が何か告げようと重い口を開く……。

 

 …… ……。

 

 ……。

 

 ……途端、目の前が真っ白になりベットから目が覚めた。

 ……ラー・カイラムの自室。いつ飲んだのか解らない水の入った容器、脱ぎ散らかされそこらを漂っている私服に汗だらけで床から醒めた自分。

 

 ……だが、夢だとは毛頭思ってはいなかった。無力だった何時かの様に壁を強く殴る。

 

「また同じ夢を見るようになっちまった……!!」

 

 そうやって絞り切れない程、溜まった膿を吐き出すしかなかった。

 

 ……そして、間もなく寝込みをを狙ったような最悪のタイミングに通信端末が開く。

 

「なんだ……!」

 

 苛立ちを隠せないアムロは、そのままの怒りを込めた言葉遣いで画面越しの相手を睨んだ。

 

「……ひっ……!」

 

 ……寄りにもよって、守らねばならない彼女だった。未熟な己を心の中で軽く叱りつけ、自分の髪を触り、彼はすぐに謝った。

 

「……すまない、ケーラ。嫌な夢を見たんだ」

 

 そして今、アムロは「ケーラ」と自然に呼んだがこれは皆の前で別の名で呼ぶことは違和感が生じてしまう為、元の彼女の名前は使わずしばらくはケーラ・スゥと言う名前を利用させてもらうというアムロの提案が受け入れられた結果だった。

 

 その画面越しに映る彼女を、ケーラ・スゥを守るというアストナージ立っての話に軍人としてアムロ・レイは勿論、協力した。

 

 そのケーラが怯える声を上書きして、ふと違和感を感じる。

 

「……い、いえ、でももしかして夢って……」

 

「……? 何か知っているのか?」

 

 アムロは知りたかった、今に繋がる事はとても興味深い。……この話は見逃せない。このあて嵌め方は好きではないが、あえて言うならニュータイプの勘という奴だった。

 

「ララァ……さん……の?」

 

「……物語では違うのか?」

 

 思わず答えを急かしてしまう。

 

「……はい、……違うんです。アムロさんがララァの夢を見るのは……5thが地球に落ちて……νガンダムが納入された後で……」

 

「……そうか、5thは地球に落ち、俺たちはそれを止められないんだな」

 

 ……重い予言だった。それはすぐにでもブライトに知らせたい情報だったが、今の彼女の話をすべて信じる、信用するという事は軽率には出来なかった。逸る気持ちもあった。だが、それを静められない程アムロ・レイは子供ではなかった。

 

「……あ」

 

 ケーラ・スゥが如何にも口が滑ってしまったといったふうに黙る。

 別に気にする必要は無かったがアムロはあえての一言を口にした。

 

「……いや、いいよ。そしてすまないが僕は信用したい。が……」

 

「その言葉を真に受ける事は出来ない」この状況、下手に回りくどく伝えるよりも直接自分の想いを伝えるのが一番だ。何故ならアムロ・レイは知っている。強い人間と言うのは周りの事を一番に考えられる人の事だ、そして思案するときに自分の身一つすらも他人として扱える者の事だ。

 

「知っています」

 

 ケーラ・スゥは即答だった。承知していたのだ。今の自分に信用される程の実績は皆無であるという事を。

 

「……すみません、アムロさんに辛い言葉言われたらショックだったので、途中で遮っちゃいました」

 

 ……そう自分に笑いかける彼女に、アムロ・レイもふと一つ笑い、先ほどの不機嫌を厚手の布巾で拭い去る様な顔をした。彼女ならば、きっと明るい未来が開ける。今のケーラ・スゥは彼女では無いし、馬骨である未来の言葉も心に掛ける事は無い。 

 

 だが、しかし。アストナージが身を挺して守った彼女なら、この絶望ばかりの世界に迷い込んだ意外と芯の強い小さな客人の言葉なら、自分の様なニュータイプの予言などよりも俄然説得力がある。そう思えた。

 

「直接話そう、アストナージも居るんだろう?」

 

「話し過ぎですよぉ、大尉」

 

 忘れ去られたお調子者のアストナージ・メドッソを入れて三人で軽く笑った。

 

 

 

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