この女神の居ない世界に祝福を   作:名代

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誤字脱字の訂正、感想評価ありがとうございますm(_ _)m


黒き聖女2

話は少し遡りシスターの話に

 

 

「それで、そこまでして俺と話しておきたい事って何だよ、ミツルギを追いたいから早めに頼むぞ」

 

いつもの彼女からは考えられない程の対応に少し戸惑いながらも何か重要な事だったら後々大変そうなので耳を傾ける。

 

「クリス様の件についてです」

「ああ、そうだったな…そう言えばその件で俺もついて来たんだった」

 

彼女の言葉で自分の役割を思い出す。

俺はバルターを追い詰めるまでの間にクリスという犠牲を払ってしまった事を彼女に説明した。

 

 

「そうでしたか…やはりそうなってしまいましたか…」

「何だよその反応、何か思い当たる事でもあったのか?」

 

シスターは俺の話を聞くとまるで事前にそうなると分かっていた様な口ぶりで彼女の死を悲しんでいた。

 

「いえ、私も聖職者ですから人の死はいくらでも見て来ました」

「だから死にそうな人間は分かる感じなのか?」

 

よく看護師は患者さんが亡くなる所をよく見る為、死期が近い患者さんを見るとそろそろ死ぬな的な予感を感じる様になると前に聞いたことがある。

シスターも職業柄色々な冒険者を見送るため、死の予感的なものを感じてしまうのだろうか?

 

「まあ当たらずとも遠からず、そういう感じですね」

「そうか…」

 

正直何で守れなかったんですかと責められる気がしていたが、意外にもあっさりしている彼女の反応に少しだけ寂しさを覚える。

 

「今はバルターでしたか?その方も亡くなりクリス様も亡くなりウォルバクさんも倒し残りの魔王軍幹部も3人となりましたか…」

「ああ、そうだなって、やけに詳しいな俺のファンか?」

「何を言っているんですか?殺しますよ?」

「悪かったって…」

 

シスターも言う様に残りの魔王軍幹部も残り3人。

1人は魔王の娘だとして残りの2人は未だに姿を見た事がない。

まあ、自分から探した事がないので見た事がないのは当たり前だが、今までの様に偶然現れてくれる様な程簡単にはいかないだろう事は分かっている。

 

「あなたの目的は魔王の討伐ですね?」

「ああ、そうだけどそれがどうかしたか?」

 

シスターはまるで確認ですと言いたげに俺に目的を問いかけてくる。

 

「そのために魔王軍幹部を倒しまわっている、それは一体何故ですか?」

「それはアレだろ?魔王城を囲っている結界を破壊するためにはその結界を維持している幹部を倒さなくちゃいけないって王道的なアレだろ?」

「アレばっかり多いですね…まあそうですね。そんなあなたに伝言もとい助言を与えましょう」

「おぉー!一体何なんだ」

「やけに棒読みですね…いいですか魔王城の結界は魔王の側近の魔法使いが張っていてそのサポートに幹部が手を貸している形式です。なので幹部を全員倒さなくてもその結界を力技で破壊すれば何とかなりますよ」

「成程な、なら3人くらいならめぐみんの爆裂魔法で破壊出来たりするのか?」

「めぐみ…?ああ、あの頭のおかしい紅魔族の子ですね」

「酷ぇなおい⁉︎」

「そうですね、あの子の爆裂魔法で破壊するのであれば多分ですが後2人は倒しておきたい所ですね」

「そうか…」

 

シスターの言葉に何とかゴリ押しして魔王攻略的な事を考えたが、そもそも俺達の持っている戦力そのものが低い為ゴリ押すにも押し切れないのだ。

最近は最初からラスボス攻略みたいな事ができるものが多かったが、この世界はその例外に入ってしまったのだろう。

 

「それで話したい事は終わったか?そろそろミツルギの所に向かいたいんだけど」

 

時計を見るとだいぶ話し込んだのか時計の針がだいぶ進んでいたので、用が済んだのであれば早急に奴の様子を見にいきたい。

 

「ええ、そうですね、では念の為にこれを」

「これは…随分と懐かしいな」

 

彼女に渡されたのは何時ぞやのバニル戦の際に渡された身代わり人形だった。

 

「これを持っていてください。何かあった際に役に立つと思います」

「ありがとうな…でもあんたに心配されると何か怖いな」

「それでしたら返して貰えませんか?それ作るのに結構お金がかかるんですけど」

「悪かったって」

 

彼女は柄にもなく心配そうに俺に人形を渡し、俺を外へ見送った。

久しぶりに会って人見知りでも発動したのか、彼女の対応は今までの様なツンケンさはなく、何処か…何だろうかうまく言語化できないが寂しそうだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして話は元に戻る。

 

「あ…あぁ…」

 

フィオが燃え尽きる所を最後まで動く事なく眺め、何も残らず無事に彼女を殺す事に成功した事に内心安堵したが、それにより心の拠り所を失ったのかミツルギの口からは嗚咽が漏れた。

 

「クソ…クソ‼︎クソ‼︎」

 

何かの堰が溢れたのだろうか、ミツルギは地面を叩きながらフィオの名前を呼びながら泣き出した。

 

「どうしてだサトウカズマ‼︎どうして彼女を殺した‼︎」

 

そして泣いた事により感情が溢れ出て、その矛先は彼女を焼き殺した俺に向かい、奴は弱った体を無理矢理動かし俺の胸ぐらを掴んで俺の頬を出せる限りの全力で殴った。

 

「どうしてだと?そんなの見れば分かるだろ‼︎」

 

ミツルギがフラフラなのは分かっていたが、俺は手加減せずに奴の顔面を素の力で殴り抜く。

 

「こんなもので崩れた体が戻ると本当に思っているのか‼︎」

「そんな事!やって見ないと分からないじゃないか‼︎」

 

俺に殴られよろめきながらもミツルギは再び拳を握り俺に殴りかかってくる。

 

「分からないだと…お前は本当にそう思っているのか‼︎お前は日本で何を学んできたんだ‼︎」

 

俺はそれを躱し、奴の鳩尾に膝を打ち込んで追い打ちをかける様によろめいた脚を払い転ばす。

 

「グハッ‼︎」

 

奴はそのまま受け身を取れずに地面に叩きつけられ、その衝撃で息を全て吐き出してしまい苦しみのあまり声も漏らしてしまう。

 

「いいかげんバカな真似はやめて現実を見やがれ…お前がそんなんじゃ心配しているクレメアも浮かばれねぇよ」

「…っ⁉︎」

 

奴は俺の言葉に胸を打たれたのか図星を突かれたのかそこから反撃してくる事はなかった。

 

「…分かってはいたさ、こんな事をしても結局自己満足でしかないって…でも…どうしてなんだ…どうして…何で…フィア…」

「大丈夫ですミツルギ様…私がついていますから」

 

ミツルギは変な意地を張るのをやめたのか、溢れ出る様に心の内を呟きながら項垂れており

そんなミツルギに付き添い慰める様に声をかけるクレメアに多分何とかなるだろうと安心しながら俺は彼の屋敷を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おや、もう戻られましたか?それでミツルギという男はどうなりましたか?」

「ああ、もう大丈夫そうかな?後はあの子が何とかしてくれるよ」

「だとよいのですが…」

 

屋敷に戻るとめぐみんが帰って来ていたのか、コーヒーみたいな飲み物をドリップしながらカフェ店員の様な事をしながらリラックスしており、こいつも厨二がハマりそうな事をコンプリートし始めているなと思っていると事の顛末を聞かれたので答える。

 

かなり不謹慎だが、もう紅魔族が全滅した以上紅魔族だから頭がおかしくても仕方ないと思われていためぐみんも、単体になった事でただ個人的に頭のおかしな人になってしまいそうだなと思う。

まあ、それで矯正しようものならかえって反発しそうなのでやめておくが。

 

「ゆんゆんはいつ頃帰ってくるんだ?」

「もう帰って来ていると思いますよ。まあ彼女の事ですから何処かで夕食の材料でも買いに行っているのでは?」

「そうか、まあ何も無ければそれでいいんだけど」

「それでカズマはこの街の違和感に気づきましたか?」

「違和感?」

 

いつも爆裂魔法がどうかしか会話をしないめぐみんが時勢について聞いてくるので少し嫌な気がするのか悪寒が走る。

 

「この街には現在セレナというプリーストと言う方が来ていると他の冒険者から聞きました」

「ああ、それは俺も聞いたよ。何でも無償で怪我を治してくれる善人だってさ」

「ええ、カズマも存じておりましたか。無償で怪我を治してくれるプリーストに街の皆が感謝をして受け入れている。これは普通の反応です」

「ああ、そうだな」

「その為、街の皆が彼女に感謝しまるで神を相手にする様に皆が彼女を敬っている。これは異常な反応です」

「確かにそうだよな…」

 

めぐみんに言われたように、現在アクセルの街は異様な程にセレナというプリーストを崇めている雰囲気にあり、それはアルカンレティアのアクシズ教ほど狂ってはいなかったが、それと同じような気配を感じた。

 

「カズマ…ミツルギだったかマツルギだったか分かりませんが、あの男がおかしくなったのもそのプリーストが助言した結果だと聞いております、王都侵攻の前の非常に繊細な時です。くれぐれも気をつける様にお願いいたします」

「ああ、分かっているよ」

 

まるでめぐみんは俺がこれから何をしようとしているのか分かっているかのように釘を刺してくる。

 

「3人で王都を攻める事になってしまった以上、最初から最後までカズマが動く事になります。なのでここでまた変な目にあって遅れれば…」

「大丈夫だ。相手はただのプリースト、バルターの様に強いわけじゃないんだ」

「そうは言いますが、力がない奴は無いなり色考えているのです。カズマも自分が相手になれば嫌でしょう」

「まあ…そうだな…ん?何か外が騒がしいな」

 

いつの間にかめぐみんに説教をかまされており、どうにかしてこの状況を打開しようかと思っていたところ外が急に騒がしくなり街の喧騒がここまで響いてきた。

 

「多分その噂のプリーストが帰って来たのでしょう、まあカズマに何もするなとは言いませんがくれぐれも気をつけてくださいね」

「あいよ」

 

早速外に出ようとしている俺を見て、こいつにはもう何を言っても無駄だと悟ったのかせめて怪我だけはするなよと釘を刺してくるめぐみんにとりあえず返事を返して俺はギルドへと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「皆さんお疲れ様です。怪我をされた方はこちらへ並んでください」

 

ギルドへ着くと全身を白で包んだプリーストの女性が列を作らせ怪我をした冒険者を並ばせて治療を始めていた。

 

「おうカズマじゃねえか久しぶりだな」

「ああ、爺さん久しぶり」

 

セレナだと思われる女性が治療している光景を眺めているとどこかで知り合った爺さんが話しかけてくる。

 

「ダスティネス卿に喧嘩を売って追いかけれているだって?今回は随分とやらかしたんだな」

「ええ、まあ色々ありまして」

「それじゃあセレナちゃんに感謝しないとな‼︎」

「え?何でですか?」

「あの子がダスティネス卿と話をしたと思ったら兵士を連れて何処かへ行ったからね、きっと裏から色々手を回したんだろうね」

「へーそうなんですか」

 

どうやらダクネスが砦に来たのはあのセレナが裏から手を回した結果らしいが、奴の目的は一体何なのだろうか?

 

「おや?貴方はサトウカズマさんではないでしょうか?」

「はいそうですが?」

 

セレナと思われる女性は俺の姿を見ると、治療をしていた冒険者の治療を取りやめて俺の方へと向かってきた。

 

「お待ちしておりました、私はセレナと言いまして貴方のファンなんです」

「はぁ…そうなんですか?」

「まあ突然こんな事を言われて戸惑うかと思いますが私を貴方のパーティーに入れていただけませんか?」

 

会って早々キラキラした目で俺を仲間に入れてくれという彼女を見て俺は背筋が凍る様な気分を味わった。

正直ミツルギを言葉数個で廃人になる程まで追い詰めた女は、俺がイメージしてものとはかけ離れたキラキラした女性だったのだ。

 

「悪いけど俺のパーティーは満員でね、新しいメンバーは募集していないんだ」

「そうですか?カズマさんのパーティーは冒険者とアークウィザードの3人で構成されていると聞きました、でしたらそこに回復と支援魔法が使える私が入ればちょうどバランスが取れると思います。私これでもアークプリーストなのでお二人に引けを取らないと思いますし」

「いや、まあそうなんだけどさ」

 

確かに俺のパーティーに必要なのは高性能なプリーストであり、彼女の言っている事はごもっともではあったが人間関係は理屈でどうにかなる程甘くはなく、仮に戦闘が円滑にいっても俺はこの女と上手くやれる気はないだろう。

 

「でしたら、是非お仲間に‼︎」

「…」

「どうされました?あっすいません、突然こんな事を言われても困りますよね…お仲間さんともお話をしていただいて下さい!私もしばらくこの街にいるつもりなので」

 

いや、早く帰れよと言いたかったが、この状況でそれをいってしまえば周囲の人間に袋叩きに遭ってしまいそうなのでここは口を噤んだ。

 

「…だったら」

「え?何でしょうか?」

「だったら一つ聞いてもいいか?」

「ええ、もちろんです。気になる事が無くなるほど聞いて下さい」

 

ミツルギの復讐をしたかったがこのままでは分が悪いので撤退しようかと思ったが、いつの間にか俺の口が言葉を発していた。

 

「ミツルギと言う剣士が居たんだけどさ、あいつの仲間を救う為になんであんな事を教えたんだ?」

「…」

 

ほんの一瞬、本当に一瞬の間彼女の表情が歪んだ事を俺の目は見逃さなかった。

それは思いもよらない所から自身の身から出た錆と向き合わされた瞬間に近かった。

 

「あ、あぁ…あの剣士の仲間の方ですね…あの方の治療はは大変難しくですね、ちょうど私も外にしばらく出る用がありまして仕方なく対症療法を教えて、後で時間を掛けて直す予定だったんですよ」

 

ニッコリと、彼女はさも当然の事をしていますよ、一切も悪びれる事なくそう言った。

 

「そうだ、この後お時間は空いておりますか?少し私を誤解されてしまっている様なのでお食事でもしながらお話を…」

「…っ⁉︎」

 

セレナはそう言いながら俺に手を伸ばしてくるが、俺はそれを思わず強く叩いてしまった。

 

「あっ!」

「ごめん、つい…痛っ⁉︎何だ⁉︎」

 

俺が彼女の右手を左手で叩いた瞬間何故か俺の右手に痛みが走り、思わず距離を取ってしまう。

一体何が起きたのだろうかと思い右手を見ると、俺の右手の甲は叩いてしまった彼女と同じ様に赤く腫れていた。

 

「これは…まあいい、悪いけどあんなんでもミツルギは俺の仲間だったんだ、それを誤解だとしてもあそこまで追い詰めたお前を仲間にする訳にはいかない」

 

セレナという女性は俺が思っていた人物像とは違い清廉な聖女なのかもしれないが、それはあくまで俺の所感でしかない。

そう、彼女の決別はゆんゆん達に相談するまでも無く、最初から決まっていたことだ。

 

「悪いけど、これから忙しくなるから俺は帰るよ。色々と悪かったな」

 

正直彼女を何とかしたい気持ちはあったが、今はそんな事をしている場合ではないとめぐみんに釘を刺されたばかりであることを思い出す。

 

ミツルギの件のモヤモヤ、予想外に人当たりのいいセレナ、そしてアークプリーストのパーティー加入、王都侵攻を前にしての不安がきっと俺の判断を鈍らせていて、こうして中途半端な復讐も出来ずに困惑するだけになってしまったのだ。

本当にミツルギの件は誤解でセレナをうまく使えば俺の作戦も上手くいくかもしれないが、それは同時にリスクも孕んでいる。

得体の知れない彼女を仲間にするのであればもっと昔から信用に足るかを見極めなくてはいけない。

 

だからこそ俺はあえてアクセルを無視する。

例えそれが巡り巡って俺の首を絞める事になっても、今は俺の目的に集中しなくてはいけないのだ。

 

「おい、帰るから出口を開けてくれないか?」

 

俺がギルドを後にしようと出入り口に向かうと、そこには数名が無言で入り口に通せんぼするように立っていた。

 

「はぁーーーーーーーーーーーーーあ」

「はぁ?」

 

その数名は俺の言葉に反応する事なく後ろに目線を送っていたので後ろを振り向くと、セレナが大きなため息を吐きながら頭を掻き毟っていた。

 

「ほっっんとお前は面倒な男だよサトウカズマ」

「あ?」

 

先程までの対応は全て彼女の演技だったのだろう、先程とは打って変わって現れた彼女の性格は如何にも口の悪くだらし無い女上司そのものだった。

 

「まさかミツルギと組む様になっているとは思わなかったよ!だってしょうがないだろ?報告書には酒場で喧嘩して決別したとか書いてあるからよ」

「お前、今までのは…」

 

あからさまな変貌に動揺を隠せず思わず質問してしまった。

 

「あ?ああ、あんなもん演技だよ演技‼︎何?もしかして惚れちゃった?ははははっ‼︎あんな女いる訳ないだろ夢見んな‼︎」

 

彼女はケタケタ笑いながら俺を馬鹿にし始めながらポケットからタバコを取り出し火をつける。

 

「はぁ…本当はお前を傀儡にして魔王様に献上する予定だったんだけどよ…はぁ…調子に乗って遊ぶんじゃんかったぜ、だって仕方ないだろ?あんな気持ち悪いモン見せられたら思わずどっか視界に入らない所に持ってって欲しいってお前も思うだろ?」

「お前は…一体何を言っているんだ?」

「ん?ああ愚痴だよ愚痴、本当なら今頃悠々自適に…」

「違う、魔王様って言っただろ」

「え?あーやっちまったなおい……まぁいっか、そうそうあたしの名前はセレスディナ、お前の倒し回っている魔王軍の幹部の1人だよ」

「へ…へぇ…その魔王軍幹部がわざわざこんなヘボ村に何の様だよ」

 

正直クレアか何かが仕掛けてきた刺客かと思っていたが、予想外もいい事にセレナ…もといセレスディナは魔王軍の幹部様だった。

クレアとセレナで名前が似てるから仲間だろ的な事を考えた自分を殴ってやりたい。

 

「よく言うぜ、お前だろ魔王軍幹部を倒しまくっている奴ってのはよ、おかげで仕事のしわ寄せががこっちに回ってきて大変な目にあったぜ」

「それはどういたしましてだな、お礼に何をくれるんだ?」

「はっ!よく言うぜガキが」

 

喧嘩腰でセレスディナと会話をしながら周囲を確認するが、彼女が豹変したにも関わらず皆の態度は変わらない所か皆、虚な表情を浮かべながら彼女の方を向いていた。

 

「へぇ…こんな状況でも周囲の確認か、肝の据わってる奴だな」

「そりゃどーも」

 

周囲を見回している事を勘付かれた様で指摘される。

 

「なあサトウカズマ、交渉しよう。お前も魔王軍にならないか?」

「はぁ?」

 

突然の事に困惑する。

 

「あんまりこう言う事言いたくないんだけどよ、さっき言ったみたいに魔王軍も人手不足だ、待遇も悪くないし、どうだ?」

「いや、悪いけど遠慮しておくよ」

 

会話をしながら奴の目的を探る。

正直奴の会話には何かしらの誘導を感じる。

 

先程傀儡と言っていたので、多分であるが周囲の街人はその傀儡にされている状態だろう。そして現在俺が傀儡になっていない所を見るに何かしらのトリガーがあり、それを踏むと晴れて傀儡になるそう言うものだろう。

話の傾向から罪悪感・感謝・好意の感情かそれとも彼女の誘いに乗るといった口頭による何かしらの契約だろうか。

 

「そろそろ夕食時間だからな、悪いけど俺は帰らせてもらうよ」

 

状況は完全に相手が有利で、セレスディナの能力も今だによく分かっていない現状での中これ以上の滞在は俺にとって不利でしか無い。

であればここは撤退が正解だろう。

 

「おいおい、この状況下でお前を逃すと思っているのか?」

「だろうな…」

 

周囲にはセレスディナの傀儡とかした街人で囲まれ、無理矢理突破しようものなら周囲の人間達を傷つけなくてはいけない。

しかも街人と言ってもここはギルド、周囲にいるのは端くれでも冒険者で無傷に全員無力化するのは中々に至難だろう。

 

「だったらこれはどうだ…っ⁉︎」

 

俺はセレスディナにナイフを投擲し、痛がっている隙に窓を突き破って逃げようと企て、実際にナイフを投擲したところナイフは見事彼女の脚に命中したが、それと同時に俺の脚と同じ部位に激痛が走り、うずくまった瞬間に周囲の人間が俺の身体を押さえつけた。

 

「うっ…ぐっ」

「悪い、言い忘れてた。あたしはレジーナ教でね、その加護の一つに受けた痛みをそのまま相手に返すってものがあるんだよ」

 

彼女は自身に回復魔法をかけ傷を癒すと、突然の事に混乱している俺に説明しながら向かってくる。

 

「ぐっ…」

「残念だったな、流石のお前でも相手が悪かったんだよ」

 

彼女はそう言いながら勝ちを確信したのか回復魔法を唱える前に俺の頭を踏んづけ阻止しながら捻りを加える。

彼女はアークプリーストを自称するだけあって支援魔法も得意だったのだろう、踏みつけるその力はとても細身の体から出せるものとは思えない程に強かった。

 

「悪いけど死んで貰おうか」

「…っ⁉︎」

 

彼女はそう言うと取り押さえていた街人が俺の首をらけ出し、彼女は持っていた刃物を俺の首元へ落とす。

あの大きさと鋭さじゃ俺の支援魔法で強化しようとも防ぎ切れないだろう。

 

「…………え?」

「なんてな、冗談だよ。悪かったな」

 

振り落とされるであろう刃物は一向に降ろさせる事はなく。

彼女はまるでイタズラのネタバラシをする子供の様に笑いながら持っていた刃物を何の未練も警戒もなく地面に転がした。

 

「はぁ?」

「あまりにも綺麗に引っ掛かるからよ、ついな」

「え?」

 

先程までの緊張感から一変、周囲の街人の虚な目も元の目に戻り皆楽しむ様に笑っていた。

 

「悪いな、でもこうでもしないと信用できないだろ?」

「どう言うことだ?」

 

突然の事に頭が追いつかない。

 

「あたしはね頼まれたんだよダスティネス卿に、私が砦に向かえばサトウカズマが来るから協力してやってくれってね」

「はぁ?」

「けど、アイツは疑い深い奴だから精一杯疑われてから種明かししたほうが信用されるってね、とんだ曲者だよあの女は」

「へ?」

 

セレスディナはやれやれと言いながら話を続ける。

 

「あたしが魔王軍幹部ってのも嘘、アークプリースト以外全部冗談ってわけだ」

「なるほどな…」

「まあ街のみんなも協力してくれるって言うから大芝居打ったてわけ、でもまさか討伐に向かっている間に帰って来るとは流石に思わなかったよ」

「それは…なんかごめんな」

 

どうやら全ては俺の勘違いだったようだ。

まさか俺の疑い深い性格の裏を突いて、こんな大掛かりな芝居をするとは流石はダクネスの協力者といった所だろうか?

確かに急に現れて仲間にしてくれといって仲間にするなんて事はやっぱりなかっただろう。

 

「あまりにも乗ってくれるから話を盛っちまったけど、人間のあたしが魔王軍幹部なわけねーだろ‼︎」

 

周囲のみんなも笑いながら俺の事を茶化してくる。

言われてみれば人間が魔王軍幹部を名乗っている時点で矛盾している事に気づかなかった俺もアホだったと思う。

 

「まあでも急にナイフを投げて来るのはビックリしたぜ、痛くて泣きそうになったよ」

「ああ…それは悪かったなって?いや、それはお前が変な芝居をするからだろ‼︎」

「え?あ、そうだったな悪い悪い‼︎」

 

はははははっ‼︎と周囲に笑いが巻き起こり、今までの事は一体何だったんだと肩の荷が降りたのか全身の力が抜ける。

なんかもう頭も体も全身疲れて何も考えられない、このまま寝ていいのなら思いっきり寝れるほどだ。

 

「いや、まさかこんな大掛かりな事をしないで普通にダクネスに手紙でも書いて貰えばいいだろ?」

「いやいや、そんな事しても偽造だとか言うだろ?」

「…確かに」

 

何か大切な事を忘れている様な気がするが、まあ明日考えればいいだろう。

 

「そうだ、回復魔法かけてやるよ。脚まだ痛いだろ?」

「ああ、そうだった頼むよ。ってか本当にレジーナ教になると痛み返し的なスキルが手に入るのか?」

「そうだけど…そうかサトウは冒険者か、残念だけどこれはレジーナ様の加護だから他のスキルみたく習得出来ないよ」

「マジかよ⁉︎」

「はははっ‼︎まあ諦めろって、それじゃあ回復魔法かけるから動くなよ」

「ああ、たの…」

 

「そこまでです‼︎」

 

セレスディナに回復魔法を掛けて貰おうとした瞬間、ギルドのドアが思いっきり開きシスターと息を切らしためぐみんが現れた。

 

「おやおやカズマ、姿が消えて随分と経ちますが随分と楽しんでいる様ですね」

「ああ、悪かったって、それよりもめぐみん仲間が増えるぜ!アークプリーストだぜ、これでパーティーも完成だ!」

 

勝手に話を進めた事に怒りを感じているのかめぐみんは俺の事を冷めた目で見ていた。

まあ、めぐみんも賢いから話せばきっと分かってくれるだろう。

 

「カズマ…あなたは本当にどうしようも無い人ですね」

「はぁ?」

「はぁ…カズマさん…あなたはミツルギさんがかのじょに何をされたのかもう忘れたのですか?」

「あ⁉︎」

 

めぐみんとシスターの2人が突然現れたと思ったら何故か罵倒し始める。一体俺が何をしたと言うのだろうか?

しかし、何故だろうか、罵倒される内に今まで頭の中でモヤモヤしていたものが彼女達の言葉でクリアになっていく。

最近辛い事ばかりだったせいで俺の性癖も適応して、ストレスに快楽を感じる様になってしまったのだろうか?

いや、しかしこれは…

 

「全く、このギルドも随分と趣味が悪くなりましたね…気持ち悪いお香に変なデザインの壁紙…本当にいい趣味していますねセレスディナ」

「…このアマ‼︎」

 

シスターの挑発でセレスディナは全て台無しにされた恨みを含めて恐ろしい表情をしていた。

 

 

 

 

 

 

 

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