この女神の居ない世界に祝福を   作:名代

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誤字脱字の訂正ありがとうございます。



狐狼の青年1

「と、言うことでこれから紅魔の里の外れにあるバルターの拠点制圧を目的に動いていこうと思う」

 

シルフィーナを部屋で寝かせた後、俺は皆を開いている部屋に集めて作戦会議を開いた。

会議といってもそんな大それた物ではなく、ただみんながどう考えているか意見を聞く簡単な物だ。

 

「紅魔の里ですか?あそこは昔に色々と探索しましたが、そんな場所もそれを出来そうなものもありませんでしたよ?」

「それについては分からないけど聞いた座標だと里から結構歩くみたいだよ」

 

シルフィーナが話した座標を地図で合わせて割り出した場所は紅魔の里から結構遠いが、周辺にランドマーク的なものが無かったので一番近い紅魔の里の付近と表現した様にに感じた。

 

「移動は徒歩になるんですか?馬車が近くを通っていたりしませんか?」

「位置的に馬車は通って無いと思うから歩きで行くことになるかな、だから旅の準備をして欲しい」

 

めぐみんに続いてゆんゆんが意見を言う。

彼女は出来れば移動で体力を出来るだけ消費せずその分作戦に回したいと思っているのだろう。

 

「それで相手の戦力とは何か気をつけることとか無いのか?」

「そうだな…」

 

ミツルギは相手の戦力について質問してくる。

現状わかっているのはバルターが仕切っており、彼の剣術は俺をいとも簡単に制圧してしまう程であると言うもの。

そして紅魔の里を制圧した際に使用した魔法を無力化する鎧や装置、そして何かしらの道具がある事が推測される。

 

「そうか…それを相手にするには戦力が些か以上に少ない気がするな…」

「まあそうだな、何せ俺はこの砦の半分くらいの勢力を持っていくつもりだったからな」

 

バルターの説明を聞きミツルギは自身を含めて4人しか戦力がない状況に不足を嘆いた。

俺自身殆ど断られるとは思っていたが、あのタイミングで魔王の妹が現れミツルギ以外のメンバーが再契約するとは流石に思わなかった。

 

「王都に戻って傭兵を雇うのはどうでしょうか?私達ですと指名手配されている可能性がありますが、この男を使えば募集できますよね?」

「そうですよ、募集をかけている間に私はアジト周辺まで行ってテレポートを登録しておきますから、マナタイトを使いながら傭兵を送り続けて数で攻めるのはどうですか?」

「確かにな、でもあんまり時間をかけたくはないんだ」

 

確かに相手は紅魔の里を一夜に滅ぼすほどの戦力を持っている為、それに対抗するにはそれ以上の戦力と数が必要になる。

だが、シルフィーナが見つけたと同時に彼女もまたバルター側の人間に見つかってしまっているのだ。なので時間をかければかけるほど向こうも防御を固め進行が難しくなってしまう。

それに数を集めたからといって皆ミツルギ程の戦力はなく精々城の兵士位だろう、烏合の衆を集めたところであいつは何かしらの一掃する兵器か何かを使用してくるのが目に見えている。

 

「出発は明日にして、今日は準備にまわそうと思うけど何か意見はあるか?」

 

これ以上の話は特に意味がないと判断し話し合いを終わらせ、皆に準備してもらうことにした。

詳しい作戦はまた明日の朝に説明しよう。

 

 

 

「はぁ…」

 

1人部屋に戻りベッドに寝かせているシルフィーナの寝顔を見ながら思いを馳せる。

 

正直今回は戦力が足りない。

3人が指摘した通り相手は王都を陰で支配しているバルターであり、何処ぞの小物貴族であればこんな事などせずに潜伏スキルで忍び込んで殺せば全てが解決できるが、奴にそれは効かないだろう。

 

奴が工場に篭って何を作っているのかは不明だが盗まれたデストロイヤーと刈り取られた紅魔族の眼を考えればデストロイヤーの復活をしようとしているのだろうか?

それが完成してしまえば奴はこの世界を征服する事が出来てしまうだろうが、そんな事をしなくても奴なら魔王を単独で落とすくらいの実力は持っている気がする。

 

であれば奴が作っているのは魔王城の結界を破壊する兵器だろうか?

デストロイヤーを動かすとなれば相当のエネルギー量が必要となりその為に奴は紅魔族の眼を入手したが、その紅の眼が今すぐコロナタイトになるとは思えない為、デストロイヤーの武器を部分的に使用できるようにしその火力で結界を破壊しようと言う魂胆だろうか?

ちょうど魔王軍幹部も3人になり結界の力も弱まっている事だし、これで結界を破壊し魔王を倒せばアイリスとの婚約が得られ人と魔物全ての権威手に入れる事ができる。

 

だが、あいつがそんな俗物的な事を求めるだろうか?

アイリの叔父を倒しに行って以来何かとやつと遭遇するが俺にはあいつの目的がそんなものだとは思えない。

何か…こうもっとすごい何かを求めている様な気がしてならない。

 

それにシルフィーナが奴のアジトを発見した理由に魔法使いを拉致していた事を考えると、他にも何かを企んでいる気がする。

 

「…クソ‼︎」

 

思考が頭の中で渋滞し崩壊寸前になっている。

正直に言えば砦の魔王の妹を引き摺り出して倒して全ての味方を連れて向かった方が楽ではないのかと思うが、そこまで時間を掛けて仕舞えば取り返しのつかない何かがあるのではないかと俺の直感が告げている。

 

…クリス。

 

アルダープ邸から姿を消してから彼女の姿を見た事は無く、噂話を聞くことも無い。

全ては俺の勘違いでアクセルで俺の心配をしながら神具集めをしていましたなんてオチであれば安心だが、彼女がこの状況の俺に何の助言も協力もなく1人で行動するとは考え辛い。

ベルセルクとは反対の国に飛ばされて越境問題で躓いているのが俺の中では濃厚だが、手紙の一つでも送らないのは不自然すぎる。

 

何だかんだ俺を導いてくれていたクリス、彼女が姿を消してから全ての歯車が狂い始めてしまったのかもしれない。

だが、それは彼女が悪いのではなく、何も出来なかった俺の責任だろう。

 

 

仮に俺とクリスしかいない状況で彼女だったらどうするか、彼女になったつもりで考えてみる。

 

「今回の相手は随分と厄介な奴だね」

「流石のクリスもバルターは厄介なのか?」

「当たり前じゃん、バルターって言えば◯◯◯だからね、流石の私でも正攻法で戦える相手じゃないよ」

 

妄想の中のクリスが答える。

彼女の思考パターンやこれまでの状況を加味すると何かしらの情報が出てくるが、これは俺の想像によって生まれたクリスの為俺の知らない事を彼女が喋る事はない。

 

「それじゃ今回は侵入作戦と行きますか?」

「そうだね、出来れば退廃区から仲間を集めて陽動をしながら私達は中に侵入してバルターを叩くって感じかな」

「そんな簡単に仲間が集まりますかね?」

「んーそうだね、仲間の目的は陽動だからね奴隷の成れの果てでも剣を持たせれば最悪なんとかなるかな?」

「流石…やる事が酷いぜ」

 

想像の彼女はまるで当たり前の様に恐ろしい事を軽々しく言った。

俺はクリスを心の中で人の心が無いんじゃないかと思ったが、記憶を辿るとそんな想像されても想像されても仕方がないと思わざるを得なかった。

 

「そんな事ないよ、これくらいしないと今回は勝てない相手って事だね」

「それじゃ仲間集めは俺がやりますけど、何か条件はありますか?」

「うーんそうだね」

 

うーんと想像の彼女は悩みながら幾つかの条件を言い始めた。

 

「まずウィザード系はダメだね、入れるとしてもテレポートで緊急避難出来る様に入り口近くで待機してもらう感じかな?中に入ると飛べなくなりそうだし」

「そうですね…奴らは魔術師殺しを改造していますからね、武闘派のバルターなら工場全域に魔術師殺しを展開してもおかしくありませんからね」

 

想像上のクリスは新しい知識を持ってきてはくれないが、代わりに俺の持っている知識から何かを生み出す事ができる。

 

「だから武闘派の人間と回復を行える人を集めて欲しいかな、陽動と言ってもしばらく戦って貰わないとこっちに戦力が集まって来ちゃうからね」

「それもそうだな」

 

 

 

 

 

「それでクリスはアジトには何があると思う?やっぱりデストロイヤーが組み立てられたりするのかな?」

「そうだね…」

 

想像上のクリスは俺の言葉の返事に言い淀む。

想像なのに考えるのだろうかと思うが、多分俺の知識を一度バラバラにしクリスならこう考えるであろうフィルターを掛け最適解が編集されているのだろう。

 

「多分それは無いだろうね、仮にそうだとしてもそれはもっと早い段階で完了しているだろうね」

「そう言う感じか?じゃあバルターは一体何をしているんだ?」

「さあ?でもフレアタイトを作り出しったって事はそれ程までにエネルギーが必要何かがあるって事かな」

「それがデストロイヤーじゃなかったら何だって話なんだよ…」

「コラコラ…想像とは言えどあんまり私に頼ってばかりだと……いけませんよ」

「え?…痛っ⁉︎」

 

想像上の彼女は最後にそう言いながら俺にデコピンをかまし姿を消した。

どうやら集中力が切れた様で額には汗が滲んでいる。

 

最後にどこかで聞いたような声に切り替わった気がしたが、集中力が切れたので何かが混ざったのだろう。

 

「ありがとうなイマジナリークリス」

 

自身の想像する虚像に助けを求める奴なんざ正直痛々しいやつにしか見えなくもないが、それによって物事が好転するのであれば安いものだ。

 

よし…

答えは得た。

後はこの作戦を現実にどう落とし込むかだ。

 

 

 

 

「ミツルギ頼み事をしてもいいか?」

「…いいけど急にどうしたんだい?」

 

廊下を歩いているとちょうどミツルギが居たので声をかけると奴も何か考え事をしたのか少し遅れて返事が返ってきた。

 

「少し王都に行って買い物を頼みたいんだ、後俺が指名手配されているかどうか確認してくれないか?」

「分かった、ちょうど僕も仲間に会いに行こうと思っていたところだからついでに買ってくるさ」

 

どうやらミツルギ自身一度王都に戻って何かするつもりだったらしく、手元を見てみると鞄を持っていることに気づく。

 

「それじゃこのメモに書いてある奴を頼む、金は…ちょっと待ってくれ部屋から」

「お金は後でいいよ、君を信頼して無いわけじゃ無いからね」

「それはなんか…ありがとな」

 

変なタイミングでキザモードが入ってしまったのか、前髪を掻き上げながら奴はそう言った。

 

「ふざけるのはここまでにして、今回の作戦に彼女を参加させるのは無しにしてくれないか?」

「彼女…ああ残った方の仲間のことね」

 

一瞬めぐみんかゆんゆんの事を言っているのかと思ったが、王都に残して情報収集させている娘の事を言っていることにすぐ気づく。

 

「今回の作戦はこの戦力差をどう埋めるかに掛かっているみたいだけど、彼女を連れても足手纏いにしかならない」

「大丈夫だ、お前に言われなくてもその子は最初から作戦に入っていないよ」

「そうか…ありがとう」

「いいってことよ」

 

フワァっと俺も前髪を掻き上げながらミツルギに対応する。

正直戦力が増えるので参加してくれた方が嬉しいのだが、多分ミツルギにおんぶや抱っこ状態の彼女が仲間に加わったところで戦力になるどころか足を引っ張りかねない。

だったら王都で待っていてもらった方がミツルギとしては安心だろう。

 

「それじゃあこのメモに書かれた通りに頼むよ」

「任せてくれ」

 

ミツルギにメモを渡し、彼が砦から転移していくところを見届ける。

 

 

 

 

 

「おっ起きたか」

 

部屋に戻るとシルフィーナが目覚めたのかベッドの上でちょこんと座っていた。

 

「体調は大丈夫そうか?」

「はい、カズマ様が治療していただいたおかげで無事腕も動く様になりました、ありがとうございます」

 

五体満足元気モリモリですわ〜と言いたげな彼女だが、その表情には幾分かの疲れが見える。

たとえ怪我が治っても体力は回復しない為、ダメージは疲れとなって彼女の中に残っているのだろう、喋り方もいつもと比べて違和感を感じる。

 

「盗み聞きしてしまいましたが今回の作戦は人不足だと聞きます、私も参加しようかと思いますがいかがでしょうか?」

「駄目だ」

 

喋り方の違和感はこのお願いに対する緊張感から来たものだろう。

 

「ですが、私はこの時の為に様々な特訓をして来ました‼︎状況を変える事はまだ出来ませんがお役には立てるはずです」

「そう言うわけじゃ無いんだ」

 

この子は良くも悪くも貴族の子供で他人の為に自らの手を汚すにはまだ早過ぎる。

 

人間一度それを行ってしまえば次から何かをする際にその選択肢が出て来てしまう。

もし今回の件で彼女が人を殺してしまえば、今後何かあった際に殺してしまった方が手っ取り早いと思ってしまうかもしれない。

彼女をダクネスに返すまで彼女は出来る限り手を汚さず、綺麗なままでいて欲しいのだ。

 

「カズマ様…もしかして私を心配してくださってくださっているのですか?」

「そうだな、正直シルフィーナには綺麗なまま元の世界に戻って欲しいんだ」

「ここまでさせておいてその様な事を言わないでください‼︎」

「ーーっ‼︎」

 

今まで従順だった彼女の初めての反抗、正直自分を持っていないと思っていたが彼女は1人で過ごす日々のどこかで自分を手に入れたのだろうか?

 

彼女はドンと隠し持っていたナイフをテーブルに置く。

ナイフ自体はどこにでも売っているような簡素なデザインをしていたが、その刀身には誰かのと思われる血液がベッタリとくっつき固まっていた。

 

「これは…」

「これは先程私が殺した人間の血液です、これだけではありません私は情報を集める為に何人も拷問しましたし口止めをする為に殺しました」

「…そうか」

 

彼女は…シルフィーナはもう私は綺麗なダスティネスフォードシルフィーナではなくただの奴隷のシルフィーナであると言いたいのだろう。

 

「行き場を失った奴隷を報酬で釣り何人も使い捨てにしました…用心の家族を人質に取り従わなかった子を私と同じ様に奴隷にして売り飛ばしたりしました…」

「…そうか」

 

「ここまでしてまだ私が綺麗な子供であると言いたいのですか‼︎」

「ああ、シルフィーナ人間何事も遅過ぎる事は無いんだ。今までの事は全て終わった事、全ては過去なんだ消せない事は無いけど…」

「どうしてですか‼︎」

「え?」

 

シルフィーナは子供とはいえ貴族の教育を受けた賢い子だ、きちんと説明すれば分かってくれると思い時間がかかるが説得しようと思った瞬間、彼女は今までに無いほどに声を荒らげた。

 

「どうしてっ!どうして、どうして‼︎私はこんなに頑張っているのに!全てを失った私に生きる意味を与えて下さったから!その期待に応えようと必死に頑張って来たのに‼︎なのに私に下さる命令はどれも危険の少ないものばかり!今回もようやくお役に立てると…そう思っていたのに…私はカズマ様の奴隷では無かったのですか‼︎」

「シルフィーナ…」

 

彼女の心の叫びになんて返せばいいか分からず、俺の口から続くのは彼女の名前どまりだった。

 

「私は…私はカズマ様の奴隷です…」

 

彼女は自身の服をたくし上げて俺に奴隷の紋を見せる。

 

「例えこれから何をしようともこれがなくなる事はありません、私の行ってきた事が時間と共に風化したとしてもこれは変わることはありません…安全な任務ばかり与えて危険な事から私を遠ざけないでください…嘘でもいいから私に優しくしないで下さい…そんなやり方をされると私も辛いんです…うっ…ううっ…」

「…」

 

最早彼女にかける言葉が思い浮かばなかった。

 

今までダクネスに何とかしてもらうから多少は危険でもなるべく命の危険のない様に情報収集の任務を与え、彼女の感じる罪悪感を少しでも減らそうかと思っていたが、それは彼女にとって逆効果だったらしい。

彼女は俺の仲間として共に危険な状況に身を奴して同じ様に命を預けあい、その苦しみと終わった後の達成感を共有したかったのだ。

それはまるで怪我をしてずっとベンチで仲間が戦っているところを見ることしか出来ない選手の様だ、裏方として役に立てるから邪魔ではないとしても同じ土俵から下された事は変わらない。

 

俺はずっと彼女にそれを与え続けて来たのだ。

そして彼女はどうやっても奴隷から元の貴族に戻る事は出来ないと直感で気づいている。ダクネスに頼めば何とかなると何処かで思っている俺とは大違いだ。

 

いつか戻れるからあまり危険な事はさせまいと俺から離れる事を前提にしている俺に対し、もう戻れることは無いと悟った彼女からすればいつ俺に捨てられる状況になるか分からない筈だ、俺がもう戻せないと確信しどうしようかとなったところで自分にある実績は精々情報収集や用心探し、そんなものは奴隷に任せず外部に委託すればかなり安く済む。そうなれば自分はもう俺から必要性を失いダクネスに変な悩みを与える前に捨てられてしまうのでは無いかと子供なら思ってしまうかもしれない。

 

そんな状況下で仕方ないとはいえ、捨てられ死を待つ奴隷を使い捨てて来たのだ。

彼女の目に映る奴隷からは言われなくても次はお前がそうなる番だと言われている気がして苦しかったのかも知れない。

 

例えどんなに苦しくても辛くても自分が本当に必要とされているのであれば、それだけで生きる事を続ける理由になるのだ。

人間は1人では生きていけない、必ず誰かの必要とされなくては生きてはいけない。

 

奴隷となったシルフィーナにとって自分を必要としてくれるのは俺以外いないのだろう。

 

 

 

「シルフィーナ」

「何でしょうか」

 

彼女は目を腫らしながらも無理やり泣き止み俺の言葉に反応する。

 

「今まで悪かった、俺はシルフィーナを少し誤解していたみたいだよ」

「…はい」

 

地面に泣き崩れている彼女に対し同じ高さになる様にしゃがむ。

 

「転移のスクロールの数はまだ余っているかな?」

「ありますが…?」

 

突然の事に理解が追いつかないのか、キョトンとしている彼女に対し言葉を続ける。

 

「俺の指定する場所に飛んでくれないか?」

「分かりました、でも何をされに?」

 

彼女はぐずりながらも懐からスクロールを取り出す。

 

「それはもちろん…」

 

折角なので間を開け緊張感を高める。

 

「決闘さ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「本当にここでよろしかったんですか?」

「ああ、他のやつにシルフィーナの姿が見られたら面倒だ」

 

案内させた場所は退廃くのバーにある裏庭の様な場所で、ここはシルフィーナの訓練などでよく使っていたので彼女もここの方がやりやすいだろう。

奴隷とはいえシルフィーナは元貴族だ、奴隷になった姿を見られればただでさえ立場のないダクネスの立場がさらに下がってしまう。

なので出来るだけ彼女の姿は隠しておきたいのだ。

 

「武器は昔手合わせした時に使った小道具がまだ残っているだろ?それを使おう」

「分かりました」

 

シルフィーナは分かりましたと倉庫から段ボールに入った道具を持ってくる。

中には木刀など殺傷能力が低い武器などがたくさん収納されており、昔はよくこれで色々教えたなと懐かしい記憶が蘇ってくる。

 

「それじゃ始めようか。ルールは簡単、俺から一本取れたら勝ちだ」

「一本ですか?」

 

俺の出した条件にシルフィーナは怪訝な顔をする。

彼女の心は分からないが、きっとこんな簡単な条件でいいのかって顔か?

確かに今までの練習ではよく一本を取られてきたが、これはあくまで決闘条件があるとは言え俺は一切手加減する気はない。

 

互いに武器を取り出し細かい物を懐に仕舞い込む。

何でもありの真剣勝負だ、持てるものはなるべく持ち手数は増やしておくべきだと思う。

 

「よし、準備はいいか…誰だ‼︎」

 

戦闘前の為感知スキルが研ぎ澄まされていたためか、いつの間にか現れた人物に気づき表に出るように伝える。

 

「ごめんなさい…私です」

「ゆんゆん?一体何でここに?」

 

殺気を飛ばして出て来たのは申し訳そうな顔をしたゆんゆんだった。

 

「すいませんカズマさんの部屋から急に女の子の鳴き声が聞こえて来たので…」

「ああ…なるほどな…」

 

そう言えばいつもならシルフィーナにも潜伏スキルを掛けていたけど突然の事でうっかり解除したのかも知れない。

 

「なのでカズマさん残りを辿ってここまで飛んできました」

 

どうやら俺の生体情報を使ってここまで飛んできたのだろう、理屈は全く分からないがゆんゆんの事だから俺が行方不明になっても助けられる様にしていたのだろう。

 

「まあ見つかったなら仕方ない、このこはシルフィーナ。ダスティネス・フォード・シルフィーナだ、今は訳あって俺の手伝いをしてもらっているんだ」

「成程…やけに情報に詳しくなったと思っていたら、この子に色々調べてもらっていたんですね」

「そいう事」

「…え?今その子の名前を何て言いました?」

「ああ、ダスティネス・フォード・シルフィーナだ」

「ダスティネスって…」

「ああ、ダクネスの親戚だな」

「なんて子をコキ使っているんですか‼︎」

「色々あってな…」

 

あの天下のダスティネス家の子供にあれこれさせている事を知れば誰だってそう言うだろうし、俺もそう言うだろうと思うが、今はそれどころではないのだ。

 

「折角だからゆんゆんは審判頼む、一本取ったら終了、命の危険があったらゆんゆんの判断で止めてくれ」

「え?わっ…分かりました」

 

俺の言葉に戸惑っていると視界にシルフィーナが入り、彼女は彼女をただ邪魔しないでくれと言いたげな目で彼女を見つめゆんゆんはそれに対して何も言えずに審判に徹するのだった。

 

「それではよーい始め‼︎」

 

ゆんゆんが現れたことで無口になったシルフィーナだったが彼女の合図とともに動き出し、踏み込んだと思ったら俺の側面へとステップする。

そしてその際に木でできたナイフを投擲する。

 

一つの牽制だろう、俺もよく使うから分かると、持っていた木剣でそれを軽く当て動きが出ないように軽く弾くが、彼女はその隙に距離を詰め俺に向かって木剣を振るう。

それをタイミングよく当てることでパリーし、反動を使って彼女の頭に打ち込もうとするが彼女は腰を下げる事でそれを回避し、そのまま体を回転させ横凪を放つ。

 

俺はそれをスウェイバックで躱し反撃しようと思った所で彼女は振り切った木剣から手を離したかと思うと、いつの間に木のナイフが握られており俺の重心が後ろに行ったことをいい事に二つの刃を振り回し俺に斬りかかる。

 

「甘い‼︎」

 

俺もただやられる訳には行かず、その大勢のまま身体を逸らす事でナイフの応酬を全て避け切り、相手が息を切り替える瞬間に剣を片手に持ち替え、空いた方の手で彼女のナイフを持つ手を叩くように第二波を牽制する。

 

「くっ‼︎」

 

これ以上の応酬は息切れによるカウンターが来ると悟ったのか後方へ飛び、その最中に持っていたナイフを投擲する。

なかなか器用なことをすると思いながらそのナイフを弾くと、彼女の計算なのか先程放り投げた木剣を拾っており決闘は第二ラウンドを迎える。

 

彼女は木剣を腰に差すと懐から木剣の半分のサイズの小木剣を取り出し、歩き方はどこかで見たような独特の歩法になった。

そう、この動きは…

 

「暗殺者‼︎」

 

思わず俺が口にした瞬間彼女の姿が俺の視界から消えた。

彼女の姿は消えた、だが彼女の気配は俺の感知スキルで捉えられる。

 

そう思ったが、分かっているからと言って対応できるかはまた別だ。

何とか俺は背後に回った彼女の一振りを防ぐ、弾いたり受け流すのではなく防いだのだ。

 

絶対に当てられる自信があった彼女は俺に防がれたことにビックリはしたが、俺が防いだ事を理解し再び姿を消した。

 

正直失敗したと思いながら、続いてくる第二波を何とか受け流す。

そして再び彼女の姿が消え、第三波の流れになるが斬撃が来ることはなく、代わりに鎖が俺の腕に巻き付く。

 

…なっ‼︎

 

鎖は俺の腕ごと下に牽引され、構えごと下に下された所を狙ってナイフが投擲され俺はそれを状態を上手く逸らすことで際際で躱し、続いてくる彼女の攻撃を木剣を使い弾いた。

そして次は俺の番だと彼女に繋がっているであろう鎖を強化した腕力で引き寄せ彼女を叩こうとすると、俺に向かって来たのは彼女ではなく何処かの岩だった。

 

マジか⁉︎

 

このままだと木剣が壊れてしまうので足を踏み変えそのまま俺の周囲をモーニングスターの要領で振り回し、彼女を牽制しながら岩を地面に擦り付けながらスピードを殺し即座にスキルで鎖を解く。

解いた瞬間を狙うだろうと思った所で気配が現れ、そこに合わせて木剣を振るうが、それを予測されたいたのか宙に浮いていた彼女に踏まれ阻止されその隙にナイフを投擲され、それを寸で躱す。

 

しかし、彼女がそれで終わる訳もなく踏んづけた木剣を先程の木剣で叩きつけた。

一体何をしたいんだと思った所で彼女の真意に気づく。

 

…右腕が動かない。

 

彼女の一撃はぶつけた相手の動きを封じる麻痺属性の技だろうか?俺の右腕は力を入れる事も反対に力を抜く事もできない。

つまり俺は木剣を持ち替えることも振り回すこともできない。

 

やられたなと思ったが、片手が使えなくなる事はよくある事だ。

左手で彼女の投げるナイフと同じものを取り出し投擲し、躱しながらトドメを刺しにくる彼女の攻撃を全て躱す。

 

ここで彼女の悪い癖を見つける。

彼女は相手の動きを封じると勝負を決めに動きが少しだが荒くなる…つまり勝利に焦るのだ。

 

その一瞬の隙を突き、俺は彼女の首裏に手刀を叩き落とした。

 

「一本‼︎勝負あり‼︎」

 

一撃入れた事でゆんゆんから一本の宣言がなされ俺とシルフィーナの決闘は終わった。

決着はついた、さて…これからどうするか?

 

 




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