この女神の居ない世界に祝福を   作:名代

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感想や誤字脱字の訂正ありがとうございます。m(__)m



黒き聖女4

「さてと、始めますか」

 

作戦を決めた後、俺たちは教会の入口にて準備をする。

準備と言っても特に何かある訳でも無いので剣の手入れや身代わり人形の管理などの雑用が殆どであり、漫画のような高度な作戦の為の仕込みなんて物は無い。

 

「私は気配を消して、なるべく影でカズマさんの回復に徹する事になりましたが、見つかったらお終いなのでそれ以外は期待しないで下さい」

「ああ、ありがとう、肝に銘じておくよ」

 

シスターなりの気遣いなのか、それとも釘を刺しただけなのかは分からないが、忠告を受ける。

 

ゆんゆんと戦っている最中に俺が傷ついた際にシスター回復してもらう手筈になっているが、セレスディナやゆんゆんに見つかりそうなタイミングでは回復できないから、生き死にに関わる最低ラインの怪我は自分で治して欲しいとの事だ。

 

まぁ、ゆんゆんもセレスディナの回復や支援魔法を受けるので、ある意味こちらが不利になりそうな感じがするが、ゆんゆんとの戦い方は以前アイリがしていた方法を参考にすれば大丈夫だろう。

 

イメージトレーニングは充分過ぎる程行ってきたが、それでもセレスディナという不確定要素を加味するとどうしても最後の詰めが曖昧になってしまう。

 

ゆんゆんが前衛で後衛がプリーストのパーティーが…

正直今まで殆どプリーストとパーティーを組んでこなかった為か、後衛にプリーストが居る時の戦い方がどうしても他所のパーティーの動きや推測のみになってしまう。

 

「それではカズマ、頑張って下さい。私は役に立ちそうな時が来ましたら参加致します」

「何だよそれ…まあ、めぐみんに出来る事は爆発させる事だけだからな」

 

堂々と今回も何も出来ないと言い張るめぐみんに若干呆れながらも、仕方ないと思う。

めぐみんは全てを吹き飛ばす事が出来ても、仲間を守る事には向いていないのだ。それでも、彼女の協力無くしては成り立たなかった魔王軍幹部戦における作戦が少なく無い為、適材適所なのだろう。

 

「それと最悪ゆんゆんさんがどうにもならなくなった際は、死なない程度に四肢とか切り落として下さい。わたし位にならば後で生やせますので」

「いやいや、怖えーよ!」

 

ゆんゆんと闘うなんて…そう言えば一度あったなとバニル戦を思い出したが、今回は正真正銘、まあ、操られているとは言え純度100%の彼女と闘う事に憂いていると、シスターが元も子もない様なセリフを吐き出した。

 

「けどまあ、どうしようもなくなったらその時は頼むよ」

 

綺麗事は言ってられないので、いざという時のためにお願いだけはしておく。

相手はアークウィザードで俺は冒険者なのだ、普通に考えれば俺が圧倒的に不利なのは考えるまでも無い。

 

「それじゃあ言ってくるよ」

 

二人より先に先行する為にあえて潜伏スキルは使わずに教会の正門から扉を開き外に出る。これで街の皆の視線は全て俺に集中するだろう。

 

「やっぱりそうなるよな、全員まとめてかかってこいや!」

 

教会の外に一歩踏み出た途端に街の皆が湯水の如く湧き出し、まだ洗脳のされていない俺を襲おうとしてくる。

 

「怪我してもシスターが回復させてくれるらしいからな、遠慮なく行かせてもらうぜ」

 

街の皆はセレスディアの策略なのか分からないが、皆何かしらの武器を持って武装している為、正直無傷で無力化出来るかどうか心配だったが、シスターの言葉に甘える事にして全ての街の人を殺さない程度に意識を奪う事にした。

 

「…」

 

街の皆の攻撃を全てかわし、その隙を見計らって手刀を首裏に叩き込む。

正直漫画のように上手く行くものかと思っていたが、実際にやってみると案外倒れてくれるんだなと想像とのギャップにワクワクしながらその作業を続ける。

 

セレスディナの気配はギルドに感じる為、俺は街の皆を出来るだけ無力化しながらそこへ向かう。

 

 

 

 

 

 

 

「あっカズマさん!何処に行っていたんですか⁉︎心配したんですよ!」

「ゆんゆん…」

 

ギルド前の大広場に辿り着くと、そこら先程まで大喧騒とは打って変わりゆんゆんがただ一人彷徨いていた。

その光景を観るに、あたかも夜中に帰って来ずに何処かで遊び歩いている俺を心配を装いつつ咎める様な感じのシチュエーションだろうか?

 

「…全く、こんなところほっつき歩いてないで早く帰りますよ。明日も準備が忙しいんですからね!」

「ああ…悪いな」

 

もし、本当に彼女が傀儡になっていなかったら申し訳ないが、ここはセレスディナ討伐の為済まないと彼女の首元に手刀を打ち込もうとする。

 

「…やっぱり駄目でしたか」

「…っ⁉︎」

 

ボソッと彼女が呟いた瞬間足元から稲妻の柱が発生し、嫌な予感がした俺は念の為横に回避したので肩を掠める程度で済んだが、もし躱さていなかったらそのまま即死だっただろう。

 

「…ゆんゆん?お前自分が何しているのか分かっているのか?」

「…はい?カズマさんは何を言っているんですか?」

 

ゆんゆんは俺が言った言葉が理解出来ないのか、理解できないようにされているのか、わからない事を別の例えで説明されたが、結局それも分からなかった見たいな顔をしていた。

 

「あーそうですよね。頭の良いカズマさんでも流石にいきなりでしたら分からないですよね…あまり時間が無いので簡単に説明しますね」

「ああ、それは随分と丁寧だな」

 

洗脳されて傀儡になっても根っこの真面目さは変わらないのか、ゆんゆんは何故俺を殺そうとしたのかについての経緯を説明し始めた。

 

「まず、私が今日の夕食の材料を買いに行った時なんですけど、その時にセレナさんが私の落っことした野菜を拾ってくれたんです!なのでお礼に何かさせて下さいと聞いたらセレナさんがカズマさんを殺して欲しいって仰っていたので、凄い悲しい事ですがカズマさんを殺す事にしました‼︎」

 

「えぇ…」

 

やはりセレスディナの傀儡の条件はシスターの言っていたように感謝で正しかった様だが、まさかゆんゆんが落とした野菜を拾って貰った恩で俺を殺しにくるなんて誰が想像できただろうか。

 

いつまで経ってもボッチ気質が抜けないゆんゆんに呆れつつ、その恩でここまでさせるセレスディナの能力に戦慄する。

 

「カズマさんは私の好きな人なので出来れば苦しまずに殺したかったのですが、バレてしまったら仕方がありません…」

「おいおい、随分と嬉しい事言ってくれるじゃねえかよ…」

「本当に心苦しいですが、カズマさんにはここで死んで貰います‼︎」

「おいおい…マジかよ」

 

天国から地獄に落とされるとはこの事だろうか?

ゆんゆんがそう宣言したところで彼女の周りに呼び反応なのか周囲に放電反応が見られ、いつか誰かが言っていた雷鳴轟くゆんゆんになっていた。

 

「カースドライトニング!」

 

彼女の呪文を唱えると同時に俺に向けられた手から黒い稲妻が放出され、周囲の建造物を巻き込みながら俺に迫る。

 

「やってられるかよ‼︎」

 

俺はその稲妻を出来る限り引き寄せ、タイミングよく側方に躱わして距離を詰める。

すると彼女は既にその動きを読んでいたのか、先程突き出した手とは反対方向の手を俺に突き出し、もう一度同じ呪文を放ち俺の逃げ場を塞ぐ。

 

「…っ⁉︎」

 

これ以上は躱しようが無いと、以前のアイリの動きを参考にしながらタイミングよく剣をぶつけて稲妻をパリーさせ、彼女に魔法を放たせ硬直している瞬間を狙い距離を詰める。

 

「どうしたよゆんゆん!アークウィザードが冒険者に距離を詰められてりゃ堪ったもんじゃねぇぞ!」

 

隙あらばゆんゆんを煽り、彼女の集中力を乱しながら次の策を考える。

 

「本当に酷い事ばかり言いますね!カズマさんは人の気持ちとか考えた事無いんですか‼︎」

「一々人の気持ちなんか考えてられるか!それに考えすぎのお前には言われたくねーよ!!」

 

火炎の魔法を水の魔法を纏わせた剣で切り開き、を再び距離詰めるが彼女は俺の作戦に気付いたのか全方向に雷の魔法を放ち、防御に俺が徹したタイミングで距離をとられる。

 

以前俺が教えた戦い方をマスターしている事に若干の感動を覚えながらも、それが今自身の脅威になって裏目に出た事に戦慄しながら再び距離を詰める。

 

「全くどうしてそんなに私の邪魔をするんですか!カズマさんは私の恋人でしょう!少しは私に優しくして下さいよ!」

「はぁ⁉︎いつも優しくしてんじゃねえか!!」

 

風の切断魔法を剣で弾き、砂を乗せた風魔法を放ちゆんゆんの視界を一時的に奪いにかかるが、彼女はそうくると思ったのか風を纏う魔法で俺の魔法を弾き飛ばす。

 

そして追い打ちをかけるように氷の氷柱を雨の様に降らせる魔法を放ち、それを走り抜ける事で回避すると、回避した先を彼女は読んでいたのか、俺がその場所にたどり着いたタイミングで彼女は雷の魔法を飛ばしてくる。

 

…本当に厄介な相手だよゆんゆん!

 

普段もこれくらい動いて欲しいと思っていたが、よくよく考えてみると俺は彼女を自分が上手く立ち回らせる為の後衛としか頼って居なかったんだなと、改めて彼女が抱えているであろう不満を実感する。

 

しかし、それはそれ、今はそんな事よりもどうにかして彼女を無力かしないと行けない。

アイリは早々に彼女との距離を詰めたが、俺は彼女の様に剣技だけでは立ち回れないかもしれない。

 

だが、彼女の戦い方を見てある事に気づき、もしかしたら行けるかもしれない作戦を思いつく。

ならば、後は…

 

「オーケーゆんゆん、お望み通り殺されてやるからこっちに来いよ」

 

俺は頼りの綱である剣を地面に落とし、両腕をあげながら彼女に降参をしめす。

 

「え?ちょっと…え?一体何を考えているんですか!?」

 

彼女は俺が武装解除して降参した事を信じられないのか、慌てながら後退りした。

 

「何だよ?俺を殺すんじゃなかったのか?ほら早く来いよ」

「え?…あ!騙されませんよ!そんな事して近づいたら何かするつもりですね⁉︎本当に油断も隙間ない人ですよカズマさんは‼︎」

「はぁ?この後に及んでそんな事するわけねーだろ、まったく…しょうがねーから俺から向かってやるよ」

 

俺は丸腰のまま彼女の元に向かう。

 

「え?ちょっと‼︎このままだと本当に私に殺されてしまいますよ⁉︎」

「だから殺されてやるって言ってるだろ?そのセレナさんとやらの約束の為によお」

 

ゆんゆんは俺の行動に疑問と混乱を抱きながら何とか距離を取るべく魔法を放つ。

 

「ほら、いい加減にして下さいよ‼︎これはいつものお遊びじゃ無いんですよ!!」

「…」

 

彼女は動揺しながらも俺に攻撃魔法を飛ばし、俺はただ真っ直ぐ歩いているだけなのにその魔法は俺の予想通り俺の頬をかすめ後方へと飛んで行った。

 

その後、彼女は俺から距離を取りながら攻撃魔法で牽制するが、その魔法が俺に直撃する事は無く、それ相応のダメージを受ける羽目になったりはしたが無事彼女を壁際まで追い詰める事に成功した。

 

「なあ、ゆんゆん…お前は本当に優しい奴だよ。たとえセレスディナに洗脳されたとしても俺を殺す事を何だかんだ出来ないほどに」

 

俺は追い詰めた彼女を抱きしめて、完全に無力化した彼女を抱きしめながらそう言った。

 

「…まったく、本当に馬鹿な人です。カズマさんは…」

 

一方的な抱擁は彼女から抱きしめ返される事で完成し、俺は無事彼女を傀儡化から解放する事に成功…

 

「おいおい、なんだぁ?このしけた恋愛劇はよぉ、寒すぎて厚着しなきゃいけなくなっちまうだろ」

 

「セレスディナ…」

「え?セレナさん?」

 

後もう少しというタイミングで俺の視界の隅からセレスディナが姿を表し、横槍を荒れるかの如く何かを始める。

 

「まぁ、ゆんゆんさん酷いです。私の為に恋人を殺してしまう約束はどうなったんですか?」

「そっそれは…」

 

突然猫を被りながらゆんゆんに詰め寄り始めるセレスディナに、彼女は怯えながら言い訳を考えているのか震えながらしどろもどろに言葉を発する。

 

「おい、セレスディナ‼︎お前は」

「黙っていろサトウカズマ‼︎おいゆんゆん‼︎」

 

ゆんゆんが抱きついて離れない為、セレスディナに対応出来ない間を突かれ彼女は一瞬の間に距離を詰めるとゆんゆんの耳に何かを呟き彼女は一瞬全身が振動した後俺を突き飛ばした。

 

「まぁ、後は二人で仲良くやれや。お互い積もる話もあるだろうしな」

 

虚な目をしたゆんゆんを見て何かを確信したのかセレスディナはフッと勝ち誇ったように笑いながらギルドの方へと距離をとった。

 

「おい、セレスディナ!!お前ゆんゆんに…クッ⁉︎」

「…カズマさん…死ね」

 

セレスディナに文句の一つ言おうとしたタイミングで再び俺の頬を黒いカミナリが掠め取った。

 

「ゆんゆん…嘘だろ…」

「死ね…死ね…死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね」

 

まるで壊れた音声付き人形の如く呪言を吐き連ねる彼女に戦慄しながら彼女の魔法を寸で躱わす。

その威力は先程までのものとは違い、確実に俺の命を狙った物だった。

 

「クソッまたかよ⁉︎」

 

意図せぬ第二ラウンドのゴングが鳴り響いた事に内心悪態をつきながら、先程とは打って変わって殺意の強い攻撃を放ってくる彼女から距離を取る。

 

「ゆんゆん‼︎お前今何をしているのか分かっているのかよ‼︎」

「うるさい、死ね。死ね死ね」

「おいおい…マジかよ」

 

何とか返事は返してくれるものの、その返事は俺への殺意の為何も交渉出来ずに黒い雷で蹂躙されるのを待つしか無い現状に唖然とする。

 

「ほらほら、早く何とかしないと恋人に殺されちまうぞ!」

「このクソプリーストが!」

 

ゆんゆんから逃げ回る光景がツボに入ったのか、セレスディナは笑い転げながら俺を煽る。

 

その隙にゆんゆんは黒い稲妻を放ち、それを剣で弾き距離を詰める。

正直、先程の様な作戦はもう使えないだろう。

 

…死なない程度に四肢とか切り落として下さい。

 

ふと頭の中にシスターの言葉が過ぎる。

 

…駄目だ

 

それだけはやっては行けないと脳内の何かが叫んだ。

 

ならば一体どうすれば…

 

一体このピンチをどうやって切り抜ければ…

 

ーーそんな事考えるまでもないでしょう?ーー

 

誰かが俺の中でそう言った気がした。

 

気づけば目の前に黒い稲妻が迫り来る。

俺は一心不乱に稲妻に剣を当て、弾きながらその稲妻をリードにして彼女の元に迫り距離を詰める。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…あぁ…あっ…あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぉぉぉぉぁぉぉぁぉぉぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーっ!?」」

 

稲妻の閃光が止み、気づけば目の前には腹を切られ血塗れになったゆんゆんが倒れていた。

 

「ぷっ、ふふ…あはははははははははははは‼︎ひーー!!とうとうやっちまったなおい!」

 

その光景を観てセレスディナは堰が溢れた様に大声で笑っていた。

だが、今はそんな事どうでもいい。

 

俺は彼女を抱き上げ、魔力の効率なんて考えずに一心不乱に回復魔法をかけようとする。

 

「おいおい、自分で斬り捨てといて治そうだなんてムシの良い話じゃねぇか!」

「うるせぇ‼︎お前は黙っていろ!」

 

セレスディナのヤジを無視して俺はゆんゆんに回復魔法を発動させ彼女の傷口を塞ごうとしたタイミングだった。

 

 

 

突如何者かが俺の頬を殴り抜いた。

 

 

 

 

 

 

「ーーーつ!?」

 

ゆんゆんに気を取られたせいで感知スキルの精度が下がった所を突かれ、俺の身体はゆんゆんを置き去りにして側方へと吹き飛ばされてしまう。

 

「クソッ‼︎」

 

新しい敵が迫りきているのに俺の視線はゆんゆんに釘付けになっており、時間も相まって相手の姿は黒い影としか認識出来なかったが、奴の持っている剣を見てそれを衝撃波の魔法で上手く弾き飛ばし、いち早くゆんゆんの元に向かい彼女に回復魔法をかける。

 

「ヒュー‼︎カッコイイー!!惚れちゃいそうだぜサトウカズマ‼︎」

 

もはや反応している時間すら惜しいので、セレスディナのことは無視しながらゆんゆんに回復魔法をかける。

正直シスターが援護してくれると聞いていたので、もしかしたらと思っていたが、その助けが無いことから多分だがセレスディナの用意した刺客に足止めされているのでは無いかと推測してしまう。

 

「僕を…僕を見ろ!サトウ…サトウカズマーーーーーーーーーっ‼︎」

「お…お前は⁉︎」

 

彼女の前に座り込み必死に回復魔法をかけていると、俺に無視された事で堪忍袋の緒が切れたのか、そいつは怒りながら俺の肩を掴み背後へと引き、そいつの顔が俺の視界に映る。

 

「ミ…ミツルギ!?」

 

俺の視界に映ったのはやつれにやつれ切ったミツルギの姿だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

焦燥し切った彼の表情を見て、クレメアは彼の心を癒す事に失敗したのだろうと自身の判断の無責任さに後悔する。

 

「ふーふー!僕を…僕を」

「クソッ!なんてタイミングで」

 

ゆんゆんに回復魔法を掛けながらミツルギに向き合う。

回復魔法自体は精度がだいぶ下がるが、原理を知っていれば対象から多少離れても機能はする。

だが、そのリソースと集中力は段違いに摩耗してしまう。

 

「ったく、ようやく前衛が到着かよ…もう後衛は死んでるっての、騎士失格だなおい」

 

やはりというか何というか、この光景もセレスディナの描いた光景らしいが彼女からしたらミツルギとゆんゆんのペアで俺を殺したかったようだ。

 

「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉーーーっ‼︎」

 

ミツルギは特別な洗脳でもされているのか、先程のゆんゆんとはまた別の方向性で精神に異常をきたしてしまっていた。

 

「ぐっ⁉︎」

 

ゆんゆんの回復にリソースを割いている為にミツルギの放つ拳を支援魔法の一切掛かっていないシラフの状態で受け止める。

やはり、今まで支援魔法に助けられてきたんだなと実感させられる程の激痛が腕に走り、骨が折れる前に何とか外に受け流した。

 

「ぼっ…僕は…僕は…か、勝つぞ!今…今度こそ!き、君に!」

 

ミツルギはまるで知性を引き換えに力を得たアークの如く辿々しい言葉を放ちながら一心不乱に拳を放った。

 

「ク…クソッタレが‼︎」

 

ミツルギの拳の連打にたまらず後方へとステップし、その反動を利用して前蹴りを放ち、奴を後方へと吹き飛ばす。

 

「う…うぉぉぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおーーっ!」

 

吹き飛ばした所に先程弾いた魔剣があったのか奴はそれを拾い上げこちらに切り掛かってくる。

 

「落ち着け!!俺を殺しても何も変わらねーぞ‼︎」

 

ミツルギの剣技をスレスレで躱しながら、奴が何を考えているのか推測を交えて揺さぶりをかける。

 

「いや、意味はあるぜ。あの子を助けたかったんだろ?あたしはリザレクションを使えるからな、その男を殺したらお前の仲間を新品同然にして復活させてやるよ!」

 

揺さぶりをかけると、まるで説明しようと言いたげにセレスディナが説明をし始め、何故ミツルギが立ち直れなかったのかを思い知った。

 

誰しも死を受け入れようとした所でのリザレクションの誘惑と言うのは禁断の果実同然。

そんな誘惑に耐えられるのであればそもそも仲間の死で病んだりしないだろう。

奴は特典により様々な耐性を持っている為、前回のように傀儡になれず、仲間の生と俺の死を天秤にかけられ精神が摩耗して壊れてしまったのだろう。

 

「何でだ!どうして!僕は君に勝てないんだ!」

 

ミツルギの攻撃をかわしながら反撃するが、支援魔法の無い俺の攻撃では決定打にならず、少し怯んではくれるがそこまでダメージが入ってるとは思えない。

 

「僕は頑張った!この世界で今度こそ強くなる為に!なのに…」

 

俺は隙を伺いながら打撃が効かないなら、上手く体勢を崩して投げるしか無いと戦闘形式を投げ技にシフトさせる。

 

「だけど、何ど挑んでも君には勝てない…ステータスの恩恵を受けず特典も使いこなせて無い君に‼︎」

 

何とか隙を見て奴の脚を払う事に成功したが、すぐさま体勢を元に戻される。

奴の動きは徐々に強くなっていることから、多分セレスディナが支援魔法をかけているのだろう。

 

「僕は…何も…守れないのに…君は…君だけは‼︎」

 

ゼロ支援魔法の俺と支援魔法モリモリのミツルギでは技術でどうにかなる範囲を超えてしまっているのだろうか?

それに筋力が変わっていないところを見るにセレスディナの性格の悪さが伺える。

 

「しまっ」

 

どうするか迷ったタイミングでミツルギは攻撃が当たらない事に苛ついたのか、ゆんゆんに向かって大剣を振り下ろした。

 

「待てミツル…なっ⁉︎」

 

慌ててその大剣を先程と同じように衝撃波で弾こうとしたタイミングで奴の大剣がこちらに向かって飛来する。

どうやらゆんゆんをダシに俺の隙を作る作戦だったようで、奴の振り落とした大剣は軌道を変えこっちに投げたのだ。

 

「くっ‼︎」

 

何とか衝撃波で勢いを殺し切ったが、ミツルギにその隙を突かれタックルされマウントポジションを取られる。

 

「僕は…僕は勝つぞ‼︎こん…今度こそ‼︎勝つ…勝つ勝つ勝つ勝つ…勝つぞ!!」

 

そこからは拳の応酬で、俺の視界にはこの世ならざる表情を浮かべるミツルギと今だに生死の狭間を彷徨うゆんゆんだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

気づけば何処かで見た事のある様な無いような部屋に立っていた。

 

「何やってるの?早く来なよ」

「ああ、ごめん」

 

俺はいつの間にか居たクリスに促されるままその部屋を後にした。

 

部屋を出るとそこは何処かでみた様な小さな村で、近い様な遠い様な場所で子供が遊んでおりその独特な喧騒が聞こえてくる。

 

「君は結局何がしたいのかな?」

「何って何が?」

 

小さな村を歩きながらクリスが話しかけてくるが、俺にはその質問が何を意味するのか分からなかった。

 

「うーん、そう返されるとどう返したらいいか難しいな」

「なら、そんな質問すんなよ」

 

「そうだね、君の最終的な目的だね」

「それは聞かなくても分かるだろ?魔王を倒す事だよ」

 

お前らが魔王を倒す為に送り込んできたんだろと返したかったが、場の雰囲気的にその返答は憚られた。

 

「違うよ、魔王を倒すのは手段でしょ?君は魔王を倒して何がしたいのか思い出しなよ」

「それは…平和な世界か?」

 

魔王が倒され、周囲の人間達がモンスターに襲われる心配が無くなれば、争いが無くなり平和な世界が完成する筈ではある。

 

「へぇ…君は随分と楽観主義者になったんだね、まあいいや」

「…何だよその言い方」

 

まるで言われの無い説教を恋人からされ、その返答が自身の思った言葉では無かった時の様な面倒くさい返事が帰ってきた。

 

「所で魔王軍幹部は後三人だっけ?」

「そうだな、セレスディナと魔王の娘と後一人だな」

「後一人は誰だか予測はついてる?」

「いや、分からん」

「そうなんだ」

 

クリスはまるで他人事のように笑いながらそう言った。

 

「そろそろ急がないと時間は有限だよ」

「いきなり何言ってんだよ、脅かすな怖いから」

 

先程とは打って変わって真剣な表情で彼女は脅すようにそう言った。

 

 

 

 

 

 

気づけば、村から少し外れた森のような場所へと移動していた。

そこは小さな川が流れており、外は夜になったのか暗くなり蛍が淡い光を放ちながら漂っていた。

 

「ジャーンどうこの浴衣綺麗でしょ!」

 

そして現れたのは浴衣姿のクリスだった。

 

「…」

「おい、そこは可愛いなとか綺麗だねとか言わないと怒られるよ」

「ああ、そうだよなごめん」

 

何故かよく分からない展開に唖然としているとクリスに説教をかまされる。

 

 

そして舞台は村へと戻り、今度はお祭りの様な催し物が先程の村で再現されていた。

 

「金魚救いって言うんだっけ?」

「…」

 

クリスはポイを店員から受け取ると、彼女らしからず不器用そうに頑張って金魚を救っていた。

 

 

 

そして次に気づいた時には村を見下ろせる丘の上に移動していた。

 

「…なあ、そろそろ何がしたいのか教えてくれないか?」

「はぁ…君にはロマンのかけらもないね」

 

一体いつまでこんな事が続くのだろうかと思い、場の雰囲気を壊す覚悟で彼女に質問すると、彼女は珍しく拗ねた返事を返した。

 

一体彼女はどうしたのだろうか?

彼女のらしく無い雰囲気は俺に違和感を覚えさせるだけだった。

 

「まっこれが君って感じたよね」

 

彼女は何かに納得したように肩力を抜き降ろしながらそう言った。

 

「悪いけど早く要件を言ってくれないか?」

「ほら、下を見なよ」

「何だよ急に…え?」

 

俺の質問は無視されて仕方なく促されるまま下を見ると、先程まで賑わっていた村が何処かの村に襲われたのか炎上していた。

 

「結局何をするにも犠牲は付きものなんだよ」

「…助けなくていいのか?」

「何で?」

「…つ!」

振り返った彼女の瞳からは色が抜け落ち闇が広がっていた。

 

「はぁ…君は今尚も綺麗でいようとしているのさ」

「何を急に…」

 

抜け殻のような彼女はその瞳を俺に向けながら迫り、俺はそのまま彼女に肩を捕まれ背後へと押される。

 

「流石に私が死ねばその甘さが消えるかと思っていたけど、まだ何も分かっていなかったようだね」

「おい、ちょっと痛いって…え?」

 

彼女に押されてその勢いと彼女の肩を掴む手の痛みから逃げようと体をよじると、場面はまた別の場所へ変わっていた。

 

そこは忘れもしない紅魔の里だった。

体は言う事を聞かず、俺の眼前では紅魔族の仲間達が目の前で殺される瞬間が再現されていた。

 

「ふにふら、どどんこ…それにみんな…」

 

それは皆の死の再現だった。

紅魔族の皆が死んだ光景をただ現実の様に再現されていた。

 

ゆんゆんの同級生達が捕まり、恐怖で失禁しながらも傭兵達に眼を穿り出され殺される瞬間だった。

 

「目を背けちゃ駄目だよ、これから見るのは君が取りこぼした命達だから」

「やめろ…やめてくれ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…やめ…止めてくれ…もう止めてください…お願いします…」

「次で最後だよ」

 

あれから数えきらない程俺の周りで死んだ人達の死ぬ所を立て続けに見させられ続けて、俺の精神は限界に達した。

クリスは俺の懇願に眉一つ崩さず、その光景から目を背けないように顔を掴み目を見開かせた。

 

彼女言う最後の光景が再現される。

それはゆんゆんが死にゆく光景だった。

 

「ゆ…ゆんゆん⁉︎」

「あーあ、このままじゃ死んじゃうね。でも君に斬られるなら本望じゃ無い?」

「クリス‼︎」

 

今まで何とか壊れないように守りに守っていた俺の中のたいせつな何かが壊れた音がした。

動かなかった体は動きを取り戻し、気づけばクリスを押し倒し、のしかかりながら俺は彼女の首を締めていた。

 

「…ぐっそうだよ…うっ…やれば出来るじゃん」

 

苦しい筈のクリスは何処か満足気に笑いながらそう言い、ふと視界に映る血の水溜まりに反射する俺の顔はミツルギのそれとはまた違った醜い表情だった。

 

そして手の中で苦しむクリスを見ながら俺はある事を思い出した。

 

魔王を倒せば願いを一つだけ叶えてくれる…と

 

ああ、クリスが言いたかったのはこれか…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「僕は…今度こそ‼︎今度こ…あぇ?」

 

俺の支援魔法全開の突き出された拳はミツルギの顎を打ち抜き、突然の事に理解が及ぶ前に頭を揺らされた奴は状況を読めないまま後方へと倒れた。

 

「ゴチャゴチャと…うるせぇんだよ‼︎」

「あっああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああーーっ!!」

 

倒れ、自身の置かれている状況が理解できずに困惑しているミツルギの腹めがけて拾った大剣を突き刺す。

腹に大きな穴が空き、地面に縫い止められた奴は回復魔法が適応されず激痛のあまり全力で叫んでいた。

 

「おいおい、大切な仲間を虫の標本にすんなよ」

「は?お前には関係ねぇだろ」

 

落とした剣を拾い上げ再びセレスディナに向かう。

 

「マジか…お前の仲間って本当に役に立たねえな」

 

セレスディナは俺の仲間達の文句を言いながら、自前のメイスを取り出し、俺に向けて構える。

 

「なぁ、一つ聞いていいか?」

「あ?何だよ」

「アイツが俺を殺したらあの子を生き返らせられるのか?」

「ああ、あの話な…」

 

ふと疑問に思っていたことを聞く、一度殺して蘇生させる事で状態異常を消すデスリセットはゲームではよくあるが、この世界でもそうなのか。

 

「ある訳ねぇだろ‼︎リザレクションで戻るの死ぬ前の姿だぁ‼︎それにあんな気持ち悪い生物‼︎例えあたしの命を対価にしても助けるかよ‼︎」

「…そうかよ」

 

分かってはいたが実際に言われると心に来るものがある。

 

「そう言えばあたしの呪いの対策は考えて来たのかよ」

 

彼女がメイスを払うとその軌道にそって空気の塊が飛来する。

 

「お前は結局一体何がしたいんだ?俺の処分?妨害?見物か?」

 

空気の塊を軽く回避して彼女との距離を詰めていく。

 

「ただの暇潰しだよ、だってこんなにも面白い事なんてねぇからよ!」

「ああ、そう」

「何だよ、随分とつまんねえ反応だな」

 

セレスディナの放つ攻撃を全て躱しながら距離を詰める。

深手を負いトドメを刺せると踏んだ為かミツルギが倒された所で逃げなかった事を若干後悔しながら彼女は俺に向けて攻撃を放つが、悲しくもプリースト攻撃手段は他の職に比べて少ない。

 

「チッ!誰か居ねぇのか!!」

 

仲間を呼ぼうにもシスターとめぐみんが残党狩りをしてくれているのか、セレスディナの仲間が現れる事は無かった。

 

「追い詰めたぞ」

 

正直これからどうするかを考えていたが、俺はある事を思いついていた。

 

「魔王軍幹部と言えども追い詰められればあっけないもんだな」

「はっ!やれる物ならやってみろ!!」

 

俺はいきがる彼女の脚を蹴り上げると、同じ痛みが体に走る。

 

「何だ?我慢比べか?悪いが拷問は慣れてるんでな回復魔法が使える分こっちに部があるぞ!」

 

追い詰められ余裕が無いのか饒舌に喋り出す彼女は、俺の意趣返しと言わんばかりに蹴り返してくる。

支援魔法で強化された脚での蹴りで俺の足は痛いが、呪いにより一方通行の為彼女の脚は痛く無いようだ。

 

「…はぁ」

「何を…そんな目で私を見るな!!デス!!」

 

人をバカにする事は慣れていても、馬鹿にされる事は慣れていなかったのか彼女は激昂する。

そして、彼女が俺に指を刺しその呪文を唱えた瞬間、俺の所持する人形が壊れた音がした。

多分人形が無ければ即死だっただろう。

 

「…チッ!何か仕込んでやがったか!だがそれもいつまで続くかな‼︎デ…」

 

彼女は反応して停止した俺の隙をついて距離を開けたのち、再び死の魔法を放とうとした瞬間、俺は懐に隠し持っていたナイフを投擲し彼女の首にナイフを突き刺した。

 

「カハッ!」

 

彼女の首が切れた瞬間呪いにより俺の首も切り裂かれたが、その傷は数秒もしないうちに回復した。

どうやらシスターが支援出来る距離に来たようだ。

 

「ヒューヒュー」

 

セレスディナは事態を把握したのか、ナイフを抜き捨て回復のスクロールで喉を回復させようとしたが、その傷が癒える事は無かった。

 

「ーーー?」

 

彼女は理解が及ばないのか、混乱しながら首を抑え俺が何かをしたのと思い睨みつける。

バルターもとんだ置き土産をくれたものだ、と投げ捨てられたナイフをすぐさま回収する。

正直頸動脈を切ったら終わりだったが、こんなところで幸運スキルが役に立つとは思わなかった。

 

「悪いけど、死んでくれ」

 

俺は呪文が使えなくなった事で完全に勝ち目が無くなったと逃げようとする彼女を追いかけ脚の根本を後ろから切り捨てる。

そうする事により呪いの効果で俺の脚も切れるが、切断された脚はシスターの魔法により綺麗に元に戻る。

そして、切断された状態だとセレスディナは失血死してしまうので、切断面を回復魔法で止血する。

 

「そんな目で見るなよ…おまえの蒔いた種だろ?」

 

脚を切られた事で倒れ立ち上がれなくなり、地面で無様に激痛でのたうち回りながら俺の事を睨む彼女にそう告げると、俺は彼女の首を物理的に止血し、そのまま残りの腕脚を切り取る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後色々あったが、俺は彼女を街の外に連れて行った。

初心者の街といえども夜になれば初心者殺しなどの強いモンスターも現れる。

 

「悪いけど、お前の死の責任なんて取りたく無いから」

 

失禁によりアンモニア臭くなった彼女の身体を魔物の前に放り投げる。

絶望していた彼女の表情は死を前にして生の執着が出たのか俺に助けを求めていたが、それは魔物に食われるうちに徐々に無表情へと変わった。

 

そして彼女を食べたであろう魔物の命の灯火が消えた。

 

 

 

 

 

 




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