この女神の居ない世界に祝福を   作:名代

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誤字脱字の訂正ありがとうございますm(_ _)m


狐狼の青年2

シルフィーナを手刀で気絶させ、場の空気は静まり返った。

 

「それで、その子はどうするつもりでしょうか?」

「ああ、そうだな」

 

結局決闘するとは言ったが、何を条件に連れていくとは一言も言及することは無かったなと思い返す。

今まではなるべく戦いには参加させないで裏方に回ってもらっていたが、今回みたいに人手が足りない場合は戦力に加わって協力してもらった方がいいだろう。

 

「悪いんだけど今回の作戦にこの子を組み込ませてもらおうかな、いいか?」

「…カズマさんがそれで良ければ私は構いませんけど」

 

ゆんゆんは最初から反対するつもりはなかったようで俺の発言に対して嫌悪感などの感情を一切感じなかった。

 

「それで悪いんだけど砦までテレポートしてもらっていいか?」

「…はぁ、何も考えないでこんなところまで来たんですか?」

 

ゆんゆんは呆れた様にため息を吐きながらテレポートの詠唱を始める。

行きはシルフィーナのスクロールで飛ぶことができたが、彼女を倒してして気絶させてしまえば帰りのスクロールを使ってもらうことはできずに彼女が起きるまで待つ羽目になっていた。

 

 

「それで何でダクネスさんの親戚の子がカズマさんに協力しているんですか?」

「そうだな…」

 

正直どう説明したらいいだろうか迷う。

実は俺の奴隷でしたなんて言えば事情を話す前にゆんゆんに魔法をぶちかまされそうだし、かと言って変に言い訳すればアイリの前科もあるので怪しまれる事は避けられないだろうし、バレた時にまた酷い目に遭いそうだ。

 

「色々あって誘拐されたのを助けてな、ダクネスも色々大変な状況だから保護していたんだけど本人が役に立ちたいっていう事を聞かなくてな、仕方なく協力させてるんだ」

 

とりあえず嘘は言ってはいないが本当の事も言っていないと言う究極の手段を用いてゆんゆんに勘違いさせる。

そう、勘違いしてしまえば相手に全ての非が向かうのだ…いや全ては言いすぎたな。

 

「そうだったんですね」

 

よし、何とかなった。

 

「一応貴族の子だからあまり表に出しちゃいけないんだ、だからミツルギには内緒な」

「そ、そうですね、分かりました」

 

とりあえずゆんゆんは2人の秘密という言葉に弱いのでこの手法で好感度も稼いでおく。

この調子だとめぐみんにもいつかはバレそうな気がするのでいつでも言い訳できるように考えておかなくてはいけないなと思う。

 

 

 

その後ゆんゆんと別れシルフィーナをベッドに寝かせる。

アイリより年下だと言うのにここまでの実力をつけているとは正直思っていなかった。この調子でいけば俺と同じくらいの年齢になることろには有名な冒険者になっているだろうと思う。

将来は貴族より冒険者かなと思ったが、この子には最後には安定した貴族の生活をして欲しいものだと無防備な寝顔を見ながらそう思った。

 

「…ん?」

「目が覚めたか?体に痛い所はあるか?」

 

彼女の寝顔を観察していると意識が戻ったのか気の抜けた声と共に彼女の目が開く。

一応回復魔法を掛けてはあるが、万能であるわけではないため一応本悪いところがないか確認する。

 

「痛いところはありません、それよりどうでしたか?」

「ああ、そうだな」

 

どうやらダメージは残ってはいないようだった。

目覚めて意識がハッキリしている訳ではないだろう事は分かるが、それでも彼女は俺がどういう答えを出すのかが気になっているようだ。

 

「その前にいいか?」

「はい」

 

答えを出す前に彼女には聞いておきたい事がある。

 

「あの戦い方は誰に教わったんだ?」

 

シルフィーナの暗殺者の動き。

あれは一度戦った事があるから分かるが、真似しようと思って真似できるものではない。多分誰かから教わったんだと思うが、それが誰かかは知っておきたいと思う。

 

「あれは酒場のマスターから教わりました」

「へぇ」

 

そう言い彼女は懐から取り出した冒険者カードを俺に見せる。

そこには職業暗殺者と書かれており、討伐欄には人間の名前であろう名前がびっしりと書かれていた。

スキルは色々取っているのだろう想像するだけで恐ろしそうなものが表記されている。

 

それにしてもあの酒場のマスターが暗殺者なんてやっていたなんてビックリだなと思いつつも、あのクリスが頼っていたのだから当然かと心のどこかで納得する。

 

「今回の作戦についてだけど、シルフィーナを連れて行くことにするよ」

「あ、ありがとうございます」

 

シルフィーナは嬉しそうに頭を下げる。

 

「けどミツルギに姿を見られるなよ」

「分かりました?」

 

出来ればゆんゆんにも姿を見られるわけにはいかなかったが、あの状況では仕方なかっただろう。

正義感の強いミツルギは今は仲間であるが、その正義感ゆえ何かの拍子に敵対してしまう可能性がある為出来ればシルフィーナの存在は隠しておきたい。

 

彼女は貴重な諜報員であると同時にダスティネス家に対する交渉カードでもある。

そこを抑えられてしまい最悪のタイミングでそのカードを切られてしまえば、流石の俺もダクネスと敵対する時が来てしまうかもしれない。

それだけは避けたい。

 

「それじゃ持っているスキルについて説明して貰おうか」

「分かりました‼︎」

 

彼女は認められた事が嬉しかったのか、楽しそうに自分の持っているスキルについて説明し始めた。

 

 

 

 

 

 

 

彼女を寝かしつけて俺は備え付けられたバーに向かう。

ウォルバクが居た際は使われていなかったが、彼女を倒した事により秩序が安定したので再び解放されたらしい。

確かにいつ爆裂魔法が飛んでくるかわからない状況下で呑気に酔っ払っているなんて普通の人間の感覚ではあり得ないだろう。

まあ、姐さんは俺に倒され爆裂魔法が飛んでくるなんて恐ろしい日々は終わりを迎えたので、今はこうして色々な人達が呑気に酒盛りをしている。もちろん当番の人は酒なんて呑まないで真面目に外で監視をしているだろう。

 

「めぐみん…来ていたのか?」

「カズマですか?ええ、私も飲みたい時もありますからね」

 

この国では14歳が日本でいう成人のようなもので、この年齢になればある程度の事は出来るようになる。

まあ治癒魔法があると言っても日本と比べ平均寿命が短い為、成人の年齢を引き下げないと大人の数が足りないのだろう。

 

「へー意外だな」

 

ゆんゆんは人間関係で失敗した時によくヤケ酒をしていたが、反対にめぐみんはあまり飲んでいる姿を見た事は無かった。

多分爆裂魔法で周辺を吹き飛ばしているのでそれでストレス発散になっているのだろうとは思うが、それにしても珍しかった。

 

「最初は実験に使用する液体に似た匂いがしたのであまり好きではありませんでしたが、こうして色々な種類を飲んでみるとそれぞれ工夫がなされているようで面白いものですよ」

 

意外にも爆裂魔法以外にめぐみんが語れるものがあったなんて思って彼女の飲んでいる銘柄を見てみるとボマーと書かれた酒をシュワシュワで割った日本で言うハイボールのようなお酒であった。

つまり爆裂魔法に因んだカッコ付けである。

 

まあ、ただ最初は語感が気に入っただけで普通に好きなものなのかもしれない。

人間誰しも最初は見た目や名前から入るものだ。

 

「明日紅魔の里に向かうのですよね?」

「ああ、そうだな」

 

俺も一杯飲みたい気分なので彼女の隣に座りながらいつも飲んでいるヤツを注文する。

 

「そういえばみんなのお墓を作ってあげないといけませんね、まあ遺体が残っていればの話ですが」

「…そうだな、墓は作ってやらないとな」

 

紅魔の里での一件以降俺達は一度も里に戻った事は無かった。

色々ドタバタしていたのも理由の一つではあるが、行こうと思えばゆんゆんのテレポートで一瞬であの里へは行く事も出来た、多分俺達はあの現状を再び見て一族がほぼ惨殺された現実を認めたく無かったのだろう。

それに里にバルター達が残っている可能性も低くはない、戻ったところで一網打尽にされればアルエの犠牲は無駄になってしまう。

 

「それでカズマは何故バルターを倒したいのですか?私達紅魔族の復讐をしたいのですか?」

「…」

 

先程まで下を向きながら悲しそうに話をしていた彼女は一変し、真面目な目でこちらを見ていた。

 

「カズマがバルターに対して色々と因縁がある事は重々承知しております。ですが流れを見ればこのままここに残り魔王の娘を討伐するか、また別の場所で仲間を集めるのが本筋ではないでしょうか?」

「そうだな…」

 

当初の目的であるアイリを救い出すという事を考えると、ここでバルターを倒しに行くのではなく魔王の娘を倒し日本人を仲間にするのか、それとも別の仲間を見つけるのが筋というもので、わざわざ危険を侵してでもバルターを倒しに行く流れでは無かった。

つまりこれは俺の因縁であり、俺個人の問題で、それにみんなを巻き込むのはお門違いという事だろうか?

 

いや、バルターは裏でクレアと繋がっている可能性が高い。

であれば王都に侵攻する以上必ずどこかで相対するだろう。奴の戦闘能力は脅威的でたとえ日本人が束に掛かってももしかしたら敵わないかもしれない。

 

「いいですかカズマ、私達の気持ちを汲んでくれるのは嬉しいですが、それは当初の目的を果たしてからでも遅くはありません。私も家族を殺されて何も感じないとは言えませんが、それでも流れを止めてまで優先すべき事でしょうか?」

「…」

 

めぐみんの目には心配の色が窺えた。

めぐみんからすれば俺のやろうとしている行為は紅魔族に対する報復にしか見えなかったのだろう。であれば自分たちの為に命を賭けてまで戦うのは止めて欲しいのが彼女の本音だ。

 

「ありがとうめぐみん、けどあいつは目的の為に必ず倒さないといけない存在なんだ」

「…そうですか」

 

隠匿スキルの応用を使いめぐみんにしか聞こえない声で王都との関係性を説明する。

バルターは王都侵攻の際に戦力を削いでくるので、早いうちに全総力を持って叩いておきたいと。

 

「カズマがそう思うのであれば私はもう何も言いません、必要な時に爆裂魔法を放つだけです」

「ああ、頼りにしているよ」

 

めぐみんは完全に納得はしていないようだが、彼女なりに俺の考えを理解してくれているようだった。

 

「ですが、あのバルターという男は一体何者なんですか?」

「ああ」

 

先程までの真剣な声とは違って彼女の声は軽いものとなった、ここからは軽い雑談のようなものだろうか?

いや、めぐみんの事だから重い空気を和らげるためだろう。

 

「あいつの事はあまり分からないけど、分かっているのは貴族の息子くらいかな騎士団の隊長でもあるけどそれがあいつの全てって訳じゃないと思う」

「そうですか…私も少し調べましたが品行方正の御坊ちゃまなくらいですね。正直陰で動き回るようなタイプだとは思いませんでした」

 

そう、あいつの事を調べれば調べるほど得られる情報は俺らの思っているものとは真逆のものだった。

退廃区の情報やに金を払って調べさせた時もあった、そこで唯一得られた違う情報はアレクセイ家の実子ではなく養子だという事だが、養子にとった年齢が幼く狙って養子になったとは考え辛い。

なので何処かで何かに出会い影響を受けたのか、貴族社会の黒い階級争いの中で黒い何かが育ってしまったかもしれない。

 

何も貴族の血を引かないものが貴族になってしまったが故血が合わなかったのだろう。人間は環境要因に多少は影響を受けるが、遺伝するものが殆どだと何処かの教授が言っていた事を思い出す。

何にせよ奴のルーツを探る事は不可能で、いつもの様に正面から相対しなくてはいけないのだ。

 

「まあ後はなるようになるさ、とりあえず逃げ道だけ確保しておけば最悪なんとかなるだろうさ」

「そんな気楽な気持ちで良いのでしょうか…」

 

俺の言葉に呆れながらめぐみんはため息を吐いた。

やれる事はやっている以上後はなる様になるしかないのでここで変に考えて精神を磨耗する方が危険なのだ。

 

 

 

 

 

 

「それでカズマは今回の作戦の成功率をどう思っていますか?」

「何だよ突然に?」

 

最初に話すことを話し、後は勢いに任せて爆裂魔法について語っていたところに突然何かを思い出した様に彼女は質問してくる。 

 

「カズマは今まで色々考えてきたじゃありませんか、その作戦の成功率は今まで比べてどれくらいのものかと思いまして」

「そうだな…」

「今まで全ての作戦が成功した訳ではありませんが、こうして生き残っている訳ですそこを踏まえて」

 

酔っているとは言え中々に難しい質問を飛ばしてくるな。

某レスラーは負けた時の事を考えて試合をする奴が何処にいるかとキレていたが、それはあくまで事故がない限り命の保障がされた状況下での話であり、この世界では魔王軍相手での負けは死を意味する。

 

失敗した時の事を考えた事はないが、撤退する条件は毎回考えてはいた。

まあ、ベルディアなどなど魔王軍幹部の時は撤退したら仲間が死ぬ見たいな時があったので引くに引けなかったが、今の所何とか…いや今回は成功率の話だったけか。

 

「そうだな…撤退を失敗に入れれば40%くらいかな」

「そうですか…やはりバルターという男はそこまでの実力を持っているのですか」

 

何だかんだ奴に傷をつけた事はないが、それはあくまで一対一の場合だ。

今回は陽動ではあるがミツルギがおり、一緒に潜る仲間にシルフィーナがいる。そこを踏まえれば流石のバルターであってもしばらく動けないくらいの深手を負わせるくらいはできるだろう。

今回の作戦の最悪の落とし所はバルターの討伐ではなく、奴の無力化だ。それさえ叶えばその隙に王都を攻め込んでクレアを何とかすれば奴の持っているカードを減らす事ができる。

本格的に戦うのはその後でもいいはずだ。

 

それを踏まえて計算してもバルターが考えた拠点である以上紅魔の里の様に魔術師殺しが使われ魔法が通じない可能性がたかく、さらに計算された配置に人員を置き、進んでいるつもりが追い詰められていた見たいな展開になりやすい。

そして奴が現れて戦うとなると地の利は奴にあり、俺達は何かしらの不利な条件をのむ可能性が高い。

以上のことから勝率よりも敗率の方が高いのは仕方がないのだ。

 

「まあ、紅魔の里の様に我々が戦力にならない可能性は高いですからね、分かってはいたのですが…」

「めぐみん…」

 

めぐみんは自分が役に立てない事が悔しかったのかグラスを握る手に力が入っていく。

今回の作戦でのめぐみんの役割は…ない。

あっても撤退する際にゆんゆんの詠唱を邪魔をする火の粉を払う程度のものくらいだろう。

2人は紅魔の里同様に少し離れたところで俺達の作戦が成功するのを待つことしかできない。

全てではないが自分の一族の仇を討つのに何も出来ずにただ観ているだけというのは中々にきついのだろう。

 

「今回は仕方ないさ、物事には何だって相性があるんだ、前回だってめぐみんの爆裂魔法が無ければあの時俺たちは吹っ飛んでたんだぜ」

 

適材適所、全ての人間が全ての場所で輝く事はできないのだ、皆それぞれ得手不得手があり今回の作戦ではたまたま不得手の立場になってしまっただけなのだ。

珍しくバーで酔っ払ってらしくない質問をしているのはこの為だろう。

 

「…ありがとうございます」

 

俺のフォローに気づいたのかめぐみんは酒のせいか顔を真っ赤にしながらポツリと御礼を言った。

めぐみんも最近まで酔っ払った事がないのであまり耐性が無いのだろう、そろそろお開きにしないと明日に影響が出そうだ。

 

「おいめぐみん、大丈夫か?久しいぶりに飲み過ぎたんじゃないか?」

「うるさいですね…少しバランスを崩しただけですよ!」

 

めぐみんは酔いが回って来たのか少しふらついたのち俺の腕に寄り掛かってくる。

カウンター席の椅子で寄りかかられると後ろに椅子が回転して転がり落ちそうなので必死に落ちない様に抑える。

 

「ここまで飲んだのは初めてですね…」

「ほらみろ…」

 

店員に頼み水を持って来てもらう。

この世界では酔いを楽しめるようにお冷やには少し酔いを覚ます成分が入っていると何処かで聞いた気がする。

確かに変に酔われて吐かれたりするよりかは少し出費しても酔いを減らしておいた方がいいだろう、余裕ができれば更に注文も入るしwin-winの関係という奴だ。

 

「少し落ち着きましたね…一度溺れるように飲んでみたいとは思っていましたが、ここまでとは思いませんでした…みんなはよくここまで飲めますね」

 

水を数杯一気飲みした後尿意を催してお花を積んだ後、彼女はそう言いながら新しいドリンクを注文していた。

矛盾という言葉はきっと彼女の為にあるのだろうと思う。

 

「ふへへへ、カズマは分身の術でも覚えたのですか?」

「マジか…」

 

再び酔っ払いながら俺に寄りかかりバランスを取るめぐみん、デジャブとはこういう事を指すのだろうか?

 

「カズマは逃げようとか思った事はありますか?」

 

顔を真っ赤にしためぐみんは俺を見上げながら突然そう言った。

 

「特に無いかな…って言うけどアクセルの街から逃げて来た様なもんだからな」

「そう言う事を言っているのではありませんが…」

「無いよ、逃げた先に幸せなんか無いらしいからな」

「…そうですか」

 

逃げた先でまた新しい出会いがあるから本当に困ったら逃げてもいいんだよと言う人間は実際に多い、俺もここに来る前はよく逃げたものだ。

 

嫌な事から逃げた先にはまた新しい出会いがあり、新しい幸せがある。中には逃げた先で進む事で違った幸せを掴む人もいる。だが、そこにはまた別の嫌な事がある。

嫌な事の種類を変える事はできるが、結局嫌な事という事から逃げる事はできない、嫌な事は形を変えて絶えず俺達を蝕み続ける。

繰り返せば繰り返す程その嫌な事の大きさは大きくなっていき、やがて逃げられなくなり最終的に死へと逃げるしかなくなってしまう。

 

そして逃げるという事は現状の全てを放棄する事を意味し、今まであった小さな幸せを放棄する事になる。

人との繋がりも言い方を変えれば幸せの一つだろう、人は1人では生きてはいけない。

俺がここで逃げればアイリは間違えなくクレアの傀儡のままだ。

諦めて3人で何処かの田舎でひっそりと暮らせば、それはそれで新しい生活が始まるが、アイリを救うと言う重圧は罪悪感へと形を変え俺を蝕み続けるだろう。

 

逃げる事は間違ってはいない。

逃げなくては身が持たない事はこの世界にも溢れている。

だが、逃げていい時と不味い時の線引きはしっかりしなくてはいけない。

 

「カズマは強いですね…」

 

ボソリと彼女はそう言った。

 

「そんな事はねえよ、みんなが支えてくれるから逃げずにいられるだけだよ」

 

結局俺は何か理由がないと動けない空っぽの人間だ。

今までだって何だかんだ誰かの為に動いて来ただけで能動的に動いたことなんてほぼ無いだろう。

 

「ふふ…カズマはたまに気持ち悪い事を言いますね」

「うるせぇ」

 

 

その後めぐみんは飲み過ぎた為か、徐々に呂律が回らなくなっていきテーブルに突っ伏したので面倒だが二日酔いにならないように魔法をかけそのままゆんゆんに引き渡した。

 

…さてと。

 

誰もいないことを確認しながら自身の冒険者カードを取り出しスキル取得の欄を確認する。

そこには姐さんを倒した事によりかなり上がったレベルと取得できるようになったスキルが表示されており、その中には先程シルフィーナに見せてもらったものが追加されている。

 

暗殺者など表舞台に立たない人間と仲良くなる事がなかった為、スキルを教わる機会が無かったが彼女の協力により存在するであろうと思っていたものを知る事ができた。

シルフィーナには悪いが彼女の頑張りを無視するようにスキル習得の手続きを行う。

 

皆が頑張ってレベルを上げることで手に入れられるスキルを精度は落ちるが少ないポイントで入手できる冒険者、ステータスの伸びが低いデメリットは致命的だが中々に恐ろしい職業だ。

カードのシステムを含めて一体誰がこんな事を考えたのだろうか?

 

 

 

 

 

 

 

「よし、準備はいいか?これからゆんゆんのテレポートで紅魔の里へ飛んでそこからしばらく歩くぞ」

「分かりました」

「奇襲をかける事を考えて出来るだけ体力を温存して、ダメそうだったら近くでマーキングして一度撤退するからな」

「了解」

「よし、行くぞ」

 

朝になり全員砦の前に集まったって所で作戦の確認を行い、俺が言い終わったタイミングでゆんゆんのテレポートが発動し俺達は光に包まれる。

 

 

 

 

「…まあそうだよな」

「カズマさん、今は先に進みましょう」

 

テレポートした先で目に入ったのは廃墟とかした紅魔の里だった。

綺麗だった噴水は水が枯れ、皆が住んでいた店は骨組みがかろうじて残るくらいに荒廃しており、不謹慎だが空襲を受けた街の景色の様だった。

そして目をくり抜かれて残った死体が腐り始めているのだろう、周囲には死体独特の腐敗臭が漂っており俺たちの鼻を劈いた。

 

本来であればここで皆の死体を供養をしたい所だが、俺たちには目先の目的がある為ゆんゆんに言われた様に皆をそのままにして先に進む事にした。

 

 

俺達のパーティは俺、ゆんゆん、めぐみん、ミツルギの4人で、シルフィーナはミツルギに姿を見せない様にと何かあった時様に先行してもらっている。

 

「聞いてはいたが、実際に見てみると酷い有様だね…これがこれから戦いに行くバルターがやったと言うのかい?」

「そうだな、基本的に大きな人災の原因はあいつだと考えた方がいい」

 

ミツルギもこの光景を見て何かを感じたのか2人に聞こえない様に気を遣いながら俺に話しかけてくる。

 

「しかし、君が一対一で勝てない相手となるとよほど頭が切れるんだね」

「うるせえ殺すぞ」

「ぐえぇ」

 

暗にお前には実力が無いから知能を使って搦手で誤魔化しているが、お前以上の知性を持った搦手使いが現れて…まあ要するに知能で勝てなければ君も雑魚なんだねと等回しに言われた様な気がしたので軽く鎧貫きのスキルを纏った拳で奴の腹を殴る。

分かってはいるのだが、コイツに言われると途方もなくイラつくのだ。

 

…これは

 

途中木に俺にしかわからない様な記号が書かれている事に気づき、その記号を解読するとどうやらシルフィーナが出来るだけ戦力を消費しない様にモンスターを避けられる様に道筋を書いてくれている様だった。

正直感知スキルも消費魔力が少ないとは言え疲労が溜まるので助かると言えば助かると、効力を最低限まで下げ彼女の案内に従いながら進む。

 

それでもモンスターも動くので衝突する場面もあったが、そこはゆんゆんが気を利かせて中級魔法で必要最低限に魔力消費を抑えながら撃退する。

一応念の為ではあるが、目的地が実はただの実験場でバルターの姿がなく奴的に施設の優先度が低く魔術師殺しが機能していなかった場合、彼女らは貴重な戦力になるのでマナタイトは幾つかであるが持っては来ている。

 

出来ればこの戦いでバルターを倒してしまいたいが、心の底ではここは関連施設であって奴は別のところに居てくれと考えている自分がいる。

当初の予定では日本人総出で王都で奴を叩くつもりだったのだ、まさか5人で攻め込むなんて昔の俺は考えただろうか。

 

そんなこんなで気づけばシルフィーナの指定した場所の近くに辿り着く。

施設はカモフラージュの魔法でも掛かっているのか、存在に気づくまでまるで何もなかったかの様に感じたが、一度知覚すれば分かりやすいほどに大きな施設だった。

 

「まさかこんな所に施設があったなんて…」

 

地図で見ると遠かったが、歩いて見ると意外に近かったのでもしかしたら一度この辺りに来ていたかも知れないと思っていたのか、ゆんゆんはその施設の姿を見て驚愕していた。

 

施設の姿は予想より大きく、何かを工場というよりかは実験しているような施設のような物だった、

周辺は無防備なのか警備をしている兵士の姿が見られず、もしかしたら俺よりも精度の高い潜伏スキルで隠れているのかも知れないと思ったが、それにしては何も感じない所を見ると本当に外に誰もいない様だった。

 

「よし、作戦を変更しよう。ミツルギの陽動は無しで俺と2人で施設の中に入る、中で魔術師殺しを纏った騎士がいなかったら合図をするからゆんゆんは中に入って来てくれ、その時はめぐみんはテレポートのスクロールを持って待機で何かあったら逃げてくれ」

 

やはり、この施設は奴にとって優先度の低い施設だったのだろうか、外に警備が居ない為作戦を変更し皆で中に入る事にした、この場合シルフィーナは俺たちが入った後後方を守る役に徹して貰う事になるが、それについては事前に決まった事なので大丈夫だろう。

 

「準備はいいか、まずは潜伏スキルを使うからミツルギは俺に手を触れておけ…めぐみん何を?」

 

話しながら何となくめぐみんを見ると彼女の口が動いていうのがわかる、某宗教では何か重要な事をする時は何かを呟く時があるらしいがめぐみんは爆裂教なのでそんな習慣は無かった筈、であれば…

 

「まさか⁉︎」

 

めぐみんが一体何を呟いているのかが分かったが、それに気づいたが時既に遅し。

 

「エクスプロージョン‼︎」

 

彼女は施設に向かって特大の爆裂魔法を解き放ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

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