「お前は…こんなのところにコソコソといやがったのか」
突然現れた2人に対してセレスディナは恐ろしい顔をしながら相対した。
そして、シスターに対して面識があったのか、まるで会いたくなかった昔の友人に町で偶然出会ってしまったようなそんな表情も含んでいた。
「全く、暫く姿を見せないと思っていたらいつの間にか魔王軍幹部だなんて、本当にあなたと言う人は…故郷のみんなが聞いたら何て言うのかしら」
「何だよ、あいつらが聞いたらなんて言うんだ?よくも人類の敵になったかとかいうのか?」
「いえ、皆腹を抱えて大爆笑すると思いますね、特に貴女の兄妹は」
「…チッ、だからあんな町出ていってやったんだよ」
セレスディナは早くこの場を終わらせたいのか、シスターの話を適当に受け流しながらいかに彼女をここから追い出そうか考えているようだ。
「それで?お前はわざわざこんな所に何のようがあんだよ?あ?ある日突然思いついたように町から出て行ってよぉ!」
「突然ではありません、昔から言っていたでしょう?時が来たら約束を果たしに町を出ると」
「それで?その約束とやらは果たせたのかよ?その様子じゃ果たせなかったみたいだけどよ⁉︎」
シスターとセレスディナは俺が思っている以上に因縁があるのか、昔話に何かしらの確執がみられる。
多分二人の故郷は同じ場所で、同じ時を過ごしていたが何処かで歯車が狂ってしまい決別する運命になってしまったのだろう、
「約束は…そうですね。まだ果たしている途中ですがついでに貴女の邪魔をするのもいいかもしれませんね」
「はっ!相変わらず傍迷惑なやつだぜ!おい!そこの二人もまとめてやっちまえ!」
話し合いが拗れたのか、元々拗れさせる予定だったのか、真相は二人の知るのみとなったが現状を見るにセレスディナは早く終わらせたかったように見受けられる。
「めぐみんさん!打ち合わせ通りにお願いいたします」
「分かりました!」
話し合いが無駄だと判断したシスターは襲い来る街人から逃げる為に事前に打ち合わせしていたのだろう、めぐみんが懐からスクロールを取り出して何かを発動させる。
「クソ!姑息な手ばかり使いやがって!」
「姑息?いえ、これは狡猾と言うものです」
「大して変わらねぇじゃねえか⁉︎」
めぐみんのスクロールのより発動されたのは煙幕の魔法で、周囲には真っ白な煙が立ちこみ、俺を含めこの場にいる全ての人間の視界を奪った。
「さあ、今のうちに逃げますよ。私達の視界は既に潰れてしまっているので貴方が頼りです」
「随分とガバガバな作戦だな!まぁしょうがねぇ着いてこい!」
煙幕に視界が奪われる中俺の脚に回復魔法がかかり、感知スキルを頼りに2人の元に向かうと、明らかな他力本願な作戦の概要が説明され唖然としながらもそれを聞き入れ遂行する。
「おい!逃すんじゃねぇぞ!特にあの女は厄介だからな‼︎」
教会に向かおうと感知スキルで神父の気配を探知していると、セレスディナは俺らを逃すまいと周囲の傀儡に指示を出している。
「いいですかカズマさん、あの子と敵対してしまった以上あなたはこれから誰も信じられなくなるかもしれません、ですが必ず元に戻す術は存在致します」
煙幕中走り抜けていく最中シスターはこれから何が起きるのか分かっているのか、まるで俺を諭すかのように先手を打ち話し始める。
「チッ!正直このタイミングであまり使いたくは無かったが仕方ねえ!おい小娘‼︎この邪魔な煙を全て吹き飛ばせ!」
「…はい、分かりましたセレスディナ様」
「おい、まさか」
直前まで俺に察され無いように事前に仕込みをしていたのか、セレスディナの合図と共に彼女の隣には俺達と時間を共にした仲間の気配が急に現れた。
「マジかよ…どうしてお前が…何でだゆんゆん⁉︎」
「…」
現れたゆんゆんは虚な目をしながら呪文を唱えると、風の魔法により周囲の煙幕が全て掻き消され、隠されていた俺たちの姿が露わとなった。
「カズマ‼︎、今のゆんゆんに何を言っても無駄です!ここは一旦引いて体勢を立て直しましょう!」
「…」
「カズマ‼︎」
「…あっ、ああ!!」
めぐみんのおかげでボーとしていた頭がハッキリし、覚束なかった俺の足元を安定させる。
煙幕の阻害がなくなった以上二人のペースに合わせると追いつかれてしまう為、多少リスクは負うがめぐみんをおんぶし、正面にシスターを抱っこする。
シスターが言っていたのはこの事だろうか、だとしたら…
「おい!!何してるんだ早くあいつらを撃ち落とせ!今度パーティーしたいんだろぉ!」
「…はい」
「カズマ‼︎」
「分かってる!今は何も考えないで逃げる事に専念するからよ!」
セレスディナは何かブツブツとゆんゆんに呟き、彼女はそれに反応するように手を前に出して呪文を唱えると、俺たちに向かって雷の魔法を放った。
「クソッタレが⁉︎」
「カズマさん!魔法の迎撃は私に任せて下さい‼︎」
正直二人を抱えながらゆんゆんの魔法を躱すのは至難のためシスターの提案は嬉しかったが、正直抱っこしながら魔法の迎撃は可能だろうか?
「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーっ!!」
「マジかよ⁉︎」
シスターが何か呟くと、俺の背後に何かしらの魔法陣が出現しゆんゆんの魔法を弾きこそは出来なかったが、何とか相殺させて安全を確保してくれている。
「仕方ありません…正直これだけは使いたくありませんでしたが…」
「めぐみん?一体何する気なんだ?」
正直このペースで進めば教会に辿り着く事は可能だが、セレスディナの信者も辿り着いてしまう為、結果として教会に籠城する羽目になってしまうので何とか撒きたいと思っていたところめぐみんが最終兵器と言わんばかりに爆発するポーションの入った瓶を取り出す。
「これはそこら辺で手に入る物ではありません!爆裂魔法を極めつつある私の監修した爆裂ポーションです!」
「何だそれは!?」
元々衝撃を与えると爆発するポーションというものが存在しており、モンスター相手に投げると、その衝撃で爆発ダメージを与えるアイテムであるが、その管理の大変さに対して与えられるダメージは少ない為、初心者冒険者しか使われないと言われているそれである。
それを紅魔族の天才少女と言われた彼女が改造と改良を加え、使いたくなかったと明言はしたものの使用するに値する程の品質まで到達するに至ったそれを彼女は手にしてガチャガチャと音を立て始める。
「いいですか、これはあくまで試作品で私の爆裂魔法に比べたら髪の毛一本にも劣る子供騙しの様な…謂わゆるオモチャと言うものです!」
「おいおい!大丈夫なのかそれは!」
どうやら改良を加え過ぎた為か発動させるのに手順が必要なようで、彼女はそれもロマンのうちと言いたげに解説も始める。
「まずはこの栓を抜きます!」
彼女はそういい、取り出した筒についているピンのような物を引っこ抜くとプシューとまるで水素の音のような音がなる。
「そしてこれを投げます!!」
「おいおい!手順もクソもねぇじゃねぇか‼︎」
彼女に投げられたそれは綺麗な放物線を描きながら追手の前に転がると、時を待たずとしてそれは大きな炸裂音と共に爆発した。
「スモールエクスプロージョン!!」
爆発と共に悲鳴が響いたが、気配が消えることは無かった為めぐみんは多分だが威力を調節したのだろう。
そしてその爆発により再び煙幕の様な砂煙が立ち上がり俺たちの姿が眩まされ、その隙に再び潜伏スキルを使用し確実に姿をくらました。
「何とか撒きましたね…ですがやはりあの場では時間がかかっても本物の…」
「やめろよ、本当に」
何とか追手を撒きながら教会に辿り着く。
今更だが、教会には異教徒狩りから身を守るために他の宗教に属する者たちの認識を阻害し辿り着けないようにする設備が存在するらしく、現在はその機能により教会を安全地帯として利用できるようにしているとの事だった。
「まさかゆんゆんさんを傀儡にしているとは…あの子の孤独を侮り過ぎましたね」
シスターは窓から追手が来ないか観察しながらも、自身の考えが甘かった事を反省しつつ爪を噛んだ。
「何がキッカケか分かりませんが、あの子のチョロさは紅魔族随一ですからね」
はぁ…と溜め息を吐きながらめぐみんはシスターの言葉に同調するように言葉を吐いた。
「なあ、そろそろ全部話してくれないか?」
「…」
そろそろいい加減にしろと言う意味を孕ませつつ彼女に対して怒りの言葉をぶつける。
「…はぁ、これ以上は流石に仕方ありませんね」
俺の言葉に彼女は睨みを返して来たが、俺もそこは負けじと睨み返して時間が少し経つと、彼女は観念したのかそれとも諦めたか呆れたか分からないが、話す決心がついたのか、セレスディナについて話を始める。
「セレスディナ、彼女は元々私の教え子でした」
「マジか⁉︎あんた幾つ…むぐっ⁉︎」
教え子という事はシスターの年齢はセレスディナ以上という事になる為、その姿からは想像できないと、話の裏を取ろうと口を開いたところでめぐみんに口を塞がれ
「カズマ‼︎人が話しているのに余計な口を挟まないで下さい‼︎後デリカシーと言う言葉を知っていますか?」
と、耳元に小声で指摘される。
「悪かった、続けてくれ」
俺の余計なツッコミとめぐみんの指摘により話の流れが止まってしまったので、謝罪をしながら続けるようにお願いする。
「ここから少し遠くなりますが小さな村に住んでいた時期がありまして、その時は狩で傷ついた村人を癒しながら生計をたてていたのですが、ある時に治癒魔法を教えて欲しいと小さな子が訪ねてきたのが始まりです」
「成る程な」
「当時セレナと名乗った少女に私は出来る限りの治癒魔法を教え、私の教え方が良かったのでしょう、その子はみるみるうちに治癒魔法を習得していきました」
「それまではよかったのですが、問題はそこからでした」
「その問題とは彼女の素行でした。彼女は治療技術の発展の為な何の罪のない生き物を虐げ、その傷を癒していたのです」
「自分で傷つけて自分で直す、側から見れば何もなかったように見えるって事か」
「そうです。最初は虫や魚だったのですが、その対象は徐々にエスカレートして行き最後には関係のない別の村の人を傷つけるようになりました」
「回復魔法しか使えないのに村人を襲えたのか?」
「それに関しては支援魔法を教えたのがいけませんでした…私の目から見れば少ない症例だけであそこまでの治療技術を身につけたのですからつい興が乗ってしまい…」
「まぁ、そういう事もあるよな…」
「ちょっと、今何で私の方を向いたのか詳しく説明してもらおうじゃありませんか!」
「…コホン、セレスディナは普段は優しい女の子を演じ、夜にならばガサツな本性を表して別の村に行っては姿を隠して暴力と治療を行っていたみたいです」
「まぁ、そんな生活も長くは続かなかった様で、不審に思った村人たちが罠をはり、あの子はそんな事は知らずにまんまと引っかかってしまいました」
「そこからの事は説明し無くとも分かると思いますが、その事であの子は村に軟禁され、本来であれば死刑でしたが、その治療技術が買われ死刑にならない代わりに座敷牢で治療する事だけが許される処置が取られました」
「それはあれか?私が村を出て行くから、セレスディナにその代わりを勤めさせるキッカケを作ったって事か?」
「ええ、まぁあの子がさっき言ったように約束もありましたから…少し時期は早まりましたが予定通り私は村を出て行ったのです」
「そして同じように色々な村で過ごしてアクセルに辿り着き今に至ります」
「へぇーそんな事があったのか」
めでたしめでたしと最後に付け足し彼女の思い出話は終了した。
「そこでレジーナ神と出会ったと言うことか」
座敷牢での生活、孤独の中救うのはいつだって人間の上位の存在。
それが今回はレジーナ神で、その傀儡の能力は座敷牢で人を治療する彼女にとって相性が良かった筈だ。
つまり村人を直す側傀儡を増やし、彼女は猿山の大将になったって感じか。
「状況から考えるとそうなった思うのが自然でしょう。ただレジーナ教に関する情報はあまりにも少なく、私が現在分かっているのは死の魔法と生物の傀儡化です」
「あと、受けた傷を相手に返す呪いの様なものがあったな」
「そんなものもあったのですね」
どうやらエリス教の彼女にとって他教であるレジーナ教を知るというのは中々に難しいという事だろう。
しかし…死の魔法か、また随分と厄介なスキルを持ってやがるな…
「それで、その傀儡化の条件って何なんだ?状況的に罪悪感が感謝か友情か愛か…とにかくそいつにとってプラスの感情がトリガーだと思っている」
「それは多分感謝でしょう、あの子が座敷牢に閉じ込められたのは当然の事なので、誰も罪悪感なんか覚えないでしょう」
「そうなのか?助けて貰ったのに閉じ込めて悪いとかうっかり思ったりしないのか?」
「まずないでしょう、所詮小さな村社会なんてそんなものですよ」
「そういうもんか?」
「そういうものです」
どうやら俺の知らない界隈と言うものが存在するのか、それとも人間の闇は俺の知っている以上に深かったわけになる。
まぁ、でも小さい頃からそう言うもんだと教育を受けていれば、そういうもんだと思ってしまうのは仕方がない事なのだろう。
「過去の話はもういいでしょう、それよりこれからどうするのかについて話し合わなくてはいけないと思うのですが?」
「ああ、そうだよな」
シスターがセレスディナの過去を話終わったタイミングで、今まで口を閉じていためぐみんがその口を開いた。
「傀儡の条件は憶測ですが分かりました、感謝するなと言われれば彼女から受ける行為は、全て受けて当たり前の施しだと思えば問題ないでしょう」
「おいおい、随分とすごい極論が出たな」
めぐみんの口から出た対策は理屈上は可能だが、やれと言われて出来るものとは到底思えなかったが、めぐみんなら出来るかと言われると出来そうと思わせられる凄みがあった。
「とりあえずゆんゆんがあいつの手に落ちたのが痛いよな…」
「まあ、あの子らしいと言えばあの子らしいですが、まあなんてタイミングでとは行ってやりたいところですね」
きっとゆんゆんの事だ、適当に相手してもらってお菓子の一つでも貰ったら感謝して傀儡になりかねない気がする…まあ、現に傀儡になってしまったのだが…
ある意味ゆんゆん特攻の能力じゃないかと、セレスディナが現れた時期が早期では無く今頃だった事に感謝する。
「カズマの事ですゆんゆんの動きや魔法のパターンは、ある程度把握しているんですよね?」
「ああ、それなりにな。けど色々隠れて練習しているみたいだから完全に把握してる訳じゃないぞ」
正直ゆんゆんがそれなりに戦っている所なんて姐さんと戦ってる時が最後なので、実際の彼女の能力に関しては未知数な事が多い。
まあ、癖はそうそう変わるものでは無いので問題ないと思うが。
「問題は死の魔法だな、そんなもん放たれたらたまったもんじゃねぇぞ」
シスターの言う死の魔法、即死魔法はどのゲームでもよく聞くが防ぐ手段はそれぞれに個性があり、この世界ではどの方法がそれに該当するのかは分からない。
「それでしたら私の渡した人形が代わりを果たしてくれますよ」
「そうか…そう言えばそうだったな」
二人でどうしようかな悩んでいると外を警戒していたシスターがボソリとつぶやいた。
確かにバニルの洗脳に対して身代わりになった人形であれば死の魔法に対しても身代わりになってくれる可能性が高い。
「そもそもこの人形はその為に開発した所もありますからね」
「そうなのか、助かる」
正直シスターの情報の出所が気になるが、それについて語るつもりは無いらしく、度々質問しても答えはダンマリだった。
もしかしてループしているのかとも思ってみたが、それにしては知識に偏りと不確定な所が多いのでその可能性はないだろう。
「ですと、残りは受けた傷を相手に返す呪いですね。そればかりは私も対策が思い浮かびません」
「それについては…まぁ俺がゆんゆんを何とかして相打ちになれば何とかなるかもしれないな」
「つまり気絶した二人を回収しろという事ですか?」
「まあ、そういう事になるな」
正直返ってくる呪いについてはどうしようもなく、相手がプリーストの為ダメージを蓄積させる作戦も回復されて意味を失うだろう。
「それはともかく、どうやってセレスディナと対峙するかだよな。傀儡を使って人界戦略なんてされたら溜まったもんじゃねえからな」
正直人間爆弾なんて物を作り出し、街人全員にそれを持たせて特攻をかけらた日には肉体も精神もボロボロになってしまう。
「流石にそれは難しいのではないでしょうか?傀儡と言っても一応相手には意思が残っています。まあ、それが強みであり弱みでもありますけど軍隊のように使うにはあの能力はいささか不向きでしょう」
「そうか…やっぱりそんなに都合のいい能力って訳でもないんだな」
やはり、セレスディナの傀儡の能力にも制限や制約があり漫画のように何でもかんでも命令出来る訳でも無いようだ。
「もう面倒なのでセレスディナ諸共爆裂魔法で吹き飛ばしてしまった方がいいのかもしれませんね!」
「止めろ⁉︎ゆんゆんが巻き込まれるだろ‼︎」
ぐだぐだ話したらり考えているとめぐみんが面倒になったのかヤケクソ気味にそう言った。
今までの様に力で何とか出来る相手では無いので苦戦してしまうのは仕方がない事だろう。
「まあ、知らない能力もあるかもしれないし、いつものように行き当たりばったりで行くか」
「そうです!!それこそがカズマです」
「はぁ…そんな感じで良いのでしょうか…」
とりあえず今までと同じやり方で行こうという形に落ち着き、シスターはそれを聞いて呆れていた。