この女神の居ない世界に祝福を   作:名代

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誤字脱字の訂正ありがとうございますm(_ _)m


狐狼の青年4

「いつまでもこうしちゃいられないな、次の部屋に行こう」

「ああ、そうだね」

 

皆の屍を全て杯にし少し立ち尽くしてしまったが、このままでは奴の思い通りになってしまうと判断し精神的にはまだ立ち直りきっていないが進む事にした。

 

…このまま進んで大丈夫だろうか?

頭の中に不安がよぎる。

 

この施設の上層階はめぐみんの冒険者カードを見る限り俺に関係のないモンスターばかりだったが、今回の紅魔族を使った防衛はピンポイントに俺達を狙ったものだろう。

何も関係のない人間からしたら魔法の使えない紅魔族の学生などその辺で生息しているモンスターよりも弱く脆い存在だ、そんな者にこの施設の防衛を任せよう者ならいとも簡単に突破されてしまうのは火を見るよりも明らかだ。

 

であれば、奴はこの施設を俺がいつか突破しにくるものだと想定し、あの短期間で侵入者を襲える程の改造を施している。

まあ、急ごしらえだったので完全ではなく本人達の人格は少し残っていたのだが、それでも突貫工事でこのクオリティを出すと言うことは事前に紅魔族の学生を利用することは決めていたのだろう。

 

このまま進んでいけばきっと俺の心を砕きにくるトラップが待ち受けている気がするが、それでもすす間なくてはいけないと己に喝を入れる。

 

皆を倒したおかげだろうか、セキュリティーロックのかかった扉は先程とは違い簡単に開く。

まるでゲームの様な光景に馬鹿にされている気がし怒りが湧いてくる。

 

あいつはこの光景をゲームの様に楽しんでいるのだろうか?

 

…いや、考えるのは止めよう。

奴の事だ、俺が考えに考えて行動している事は重々承知の上だろう、であればここではあまり考えずに進むのが正解で悲しみも後悔も全て終わった後に考えればいいだろう。

 

 

 

「次の部屋だな…なんか随分と雰囲気が変わったな」

 

次の部屋に進むと、今まで見ていた物が子供騙しに思えるほどに規模が大きく趣味は悪辣だった。

 

周囲には最初の部屋と同じ様に大きなシリンダーに人が浮いて居るが、最初の部屋と違う点はそれが人の形から逸れ始めている事だった。

 

きっとそれぞれにテーマを与えて人の肉体に後付けでテーマに沿った条件を設定し付与し、それによって肉体がどう変化するかを研究しているのだろう。

その証拠に最初のシリンダーには手が退化し羽毛が生えている人間が浮いており、次は下半身が両足とも癒着し魚の様に鱗が生えている人魚の様な人間が浮いている。

そしてそのシリンダーの隣にはテーマと思わしき名前が刻まれており、最初は鳥人間、次に人魚、そして続く様に御伽話の生物が並んでいる。

 

「これは…ここの研究者は人間を馬鹿にしているのか‼︎こんな…こんな事は命の冒涜だ‼︎」

 

ミツルギはその光景を見て何かを感じたのか、まるでどこぞの正義の味方な様な事を言っている。

正直ねりまきやあるえの件でかなり心に来たが、名前の知らない他人が現在の様に酷い目にあっていても特に何かを感じたりはしなかった。まあミツルギの気持ちも分からなくもないが、身内でも何でもない人間の為によく怒れるなとある意味尊敬する。

 

「…?」

 

自分を取り戻したミツルギが仲間を探し始めたので、その間何をするかと周囲を物色していると研究者のノートを見つけたので暇つぶしがてら読んでみると、この部屋の実験についての経過が書かれており内容としては俺の想像した通りに人間に他のモンスターや動物の遺伝子を組み込み老化を除外した進化をさせる事で高い知能とその種が持つ特殊特性を会得させ、人類の進化を促進させようと言うものだった。

 

研究資料を読み進んでいくと、殆どのものが失敗に終わり理由はどうしても肉体と魂の関係が必要な条件になり…

 

「すまない…どうやらここの部屋にも僕の仲間は居なかったみたいだ」

「そうか…次の部屋に行くぞ」

 

この部屋では特にやることもなく、ミツルギの仲間もいなかったので先に行く様に促す。

資料はまた後で読めばいいだろうとスキルで収納する。

 

 

「また随分と悪辣な部屋だな」

 

部屋を進むごとに部屋の異質度が上がっていき、シリンダーの中の人間姿は最早人の形をしている者を探す方が難しいほどだった。

 

「ここまで変形しているけど仲間がいるかわかるか?」

「…正直に言うと分からない、だけど一目見れば気づけるかもしれない」

 

ミツルギは最悪の事態を想定しているのか少し震えながらも、ここのフロアには居ないでくれと願いながらもシリンダーに収納された生物を確認していく。

 

さてと

ミツルギが仲間を探している間俺は奴の残したであろう研究資料を探し、隅の方に置かれているそれを見つけ目を通す。

 

この部屋のテーマは寿命や肉体損傷を克服した不死生物の作成となっており、不老不死自体の作成には成功したが肉体が魂に耐えきれず人の形を保てないと記載されている。

それについての考察は…

 

「あっ…ああ…」

「どうした‼︎また警備兵が現れたか⁉︎」

 

先程が俺に特化していたように今度はミツルギに特化した敵が現れたのだろうと思い奴のもとへ駆けつける。

しかし、こんな実験場で現れるかと思ったが対象が不老不死であるなら壊れても問題ないかと納得させて向かう。

 

「…何だ敵じゃ無いの…か…?」

 

ミツルギの姿が見えるところへ向かうと奴はシリンダーの前で腰を抜かしたのか尻もちをついて倒れており、敵が現れたものでない事は分かったがそれにしては様子が変だった。

 

「あれは…僕の仲間だ、ま、間違いない…」

「何…だと⁉︎」

 

奴が指を指し仲間だと言い張るそれはシリンダーに収まり、ドロドロに溶けかけている人間だった。

溶けかけていると言っても液状ではなく、車の中に置きっぱなしにして車内の高温で変形したフィギュアみたいなそんな感じの物に近しいものだ。

 

「見間違えとかじゃないのか?他人の空似とかあるだろ?」

「見間違えなんかあるものか‼︎僕が今まで共にした仲間を見間違えるはずないだろ…彼女は間違えなく僕の仲間だ…」

 

もしかしたら仲間では無いと願うあまり反対に見たく無いものを仲間では無いかと錯覚したのでは無いかと問い詰めると、奴はそんな事はないと断言するようにそう言った。

 

「…そんな…嘘だろ」

 

確かによく見てみると腕があったであろう場所に刺青の様な痕があり、かろうじて残っている目は何処か見覚えのあるものだった。

 

「多分大丈夫だ。戻す方法が必ずある筈だ、ここは実験施設なんだ変になっちまったら元に戻せないとモルモットが尽きちまうだろ?」

「あ、ああ、そうだね。この先に君の言うバルターがいるならとっちめて聞かないとだね」

 

変形させるなら元に戻す方法がなければ、個体差が発生しデータが取り辛くなってしまう筈だ。

 

「そうだ、最奥に行けば…」

「そんなご都合展開が今更あると思っているのかい?」

「なっ⁉︎」

 

気づけば目の前には目的の人物であるバルターが姿を現していた。

 

「お前は⁉︎」

 

奴の存在に気付いた俺たちは一瞬の内に奴から距離をとり臨戦体制へと移行する。

この施設に奴が居るのであれば何処かで遭遇するだろうとは思っていたが、まさか奴からこちらに出向いてくるなんて思っては居なかった。

 

それにしても奴がこちらに近づいてきている筈なのに感知スキルに反応しないというのは一体どういう事なのだろうか?

謎が謎を呼ぶが、今はそれどころではないだろう。

 

「そんなに警戒しないでくれないか?下手に暴れ回られると困るんだ」

「あぁ?散々ひでぇことしまわっておいて自分の陣地で暴れ回ったら困るだと?ふざけてやがるのか‼︎」

 

奴の言葉に堪忍袋の尾が切れたのか気づけば全身が煮え繰り返るような激情感に支配され剣を鞘から抜き構える。

 

「待ってくれサトウ‼︎ここには僕の仲間がいるんだ!アイツには今の所戦う意志がないみたいだし今は話を聞いてあげるのはどうだろうか!」

「流石勇者ミツルギと言われるだけはあるね、状況把握能力は優れている様だ」

「…」

 

ミツルギの言葉に自分が逆の立場だったらと思い、仕方がないと言い聞かせながら剣を鞘にしまう。

 

「ここで暴れ回って困るのは僕だけじゃない、一番は君だと思うよ?」

「どういう事だ?」

「さぁ、どうだろうね。とりあえずついてくるといい」

 

奴は俺達が何もしてこないと判断したのか、着いてこいと

言わんばかりに次の部屋へと俺たちを案内する様に進んでいく。

 

一体どういう事だろうか?

俺とバルターの関係性を考えるとここで殺してしまうのが一番先決だろうが、奴の言い分ではこの施設を傷つけたくない為場所を変えたいと言っている様に感じる。

だとしたら俺たちが案内されるのは戦闘用のスペースだろうか?

 

いや、もしかしたら俺達を一網打尽にするための罠の部屋を用意している可能性もある。

しかし、バルターからはいつも感じていた敵意を感じない。これに関しては感知スキルが何故か上手く機能しないので単純に感じないだけかもしれないが。

 

ここで戦うのはミツルギの言う様に得策ではないので仕方なく奴についていくことにした。

もちろん先頭はミツルギだ。

 

 

 

 

 

 

 

あれからバルターの後に着いて行っているのだが、すぐさま罠に嵌めるわけではなくむしろこの工場に関しての解説をし始め工場見学をしている気分になってしまっている。

 

「ここではいろいろな研究をしていてね、昔は色々な研究者を雇ったりしていて色々なものを作り出していたんだよ」

「はぁ?それがあの気持ち悪い生物か?」

「ふぅ…君にはあれが化け物にしか見えない様だね、残念だよ」

「サトウ…」

「ああ、悪かったよ」

 

どうやら気持ち悪い生き物という言葉に彼は反応したんだろう、会話が切れたタイミングでミツルギは俺の言動を咎めた。

 

「前から聞きたかった事なんだけどよ、お前は一体何の為に行動しているんだ?」

「それを君が聞くのかい…いや、そうだね。それは君自身が考えるといい」

 

何故か友好的な雰囲気を出している為、もしかしたら話してくれるかもと思いながら奴に質問を飛ばすがバルターは俺の質問に呆れる様に笑いながら跳ね除けた。

どうして敵対していたのに施設を案内しているのか、そして何故奴は王兄をそそのかして王都を掌握したのか、それについてを語るつもりはない様だ。

 

「紅魔族を何で襲ったのかは聞かせて貰えないか?」

 

俺は歩みを止め、奴の首元に剣を突きつけながら問いかける。

今現何の怪我も追わずに施設を案内出来ているのは奴の行為のおかげだが、ここに来るに至る経緯は全てこいつが起こした行為による物なので許す事は出来ない。

そう、例え紅魔族が皆殺しにされた事が正しかったとしても、学生の躯を使って迎撃するなんて考えは許されていいことではない。

 

「紅魔族かい?ああ、そうだね、君にとっては辛い思い出かもしれないね…あれに関しては仕方ないと言った方がいいかもしれないね?」

「はあ?どういう事だよ」

「そう怒るなよ、紅魔族は元々こうなる予定で作られていてね、これでも期限を伸ばした方だ君の為にね」

「はぁ?」

 

バルターの言葉は要領を得ずに困惑だけが残る。

バルターは頭が弱いわけではなく、むしろ頭脳明晰のはずである。それがこんな抽象的な発言しかできないと言う事はそれ相応の事情が存在することになる。

奴が裏で糸を引いている以上考えられる事情は限られてくるが、もしも奴に上がいるなんて考えたくもない。

 

そして奴の言葉を聞き、昔紅魔の里で見た研究者のノートの件を思い出す。

あのノートに書かれていた内容は、研究者が誰かの指示によって紅魔族という人造人間を作ったという事だ。

その目的は魔王討伐の戦力向上と書いてあったが、デストロイヤーがあるのにわざわざ人造人間なんて作る必要はあるのだろうか?

 

もっとあの日記を読んでおけばよかったと思うが、あの日記と記録は既にこの世にはないだろう。

 

そんな事を思っている内にある事を思い付いてしまう。

現状デストロイヤーの動力源であるコロナタイトは伝説上の物質であるため世間ではその作成方法が不明であり、あの出力を出すものがマナタイトの様に鉱山に埋まっている物なら発掘する際に大爆発を起こしかねない為自然界に存在するとは考えられない。

であれば人工的に作ったとしか考えられない、そしてその生成方法は紅魔族の眼が必要とバルターは前に言っていた。もしコロナタイトがさいしょから…

 

「そこまで時間があれば君でも考えついた様だね。そう、コロナタイトは紅の眼から取れる魔力を凝縮して作られるもの、紅魔族はデストロイヤーの動力源の為だけに生み出された一族なのさ」

「…そうかよ」

「本来であれば死期を悟った紅魔族は里を出るからそれを回収していたんだけど、予想外に寿命が伸びて魔力の抽出量が減って効率がかなり悪くなってね」

「それで仕方なくか…それでも全員殺す必要はなかったんじゃないのか?」

「ふっ…君はあんなに一緒に過ごしていたのに紅魔族の恐ろしさを何一つ理解していない様だね」

「…」

 

バルターの言葉に何も返せなくなる。

 

「僕もいいかな?」

「別に構わないさ、でもその剣は降ろして欲しいかな時間が惜しい」

「…どう言う事だ?」

「君の質問には答えただろ?それに彼の質問に答えて欲しくはないのか?」

「サトウ頼む」

「…分かったよ」

 

ミツルギに言われるがまま剣を下ろす、正直バルターが本気になればこの剣を避けて俺に一撃喰らわせるくらい容易だろう。

俺が剣を降ろした事を確認したバルターは再び歩みを進めながら会話を再開する。

 

「あの時僕の前にあったシリンダーには仲間が入って居たのは知っているかな?あの子を助けたいのだが元に戻す方法を教えて貰えないだろうか?」

「ふっ…そんな事か。言っただろうそんなご都合展開など無いってね」

「そうか…」

 

ミツルギはバルターの言葉に肩を落としながら何とも言えない表情を浮かべる。

正直今すぐこいつの首を切り落としたいが、何故だかわからないが俺の本能がここで戦うのは不味いと言っている。

 

「あの機械には操作板の横にイジェクトボタンが存在する、もしここから出れる機会があったら押して連れていくといい」

「…どう言うつもりだ?」

 

奴のセリフに違和感を覚える。

 

「着いた、ここがこの施設の最新部女神の部屋さ」

 

違和感を覚え、その正体が一体何なのかと思ったところで目的地に着いたのかバルターは声を少し高めながらそういった。

 

「ここは…クリス⁉︎」

 

部屋には今までの部屋とは比べ物にならないほどの機材が所狭しと並べられ、その中心にはクリスが十字架に磔にされる様な格好で固定されていた。

今まで姿がなかったと思っていたが、こんな所に閉じ込められて居たとは思わなかった。

 

しかし一体彼女が何故こんな所に捕えられて居たのかが疑問になるが、彼女の事だから飛んだ先でバルターの存在に気づきこの施設に乗り込んだ所を奴に見つかり捕えられたのだろう。

 

「…じょ、助手くん」

「クリス⁉︎大丈夫か⁉︎今助ける…くっ‼︎」

 

クリスを助けようと彼女の元に向かうと、さっきまでの従順さはどこに行ったのかバルターが剣を抜き俺の前に立ちはだかる。

 

「悪いけどまだ君達はここで待機して貰おうかな」

「…一体何のつもりだ」

「彼女は僕の実験の中でも最等級に重要でね、ちょうど周期だから見せてあげよう」

 

奴は剣で俺とミツルギの2人を牽制しながらアイコンタクトで何処かにいるであろう部下に合図を送ると、部屋の施設全てにエネルギーが流れ稼働を始める。

 

「うっ…あ、あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっぁぁっぁーーっ‼︎」

 

そのエネルギーはすべてクリスの元に向かい、彼女に負荷を掛けているのか姿がまるでホログラムのノイズの様にブレていく。

 

「クリスに何をしやがんだ‼︎」

「いいから君は黙って見ていなよ」

 

観ていられないと剣で斬りかかる俺の剣をいなしながらバルターはそう言い俺の腹に足をめり込ませた。

 

「…クリス」

 

俺の行動虚しくブレていくクリスの姿は徐々に見覚えのある姿へと変貌する。

 

「え?エリス様?」

 

長い銀髪に青を基調とした服装、それは何時ぞやにお世話になった女神の姿そっくりだった。

 

「へぇ、既に女神の彼女に合っていたのか、本当に手癖の悪い女神だな」

「どう言う…事だ?」

 

痛みに呻きながらバルターに問いかけると、彼は笑いながら実験について説明し始める。

 

「君は知らない様だけど、彼女はエリス教の神体エリスでね。彼女はこうして人間だった頃の肉体を使ってこうして人間界の様子を見にては余計な事を始めるのさ」

「余計な…事など…」

「クリス‼︎」

 

謎の刺激に苦しみながらもバルターの言葉に反応できるのか、彼女は苦しみながらもバルターの言葉に反対するように言葉を捻り出す。

 

「少しうるさいな、おい」

「う…あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっぁぁぁぁぁぁぁーーっ‼︎」

 

言い返されたのが嫌だったのかバルターの言葉に反応するように出力が上がり、彼女にかかる負荷が上昇する。

 

「そう言えば、君の眼から抽出した魔力を結晶化させたものが奥の倉庫にあるから時間があったら持っていくといい」

「何を言っているんだ?」

「さて、私は何を言っているのだろうね」

 

バルターの表情はまるで全てをやり遂げた老人の様に安らかなものであり、今まで命を奪い合った人間とは思えないほどだった。

 

「そろそろ終わる時間だね」

「お前はクリスを使って何をしているんだ?」

「彼女の体から女神の身体を引き摺り下ろし、その女神の力を絞り出して新しいエネルギー体を作り出す」

 

苦しむ彼女をよそに、機械は何かのエネルギーを彼女から吸い取りそのエネルギーは何かのコードを伝いながら別の機械に移されクリスタルの様なマナタイトが生成されていく。

 

「僕はこれをエンジェライトと呼んでいる」

 

一通り彼女からエネルギーを吸い取り終わったのか、クリスの姿はエリスの姿から元の少女の姿へと変わっていた。

 

クリスがエリス様で時折人間の姿で色々作業をしていた所をバルターが捉え、そのエネルギーを吸収して生成していたと言う事だろう。

そして周期と言っていたので、またしばらくして彼女の力が回復しだい同じ様に彼女からエネルギーを吸い取る予定という事が伺える。

 

「くっ…相変わらず非人道的なことをしてくれるね…」

「そうかい?高い所から見ているだけでは飽き足らず、わざわざ降りてきて余計な事をしてまわるそっちの方が非人道的だと思うけどね」

「うるさいな…こっちにはこっちの事情があるんだよ、君みたいに好き勝手出来るほど楽じゃないんだよ‼︎」

「やれやれ、これだからボケ老人は扱いに困る。君の役目はまだ先だろ?大人しく引っ込んでいてくれないか?」

「何を…うぐっ⁉︎」

 

気づけば奴はクリスの前に立っており、動けない彼女をいい事に彼女の胸に持っていた剣を突き刺した。

 

「君の気持ちも分からなくもないが、見ているこっちからしたら不愉快極まりない」

「くっ…うっ…」

 

バルターはそう言いながら剣を引き抜き、彼女の傷口からは大量の血液が流れ始める。

 

「クリス‼︎」

 

彼女の死が確定したのか装置の拘束が解け、彼女の身体は頼るすべを失いそのまま地面へと倒れ込む。

 

「助手くん…」

「クリス今回復させるからな」

 

急いで彼女の傷口を塞ぐべく回復魔法をかけるが、彼女の胸の傷口は一向に塞がることは無かった。

 

「何だよこれ‼︎どうしてだよ‼︎」

「無駄だよ…生命の源である魔力を殆ど吸い取られたんだ…いくら君が回復魔法をかけても…」

「クリスもういい‼︎喋るな‼︎」

 

魔法の等級が低いと回復できないのだろうか、それとも彼女の言うように回復魔法はファンタジーのように無条件で治すのではなく、何かしらの原理があり今回の怪我はその対象外という感じなのだろうか?

 

「大丈夫…また会えるから…」

「クリス?…いったい…何を…ん⁉︎」

 

気づけばクリスは俺の頭に手を回しその口で俺の口を塞いだ。

 

「今度は…君が導くんだよ…」

「クリス⁉︎」

 

彼女はそう言い満足したのか、そのまま全身の力が抜け動かなくなった。

感知スキルで彼女の気配を感知することは出来ない。

 

クリスは息を引き取ったのだ。

 

 

 

 

 

 

「さて、感動のお別れは済んだかな?」

「…バルター‼︎」

「そう怒るなよ…僕だって好きで殺したわけじゃないんだ」

「さっきから何をごちゃごちゃ言ってんだ‼︎お前は‼︎」

 

詳しく説明せずに自分勝手に俺の周囲の人間を殺していく奴に俺の怒りは限界に達した。

 

そこからの事は考えるまでもなく、剣を鞘から引き抜き奴に斬りかかる。

 

「ミツルギ‼︎作戦通り連携で行くぞ‼︎」

「あ…あぁ‼︎」

 

今まで目の前の状況に理解追いついていなかったのか呆然と状況を眺めたいたミツルギに声をかけると我に帰ったのか、魔剣を構え応戦する。

 

「やれやれ、本当に芸がないんだな君達は」

 

バルターはいつものように俺達の攻撃を1人で捌いていく。

正直怒りに任せたままではいつもの様にやられてしまうのがオチだろう。早いところ距離を取って冷静になろう。

 

「ミツルギ任せた‼︎」

「了解‼︎」

 

俺が一度距離を取る際の作戦は決まっており、その場合は狙撃スキルで援護するという内容になる。

狙撃スキルは幸運値によって命中率が変動するため考え事をしながらでも当てることが可能である。

 

「狙撃‼︎」

 

ミツルギの援護をしながら感情を落ち着かせ冷静さを取り戻させる。

その間に奴の動きを見定め次の行動への足掛かりとする。

 

「…?」

 

遠くからバルターの動きを見ていると、以前と比べて動きが少し鈍くなっている様な違和感を覚える。

 

奴自身ここに来る過程で消耗しているのかもしれない。

だからこそ、実験室では相手をせずわざわざ動きやすいこの部屋まで案内させ戦闘を行ったのかもしれない。

 

「ミツルギ‼︎奴は少し消耗しているかもしれない!つけ込むぞ‼︎」

「ああ‼︎」

 

狙撃を中断し剣を鞘から抜き再び戦場へと舞い戻る。

いくらバルターが消耗しているとはいえ、油断すれば2人とも一瞬でやられてしまうのは火を見るよりも明らかだろう。

 

「グアっ⁉︎」

「ミツルギ‼︎」

「あまり舐めてもらっては困るな」

 

2人で挟み込むように攻撃をするが、やはり相手はバルター、持ち前のセンスと足運びで俺達のリズムを崩し気づけば2人とも奴の間合いである正面へと移動している。

それでも二体一の有利を崩さないために2方向の攻撃を仕掛けるも俺の攻撃は防がれ、ミツルギは回し蹴りで攻撃を放つ前に吹き飛ばされる。

 

やはり一体少人数相手の動きは魔王軍幹部とは桁が違い過ぎる。

 

「悪いけど君には少し離席願おうかな」

「くっ‼︎」

 

気づけばバルターはミツルギとの距離を一気に縮めると、恐ろしい程のコンビネーションでミツルギを組み伏せその意識を奪う。

 

「ミツルギ‼︎」

「ようやく邪魔者が消えた様だね、さて本題に入ろ…ちっ⁉︎」

 

ミツルギが意識を失った所でバルターが何かを言いはじめるが、それを遮るように数本のナイフが投擲される。

 

「シルフィーナ‼︎」

「カズマ様‼︎」

 

ミツルギが気絶した事で俺との約束通り参戦してきたのだろう。

 

「全く次から次へと…」

 

バルターはその光景を見て少し呆れながら剣を構え直す。

 

「全く君は次から次へと本当に君は女にだらしが無いな‼︎」

「余計なお世話だ‼︎」

 

仲間を切り替え第二回戦が始まる。

今までは両方とも近接系だったので互いに間合いを気にしあっていたが、今度はシルフィーナの為その辺は彼女に任せて俺はやりたい様に動く。

 

「サトウカズマ‼︎君は今の現状をどう思う‼︎」

「何がだ⁉︎」

 

互いの剣がぶつかり、俺の攻撃打ち終わった隙を埋める様にシルフィーナが攻撃を放ちその間に呼吸と体勢を立て直し再び攻める。

 

「全てが自分を中心に回っていると考えた事はないか?それこそ誰かが書いた小説の様に」

「ああっ⁉︎何で今それを聞くんだ⁉︎」

 

戦闘しながらバルターは話を間に挟み込んでくる。

時間稼ぎをしているつもりなのだろうか?

 

「やはりそうか…」

「俺は俺のやり方でやっている‼︎そこに誰かの意思なんかない‼︎」

 

奴の攻撃を弾き返し、シルフィーナの追撃とともに追い討ちを放つがそれを反対に返される。

 

「いつか全て失いそうになった時、僕の言葉を思い返すといい」

「さっきから何を言っているんだお前は⁉︎周りくどい事言ってないでハッキリ言いやがれ‼︎」

 

先程からまるで物語に出てくる思わせぶりのキャラの様なセリフばかり吐くバルターに段々と苛立ち始める。

これが奴の作戦であれば100点満点を与えたい程に奴の言動は俺をイラつかせた。

 

「カズマ様冷静に‼︎相手の言動に惑わされてはいけません。あの男は全てにおいて規格外です、あのクレアを引き込むほどの話術があるので話を聞いてはいけません」

「ああ、分かっている‼︎」

 

シルフィーナが俺に投げてきたナイフを剣で弾きながらバルターに当てようとするが、そんな事予想済みだと言わんばかりに躱される。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ…はぁ…君も随分としぶとくなったじゃないか」

「お前は…はぁはぁ…随分と…弱くなったんじゃないか?」

 

互いに実力が拮抗しているためか決定打が掛け、俺達の戦いは泥沼とかしている。

 

「うっ…ゴホッ…」

「バルター?」

 

バルターはまるで漫画のように咳き込み掌に血液を撒き散らしている。

どうやら俺の攻撃が内臓まで届いている様だ。

 

残された時間は短い、奴が弱っているとは言えこのまま行けば負けるのは俺だろう。

 

「シルフィーナ‼︎悪いが全てを一気に叩き込む‼︎」

「分かりました‼︎」

「これはまた、随分と大胆な事をするんだね‼︎」

 

このまま行けば負ける。

ならばこの攻撃に全てをかけ奴を倒しきるしかない。

 

剣に魔力を込め、全身に魔力を循環させる。

これを全て防ぎ切られたらしばらく歩く事はできても戦う事はできないだろう。

 

「バルター‼︎」

 

シルフィーナが持っているナイフをバルター周囲に向かって全て投擲し、奴の逃げ場を全て埋める。

逃げ場を失った奴に向かって俺は全力で剣を振る。

 

「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉーーっ‼︎」

「甘い‼︎」

 

第一の横凪は剣で防がれるが、痺れを与え奴の剣技を一時的に封じる。

しかし、第二撃は躱される。

そして、第三撃も躱される。

しかし奴を投擲の雨の際へと押し込む事に成功する。

 

残る最後の一撃、第四撃を打つ際に、奴は際と剣の間合いの隙間に身体を滑り込ませる。

もう一歩踏み出す余裕はもう無い。

 

つまりこの勝負俺の負けだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーー全く、助手君はいつになっても手を離せないなーー

 

何処かで誰かが囁いた気がした瞬間、何者かに背中を押される感触がした。

 

「何⁉︎」

 

完全に安全圏に逃げられたと思っていたバルターは驚愕の声を上げる。

 

「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉーーっ‼︎」

 

俺は幻の一歩を踏み出し、避けられたと油断した奴の身体を切り裂いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ゴハッ…」

「バルターお前の負けだ、いい加減お前の知っている情報を全て吐いてくれないか?」

 

満身創痍で動けないバルターの上半身を壁に立てかける。

下手に回復魔法をかけて回復されると困るので、死にかけではあるが奴の意識を取り戻させ話を聞く。

 

「最後の最後に油断するとは僕らしくない…」

 

奴は自分の身体を見ると、自分はもう長く無いと把握し諦めた様にそう言った。

 

「それで…」

「しつこいな…分かっているさ」

「お…おう」

 

バルターはまるで受験が終わった学生の様な達成感を感じているのか少し子供が駄々をこねる様にそう言った。

 

「この奥の倉庫に…金色のネックレスがある…それは身体を入れ替える神器で…使い方はそこに書いてあるニホン語を読めば発動する…」

 

そして入れ替わった後自分の身体を殺せば相手の体を乗っ取ることができると、バルターは息も絶え絶えながらそう言った。

 

「バルター?お前は何を言っているんだ?」

「話を聞け…時間がない…ごほっ…お前が神に祈るしかなくなった…時に持っていけ…」

 

さっきからバルターは何を言っているのだろうか、意識が朦朧として物語と現実の区別がつかなくなったのだろうか?

 

「後…最後に勇者サトウにあったら…伝えてくれ…頼まれた物は全て揃えた…隠し場所は…自分で決めろ…」

「はぁ?おい、どういう事だよ⁉︎」

 

勇者サトウだと?

何故御伽話である勇者の名前がここで出てくるのか?

 

奴はまだ何処かに生きているのだろうか?

奴が王都を狙った理由は…

 

「やっと終わった…僕はやり遂げましたよサトウさ…」

 

最後は俺を誰かと勘違いしたのか、テストでいい点数を取って褒められる事を待つような少年の顔をしながら俺に手を伸ばしていた。

 

「バルター…お前は一体…」

 

最後に残ったのは達成感でも無ければ虚無感でもなくただ疑問が残った。

 

 

 

 

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