「それで、現状王都は今どう言う状況なんだ?ダクネスは無事なのか?」
部屋に案内し落ち着いたのかくつろぎ出したシルフィーナはようやく俺の用意したお菓子に手を出したので、そろそろ良いだろうと聞きたかった事を質問する。
「そうですね…現状は未だ変わらずシンフォニア家が実権を握っていて王女様はそれに従っているままです」
「…そうだよな」
「クレア当主は依然としてカズマ様を始末したいようでしばらくララティーナ様をアクセルに留めたたとまた別の都市に向かわせる様です」
「…そういう感じか」
やはり自身の立場を維持する以上クレアにとって俺という存在は邪魔でしかないのだろう。
だが、奴が俺の存在を消したがっているという事は、俺はアイリの記憶を戻すトリガーになりかねないと奴が危惧していると言う事の裏付けでしかないため、まだアイリを元に戻す手立てはあると言う事になるが果たして彼女を元に戻す手立ては存在するのだろうか。
「それでダクネスが向かう先って言うのはどこかわかるか?」
「それがどこかはまだ…ただそう命令するように王女様に指示していた事は確かです」
バルターがクレアを後ろから手引きしている以上彼女には俺らの行動が筒抜けになっている可能性が高い。
であれば彼女がこの砦に来る可能性が高いが、バルターがわざわざ自分ではなく彼女を利用する理由が思いつかない。
「それと話の関係性が全く無くなっちまうんだけどオークションは見ているか?」
「時々ですが…ですがカズマ様の欲しがっているものは出品されてはいないと報告は受けています」
クリスに任された手前一応念の為だが神具が出品されていないか彼女に確認だけさせては居たのだが、俺が王都を離れてからチート武器は出品されては居なかったらしい。
「今回は違うんだ、最近も最近なんだけど紅の目が出品されるとか噂程度でいいから聞かないか?」
「紅の目ですか?今日いくつか出品されてはいたそうですが、質が悪くあまり値が張らなかったと聞いてはいます」
「やっぱりそうか…」
どうやら俺たちが居なくなった後奴らは眼の選別をして価値がなさそうな物を廃棄がてら出品し利益を得たのだろう。
奴らの目的は未だに分からないが、コロナタイトを作り出す以上ろくな事ではない事は確かだ。
「わかった、色々ありがとうな。シルフィーナはほんと優秀で助かるよ」
「とんでもないです」
深々と頭を下げながらシルフィーナは謙遜する。
「そろそろ定例報告を受ける時間ですので」
「…え?何それ?」
しばらく話し込んだ後彼女は時計を見るとそんな事を言いながら立ち上がりテレポートのスクロールを開く。
「退廃区の元奴隷たちを少しのお金で雇って情報収集させているんです、今日ちょうど退廃区でのシンフォニア家の動きを調べている方の報告がありまして」
「そうか…忙しいタイミングで呼びつけて悪かったな」
「そんなことありません!私も久しぶりにカズマ様に会えて楽しかったです。では」
ギリギリまで俺と一緒に過ごしたかったのだろうか彼女は別れの言葉を言うとすぐさまスクロールを発動させ王都の方へと帰っていってしまった。
「…」
1人残された部屋で考えをまとめるが事態は悪化するばかりで一向に改善の傾向にない。
ここにいる魔王軍幹部を倒し、訪れる束の間の平和の時間を利用し戦力を集め王都へと王女奪還を起こさなくてはいけない。
ありがちな王道展開ではあるがやっている事は国家転覆でしかない為、事情を話したところで協力者がたくさん集まる事は感が辛い、それに幹部戦で死者が出なくともベルディア戦の様に負傷者が出ればその分協力してくれる人員の分母が減る。
…いっそバルターが魔王軍幹部であれば楽なんだが、そう悠長な事を言っては居られない。
とりあえず最初は情報収集から始めよう、これからする事を考えるのであれば皆よりも先に幹部を倒し日本人から信頼を得なくてはいけない。
ベッドに潜り作戦を考える。
明日だ、明日から本気出す。
「それじゃあ現状を説明してもらおうかミツルギ君」
「…ようやく僕の名前を覚えてくれたみたいだね」
朝早々2人は寝坊してるのか姿を見なかったため食堂で1人寂しそうにしているミツルギを見つけ正面の席を陣取り話しかける。
「それでわざわざ僕に声をかけるってことは何か用でもあるのかな?」
「その通りだとも」
「…それで?碌でもないことだったらお断りするけどいいかな?」
「まあまあ、ただ現状を知りたいだけだよ。何だかんだ昨日聴きそびれたからな」
「…そうだったね」
また変な事に突き合わせられるのではないかと不安で一杯だった彼も流石に今回の頼みは聞き入れてくれたようで説明をし始める。
「まずはそうだね…言葉じゃうまく説明できないからついてきてくれるかい?」
「ああ」
ミツルギはそう言いながら食事を恐ろしい速度で書き込むと、まるで先程まで何も無かったかのように爽やかオーラを放ちながら俺を案内するように席を立つ。
俺も負けじと急いでご飯を書き込み奴の後に続くように席を立つ。
「まずは警備だね、これは基本的に数名をローテーションしているんだけど、何かあったら彼らから連絡が来る仕組みになっている」
「へー、日本人なんだからそのまま戦った方が早いんじゃないのか?」
案内されるがまま砦の外に出て奴の指差す方向を見ると、そこにはいかにもな日本人が数名うまい具合に配置されていた。
きっと軍師系のゲームに明るい日本人が居たのだろう。
「昔はそうだったんだけど、今回は特殊でね。今の魔王軍幹部が来てから急遽そうせざるを得なくなったんだ」
「へー」
どうやら魔王軍幹部なだけあってか普通に高火力でのゴリ押しは通じない様で、こうして細々と互いに戦力を削りあっているらしい。
「それでどう言う感じに戦っているんだ?」
「それは…おや?」
一体的はどんな戦略を使っているんだろうかとミツルギに話をしようとしたタイミングで何処からか聴き慣れた轟音が響きそれにより地面が揺れるのを感じる。
「…またあいつか?」
「違うよ、これが敵のやり方さ着いてくるといい」
どうやらめぐみんがいつもの日課を再開し始めたのではなく、先日聞いていた通り敵が放った爆裂魔法による爆発音らしい。
「…マジか」
「そう、これが僕達日本人が束になっても倒せず苦戦している理由なわけだ」
次に案内されたのは砦の外壁前だった。
そこは先程轟音の原因である爆裂魔法が放たれた場所でもあり、その外壁には出来立てほやほやを表す煙が立ち込め外壁はデストロイヤー戦ぶりのクレーターができていた。
「…なるほどな」
感知スキルではいきなり強大な反応が現れた瞬間に轟音が鳴り、そして気づけばその巨大な反応は消え去っていた。
その反応の特徴を捉える前に消え去ったところを見るに爆裂魔法を放った後の隙をつかれる前にテレポートでいなくなったのだろう。
「君ならもうどう言うことかわかっているだろ?そう今回の幹部は君と一緒に戦ったベルディアみたく己の力を保持するのではなく、こうして安全かつ確実にこちらに危害を加える事を目的に動いている」
「それはかなり厄介だな、いつ来るか分からないし攻撃を受けた時にはすでに姿が無いんじゃ対策も追い打ちもできないな」
「そうなんだ、それに追い掛けようにも途中森を通らなくてね、その森は彼らの最も得意とする場所で流石の僕達でも対処しきれない」
ミツルギは目の前にある森を抜けた先に奴らのアジトがあるらしく、日本人たちでそこを叩こうとしたが敵の庭である森では地の利を活かした奴らには敵わず数人の犠牲者が出て撤退したらしい。
「要するに手詰まりってわけか」
「そうだね、正直そろそろこちらの物資も尽きかけている事を考えるとそろそろ捨て身覚悟で行かなくてはいけなくなってしまう」
「盾の神具を貰ったやつとかいないのかよ…」
「生憎だけどそんなピンポイントでしか使えない物を選ぶ人はいなかったよ」
まあ確かに何があるか分からない異世界に盾を持っていく奴はいないだろうし、見たことはあるがイージスの盾はクリスが泉に沈めてしまったので使えないだろう。
であれば幹部の爆裂魔法を防ぐにはめぐみんの爆裂魔法を当てて相殺するしかなさそうだが、ふたつの爆裂魔法が衝突した爆風で砦が壊されてしまいそうで怖いので却下にする。
「砦の壁はもってどれ位なんだ?」
「すまない…それは僕には分からないけど手の空いた人は日中に壁の補修をしているからそれなりには保つとは思っている」
「へぇ」
ミツルギの曖昧な返答に適当な相槌を返して砦の防壁を見上げる。
千里眼や鑑定スキルをうまく使いながら構造などを確認すると、やはり日本人が関わっているだけあってうまく衝撃を逃したり燃えない様に加工したりなど様々な工夫がされている事が見受けられるが、何せ何度も補修工事をしているせいか土台の方に限界が近づいてきている。
過去の傷跡と今回の損傷から見て画期的なアイディアがなければ多分保って一月程度だろう。
それ以上はこの砦の基礎が崩れ崩壊してしまう。
「今日襲撃があったから明日までは無いと考えてもいいのか?」
「そうだね、魔王軍幹部と言っても爆裂魔法を撃てるのは基本的に1日に一回だね。まあテレポートが使える以上魔力切れは期待しない方がいいかもしれないね」
「だよな…」
爆裂魔法を撃った上にテレポートを使えるとなるとめぐみんの上位互換という事になる。
彼女には幹部の戦闘スタイルを見習って欲しい物だが一撃必殺に全てをかける彼女の事を考えるtp多分俺の思う様にはなってくれないと思う気がする。
まあでもめぐみんに爆裂魔法を撃たせてゆんゆんが動け気なくなった彼女を回収するというのは良いかもしれない。
でもまずは現状を打破してから運用の続きを考える事にする。
「分かった、色々とありがとうな」
「ああ、上から偉そうな事を言ったけど僕達はただされるがままだ…君が来たことで何かが変わることを願うよ」
「うるせぇぶっ殺すぞ‼︎」
なんかキザなセリフを吐き出し始めて面倒くさそうなので適当に挨拶を返してその場から離れる。
「と言うわけだそうだ」
「そうでしたか…」
事の詳細をゆんゆんに説明する。
めぐみんは爆裂魔法を撃ち込まれた事によってできたクレーターを爆発痕にはその人の個性が出るんですと言い見に行っており現在ここには居ない。
「森から追えば奴らに返り討ちに合うし何もしなければ砦を爆裂魔法で吹き飛ばされてしまう。まさに万事休すだ」
「そうですね…森に居る魔王軍の精鋭がどうにかなれば楽なんでしょうけど…」
やはりこの周辺は魔王城が近い事もあり魔王軍の質が今までとは比べ物にならない程に強いらしく、戦闘に関する技量ならベルディアに少しは劣るがそれでもチートを持った日本人を相手にすることが出来るほどだ。
正直チート持ちが集まれば,魔王軍どころか魔王すらなんとかできそうな気がしてはいたのだがそう上手くはいかない様で、どんなに強い力をもらっても力だけでは長い年月で培われた技術には敵わないのだろう。
「ゆんゆんはテレポートで何処までいけるんだ?」
「一度行った所なら行けますよ、ただセーブポイントを作らないといけないので今行けるのはアクセルと紅魔の里跡地と王都位ですね。先日スキルを振ったのでもう少し登録出来ますのでここも登録しておきますか?」
「そうだな、一度作って消せばその枠は復活する感じか?」
「はい、枠の再取得は可能ですよ」
「よし、それじゃあ砦の前にポイントを作ってくれ」
「構いませんが…何をする気ですか?」
「それは…んー目処が立ったら教えるよ」
「何ですかそれ?まあ危険じゃなければ良いですけど」
「悪いな」
ジト目で俺に疑いをかけてくるゆんゆんをうまく宥めながらトークの主軸を切り替える。
「それでめぐみんの杖はもう見たか?」
「あれですか、あの後夜に見せて貰いましたがあれはめぐみんの杖で間違えないですね」
「やっぱりそうだよな」
「はい、対象に魔力を通せば必ず魔力の残留が残ります。特にいつも使う杖であればある程にその痕跡は強く出ると言われています、めぐみんのあの杖はめぐみんが持っていた杖以上にその残滓が残っている感じでした」
「なんで2つに増えたのか分かるか?」
「ごめんなさい…それは私にも分かりません、何か神具の力か私達の知らない魔法の力かどちらかわ分かりませんが気をつけた方がいいかもしれませんね」
「…だよな」
ちなみに当のめぐみんは二つに増えた杖の怪しさなんて気にも止めずに
「見てくださいカズマ‼︎二刀流ですよ‼︎これでダブルエクスプロージョンも夢では無いかもしれませんよ‼︎」
「うるせぇ‼︎そんなはた迷惑な夢早く醒めちまえ‼︎」
と言ったやり取りをしていた事を思い出す。
「まぁ…なる様になるだろ」
はぁとため息を吐きながらめぐみんが戻って来るのを待つ。
その後めぐみんが戻ってきてクレーターの話を聞いた後、俺たちは解散し夕食を済ませた後に潜伏スキルを使用しながら砦から外に出る。
相手の戦力がどの程度なのかや魔王軍の種族など作戦を考える上で必要な情報を自分の目や感覚で確かめておきたいのだ。
…まあ後今の自分が何処まで通用するのかを確認しておきたいというのもある、強い火力を使いこなす本来あるべき転生者に対してこの世界の法則に則って技術を学んだ俺、彼らとの差を何処まで埋められたかはここで少しは分かるだろう。
砦の外壁のクレーターを見て想像以上に修復されているなと感心しながら森の中を突き進む。
流石に正面から行こうとすれば砦のメンバーの誰かしらの感知に引っかかりそうなので、少し外から周り遠回りする形で進み始める。
森の中を駆けていくと警備兵なのかゴブリンが数体彷徨いていたので腰に掛けていた剣を引き抜きすぐさま全員の首を掻き切って進む。
「ーーっ⁉︎」
ゴブリンを倒したことで油断したのだろうか気づけば目の前に矢が迫ってきており、それを上体を逸らすことで何とか躱す事に成功する。
正直防御力は低いので、全ての攻撃が致命傷になり得ることを肝に銘じながら再び森をかけていく。
「っ‼︎」
幾分か進んだ所で再び矢が飛んでくる事に気づきそれを片手で掴むと、矢には一切の魔力痕跡が無い事から周囲の罠が仕掛けられていると思い、感知スキルの精度が少し下がってしまうが仕方ないと対象に罠を入れて感知し直すと森全体に罠が張り巡らされている事に気づく。
「マジか…」
思わず言葉が漏れてしまう。
ダンジョンならその性質上仕方がないとは思ってはいたが、外界で森の中とはいえ環境が天気次第で劇的に変わる状況でこれだけの罠を維持するというのは中々に恐ろしく、今日までそれを維持し続けた魔王軍に若干恐怖さえ感じる。
そしてなぜ皆が幹部の元へ攻め込まないのかも少し分かる様な気がしてきた。
腕に自信のある者が集まる最前線に俺の様な感知スキルや潜伏スキルを利用する奴は多分だが居ないだろう。罠の存在などが沢山あるこの状況で魔王軍の精鋭を相手をするとなるとたとえアイリでも難しい。
…であれば罠を維持しているゴブリンを全員叩けば少しは楽になるのだろうか?
最善の考えを思いついた様な気がしなくもないが、その方法をしている間に魔王軍に気づかれ増援を送られるのがオチだ。
いくたびの罠を掻い潜りながら敵を屠っていく、これをきっかけに幹部が警戒して爆裂魔法を放つ事を警戒してくれれば良いのだが…
「おっと⁉︎へぇ…」
森を進んでいると1人の精鋭だろうか見たことのない鎧に身を包みながら、日本人から奪ったのだろうか明らかにあっていない雰囲気を醸し出している剣を掴んでいた。
「…」
「何か言ってみたらどうだ?」
潜伏スキルを使っているとはいえここまで互いに殺気を放ちあっていたのであればそのスキルの効果はあってない様なものだった。
「…」
相手は言葉を発さない事に不気味さを感じはするが、気配の異質さから以前の様にバルターが隠れている事は無さそうで少しだけ安心する。
俺は剣を再び鞘から抜き相手に構える。
これ程の相手と戦うのはバルターを除いて闘技場振りかもしれないと思い出しながらも、あの時は記憶が曖昧だったなと時間の経過の速さに少し哀愁を感じる。
そんな事を考えてないで早くやるかと構えた剣を少し振り上げた後一瞬にして間合いを詰め精鋭の頭の上に叩きつける。
「…」
「へぇ…」
奴は俺がさっき考案した初見殺しの振り下ろしを軽くいなし、今度は仕返しとばかりに剣を振り落として来たのでそれを身体を逸らす事で躱し、その重心移動を利用して横に薙ぐがそれを剣の柄を下げる事で受け止め、動きが硬直したその隙をつくように拳が飛んでくる。
…不味いな。
地面を蹴り上げ後方へとバックステップで躱し距離を取ろうとするが、相手はそれを予知していたのか後ろ脚で地面を蹴り上げ間合いを詰められる。
相手は剣ではなく武道の達人か?
そう思いながらも咄嗟に俺も奥脚で踏ん張り前足の膝を突き出し相手の腹部に膝蹴りを突き刺す。
見事なカウンターが決まったと思っていると、相手はのけ反ることもせず機械の様に剣を横に振り切りそれを何とかスウェーバックで躱そうとするが、うまく間に合わなそうだったので間に剣を挟み斬られる事は防いだが側方へと吹き飛ばされてしまう。
正直ベルディアよりも強いのではと思ってはみたが、奴はデュラハンのスキルがあるのでまた別のベクトルの強さだったなと結論を出し余計な思考が続くのを防ぐ。
再び剣を構え仕切り直しとする。
相手は俺の膝蹴りを受けても尚怯む事は無かった。
つまり、相手が俺よりも格が上すぎて俺の攻撃ではダメージを与えられない、とそもそも生き物ではないから痛覚が無いので仰け反らないどころか反応がない、の二つが存在する。
まあ全力で痩せ我慢していたのもあるがそれは外してしまっても良いだろう。
出来れば二つのうちの後者であって欲しいが、それはそれで普通に倒せなくなってしまうので何かしらの対策が必要になってしまう。
…面白くなってきたぜ
困った時はそう思う様にしろと昔誰かに言われた事を思い出し頭の中で思った。
「ーーっ‼︎」
剣を再び構えて相手に斬りかかる。
今度はフェイントを入れての横凪、足の踏み替えは何とか上手くいき練習であれば成功だが実戦では相手に受け止められ失敗になる。
だが、そこから繋ぐことができるのが実戦の面白さで、その返しに飛んできた横凪を相手の手元を狙った蹴りを放ち痛がりはしないが一瞬だけ動きが止まったのを見計らってその剣を上から叩きつけ、下がった所を足で踏みつけ固定し、そこから剣を振り上げ顔面を狙おうとするが相手の空いた方の手で俺の手元を抑えられ不発に終わる、しかしそこで引くはけにはいかないので剣を離し体幹をうまく回旋させながら相手の顔面へと肘を打ちつける。
「ーーうしっ‼︎」
ガッコーンと金属が衝撃で響くような音が鳴り俺の攻撃があった事が証明され、俺はそのまま地面の剣を拾い上げながら後方へと下がり相手へ視線を向ける。
「…なっ⁉︎」
顔面を守っているであろう兜を吹き飛ばし顔を拝んでやろうと思ったが、明かされた本来首がある場所は何もなく、まさかデュラハンかと思ったが、目線だけ変え吹き飛んだ兜を覗き込むと空っぽだった為、多分別の何かだったのだろう。
首が無くなりそれでも動き続けるそれに若干の恐怖を感じながらも再び剣を構える。
「カースドライトニング‼︎」
第二ラウンドを始めようじゃないかと思った所で後方から黒い雷が走り、前方にいた鎧に激突し弱点属性だったのか鎧はバラバラに崩れていった。
「大丈夫ですかカズマさん‼︎」
「…何だゆんゆんかありがとな…って何でそこにいるのさ」
思わずいつもの癖で御礼を言ってはみたが、よくよく考えてみると何でここにゆんゆんがいるのかよく分からなかったので問いかける。
「すいません、夜中部屋から出ていくのが見えたので…」
「ついて来たわけか…だったら声を掛けてくれよ」
「掛けようと思ったのですが、カズマさんが予想以上に速くて私には追いつけなかったんです‼︎」
「そう…だよな、悪かった」
どうやらインビジブルで気配を隠しながら俺の後をついて来たようだ。
まさか人間が居ると思って居なかったので感知スキルから人間を外して周囲の魔物への警戒を高めた事が裏目に出たのだろう。後、罠とか大丈夫だったのか気になったが俺の後をついて来たってことは全ての罠が作動した後なのである意味一番安全だったのかもしれない。
「…え?」
ゆんゆんとやりとりをしていると鎧の影から無数の黒い手が湧き出し、その手達は鎧を掴むとそれを影の中へ引き摺り込んでいき、最後はまるで何事も無かったかの様に消え去った。
「これは一体どういう事なんだ?」
「さぁ…私にもよくわかりませんが、幹部の方の能力でしょうか?」
「それでこんな夜中に抜け出してカズマさんは何をしたかったのですか?1人で幹部を倒しにいく様な感じには見えませんが?」
あれから周囲を見渡し感知スキルにも何も反応がないことを確認し安心した所でゆんゆんが口を開いた。
「ああ、それはだな…まあある意味ちょうどよかったのかもしれないな」
「どういう事でしょうか?」
キョトンと頭にハテナマークを浮かべる彼女に作戦を伝える。
まあ要するに幹部が爆裂魔法を放っているであろう場所に向かう道を確保し、その後ゆんゆんをこっそりここに連れてきて登録させ幹部が来たタイミングで爆裂魔法の詠唱している隙を狙うって戦法なのだ。
「…そんな作戦を考えていたんですね。でも幹部ですから周囲に護衛をつけているんじゃないんですか?」
「いや、幹部は爆裂魔法を放った後テレポートでアジトへ戻っているんだ。それを考えれば部下を引き連れていたら帰り道魔力切れを起こして中途半端になっちまうだろ?」
「確かに言われてみればそうですね…ウィズさんですら爆裂魔法を放ったらあまり動けないと言っていましたし」
「だろ?だから必ず1人できて1人で帰ると思うんだよ。まあ居ても精々1人か2人くらいだろ、それくらいならゆんゆんが居れば何とかなりそうだ」
「頼りにして下さるのは嬉しいのですが、気をつけたほうがいいかもしれませんよ。あの鎧からは何か嫌な予感がします」
「そうだな…あれは確かに嫌な予感がする」
作戦を明かし、ゆんゆんを再び案内する手間が省けたが彼女を罠から守るというタスクが追加されたのである意味それはそれで大変だった。
「カ〜ズ〜マ〜さ〜ん‼︎」
「おまっ‼︎マジか‼︎」
トラップで吊るされたゆんゆんを救いながらも何とか爆裂魔法を放っている場所を見つけだし、その場所をゆんゆんに登録させる。
これによりいつでもどこでもこの場所に飛ぶ事ができる様になる。
後はここに幹部が来た瞬間を見計らってテレポートし、詠唱している間の隙をつけば完璧だろう。
なに、場所が分かっている以上感知スキルをここに絞っておけばあれほどの気配ならすぐに気づけるさ。
「それで、昨日の夜私を置き去りにして2人で夜のデートを楽しんでたわけですか?」
「悪かったって」
あの後部屋に戻ると俺達が居なくなってしまったのでは無いかと半ベソをかいているめぐみんに見つかりブチ切れらて、朝食を摂っている今に至る。
正直紅魔祭の後であったのでなるべく1人にしたくは無かったのでゆんゆんも置いてわざわざ二度手間の様な作戦で行動をしたのだが、こうなってしまってはもう仕方がないしか無いのだ。
「まあ良いでしょう、確かに隠密行動するのであれば私は不向きですからね」
「ああ、安心してくれ次の作戦ではめぐみんの力が…ゆんゆん今すぐテレポートだ‼︎」
「え?あっはい‼︎」
感知スキルに巨大で凶悪だが何処か懐かしい反応を感知し、すぐさまゆんゆんに声を掛ける。
この作戦は時間との勝負で、少しでも遅れを取れば砦は爆裂魔法の餌食に遭い幹部は自身の寝ぐらへと帰ってしまう。
「今度は置いてはいかせませんよ‼︎」
「めぐっ⁉︎しょうがねーな‼︎」
テレポートする瞬間めぐみんが置いていかれまいとゆんゆんの肩に手を乗せ3人とも光に包まれる。
「着きました…幹部の方はあそこです‼︎」
「おうよ‼︎」
テレポートして強大な気配の方に視線を向けると、そこにはローブを羽織った幹部らしき人が居た。
聞き覚えのある詠唱に奴が爆裂魔法を放つ幹部だと判断し、潜伏スキルにかなりのリソースを割きながら魔王軍幹部の距離を縮め首元目掛けて剣を振りかぶり斬りかかる。
「なっ⁉︎」
しかし、俺の攻撃は突然現れた黒いオークに阻まれ、結果として奴の首ではなくオークの腕を切り裂く結果になった。
「甘いのよ、昨日あれだけ私の庭を壊しておいて警戒されないとでも思ったのかしら?」
「クソ‼︎…?」
腕を切り裂きそのまま強化魔法で強化した力で思いっきり黒いオークを蹴飛ばし、幹部の方へ視線を向ける。
こうなってしまってはここで蹴りをつけるしかない。
そう思い剣を構えた所で、懐かしい気配の正体を思い出し気づく。
「あら、随分と懐かしいじゃない坊や」
俺の顔を見てなにかに気づいたのか幹部は顔を覆っていたローブを外し素顔を晒しながら俺のほほうへ向き直る。
「あ、姐さん…」