「何やってんだお前は⁉︎」
突如放たれためぐみんの爆裂魔法は一切の妨害もなく巨大な魔法陣の出現とともに巨大間爆発を生み出し、俺たちが向かおうとしていたバルターの工場は爆炎に包まれてしまう。
「あぁ…そんな」
そして施設の中に仲間がいる可能性が高い事を知っているミツルギは可哀想な事に頭を抱えながら項垂れている。
「お前いくらこれから相手する奴が危険だからって施設ごと破壊する奴が居るか‼︎中にはミツルギの仲間が居るかもしんねーだぞ‼︎」
「失礼ですがカズマは私がそんな事をする人間に見えますか?」
「見えるよ‼︎」
爆裂魔法を放った反動により動けなくなっているめぐみんを地面から起こしあげ、胸ぐらを掴みながら問い詰めると彼女はさも意味があったかのように言い返してくる。
「相手はあのカズマが太刀打ち出来ない程の実力を持っているのですよ、でしたらこんな簡単に見つかった時点で罠の可能性が高いと思うのは当然ではないでしょうか?」
「まあ…確かにな、けどいきなり爆裂魔法をぶっ放すなんて普通考えるか?」
「まあ普通なら考えないでしょうね、ですが普通の方法で勝てる相手だったらここまで追い込まれることもなかったでしょう」
「うっ…確かに…」
めぐみんの言うことも確かに一理ある。
あいつは今までに戦ったやつのなかで一番頭が切れ腕が立つ。
そんなやつを相手にする以上、今までのやり方で対応しようものなら裏をかかれ追い詰められただろう。
だが、だからと言って爆裂魔法で施設丸ごと吹き飛ばす必要性はあったのだろうか?
前方の視界はほぼ土煙で覆われ、施設がどうなっているかは分からずじまいだがシルフィーナが無事だというのは繋がりで分かるのでそこは安心でき、先行させないで良かったと自分の危機管理能力に感謝する。
「めぐみん…いつからそんなに大雑把になったの?」
「ふん‼︎何も分かっていない外野は黙っていて下さい」
やってしまった事は仕方ないと木にめぐみんを立て掛けると呆然としていたゆんゆんが正気を取り戻したのか、めぐみんに詰め寄るが彼女は怒っているゆんゆんに対してお前に話す事はないとそっぽを向いてしまっている。
「それで実際のところ何で爆裂魔法を放ったりしたんだ?そこまで強情張るって事は何かあるんだろ?」
めぐみんは紅魔の里で天才と言われるほど頭が良かったので、彼女には彼女なりの考えと言うものがあるのかも知れない。
「そうですね…説明しろと言われますとどう説明したらいいのかは分かりませんが、昔カズマがよく言っていた勘と言う奴ですね」
「何だそれは…」
勘と言うものは、目の前で起きた現象に対して、いままでの経験や知識を無意識の中で組み立て導き出されるものである為、例え根拠が無くともその人の人生経験を踏まえればそれが根拠となり得るものなのだと、何処かで聞いたことがある。
「まあ、今回はめぐみんの勘を信じてみるとしよう」
目の前の煙が晴れるまで俺はめぐみんを信じて待つ事にする。
まあ、ミツルギには悪いが正直このままバルターごと施設が吹き飛んでくれた方が俺的には何のリスクもなく済むので助かるのだが、仲間の安否が絶望的になりうずくまっているミツルギを見ると何とも言えなくなってくる。
ゆんゆんはこの状態のめぐみんには何を言って無駄だと思っているのか何も言わずに施設も方向を向き、何が飛んできてもいいように杖を構えている。
しかし、爆裂魔法もこんな近くで放たれると森の中のせいもあるのだが砂埃で周囲が見えなくなるとは思わなかった。
風の魔法で吹き飛ばしても良かったが、それにより何処かに隠れている奴の残党に見つかるとそれはそれで厄介なのでこのまま待つしかない。
「ようやく晴れたか、どれど…れ?」
「嘘…だろ?」
煙幕のような砂埃が自然の気流により晴れ、ようやく目的の施設が観れると思ったところで俺たちの視界に入ったのは瓦解した施設の残骸だった。
「…めぐみん?」
「…何でしょうか?」
皆状況は理解したようで,施設を見た皆の視線はそのままめぐみんへと移動し、めぐみんはそんな筈ではなかったと言いたげな表情をしながら動ける様になり始めた腕を使いながら冒険者カードを取り出す。
「よく見て下さい、爆裂魔法を放った事で私のレベルは大幅に上がり討伐欄の魔物の数も更新されいます!」
「確かにな…」
どうせ周辺のモンスターを倒したからだろと思ったが、彼女の討伐欄に記載されている名前はこの周辺では見ることの出来ないものばかりだった。
「なるほどな…と言う事は」
俺は自身の打ち立てた仮説を立証する為にミツルギを連れて施設の残骸へと向かう。
「こんな所探してどうするんだい?君の宿敵みたいな事を言っていた気がするが、流石にこれじゃあ生きてはいないんじゃないのか?」
「いいから瓦礫を退かせ、この中で力があるのは俺とお前だけんだからな、ほらキビキビ動いた」
施設跡地に着いた俺たちは地面に転がったその残骸を持ち上げてはどかしてを繰り返して、周囲の掃除とまではいかないが邪魔な物をどかしていく。
「やっぱりな」
強化スキルで肉体を強化し、力に任せて残骸の板をひっくり返すとそこには地下へ続く階段が現れた。
「なるほど、地表にあった施設は我々を襲うトラップハウスで本命は地下にあったと言うわけか」
「そうなるな」
俺はめぐみんと共に地獄の様な爆裂習慣を過ごし、爆裂魔法が放たれた後の地表がどのような形態を取るのかを嫌と言うほど見てきている。
その為か、めぐみんが爆裂魔法を放った後の施設の残骸は今まで破壊してきた構造物に比べて地面が綺麗すぎるのだ、普通なら地面ごと土地が抉れクレーターができている。
ならば、地面に何かしらの施設が埋まっていると考えるのが当然だろう。その証拠にこうして地下室の入り口を発見した。
「まさかあれだけの施設に地下室を設けていたとは」
「残骸を見ただろ、耐久性の高い材料が多かったけど精密機械の部類は一つもなかったんだ、だったら何処か別の施設にあるかここみたいに地下に隠されているかの二択だ」
「なるほど、そう言う事になっているんだね」
俺は名探偵ばりの推理を披露しドヤって見たがミツルギは俺の思考のプロセスを聞いて満足したのか素っ気なく返事を返し終わった。
「やっぱり私の考えた通りでしたね‼︎」
地下室を発見し、俺たちは一度2人の元へと向かい呆然と施設跡地を眺めていた2人に地下室の話を告げると、爆裂魔法を放った疲れも相まって先程まで呆然としていためぐみんは水を得た魚の如く力を取り戻しゆんゆんにマンティングを始めた。
「地上の施設は侵入者を迎撃する為のトラップハウスで、その本命の施設は地下に隠されている‼︎侵入者は地上のトラップを掻い潜りようやく最奥に辿り着いたところで地下の存在を知り気を引き締めながら敵の本陣へと攻め込んでいく‼︎」
そしてテンションが上がってきたのか謎の物語の解説をし始め、ゆんゆんはその解説を呆れた顔で聞き始めている。
「流石私です、例え理屈が分からずとも物事の本質を突いた行動をとっていたのです‼︎」
「そ、そんな…」
「とりあえず2人は待機していてくれ、本陣が地下に変わっただけで危険性は変わらないんだ」
まるで意識高い系の大学生の如くそれっぽい言葉を言うめぐみんに何かショックを受けているゆんゆんをよそに作戦を再び伝える。
結局トラップを回避しただけで、中にあるであろう魔術師殺しの鎧は依然として存在しているのだろう。であれば2人はここで対してもらい3人で中に入った方が塩梅だろう。
「分かりました、私たちは何も出来ませんが頑張って下さい」
ミツルギに具体的な指示をしようと思った所でゆんゆんは畏まった様にそう言った。
きっと彼女もめぐみんと同じ様に今回の作戦であまり役に立てない事を気にしているのだろうか?
「ああ、絶対帰ってくるからいつでも帰れる様に準備しておいてくれよ」
「はい‼︎」
俺はゆんゆんの肩を叩きそう言うと踵を返し施設へと向かった。
「随分と無機質な施設だね。普通ならもっと豪華じゃないのかい?」
「ただの実験施設に装飾なんか作るわけないだろ?ゲームじゃないんだからさ…ってここもゲームみたいなものか」
地下の階段を降りていると空気の重さに耐えきれなくなったのかミツルギが口を開く、確かに協力者とはいえ今まで因縁があった相手だ2人っきりなれば不安になってしまうのは仕方がないだろう。
「まあ、紅魔族の施設はファンタージー感が溢れていたな…ってやっぱりか」
試しに壁に魔法を飛ばしてみたが、壁に魔法が衝突するとまるで何もなかった様にそれは消滅した。
どうやら魔術師殺しは健在の様で、2人を連れて来ないで正解だったようだ。
「成程、以前君が言っていた魔法を無力化する装置があると言っていたが、この施設そのものが魔法を無効にする装置の様だね」
「ああ、厄介な事にな…おかげでうちの主力戦力である2人が無効化されちまったよ」
まあ1人はどのみち屋内戦には向かないが。
「安心してくれ、僕は君も主戦力だと思っているよ」
「はいはい、そうですかっと」
ミツルギの雰囲気イケメンムーブを流しながら階段を降りるとようやく部屋に辿り着く。
地下の部屋は想像していたものよりも広く、感知スキルで分かる範囲だがもしかしたら地上の施設よりも広いのではないかと錯覚してしまいそうなほどだった。
施設は部門ごとに分けられているのかそれぞれに部屋が違い俺の前にある部屋はエントランスだろうか、カウンターのようなものが設置されていた。
普通なら受付が居る感じだが、今はもう使われていないのかカウンターは手入れがされておらず古くボロボロになっていた。
「部屋のフロア図も掠れて読めないな…感知スキルも細かく調べようとすると妨害されている様だし1箇所ずつ調べていくぞ」
「え?ああ、そうだね。案内に関しては君の方が得意だろうから任せるよ」
ミツルギは仲間の行方が気になっているのか、地下の施設についてからソワソワと落ち着かない様子だった。
まあ、俺も長年探していた仲間が捕まっている可能性が高いと分かればニッチもサッチもいかないだろう。
「とりあえず一番近い部屋から行こう、何も無い所から地図を作るのは得意なんだ」
まさかこの場面でダンジョン攻略RPGを極めていた経験が役に立つとは思わなかった。
あのゲーム最後は暗闇で地図が表示されないから頭でランダム形成されるマップを覚えないといけないから大変なんだよな…と昔を思い出すが、あまり時間をかけたくは無いので思い出に浸るのはこのあたりにしておこう。
最初に近場にあった扉を無理やりこじ開けると、そこにはアルダープの工場で見た様な巨大なシリンダーに裸体の意識を失った人間が浮いていた。
「これは…こんな事があっていいのか」
ミツルギはその光景を見て怒りを感じたのかシリンダーを破らないくらいの力で殴りながら文句を言っていた。
浮いている人間から若干の気配を感じることから、あの時の様に半分生かされながら魔力や生命力やらを採取しているのだろう。
「これがこの工場の電源がわりなんだろうな、こんな大規模な工場をマナタイトで補おうものなら一年で鉱山一つ分のマナタイトを消費しちまうからな」
「…君はこの光景を見て何も感じないのか?私達同じ人間がモルモットの様に扱われているんだぞ‼︎」
他人の為に怒れるなんてなんて素晴らしい人格の持ち主なのだろうかと思ってはみたが…思ってみたのはいいが結局だから何だと言う結論に辿り着く。
「こんな光景何度見てきてもう何も感じねぇよ」
そう、アルダープの件然り紅魔祭の件しかり、俺は人間が実験動物の様に尊厳を踏み躙られる瞬間を度々見てきた為か、今更この光景を見た所でまたいつものかと思ってしまう程に心が麻痺してきたのかもしれない。
「そうか…すまない。少し取り乱したみたいだ」
俺の返事を聞いて何かを察したのかミツルギは少し悲しそうな顔をしながら俺に謝罪した。
正直気持ち悪いのでやめて欲しかったが、ここで変に声を掛けると拗れそうなのでやめておいた。
「いいから次行くぞ、ここの人間にお前の仲間は居るのか?あまり時間がないから手短にな」
「ああ、すまない。迷惑をかけるな」
ミツルギは俺に礼を言いながら周囲のシリンダーの人間を眺めていく。
ジャミングらしきものはその部屋ごとに仕込まれているようで、その部屋であれば意識を凝らせばそれなりに気配を感知する事ができるので奴の仲間の気配が分かればその気配を辿れるのだが、いかんせん最後にあったのが昔の為感知スキルで探す事ができずに奴本人に探してもらうしか無いのだ。
それと、ゲームならここで戦闘になりそうだが、周辺の機材を考えると流石のバルターも無警戒にせざるを得ないのだろうか?
「すまない、せっかく待って貰ったのだが、僕の仲間は居なかったみたいだ」
「まあ、そう言う時もある。ここから長いんだいちいち謝らないで淡々と行こうぜ」
「礼を言うよ」
ここにきてミツルギは自信を失っているのか、勢いのあった新人が大きなミスをしてその尻拭いを他の社員にさせてしまって申し訳ないと謝り倒す人みたいになっていた。
「次の施設だな」
次の部屋の扉を開く。
普通ならセキュリティーコード的なものを打ち込まないと進めなそうだが、地上のトラップ施設の大きさを考えてここまで侵入される事を想定していなかったのだろうか?
それともこうして施設一つ一つを俺に見せる事が目的なのだろうか?
答えは多分前者だろうが、それにしても…もしかして順番通りに進ませる事で抜け出せない部屋に閉じ込める作戦だろうか…いや流石にそれはないだろう。
扉を開き見えた次の部屋は小さなシリンダーに見覚えのある眼がそれぞれ一組ずつ浮いている物のある部屋だった。
「…っ⁉︎」
それは何時ぞや俺達が辛酸を舐めさせられた結果に終わったあの紅魔祭の戦果だった。
機材を眺めるとそれぞれの機材にコードが繋がっており、それらは中央の機材に集まり、その機材からよその部屋に向かう様にどこか別の部屋へと繋がっていた。
「これは君たちの仲間の…」
「ああ、そうだ。これは紅魔族の眼だよ」
ミツルギが何かを察したのか口を開き、俺はそれに応える。
そういえばめぐみんがこめっこの眼を持っていたのを見たんだっけ。
「とりあえず次の部屋に行こう、ここで動力源を断つのも良いかもしれないけど出口への道が使えなくなっても嫌だからな」
ここまで来るまでの道すがら扉は全て魔力で動いているのか自動化されていたので、ここで変に動力に影響を与えれば面倒な事になりかねない。
部屋の奥に設置されているドアを開けて次の部屋へ進む。
次の部屋は標本室だろうか、正方形の水槽のようなケースに人間の四肢や内臓などのパーツなどが綺麗に収納されている。
先程の部屋から伸びているコードはこの部屋で一部枝分かれをしており、数本がこの四角い水槽の動力を担っているのだろう。
「これは酷い趣味だな、君の言うバルターとはここまで醜悪な人間と言うことか」
「ああ、あいつは目的のためなら手段を選ばない男だ、この程度で一々リアクションしていたら最新部に辿り着く前にショック死しちまうぞ」
「ああ、すまない」
水槽を見たミツルギは普通の人間らしいリアクションをしていたが、この調子で精神をすり減らされるとバルターに会う頃には廃人になってしまいそうなので、あまり考えないように喝を入れる。
「しかし…これは一体何で分けているんだ?肉体のパーツから魔力が取れるとは思えないんだけどな?」
バルター曰く一番効率がいいのは眼と言っていたが、この四肢や臓器から魔力が効率よく集まるとは考え辛い。
魔力供給を考えるのであればわざわざそんな事をせずとも、退廃区に紅の眼をオークション出品せずにその眼を動力源にすればいいものだ。
なので隣の部屋からのコードは動力供給だと考えていたが、こんなものの鮮度を維持する必要はあるのか?
もしかして兵士の欠損四肢や臓器を補う役目があるのかもしれない、であればこの設備も納得だろう。
いくら王都の騎士団の兵士を使えると言ってもそれが人間である以上数に限りが生じてしまう、なので傷ついて退役する騎士に対して欠損した部位をここで補わせて復帰させると考えればコストパフォーマンスに問題はない。
「どうやらあの子の腕はない様だね」
「これだけでも分かるのか?」
ミツルギは俺がこの部屋の存在意義を考えている間全ての四肢を見ており、そこに仲間の腕はないと判断した様だ。
「あの子は腕や脚に入れ墨をしていてね、ここにある腕や脚達は皆綺麗な腕をしていたよ」
「そう言うもんか?」
「ああ、盗賊からウィザードに転職した関係でね、魔法力を補う為にわざわざ掘ってくれていたんだ」
「へーいい仲間じゃないか」
どうやら腕や脚に魔法を補助する刻印を刻むと微妙ではあるが魔法の威力が上がるらしい。
なるほど、今度ゆんゆん達に聞いておこう。
「とりあえず、仲間が居ないなら次の部屋に進もうぜ」
「そうだね、何があるか分からない以上時間の消費は抑えないとだね」
「お前が言うな」
適当に軽口を叩きながら俺達は次の部屋に向かう。
「…ここは一体?」
次に進んだ部屋では、今までの様にシリンダー型機材はなく代わりに全長2メートル程の棺の様な大きな箱の機材が壁一列に並んでいた。
もしかしてこの黒い箱はサーバー室みたいな感じにコンピュータの代わりになる装置なのだろうか?
であれば今まで見てきたものは動力源で、ここがブレインルームで、次の部屋が本命の部屋なのだろうか?
「まあ、何もないなら次の部屋に行くぞ。何か行動するにもお前の仲間を先に見つけないと何もできないからな」
あのシリンダーの機械に生かされている場合、ここで動力源やプログラムを破壊してしまえばミツルギの仲間の生命維持装置の機能が停止しかねない。
それだけは防がないといけないのだ。
「そうだね、次に行こ…おかしいな扉が開かないな」
「は?何いてんだ…まさか⁉︎」
恐れていた事態に陥った事に気づく。
ミツルギが扉に触れたタイミングで何かの仕掛けが作動したのか、先程まで微動だにしなかった黒い箱が音を立てて動き始める。
最悪の場合は後ろの部屋に居るであろうシルフィーナに合図を送り扉を開けて貰おうかと思ったが、どうやらこの部屋と隣の部屋は別次元扱いらしくいつも感じていた彼女の気配はまるで感じられなかった。
「おいミツルギ‼︎剣を構えろもしかしたらセキュリティモンスターが出てくるかもしれない」
「ああ、分かった‼︎」
一体何が起きるか分からないが、毒ガスであればあそこまで大きな機械である必要はないのでそれはないと考えられる。
で、あればサイズ的に中にいるのは侵入者を排除するモンスターではないだろうか?であればいままで何も侵入者対策が無かったのも頷ける。この何もない部屋で閉じ込めて戦わせれば施設の設備を壊さなくて済む。
黒い棺のサイズは2メートル程で、中から出てくるのはそれよりも小さく大きくてもミツルギくらいのサイズだろう。
スピード特化かパワー特化か分からないが、大抵のモンスターならミツルギがいれば大丈夫だと思いたい。
黒い棺はまるで除圧するかの様に音を出しながら空気を吐き出し、中に格納されていたモノの姿を表した。
「こ、これは…」
その姿を見てミツルギは驚愕した。
普段であれば一々こんな事で驚くんじゃ無いと言いたいが、今回の相手の姿を見てミツルギがそう反応するのも無理はない。
棺から出てきたのはこの間まで一緒に仲良くして来た紅魔族の学生達だった。
そう、奴らは皆を殺すだけでは飽きたらず、死体を回収しそれをどう加工したのか分からないが屍人形にしこの施設へ侵入してきた者を迎撃する兵器へと仕立てたのだ。
「これは流石に悪趣味が過ぎるだろう…」
目玉はくり抜かれ、欠損してた部位は他の誰かのものをくっ付けたのだろうと思える程にチグハグで、感知スキルでは無機物として扱われたそれはまるで今も生かされている様に振る舞っていた。
「…ねりまき…あるえ」
その動く屍達の中に見覚えのある姿が見えた。
右手以外の四肢は別人のねりまき、俺達を逃がす際に負ったのだろう全身火傷でケロイドが広がっている身体のあるえ。
バルターは俺と仲の良かった2人を殺して眼を奪うだけでは飽き足らず、その死体までも冒涜していたのだ。
動く屍たちの手にはナイフや剣などそれぞれ得物を持っており、俺の事など覚えていないと言わんばかりにそれを振り回しながら襲い掛かってくる。
「あっ…あ」
「サトウ‼︎何をボーとしているんだ‼︎早く戦わないと死んでしまうぞ‼︎」
「あっ…ああ」
分かっていても今まで時間を共にし、その命を犠牲にしながら俺を逃がしてくれた2人を死んでいるとは言え手に掛けるなんて出来るものだろうか。
気づけば握っていた剣を地面に落っことしてしまい、拾うにも手が震えて剣の柄を握る事が出来なくなっていた。
「サトウ…クソ‼︎もういい僕が相手をする‼︎」
動けなくなった俺が使い物にならないと判断したミツルギは魔剣を振り回し、襲いかかってくる紅魔族の屍を破壊し始める。
「俺は…」
「サトウカズマ‼︎しっかりしてくれ‼︎この子達と何があったか僕は知らないが、上で待っている2人もコイツらみたいにしたいのか‼︎」
ミツルギは俺を正気に戻そうと語りかけてくる。
あいつの言いたい事は痛い程分かる。
死んだ人間にかまけて今生きている人間を疎かにすると言う事は生者に対する冒涜である。
「…あっごめっ」
気づけばねりまきがいつの間にか剣を振りかぶり俺に向かって近づいてきていたが、クリスによって仕込まれていたのか体が勝手に反応してその剣を弾き体を前蹴りで吹き飛ばしていた。
吹き飛ばされたねりまきはゆっくりと体勢を立て直すと、表情を変えずに離してしまった剣を拾いにヨタヨタと立ちあがり進む。
このまま進めば再びその剣で俺に斬りかかるだろう。
「サトウ‼︎サトウカズマ‼︎」
気づけば腰が抜け地面にしゃがみ込んでしまい、それを見たミツルギが遠くで叫んでいる。
周囲には他の紅魔族の遺体が転がっており、いつの間にか奴が一掃したのだろうがそれでも残った数体とあるえが上手くコンビネーションを駆使しミツルギの動きを止めている。
「あ…あぁ…あ」
「…ねりまき?」
何とか手元に落ちている剣を手繰り寄せ、ミツルギからねりまきへと視線を戻すと彼女は剣を振りかぶっており今まさに俺に斬りかかる寸前だったが、その彼女の様子はどこかおかしかった。
「か…ずま…」
「ああ」
一体何が起こったのか分からなかったが、ねりまきは俺の名前を呼ぶと力が抜けたのか剣を手から落とし、俺を探すように右腕で手探りを始めた為、俺は何とか気合いで立ちあがり彼女の腕をとりその軽い体を抱きしめる。
「か…ず…ごめ…」
「…ああ」
彼女は何かを言いたいのか途切れ途切れに言葉を発している。
「め…だい…に…し…てね」
「ああ、ありがとうな」
辿々しいが、ねりまきは言いたい事が全て言い終わったのか満足した様に全身の力を抜き体重を全て俺に預けてくる。
「ごめん…ごめんな…」
俺はもはや何が言いたいのか分からなくなったが、それでもやるべき事は忘れず。
俺はねりまきの腹を剣で貫き、もう2度と起き上がれないようにその首を切り落とした。
「ミツルギ…その火傷の子を俺に任せてくれ」
「ああ、もちろんだ」
ミツルギは俺が正気に戻ったと判断したのかあるえの屍を俺に向けて受け流し、空いた腕で押した。
「あるえもごめんな、後…ありがとな」
「…ああ……」
こちらに向かいながらもあるえは、「ああ、もちろんだ」と俺に言っている様に感じた…いやそう言って欲しいと俺は願いながらねりまき同様俺はあるえの首を剣で跳ね、まるでボーリングの玉を落とした時の様な鈍い音が部屋に響いた。
「ミツルギ、悪かったな。俺もお前の事を悪く言えなくなっちまった」
「それは…いやなんでもない」
ミツルギの方も、あるえという指揮者を失った為グループの動きが乱れ簡単に倒せたのだろうか…いや、俺の為に気を回していたのだろう、今までの苦戦は何だったのかと思えるほど鮮やかに皆を屠っていた。
「少しだけ待ってくれないか?」
俺はミツルギにそう伝え、返事を待たずに皆の亡骸を1箇所に集めるとそこに火を放った。
この施設は魔法を無効化するが、ものに燃え移る分には判定が無いのかそれとも侵入者を排除するこの部屋は対象外なのか、下級魔法の炎により皆の遺体を燃やす。
遺体に放たれた炎は力が入っていたのかいつもよりも高火力で燃え上がる炎は俺を慰める様におれをてらした。
2度も助けられなかった命だ、こんな事でしかできないが少しは弔えただろうか?
また再利用されるなんてことは御免被りたいところだ。
「待たせたな、次の部屋に行くぞ」
「良いのかいもう少しくらいなら僕も気にしないよ」
「気にすんな、それよりもお前の仲間を見つける方が先だろ?」
死者への弔いはこれで終わり、これからは生きるもの達を優先しなくてはいけない。
それが例え自分の過ちと向き合う事になっても…
次回は休みかもです