この女神の居ない世界に祝福を   作:名代

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誤字脱字の訂正ありがとうございます。


赤髪の悪魔8

目の前の光が徐々に薄れ始め気づけば砦の前に戻っていた。

 

「…」

 

俺の周りには爆裂魔法から命さながら逃げてきた為か精神的疲労も相まって疲労困憊な状態の仲間たちがグッタリとしていた。

そしてめぐみんは爆裂魔法による魔力の消耗によりいつもの様にグッタリと俺の肩に寄りかかりながら休んでいる。

 

「すまない…正直ここまで相手が俺達の動きを予測しているとは思っていなかった。これに着いては何も言い返すことがないから後でどうにでも言って欲しい、だけど次は必ず成功させるからどうかもう一度協力してくれ‼︎頼む‼︎」

 

漫画であればカリスマ演説をかまして皆を奮起させ再び攻め込む展開になるのだが、俺の演説ではそこまで上手く集団に好印象を抱かせ自身の失敗をフォローするのは難しく、演説スキルがあれば取っておきたいものだ。

 

「…」

 

仲間の皆は俺の話を聞いてはくれたが、何処か話半分ににしか聞いてはいないようで反応があまり良くはなかった。

確かに俺に着いてこいと言われて着いて行った先が爆裂魔法によるカウンターなら次は勘弁して欲しいものだと思うのは当たり前だろう。

 

「みんな聞いてくれ‼︎確かにサトウカズマは今回の作戦に失敗したかもしれないが、あの忌々しい爆裂魔法を発射する場所まで辿り着くという魔王軍幹部攻略においては十分な戦果を出している‼︎もう一度彼の協力してくれないだろうか‼︎」

 

さてどうするかと思ったところでミツルギが立ち上がり周囲の仲間達に語りかける。

あのヘタレなミツルギがこう言った行動に出るのは予想できたが、まさか俺をフォローするために立ち上がるとは思ってもみなかった。

 

そして、同じ被害者であるミツルギの言葉により周囲の空気は少し軟化し後一度だけならお前の作戦に乗ろうと言った声が上がり始めた。

流石は八方美人の勇者、持ち前の人望は俺の想像を超えて日本の勇者達にも効果を発揮している。

 

 

 

 

 

 

「さっきの連中らは酷くないですか?カズマが来るまで森に入ろうともしなかったのに進行して失敗したら全てカズマの責任にしようとしていましたよ‼︎」

「まあまあ、人間なんてそんなもんだろ?」

 

めぐみんをおんぶしながら部屋に運ぶ途中体力が回復して来たのか、開口早々に日本人の仲間達の悪口を言い始めた。

確かに何かをする際に1人に先導させて失敗したら全責任をそいつに押し付けるのは日本人独特の風習だなと、日本での生活を思い出し懐かしさを覚える。

 

それを踏まえてこの異世界の人達を考えると皆癖はあるけどサッパリしているなと思う。多分日常的に死の危険性があるかないかの違いだが、命の危険性の無い平和とは人をここまで歪めてしまうんだなと適当に結論を出して納得する。

 

「それでカズマは次の作戦を考えているのでしょうか?」

「それに関しては問題ない。リスクはかなり大きいし倒せたとしても問題が残るけど、このまま状況が膠着するよりかはまだマシだろうな」

「そうですか、まあカズマが今更何をしようが私は驚きませんが」

「おう、楽しみにしておけ」

 

めぐみん達の部屋に着き、先に着いていたゆんゆんに彼女を任せ俺はある所に向かう。

 

 

 

 

 

 

 

 

「…さっきは庇ってくれてありがとうな、おかげで次のチャンスが巡って来そうだ」

「そう言ってもらえると僕は嬉しいよ」

 

食堂にいると思い向かってみたが、そこにミツルギの姿はなく仕方なく感知スキルで探ると前回会った展望デッキに反応があったので向かうと、そこには景色見ながら黄昏るいかにもと言った感じの雰囲気を醸し出しているソイツがそこに居た。

コイツの厨二病は永久解除不能のデバフなのだろうか?

 

「今日の夕方頃に作戦会議が開かれる事になったんだ、少し考えが纏まったら君の元に伝えに行く予定だったんだけど手間が省けてよかったよ」

「それはよかったな、それでその手に持っている手紙はラブレターか?」

 

ミツルギが黄昏ているのはその手紙の内容だろう事は何となくわかったのでそれについて尋ねてみる。

もしかしたら王都攻略か何かに繋がる可能性があるかもしれない。

 

「この手紙かい?…君が来た時に話をしただろう、もう1人に探してもらっているんだけどその報告書みたいな物かな」

「そういえばそんなこと言ってたな、それでそのお仲間は見つかりそうか?」

「いや、それがサッパリわからないんだ…彼女が1人で何処かに行くとは思えない、実家の方にも帰って来ては居なかったみたいだ」

「そうか」

 

そういえば来たときにウィザードが1人いなくなったみたいな話をしていた事を思い出す。

 

「だったらここに居ないでそのお仲間を助けに行ったらどうだ?あまりこう言うことは言いたくないけどお前1人くらいの穴なら何とか埋められそうだぞ?」

「いや、正直そうしたいのは山々なんだけど契約で決まっていてね、魔王軍幹部討伐できなくてもある期間まではここを離れることができないんだ」

「マジか…」

「君は君の目的の為にここに来たからあまり制約は受けないと思うけど、他の日本人達は皆ギルド協会と契約してここに来ているんだ」

「何そのスポーツ選手みたいなの?」

 

どうやら俺以外の日本人はギルド協会によりこの砦の番人及び魔王軍幹部討伐の契約をしているらしくその期間が終わるまでは余程のことがなければこの砦の周囲から離れる事が出来ないらしい。

 

「成る程な、あいつらの協力を得るにはその期間が過ぎるのを待つか幹部を倒すかの二択になるわけか」

「そうだね、砦にいるだけでお金が貰える以上ギリギリまで幹部を倒すのを躊躇っている人もいるみたいだけど」

「ったく、しょうがねー奴らだな」

「仕方ないさ。魔王軍の幹部も残り半分で全てを倒してしまえばモンスターの凶暴化は無くなり僕達のチート能力は過去の産物に成り下がってしまうんだ。こうして出来るだけお金を貯めようと考えている人は少なくないよ」

「うぇ…まるで最近の若者みたいだな…」

「それは仕方ないんじゃないかな?僕たち日本人なんだから」

 

結局どこに行っても染みついた考え方と言うのは変わらないなと違う意味で感心する。

 

「まあいいや、とりあえずさっきはありがとな助かったよ」

「助かったのは僕たちの方さ、早く魔王軍幹部を倒せれば仲間を探しに行けるからね。君が来てくれて本当に助かったありがとう」

「そんなに褒めても何も出ないぜ」

「…勘違いしないでくれ、僕が褒めるのは僕の為なんだ」

「え?すまん聞き取れなかった」

 

とりあえず助けてくれた事に代わりはないのでお礼を言うとミツルギはボソッと何かを言った気がしたが、あまりの小声に聞き取る事が出来なかった。

 

「いや、何でもないんだ。それよりそろそろ作戦会議の時間じゃないのか?」

「ああ、そうだったな」

 

気づけば時間は夕方になり、デッキから見える景色は既に夕焼けへと変化していた。

 

 

 

 

 

 

 

「…以上が今回の作戦だ、正直時間の勝負になるが出来るだけ早く頼む」

 

作戦会議にて全ての作戦皆に伝える。

正直この作戦を発動させてしまえばどっちが悪なのか分からなくなってしまうが、このまま戦ってもジリ貧で負けてしまうので仕方がない決断になる。

 

「質問はあるか?なければこれで決定にしてした配置を含めた紙を配るからそれに従ってくれ」

 

いくつか質問があったが、それは作戦の不透明な所を埋める物であって作戦に意を唱えるものではなかったので安心する。

やはりミツルギが言っていたように契約期間ギリギリまで耐えたい奴がいるような雰囲気はしたが、このまま行けば姐さんの爆裂魔法で砦が無くなり契約どころでは無くなってしまうのでここは従わざるを得なかったのだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

作戦は明日決行、それまでは各自自由時間になり俺は自室に戻り鏡の前に立つ。

姐さんに勝つ為にやる事は沢山あるが、その中でも最も重要性の高いものはこの左眼だろう。

この砦に来てから感知スキルを上手く使いながら何とかしてきたが、やはり視覚を補っている分精度が落ちている為、速さを求められる戦闘においてどうしても相手に遅れをとってしまう。

 

包帯を外して瞼を開いて見たいが、感知スキルの気配からして俺の肉体として完全には馴染んではおらず依然としてねりまきの気配が感じられる。

あるえ曰くそろそろ馴染む頃になっているはずとの事だが…

 

やはり紅魔族のと通常の人間では少し構造が違うのだろうか?

しかし種族によって少し趣向変えなくてはいけない回復魔法はゆんゆん達紅魔族を俺らと同じ人間として扱っている。

 

「あの…明日の作戦ですが…」

「ゆんゆん…」

 

完全ではないが少しは馴染んでいると思うので一か八かで回復魔法をかけようかと思っていると、何か分からない事があったのかゆんゆんが部屋を訪ねてくる。

 

「ゆんゆん…?そうか‼︎ちょうどよかった!」

「え?どっどいう言う事ですか⁉︎」

 

部屋に入ってきたゆんゆんを見てこの問題の解決法を閃きドアの前にいる彼女を部屋の中に引き摺り込み、念の為そのままベッドに寝かせる。

 

「え?ちょっと?え?あ、明日は決戦の日なのでもしかしたら死んでしまうかもしれませんが…」

「何を言っているんだ?とりあえずすぐ終わるからそれまで我慢してくれ」

「わっ分かりました‼︎」

 

ベッドに寝そべり何故か目を瞑る彼女の腕をとる。

 

「その…久しぶりなので緊張すると言うか…何というか…」

「ああ、そうだな、少し確かめたい事があってな」

「え?わ…分かりました!よく分かりませんがカズマさんに任せます‼︎」

「おう、ありがとうなゆんゆん」

 

俺は俺を信頼してくれているゆんゆんに感謝する。

 

「それじゃあ行くからな」

「は、はい‼︎」

 

そう言いながら俺は掴んだ彼女の腕からドレインタッチで魔力を吸い取った。

 

「えっ⁉︎きゃぁぁぁぁあぁぁぁっぁぁぁぁっぁぁぁぁぁーーっ⁉︎」

 

突然の事に意識が追いつかなかったのか彼女はビックリしながら悲鳴をあげる。

 

「やっぱり魔力か‼︎」

 

彼女の魔力を吸い取れば吸い取るほど俺の左眼が自分の体の一部になっているような感覚になってきている。

 

「ずっと痛かった左眼の痛みから解放されるなんて久しぶりだ‼︎やはり紅魔族の魔力はこの眼に良く馴染む‼︎」

 

皆の手前誰にもいえなかったが目の奥の方から頭痛に近い痛みがずっと響いていたが、その痛みが一瞬にして無くなったのだ。

そして包帯を外せばやや霞むが見えなかった左眼が馴染んだのか視力を取り戻していた。

 

「見える様になった‼︎よっしゃぁぁぁぁー‼︎最高にハイってやつだ‼︎」

 

ついでにゆんゆんからかなりの魔力を吸い取ったので、魔力供給過多によりいつもより体の奥から力が漲ってくる万能感に満ち溢れる。

 

「ありがとうなゆんゆん‼︎おかげで明日は上手く行くかもしれない‼︎」

 

体の全機能を取り戻した事によりようやく全力で戦える事になり、姐さんと戦う上でネックとなっていた視界を克服できた。

 

「そういえば話って…え?」

「…」

 

あまりにも上手く行ってしまったので油断していたのだろう、視界が一回転し気づけば反対にゆんゆんにベッドに組み伏せられてしまい馬乗りになられてしまう。

 

「カズマさん…」

「な、何だ?」

 

ベッドに倒された後、気づけば両腕をゆんゆんに抑えられ彼女の顔がちょうど目の前に来る様に降され彼女の吐息が顔をくすぐる。

 

「女の子にここまでさせておいて、これで終わりなんて考えられませんよね」

「え?ちょっとゆんゆんさん?…ちょ…あ、あぁぁぁぁぁぁぁっぁぁぁぁぁーー⁉︎」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……」

 

あの後ゆんゆんは疲れたのか眠ってしまったので俺は食堂から冷たい飲み物を買い、いつものデッキで夜景を見ながら一杯する。

ゆんゆんから魔力を吸い取ったのはいいが、仕返しなのか別の形で生命力を吸い取られ返され結局プラスマイナスゼロになってしまった。

 

「はぁ…生きるか死ぬかの作戦を前に一体何を盛っているのでしょうか…」

「うわっ…何だめぐみんか…その何だ悪かったな」

 

あの後ずっと眠った事で爆裂魔法で消費した魔力を回復させたのだろう、夕方に見せていた顔色が随分と良くなっていた。

めぐみんとゆんゆんは同じ紅魔族のせいか少し気配が似ているので気を抜いていると一瞬間違えてしまう時がある。

 

「左眼は大丈夫そうですか?」

「ああ、霞むけど大分見える様になったよ。これで姐さんに遅れは取らないさ」

「そうですか、それは良かったです…では」

「どうしためぐみん?」

 

彼女は何かを納得したのか俺に手を差し出してきた。

 

「私の魔力もカズマにあげましょう」

「そうか?よく分からないけどお言葉に甘えて…マジか?」

 

彼女がどう言う意図かは分からないが、彼女の差し出した手から魔力を吸い取ると霞んでいた左眼の視界が徐々にクリアになっていった。

 

「どう言う事なんだ?やっぱり二種類の魔力が合わさる事で馴染む様になるのか?」

 

ゆんゆんから魔力を吸い取り視力が戻っていったが、ある程度まで戻るとそれ以上はいくら吸っても良くならなかったのでこれが個体差の限界かと思っていたが、めぐみんの魔力を吸った途端残りの霞が完全に消え去ったのだ。

 

「それは私にしにも分かりませんが、紅魔族は紅魔族でも色々種類があって私の魔力の方がねりまきに近かったみたいですね」

「そう言うもんか?」

「そう言うものでしょう」

 

どうやら色々あるみたいだが何にせよ不完全だったものが完全になり両目のピントが完全に合わさった。

 

「めぐみんは姐さんと何か話したい事はあるか?」

 

作戦からして多分叶わない可能性の高い願いであるが、もし姐さんが会話に応じてくれる様であれば代わりに聞くことは出来る。

 

「かずま…あなたと言う人は…話す事はありませんよ。私達爆裂族にとって爆裂魔法も会話の一つなのです、ですので私はあの人と二回会話している事になります」

「何その新しい種族…」

「とにかく、明日の作戦においてカズマが私に気を使う理由はありません」

「そうか…ありがとうな」

「では用も済んだ事ですし私はもう寝ます。そういえばカズマの部屋にはゆんゆんが寝ているんですよね」

「ああ、そうだな」

「起こすのも何ですから今日は私の部屋で寝ますか?」

「冗談もいい加減にしろ⁉︎」

「ふふ、冗談ですよ…それではまた明日」

 

めぐみんはふざけながらも俺を気遣っているのだろう、その手が震えている事を上手く隠しながら彼女はそう冗談をかまして自分の部屋へと帰っていった。

 

「…姐さん、あんたの本当の目的は何だ?」

 

どう考えても姐さんが魔王に従っている様には思えないし人間に恨みを持っている様にも思えない。

久しぶりに再開した彼女からは魔王軍や人間達と違った何か別の目的を持っている様に感じるが、それが一体何なのかが想像がつかない。

思いつく第三の勢力はバルターだが、同じものを追っているとは考えたくない。

 

暗闇に問い掛けるが返事が返ってくる事はなく、ただ深い闇が広がるだけだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「…」

 

目が覚めるとゆんゆんは既に起きていたのか姿が見えなくなっていた。

朝食を軽く済ませ、着替えるとすぐさま作戦の場所に向かう。

 

用紙は既に配ってある為、周囲の気配を探ると全ての位置に指定された仲間が立っている事が確認できる。

 

作戦は3部構成になっており、最初は殺傷力は低いが攻撃性が高い神具を持つ仲間を使いアジトを囲む木々を上手く孤立させるように伐採してもらう。

姐さんは馬鹿ではないがメンテナンスや警備の効率を重視するために罠の仕掛けられている森の範囲はアジトを中心に円形に決まっており、そこまで広くはない。

 

故に攻める際に手薄になる場所がなく、前回の様に誘い込む形で無ければ簡単に侵入する事は出来なかったのだ。

だが、今回の作戦ではその効率性の良さがこちらにつきを回してくれたのだ。

 

「よし、アジトを囲む様に木々の伐採が済んだか!それじゃあ作戦を次に移す」

 

いつもならこの時間に爆裂魔法が飛んでくるのだが、姐さんも俺が何か悪巧みをしている事に気付いたのか今日は静観に移っているのだろう。

スピードにステータスを振り切った仲間の1人が伐採してできた道を一周し、全ての道の間隔が一定以上である事を俺に合図をし作戦は次の段階へと移る。

 

「伐採組は砦に下がって休憩、補助隊は集めたマナタイトを出来るだけ俺に回してくれ‼︎」

 

伐採組と討伐隊は殺傷能力を優先しかつ能力が反発しそうな奴らを上手く分け相性が良くなる様に編成している。

そしてシナジーが上手く合わせられなそうな奴は申し訳ないが補充部隊として近隣からマナタイトを集めてきてもらっている。

 

「ゆんゆん俺が出し切ったら頼んだぞ」

「分かりました!」

 

疲労している伐採組を砦に下がらせ討伐隊を森から少し下がらせ、俺が森の前に進みその後ろをゆんゆんがつてくる。

 

「よし、それでは第二作戦開始‼︎」

 

周囲に巻き添えが起きない事を確認し俺は森に向かって黒炎を放った。

 

久しぶりに放った黒炎は前回よりも少し出が悪かったが、炎が森に燃え移った瞬間にいつも以上に強く燃え広がっていった。

 

「よし、次の地点に向かうぞ‼︎」

「分かりました‼︎」

 

森に黒炎を広げるためにある程度のポイントを定め、俺が黒炎を放ちそれをゆんゆんが風の魔法で広げていくを数回繰り返し、満足がいく程炎が広がったところで再び正面へと戻る。

 

「よし、マナタイトで魔力を回復させるぞ」

「分かりました」

 

元の配置に戻り、そこに用意されていたマナタイトで魔力を回復させる。

 

「あの…」

「どうしたゆんゆん?」

「この黒炎何ですけど大丈夫なんでしょうか?このまま消えずに一生燃え続けるとか無いですよね?」

「まあ大丈夫だろ。ベルディアの時も何だかんだ全部燃えなかったし…」

 

ベルディアの城が完全に燃えなかったのはその城の地下に隠されたイージスの盾の能力の恩恵だとクリスに言われた様な気がするが、アクセルの街周囲の草原は燃えるものがなくなったら消えたそうなので大丈夫だろう。

 

「それに消えなければあいつらはそこから出て来れないんだから勝ったも同然だろ?」

「それもそうですが…ってテレポートがあるんですからすぐ逃げられちゃいますよ」

「そしたら撃退成功という事で」

「えぇ⁉︎何ですかそれ‼︎」

 

作戦を伝えたときは何も言って来なかったが、いざ目の前にして怖気ついたのだろうか?

いや、もしかして昨日の話って結局有耶無耶になったけどこの件だったのだろうか?

 

 

 

 

 

 

「よし全て燃え切ったか」

 

狭い範囲とはいえ東京ドーム以上はありそうだったのでかなり時間が掛かると思ったが、黒炎の威力が俺の予想以上に高かったのか気づけば全ての木々が燃えており、アクセルの事件の報告書にあった無効間隔の向こう側の木は燃えずに残っていた。

 

「意外に上手くいったな」

「カ・ズ・マ・さん‼︎」

「悪かったって…やっぱり向こうも対策してきたか…」

 

千里眼でアジトを見ると、俺らと同じ様に外壁をうまく解体し森と建物の間に間隔を空け、外壁の守りを失ったが住居だけは守った様だ。

 

「よし‼︎それじゃあ第三段階行くぞ‼︎」

 

隠れ蓑である森を失い、外壁による守りを失い、むき出しになった奴らのアジトから非難していた精鋭やゴブリン達がこちらに向かって扇状に向かってきた。

多分纏まって向かってめぐみんの爆裂魔法の餌食になるのを防いでいるのだろう、こちらも考える事は同じなので俺達を残して皆迎え撃つ形で扇状に広がり応戦した。

 

やはり敵も精鋭であるためか無双ゲームの様な爽快感はなく、一つ一つが某フ◯ムゲーの如く緊張感の高いものとなっているが、やはり皆チート持ちなこともあり状況はこちらが幾分か押している。

 

「後は姐さんがどう出てくるかだ…」

 

正直相手がシルビアやハンスだったらすぐ終わるだろうが相手はあの地下闘技場で名を馳せた姐さんだ、たとえ劣勢であろうと状況をひっくり返してくる何かがあるはずだろう。

 

「これは⁉︎」

 

魔王軍の精鋭達の数が徐々に数を減らしていき、後はめぐみんをカウンターとして配置し爆裂魔法を警戒しながらアジトを叩こうとしたその時だった。

突然に遠くにいるはずの姐さんとは別に地面から新しい何かでかい気配が湧き出し地面が崩れ始め姿を表した。

 

「デカイ木の巨人かあれは…」

 

地面から世界樹の様な木が生え始めるとそれらが合わさり大きな巨人となり俺達を襲い始める、精鋭達をほとんど倒してしまったばかりに巨人は周囲を気にせず全力でその巨体を生かしながら暴れる。

 

「急に自然を傷つけるから森の精霊の怒りを買ったのよ、乱暴な事をするのは人間だけにしておくべきね…坊や」

「…姐さん」

 

暴れ始めている巨木は強力だが、相手をしている仲間は腐ってもチート持ちの日本人なのでその巨木はすぐさま劣勢に追い込まれる。

 

「もう俺の勝ちだ、諦めて俺達の仲間にならないか?」

「何を勘違いしているのかしら、勝負はこれからよ」

「しまっ‼︎」

 

気づけば姐さんは爆裂魔法の陣を広げ発動寸前だった。

多分ここにくる前に詠唱を済ませそれを保留していたのだろう。

 

だが

 

「待っていましたよ‼︎この瞬間(とき)を‼︎」

 

詠唱保留できるのはめぐみんも同じ、一瞬にして展開される互いの爆裂魔法。

今までは互いに足止めに使っていた爆裂魔法だが、今回は互いに互いを殺すために使う爆裂魔法でありこの撃ち合いの敗者は全身を爆裂魔法で焼かれるだろう。

 

「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっぁぁぁぁぁっぁーーっ‼︎」

「おぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉーーっ‼︎」

 

互いの咆哮と共に出力は最大となり、彼女達の周囲はその衝撃に耐える事は出来ずに崩れる様にひび割れていきそれは俺達を巻き込むように広がっていく。

 

「何て世界だ‼︎これが爆裂族‼︎」

「何…変な事を言っているんですか‼︎」

 

めぐみんに加勢したい所だが、彼女達の周囲には殺傷能力のない上級魔法みたいな爆風が吹き荒れ、何かしようものならその体を吹き飛ばされそうになってしまい結局俺達が出来るのは彼女達の戦いをただ見守る事だけだった。

 

「何だ?」

 

地面はひび割れ、周囲には爆風が荒れ狂い、ぶつかり合った魔力は行き場を失い雷へと変化し周囲に鳴っている。

その最中まるで空間が徐々に歪み始めている事に気づく。

 

「あれは一体…みんな何でもいい地面に捕まれ‼︎」

 

歪みはやがて形となり穴となり、その穴から少し明るい景色が見えた瞬間周辺の物を吸い込み始めたのだ。

 

「もしかしてブラックホールでも出来たのか?」

 

規格外の出力が合わさった事で空間が歪み、そんな感じのものが出来るとどこかで聞いた気がする。

 

「捕まれゆんゆん‼︎うぉぉぉぉぉぉぉぉぉーーっ‼︎」

 

ゆんゆんを捕まえ、吸引する空間の歪みに地面の剣を刺して何とか耐え切る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「収まったか…」

 

風が止み、目を開けると目の前には2人がただ立っており、2人とも清々しい顔をしていた。

やはり爆裂魔法で会話が出来ていたのだろうか?

 

「カズマ…」

「めぐみん?」

「ごめんなさい、どうやら不運と踊ってしまった様です…」

「は?」

 

めぐみんは俺に向かって謝罪すると、先ほどまで持っていた杖が無くなっており、彼女は体を支えることが出来ずそのまま崩れるように地面に倒れた。

 

「めぐみん⁉︎」

 

急いで彼女の元に駆け寄り確認するとどうやら魔力を使い切って倒れただけの様だった。

 

「恐ろしい子ね…もし後少しその子が歳を重ねていたら負ける所だったわ」

「…姐さん」

 

めぐみんをゆんゆんに預けてウォルバクに振り向くと彼女はギリギリ魔力が残っているのかめぐみんの様に倒れはしないが満身創痍だった。

もはや彼女は転移魔法どころか中級魔法すらつけないだろう。

つまりこの勝負は俺達のか…

 

「勝ちを確信するのは早くないかしら?私にはまだ魔王軍幹部としての役目があるわ‼︎」

「なっ‼︎」

 

その体のどこにそんな魔力があるのか、気づけば俺達を囲むように爆裂魔法の魔法陣が展開されており、驚いて彼女姿を見ると全身に何かの紋様が浮かんでいる。

 

「その命を犠牲に爆裂魔法を放つつもりか…」

「正解よ坊や…」

 

命を魔力に変換し爆裂魔法を放つ、前にめぐみんが最終手段だと言っていた事を思い出すが、本当にやる奴が居るとは思っていなかった。

 

「俺達諸共心中しようって算段か…」

「そうよ…と言いたい所だけど坊やにチャンスをあげるわ」

「?」

「私と一対一で戦いましょうか、もちろんルールは地下闘技場のルールで」

「なるほどな…わかったよ」

 

何とか動ける日本人達が眺めている中、俺は武器を地面に置き彼女の前に向かう。

 

「無茶だ、一旦ここは引くべきだ‼︎」

「悪いな、これは俺達の問題なんだ」

 

向かう途中傷だらけで自慢の魔剣を杖代わりにしてようやく立っているだけのミツルギが声を振り絞って俺をひきとめるが、ここで引こうものなら次のチャンスがいつ巡って来るのか分かったものではない。

それにミツルギに言ったようにこれは人間と魔王軍幹部ではなく俺と姐さんの勝負なのだ。

 

「準備はいいかしら坊や」

「ああ、いつでも大丈夫ですよ」

 

互いに拳を構えて向き合う。

いくら魔力を消耗しているとはいえ肉体的ダメージの無い姐さんを簡単に倒せるとは思えない。

 

ここは様子見でスピード重視で威力の少ない攻撃で相手の出方を見る。

 

「はっ‼︎」

 

後ろ足で踏み込みそのまま重心を前に移動させながら拳に乗せて前に突き出すが、姐さんはそれを反対の手で払い残った手でカウンターを打ち込み、それを上体ごと首を横に傾け躱し後方へとバックステップし距離をとると、姐さんはそれを隙と判断した様で今度は向こうから踏み込み俺のガードに少し拳を当て意識を上に移動させ、空いた脇腹に蹴りを撃ち込む。

 

「ぐっ‼︎」

 

腹に加わった衝撃により思わず胃の内容物を吐きそうになるが、それを気合いと根性で持ち堪え続いてくるストレートをダッキングで躱しお返しと言わんばかりにレバーに拳を撃ち込み、そのまま反動を使い横っ面にも打ち込もうとしたが、それは腕によってガードされ、一歩下がった流れを利用しカウンターが飛んでくるのを後ろに状態を逸らして躱し、そのまま体を回転させながらハイキックをかますが姐さんは腰を下げることでそれを躱し、軸足を払われバランを崩しそれをバックブローで上手くフォローしながら距離をとる。

 

「やるわね坊や、魔力切れとはいえここまで決まらないとは思わなかったわ」

「姐さんこそ、魔力を纏っていないのにここまでの攻防力を持っているなんて思いませんでしたよ」

 

互いに互いの技術を讃えながらも互いにいつ踏み込むかの隙を窺っている。

魔力切れの姐さんに黒炎等々の疲労が残っている俺。

正直部は俺にあるが、彼女が培ってきた技術がその差を凌駕し俺を押しているのが現状だ。

 

「悪いけど坊やそろそろ時間が近いから次で終わらせてあげるわ」

「そう…ですか‼︎」

 

どうやら命を魔力に変換するのにも呼水が必要な様で、待機している術式に魔力を微々たる量だが消費し余剰魔力が尽きそうなのだろうか?

 

踏み込んでくる姐さんから距離をとるためにバックステップで交わそうとすると、彼女はそれを事前に読んでいたようでその距離居合わせた蹴りを撃ち込み再び衝撃が身体に響く。

そして再び距離を取り体制を立て直そうとしたところで姐さんに前足を踏まれ移動を封じ込まれる。

 

「クソったれが‼︎」

「追いかけっこはおしまいよ坊や‼︎」

 

互いに足を重ねている以上これ以上の移動は出来ずに近距離での殴り合いが始まる。

出来るだけ後ろ足を下げながら距離を取りガードを固め姐さんの動きを見て攻防戦をはじめ、互いに撃っては守りに入り隙を見て攻撃を躱して反撃するの攻守交代合戦を繰り返しながら互いにダメージを蓄積させ合う。

 

一体どれくらいの時間が経ったのだろうか、実際には数分だとしても永遠に感じるほどの撃ち合いを続け、本当に偶然だが俺の全力で放ったストレートが姐さんの顎にクリティカルヒットし、彼女の体制ががぐらつき一瞬俺の足を止めていた足が浮く。

 

「しまっ⁉︎」

「もらったぁぁぁぁぁーーっ!」

 

それにより俺の足が解放され、その一瞬の隙をつき俺は姐さんの頭をりょうてで掴み引き寄せるように下に下げながら膝を撃ち込み、さらによろけたことろで上から叩きつける様に拳を放ち姐さんを地面に叩きつける。

 

「姐さん…僕の勝ちです」

「…そうね、悔しいけど今回は坊やの勝ちね」

 

姐さんは立ち上がることができないのか、何とか体を上に向け横になり大の字でそう言った。

 

「…こんな…弱り切った姐さんを…」

「あまり私を馬鹿にするんじゃないよ坊や、そうね…廉潔であることは誰にでも出来るけど勝つ事は強者にしか出来ない…覚えておくといいわ」

 

これは姐さんなりのエールなのだろうか、まるで自分もそう言い聞かされた様に彼女は俺を諭す様にそういった。

 

「さて…時間よ坊や仲間ごっこはもう終わり、早く役目を全うしなさい」

「姐さん…今からでも仲間になりませんか?魔王なんか裏切ってさ…」

「坊や、それ以上は私への侮辱よ」

 

最後の最後でどうしても姐さんを殺したくなかったので最後のお願いとして聞いてみたが、それは意味がないと一蹴される。

 

「そう…ですか」

 

目を瞑りただ死を待つ彼女に俺は黒炎を放った。

黒炎は彼女の脚に燃え移るとゆっくり上へと上がっていき、彼女との別れの時間を可視化させる。

 

「姐さん…俺は…」

「そんな顔するんじゃないわよ…私はこれでも惰性を司る女神よ、すぐ蘇ってあなたを倒しにいくわ」

 

まるでガンで余命僅かな人が残された子供を諭す様な優しい口調でそういった。

 

「…」

 

本当に殺したく無かった、心の何処かで戦いの途中で新しい敵ができて共闘する事になって気づいたら仲間になっていた、みたいな楽観的な事をずっと考え続けていた。

皆が命を削って戦っていさなか現実を見ないでそんな事を考えていた俺へのバチかもしれないと、もっと考えるべきだったと後悔する。

 

「あまり自分を責めない事、あなたと過ごした日々はそんなに悪くは無かったわ」

「……姐さん」

 

最後まで俺の事を心配しながら消えていった姐さんを見届け、何も残らなかった地面を見ながらポツリと最後にそう呼んだ。

 

 

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