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「え?どう言うことですか?」
族長の口から告げられた言葉に驚きを隠せず、思わず言葉が出てしまう。
「そのままの意味だよカズマ君。紅魔の里はこの紅魔祭を終える前に滅びる定めにあると言うことだよ」
質問に対して答えは適切なのだが、理由を聞いたのだからその説明をして欲しいものだ。
そんな俺の気持ちを察したのか、族長は窓の外でどうするか話し合っている様子の二人を眺めながら話を続ける。
「前に君の素性を調べた時があったね」
「えぇ、そうでしたね」
「それはこの里に居る占い師に頼んで観て貰ったものなんだが」
「そうでしたよね…」
「そしてこの里の行く末については定期的に彼女に占って貰っているんだが、今回嫌な予感がしてね…こうして占って貰った結果、用紙にはこう記されているんだよ。紅魔の里は紅魔祭を終える前に滅びを迎えるだろうと」
「…」
場の重苦しい雰囲気に思わず言葉を発せなくなった。
だが、ここで黙っていては話が進まなくなってしまうのでできるだけ状況を把握できるように努める。
「それはどういった理由なんですか?前みたいに魔王軍幹部が攻めてくるみたいなそんな感じですか?」
「その理由を言いたいところなんだけどね、それについては全く見当がつかないのだよ」
「え?」
族長の発言に驚愕し言葉が漏れる。
流石に日本にいた時の記録までは読んでいなかったが、それでも俺がこの世界に来てからの記録を当てた占い師が紅魔の里が滅びる事を予想してその理由がわからないなんて事はあり得るのだろうか?
「占いの結果この里が滅びる結果は分かったのだが、それ以外の過程が映し出されていないのだ」
「つまり、魔王軍の妨害ですかね?」
「そうかもしれない、だがそれではないのかもしれない。念の為彼にこの里の防備を固めてもらうがそれで解決するとは思えない」
族長はできる限りの事はするがそれでも万全では無い事を俺に伝える。
「病気とかそういうものとかあるんじゃないですか?」
「無いとは言い切れないな、だが仮に魔法で治せない伝染病が蔓延したとしてこの数日で滅ぼせるに至るだろうか?」
「なくは無いですけど確かにスパンが早すぎますね…」
確かに期間を考えれば感染症のリスクは大分低い。
この世界での病気の類は全て回復魔法で治す事ができると言われているが、原則あれば例外ありでもしかしたら回復魔法の効かない病気が存在するかもしれない。
だが、仮にそんなものがあったとしても必ず潜伏期間なるものが存在し、あの有名なエボラですらこの短期間で里を滅ぼすことは出来ないだろう。
「まあ、君にこの話をしたのは何かの運命かと思ってね」
「え?」
「以前この里が魔王軍幹部に襲われた時に君がこの里にやって来た事を思い出すと、君の帰郷は何かの意味があるんじゃないかと思うんだよ」
「そうでしょうか?」
一体俺に何を期待しているのか分からないが、あまり俺を当てにされても困ってしまうのが俺の本音だ。
この紅魔の里を助けたい気持ちは誰にも劣ってはいないが、それでも今の俺の現状を考えると解決しますと、とてもじゃないが胸を張って言えるものではない。
「それで族長は俺に何をして欲しいのですか?」
「そうだね、君の事情を考えなければ今すぐゆんゆんを連れてこの里から退避してくれと言いたいところだが、生憎君は狙われている身だ」
「そうですね…この里には俺達が王都に反撃をするまでの支度が整うまで身の安全を確保して貰いたくてここに来たわけですからね…」
ここで逃げろと言われたところで行く当てが無いので結局危険なことに変わりはないのだ。
「私たちはこの結果に抗うつもりだ、だからこそ君にも手伝ってもらいたい」
「分かりました、それで俺は一体なにをすればいいんですか?」
「それは…」
「遅いですよ‼︎紅魔祭は今日からなんですからもう始まっているんですよ‼︎」
「ああ、悪い悪い」
屋敷を出るとめぐみんの姿は無く、門の前でゆんゆんが一人で俺の事を待っており、これから祭りがあるので付き合って欲しいとのことだった。
正直このタイミングで祭りを楽しめなんて酷な事を言うもんだなと思ったが、今までの事を考えるとこの辺りで一度息抜きをしておかなければこれから先精神が持たないだろう。
なのでこれはあくまで必要な行為であってただ祭りを楽しみたいわけではないのだ。
「それで?紅魔祭って一体何やんだよ?魔王城に魔法でも打ち込んでどれだけ損害を与えられたか競い合うのか?」
「違いますよ⁉︎そんな事この里のみんなからすれば日常茶飯事です‼︎紅魔祭は里の大人達が屋台を開いてお父さん主催の出し物があったりするんですよ」
「へー結構まともなんだな」
「そうですよ、私たちもいつまでも変なことをしているわけではないんです」
「あー、その自覚はあったんだ」
ゆんゆんの発言を聞きこの祭りが普通そうで安心したが、それはあくまでゆんゆんの意見なので安心はできない。この里で育ったゆんゆんの常識はこの里の住民と比べれば普通なのだが、アクセルの住人と比べると些かズレているところがあるのだ。
族長からの命令は曖昧なもので今日はゆんゆんの息抜きに付き合ってくれとの事だった。
「そんな事でいいんですか?里周辺の情報を集めてこいとか結構得意ですよ」
族長からの頼み事は俺の予想していたものとは違い、今まで通りに娘と過ごして欲しいといったものだった。
俺としては遊んでいた方が気休めにもなるし大歓迎なのだが、世話になる予定の里のみんなが危険に晒されると言うこの状況で気軽に遊べるわけではないのだ。
「そうだね、確かに君からしたらこの状況で何もしないというのは歯がゆいものだろうね。だけど私もいつかこうなると思ってね、この日のために彼と色々相談し準備しているのだよ。だからこそ本来来るはずでなかった君達に何かされるとかえって計算が崩れてしまう危険性がある」
「…そうですか、分かりました」
「すまないね、私も族長である前に一人の父親なんだ」
この場では言えないが族長はこの里を守る事に集中する為に一番の悩みである娘の安否を確保したいのだろう。
そのナイトの役目を俺に任せてくれるのは嬉しい事だが、この状況下でのこの役割は俺にとってはかなりの重荷だ。
「それで君に渡しておきたいものがあるんだよ」
「これは…」
族長より差し出された紙を丸めたものを受け取りそれを広げるとそれはこの里の全体の見取り図で、その端の方に後から書かれたのか道が追加されていた。
「この里からの抜け道だよ。もし私たちの作戦が失敗した時にゆんゆんを連れて逃げてくれ。もちろんあの子は里に残った者を救おうとすると思うが君はそれを無視して連れて行ってくれ」
「族長…」
「これは里の外の人間である君にしか頼めないことだ、もしこれが里の人間にバレれば私は越権行為で叩かれてしまうだろうからね」
「分かりました、なんとしてもゆんゆんは助け出して見せます」
「ああ、よろしく頼むよ」
族長の握手に答え、里を犠牲にしてでもゆんゆんを救う事を誓った。
「それで紅魔祭はどうやって楽しむんだよ?」
「そうですね…説明するよりかは実際に周った方が分かりやすいと思います」
族長の話にある最悪な事態はもしもの域を出ないものなので、族長の言う対策とやらが上手く作用すればこの紅魔祭もただの楽しいお祭りで終わるのだ。
ならば下手な事を考えていないで今の状況を楽しんだ方がみんなの為になるだろう。
「それじゃ行きますよ」
「お…おう」
久しぶりのお祭りに張り切っているのか、彼女はのんびり歩いている俺の手を即座に掴かみ里の広場の方へと引っ張っていき、いきなり重心を崩された俺はなす術なくそのまま彼女の行きたい所へと連れて行かれた。
「これがお隣さんが出しているお店ですね」
「えぇ…」
ゆんゆんに案内された最初の出店はよく見る綿飴屋さんだったが、その色が真っ黒で屋台の名前が漆黒の闇の残滓といかにも紅魔族ネーミングだったので少し引いてしまった。
「どうです?カズマさんも食べますか?」
「いや俺はいいかな、ゆんゆんのを少し貰うよ」
「え?私のですか?」
「別にいいだろ?どうせこの後他の店も回るんだからさ」
「…まあそうですね‼︎どうぞ」
モクモクとゆんゆんの体内に吸収されていく漆黒の闇の残滓を美味しいと思えるはずも無かったが、ここに来て何も食べないと言うのもそれはそれで癪なのでゆんゆんが食べている物をもらう事にした。
最悪不味くても少量で済むし、美味しければもう一つ頼めばいいのでこのお裾分けシステムというのは中々に有用な考えだ。
「うーむ、ただの綿飴だな」
「一体何だと思ったんですか?もし刺激が欲しいのでしたらそこの闇に走る閃光味とかどうでしょうか?」
「え?まだ種類があんの?」
「はい、光の線に使われているお菓子が口の中で弾けてパチパチ鳴って結構刺激的ですよ、私は…まあ苦手なので食べませんが」
「へー要するにワタ○チみたいな感じか」
「何でしょうかそのワ○パチって?」
「いや何でもない、俺の地元にあった似たようなお菓子かな」
「そうなんですか?アクセルに行く前に色々と寄りましたがどこにも無かったのでここだけの物かと思っていましたが、世界は広いんですね」
「そう言う事だな」
どうやらゆんゆんは子供の時に一通りの味を味見させてもらったらしく他にある味の説明を受けたが、中々にぶっ飛んだ内容な物ばかりだったので途中から考えるのをやめた。
「次は的当てをしましょう、ちなみにこのお店の最高得点を叩き出したのは私ですから‼︎」
「へーそうなのか」
次に案内されたのは的当ての店で、この世界にはまだ銃の概念が無い為、射的が投げナイフに切り替わったような感じだが撃ち落とすのは景品ではなく硬い素材で作られたデコイで、それが店中に並べられた奥行きのないテーブルの上に置かれ投げたナイフが当たれば、その衝撃でデコイは後ろに移動し地面に落ちて一カウントとなりその数で景品と交換といった物だろう。
「ちなみに今回の最高得点の景品は紅魔族特製のマナタイトの装飾です‼︎」
「へー凄いなそれは」
景品はたくさん種類があり、得点ごとに景品が得られるようだがやはり規模が小さいお祭りの宿命か、景品に子供騙しが多くそんなもんかと思っていたが一番の高得点…要するにゆんゆんの点数を超えればまるで何処かの巨匠が作成した作品のようなマナタイトの彫刻が得られるらしい。
屋台の店主に金を払いナイフを受け取り、テーブルに並べられたデコイに向かって照準を定める。
与えられたナイフは全部で5本。
俺の狙いは最大の得点を誇っているであろう巨大なデコイで、その大きさ的に狙いが少しでもずれればナイフは弾かれてしまうような程だ。
「カズマさんそれを狙うんですか?最高得点を取ったのは私ですがその大きさのデコイは流石の私でも無理でしたね」
「そうなのか?てっきり一番最初に撃ち落としていそうな気がしたんだけど?」
「いえ、私が撃ち落としたのはその次に大きいあの的でして」
俺が巨大なデコイを落とそうとしている事に気付いたのか、ゆんゆんが横から話しかけてくる。
どうやらあのデコイはゆんゆんの実力を持ってしても撃ち落とすのが難しいらし、その隣にある中くらいのものを狙った方が効率がいいとの事だ。
「と言う事はあの豪華景品をもらった事はないのか?」
「…ええ、まあそうですね…」
どうやら知ってはいけない真相に辿り着いてしまった様で彼女は少し歯痒そうに俺の指摘を肯定した。
そしてゆんゆんの話を纏めると、全てのナイフで二番目のデコイから順で倒したと総合点では豪華賞品を得られないと言う事になる。
故にゆんゆんの点数を超えられれば豪華賞品が得られると言うわけなのだろう。
「…まあいいか、俺は俺のやりたいようにやるだけだ‼︎」
出物の名目上狙撃スキルを使用するのはご法度との事だったので、狙撃スキルを使用しないでナイフを投擲し、俺の手から離れたナイフは綺麗な放物線を描きながらデコイへとぶつかる。
「マジかよ…」
感覚的には問題は無かったのだが現実はそう上手くは行かず、俺の投擲したナイフは巨大デコイにぶつかったのち弾かれたのだ。
「そうなんですよ、あのデコイはすごく重たいのか私も数年間チャレンジしていましたが結局一度も動きませんでした」
「うへぇ…」
どうやら一筋縄ではいかない様でいくつかの工夫が必要らしい。
残弾のナイフは残り四発。ただ闇雲に投げていてはあのデコイは落とせないだろう。
「よし‼︎いっちょやってみるか‼︎」
両手で頬を叩き気合を入れる。
たまにはどうでもいい事にも全力で取り組んでも問題ないだろう。
「クソ…どうしてだ…」
「あの…別にあれを落とさないといけない訳では無いんですよ?」
「まあそうだけどさ」
あれから計算に計算を重ねたフォームなどで投擲をしてみたがあのデコイは思ったより重く、結果として3本のナイフを使用してもびくともしなかった。
そしてその状況を見て流石に何かを感じたのかゆんゆんが気を使うように話しかけてくる。
確かにこの状況で止めるのが一番の得策ではあるが、それをしてしまうと男として大切な何かを失ってしまうような気がしてならない。
ならば俺にできる事は一つ。
「うおおおおおおおおおおおおーーっ‼︎」
支援魔法を全力で発動し、俺に存在する全ステータスを向上させ最高のコンディションでナイフをデコイへと投擲する。
投げられたナイフは物凄い速度で俺の手を離れるとデコイ目掛けて風を切りながら一直線に直進し、見事獲物へと激突する。
「え?」
そして俺の全身全霊で放たれたナイフが激突し、本来であれば余程の物で無ければ後方へと吹っ飛ぶはずだが現実は残酷で…
「どう言う事だよオッサン?」
俺の目線には上半分が吹き飛んだデコイが残り、残った下半分のデコイには下から釘が打ちつけられていたのか先端が露出していた。
これは明らかに不正で、こんなことをされてしまえば普通の人間ではどう足掻いてもあのデコイを倒す事はできない。つまりこの屋台のオッサンは最初から豪華賞品を渡す気が無かったと言う事になる。
「あれ?店主の方がいないですね…」
「マジかよ…」
デコイを吹き飛ばし暴かれた不正を問いただそうとしたところで既に店主の姿は跡形もなく、気づけば机の上に豪華景品がおかれていた。
どうやらこれで許してくれと言いたい様だ。
「…はぁ、しょうがねーな」
豪華景品とやらをゆんゆんに渡し、次の屋台へと向かう。
「結構回ったな、流石の俺もそろそろ足が棒になってきたよ」
「そうですね、ほとんど回りましたしそろそろ休憩しますか?」
「ああ、ん?あれはなんだ?」
屋台の大半を彼女と周り、里の端の方へと進んだところである物に気づく。
物というよりかは柵に近い頑丈な外壁を里を囲む様に騎士団のメンバーらしき者たちが建築しているのだ。
「あれですか?前回カズマさんがやっつけた魔王軍幹部みたいに、この里に悪い人が侵入してこないようにお父さんが騎士団の方に頼んだ見たいですよ」
「そうなのか、騎士団のみんなも大変だな」
「ですね」
「まあ俺達の血税を貰っているんだからそれぐらいして貰わないとな」
「また捻くれた事言ってますよ…」
ゆんゆんに悟られないように失言をして話を終わらせる。
あの柵は多分族長がこれからくる脅威に備えて騎士団の連中らに作成するように指示したのだろう。でなければ今更柵なんて作成なんてしないで里のみんなで警備をすればいいだけだろうし。
騎士団の連中らも流石選ばれた存在と言わんばかりに腕前を発揮し、まるで最初からそうする予定だったかのように物凄い速度で外壁を作成して行っている。
きっと他にも色々な仕掛けも用意しているのだろうと考えると、後どれくらいこの里に仕掛けられているのか知りたくなってくる。
「なんか疲れてきたし取りあえす休憩するか」
「そうですね」
屋台も一通り回ったので特に名残惜しさも無く、的当ての店の疲労が残っているので一度屋敷に帰って休む事にした。
「…」
目が覚めると窓の外は暗くなっており、少しだけ寝ているつもりが意外と寝ていた事に気づく。
隣で眠るゆんゆんを起こさないようにベッドから起き上がり、潜伏スキルで気配を殺しながら屋敷の外へと向かう。
この状況で眠ったゆんゆんは余程の衝撃を与えないと起きないので多分大丈夫だろうと思いながら夜の里へと出向く。
目的の場所は言わずと知れたねりまきの店で遠回りをすれば誰にも会わずに行けるのだが、折角なので再び屋台の中を歩いていく事にした。
「おや?カズマですか、ゆんゆんは居ないのですか?」
「ん?おう、めぐみんか」
的当ての店は既に姿を消していたのでとっちめる楽しみは無かったが、その代わりめぐみんが露天を出していたのか店番をしていた。
「何やってんだ?久しぶりに家族水いらずで過ごすって言ってたよな?」
何だかんだ言ってめぐみんは家族の事が大切なので俺たちと祭りを周ることなく家族の元へと帰って行ったのだが、現在の彼女は一人寂しく店番をしているのだった。
「そうですね…話すとそれはそれで面倒な事になるので省略しますが、こうして居なくなった店の場所をジャックして父の作成した魔道具を売りに出して家計の足しにしているのです」
「へーそれは大変だな。どれどれ…ってどれも変な物ばかりじゃねぇか‼︎」
「変な物とは失礼な‼︎ロマンが溢れていると言ってください‼︎」
めぐみんは俺達のパーティーメンバーなので出来れば力になってやりたいと思って売りに出されている商品に目を通したが、そこに売られているのは某魔道具店に置かれている恐ろしいヘンテコ魔道具と同じ気配を感じる物ばかりだった。
もしかしてあの店の仕入れ先ってめぐみんの親父さんの店なんじゃ無いのかと邪推してしまう程にロマン溢れる魔道具に慄きながら手に取った魔道具を慎重にもとにあった場所に戻す。もしここで発動しよう物なら面倒ごとがさらに増えるからだ。
「そう言えば…って落ち着けよめぐみん」
「は?何ですか急に、私はいつも落ち着いて居ますが?」
めぐみんが今回の件に関して何か情報を持っていないか探ろうと思い会話を切り出したタイミングで、彼女の目が赤く光っている事に気づく。
これは紅魔族の特徴で気分が高まった時に良くあると前にゆんゆんが言っていたが、変な物とはいえ自身の父親の作った物なので思い入れでもあるのだろう。
「いや、眼が赤くなっているからさ」
「ああ、これですか…」
興奮状態の彼女に探りを入れると藪蛇になりそうな気がするので、ここは一度落ち着かせようと思い指摘したが彼女自身はそうは思っていなかったようで、商品にあった鏡で自身の瞳の色を確認すると思い当たりでもあるかのように納得した。
「これは紅月の影響ですね。我々紅魔族は紅月のでている間は目が勝手に反応して感情が高まらなくても眼が紅いままになってしまうのですよ」
「へー面白いなそれ」
「はあ?こんなのちっとも面白くありませんよ‼︎これのせいで我々は魔法が暴走してしまって魔法が使えないんですからね‼︎」
「ああそうだったな悪い悪い」
俺の言葉に興奮しさらに瞳が赤くなった気がするがそれはそれとして話を進める。
「それでめぐみんの親父さん達は何処に居るんだ?」
「?私の父に何か用でもあるんですか?」
「いや、別に無いけど」
「だったら何で聞いたんですか…」
「何となくだけど、別に居ないなら居ないでいいんだけど挨拶くらいはしておきたいかなって」
「ああ、そういう事ですか。生憎あの父親は私に仕事を押し付けて何処かに言ってしまいましたよ。あと母は今こめっこと屋台を周っていて何処にいるのか分かりませんね」
「なんか大変だな」
「そう思うのでしたらここの商品を全て買い取って貰えませんかね?それで私は自由の身になれるのですから!」
「嫌な予感がするからやめとくよ…」
「何ですと⁉︎」
めぐみんの親父さんが作成した物であれば大体の効果は目に見えているので、ここで俺が買って1箇所に集めると碌な事が起きなさそうなので断りめぐみんの店を後にした。
「よお、久しぶりだな」
「あっ来たんだ久しぶりだね、急に来なくなったから心配したよ」
「悪いな、記憶を失っていたから存在自体忘れていて来れなかったんだよ」
「何それ⁉︎知らない間に面白いことになってるね、詳しく聞かせてよ‼︎」
アイリに記憶を消されてから一度も行っていなかった酒場に入ると、いつもの如く店番をしていたねりまきに驚かれる。
ゆんゆんには絶対言え無いが、退廃区で汚れ仕事をしていた時はお忍びでよく通っていたので意外と太客だったりする。
「いいけど絶対誰にも言うなよ?」
「分かっているって、私たちの関係もゆんゆんにはちゃんと秘密にしているでしょ?」
「言い方に悪意を感じるんだけど」
「いいからいいから、お兄さんが来なくて結構寂しかったんだから今夜は沢山飲んでもらうよ」
「人を金づるににすんなよ‼︎」
まるでツンデレの如く金をむしり取ろうとするねりまに商売人の意地を感じながらいつものやつを注文する。
「へーそう言う事だったんだ。お兄さんも結構大変な目にあったんだね」
「そうなんだよ、この里で色々あってから落ち着かなくてさ…」
久しぶりの酩酊感にかこつけて愚痴の様なものを吐き出し続ける。
何だかんだ言って茶化さずに愚痴れる相手というのはねりまきくらいしかおらず、彼女も仕事で聞いているだけなので結果として話半分で流してくれる為俺としてはこれ以上ない程に話しやすいのだ。
…その代わり高い飲み物ばかり勧めてくるのは少し財布に悪いが、精神衛生の維持のためなら仕方ないだろう。
「成る程ね、それでここまで逃げてきたんだ。貴族の為に頑張ったのにその貴族に命を狙われるのは最悪だね」
「まあ仕方ないとは思うんだけど、もう少し報われてもいいと思うんだよな」
「と言う事は今日はゆんゆんも帰ってきているって事?」
「そう言う事になるな、まあ今はもう寝ているだろうから会うのは明日にしてくれよ。ここに来ていることがバレたら面倒な事になるから」
「…お兄さんも結構ワルだね」
「言うなよ、これでも純情なんだからさ」
こいつ里に女を連れてきた状態で別の女に会いにきたのか、と言いたげなジトっとした視線でこちらを見てくる。
「そうだねーまあ私としては来てもらった方が売り上げが上がるし大歓迎なんだけどさ」
「へいへいそうでやんすな」
コトンとまるで口止め料と言わんばかりに少しお高めなシュワシュワが注がれたグラスを置かれたので悪態を突きながらそれを受け取る。
まあこれでギブアンドテイクが成立するのであれば安いものだ。
「それでお兄さんはゆんゆんのお父さんから聞いた?」
「何をだ?」
「この里の事だよ、変に探り合いしてもしょうがないから言うけど占い師の結果が良く無かったんだって」
「ああ、それか」
俺がこの酒場に来て暫くすると外で祭りをしているからか、いつもよりも早い時間帯に他の客が捌けて二人きりになる。
何故か皆ねりまきに頑張れとかエールを送っているが、多分この後外の屋台に追加で酒を運ぶのだろうか?
そしてまさかタイミングで飛んできた話題に対し、真剣なトーンでねりまきが口を開く。
正直赤く光るめで真剣な表情をされると少し怖い気がするが、なるべくバレない様に取り繕う。
「聞いたよ、けど何が原因かわからないんだろ?だとしたらこうして周囲を警戒するしか無いんじゃないのか?」
「そうだよね、前回は魔王軍幹部が単独で侵入してきたから今回もそうかもしれない」
「けど魔王軍幹部も大分数を減らしてきたからここを襲う程の余裕があるとは思えないんだよね」
ベルディア・バニル・ハンス・シルビアの四人は既に討伐し、残りは半数の四人となっている筈なので新たに追加されない限り魔王軍の戦力は半減している事になる。
その状況下でシルビアが失敗した紅魔族侵攻を再び行うとは考えられない。
であればもう一つの戦力か自然災害位だろう。
「王都が紅魔の里を滅ぼそうとしているか?」
「それはないでしょ、これでも私達紅魔族は魔王軍に対する抑止力の一つなんだから」
「確かにな…デストロイヤーはっもう居ないし…大地震でも起きるのか?」
「それは無いかもね、地震が起きる程の衝撃があるなら魔王城の方が何か手を打ってくれる筈だからね」
「そういう感じか…」
そう言えばと言うかそうなんだが、この世界での地震は自然発生するわけではなく何かの副産物的に起きる物なので日本の様にいきなり起きる物では無いのだ。
「私もお兄さんもあまり情報を持っていないって事は他のみんなも詳しくは分からないって事だよね。だったら考えても意味ないだろうし今日はパーとやろうよ」
「そうだな」
折角久しぶりに来たと言うのに空気が辛気臭くなってしまったのと酔いが覚めてしまったので、また一から飲み直す事にした。
「そう言えば親父さんは何してんだ?いつもなら族長の家とかに行ってるけど?」
「ああお父さん?今は外で屋台を出していると思うよ、お祭りは夜が本番だからね」
「だからみんな店に居ないのか」
いつもなら店主であるねりまき親父さんと常連で賑わいながら飲んでいるのだが、今日は珍しく誰も居ないので少し寂しいのだ。
「そう、お父さんの屋台がそろそろ本格的に始まるからね、だから今日はお兄さんの貸切だよ」
そう言いながら彼女は店の入り口の商い中と書かれた木の札をひっくり返し他の客が入ってきて無駄に残業するのを防ぐために鍵を閉めると俺の隣へ座った。
「勝手に閉めていいのかよ?親父さんに怒られるぜ」
ねりまきも大分酔っている様なので証拠隠滅のために店じまいしてバレない様にしているのだろう。前に酔っ払って仕事が疎かになって帰ってきた親父さんに怒られたのも記憶に新しい。
「いいのいいの、どうせ時間になったらお客さんみんなお父さんの方へ行くから最初から店を閉めて祭りを楽しむ予定だったから」
「へー友達とか待ち合わせしてるんじゃないのか?」
「別にしてないよ、約束しなくても屋台の方に行けば誰かに会えるからね」
「ははっ」
どうやらねりまきはうちの紅魔族の二人とは違って、簡単に友達というか仲間と絡めるらしい。
是非とも見習ってほしいところだ。
「お祭りも後二日あるからね…そうだお兄さんのために今日は珍しい物仕入れたよ」
「それって原酒が無くなってプレミア化したやつか?」
「流石お兄さん詳しいね、これは更にエイジを重ねたレアなやつだよ」
ねりまきが卓に出したシュワシュワはもうこの世に在るだけとなった珍しい酒で、例え大金があったとしても飲めない貴重な物なのだ。
「ゆんゆんへの言い訳は私が用意しておくから今日はトコトン付き合ってもらうよ」
「はいはい、分かったよ」
こうして俺の紅魔祭の1日は終わりを告げた。