この女神の居ない世界に祝福を   作:名代

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作品のクオリティは低いですが数値が増えていくのは嬉しいですね。


カズマの日常(修行編)

「何故こんな所にゆんゆんが居るのですか⁉︎」

 

永遠に思える程長い沈黙を最初に破ったのは、今も尚俺の背中に抱き着き首を絞めかねないめぐみんだった。

 

「何でって…」

 

彼女も突然の事に頭が追い付いていないのか、言葉を失っている。俺の予想通り彼女達は知り合い同士だったらしい。だとしたらこんな形で再会させてしまったのは少し酷な事なのだろう。

 

「だんまりですか…まあどうせ私の事が心配で追って来たとかそんなところでしょう」

 

2人は長い付き合いなのか、ゆんゆんを見据え、何時ものやり取りとは言わんばかりに呆れた様に言った。

 

「違うから、私も修行しに来たんだから‼︎めぐみんが突然冒険しだすとか言うから、私も負けじと里を出たのよ」

 

強気に出るめぐみんに対してゆんゆんは弱気に返す。どうやら何時もこの構図の様だ。しかし敬語以外で話すゆんゆんというものも中々ギャップがあって新鮮でいいな。

 

「あのさ…せっかくの再会のところ悪いんだけどさ、早くこの手を何とかしてくれないか?そろそろ抵抗するのにも限界が来そうなんだが」

 

2人の感動の再会に水を差すようで悪いのだが、そろそろめぐみんには腕の拘束を解いていただきたい。俺の背中には未だにめぐみんを背負いバランスを取りながら尚且つ絞まっていく腕に抵抗しないといけないのだ。

 

「そ、そうよめぐみん‼︎早くカズマさんを離してあげなさいよ」

 

はっと気付いたかのように俺の背中に居るめぐみんの腰を掴み後ろに引っ張る

しかしながらめぐみんも離れるわけにはいかないのか、負けじと抱きつく力強くなり。

 

「痛たたた…離してください‼︎私はこれからカズマに毎日爆裂魔法を打つ日課に付き合って貰うのです」

 

なんだその恐ろしい日課は⁉︎

ポツリと漏れためぐみんの本音に戦慄した。あんな威力だけは恐ろしい魔法を毎日バコスカ撃たれたらこの辺り一辺の地形も環境も変わってしまう。

 

「おい、ちょっと待て、何で俺があんな災害みたいなのに付き合わなくちゃいけないんだ‼︎」

 

抗議の文と共にブンブンとめぐみんごと体を左右に揺する。何とか腕の隙間に手を挟み込み首が締まるのを防いでいるが、そろそろ疲れてくる。

 

「何ですと⁉︎我が爆裂魔法を災害扱いですか⁉︎いいでしょう‼︎こうなったら爆裂魔法の事を好きになるまで語り明かそうじゃないか」

 

俺の言葉に地雷を踏み抜かれたのか、彼女はムキになりながら騒ぎだす。

 

「そうよ‼︎カズマさんは何人もの人に会ってようやく出来た私のパーティーなの‼︎何でめぐみんに取られなきゃいけないの‼︎」

 

ゆんゆんはゆんゆんで思う事があるようでめぐみんの腰を掴みながら引きずり降ろすように下に引っ張る。

あの…その方向に引っ張ると首が絞まってしまうんですが、ゆんゆんさん聞いてますでしょうか…。

 

「ちょっと待ってください」

 

急なめぐみんのガチなトーンな言葉に飲まれ俺たちも止まった。どうやら、先程のセリフの何れかが彼女の琴線に触れてしまった様だ。

 

「カズマのパーティーメンバーってもしかしてゆんゆんの事だったのですか⁉︎」

 

そしてめぐみんは驚いた様にワナワナと震える。余ほど先にパーティを作られていたのがショックだったのだろうか、俺を絞めていた腕の力が抜けていく。

 

「えぇ、そうよ。めぐみんはどこで何していたか分からないけど、私は真面目にこうしてパーティー作りに日々努力していたのよ」

 

彼女は誇らげに宣言する。ゆんゆんの事だ、きっと俺が来るまで色々とパーティーに混ぜて貰おうと必死だったのだろう。様々な遊びのルールを覚えたけど、結局話しかけられずに受付の姉さんに付き合って貰っていたのもその悲しい努力の一つだろう。ただし現実はだいぶ辛いものになるだろうと思われる、そして受付の人にどう思われているかを今の彼女は知らない。

そして最終手段で俺みたいな初心者で何も分からない冒険者の案内人を買って出て来てようやくここまできたのだろう。

努力して来ただろう彼女の苦労を想像し、ホロリと涙が出て来そうになる。

 

「そんな…あのゆんゆんに友達どころかパーティーを…しかも私より先に…」

 

スルスルと腕の力が抜けていく。これはチャンスなのだろう抑えていた腕を外し彼女を降ろそうとする。

 

「認めませんよ、こんなの認めませんよ‼︎」

 

逆ギレしたのか再び腕に力が入り、再び首が締まる。しかも今度は腕の隙間に手が入っていないので、外から腕を掴み引っ張る形になり危険度が増す。

 

「何ですか‼︎そんなに私より先にパーティーに居るのが嬉しいのですか⁉︎残念でした‼︎私の物は私の物‼︎ゆんゆんの物は私の物でーす‼︎」

 

ふははは、と悪の幹部の様な高笑いが辺りに響く。その光景に、何処のジャ◯アンだよ⁉︎と突っ込みたくなった。多分知らないから言わないけど。

 

「そんな訳の分からない理由で私からパーティーを奪わないで‼︎いい加減そろそろ諦めなさいよ」

 

流石のゆんゆんもその理不尽さにツッコミを入れる。

 

「そうだぞ、めぐみんは年下なんだから先輩の言うことを聞けよ‼︎」

 

こういう時は体育会系による上下関係を利用するのが一番だ。言語が日本とは違うが一応この世界にも敬語の概念が存在する、見た感じめぐみんの方が成長具合からして年下なのだろう。一応ゆんゆんに敬語使っているし。

しかし、その発言は今思えば軽発だったと思う。後ろにいためぐみん、ゆんゆん、その2人の空気がその発言を機に一瞬にして凍りついた。

 

「先輩⁉︎何を言っているのですか?私とゆんゆんは13歳で同い年ですよ」

 

何…だと⁉︎この2人は同い年だったのか…

新たに発覚した事実に驚き、窓に反射しためぐみんとゆんゆんを交互に見比べる。

成る程、人間には個体差という物があるが、彼女達は丁度最大値と最低値の成長をしているのか…だからこうも発育に差が出てしまうのだろう。

そんな2人を眺め、俺の中でなんか納得いったのでウンウンと頷く。

 

「あのそんなに見ないで下さい…」

 

あまりにもジッと見つめてしまったのでゆんゆんは恥ずかしそうに目を逸らしながらモジモジしている。しかし反対にめぐみんは

 

「カズマ…今ゆんゆんと私を見比べましたね。何を思ったかは大体分かりますが、私が年下だと思った理由を詳しく聞こうじゃないか‼︎」

 

またしても彼女の逆鱗に触れたのか俺の背中で暴れ出す。今回に限っては俺が全面的に悪いのだろう、しかし反省はするが後悔はしたくない‼︎

 

「ちょっとめぐみん⁉︎これ以上力を入れたら首が絞まっちゃうから‼︎カズマさんが死んでまたボッチは流石に嫌よ‼︎」

 

ググッと再び力が強まる、このホールドって元は俺から振り解かれない為にやってたんだよね、ここで俺が死んだら本末転倒じゃないかな⁉︎

 

「良いんですよ‼︎これ以上失礼な事考えないように懲らしめてやりますよ。紅魔族は売られた喧嘩は買う主義なのです‼︎」

「そんな主義の紅魔族って一部だけよね⁉︎」

 

そろそろ酸素がやばいから早く緩めて欲しいのだが…。

しかしそんな願いは聞き届けられずに、今尚俺の後ろで言い合いが繰り広げられている。

 

 

 

ふと我にかえる、この光景よく見たら俺を2人の美少女が取り合ってないのか?

首を絞められないように抵抗する中この考えに至る。今尚俺を取り合う為に言い合いを続ける2人を眺め、自然と笑みが零れる。日本だったら俺を押し付け合う事はあっても、こうも取り合う事は無かったろう。出来ればこのまましばらく眺めていたい。

しかしながら感情が高まっているめぐみんに加減する余裕はなく、そろそろ俺も限界なのか視界が段々と白味がかっていく。

2人の声が徐々に遠く聞こえる様になっていき倒れそうになる。しかしこのまま倒れればめぐみんを下敷きにしかねないので、何とか踏ん張りながら膝をつきそのまま膝立ちの状態で器用に踏みとどまる。

 

「え⁉︎カズマさん⁉︎ちょっとしっかりして下さい‼︎」

 

意識が遠のいていくなか、ゆんゆんが心配そうにこちらに駆け寄っていく。

 

「そんなカズマ‼︎すいません絞める力が強すぎた様でした……カズマ?…カズマー‼︎……嘘‼︎死んでる⁉︎」(※死んでません)

 

そんな簡単に死んでたまるか、と突っ込みたかったが俺の意識はここで限界を迎え、途絶えた。

 

 

 

再び目が覚めると、そこは先程の道ではなく何処かの公園だろうか砂地の地面が見え。俺はその上に設置されたベンチに寝かされていた。

 

「起きましたか?良かったーこのまま目が覚めないんじゃないかと思いました」

 

上から声がしたので見上げると、頭上にゆんゆんの顔が見える。どうやら膝枕というものをされている様だ。

俺の人生において一度も無かったであろう事に内心喜びを隠せなかったが、彼女の事なので変にからかうと次回が無さそうなので心の中でガッツポーズを決める事に止める。

 

「あの…すいませんでした…私とした事がつい興奮しすぎまして…」

 

再び横を見ると、ちょうど向かい合わせに設置されたベンチにめぐみんが座っており、まだ自由が効かないのか杖で体を支えながら頭を下げた。

 

「いいよ、気にすんなよ。俺もこんな可愛い子に取り合いされてあんまり悪い気分じゃ無かったよ」

 

ははは、と気にしてない様に言って見せる。気絶させられたのに優しく接する、これで好感度も爆上がりだ。

 

「最低ですねカズマは…」

 

しかし現実はそう甘くなく、めぐみんにはドン引きされる。そしてゆんゆんは可愛いに反応したのか少し頬を染め照れている。

 

「えへ、えへへへへ」

「気持ち悪いですね、いつまでニヤニヤしているのですか?」

 

やはりめぐみんはゆんゆんに対して何かあるのか。はぁ、と溜息をつきながら悪態をつく。

 

「それでですね、めぐみんの事なんですけど…」

 

どうやら俺が意識を失っている間に話が進んでいたのだろうか、あの後2人で話し合ってどうするのか決めたらしい。

 

「めぐみんを一応他のパーティーの受け入れ先が見つかるまで私達のパーティーで面倒みる事になりました…」

 

何処と無く疲れた様に彼女は言った。何だと思い彼女の身なりを見ると髪型が少し崩れ服などもよれていた、それもめぐみんも同様に。

どうやらあの後、俺の命が無事な事を確認した後に2人で種目は分からないがバトルしたらしく、その後何だかんだ言って回復して動ける様になっためぐみんと取っ組み合いになってゆんゆんが負けたらしい。

 

「うちの大将が負けたんならしょうがないな…よろしくなめぐみん」

 

決まってしまった事はしょうがない、俺の異世界生活に不安の種が投じられたがこれはこれで楽しむ事にしよう。

それにパーティーに加わるのは爆裂魔法が必要な時だけと言う制約もある様だし、ダンジョンとかで暴発からの生き埋めとかもなさそうだ。

 

「ええ、これからよろしくお願いします」

 

俺が手を差し出すと、彼女はそれを握り返した。昨日旅館でも同じ様な光景があったが今度はどこか違った様な気がした。

 

 

 

 

 

「まさか命には変えられないとは言え、私がゆんゆんの世話になる日が来るとは…」

 

決まった事とは言え何処かまだ信じられないのか、めぐみんは悪態をつきながらフラフラの状態でゆんゆんに連れられていく。どうやらめぐみんは最後のパーティーだったメンバーに激励として報酬を渡してしまったらしく、現在一文無しの状態なので暫くはゆんゆんの宿に泊めてもらう事になった。

 

「ほら、グダグダ言ってないで早く来て、めぐみんの所為で全身ヌメヌメなんだから早く銭湯に行くわよ」

 

動けると言っても本調子ではないのか、ダラダラと歩くめぐみんをゆんゆんは引っ張っていく。良くこんな状態で勝てたなと思う。

 

「貴方はカズマに出会って自信でもついたんでしょうか、少し強引になりましたね…」

 

彼女達との別れ際、めぐみんが疲れた様にそう言った。そう言われてみれば出会った時と比べて少し強気になった様な気がしなくもない、でも何時も何かにビクビクしていたゆんゆんが俺に出会って変わったのならそれはそれで嬉しくない訳ではない。

 

「じゃあなー。また明日酒場で集合な」

 

明日の約束を取り付け、彼女達と別れた後、銭湯の男湯の方へ入っていく。

 

 

「このヌメヌメ取れるのか?」

 

買った次の日にカエルの粘液まみれにされた冒険者の服を洗浄機の中に突っ込んでいく。この世界では電気の代わりに魔力の詰まった鉱石などが動力源として利用される。照明も風呂を沸かす火力も全て動力源は鉱石になっている。どうやらこう言うものも冒険者が集めてギルドが買い取って街に流しているらしい。

暇があったら採鉱にでも行くか…

そんな事を考えながら風呂に浸かる、こう毎日大衆浴場に入っているとなんだか旅行に行っている様に感じる。

未だに感じるこの世界に馴染んでいない感覚にため息が出る。何故だろうか、数日経ったがイマイチこの世界の住人になった様な感覚が無く、旅行に来た旅人の様な気分でいつでもふらっと元の世界に帰れる様なそんな気分でいる。

 

「いかんいかん」

 

バシバシ両頬を叩き現実に戻る。ここに来てしまった以上は、ここでやっていくしかないのだ。幸いな事に仲間には恵まれている、目標は魔王討伐だけど何とかなるのだろうか?

それに他の日本人達も気になる。あの女神の話によれば俺の前にも…俺の先輩に当たる人達が居るそうだが、そいつらは一体どうしているのだろうか?出来れば話を聞きたい。

あの場所で提示されたメニュー表に現れていたチートを見るに大分使い勝手が良い能力がちらほらしていた、それを取ったのなら幹部くらい何体か俺が来た時点でどうにかなるはずなのだが、幹部を倒した報告は未だにない。全ての日本人がチートに胡座をかいて遊んでいるとは考えられないが、それでも一体も倒せないとはどう言う事なのだろうか?

今度彼女らに会ったら聞いておこう。

 

 

考え事をしていると大分時間が経ったのか頭がボーとのぼせてくる、このままだと意識をまた失いかねないので風呂を出た後に急いで洗濯物を回収しジャージに着替え銭湯を後にする。

料金は先払いなので、受付を跨ぎ外に出る。日の入りまではまだ遠いのかまだ外は明るく、まだ何か出来そうな感じがする。

時間を潰そうにも彼女達は久しぶりの再会で積もる話でも有るだろうから邪魔は出来ないし、本当にどうしようかと考えていると、いつも都合が良い時に現れるのか人混みの中に銀髪が混ざっているのを見つけた。

 

「おーいクリス‼︎良い所に居た‼︎少し頼みたい事があるから酒場に行かないか?」

 

人混みに塗れて消えないうちに彼女を呼び止める。俺の呼び声は彼女に届いた様で、此方を振り向きハハッとはにかんだ笑顔で返事をした。

 

 

 

クリスと会うときは大体スキルを教えて貰うか、そのスキルを持つ人を紹介して貰う仲介をして貰う事になる。その為にお礼としてこうして酒場で彼女が望む食事などを奢っているのだ。

 

「随分久し振りだね、山に行ったって聞いたけど無事だったみたいだね」

 

そう言いながら、注文した料理と飲み物に手をつける。もう何回目になるのか分からないが、彼女も俺に馴れたのか注文する物が増えている気がする。

 

「いや〜助かったよ、ちょうどお腹が空いていたからダクネスに奢って貰おうと思ってたんだよ。何せ久し振りでお金が無かったからさ」

 

何が久し振りなのか聞きたいが、今はそんな事よりもスキルが優先だ。取り敢えず彼女が食べ終わるまで、アルコールの無いネロイドでこの場を繋ぐ。

と言うかダクネスに奢って貰ってたのか…

 

「ご馳走さま。それで、今回はどんなスキルが知りたいのかな?」

 

料理を食べ終えひと段落したのか、彼女は口を拭きながら聞いてくる。

 

「それなんだが、肉体を強化するスキルとか無いのか?恥ずかしい話、ステータスが低くて前衛がまともに務まらないんだ」

 

肉体強化、もしあれば欲しいと思った能力。チートにもあったが、その時は俺の能力がこんなに低いとは思わなかったので選択肢にも入れなかった。

 

「肉体強化かー、それならプリーストの支援魔法があるよ、種類がいくつかあるからスキルポイントと上手く相談してね」

 

どうやら支援魔法は強化する分野が決まっており、筋力ならパワードなど個別になるのでそれなりにポイントを消費するらしい。

 

「成る程な、他にも遠くから狙う能力とか無いのか?前にゆんゆんに足止めして貰ったんだが色々あって攻撃が届かなくて大変だったんだよ」

 

ついでにゴブリン退治の事を思い出し、それの対策を考えた結果やはり何か遠くから狙える方法があれば良いと言う結論の至った。

 

「うーん、今回は大分注文が多いな…」

 

彼女は腕を組みながら難しそうな表情で唸る、自分で言っといて何だが随分と酷い注文だと思っている。

 

「そうだ!じゃあこうしよう、しばらく君が私の食事代を持ってくれれば君の能力をコンサルティングしてあげよう」

 

グットアイディアと言わんばかりに、閃いたとポーズを取り彼女はそう言った。何だろうか、漫画の世界なら頭に電球が浮かんでいそうだ。

 

「別に俺は構わ無いけど、クリスはいいのか?偶に忙しいって何処か行っちゃうけど」

 

彼女には彼女の事情があるのか、たまに用事があると言って何処かに行ってしまう時がある。

 

「多分暫くは何処も大きな動きはしないと思うから暫くは大丈夫だと思うよ」

 

へーそうなのかと思いながら残っていたネロイドを一気飲みしてジョッキを返す。

 

「じゃあ宜しく頼むよクリス師匠」

「うん、任せて。君は大船に乗った気でいるといいよ」

 

契約と言わんばかりに彼女に手を差し出し握手する。

 

 

 

 

「では、弟子君まず最初に教会に行こうか。そこに行って知り合いのプリーストに君を紹介するから、そこで支援魔法を聞くといいよ」

 

酒場を後にした俺たち一行は、その足で教会を目指しながら歩き始める。クリスが案内するのは先日ゆんゆんが案内した教会と同じ道筋でどうやら同じ教会なのだろう。しかし、だとしたらもしかして紹介されるのはあのシスターなのだろうか、面識があるのは良いのだが最後に会った時の事があれなので出来れば避けたいところだ。

 

「さあ、ついたよ弟子君‼︎ここがエリス教の教会さ」

 

ババーンとクリスは大々的に宣伝し始める。どうやらクリスはエリス教の信者の様で、こうしてたまに祈りに来るそうだ。その証拠にと言いたげに胸元にエリス教を示すネックレスが掛けられている。

 

「またここに来るとは…」

 

もう来る事はないと思っていたが、再び舞い戻って来てしまった事にため息が出る。

 

「どうしたの?もしかして前に何かあった?」

 

教会に入りあぐねている俺を見て心配してくれたのか、クリスは俺の顔を覗き込みながら心配してくれる。

 

「いや、別に何でもないさ。少しボーっとしてただけだよ、よし行こうか」

 

なる様になるさ、それにいざとなったら逃げれば良いだけだ。

入り口の扉を手で押し開き中に入る。視界に映ったのは相変わらずの内装で、俺達を出迎えたのはあの時のシスターだった。

 

「あらカズマさんですね、お久しぶりです。あれから調子はどうですか?」

 

シスターはニッコリと用意されたのかと思えるくらいの事務的な笑顔を浮かべ、それを受けた俺は唖然とする。てっきり恨み言か皮肉の一つでも言われるかと思ったのだがどうやら違ったらしい。

 

「お陰様で相変わらずやってますよ」

 

構えただけ損したな、と思いながら恥ずかしさによるむず痒さに耐えきれず頭を掻いた。

 

「やあこんにちは、やっぱり2人とも知り合いだったんだね」

 

クリスが間に入り微妙な空気を破る。

 

「ええそうですよ、この方とは前に折れた腕を治しにこの教会にいらした時に知り合いました」

 

シスターはまるでクリスを崇高する神の様に崇めながら対応する。あれ?俺の時とは随分と対応が違くないか。

同じエリス教同士何かあるのだろう、他人の宗教に関わろうだなんて野暮なことはやめておいた方が良いと前に誰かが言っていた記憶があるし。

 

「で、今日は何をしにいらしたんですか?」

「あーそうだった、今日はこの弟子一号に支援魔法を教えて欲しいんだよ」

 

クリスは俺を指でさし、俺が何故教えて欲しいかなどの理由を説明し始める。何だろうか、でしゃばった母親に説明する機会を奪われた子供の様な気分だ。

 

「そうだったのですか、分かりました。クリス様のお願いであったのなら無償でお教えしましょう」

 

クリスが弟子一号と言った際にシスターが少し反応した気がする。何だろうか、過去にクリスの弟子関係に何かあったのだろうか?

では奥の部屋に、とシスターは前に回復魔法を掛けた際と同じ様に同じ部屋へと案内する。

 

「行ってらっしゃい、あまり失礼の無い様ににね。彼女あれでこの街のエリス教の中で一番のアークプリーストだから怒らせると怖いよ〜」

 

俺を脅しているつもりなのだろうか、ジェスチャーと共にシスターの恐ろしさを説明する。

 

「うぇ…マジかよ、そう言うのは先に言ってくれよ」

 

アークプリーストはプリーストの上位互換に当たり、覚える事の出来る魔法の種類が多いと聞く。ならば教わる事も少なくはないだろう。

前回、回復魔法を教わった奥の部屋に再び案内され、同じ様に部屋の真ん中の椅子に座らされる。彼女は椅子を俺と対面になる様に運びそのまま座る。

 

「では、ポンコツ冒険者さん」

「おい、ちょっと待てや」

 

いきなりひどい呼び方した彼女の発言が続く前に止める。

 

「何んでしょうか?あれだけ手間を掛けてヒールとターンアンデッドを教えたのにゾンビメーカー1人すら倒せなかった愚かな冒険者さん、お陰で貴方を紹介した私の評価はボロボロですよ」

 

やはり根に持ってたのか、クリスがいなくなった途端に素なのだろうかダークな部分があらわになる。本当にいい性格してやがるぜ。

 

「いやあれは一晩待ったけどゾンビメーカーは出てこなかったんだよ」

「そんな筈はありません、私が見た時は強大な邪悪な何かが墓場に居るのを感じました、何かが代わりに居たなら分かりますが何も居ないなんてあり得ません」

 

前回も説明したが今回も同じ様に彼女は聞く耳を持たなかった。それに新たな恐ろしい事実も発覚した。

 

「邪悪って何だよ⁉︎ゾンビメーカーってそんな邪悪な存在じゃないだろ!」

 

他にって…どうやら彼女はゾンビメーカーではなく他の存在、リッチーであるウィズの正体を知らないがその存在を感じていた事になる。

 

「それに何か代わりって何だよ⁉︎ゾンビメーカーより邪悪だったら俺が死ぬじゃねーか⁉︎俺のレベルどれだけ低いと思ってんだ‼︎」

「大丈夫ですよ、もしカズマさんが死にましたら無料で私が復活させてあげます、人間一度ならリザレクションで蘇りますから」

 

ニッコリと微笑みながら遠回しに復活させてやるから死んで来いと彼女は言う。

一度って…もう俺一度死んでるから無効じゃねえか‼︎

 

「あのな、俺一度蘇ってるからもう無理なんだよ」

 

また無茶振りされても困るので一度死んでる旨を伝える。彼女は半信半疑で俺に触れると何かが分かるのか、本当だ、と驚きながら罰が悪そうに椅子に戻った。

 

「これは失礼しました。ポンコツなので一度死んでいてもおかしくありませんよね、これは大変失礼しました」

 

彼女はぺこりと頭を下げる。

 

「いや、その対応が既に失礼だよ‼︎」

 

やはりこいつとは一度出るところに出ないといけない様だ。

 

 

 

そんなこんなで話は進み、支援魔法を教わる事になった。

 

「では、お教えしましょう。本来ならお金を取りますが、今回はクリス様に免じてタダでお教えしましょう」

 

所々俺をディスるワードを強調しながら彼女は話を続ける。

 

「なあ、何であんたはクリスの事を特別扱いするんだ?」

 

ふと疑問に思う、何故シスターはクリスに敬意を払うのだろうか?本来ならクリスは盗賊なので正しさの塊で神の僕である彼女は突っぱねる事はあっても逆は無いだろうとは思っていたのだが。

 

「貴方は知らなくていい事です、私からしたら何故あの様な方が、貴方みたいな者に優しくするのかが分かりません」

 

どうやら教えてくれる事はない様だ。なら深追いして彼女の機嫌を損ね、これからの支援魔法を教える話が流れないように警戒するべきだ。

 

「わかったよ、もう聞かないから早く支援魔法をお願いしますよシスター様」

「中々聞き分けの良い子ですね。分かりましたその誠意に応えてさっさとお教えしましょう」

 

単に面倒なのか、それとも彼女の優しさなのか、彼女はそう言いながら支援魔法について詳しく説明を始めた。

 

「良いですか?支援魔法にはステータス毎に種類があります。攻撃力強化、防御力強化、速度強化、魔法抵抗力強化、エトセトラ、色々あります。貴方みたいにポンコツだと全ては取れないと思いますので、今回は取得条件を満たすだけで、本当に欲しいものだけを後で取ると良いと思いますよ」

このシスターは一々俺を罵倒しないと気が済まないのだろうか…

 

「まず私が貴方に全ての支援魔法をかけますので、貴方はそれを全て覚えて下さい」

 

彼女は手をこちらに向けると、あれ言う間に支援魔法を重ね重ねに俺に掛けていった。

 

「うお⁉︎何だこれは‼︎」

 

思わず声が漏れる。

支援魔法と言うもの受けた際の体の変化が余りにも俺の予想を上回った。これはプリーストとしての彼女の実力も含まれるのだろうが、全身に力が湧き上がり体が恐ろしく軽くなる。まるで子供の頃の無限に思えた体力を取り戻した様な感覚だった。

 

「マジかよ⁉︎これが支援魔法、まるでスーパーマンになった様な気分だ」

 

取り敢えず冒険者カードを見ると、今回受けた支援魔法達の名前がずらりと並んでいる。彼女のいった様に全ての魔法を取りきるのは難しそうだ。

 

「後、ついでにブレイクスペルをお教えしておきましょう」

 

彼女は気を良くしたのか状態異常解除の魔法を俺に唱えた。

 

「他にも上位互換でハイネスの枕詞がありますが、貴方にはポイント負担が多いのでやめておきますね」

 

どうやらプリーストには魔法名の前にハイネスを付けると規格が上がり効果も上がるらしい、しかし上級職であるアークプリーストの彼女だから取れるのであって本来冒険者でスキルポイントが少ない俺が取るべきものではないそうだ。

 

「これで私が貴方に教えられる支援魔法は全てになりますね。もし貴方がステータスを上げ冒険者からプリーストに転職したなら効率の良い運用などを指南しましょう。もっとも貴方みたいなポンコツがアークプリーストになれるとは思いませんがね」

 

クスクスと彼女は俺を蔑む様に笑いながら外に案内する。

チクシショー‼︎さっきからポンコツポンコツうるせーよ!!

部屋の外に出るとクリスがお茶を飲みながらベンチに腰を掛けていた。

 

「お、もう終わった?相変わらず仕事が早いね、それと今回はわがまま言ってごめんね、後ありがとう」

 

クリスは部屋から出てきた俺と彼女を見つけるとこちらにきた後、シスターを労う。

 

「いえ、とんでもありません。私で良ければいつでも頼って下さい」

 

シスターはクリスにお辞儀をしながら、俺達を送り出した。




今回はめぐみんの性格がコレジャナイ感がありますが、これからも暖かい目で見て頂けると嬉しいです。
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