今回はダクネス視点です。
魔王侵攻1
「はぁ…」
王都に与えられた自室に備え付けられた椅子に座りながら私は溜め息をついた。
カズマに時間の猶予を与える為、私達の部隊をできるだけ遠回りさせていたのだがついにそれも限界を迎え私達はアクセルについてしまう。
そこでカズマに遭遇したら、またどうにかして逃げてもらおうと考えていたがどうやらアイツはすでに街を出てしまったらしく、それと同時に痺れを切らしたクレアによってこうして王都に呼び出されて今に至る。
さて…これからどうしようか。
この後数時間後には会議が開かれ、今回アイツを追いきれなかった理由を問われるだろう。
もちろん私もそれに対してもっともらしい反論を返すつもりではあるが、参加する面子はアイリス様を含めてシンフォニア家に属している者たちが占めている以上私に反論の余地どころか機会も与えられないだろう。
現在、王都はクレアに教育され傀儡の様になってしまったアイリス様を筆頭にシンフォニア家の派閥に属する奴等で構成され、我々ダスティネス家に属する者達は今回の様に何かと難癖をつけられてはシンフォニア家の派閥の人間と挿げ替えられてしまい、ほとんど味方はおらず多分今回の件で我々ダスティネス家はその力を失うだろう。
私は一体何処で間違えたのだろうか。
窓の外の景色を眺めながら過去の出来事を反芻する。
やはりクリスと連絡がつかなくなった辺りからだろうか。
今思えば私も色々好き勝手していたなと思いながら日記を見返す。
具体的に崩れ始めたのはアイリス様の父である国王が亡くなられてからだろうが、それでもまだ立て直せる兆しはあった。
それが一瞬にして崩壊してしまった。
今思い返せば、私は何かある度クリスに相談しそれを糸口に解決していたと思う。
それが悪い事だとは思わないが、それによって私は本気で物事を考えて行動せず、何かあればクリスに頼ればいいと言ったスキームを無意識に作り出していたのだ。
いかんいかん…
考えがマイナス方向になっていると思い、思い出という名の後悔をやめ荷物を整理して部屋を後にする。
もしからしたらここ見納めになってしまうのかと思い感傷に浸りながら廊下を渡る。
「…え?」
窓から見える景色から視線を正面に映すと、そこには探していたシルフィーナの姿が見えた。
彼女は行方不明になったと連絡が入った時は、今みたいに切羽詰まった時ではなくまだ余裕があった時なのでダスティネス家全ての総力を持って探したのだがあの子の姿どころか噂一つ知る事が出来ずに捜査を一時的に打ち切り、手が空いた者に任せる事になったのだが、まさかこんな場所に居るなんて誰が思うだろうか。
…いや、あれだけだけ探して居なかったのだ。今更こんな場所に出てくるなんてありえないだろう。
これはきっと私の精神が限界を迎え最後に会いたかった人の姿を見せているのだろう、もしくは死んだあの子が幻影となって見つけられなかった私に対して恨み言でも言いたいのだろう。
…それか誰かが私を誘い出すために幻影を見せているのだろうか?
シルフィーナの件はダスティネス家の関係しかしか知り得ないため、これが罠だとしたら私の仲間だと思っている連中らに裏切り者が紛れ込んでいる事になるだろうな。
「…ふふっ」
私に向かって手招きをする彼女の姿を見て私の中の大事な何かが切れてしまったのか、罠でもいいと言わんばかりに私はあの子の姿を追いかける。
さあ、シルフィーナ馬鹿な私を一体何処に案内してくれるんだ?
半ば自暴自棄になりつつあの子の姿を追いかけると、まるで手慣れたように城に隠された扉を開く。
その扉は私の知らない通路で、見た事がない方法で開かれたそこに彼女の姿は消えていった。
「待ってくれ‼︎」
気づけば私はあの子に縋るかのようにその姿を追いかける。
今日の会議で私の立場は終わる。
父上が…代々の当主たちが紡いできたであろうダスティネスの歴史は私の代で終わりを迎える。
どうせ終わるのだ、ならば最後に見たい夢を見てもいいじゃないか。
「…え…何で?どうしてお前がここに⁉︎」
シルフィーナを追いかけてたどり着いたのは何処かの隠し部屋で、移動した感覚ではちょうど今会議が行われている部屋の近くだろうか。
そんな場所に部屋があったのかと意外に思ったが、そんなことよりもその部屋にはダスティネス家の裏切り者か、シンフォニア家の手の者のどちらかと予想していたが。
「よう、久しぶりだな…ダクネス」
「あ…違…これは…」
目の前にいたのは私が探していたサトウカズマだった。
「いったいこれはどういう事なんだ、何でシルフィーナがここに居るんだ、どうしてお前の所に‼︎」
突然の事に衝撃を受け思わず私はカズマの胸ぐらを掴み持ち上げた。
「これは全部お前の仕業…っ⁉︎」
「ダスティネス様おやめください」
「うっ…分かった」
気づけば私の喉元に剣が突きつけられ、その剣先を辿るとシルフィーナに辿り着き私はその事実を受け入れられずに混乱し、掴んでいた手を離しカズマを椅子に戻すと彼女もそれに合わせて剣を引いた。
「そうか…そうだったな、いつか話そうと思っていたんだけど話す機会が無かったんだ。悪かったな」
カズマはバツが悪そうにそう言いながら頭を掻き私に謝罪する。
「シルフィーナ、悪い事は言わないそんな男では無く私の元に帰ってこい、もう以前のような豪勢な暮らしは出来ないけど何とか普通に暮らせるだけの準備はしてあるんだ」
ただ無言でいつでも剣を私に向けられる様に構えているシルフィーナに向かって声を掛けるが、まるで以前とは別人の様になってしまった彼女から返事が返ってくることはなかった。
「ああ、悪いけどその子をダクネスに渡すわけにはいかないんだ」
「どういう事だ‼︎その子は…ぐっ⁉︎」
感情そのままにカズマに乗り出すが、それ以上動けば殺すと機械の様に喉に剣先を突きつけられる。
「シルフィーナ見せてやれ」
「はい、カズマ様」
シルフィーナは私に剣を向けたまま服の裾をたくし上げ腹部を露出させ、私の視界には見慣れたであろう何かが刻まれていた。
「貴様‼︎シルフィーナを奴隷にしたのか‼︎」
気づけば私はカズマを殴り飛ばしてしまっていた。
シルフィーナの剣は私の喉元を切り裂く事はできずに折れ、彼は抵抗する事なく椅子ごと後方へ吹き飛び地面へと転がる。
「ああ、それについては否定しねぇよ…」
「はぁ…はぁ…なら覚悟はでき…くっ‼︎」
カズマを吹き飛ばし追い討ちを掛けようとした瞬間、私の視界は一瞬にして地面に切り替わりシルフィーナに組み伏せられた事に気づくと今度はクリスが持っていた切れ味のいいと言っていたダガーが突きつけられていた。
「その子はオークションにかけられていて、俺が気付いた時にはもう間に合わなかったんだ」
「そうだったのか…それは悪かった」
彼女の拘束くらい簡単に解いてやる事も出来たが、カズマが申し訳なさそうにそう言ったので力を緩めるとシルフィーナも危害を加えないと判断したのか体の拘束を解いた。
オークションといえば退廃区で行われると聞く、であれば我々みたいな表だった貴族が見つけるのはほぼ不可能だろう。どうりで見つからないわけだ。
いつかあの区を何とかしようと後回しにしていたツケがこんな形で帰って来るとはな…
「それで、お前は何でこんな事をしている、いったい何がしたいんだ?」
冷や汗をかきながら立ち上がりカズマに向き合いながら目的を尋ねる。
「何でって…なんて言えばいいんだろうな…ダクネス、お前と一緒だよ。仕方がなかったってやつだ」
「仕方が…ない」
カズマのセリフを聞いた途端急に足の力が抜け、そのまま地面に膝をつけながら座り込む。
カズマの姿を見て心の何処かで私は期待していたのだ、もしかしたらカズマがクリスの代わりにこの問題を解決してくれるものだと。
「なあ、ダクネス…どうしてこんな事になっちまったんだろうな」
私が膝をつき項垂れていると沈黙の為か会議の声が聞こえ、内容は私の処遇とサトウカズマの処刑についてで、それを聞いた彼はボソッと何か諦めた様にそう言った。
「それは…」
「俺はさ、本当は魔王討伐とか世界の平和なんてどうでも良くてさ、ただみんなで平和に暮らせればそれで良かったんだ。ゆんゆんとふざけめぐみんの悪行に付き合い後は衣食住が揃っていれば文句はなかったんだ、それが気づけば魔王軍から追われ人間の政治に巻き込まれ気づけばみんなが俺の命を狙っていやがる…なあダクネス俺はいったいどうすれば良かったんだ?どこの選択をやり直したら最初みたいに暮らせるんだ?」
「…」
カズマに返す言葉を私は持ち合わせていなかった。
「紅魔の里は燃やされ紅魔族も根絶やしにされ、クリスは居なくなりシルフィーナは奴隷になった、アイリスも記憶を奪われゆんゆんも…」
「もういい…やめてくれ全部私が悪いんだ…」
「ダクネス…俺はお前を責めているわけじゃないんだ、ダクネスだって大変だっただろう。その年でダスティネス当主になり派閥をまとめあげあのクレアとここまでやり続けていたんだ、お前は立派だよ」
「違う‼︎私が悪いんだ…私がダスティネス家の当主として力不足だったから…ずっと甘えていたんだ何があったらクリスに頼み…それでダメならお前に頼った…私はそれで解決した事件を私の手柄だと思って何もせずただ自分のやりたい事だけやっていたんだ…今までずっと…今回はそのツケが来たんだ…もし私がちゃんとしていればこんな事にはならなかったんだ…巻き返すタイミングはいくつかあったんだ…ただ私はそれをお前達が何とかしてくれるから余計な事はしないほうがいいだろうとずっと逃げていたんだ…逃げて逃げ続けた結果がこれなんだ…今更かもしれないがスマナイ…」
ここまで自分のうちを曝け出したのはいつぶりだろうか…
私はシルフィーナの前であるにも関わらず涙を流しながらカズマに謝罪した。
奴はきっと当主に胡座をかいて何もしない体たらくな私を咎めにきたのだろう。
「もういい、もういいんだダクネス、お前の気持ちは十分に分かった。だから顔をあげてくれ」
「…カズマ?」
カズマに差し出された手を掴みながら私は立ち上がる、正直涙でグシャグシャになった顔を見られたくはなかったがそれはもう仕方ないだろう。
「なあダクネス。俺達はもう引き返せないんだ、もう何をしたところで失ったものは取り戻せないし時間も巻き戻らない」
「…カズマ?お前はさっきから一体…」
しばらく会わないうちにカズマに何かあったのだろうか、そう思えるほどに彼の姿は不気味でうまく表現できないが人間として危うさを感じた。
「後ろを振り向いても仕方がないんだ、一度進んだ足はもう戻れない、ならもう進み続けるしかないだろ」
「まさか…」
「最初に言った通りシルフィーナ、ダクネスの動きを止めろ」
「待て‼︎」
「動くなよダクネス、動けばお前の大切なシルフィーナが死ぬぞ」
「なっ⁉︎」
私の本能が奴をこのままににしてはいけないと叫び、奴の動きを止めようとしたが奴の命令によりシルフィーナは自身の首にナイフを突き立てる光景が視界の端に映り思わず動きを止めた。
「いったいこれから何をするつもりだ‼︎」
「まあみてろ」
奴はそう言うと壁につけられたハンドルを引き、それに呼応するように壁が扉の様に開き会議に使われていた部屋があらわれ、突然現れた私達にクレアは何事かと言わんばかりに驚愕していた。
「お前は…サトウカズマ⁉︎いったい…こんな設備シンフォニア家にもダスティネス家にも知らされていないぞ‼︎一体どうやって知った‼︎」
「はっ、いつ会ってもピーピーうるさいんだなお前は」
突然現れた奴に流石のクレアも驚愕しながらも腰に掛けている剣を取り出して構える。
「めぐみん聞こえているだろ、あれを頼む」
「貴様‼︎いったい何を企んでいる。おいお前ら早くこいつを何とかしろ‼︎」
クレアの命令に警備部隊が周囲を取り囲む様に集まり出しそれぞれの得物を構え始める。
「お前達も動くなよ、動いたらどうなるかわかるだろ」
追い詰められた状況にも関わらずカズマは不適な笑みを浮かべながらクレアに相対し続けると、準備が整ったのか部屋全体に見慣れた魔法陣が出現する。
どうやらめぐみんあたりが何かしらの仕込みをしてこの部屋に爆裂魔法を放てる様にしたのだろう。
「安心しろ、別に殺したりはしない、ただそこの王女様に会いに来ただけだよ」
カズマはヘラヘラと薄気味悪く笑いながら腰に下げていた剣を降ろしアイリス様のもとへと向かった。
「よう、久しぶりだなアイリ。しばらく見ないうちに少し大きくなったんじゃないのか?」
「あなたは…誰ですか?」
洗脳の影響なのか記憶を失ったアイリス様は突然現れたカズマに対して何の警戒心もなくぼんやりと挨拶のように質問する。
「アイリス様、その不敬者を早く殺してください‼︎地面に展開されている魔法陣はそいつが私たちを殺そうとしているものです‼︎」
「まぁ…それはいけませんね、早く消していただけますか…」
爆裂魔法に関しても思い出せないのだろうか、アイリス様はのんびりと剣を抜きカズマに向けて構えようとしたが、カズマはそんなものはお構いなしに背後にまわり抱きつきそれを阻止した。
「はっ…離してください…」
かつての剣技など全て忘却されてしまったのだろうか、背後から抱きつくカズマに対してアイリス様は剣を振り回すだけだった。
「なあアイリ…」
カズマは抱きつく手を深めアイリス様の耳元に顔を埋め何かを語り始め、周囲は爆裂魔法の魔法陣の為それを阻止することができずに見守ることしかできない。
「お前はずっと辛かったろ…王族に生まれみんなが遊んでいる中1人だけ習い事や勉強して、休みなんてなくてそれでも必死に頑張っていたら家族が殺され逃げても連れ戻されてさ」
「あなたは…一体何を…」
「いけませんアイリス様‼︎その者の言葉を聞いてはいけません‼︎」
カズマがアイリス様に声をかけ、アイリス様はその言葉に困惑しながらも振り払うことができずに聞き入ってしまい、クレアはそれを止める。
「それで何も知らない状態でアレやれコレやれとか言われてさ、気づけばアイリの幸せなんか誰も考えちゃくれない」
「わ…私は」
アイリス様は暴れる事を止めカズマの話に聞き入っており、クレアは部下に手配したのか家宝の剣を受け取り魔力を込め始める。
「シルフィーナ、このままではお前のご主人様が…殺されてしまうぞ‼︎早くそのナイフをしまうんだ」
「いけません、カズマ様より何があってもララティーナを動かすなとの事です」
シンフォニア家に伝わるフラガラッハ、それはあらゆる物理干渉を無視して相手を切り裂く効果がある、そんなものを食らってしまっては流石のカズマでも重傷は免れない。
「そこだ‼︎」
クレアは剣に魔力が溜まった事を確認すると、カズマの居る場所とはまた別の方向へと剣を振り切る。
いったいどこを切っているのかと思ったが、地面に浮かび上がってい他であろう魔法陣が消えた事から先程の攻撃がめぐみんを狙ったものだと理解する。
「なあアイリ…お前ずっと苦しかったんだろ?俺にはお前の辛さなんてものは全くわからないけどさ…」
「爆裂魔法の魔法陣は消えた‼︎早くその不敬ものを殺せ‼︎」
爆裂魔法と言う抑止力を失ったクレア達は即座にカズマを取り押さえようとするが、何処からか放たれた重力の魔法により兵士たちの動きは止められる。
「く…次から次へと…アイリス様‼︎何をしておられるのです‼︎早くその不敬者を殺すのです‼︎」
「わ…私は…」
「貴女はこの国の王女ですよ‼︎もっと自身の立場を理解してください‼︎」
いつも傀儡の様に言う事を聞いていたアイリス様がクレアの言葉に反応せず、自分の身に起こっている違和感に困惑している。
「アイリお前はお前だ‼︎誰かに従う必要はないんだ、もう全部お前が決めろ‼︎王女とか立場とかそんなものに囚われるな‼︎」
「サトウカズマーーっ‼︎貴様は一体何なんだ‼︎」
クレアはどんな手段を取ったのか重力魔法の干渉から抜け出し、宝剣を構えながらカズマに向かって走り出す。
「アイリス様‼︎皆貴女の為にここまでしているのですよ‼︎それなのにこんな男の話を聞くのですか‼︎」
「お前はこのまま永遠にクレアの言う事を聞いて生きるのか‼︎皆の為のアイリじゃないアイリの為の皆なんだ」
「私は…私…あっ…」
記憶の操作に不具合が生じているのかアイリス様は壊れ掛けのカラクリ人形の様に動きがおかしくなり頭痛がでたのか手で頭を押さえる。
「アイリス‼︎私の命令に従え‼︎その男を早く殺すんだ‼︎今すぐ殺せ‼︎」
「アイリ…お前はずっと待っていたんじゃないのか?この現状から引っ張り出してくれる人を‼︎このつまらない人生を変えてくれるそんな人間を‼︎」
「あ…ああ…」
アイリス様は頭を抱え、カズマはそれを支え、クレアは宝剣を振り被りカズマに斬りかかる。
状況はクレアの優勢だ。
「あっ…ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああぁぁぁぁっぁぁぁぁぁぁっぁぁぁぁぁぁっぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっぁあっぁーーーーーーーっ‼︎」
仕方ない少し手荒になるがシルフィーナを気絶させ私がスキルで瞬時に二人の間に入ろうと思った瞬間にそれは起こる。
「アイリ…お前」
アイリス様が叫んだ瞬間クレアはカズマの首を取ったと確信し気を緩めたのだろう、その隙を狙ってアイリス様が剣を持ち上げると一瞬のうちに宝剣を弾き飛ばしクレアの首を討ち取った。
「クレア…今までありがとうございました。シンフォニア家は今をもって改易、しばらくはダスティネス家に任せることにします」
正気を取り戻したのだろうか、アイリス様は周囲にいる状況が分かっていない大臣達に向かってそう命令した。
「お久しぶりですねお兄様、お元気そうで何よりです」
打ち取られたクレアの首から血が噴き出し、周囲に血の雨を降らせながらアイリス様は振り落とされて尻餅をついたカズマを見つめてニッコリと微笑んだ。