この女神の居ない世界に祝福を   作:名代

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遅くなりました、チマチマ書いていたので少し整合性がないかもしれません…


紅魔祭6

「火を放たれたのですか⁉︎予定よりも早すぎませんか?」

 

俺を説得している間に誰かに火を放たれたれ、それにいち早く気づいたあるえによって指摘される。

里の規模や学校の位置を考慮してまだ時間があると思っていたのだが、そんな事は無かった様で紅魔族を狩っている奴らはついに俺達の眼前まで迫りつつある。

 

「多分アイツらは紅魔祭が終わる前に蹴りをつけたいみたいだな」

「だろうな、彼らの狙いが私達のこの紅の眼である以上、紅魔祭が終わってからでは殺す前に一工程を増やさなくてはいけなくなる」

「やっぱりそうなるか、その方法って何すんだよ?」

 

興味本位ではあるが聞いて見たくなってしまったので聞く事にしてみる。

 

「ふっ…好奇心は猫をも殺すと言うが…簡単だよ、手っ取り早く私達の目を紅くする方法は拷問だよ」

「…マジか」

「カズマ…この状況でその質問はデリカシーが無さ過ぎですよ」

 

紅魔族は感情が昂った時に眼が光ると聞いていたが、やはり無理やり光らせるとなるとそれくらいに強引な事をしなくてはいけなくなるのだろう。

 

「考えるのはここまでです。騎士団の方が来る前にここを出ないとみんな焼かれてしまいますよ‼︎」

「ああ、そうだったな」

 

ゆんゆんの言葉にハッとする。校舎に火を付けられた以上、必ずこの部屋まで火は回り本という可燃性の高い物で溢れているこの図書室は非常に危険である。

 

「あるえ、お前の事だからちゃんと逃げ道を用意してあるんだろうな?」

「…すまない」

「え?」

「逃げ道として用意していた場所から火を放たれたようだ、これだと逃げた先でわたしたちはバーベキューパーティーになってしまうだろうな」

「こんな時にボケるなよ…」

 

はぁ…と溜息をつく。

あるえなりに場を和ませようとしていたのだが正直さっきの俺と同じくらいの失言だろう。

 

「あまり得策とは言えないが…そうだな君が先行して奴らを撃退して貰えるかな?」

「ああ、そうだな」

 

本来であればもう少し作戦を考えてからこの校舎を後にしたかったのだが、相手はそれを許さず文字通り無策で突っ込むと言う形にいなってしまった。

 

 

 

 

 

 

 

「クソ‼︎火の広がりが早いな」

 

図書室を後にしてまず廊下に飛び出てみると焦げ臭い匂いが鼻をくすぐった。

あるえの話では脱出通路の最後の方と言っていたので、火の手はそこまで広がってはいないと思っていたがそうでは無いと言わんばかりに隣の教室が燃え始める。

多分紅魔族のスクロールを奪って際限なく火球を放っているのだろう。こっちの攻撃は効かないのにあっちの攻撃は通るのは些か卑怯では無いかと思う。

 

「案内頼む‼︎」

「カズマ‼︎何処が通れて何処が通れないか分からない以上多少遠回りしても切り返しの効きやすい道を案内します‼︎」

 

入学したての頃は単純な構造である校舎でも迷う事が多々あった事を思い出す。特に紅魔族の学校の校舎はテレビ局の如く複雑に入り組んでおり案内が無ければ迷ってしまう程だった。

 

「クソ‼︎」

 

火の手は俺の予想を遥かに上回り、気づけば殆どの教室は燃えてしまっているが何故か廊下は比較的燃えてはおらず、多分教室で何かあっても火が移らない様に細工してあるのだろうか。

それなら教室もそうしろと思ったがコスト的に厳しかったのだろう。

 

仕方なく廊下を進み前方に傭兵が弓を構えている姿を確認し思わず悪態をつく。

どうやら廊下が燃えなかったのではなく廊下を意図的に燃やさなかった様だ、まあそれもその筈で奴ら目的は紅の眼なので回収前に燃えてしまっては眼を回収できないのだ。

 

「伏せろ‼︎」

 

皆を床に伏せさせ、放たれた矢を出来るだけ剣で全て叩き落としながら前方へと距離を詰める。

そして第二波が来るタイミングで再び指示を出そうと思った所で後方から氷の魔法が飛来し、前方の傭兵達を串刺しにする。

 

「何の装備のない兵隊であれば私たちで対処できます」

 

後ろを振り向くとめぐみん達がスクロールを構えながら俺の元へと向かってくる。

 

「そう言えばそうだったな」

 

傭兵相手ならそこまで気張らなくても大丈夫な事に安堵しながらも、その油断がいつか恐ろしい事になるかもしれない事に不安を感じる

 

 

 

 

 

 

めぐみん指示により校舎を駆け巡りながら生き残っていたであろう傭兵達を倒していく。

やはり感知スキルが使えなくなった事で視覚に頼る事が多くなり危うさを感じるが幸いにも傭兵達は疲れているのか動きが鈍くなっており、希望的な考えでしかないがポータルが破壊されてからの増援がなくなっているのでは無いかと推察する。

 

校舎を無事に脱出し、図書室にいたであろう生徒隊の無事を確認すると以外にも生き残りが居たんだなと気づく。

そして校庭には逃げて来た紅魔族を狩る為か忌々しい鎧に身を包んだ騎士団が待機していた。

 

「…ふむ、やはりか」

 

騎士団の姿を確認した途端のあるえがスクロールを発動し魔法を飛ばす、そしてその魔法が騎士団にあたり無効化される事を確認すると彼女は苦虫を噛み潰した様な表情を浮かべながらそう言った。

 

「お前達下がっていろ‼︎あとは俺がなんとかする」

 

あるえを後ろに下げ腰から剣を抜いて騎士団に切り掛かる。

騎士の数は二人おり、感知スキルがなくとも二体一なら軍配は俺に上がるので難なく仕留められる。

 

「行くぞみんな‼︎もう時間がない、このまま小屋まで走り抜ける」

 

周囲には既に火を放たれており、校舎に来る時は緑で包まれていた景色は現在真っ赤に染まっている。

このまま全てが焼き尽くされてしまった場合に俺たちの隠れる所や遮蔽物が無くなるので全てが燃え尽きる前にはかたをつけたいのだ。

 

木々が生い茂っている森とはいえ隙間はあるのでそこを見つけて森の中に侵入する。

 

そして俺を先頭にし学生達が背後から着いてくるという構図になっている。

これでは後ろで何かあった時に問題があるが騎士団の数もだいぶ減っているので、メリットとリスクを考えるとこの策を採用する事にも仕方ないだろう。

 

燃え盛る森の中を走り、何とか通れるであろう道を見つけ出してはそこを通り抜ける。正直火の中を走り続ける事で酸欠なってしまう可能性が気になるが、そこまで気にしている場合ではないと文字通り神頼みしながら突き進む。

火力は強いが運が良いことに道は続いているため、隙間を縫うように進んでいた途中に後方から悲鳴が聞こえてくる。

 

「何だ⁉︎何があったんだ?」

 

声質からして後ろにいる女学生のものだったが、俺が見た感じ周囲に誰かの気配は無かったはずだ。

 

「カズマさん矢です‼︎横から矢が飛んできています‼︎」

「クソ‼︎仕方ない‼︎皆体勢を低くして当たらない様について来てくれ‼︎」

 

隙間を縫っている為俺が守りに入る事は不可能に近く、撤退は死を意味する為、俺達は矢が当たらない事を祈りながら進み続ける。

そして再び後方から悲鳴が上がる。

 

「大丈夫か?」

「大丈夫です‼︎カズマは早く先に行ってください‼︎」

 

燃え盛る木々の隙間を潜り抜け時には水を生成し何とか道を進んでいく。

水を生成するするスクロールがあれば楽なんだが、生憎氷を生成するものしかなくこの炎の森を消火する手立ては無い。矢避けにウィンドカーテンをしようとしたが、周囲の炎を巻き込んでしまうから使えないとのことだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「大丈夫かみんな…え?」

 

燃え盛る森、煙が立ち込める道無き道を進みようやく小屋の近くであろう場所の近くに何かで使用していたのか開けた場所があり、そこで一旦小休止しようと思い皆の姿を確認するとそこにはゆんゆん、めぐみん、あるえと1人だけだった。

 

「すまない、君の進みを止めない為に負傷して歩けなくなった子は置いて来たんだ」

「…は?」

 

思わず声が漏れる。

彼女は一体何を言っているのだろうか?

護れなかった皆の代わりにせめても残った人達だけは守り切ろうと決めていたのに、結局俺の為に犠牲になってしまったと言うのか。

 

「すまん、みんなはここで待っていてくれ‼︎俺は…」

「待ってくださいカズマさん‼︎」

「はっ離せゆんゆん‼︎まだ間に合うかもしれないだろ‼︎」

 

怪我をしていても近くにいる奴なら1人か2人助けられると思い来た道を戻ろうとした所をゆんゆんに抱き止められる。

 

「カズマ、諦めてください。これは残された子の意思でもあります。私達が残ったのは偶然で、もし2人のうちどちらかが歩行不能になったら同じ様に残ったでしょう」

「…」

 

ゆんゆんに止められめぐみんに諭され戻る事を止める。

 

「すまないな、君がもし行動不能になってしまった場合、魔法が使えない私達はどうすることもできなくなってしまうんだ」

「…」

 

どうしようもない事を認識しつつ炎中に残された人達よりも今目の前に居る人達の事を考えようとする。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ようやく着いたな」

「…」

 

今更になって分かった事と言うか推察でしかないが、飛んできた矢や石などは全て騎士団が撃っているのではなく誰かが設置した罠では無いかと思う。

そして、もしそれが正しければ俺達が隙間を縫って来た道は奴等にあらかじめ用意された道だったのかもしれない。

 

感知スキルが全て使えない事や咄嗟な事で俺の判断力が散漫になっていたとは言え、こんな事に引っ掛かる自分に嫌悪感を感じる。

 

人数は俺を含め4人となり、眼前には小屋とそれを護る騎士団が仁王立ちしている。

状況は周囲だけが炎に包まれている事と小屋の前に騎士団長が居る事くらいで後は同じだろう。

 

「いいか俺が周囲の連中らを倒して団長を戦っている間にあの小屋まで掛けて行ってくれ」

「わ、分かりました」

 

先に周囲の騎士団員を殺せないにしても気絶させる事に全振りし、最後に騎士団長を狙い戦っている間に3人が小屋に向かっていくと言ったものだ。

騎士団長も簡単に倒せれば良いのだが、最初に出会った時に感じた違和感がそれはないと思わせている。

 

周囲には騎士団員が四名でその中心に騎士団長が立っている。正直今まで相手をしていた数を入れて大雑把に計算しはみたが、やはり少し数が少ない。誰かが倒してくれればいいが、何処かに隠れていたら危険だ。

だが、ここでそのいるかいないか分からない騎士団のメンバーを探しに行く暇は無いのでこのまま進むしかない。

 

使えるであろう潜伏スキルを使用しながら小屋の後方へと回り奴らの背後をとり、呼吸を整え、脳内で起こるであろう事象を全て考えシミュレートする。

相手の呼吸に息を合わせ腰に掛けた剣に手を伸ばし引き抜くと同時に飛び出す。

 

「ーーっ‼︎」

 

一人一人確実に殺す事は不可能の為、暗殺者から教わった麻痺の状態異常を与える暗殺術を使い側方に居る2人の動きを止め、すぐさま跳躍し反対側の2人にも同じ様に攻撃を当てる。

正直全員麻痺状態にできるかは賭けだったが、幸運値が高かった事が幸いしてか4人の動きを封じる事に成功する。

どうやらスキルなら奴らの鎧の効果の影響を受けない様で助かった。

 

「貰った‼︎」

 

そして勢いそのまま騎士団長に切り掛かる。

4人が目の前で倒れている事に対して動揺してい無い事が窺えるが、これが単純に脳の処理不足により反応が遅延している事が原因だと嬉しいが、俺の直感がそれを否定している。

 

…まあ何にせよ、この状況でこの攻撃以上に上手く立ち回るなんて事は考えられないので後は運と俺の対応力に任せるしかない。

 

「何っ⁉︎」

 

嫌な予感程簡単に当たると言うのは本当だった様で

俺の攻撃は上体を逸らすといった基本中の基本で簡単に躱されてしまい、気づけば俺の首元まで剣が迫っていた。

 

「危ないですぞ、カズマ殿‼︎」

「あんたは⁉︎」

 

騎士団長の切先が俺の喉を切り裂く前に、誰かが俺の体を掴んだかと思うと勢いそのまま側方へと引っ張り投げ飛ばす。

 

「爺さん!無事だったのか‼︎」

 

投げ飛ばされた後すぐさま体勢を立て直して助けてくれたのはゆんゆん達ではなく消息の掴めていなかった執事の爺さんだった。

 

「済みませぬカズマ殿、お嬢様を助けた後に他の方を探していた為遅れてしまいました」

「ああ、別に構わねえよ。寧ろ助かった所だ」

 

俺を投げた後執事の爺さんは奴の二撃目を躱し、その勢いそのまま俺の元へと跳躍、薙刀を構えながら俺に手を貸す。

もう少し早く来てくれていればこんな無茶をしなくて済んだんだが、今考える事はそれでは無いのですぐさま頭を切り替える。

 

「爺さんはあの騎士団長と長かったんだろ?何か弱点とか知らないのか?」

 

族長があれほど信頼を置くくらい長い付き合いであるのであれば、当然近くにいた執事は何かを知っていてもおかしくはない。

この状況下で何も分からないほど怖いものはないので少しでも分かる事があれば頭に入れておきたい。

 

「申し訳ございませんカズマ殿、私も長い付き合いではあったもののあの者とは会話した事はあらずそもそも同じ方であるかも不明」

「そうか、族長は随分と物好きだったんだな」

 

悪態をつきながらも思考を続ける。

謎が謎を呼ぶ相手ではあるが、族長と長い付き合いであれば年齢もそれなりにいっている筈であり俺たちと比べて体力はそこまで無いと考えられる。

 

ならば時間をかけて相手を疲労させればどんなに卓越した技量を持ってしても隙が生まれるはずである。

 

「よし、爺さんこのまま2人であいつがバテるまでやるぞ‼︎」

「承知‼︎」

 

互いに得物を構えて奴に相対する。

相変わらず恐ろしい闘気の様なものを感じるが、それでもここで逃げたら後がないので進み続ける。

 

「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーっ‼︎」

「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉーーっ‼︎」

「…」

 

2人がかりで切り掛かるが、それらの攻撃を全て奴は躱したり剣で逸らしている。

連携の取るための打ち合わせや訓練をしていないとは言え、全ての攻撃を躱すという事実に俺と爺さんの2人は攻撃しながらも焦燥感の様なものを感じている。

 

「今のうちに行け‼︎」

 

攻撃を全てを躱されているとはいえ、奴も迂闊に移動する事はできないだろうと思いゆんゆん達を小屋の方へと送る。

 

「わ、分かりました‼︎」

 

向こうにも状況が伝わっている様で動揺を隠しきれてい無いのか焦った様に皆がこちらに走り込んでくる。

 

「カズマさん、必ず来てくださいね‼︎」

 

ゆんゆん達が俺らの後ろを通る際に風が背中を押してくる。

多分小屋に罠が仕掛けられていてもいいように風の魔法を纏っているのだろう。正直周りの炎を巻き込みかねないので違う方法にして欲しかったが、それ以外に術を思いつかなかったので仕方がないだろう。

 

「カズマ殿‼︎」

「ああ‼︎分かってる‼︎」

 

ゆんゆん達が小屋に入った事を確認し、俺達は示し合わせた様に攻撃の手を変える。

今までは足止めの為に手数を増やし動きを封じる様に立ち回っていたが、これからは相手を倒す為に攻撃をする。要するに牽制だけではなくカウンターのリスクを負いながら相手に決定打を与えると言う事だ。

 

相手は俺たちの攻撃を躱す事に主を置いている為、反撃をするとなれば俺たちの攻撃の間の隙を狙ってくるのであろう。ならば互いに攻撃を止めない様に繋いでいけばいい。

だが、俺たちはゆんゆん達と違って一度手を合わせた程度で、攻撃の掛け合いや打ち合わせなどを行った事はない為どうしても嫌な間が生まれてしまう。

 

「でぇりゃぁぁぁあーーっ‼︎」

 

大きく振りかぶり奴に切り掛り、奴はそれを後方にステップし躱す。

正直あの重そうな甲冑を装備しながら軽やかに動く奴を見て同じ人間なのか疑いたくなるが、内心魔王軍幹部が入れ替わってくれていた方が楽だ。

 

「はぁぁぁぁぁーーっ‼︎」

 

大振りをして隙だらけの俺を護る様に執事の爺さんが俺の後ろから跳躍したまま横薙ぎを放つ。

奴はそれを剣で上へ弾き、前方へと踏み込み爺さんに斬りかかろうとするが、それを俺が狙撃スキルでナイフを投擲し奴はそれを躱す為に体を捻りその隙に爺さんの腰を掴み後方へと引っ張り、その反動で俺自身を前方へと踏み込ませ奴に切り掛かる。

 

本来であればこれで終わるが、奴はその態勢のまま空いた手で俺の剣を器用に払い生まれた隙をついて俺の腹にミドルの蹴りを放つ。

 

「ぐはっ‼︎」

 

ズドンとまるで地面に隕石が降って来た時のような衝撃を受けた後全ての息を吐き出し、咄嗟に光の呪文を使用し相手の目を眩ませ後退する。

本来ならしばらく相手の目を眩ませるが相手の鎧の性能か、光は一瞬のうちに消え去り反撃の機会は得られず、すぐ様後退し距離を取る。

 

「彼奴はかなりの手練でありますな」

「ああ、正直嫌な予感がしてならない」

 

まるで本能が爺さんを殿にしてここから逃げろと言っている。

それ程まで嫌な予感がし、その予感が何なのかを俺の理性が知るのを防いでいるのだろうか思考が纏まらない。

 

「そろそろ俺の麻痺が切れて周りの奴が起き上がる頃合いだ、早く蹴りをつけないと不味いぞ」

 

正直騎士団長があそこまでやるとは思っていなかったので一番早く効果の出せる技を使用したのだが、爺さんがくる事が分かっていればもう少し待って作戦を考えた方が良かったなと思ったが、それは既に後の祭りだ。まあ、やり直すのであればゆんゆんと合流した時に爺さんの事を彼女から聞いて合流する事を視野に入れて考えた方が良かったかもしれない。

 

「爺さん!俺が援護するから全力で暴れてくれ‼︎」

「承知‼︎」

 

正直ここの戦力なら俺の方が勝るかもしれないが、俺が前面に出ても爺さんの邪魔になるだけなので俺が後衛に徹した方がいいのだろうと思い新たな戦闘形式を作り出す。

 

「はぁぁぁぁぁーーっ‼︎」

 

前方に踏み込む爺さんを援護するようにナイフを奴の左右をはさむように数本投擲し、奴の逃げ場を無くし爺さんに相対しなければいけない状況を作る。

そして爺さんはそれを察してか薙刀のリーチを活かした突きを放ち後方へと逃げられない様に追い込む。

 

「なっ⁉︎」

 

正直、横のナイフを弾き側方へと逃げると思っていたが、奴がとった行動は単純で複雑だった。

奴は俺の投げたナイフを体を上手く逸らしぶつかったナイフは鎧を貫く事はなく鎧の曲線に沿って通り抜ける。そしてその体勢のまま爺さんの突きを同じ様にスレスレで躱し千段巻の部分を掴みそのまま爺さんを引き寄せる。

しかし、爺さんもそこまで考えていなかったわけではなかった様で、その技に対する返しの技を使い反撃に出るが奴はそれを返すどころか距離を詰め逆に脚を掛け爺さんの体勢を崩す。

 

流石に不味いと思い再び投擲するも、奴は爺さんから薙刀を奪いそれらを全て弾き勢いそのまま爺さんを切り付ける。

 

「ぐっ…がはっ‼︎」

 

無防備の状態のまま切り付けられた爺さんは抵抗できずに血を撒き散らしながら地面に倒れる。

 

「クソったれが‼︎」

 

最早作戦もクソも無い。

支援魔法を全力で全身にかけ奴に向かって切り掛かる。

 

「ぐっ⁉︎」

 

幾星霜に及ぶフェイントや攻撃の蓮撃を繰り返したが、それら全てを奴にいなされ鳩尾に拳を撃ち込まれ悶絶する。

感知スキルが使えない為相手の動きや周囲の状況が探れないと言った不利があり、今までスキルに頼りきりになっていた自分への報いかと後悔したが、それを抜きにしても奴強さは異常なまでに卓越している。

 

「まだだ‼︎」

 

諦めたら試合終了どころか人生が終了してしまう。

今までは魔王軍幹部を相手にしてきた為、色々なモノが守ってくれたかもしれないが、今回の相手はあくまで人間。

人間同士の争いに何かが手を貸してくれることなんてないだろう。

 

「随分と腕を上げた様だけどまだ駄目だね」

「なっ‼︎」

 

クリスから教わった基礎に姉さんから学んだ応用、そして今までの戦闘で得られた経験の集大成を奴にぶつけ、それら全てを避けられたあとに奴がついに口を開く。

聞こえた奴の声に聞き覚えがあり、それが誰かを思い出す前に俺の体は一瞬の内に奴の手により痛めつけられ地面に横たわっていた。

 

「お、お前は…」

 

全身に痛みが走り指ひとつ動かない状態でも何とか目線だけは奴の方を見る。

 

「久しぶりだねサトウカズマ、君は相変わらず学習能力が無い様だね」

 

奴が兜を脱ぎ、その素顔を明らかにする。

 

「アレクセイ・バーネス・バルター…」

「おや・フルネームで覚えていてくれるなんて光栄だな」

「冗談きついぜ…」

 

アレクセイ・バーネス・バルター、俺の人生で一度も勝つことのできなかった相手。

いずれ何処かで戦う事は分かっていたが、まさかこの最悪なタイミングで現れるなんて思わなかった。

 

「すまないね、少し着替えさせてもらうよ。この格好は暑いからね」

「ふざけてやがるのか…」

 

血反吐を吐きながらも意識を保つ事にやっとな状況な俺の前で暑いからといってアドバンテージの高い鎧を脱ぐ様はまるで俺を馬鹿にしている様だった。

 

「そこの男を拘束してくれ、くれぐれも傷つけないようにね」

「クソ…」

 

周囲の騎士団の麻痺が切れたのか何事もなかったように起き上がると俺の両腕を後ろに回した状態で首を掴み持ち上げる。

 

「まさかお前が金欲しさに紅魔族を狩るなんてな、アレクセイ家は当主不在で改易されたから資金が尽きたか?」

 

ここまで手も足も出ないと流石に口を出したくなったので精一杯の皮肉を言う。

 

「ふふふふふ…はっはははははーーっ‼︎」

「何がおかしいんだ‼︎」

 

どうやら俺の皮肉は俺の精一杯の抵抗に思えたのか、それを聞いた奴はまるで道化を見る様に大笑いしていた。

 

「いや済まないね、君がそれを言うのが面白くてね。そうだね、確かにアレクセイ家は無くなったね、けどもうアレクセイ家でやる事はもう殆ど済んだ、それに今の私にはこれがあるのさ」

 

そう言い奴は首にかけたペンダントを取り出し俺の前に出し見せる。

 

「シンフォニア家の紋章…」

 

奴が出したのはシンフォニア家の紋章で、それは奴がシンフォニア家の権力を行使できる事を示している。

 

「やっぱりお前がクレアを唆したのか」

「そうとも」

 

奴の行動でクレアの行動の不可解な部分が解明される。

牢屋に投獄され、ダクネスが居なくなった間に奴とコンタクトを取ったのだろう。何時ぞやシルフィーナとそんな事を話したが、それがバルターであったならそれも納得だ。

 

「まあ、その彼女も用済みだけどね。まあそうだねこれも君にあげよう、前回あげたアレクセイ家の紋章は使えなくなったからね」

「ふざけやがって…」

 

奴はそう言いながらこの国で二番目に権威の高い紋章を俺の首に掛ける。

 

「それで金も権威も必要ないお前は何で紅魔族を襲ったんだ‼︎眼が目的なのは分かってんだよ‼︎」

 

奴の目的は紅魔族の眼であるのは分かってはいるが、金銭目的でなければ一体何が目的なのかが分からない。

仮に何かあるのであればオークションの時に判明している筈だ。

 

「本当に君達はこの眼の有用性が分かっていないのか」

「何?」

「紅魔族は昔魔王軍に対抗する為に生み出された改造人間だという事は知っているかい?しかしそれは建前でね、本当はこの眼を作り出す為にわざわざ作られたと言っても過言では無いんだよ」

「はぁ?余計に分かんねぞ、ただの観賞用に成り下がった物に金以外の何の価値があるんだ」

「はぁ…今の君を見ていると少しガッカリするよ。まあそうだね、この紅状態の眼はコロナタイトの原料になるのさ」

「なっ…」

 

コロナタイト、前にデストロイヤーの動力源になっていたコアで、たった一つであれ程のエネルギーを生み出す事の出来る恐ろしい物でウィズの協力を持ってしても停止させる事しか出来なかったアレである。

 

「眼には魔力が宿るのさ、紅魔族はその高い魔力を眼に凝集さる機能を限界まで高めた者でね。紅眼になった時に殺すことで目玉二つで数百人分の魔力を眼に保持し続ける。おかげで頭がアレになってしまったけど」

「…なっ⁉︎」

「…チッ‼︎」

 

話している途中、突如上空から木が数本丸ごと襲来し騎士団の2人を吹き飛ばすが、残りは全てバルターの剣により空中で塵と化した。

一体何が起きているのだろうと思った瞬間に鈍い音が後方で鳴り俺を掴んでいた手が急に緩み拘束から解放される。

そして同時に、バルターは俺に近寄ろうとした何かを森まで蹴り飛ばし追いかける様に森の中に入って行った後、見覚えのある女の子を引きずって戻ってきた。

 

「ねりまき…」

「ごめんねお兄さん、出来れば全員潰したかったんだけど無理だったよ」

 

バルターに引きずられて現れたのはねりまきで、彼女の左手はまるで巨人のおもちゃにされたかの様に捻れて明後日の方向を向いていた。

 

「バルター‼︎お前‼︎」

「勘違いしないでくれ、これは彼女の自業自得さ。紅月はまだ終わっていないというのに無理やり魔法を使うから暴走しただけだよ」

「なっ…」

 

どうやら先ほどの木はねりまきが自身の魔力で念能力の魔法を使用し、その結果魔力が暴走してそうなった結果なのだろう。

彼女は苦痛に顔を歪めながらも俺の無事を心配している。

爺さんの言っていた助けた子とはねりまきの事だったんだろう。

 

「2人とも押さえておけ」

 

残った数人の騎士団員に再び俺達を押さえさせる。

 

「クソ…」

「この状況であの小屋まで行けば助かったのに、わざわざ君を助けるという事はそうだね…実に良い事だ」

「あ?」

 

奴ははははと笑いながら拍手をしながら俺に体を向ける。

 

「話を戻そうか、魔力を眼に貯める話をしただろう?、それは紅魔族以外も例外ではないのだよ」

「なっ…あ、あぁぁぁぁぁっぁぁぁぁぁぁぁっぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっぁぁーーっっ‼︎」

 

いつの間にか奴に距離を詰められ、気づけば左眼に激痛が走り視界の左半分が真っ暗になった。

 

「い、いやぁぁっぁぁぁぁっぁぁぁぁぁっぁぁぁぁーー‼︎」

「はははっ‼︎良い音楽だね」

 

奴はねりまきの悲鳴に耳を傾けながら俺の目をシリンダーの中に収納する。

 

「君達ニホンジンという種族の眼も高値で取引されているのさ、それに異能を持ったニホンジンの目からは特殊なマナタイトが作れる」

「うっ…くっ…この野郎…」

「へぇ、まだ元気がある様だね」

 

左眼の激痛に耐えながらも残りの右目で奴を睨みつける。

 

「よくも…みんなの眼を‼︎」

「…うるさいな、いつ君にしゃべって良いっていたのかな?」

「いっ嫌ぁぁぁぁぁっぁぁぁぁぁっぁあぁっぁぁぁぁーーっ‼︎」

「止めろ‼︎もう十分だろ‼︎コロナタイトを作りたいんだったら十分回収しただろ‼︎」

 

ねりまきの喋りに自分の会話が邪魔されたのがよほど癪に障ったのか、今度は彼女の右眼を抉り取った。

 

「そうだね、目標数は十分に確保したけど予備は幾らあってもいいだろ?」

「…狂ってやがる」

「いやいや心外だな、狂っているのは君だよ」

「はぁ?」

 

奴は意味のわからない事を言いながら彼女の目を俺の眼と同じシリンダーに入れて蓋を閉めるとそれを俺の前に見せる。

 

「どうだい、愛する赤と気づかない黒のコントラストは?」

「何言ってやがんだお前は?」

「…はぁ、まあいいさ。取り敢えず目的は果たした後は…おっと」

 

奴が目玉のシリンダーを懐にしまい、残りの眼を回収しようとした瞬間、突如地面が崩れだす。

 

「なっ何だ⁉︎」

「うあぁぁぁぁっぁあぁぁぁぁっぁーーーっ‼︎」

 

周囲の大地にヒビが入り大地が捲れ、それらが周囲の騎士団に降り掛かり騎士団員は後方へと再び吹き飛ばされ、30センチ程の岩が周囲を飛び回ると俺とねりまきを掴んでいる騎士団の顔面に激突し先ほどと同じ様に拘束が解かれる。

そして、離れていたねりまきがワイヤーアクションのようにこちらに向かって飛来する。

 

「はぁ…全く、そんな事させると思っているのかい…」

 

そんな中バルターは崩れゆく地面に対して動じる事なく剣を抜き、俺達に何かしようと魔力を貯め始める。

 

「私を馬鹿にするのも大概にしたまえ、本当に君達は…なぁ⁉︎」

 

崩れゆく地面の中、奴の動きを止めたのはねりまきではなく死んだと思っていた爺さんだった。

爺さんは奴の足を掴むと何かの魔法を使用したのか地面から無数の鎖が出現し奴の体を拘束しようと飛びかかった。

 

「小僧‼︎あまり老人を舐めるで無いぞ‼︎」

「ははっ‼︎それはこっちのセリフさ‼︎」

 

命懸けな爺さんに対して奴はまるで娯楽を楽しむように抜いた剣一振りでその鎖を消し去る。

 

「なん…じゃと⁉︎じゃがこの手離すものか‼︎」

「はぁ…相変わらずしぶとい爺さんだ」

 

最後の頼みである魔法が通じなかった以上、最後は残った膂力によって奴の体を掴み動きを封じる。

 

「ねりまき…無茶はよせ、俺を置いて逃げろ…」

「ごめんねお兄さん…もっと…早く…こうしておけば良かった…げほっ…」

「…まさか」

 

彼女は言葉を紡ぐ間に咳をし、その度に左側で見えないが、あったかい何かが顔に掛かる。

念能力を使用して飛来した彼女の右手に抱き寄せられ勢いそのまま小屋の方へと飛んでいくが、先程の魔法だけで彼女の左手は捻じ切れかけていた。

その彼女の右腕が俺を掴んでいる以上代償は彼女の脚と内蔵だろう。

 

「止めろねりまき‼︎後は俺が運ぶ‼︎」

「嘘…だね…指一本動かせない…癖に」

 

浮遊感と共に俺の残っている聴覚に彼女の内臓や肋骨が砕け捻じ切れる音が響き続けている。

絶えず浮いているという事はその代償に彼女の何かが絶えず捻れているという事になる。仮に動きを止めた所で彼女の足が原型を留めていなければ歩く事すら叶わない。

つまりこの場は彼女の犠牲を容認しなければ逃げる事ができない事を示す。

 

小屋の中に入り、無理やりこじ開けられた地下扉に突っ込み視界が真っ暗になり、それなりに進んだ所で爆発音が鳴り俺の意識は無くなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「起きてくださいカズマさん‼︎」

「…何だよもう朝かよ」

 

ゆんゆんに起こされ眼が覚める。

どうやら族長の部屋で寝ていた様で窓の外を見ると祭が始まっているのか闇夜に灯りが灯っていた。

 

「まだやっているのかよ紅魔祭…」

「そんな事言わないでくださいよ、それに今日で終わりですからね」

「あれ?そうだっけ?」

「そうですよ、最後のキャンプファイヤーでのダンスは一緒に踊るって約束忘れないでくださいよ」

「そう言えばそんな約束したな…」

「全く…カズマさんはしょうがない人ですね、ほら早く着替えて行きますよ。夜眠らないように先に眠るって言ったのはカズマさんですからね」

「ああ悪い悪い」

 

ゆんゆんに促され服を着替える。

結局予言は何かの間違えでまた同じ日常が繰り返されるのだろう。

 

「はぁ…」

 

結局何もなかったなと思いながらゆんゆんと共にキャンプファイヤーのやっている広場までやってくる。

 

「遅いですよ2人とも主役が居ないんじゃ何も始まらないでは無いですか」

「ごめんめぐみん、なかなかカズマさんが起きなくて…」

「へぇ…こう言うイベントには早起きのカズマが寝過ごすなんて、ナニをしていたんですかね?」

「ちょっとめぐみんやめてよ‼︎」

 

どうやら待ち合わせの時間には間に合わなかったようでめぐみんが怒りながらもちょっかいをかけてくる。

 

 

 

 

 

 

「そう言えば主役って言われてたけど何の主役なんだよ?」

 

祭りが終わりに差し掛かった時にそう言えばめぐみんが何かを言っていたのでそれをゆんゆんに聞いてみる。

 

「…まだ寝ぼけているんですかカズマさん」

 

それを聞くと彼女は呆れた様に

 

「今日は私達の婚約日じゃないですか」

「何…だと⁉︎」

 

どうやらと言うかいつの間にか俺たちは結婚する事になっていたようだ。

 

「私ももう14ですからね」

「えぇ⁉︎」

「ちょっと2人とも火が消える前に早く写真を撮りますよ」

 

何がどうなっているか分からないので取り敢えず理由を聞こうとしたが、それはいつの間にか正装に身を包んだめぐみんによって止められ、気づけばキャンプファイヤーを背後に写真を撮る流れになる。

 

「「おめでとう‼︎」」

 

周囲からお祝いの言葉が浴びせられる。

 

「カズマ君娘を頼んだよ…本当に良かったなゆんゆんお父さん一生1人でいるんじゃないか心配だったんだよ」

「ちょっとお父さん‼︎そんな事で泣かないでよ‼︎」

 

やはり娘の事となると別なのか年甲斐もなく親父さんをゆんゆんが宥める。

 

「おめでとうお兄さん‼︎こんな事なら私も酒屋継がないでアクセルに行けば良かったな」

「おいおい、勘弁してくれよ」

 

今度はねりまきが小悪魔のような表情を浮かべながら俺を揶揄う。

 

「おめでとう2人とも、色々言いたいこともあるが末長くお幸せにな」

「ありがとう、あるえ」

 

フッ、と格好つけながらあるえに祝福される。

 

「話すのはそこら辺にして早く写真を撮りますよ、ほら早く並んで‼︎こめっこの隣は私が入りますので空けておいてください」

 

長々と皆から祝言を頂いているとめぐみんに早く並ぶように催促される。

 

「ハイ、チーズ‼︎オッケイでーす」

 

合図とともにタイマーが作動してめぐみんが走りフラッシュと共にシャッターが閉じて、写真が現像される。

 

「現像された写真は俺が確認するよ」

 

カメラから写真が出てくるのでそれをおれが確認しに行く。

 

「どれどれ…え?」

 

出てきた写真を見ると、そこに写っているのは俺とゆんゆんとめぐみんの3人だった。

何でだと思いながら後ろを振り向くとそこには2人が笑顔で硬直し、他のみんなは目玉のくり抜かれた顔でそこで立ちすくみ、こちらを見ていた。

 

「あっ…ああ…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うっうぁぁぁぁぁぁぁぁっぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっぁぁーーっ‼︎」

 

あまりの光景に飛び上がるとそこは見たことのない部屋だった。

 

「ようやく起きた様だ、その調子だと問題はない様だね」

 

起き上がりで迎えてくれたのはあるえだった。

 

「あ、ああ…うっ…」

 

どうやら夢を見ていたようで、それは左半分の視界が無いことが証明している。

 

「左眼が痛むかい?」

「いや、問題ない。それより皆は大丈夫なのか?」

「ゆんゆんとめぐみんなら隣の部屋で魔法で無理やり寝かせたよ。ちょうどさっきまで君の看病をしていたけど中々休まなかったからね」

「…そうか、それは良かった…それでねりまきは?」

「ねりまき君は…」

 

彼女は言葉を噤むとゆんゆん達がいる部屋とは反対方向の部屋を指した。

 

「ねりまき無事か……そうか」

 

部屋に入るとそこには眼に包帯を巻かれたねりまきが机の上に寝かされていた。

その肢体を見るとやはり右腕以外が捻れており、左脚に至っては膝より下がなくなっていた。

 

「すまない助け出した時にはまだ息があったのだが、君達を治している間に息を引き取ったよ」

「ああ、そうか…。話は変わるがそれで怪我が無くなっているのか。けど左眼は戻ら無いのは単純に回復魔法の質か?」

「いや、君の目が戻らないのは多分眼が何処かで生きているからだろう」

 

全身が治っているのに左目の視界が戻っていないので一度プリーストに直してもらわないといけないのかと思っていたが、どうやらあのケースに入れられた眼は生きていると判定され、ある物を治す事は出来ないらしい。

 

「だから君の左眼には現在彼女の眼が入っている」

「は?」

 

一瞬彼女が何を言っているのかわからなかったが、左目を触るとそこには確かに何かがあった。

 

「彼女の遺言だよ。これが精一杯のお礼、今まで話相手になってくれてありがとうってさ」

「何だよそれ…」

「彼女は酒場の娘だったからね、学校以外は家の手伝いである意味ゆんゆんと同じで同年代の友達が居なかったのさ」

「…そうか」

「あまり関わりの無い私が言うのもあれだが…いや止めておこう」

「…」

 

亡くなった人間の過去を掘り起こすなんて事は止めようと場の空気がそうさせたのか知らないが、俺たちは会話を一度止める。

 

「それでこれからどうするつもりだ?」

 

部屋を元の場所に戻しこれからについて話を続ける。

 

「それを聞きたいのは私の方さ、そもそも君達は逃げてきたのだろう?」

「ああ、そうだな」

 

俺はここまでの経緯をあるえに説明する。

 

「成程、そう言う事なら砦に向かうといい。あそこには君と同じニホンジンと言う恐ろしい力を持った種族が居るそうじゃ無いか」

「ああ、それがいいかもしれないな」

 

砦、魔王軍との争いが最も激化している場所で、人類側の最大勢力が集まる場所。

そこに行けばクレアやバルターに対抗する戦力が得られるのかもしれない。

 

「それなら善は急げだ。早めに向かうと良い」

「おい、もう少し休めないか?2人もまだ疲れが抜けていないんだろ?」

「それなら馬車に乗るといい、ちょうどこの小屋を出て進んだ所に停留所がある」

「おい」

「すまない、時間がないんだ。今は2人を背負って進んでくれないか?」

「どう言う事だ?」

「すまない、作業しながら説明する」

 

あるえは少し険しそうな表情をしながら俺に2人を運ばせる様に指示をし、俺はそれに従いながら2人を掴み外へ運び出す。

 

「すまないね、もう時期奴等がここにくる。多分目玉を回収し終わったんだろう」

「そうか、それは悪かったな」

「気にする必要はない、私が君の立場だったらまずは状況を把握したかったろうしね」

「ありがとうな」

「君が通った後道を爆破したのだが、多分足止めにはなっても撤退まではいかないだろう」

 

そういい彼女はリアカーを何処からか引っ張り出しそこに2人を乗せる。

 

「さあ行くと良い、荷物は少ないが載せてある」

「ちょっと待てよ、あるえは来ないのか?」

「私はここであいつらの動きを止めるさ」

「駄目だ、一緒に来てもらう」

 

正直これ以上目の前で人を失うのは懲り懲りだ。

 

「ふっ優しいんだな君は、でも君が気に病む必要はない」

 

そう言い彼女は自身のデカいサイズの上着を脱ぎ服の裾をたくし上げると、腹部に黒い変わったデザインのナイフが突き刺さりその周囲を囲む様に包帯が巻かれていた。

多分森を抜ける時に刺さったのだろう。そして、その包帯は彼女の血で赤黒く染まりよく見るとスカートまで滴っていた。

 

「え…」

 

咄嗟に回復魔法をかけるが、彼女の傷口に変化が起きることがなかった。

 

「何だ…これは」

「このナイフに斬られた生物の傷口は回復魔法でも自己治癒能力でも回復することが無い、そういう武器なのさ」

「砦は最高戦力が揃っているんだろう?そこで何とかしないか?」

「それは嬉しい提案だな、だけど出血量からして私命も残り僅かだ、もう間に合わないだろう」

 

彼女は自身の腹を見ながらそう言うと、おもむろに自身の腹に刺さっているナイフを引き抜き代わりに布の塊を突っ込む。

 

「そうだ、これを君に渡そう、いつか役に立つんじゃないか?」

「ああ、ありがとうな」

 

引き抜いたナイフを彼女は俺に渡す。

サイズは小さく俺の手のひらくらいのサイズだった。

 

「そんな悲しい顔をしないでくれ。それじゃあ、君たちは幸せに生きるんだぞ」

「ああ、そうだな。ありがとうな」

 

そう言いながら受け取ったナイフをしまうと、俺はあるえに背を向けながら停留所へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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