今回は閲覧注意です。
永遠に近いような時間を走り続けてようやく隠し通路のある小屋の近くに辿り着き、気配を隠しながらその小屋を遠巻きに確認する。
「…マジか」
小屋の周りを囲むように騎士団員が配置されており、その周りには騎士団が味方だと思って助けを求めたであろう紅魔族の遺体が数十体転がっていた。
騎士団もあの隠し通路を知っている以上、唯一の出口であるあの小屋を押さえるのは当然ではあるがそれでももしかしたらと思わずにはいられないのだ。
唯一の希望で脱出口を封じられた事に悪態をつきたくなるが、周囲に転がっている遺体を千里眼スキルで探るが、中にめぐみんやゆんゆんの遺体はなかった。
多分ではあるがあの遺体たちを事前に見つけ体勢を立て直すために何処かに避難したのだろう。感知スキルには周辺に彼女らの気配が無い事を示している。
であれば一体何処に彼女達は隠れているのだろうか?
後ろから着いてきてくれているであろう人達には悪いが、ここはゆんゆん達の安全を優先させていただくという事で、来た道を引き返しながら彼女らの居そうな場所を目指す。
正直小屋の周りの騎士団を全員倒してから向かってもよかったと思うが、その時間の間に2人が殺されてしまったら多分俺は一生後悔し続ける羽目になるのでこれは仕方がないのだ…
異世界とはいえ、ここも現実の一つであるのなら全てを救おうだなんて事は夢物語でしかないのだ。
「…ここか?」
少し迷いかけたが何とか目指していた場所が見えてくる。
最初はただの違和感だったのだが、徐々に周囲の状況が分からなくなっており近場の気配ならある程度なら分かるのだが少し遠くになると霧がかったように不明瞭になっている。
何故だか知らないが肉体強化など自己を強化するものは問題ないが、反対に感覚を強化するスキルの精度がいつもと比べて下がっており外部に干渉する繊細なスキルが何かによって妨害されている。これは転移魔法のスクロールが使えない原因と同じなのかもしれない。
そして着いた場所はというとめぐみんの実家で、建物はおおよそ半壊しており、いつ倒壊してもおかしく無い程で周囲には傭兵の死骸とローブを着た者の死骸が転がっていた。
どうやらこの家も襲われめぐみんの家族が応戦したようだ。
「…」
剣を構えて家に近づくと精度の落ちた感知スキルに2つの反応が現れ、その気配を感じ取った瞬間に半壊し倒壊の危険があるにも関わらずその家へと侵入する。
「めぐみん‼︎無事か‼︎」
反応の正体の一つはめぐみんでもう片方は多分外部の人間の気配だろう。であれば家の中の状況はまさにめぐみんと誰かが戦っているものですぐさま加勢する必要性があるのだ。
「よくも…よくも私の家族を‼︎よくもよくも‼︎」
家の中に入って目に入った光景に唖然とする。
傭兵との戦いは苛烈を極めたのだろう、家の中は荒れに荒れ周囲には傭兵の死体が転がっており壁の方には多分だがめぐみんの家族だと思われる3人が目玉をくり抜かれた状態で座り背中を掛けている、そしてその前でめぐみんがローブを着ていた傭兵を相手にマウントをとりながら首を締めていた。
「ぐ…ぐがが…」
「死ね‼︎お前らなんか死んでしまえ‼︎」
アークウィザードとはいえそれなりにレベルの高いめぐみんの膂力にローブの傭兵はなす術なく絞められ、呆気なく殺されてしまった。
「…うっ…ぐすっ…うぅ…」
そして殺したローブ姿の傭兵の首元から手を外し自身が殺めた死体を前にして緊張が解けて家族の死と言うものを受け入れ始めたのか、まるで決壊したダムの様に彼女は涙を流し始める。
「…あっ」
「誰ですか‼︎」
流石にこの状況で声を掛けるのは気まずいなと思いながら家を後にしようとすると、まるで映画のお約束の如く瓦礫を踏んづけてしまいめぐみんに気づかれてしまう。
「…カズマですか、生きていたのですね」
「あぁ…その何だごめんな」
「…いえ、カズマが謝ることではありません。最初から逃げ道を確保するのではなく家族を助けに行かなかった私の責任です」
まるで力の無かった自分を責めるかの様に自嘲気味に彼女はそう言いながら目を擦り涙を袖で拭き取ると、目線を俺から逸らして家族の方に向ける。
「ごめんなさいこめっこ、もっとお姉ちゃんがしっかりしていればこんな…こんなこ…こんな事にはならなかった…で…」
彼女は家族の遺体の側に向かい妹だと思われる小さな女の子の前で立ち止まると、しばらく何かを考えてしゃがみその子の頭を撫でながらそう言い、泣き止んで止まっていた涙が再び流れ始めた。
そんな彼女を俺はただ抱きしめてやることしか出来なかった。
「全く…いつも遅いですよカズマは…」
「ごめんな」
「いいのか?墓を作ってやらなくても?」
「…全く、今がどういう状況か分かっていますか?感傷に浸るのはもう終わりです。私の安全はこれで守られましたが早くゆんゆんを探しに行かないと間に合うものが間に合わなくなりますよ」
「そうだったな」
本当ならすぐさまゆんゆんを探しに行きたかったが、この状態のめぐみんを連れ出すには行かずにしばらく彼女に付き合おうかと思ったところで、めぐみんはすぐさま情緒を安定させ次に進むよう彼女に促される。
「私はもう大丈夫です、カズマはゆんゆんの事を考えてください」
「ああ、そうだな。それでゆんゆんだけど何処に行ったか分かるか?」
「そうですね、おおよそですが予想はつきますが説明するには時間を消費し過ぎたので走りながら行きましょう」
「ああ、悪いな」
「ええ、では…っとその前に」
これからゆんゆんの所へ向かおうというところで彼女は懐からスクロールを取り出し、火炎球を自分の家へと放つ。
「え?何やってんだよ⁉︎」
「いいのです。これが私からの家族の手向です」
まるで自分の意識が家族に向かない様に自分を戒めているのか、彼女は何とも言えない程に複雑な表情を浮かべながら自身の家を燃やしたのだ。
「それに家族ならここに居ますよ」
案じている俺を察したのか、彼女はローブの下から筒状の容器を取り出し俺に見せる。
その中に収められたのは紅い輝きを放つ眼で、その大きさは今まで見てきたものより一回り小さかった。
「できれば父と母の分も回収したかったのですが、種類が多すぎてどれが誰なのか分かりませんでしたので、一番分かりやすいこめっこのものだけ回収しました」
「そうか…」
彼女は俺を不安にさせない様に貼り付けた様な笑顔を浮かべながらそう言い、すぐさま容器を懐にしまう。
「とりあえず今は考えない事にします。後悔も懺悔も全てが終わってからです」
そういい自身に暗示を掛けたのだろうか、悲壮感に打ちひしがれていた彼女の表情は気づけば何時ものものに戻っていた。
「それで?ゆんゆんは何処に向かったんだ?」
めぐみんの家が燃え尽きるのを見届ける前に俺たちはゆんゆんを探しに走り出し、彼女の言うように走りながら状況の説明を彼女に求める。
「まず、カズマと別れた後私達は昔教わった隠し通路に向かいました」
「何でだ?ポータルをしようとしなかったのか?」
「それを最初に考えましたが、ポータルの起動時間を考えて三つでは里の皆を捌くには少々時間が掛かるので渋滞すると考えました」
「へー流石だな」
確かに彼女に言われて気づいたが、紅魔の里の住民の数に対してポータル三つでは些か以上に数が少ない。
予算や流通の都合で数が少ないのか、それともあるかどうかも分からない滅びにそこまで考えていなかったのかと思っていたが、ポータルから傭兵が出てきた時点で多分騎士団の連中らがこうなると踏んで数を調節していたのだろう。
「それで隠し通路のあるであろう場所に着いたのですが、その周囲には胡散臭い騎士団と皆の死体。これを見た私達は戦力と道具を集めに散ったと言うわけです」
「成程な…それでゆんゆんの行方は何処なんだ?」
「…全く気の早い男ですね、ゆんゆんは多分自分の屋敷に向かっていますよ」
やはり戦力を増強なら族長の屋敷に向かった方が効率的だろう。あそこなら族長が保管しているであろう武具的な物がありそうだし。
「カズマの事ですからお得意のやらしい感知スキルで分からないのですか?」
「何だよヤラシイって!」
「言葉の通りですよ?」
「はぁ…まったく。何故だかわかんねぇけど俺の感知スキルというか外部に干渉するスキルが何故か使いづらくなってるんだよ」
「やっぱりですか?」
「やっぱりって?何か身に覚えでもあるのか?」
「いえ、ここに来るまでに店から拝借したテレポートのスクロールを使おうとしましたが、魔力が霧散して使えませんでした。けれど先程見た様に属性系の魔法なら使えますので誰かが何か邪魔しているみたいですね」
やはり魔力に干渉する何かが俺の知らない所で動いている様で、それを解決しなければ万全の状態で動くことは出来ない様だ。
「行き先はゆんゆんの屋敷だな」
「ええ」
「ならこっちのほうが早い‼︎」
「うわっ⁉︎いきなり何ですか‼︎」
正直めぐみんのペースに合わせるよりも抱えて走った方が効率が良いと考えたので、先頭を走っている彼女を後ろから抱き抱えるように掴み、そのままお姫様抱っこの要領で走り出す。
「やっぱりこっちの方が早いな‼︎」
「やるならやると先に言ってくださいよ‼︎」
文句を言われはしたが暴れる素振りが無かったので特に問題ないと思い走りを続行する。
ゆんゆんより軽いから運びやすいぜと言いそうになったが、それは女子に対して失礼オブ失礼なのでここは口をつぐんでおく事にした。
「…嘘だろ?」
「カズマ、これが現実です。今起きている事を受け入れて次の案を考えましょう」
着いた時には時き既に遅しとでもいいたげに族長の屋敷は燃やされている最中で、状態は仮に中に人が隠れていたとしてももう助からない程だった。
そして周囲には傭兵の死体が転がっており、ここでも激しい戦闘があったことが窺える。
「なあめぐみん」
「何でしょうか?」
「この中にゆんゆんが居ると思うか?」
「いえ、まったく思いませんね。ここの死体は皆首を切り落とされています、もしゆんゆんが戦ったならこうはなりません」
「だな、それに執事の死体がない事を考えると2人で何処かに避難したか入れ違いになったかだな」
「でしょうね、全くあの子らしい考えですよ」
族長の屋敷を探しながら何かしらの手掛かりがないか調べる。
彼女の事なので何かヒントの様な物が隠されているのでは無いかと思う。
「めぐみん、次にゆんゆんが行きそうな所の候補はあるか?」
「そうですね…ゆんゆんが昔鍵を隠していた場所があるんですよ、夜中こっそり遊びに着てくれなんて言ってましたけど」
「へぇ、よく遊んでたんだな」
「いえ、一度も行きませんでした」
「一度くらい行ってやれよ‼︎」
玄関から少し離れた場所に花壇があり、現在は戦闘の影響かボロボロになったそこをめぐみんは漁り始める。
「ほらありましたよっと…これは随分と懐かしい物ですね」
破片で手を切ってしまったのか、手に血を滴らせながら彼女は瓦礫の中から手帳の様なものを取り出しだ。
「何なんだよそれは?」
「これは学生手帳ですね。中にゆんゆんと私の写真が入っていますね」
彼女は容赦なく手帳を広げると中から写真がヒラリと落ち、それを彼女は拾い上げ一瞥するとそれを俺に見せてくる。
写真は多分学生の頃のものだろう、少しあどけなさを残した2人の姿がぎこちなく写っていた。
「つまりゆんゆんたちは学校に居るってことか?」
「そうでしょうね。でなければこんなところにわざわざ学生手帳なんか隠したりしませんよ…まったくいつまでこんなもの大事にとっておいたのやら」
そういいながら彼女はその学生手帳をポーチに丁寧にしまい杖を抱き抱えると俺の方を見る。
「どうしたんだよ急に見つめて?」
「いや、この方が手っ取り早いと言ったのはカズマの方でしょう?」
急に縮こまり出して何かと思ったが、どうやらさっきみたいにお姫様抱っこをして貰いたかった様だ。
「さぁ‼︎早く‼︎こうしている間にもゆんゆん達に魔の手が迫っているのですよ‼︎」
「…ったく分かったよ‼︎」
渋々と言うかそうせざるを得ないので、手を広げて早くする様に催促する彼女を再び抱き抱えて走り出す。
「それで?学校は何処にあるんだ?」
「学校はそれほど遠くはありません、ただ着いてからゆんゆん達を探す方が難しいと思います」
確かに感知スキルの精度が下がった現状で規模は分からないが学校を探し回るにはかなりの労力と時間を使ってしまいそうだ。
現状めぐみんと合流してから傭兵も騎士団のメンバーの生きた姿を1人も見かけていない。紅魔族の皆が上手く立ち回って騎士団の連中らをやっつけてくれたのならいいのだが、周囲に紅魔族の里民が1人も見つからない事からそんな希望的な展開にはならないのだろう。
周囲には傭兵と目をくり抜かれた紅魔族の里民達の死体が転がっており、その光景は不謹慎極まりないが何処ぞの戦争漫画を彷彿とさせる。
一体この里にどれ程の数の傭兵が侵入してきたのだろうか?
数を数えるなんて事が馬鹿らしくなる程の死体で溢れているが、騎士団の死体は俺が殺した数しか見かけていない。
執事の爺さんが退治してくれていれば良いのだが、1人であの数を始末するとなると時間も体力も足りないだろう。
これは俺の推察でしかないが、あらかたの紅魔族は狩られてしまい今は隠れている紅魔族を探している状態なのかもしれない。
ゾンビ映画なら導入が終わってこれからと言ったところだろう。
「さて着きましたね、校門が開いている所を見るにやはりこの学校に隠れているみたいですね」
「みたいだな」
校門の前に立つとまるで急いで開けたのか少しだけ無理やり開いた状態でそのままになっており、多分ゆんゆん以外にも来ているのかそれともゆんゆん以外しか来ていないのかのどちらかだろう。
「そう言えばと言うか今更なんだけど道具を集めた後何処に集合するとか決めていたのか?」
「いえ、そう言えば決めていませんでしたね」
「決めておけよ‼︎」
門を潜ろうとした所でふと気づきめぐみんに問いかけると彼女はヤベッと言いたげな表情をした後さも当然だと言いたげにしれっとそう言った。
「里の学校って聞いてたからもっと小さいものかと思ったけど、いざこうして来てみるとでかいな。この建物の全部屋使うくらい居るのか?」
門を潜り中に入ると紅魔の里の学校は意外にも大きく、映画とかで出てくる小さな小屋を想定していた俺は面を食らってしまう。
「現在の在校生だけを見れば多分カズマの想像しているサイズで大丈夫でしょうが、昔はもっと学生が居て今は空き部屋になている教室も使っていたみたいですね」
「やっぱり紅魔族の総数も減ってきているのか?」
「そうですね。昔はポコポコ増えていたみたいですが今はそこまで増えていないみたいですね」
「ポコポコって」
どうやら紅魔の里であっても少子化は進んでいた様で、昔使っていた施設は時代の流れに取り残され風化を余儀なくされている。
「それでゆんゆん達の居そうな教室はあるのか?」
「…そうですね、誰がいるかによって場所が変わりますが、誰が残っても見晴らしのいい教室は多分使用しないと思いますね」
「まあそうだよな」
「こここは希望を持って一番居て欲しい所から探しましょうか」
校舎の中に入り、まるで自分の家のように進んでいく彼女の後を追いながら中に入っていく。
俺の感知スキルの精度はめぐみんを感じられる位まで低下しており、この校舎全体の気配までは把握できない。
盗賊を寄せ付けなくする為にスキルを封じる物があると以前クリスが言っていた事があったが、その対策を聞いておけば良かったと今になって後悔する。
…それにしてもクリスは一体何処に消えたのだろうか?
「まずは図書室からですね。私の予想ですがそこにあるえがいます」
「ああ、あの小説書いていた子だろ?」
「ええ、そう言えば一度あった事がありましたね。よく覚えていますね」
前回この里に来るきっかけとなった小説を書いた子の名前があるえだった事を思い出し、それを伝え確認すると彼女は驚いたようにそう言った。
「ここが図書室の扉ですね、カズマ先に言っておきますが勝手に開けないようにお願いしますね」
「何でだよ?」
図書室に着き、そこにゆんゆんが居る事を確かめる為に扉に手を掛けた所でめぐみんに制止される。
「あるえの事です、多分何も知らない人が来たら追い払う様な仕掛けがしてあるに違いありません」
「まあ、居るか居ないか分からないけど対策するに越したことはないな」
扉の前から身を引きめぐみんに前を譲る。
「我、良からぬ事を企む者なり」
扉に手を当てながら彼女はまるで事前に決めていたかのようにスラスラと合言葉を扉の奥に居るであろう人に伝える。
「おぉ⁉︎」
まるで子供の頃に作った秘密基地の如く開く扉に思わず声が漏れる。
「ふう、これで何も反応がなくて中に誰も居なかったらただの恥ずかしい人になってしまう所でしたね」
「ああ、そうだな。まあでも最初の一回目で当たって良かったよ。所であの呪文は何だったんだ?」
「あれですか?あれはあるえが昔書いたパクリ小説にあった設定の一つで、主人公が何か悪い事をするときに使う合言葉みたいなものですね」
「へぇー」
謎の達成感のせいか祝勝会の様な会話をしながら扉の中に入る。
「おや、やはり君もここに辿り着いたみたいだね」
「久しぶりですねあるえ」
図書室に入ると同時に電気がつき何の演出なのか正面にあるえが立っていた。
「久しぶりだなあるえ、それでいきなり来た所悪いんだけどゆんゆんは居るのか?」
「ああ、ゆんゆんならそこで寝ているよ。けど今は起こさないでやってくれないか?死ぬほど疲れているんだ」
めぐみんやあるえにも色々話したい事があると思うが、ゆんゆんの安否がはっきりしない限り話し合いにならないと判断し、話の間に入るとあるえは部屋の隅を指差し、その示す方を見るとゆんゆんが毛布をかけられて寝ていた。
そして他の生き残りだろう生徒達が部屋の隅で震えながら互いに抱き合ったり手を繋いでいたりした。
「ああ、生きて居るならそれで良いんだ。間に入って悪かったな」
「いや、別に構わないよ。仲間が不安なのは皆同じだからね」
話に釘を差してしまった事を謝罪しながら話に戻る様に促す。
「ここに避難してきたのは分かりましたが、これからどうするつもりなんですか?」
「あぁ、それが一番の問題となっているね。それについては言い訳になってしまうがゆんゆんが目覚めてから決めようと思っていてね」
「そんな悠長な…その間に奴らが攻めてきたらどうするつもりなんですか?」
「それを言われると何も返せなくなってしまうが、そうだねこの図書室にあるスクロールで何とかするつもりだったかな?」
「はぁ…言いたい事は色々ありますが、そうですね…まずゆんゆんが何故今も寝ているのですか?わたし的にはすぐに叩き起こして話に混ぜたいのですが?」
話の流れ的にゆんゆんに話を聞きたかったのかゆんゆんを叩き起こすような流れになる。
「そうしたのはやまやまなのだが、魔法が使えない私達をここまで守ってくれたのはそこの彼女なんだ」
「へぇ、知らない間にゆんゆんも中々やるようになりましたね…カズマ!回復魔法は使えますか?」
「ああ、多分使えると思うぜ」
「でしたらそこに鉱石の標本があるのでその中にあるマナタイトを使ってゆんゆんを回復させてください」
「分かったよ」
めぐみんが指差す方向には鉱山発掘の際に見た色々な鉱石が標本となり飾られており、そこにあった大きいマナタイトを拝借し魔力を回復させながらゆんゆんに疲労回復の効果を高めた治癒魔法をかける。
「おいおい、何もそこまでしなくても良いだろう。君からも何か言ってやってくれ」
「え?あぁ…」
「カズマやって下さい。あるえ、あなたの事ですから多分頭の隅で考えてはいると思いますがこの里の生き残りは多分私達だけです」
「…やはりそうか、私としては騎士団が助けに来るまでの時間稼ぎをすれば良いと思ったんだが」
「あるえ、残酷な事を言いますが騎士団は我々を裏切り今も見つけ次第に殺しています」
どうやらあるえは騎士団が裏切った事を知らなかったようで、信じられないと言った表情でめぐみんを見つめ返す。
多分あの小屋に辿り着く前にゆんゆんが連れて行ったのだろう。
「奴らの目的は我々紅魔族の紅眼です、その証拠にこれを」
めぐみんは追い討ちをかける様にあるえにシリンダーに詰められたこめっこの目を見せる。
「それは君の…いやそうだったか。すまないな君もここに来るまで苦労したんだね、それで体調は大丈夫かい?」
「いえ、万全とは言えませんが暗示で考えられない様にしてありますので問題はありません」
「…そうか」
どうやらあるえは騎士団が傭兵部隊を退治するまでここで鷺城するつもりだったが、その頼りの戦力が裏切り者だと知って動揺を隠しきれなかったようだ。
「ん…んん?あっカズマさん‼︎生きていたんですね‼︎」
「ああ、心配かけたな」
無理やり体を回復させた後に彼女の体を揺さぶると、彼女は少し眠そうに起き上がり俺の姿を見て跳ね上がる。
「ようやく起きましたか、起き早々悪いですが作戦会議ですよ」
「めぐみんも良かったわ」
感動の再会を済まして俺たち4人で机を囲みながら座る。
「時は一刻を争います。皆の安否が分かった以上作戦が決まり次第脱出に向けてここを出るべきだと思います」
「そうですね、わたしもめぐみんの意見に賛成です」
「私もココを出る事には賛成だが、その後はどうするのかな?唯一の出口は騎士団に囲まれているのだろう?」
「ああ、流石の俺でも皆を護りながらあの人数を相手には出来ない」
話を始めたのは良いのだが、情報不足により話が全く進まない。
「騎士団は魔法を無効にするのだろう?であればここにあるスクロールを持って行っても無駄になるんじゃないのか?」
「いえ、鎧を着けていない奴には効きますのである程度必要です、それにこの里を出てもモンスターが居るので危険ですよ」
「ふむ…では必要最低限の数を持って出るとしよう。それで出口の件はどうするのかな?」
「問題はそこなんですよね…」
結局細かい事はどんどん決まっていくが、最終的に小屋を守っている騎士をどうするかになりまた細かい所を埋める話に戻ってしまう。
これでは一向に話が決まらず平行線のままだ。
「こうしている間にも騎士団の人が来ているのよね…」
「いや、多分奴らはここに来るのはまだ後だと思うよ」
「そうですね、出口を押さえている以上奴らは私達を必死に探す必要がありません。建物を破壊していけばいずれ私達が隠れなくなって出て来ますからね」
「だから火をつけてまわっているのか」
時間に余裕がまだあるのは分かったが、肝心の作戦が決まっている訳ではないので無意に消費する青春の様だ。
「君が1人で全員倒して回ると言うのはどうだろうか?」
「確かに俺1人なら1人殺して逃げるを繰り返せば何とかなるかもしれないな」
「そんな危険なことさせられる訳ないでしょ‼︎」
「いえ、このままここに居るよりかはマシかもしれません。仮にカズマが死んだら何も出来ない私たちはそのまま殺されておしまいですからね。一蓮托生と言うやつです、この責任を私達は死を持って償う訳ですから」
「なんか凄い話になってきたな…」
確かに俺が1人でコソコソといけば何とかなるかもしれない。
一度そうかと思ったらそれ以外に無いと頭が処理して思考が停止してしまう。
「駄目よ‼︎カズマさんも何乗ってるの⁉︎今感知スキルが使えなくなっているのを忘れているんですか?」
「まあ感知スキルがなくてもあれくらいのレベルなら大丈夫だよ。確かに奴らは強いけど動きは同じだし里を警備しいていた人数なら多分出来る」
「そんな…」
「カズマ…提案に乗った私も私ですがやっぱり1人では危険です。まだ時間はかかりますが紅月が終わるまで待ってそれから全員でカズマをサポートすれば良いよ思うんですよ」
「私も少しイライラしていたようだ、申し訳ないと思っている。めぐみんの言うように紅月が終わるのを待とう。たとえ魔法を無効化されても衝撃を与えるくらいは出来るだろう、周囲の気を我々が引くからそこを君が狙うといい」
ヤケクソで言い放った案がすんなりと通ってしまった事に動揺しているのか慌てた様子で止める様に言ってくる。
「いや大丈夫だ、俺も何か行ける様な気がしてきたし」
クリス達と過ごしてきた修羅場と比べれば騎士団を相手に1人で立ち回るなんて事は何とも無いと思い始めている。
「カズマ、謝りますから無謀な事をするのはやめて下さい」
「カズマさん‼︎」
「ええ…」
その後やる気になった俺を皆が鎮めると言う謎の展開になった。
「盛り上がっているところ悪いだが、校舎に火を放たれたようだ」
あるえが何かに気づいた様に立ち上がり俺たちに告げる。
どうやら決断を考える時間は無くなったようだ。