この女神の居ない世界に祝福を   作:名代

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黒き聖女1

「バルター…お前は…」

 

静まり返った部屋の中でバルターは息を引き取り、俺たちの戦いは一旦幕切れを迎えた。

 

「シルフィーナ、俺は少しこの周囲を探索するからミツルギを頼む。まだ息はしていると思うから適当に応急処置をしてくれ」

「わ、分かりました」

 

感知スキルではミツルギの気配は微弱だが感じられるので多分だが気絶しているだけと思われる。

シルフィーナにミツルギを任せて俺はバルターの言っていた奥の部屋とやらへ向かう。

 

奥の部屋を探してみるが、この部屋は施設の中心らしく色々な場所への入り口がある為何処が奥の部屋なのかがイマイチ分からなかったが、ある部屋の前に黒い影が立ちすくんで居ることからその部屋が奥の部屋であると考え向かう。

周囲に居た人影らしきものは近くに行くと影の様な存在で、この施設で生産されるエネルギーで稼働する人工知能を持った存在だと考えられる。

 

「…」

 

黒い影に近づくと俺を認識したのか、まるで誰かが来るのを待っていたと言わんばかりに扉のロックを解除し、俺を中の部屋へと案内する。

部屋は想像よりも狭く、奥に金色のネックレスが丁寧に収納されており、その隣にはドラマで大金が入っているようなジェラルミンケースに黒色の大きなマナタイトがいくつか入っていた。

 

黒いマナタイトなんて一体何に使えと言うんだと思ったが、あのバルターがわざわざ残したと言う事はきっと何か意味のある物なのだろうと、ケースの蓋を閉め金のネックレスと共に回収する。

他に何かあるかと探してみたが、この部屋にはその二つしか無い様で宝感知のスキルを発動しても何も無いことだけがわかった。

 

「…やあ、肝心のところで役に立てなくて悪かったね」

「いや、正直お前がいなかったらここまで辿り着けなかったから助かっているよ」

 

荷物を回収して先程の部屋に戻るとバルターの死体が消えているなんて事は無く、手当が終わり一人ぼっちで意識不明だったミツルギが目を覚まして申し訳無さそうにそう言った。

 

「とりあえず他に何かないか探さすから手伝ってくれ」

「ああ、分かったよ」

 

正直ゆんゆん達と合流して4人で施設を探したかったが、一度出ると施設が崩壊して2度と出入りができない的な展開があるかも知れないのでここで探して手に入る物は手に入れておきたいのだ。

 

ミツルギと別れ、各自部屋を捜索していく。

この施設自体の構造はマップでは少し複雑そうに見えたが、実際に動き回ってみれば分かりやすく利用者には優しい設計となっており迷う事は無かったが、施設にあるものはどれも実験に使われる人間や生物ばかりだった。

 

「なあ、他に何かなかったか?レアそうなアイテムとかさ」

「すまない、僕なりに探しては見たけど珍しいものは無かったよ」

 

色々探し回ってみたのは良かったが、あの部屋以外に珍しい物や役に立ちそうな物は何も無く、あるのは膨大な実験データと実験動物ばかりだった。

俺の予想ではデストロイヤーや魔術師殺し関連の物があると思ったが、この施設とは別の他の施設が存在し、そこに機械系の物があるのかも知れない。

他にも紅魔族ほぼ全員の眼をくり抜いてあるのであればもっと紅の眼があってもおかしくは無いのだが、この施設にある数を見る限りやはり別施設にありそうだ。

 

「あるのはこれとバルターの持っていた剣か」

 

ケースに入れなかった為揮発したのか、エリスから吸収したエンジェライトは姿を消していたが、クリスの遺体はそのまま転がっていた。

 

「とりあえず2人を外に運び出すぞ」

「すまない、手伝ってあげたいのは山々だが僕にも仲間がいてね…」

「ああ、そうだったな悪い」

「こちらこそすまない」

 

2人を外に運び出して弔おうと考えたが、ミツルギは元々仲間を助けにきた事を忘れていた。

なので、クリスはそのままでバルターの遺体を換気口の近くで燃やし骨を砕いて処理する事にし、奴の服を脱がすと奴の体はまるで病気に侵された様に痩せ細っており所々魔術か何かの文字で肉体の補強をしていた様だった。

 

そんなこんなでバルターの処理を終えた俺らは来た道を辿りながら例の部屋に行き、ミツルギの仲間が居る実験でシリンダーから彼女だったモノを回収する。

 

「…サトウ、何も言わないでくれないか」

「ああ、分かったよ」

 

ミツルギはそう言いながら機械にあるイジェクトボタンを押すと、奇抜な音と共にシリンダーの中にある水が抜けていき、最後にシリンダーの窓が開き残ったソレが姿を表した。

 

「…」

 

実際に現れたそれの姿は光の反射なのかシリンダーの中とは違い何とも言えない肉塊だったのだ。

 

「…」

 

ミツルギに言われた事に従い何も言わずにみていると、彼はその肉塊を大事そうに何かの布で包み、抱えながら俺の方に振り向く。

 

「すまない、待たせたね。それじゃあみんなの元へ戻ろう」

「ああ」

 

俺はなんとも言えない程微妙な顔をしながら答え、そのまま無言で入り口へと向かう。

生きているが原型を留めていない仲間と、死んでいるが綺麗な状態の仲間を抱えた俺達は一体何をしにここに来たのだろうかと喪失感を抱えながら階段を登って行った。

 

 

 

 

 

 

 

「そうでしたか…クリスさんが…それは辛いですね…」

「ああ」

 

入り口に出るとゆんゆんが待てなかったのか施設の残骸の近くで座って待っており、俺の無事を確かめ嬉しそうに近づいてきたのは良かったが、俺の背中に乗っているクリスの姿を見て全てを察した。

 

「とりあえず砦に一旦戻ろう、クリスを火葬したい」

「…分かりました」

 

ゆんゆんに伝えるとめぐみんを連れてきますと、先程まで居たであろう待機場所までかけて行った。

 

 

 

 

 

その後めぐみんと合流した俺達はテレポートで砦まで飛び、長に頼み砦で亡くなった冒険者を弔う設備にてクリスを弔う。

 

「…」

 

燃えていくクリスの身体を見ながら今まで出会い失ってきた人たちの顔が浮かんでいく。

異世界にきて待っているのはハーレムなどいい事づくめでは無いとは思ってはいたが、ここまで厳しいモノだとは思っていなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

ウォルバク討伐の礼なのか暫くの期間という条件付きではあるが、砦にある部屋を貸し出してくれるという事で俺達はお言葉に甘えて再び部屋を借りる事となった。

これからどうしようか、と部屋でクリスの残したマジックダガーに光を反射させながら想いに耽っていると部屋の扉がノックされる。

 

「誰だ?」

「私です、ゆんゆんです」

「なんだゆんゆんか…」

「何だとはなんですか⁉︎」

「悪い悪い、それで何かあったのか?」

 

色々あったので皆今日は大人しくしているであろうと思っていたが、ゆんゆんが俺の元を訪ねてくるとは意外だった。

 

「少し外に出てお話しでもしませんか?」

「ああ、今行く」

 

ここでは話辛いのだろうか、彼女が場所変えを提案してきたのでそれに従う事にした。

 

 

 

 

「ここは…」

「紅魔の里の跡地です」

 

扉を開けるとゆんゆんと一緒に何処かへ飛ばされたのか、扉を開けたら別世界だった的な感じで景色が変わっていた。

 

「1人では危ないかもしれなかったのでカズマさんに同伴を頼んじゃいました」

「そうなんだ、別にいきなり飛ばさなくてもついて行ったんだけどな…」

「まあまあ、いいじゃ無いですか」

 

話しながら何処かへと進んでいく彼女の後に続きながら紅魔の里を進んでいく。

腐敗臭が漂い周囲には処理のされていないみんなの亡き骸が転がっている為、1人で進むには些かというかかなり勇気のいる行動に思えた。

 

「ここです」

「ここは…」

 

彼女に案内されたのは彼女の実家だった。

正確には実家の跡地で、来た時に見た大豪邸の見る影はなく骨組みと焦げた家具の中で1人の男の遺体が転がっていた。

きっと俺と別れた後この屋敷に待機していたバルターにやられたのだろう。

 

「ずっとお父さんとお別れしないといけないなって思っていたんです」

「…そうなんだ」

 

ゆんゆんは父親の遺体の前に行き、俺には彼女の表情は見えない。

 

「こんな私でも愛想つかせず、忙しい仕事の合間によく世話を焼いてくれたんです」

「…」

「ゆんゆん、友達は出来たかって…本当煩い姑みたいに…」

「…」

「お父さん…私は…」

 

そこから先は嗚咽で何を言っているのかが分からなかった。

 

「さ…さようなら、お父さん」

 

彼女は強くなったのだろう、最後までひとりでちゃんと父親へと別れを告げる。

 

「カズマさん少し離れましょう」

「ああ」

 

涙を堪えていた彼女に俺は返事だけ返し屋敷後から離れると、彼女は先程まで居た屋敷へ炎を放った。

 

「いいのか?」

「いいんです、いつまでも引きずっていたらお父さんに怒られちゃいますから」

「そうか、ゆんゆんは強いんだな」

 

必死に過去へと決別をつけるゆんゆんを見て今だにクリスの死が受け入れられない自分が情けなくなってくる。

 

「カズマさん、バルターさんを倒したんですよね…みんなをこんな目に合わせた」

「ああ、そうだよ」

「ありがとう…ございます…うぅ…」

 

彼女は泣き顔を見られたく無かったのか俺に抱きつきながら顔を埋め、堰が外れた様に泣き出した。

 

 

 

 

 

その後彼女をあやした後緊張が解けて眠ってしまったので、テレポートのスクロールで砦へと戻り彼女をベッドに寝かせる。

 

「カズマ様」

「シルフィーナか、ありがとうなおかげでバルターに勝てたよ」

「お褒めの言葉、至極恐悦でございます」

 

いつの間にか現れたシルフィーナに内心ビックリしたが、そのままのリアクションをすると幻滅されそうなのであくまで気づいていたけど気づかないふりをしていた程で体裁を取り繕うと、彼女は何処かで覚えてきたのか珍しくドヤ顔で返事を返してきた。

 

「それで、何かあったのか?まあ何もなくても時間があったら会いに来てもいいんだけど」

「ありがとうございます。ですがそれはまた次の機会に、今回は取り急ぎお耳に入れたい事が」

 

何?それは誠か⁉︎なんて顔したかったが、真面目な空気なのでそれをする事はやめて普通に聞く事にした。

 

「ママ…いえ、ダスティネス卿がコチラへ向かっているとの情報が入りましたので至急ここから離れた方がいいかと思います」

「マジか…」

 

予想していたとはいえ実際にそうなると中々に焦る物がある。

せめてもう少し後になれば良かったが流石に目標が決まっていない現状では些か判断に焦り間違えてしまいそうだ。

 

「どれくらいで着きそうか分かるか?」

「そこまでいきなりではありませんが、おおよそ二日程かと」

「そうか…」

 

テレポートで使者を向かわせていないところを見るに彼女なりのクレアへの抵抗が見える。

 

「分かった、シルフィーナはそのまま貴族関係の偵察を頼む、俺はみんなの意見を纏めて場所を変えるよ」

「了解しました、それではまた」

 

彼女はそう言いながら姿を消した。

多分いきなりの事でまだ完全に状況を把握しているわけでは無いようで引き続きの情報収集へ向かったのだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ミツルギいるか?時間はあるか?」

「ああ構わないよ、それで何だい?」

 

とりあえずミツルギの元へ向かい奴の意見を聞く事にする。

一応ここまで協力したので何も言わずに姿を消すのは何か違うと思ったので、一応相談だけはしておく事にした。

 

「そうか…そう言えば君は追われているんだったね、本来ならついていきたい所だけど僕はこの子を元に戻さないといけなくてね」

 

ミツルギはそういい布の包みを開くと、そこには苦しそうに息をしている肉塊が生きていた。

 

「それで、その当てはあるのか?無ければ俺達についてこないか?何処にいくかはまだ決めていないけどめぐみんに聞けば何かあるかも知れないぞ」

 

こういう時のめぐみんは本当に頼りになる。

彼女も爆烈魔法しか使えない事に引け目を感じているのか、暇な時はいそいそと情報集収している事を見掛ける。たまに変な爆裂情報を仕入れてくるのが難だが。

 

「そうだね…それはありがたいけど一応当てはあるんだ」

「へー何処なんだ?」

「アクセルだよ、あそこには有名なシスターが居るからね」

「あー」

 

ミツルギに言われて久しぶりに口の悪い彼女の事を思い出す。

正直クリスがああなってしまい会いたくは無いが、クリスの事を伝える義務が俺にはあるので何は会わなくてはいけない人物ではある。

 

「君こそアクセルに来たらいいんじゃ無いのか?追っ手がこっちに向かっているからあそこの警備は手薄になりそうだし、置いてきた荷物を取りに戻るのもいいんじゃないのか?」

「なるほどな…」

 

悔しいがミツルギに言われてそれもいいなと思ってしまう。

正直アクセルにはいきなり抜け出してきたので色々とやり忘れたことや、協力してくれたみんなの安否も気になる。

 

「…そうだね。正直君達はテレポートで連れて行ってくれると助かるかな、見ての通りこの子も苦しんでいる様だから早く治してあげたいんだ」

「そういう事か、まあ協力してもらって礼も何もしてなかったからな」

「そういうつもりで言ったんじゃ無かったんだけどな…」

 

昔とは違い、ここからアクセルに向かうには一度王都に向かって、そこから近くへ転移してアクセルの近くにまた転移してを繰り返さなくてはいけなくなってしまっているので、時間がかかってしまう。

 

仲間の肉塊はシリンダーの中でしか快適な生活が出来ないのか、読み取れる表情は苦しみで呼吸もギリギリと言った所だろう

ミツルギの仲間をシリンダーから出したのは間違いかも知れないが、直せるかも知れない人を一々あそこまで連れていくリスクと手間を考えれば、仲間が多少苦しい思いをしてもその場に運んでいってしまうのが一番手っ取り早いだろう。

 

「分かった、一旦アクセルに向かう事にするよ。でもお前に仲間はどうすんだ?俺たちは多分王都に入ったら戦闘になっちまうから出来れば外に出して貰えると助かるんだけど」

 

指名手配されているはずだから王都に飛んで仲間を回収してアクセルに行くなんて事は出来ないため、王都の警備の目の届かない場所で合流するしか無いのだ。

 

「それに関しては夜の便が使えるから、今から送れば明日の昼前には合流できるはずさ」

「なるほどな」

 

どうやら砦から定期的に郵便の配達者の様なものが居るらしく、意外と遅くでも手紙を王都まで運んでくれるそうだ、まあ料金はかなり高いらしいが…

 

「分かったそれじゃあ砦と王都の間で合流してテレポートで向かおう」

「ああ、恩に着るよサトウ」

 

ミツルギは俺に礼を言うとそのまま手紙に文字を書き始めた。

 

「それじゃあまた明日」

 

そうミツルギに言い残し俺は部屋へと戻り、途中で起きていためぐみんに遭遇し今話した事を伝え乗り気では無かった一応承諾を得た。

 

 

 

 

 

 

 

「ミツルギ様‼︎いくら仕方が無いとは言えこんな男と組むなんんて‼︎」

「やめないか、今は命を預けあった仲間なんだ」

 

事前に打ち合わせをしていたこともあり合流自体はすんなりと成功したが、クレメアと呼ばれた女は俺の姿を見た瞬間全身に嫌悪が走った様に飛び上がり罵声を飛ばしてきて、それをミツルギが必死に宥める。

 

「あの女以前カズマを殴った女ですよね‼︎」

「抑えろめぐみん⁉︎」

「それってどういう事なの‼︎」

 

どうやらこちらにも少なからず因縁はあった様で出会って早々互いに仲間を落ち着かせ合うこととなった。

 

「まあカズマさんがいいって言うなら従いますけど、人数が多いからもしかしたら1人変な所に飛ばされてしまうかも知れないですね‼︎」

「何ですって‼︎」

「落ち着けって‼︎」

 

その後も色々あり俺達は何とかアクセルへと飛び立つ事ができた。

 

「あんまり離れていたわけじゃ無いけど、久しぶりだな…」

 

時間からしてひと月も経っていなかったが、それまでに起きた事が濃密過ぎた為か今までよりも短い期間でも今まで以上に体感時間では感じられた。

その為街の雰囲気はあまり変わってはおらず、ダクネス達が占拠していたにもかかわらず空気はいつもの感じだった。

 

「とりあえずミツルギの会いたい人物に俺も用があるから先に屋敷に向かってくれ、何かあったらテレポートで何処かに逃げろよ」

「分かりましたけど、そこの人に何かされたらすぐ言ってくださいね」

「笑顔が怖えーよ…」

 

ここに来る途中にまた一悶着あり、それによりミツルギの仲間の子はトラウマを仕込まれてしまった様で、彼女は何も言わなくなってしまった。

 

「それでは」

 

2人を屋敷に戻し、俺達はシスターのいる教会へと向かう。

 

「それで、フィオは一体何処にいるんですか?」

「ああ、それについてはまた後で説明するよ」

 

道中仲間の片割れが居ない事にずっと違和感を感じていたが、ゆんゆん達といがみ合っていたために聞きそびれていた事を質問した。

ミツルギは流石にあれを見せる訳にはいかなかったのか、布袋に包んだソレについては一切の言及をしなかった。

 

「ミツルギ、この教会だ。気配があるから多分中に居るとは思うぞ」

 

今まで不安定だった感知スキルは本調子を取り戻し、アクセルの中であれば何処に誰が居るかくらいは分かる様になっている。

多分だが、精神的なものが多かったのかも知れない。

 

「失礼します」

「これは…ミツルギ様、ご無沙汰しております…それと……そうですか」

「何か言えよ‼︎」

 

ミツルギには丁寧に接し、俺にはぞんざいな扱いをするシスターに懐かしさを覚える。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それで、わざわざこんな田舎の教会にミツルギ様ほどの方が一体どの様なご用が?」

「ああ、そうだね。単刀直入に言うけど貴方は僕知るアークプリーストの中で一番の治療技術を持っていると思っている」

「そうですか、それは随分に光栄な事で…」

 

ミツルギのセリフにシスターは戸惑いを見せる。

確かにあれから色々な所で活動したが、彼女程の治療技術を持ったアークプリーストはいなかった

 

「だからこそ、貴方に頼みたい事があります」

「はい、何でしょうか?」

「この…僕の仲間を治して頂けないでしょうか?難しい事とは存じておりますですが…」

「こ、これは…」

 

ミツルギはシスターに頭を下げながら布の結びを解き、中に入っていた肉塊が姿を現す。

 

「こっ…これは⁉︎どうしてこんな事に…」

 

流石のシスターも肉塊に驚きを隠せなかった様で、その姿を見た瞬間まるでこの世のものでは無い何かを見た様な表情をしていた。

 

「詳しくは分かりませんがある実験施設でこの様な姿にされてしまい…」

「そうですか…分かりました、出来る所までですが…」

 

突然の事に慌てふためいているが、ミツルギの説明を聞いたシスターはすぐ我を取り戻しその肉塊に回復魔法をかける。

 

「そんなフィオが…そんな…こんな事って…」

 

突然に仲間の状況を知って言葉を失うクレメア、多分俺も同じ状況に立たされたら同じ様な反応をしただろう。

 

回復魔法を掛けられた肉塊は心地良さそうな顔をしてはいるが、その変形した姿が元に戻る気配は一向に無かった。

 

「申し訳ございませんミツルギ様、流石の私でも魂まで変形した物までは直せない見たいです…」

「魂が…ですか⁉︎」

「ええ、ですが、今この街にはまた別のアークプリーストの方がいらしゃって居るみたいです、その方も私とは違った専門の方なのでもしかしたら治せるかも知れません」

「その方は今どちらに…」

「ギルドの方で傷ついた冒険者の方を治しているみたいです、しばらく滞在されているみたいなので…」

「分かりました、突然押しかけた上に申し訳ございません、このお礼は必ず‼︎」

「いえ、こちらこそお役に立てず申し訳ございません…」

 

ミツルギは期待が大きかった故に治せなかったショックも大きかったが、新しい希望が示された事で我を忘れた様に肉塊を袋で包みクレメアを置き去りにしてギルドの方へと向かっていった。

 

「待ってくださいミツルギ様⁉︎」

 

出ていったミツルギを追いかけるように教会を後にするクレメア、俺も彼女の後に続こうとした所で

 

「お待ちくださいカズマさん、貴方には話があります」

「え?いやミツルギが…」

「それに関して貴方が出来る事はありますが、それはまだ先です‼︎」

「え?」

 

今までに無いほどの剣幕でシスターに待つ様に言われる。

それは今までの付き合いの中では一度も無く、初めて見る彼女の真剣な表情だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ミツルギ‼︎」

 

シスターとの話を終え、ギルドに向かうとするが既にミツルギ気配はギルドに無く、いつも根城にしているであろう宿に移動していた。

急いでミツルギの宿泊所に向かうと、そこは俺の屋敷ほどでは無かったがそれなりの建物で、期間を決めて貸し出すと言ったマンスリーハウスみたいな場所で奥の方から奴の気配達が感じられた。

 

「ミツルギ大丈だったか‼︎」

「ああ、もちろんだ。心配をかけたね彼女はもう大丈夫さ」

「マジか…やったなミツルギ仲間が救われたな‼︎」

 

建物に入りながらミツルギに事の顛末を確認すると、奴はまるで曇りの無い笑顔で俺の質問に答えた。

 

俺はその反応を見てやはり専門性の違いで専門性が合えば治るんだなと思いながらミツルギの奥にある気配の姿を確認する。

 

「え?」

 

しかし、俺の視界に入ったのはよく分からない儀式を施された肉塊が簡易的な祭壇の上で祭り上げられた光景だった。

 

「ああ、流石にいきなりこんな光景見せられたら君も驚くよね、彼女が言っていたんだ‼︎毎日祈りを捧げ朝日を浴びせておけば徐々に元の姿に戻っていくと‼︎例えプリーストで無くとも祈りはどの職業も共通だと‼︎」

 

その光景とミツルギのセリフを聞いた俺は新教宗教で教わった癌を直すための祈りが真っ先に頭に浮かんだ。

もしかしたらこの世界にもそう言った奇跡が存在するのかも知れないが、この状況からそれがそうであるとは到底思えなかった。

 

「な…何を言っているんだ…ク…クレメアは…」

「彼女なら何かよく分からない事を言ってあのお方の元へ向かったよ、きっとお礼を言いにいったんだろうね」

「は?」

「ああ、セレナさんて言ってね、しばらく大型モンスターの討伐の付き添いに行ってしばらく帰ってこない見たいだけど、間に合えば君も話をしてみるといい」

「セレナ?それがこの街に来ているアークプリーストなんだな」

「ハハっ何を怒こっているんだい、君も一緒に祈ろう‼︎祈りが重なれば効果も倍になるかも知れないからね‼︎」

 

数時間でミツルギをここまで追い詰めるとはセレナと言う女は一体何者なんだろうか?

 

「ここで祈ってろ‼︎俺も話してくる」

「ああ、君も彼女と話してみるといい‼︎」

 

完全に目が行ってしまっているミツルギを置いて俺はギルドに向かう。

ギルドには知らない気配がいっぱいあるが、クレメアの気配があるのでもしかしたら一緒にいるかも知れない。

 

「クレメア‼︎」

「さ‘、サトウカズマ‼︎」

 

クレメアは俺の姿を見ると、まるで救世主を見る様な顔で俺を呼びつける。

 

「例のアークプリーストは‼︎」

「それが、もう出発してしばらく帰ってこないみたい」

「何…だと⁉︎」

 

どうやら間に合わなかったみたいで、そのセレナと呼ばれる女は既にミツルギの言う街に大きな被害をだしている大型モンスターの討伐へと向かってしまった様だった。

 

「仕方ない、しばらく情報収集しよう」

 

ミツルギの様子からもしかしたらペテン師かも知れないと考え、まずは情報収集から始める事にした。

 

そして周囲の人から得られた情報はセレナと言う女性は無償で冒険者を癒すアークプリーストで、危険なクエストにも報酬を受け取らないで着いて行くと言った恐ろしい程の善人だった。

だが、その彼女の好評を語る皆の姿は、何時ぞやのバニル事件の被害者を彷彿とした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あれから数日経ったが今だにセレナ率いるグループが戻ってくる事はなかった。

ミツルギに構ってやりたかったが、バルター亡き今の状況を俺は好機と考え3人で王都進行の準備をする為、シルフィーナにダクネスの動向を観察させてはテレポートを使って色々な場所を飛び回った。

 

正直バニルとウィズに協力して欲しかったが、2人はまるで合わせたかの様に、俺らが来る前日に何処かのダンジョンで金策を兼ねて材料を集めに行ったと張り紙がしてあった。

バニルの事だから何か見通したのだろうか?ついでに聞いて回ったが2人の動向は掴めなかった。

 

そしてダクネスから逃げるために協力してくれたダストだが、色々あったらしく隣の国に行っていると誰かが言っていた。

流石に別の国にこの事を伝えると攻め込まれるので協力は得られなそうだと判断した。

 

後はシルフィーナから得られた国の祭事で兵力を国民に示すお祭りがあり、そこでアイリス、クレア、ダクネスの3人が揃う日が来るのを待つだけとなった。

 

「サトウカズマ…」

「クレメアか、久しぶりだな」

 

街には依然としてセレナを慕う声が多いがそれでも平和な日々が続いている為、偶には休みを取るかと思った所で久しぶりにミツルギの仲間が訪ねてくる。

正直忘れたわけではないが、その忙しさを言い訳に見て見ぬふりをしていた為少し罰が悪そうに言葉を返す。

 

「もう、限界です。あんなミツルギ様見ていられません」

「…そうだよな」

 

何そうなると分かっていたが、あの状況で頼れるのは俺くらいしか居ないだろう。

セレナを信仰しているようなこの街で、彼女のやり方に意を唱える事はこの街の否定に直結する。

 

「それでフィアだっけ、元に戻ってきているのか?」

「いえ、むしろ苦しんでいる様にしか…」

「やっぱりそうか」

「ミツルギ様が寝ている間に剣で斬って殺そうとしたんです…でも苦しむだけですぐ傷も戻って…フィオの苦しむ声で起きてきたミツルギ様に見つかってからはもう話もしてくれなくて…」

「それは…そうなのか」

 

不老不死の実験場から連れて来た為、そうでは無いかとは薄々思っていたが心の何処かで否定していたのだろう、彼女の言葉を聞いてすんなりと納得してしまう。

俺は彼女に着いてくる様に伝え、依然と同じミツルギの住んでいる建物へ向かう。

 

 

 

 

 

 

「…」

 

建物に着くとミツルギは肉塊に朝日を浴びせるため、外に造られた簡易的祭壇に肉塊を乗せ祈りを捧げていた。

 

「やあ、さとう。久しぶりだね、こんな事しか出来ないけど良かったら君も祈らないかい?」

「ミツルギ様‼︎そんな事をしてもフィオはもう戻って来ません‼︎」

「また君か‼︎同じ仲間なのに酷い事をして‼︎これ以上言うなら君も同じ目に合わせてあげようか!」

 

ミツルギは極限状態のためかふらつきながらも魔剣グラムを祭壇から拾い上げクレメアに向かって振り上げる。

 

「ミツルギ様…そんな…」

 

思っていなかった状況に彼女は腰を抜かし信じられないと言いたげな表情を浮かべながら死の恐怖に失禁する。

 

「…いい加減にしろ」

「ゴハッ」

 

フラフラな事をいい事にミツルギの脚を払いその鳩尾に拳を突き刺し行動不能にする。

 

「な…何を…」

 

判断能力というか思考能力が失われているミツルギは俺が何故暴力を振るった事を理解できずに呻きながら困惑する。

 

「しょうがねー奴だよお前は」

「おい…待て…」

 

魔剣グラムを拾い上げ離れた所に投げるとそのまま俺は肉塊の前に立つ。

正直出来るかどうか分からないが、これが俺に出来る精一杯だった。

 

「ごめんな、今まで苦しかっただろ」

「待て…待て待て⁉︎何をする気だサトウカズマ⁉︎やめろ‼︎」

「お願いします‼︎私の事はいくらでも恨んでもいいですから‼︎」

 

俺が何をしようとしているのかに気付いたのかミツルギはダメージで動けない体を必死に動かしながら俺に止める様に訴えかけ、クレメアは痛みが抜け力を取り戻しつつあるミツルギを必死に押さえつけている。

 

「次の世界があったら幸せに生きろよ」

 

そう言い残し、俺は黒炎を肉塊に飛ばす。

黒炎の特性上一度火のついた物は瞬く間に全体に広がり、肉塊も例に漏れずその存在を燃やし始める。

それは不老不死であっても例外では無い。

 

「あ、ああ、ああああああああああああああああああああああああああぁあああああああああぁぁぁっぁぁぁぁっぁぁぁっぁぁぁぁぁぁっぁぁぁぁぁぁぁっぁぁっぁぁあああああああああああああああああああああーーーーーーっ‼︎」

「ミツルギ様‼︎落ち着いてください‼︎お願いします‼︎」

 

黒い炎が燃え盛る最中、ミツルギはその肉塊を救うべく声にならない声を上げながら動こうとするが、それらは全てクレメアによって抑えられる。

 

燃え盛る黒炎のなか彼女は安らかな表情を浮かべて、俺らは彼女が死んでいく様をただ見つめる事しかできなかった。

 

 

 

 

 

 




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