振り向き光に照らされた事で、俺の腰を掴んでいた正体が現れる。
「えっちょっと待てよ⁉︎何でめぐみんが此処にいんの?」
動揺を何とか押さえつけながら思考を巡らせる。そもそもなぜ彼女がこんな所に居るのだろうか?まずはそこからって…駄目だ⁉︎全然考えがまとまんね‼︎。
取り敢えず逃げるのを辞めるとそれに呼応して彼女も手を離す。どうやら逃げなければ良い様だ。
取り敢えず一度深呼吸。そして情報分析だ、先程の赤い光はめぐみんのものだろう、前にゆんゆんが紅魔族は魔法を使うときや興奮した時に目が赤くなると言っていた事を思い出す。そして俺の布団の中で待っていた。
めぐみんを見ると恥ずかしいのか罰の悪そうな表情を浮かべてモジモジと何か言いたげに此方を見ていた。
「で、もう一度聞くが何してたんだ。と言うかどうやって俺の部屋に入ったんだ?」
そもそもまず彼女が俺の部屋にいる事が前提としておかしい。いくらこの世界の科学が遅れていたとしても、鍵はディンプルキーで無いにしろそこまでセキュリティーが落ちているとは思えない。解錠魔法があると聞いたが爆裂狂の彼女が覚えるとは思えない。
「鍵でしたら空いていましたよ」
ボソッと彼女が返答する。
マジか⁉︎そもそもの原因は俺だったか、そういえば朝急いでいて鍵を閉めたかどうかの記憶がねえ。
「まあ、それは良いとしてだ。何でめぐみんが此処に居るんだ?確かゆんゆんと一緒の部屋じゃ無かったのか?」
一文無しのめぐみんを暫くゆんゆんが面倒を見ると言うことで、側から見たら姉妹みたいな感じに生活していると受付のお姉さんが言っていた気がする。どちらが姉に見えるかは伏せておくとして。
「おい、今失礼なこと考えなかったか?」
俺の思考が読まれていたのか怪訝な表情で彼女は俺のことを見る。ゆんゆんと言い紅魔族は何でこう勘が鋭いのか。
「いや全く、ぜんぜんそんな事はカンガエテナイヨ」
「最後が棒読みになってるじゃないですか⁉︎やっぱり考えていたのですね⁉︎」
ガバッと彼女が布団から起き上がる。しかし布団は渡す気が無いのか今も尚彼女を覆っている。
「おい待て、話を逸らそうとするな。まず何故俺の部屋にいたのか説明してくれ」
話が脱線したので元に戻す。このまま有耶無耶にされたらたまったもんじゃ無い。此処は何としても真相を知らなくては。
「それはですね…」
詰め寄るが、彼女は何かを躊躇っているのか一向に話そうとしない、何か理由があるのだろうか?
「まあ言いたく無いなら良いさ、部屋に戻りたく無いのなら此処で寝ても良いぞ。俺は床で寝るから」
言いたく無いなら聞かない、彼女も13歳で前の世界なら丁度思春期に入る頃だから何か内に秘めていてもおかしくは無いはずだ。ならば此処は黙って彼女の要求を聞いてあげたほうが無難だろう。
壁とベットの隙間に挟まる様に横になる。明日首を寝違えないと良いけどな…
「え、ちょっと待って下さい。流石にカズマに床に寝て貰うのは悪いので……こっちに入ってください」
恥ずかしさが限界なのか最後の方は小声でボソボソと言うと。彼女は巻いていた布団を器用に広げて俺のスペースを作った。入れと言う事だろうか…
「え?ちょっと待て」
突然事態に再び混乱する。
一体俺の人生に何が起こっていやがる…。
産まれてからここ数年、一度もモテ期なんか来なかった俺の人生に変化が起きようとしているのか。いやこれはもしかして罠なんじゃ無いのか?入って更なる要求が出てきて乗せられて行った先にドッキリの札なんて物が⁉︎
しかし、待てよ。そもそも此処は俺の部屋、彼女から入ってきたのだから手出しオッケーじゃないのか?イヤイヤ相手はまだ子供だぞ。
取り敢えずこれは仕方ないと自分に言いきかせ布団に入る。元は俺の布団なんだ俺が入っておかしな事は無い、そうだろ?
「じゃあ、邪魔するぞ」
なるべく動きが大きくならない様に布団の隙間に滑り込む様に体を入れる。彼女の体温だろうか入った直後布団の暖かさに包まれる。
「はいどうぞ…これはカズマの布団ですからね、カズマが入っていてもしょうがないです…」
布団に入り仰向けの体勢をとる。彼女の方を向いてしまうと心臓が破裂しそうだ。
「何故此処に来たか…ですよね」
眠ろうと必死に頭を無にしていると、横で彼女しゃべり始める。
「やっぱり一人だと落ち着かなくてですね…部屋には誰も居ませんし、ゆんゆんも何処かに行ってしまったのか夕方から姿が見えません。しょうがないのでカズマの所に来たのですが、このようにカズマも部屋に居ませんでした。腹いせにドアをガチャ
ガチャしていたら空いてしまったので、こうして待っていたのですが眠くなってしまったので布団で寝ていたんですよ。そしたら誰かが布団に入ってくるので目が覚めて今に至ります」
マジか…確かにゆんゆんはさっきまで公園に一緒に居たな‥成る程点と点が繋がった。
「成る程な…」
それで俺の部屋に来てくれたのなら嬉しい話だ。だからといって手が出せないのが辛い所で。彼女もまだ未成年、もしかしたらそっちの知識がない場合だってあり得る。
エロ漫画のようには行かずに、このまま普通に添い寝して終わりだろう。なんか心配して損した気分だ。
そう考えると先程までのドキドキは無くなり、心が落ち着いてきた。
「まあ、仕方ないと俺は思うよ。改めて言うのもあれだけど死の宣告で残り数日の命なんだ…明日決着をつけると言っても絶対ではない以上心配なのは分かる。出来れば代わってあげたいとは思うけどそれは出来ないらしいんだ。だからどうにかするまではめぐみんの好きにしても俺は良いと思う」
彼女は余命を突きつけられている。こうしている間も死の不安で押し潰されてそれに耐えているのだ。解決方法がある事は希望であるが下手な希望は絶望した時の喪失感を際立ててしまうだろう。
だからせめて失敗した時の為にこうして悔いの無いように過ごさせてやるのもリーダーとしての仕事だろう。
「そうですね…そうですよね…やっぱり悔いのないように…」
彼女は自分に言い聞かせるように俺の言葉を反芻する。なんか恥ずかしいからやめて欲しいんだが…
「もし明日駄目だったら、残りの金を全部使ってめぐみんの夢を叶えてやるから、今日はもう寝よう」
何だか眠くなってきた。隣ではなんかブツブツ呟いているっけど大丈夫だろうか?
「なあ、めぐみん大丈夫……うぁ⁉︎」
横を向くと同時に体が視界と共に半回転する。気づけば彼女が布団と共に俺の上にのし掛かっている。
「もう決めました」
「一体…何を…」
お腹の辺りを圧迫され苦しくなる。彼女は一体何を決めたのだろうか、もしかして無理心中とかだったら止めて欲しい。蘇ってまだ一年も経ってないんだからな。
「明日全滅する可能性が無いとは言えない以上、今日が事実上の最後の平和な日となる訳です。なので私にとっては明日の作戦までが保証された期限になります」
「何言ってんだ…確かにそうだけ…ど」
彼女の顔が近付いてくる。偶に爆裂魔法の説明で興奮して顔が近づく事は多々あったが、今回は体が密着している事もあってか落ち着いてきた俺の鼓動が再び早くなる。
「つまりですね…」
雲が風で流れたのか月明かりで先程まで暗かった部屋が照らされて彼女の表情が鮮明に見える。緊張しているのか目だけではなく顔まで真っ赤にしながら彼女は続ける。
「私も何もせずにこのまま死にたくは無いと言う事です」
「え?」
彼女の言葉で部屋の時がピタッと止まった。しかし俺の目線は止まらず彼女の体を眺めている、何時もの派手な赤色の服では無く淡目の色のワンピースだろうか何時もとは違う彼女の様子に戸惑う。そして、彼女は言ってしまった手前もう後には引けないのだろう。
「カズマには悪いとは思っていますが、これは夢か何かだと思って諦めてください」
両手が俺の顔の横に置かれ、ゆっくりと彼女の顔が俺に迫って来る。俺は彼女の行為に応えるでも反抗するでも無くただ呆然とそれを眺めていた。
そして彼女の唇が触れそうになったその時だった。
「カズマさん⁉︎めぐみんが何処にも居ないんですけど、心当たりはありませんか‼︎」
突如バタンと音を立てて俺の部屋の扉が開かれるとゆんゆんがいきなり顔を出した。
「あ?」
「え?」
多分目が合ったのだろう間の抜けた二人の声が部屋で重なった。
「え?もしかしてお取り込み中だった…やだ私余計な事を…す、すいませんでした⁉︎」
ゆんゆんは何かを勘違いした様で、そのままの体勢で部屋を飛び出していった。
「はあ…何だか興が冷めてしまいました。こうなっては仕方ありません、ゆんゆんの誤解は私が適当に解いておきますのでカズマは気にせず明日に備えて寝てください」
何でだろう…今でも悶々としているのに彼女は随分とサッパリしている気がする。やはり死に際だったから適当に選ばれただけだったのだろうか。
彼女は溜息を吐くとそのまま起き上がり、下に仕舞っていたローブを引っ張り出して羽織ると俺の部屋を後にする。
「明日ゆんゆんから色々聞かれると思いますので、カズマはその話に合わせておいてくだい。ではまた明日」
彼女はそう言うと俺の方を向かずに部屋から出ていく。
「………続きはまた今度」
部屋を出る際にギリギリ聞き取れないくらいの音量でボソッと何かを言った気がしたが、それを聞き返す事は出来なさそうだった。
朝になって目が醒める。
結局あの後は動悸が抜けずに暫く悶々として寝ることができなかった。まさかめぐみんに弄ばれるとは思わなかった。
けれど自分の都合はここまでで今日は作戦の決行日。そんな浮ついた考えで入れば全てが無くなってしまうだろう。今日だけは気を引き締めて行かないといけない。
装備を整え街の入り口に向かう。既に殆どのメンバーが先に待機しており、一昨日の酒場に居なかった面子もこの場に居てくれている。皆それなりに考えることがある様だ。
「やあ、来たようだね」
魔剣を腰に携えたミツルギが最前列で待機していた。如何やら俺の居ないところで色々手を回してくれていたようだ。最初は嫌味なやつだと思ったが、こう言った正しいと思える事なら手を惜しまない奴なのだろう。まあ融通が利かなそうなのとナルが入っているのはお約束だけどな。
「あ、カズマさん。おはようございます」
ミツルギと適当に会話を交わすと、後ろからゆんゆんが現れる。昨日の事があってか少し気まずい。
「昨日めぐみんと取っ組み合いの喧嘩をしたそうですけど大丈夫でしたか?」
「ああ、別に大丈夫だよ。俺もレベルが上がっているからさあれくらいなら全然平気さ」
どうやら昨日のことをめぐみんは喧嘩をしたと説明したようだ。子供に行為を見られた時の言い訳の様な気がしなくは無いがゆんゆんよ、純粋過ぎないか?
「なら良かったです。めぐみんも今日の事で少し緊張してただけだったと思いますので、許してあげてください…」
健気に親友の顔を立てるゆんゆんに涙が出そうになる所だが、理由を知っているためか全然そんな気が起きない。
「ああ、そうだな。でめぐみんは何処に行ったんだ?」
取り敢えず様子を見に彼女の位置を聞くと、ゆんゆんは集まりの端を指さしその先に何時もの尖り帽子が見える。
「悪いちょっと行ってくる、もう少し待っててくれ」
ゆんゆんを待たせてめぐみんの元に向かう。
「ああカズマですか、おはようございます。昨日は眠れましたか?」
「あんな事があった後で眠れるかよ⁉︎まあでも今日は平気そうで安心したよ」
昨日の切羽詰まった様な感覚は無く、比較的穏やかなそんな感じがする。
「そうですね…私はあの後ゆんゆんに迫られましたよ。全く随分とあの子に信用されている様ですね」
やれやれと疲れた表情で彼女はそう言った。原因はお前なんだけどな。
「まあいいや。その調子で今日は頼むわ」
これ以上は昨日の話を振り返してしまいそうなので止めてもとの位置に戻る。
「ええ、任せてください。私の爆裂魔法であのデュラハンも粉々です」
バサッとマントを翻して杖を突き上げ彼女は宣言する。全く調子の良い奴だ、でもそれも悪くないと思っている俺も居る。
元の位置に戻るとダクネスが一人悶えており、その様子を見たミツルギが若干引いていた。
「くっ‼︎ゆんゆんの隣にいた私を無視してあのウィザードの子の方に行くとは…作戦の前に私を愉しませて何が目的なんだ⁉︎」
単にめぐみんの話題が出たからそっちに行っただけなのだが、ダクネスはそれを何かのプレイと受け取った様だ。
「その様子なら大丈夫だな。よし作戦始めっか‼︎」
パンっと手を叩き集団の目線を集める。やはり大勢の人前に立つのは何度行っても慣れないので手が震える。
「よし、みなさん今日は集まってくれて有難う御座います。作戦は一昨日説明したと思いますので各自、自分の位置について行動していただければと思います」
取り敢えず参加して頂いた事に対してお礼を言う。そして残りの皆を鼓舞させる演説はミツルギに任せる。此処はあいつの方が適任だろう
「ミツルギ後は任せた。ゆんゆん行くぞ」
バトンをあいつに渡して、隣に居たゆんゆんを連れてベルディアの城に向かう。城への道筋は何時もの日課で考えなくても体が勝手に向かってくれる。
「よし此処らでいいか。ゆんゆん此処からならあの城に魔法が届きそうか?」
何時もの日課の位置よりも近い丘を陣取る。爆裂魔法は射程距離も最大なので届いたのだが、他の魔法はそうは行かないのでこうして距離を詰めなくてはいけない。
「この距離なら少し余裕もありますし大丈夫そうですね。でもこの距離から風の魔法を飛ばしてどうなるんですか?」
ゆんゆんが不思議そうに俺に聞いてくる。確かに風の魔法を飛ばしてもあの城に大ダメージを与えられないだろう。
「まあ、取り敢えず昨日見せてくれた魔法を頼むよ」
それに対して渋々片手を空に挙げて詠唱を唱え始める。楽しみは取っておくものだろう。
「ウインドランス」
彼女に頼み風の魔法を生成して貰う。
属性は風で分類は上級魔法に分類される。中心に風を乱回転させ槍の形を形成し、その周りに飛ばす為の旋回する風をコーティングすると言うもの。彼女曰く一度に違う流れの風を同時にコントロールするのは難しいらしく、例えれば両手で左右違う物を描く様なそんな感じだ。
「出来ました、後は飛ばすだけです」
彼女の掌で形成されていく魔法に見惚れていると、準備が出来たのか彼女が次を催促する。
「オーケー、後はこのカズマ様が手を直々に加えてやろう。そこを動くなよ」
風の槍に触れない様に近付き手を翳す。この位置なら彼女に当たらないだろうギリギリの位置を探る。
「え、何をする気ですか?ちょっと私怖いんですけど…カズマさん大丈夫ですよね、私に何かする訳じゃ無いですよね⁉︎」
俺が近づいた事で不安になったのか彼女が怯える。俺って此処まで信用がなかったのかと不安になる、大丈夫だよな俺の信用。
「大丈夫だ安心してくれ俺がゆんゆんを危険な目に曝す訳無いだろ」
取り敢えず適当に彼女を説得する。
「カ、カズマさん…」
彼女は俺の言葉で感激している様だ、今までどんだけ雑な扱いをされているのだろうか。けれどやっぱりゆんゆんはチョロイなと思いながら言葉を後に付け足す。
「……多分」
ボソッと言うと彼女は動けないので大声で抗議する。
「今多分って言いましたか…ちょっと待ってくださいよ⁉︎私どうなっちゃうんですか⁉︎」
キーキー騒ぐ彼女を尻目に、風の槍に翳した手の位置をもう片方の手で固定して槍に向かって黒炎を放つ。風の槍の限界量が分からない為ゆっくりと少しずつ槍に込めていく。
「カズマさんこれって前に話に聞いた草原のボヤ騒ぎの炎ですか?」
彼女が炎を見上げると思い出したと言う様に言った。やっぱりあの事件は忘れ去られていなかったか…街の皆の前で使わなくて良かったとつくづく思う。
「そうだよ、この炎はあの草原を焼いた物と同じだよ。この事は誰にも言うなよ、言ったら俺の知識をフル動員してゆんゆんも同罪にしてみせるからな」
念の為に彼女に口止めをしておく。もしばれてもめぐみんの爆裂騒ぎで特にお咎めがなかったから大丈夫だろうとは思うけど、あの時はギルドに所属してしていなかったから、もしかしたら何かしらのペナルティがあるかもしれない。
「えぇ⁉︎そんな…」
よくわからないが悲しそうな顔をする彼女を見ているとそろそろ限界なのか槍の枠を炎が越えそうになってくる。
「この辺でいいだろう。よし‼︎それじゃあ飛ばしてもらおうか」
これ以上流してしまっては炎が漏れて彼女に掛かりかねない、制御不能である以上無理は禁物だ。
「飛ばすってあの城にですか?良いんですか?あの立派なお城無くなっちゃうんですよ」
それを聞いてワタワタし始める、彼女は俺の話を聞いていたのだろうか。
「良いんだよ、もともと狙いがそれだし。破壊しないと意味がないだろ、ほらなるべく上の方を狙えよ」
街に待たせている以上早くしないと失敗したと判断されかねない。彼女に急ぐよう催促する。
「分かりましたよ…何があっても私は知りませんからね」
責任を俺になすりつけると彼女は黒炎を巻き込んだ風槍を綺麗な投げやりのフォームで踏み込み投擲した。
投げられた槍は風の螺旋機構もあってか加速しながら一直線にベルディアの住む城へと突き刺さる。風槍の威力で建物に穴を開けそこから俺の黒炎が飛び散り広がっていく。その光景はまさにドラマで見るような城が陥落する様子と一致した。色は黒いんだけどね。
「少し火力が足りないな…もういっちょ行ってみようか」
城が破壊されて行く光景を見ていると何だか楽しくなってしまい、めぐみんが爆裂魔法を城に放つのを辞めなかった理由が何となく分かってしまった。うん確かにこれはクセになる。
「もう一度ですか?これ以上は場所がバレてしまいますよ」
心配そうに彼女はそう言う。確かに何発も同じ方向から飛んでくれば流石にバレるか…しかしここから反対まで行くには山を登らないといけなくなってくるそうなると時間のロスが大きくなってしまう。
「もう一回だけ放って駄目だったら場所を変えよう」
兎に角ものは試しだ、幸い城には殆どが炎で覆われている為、上手くいけばこのままでも大丈夫そうだが念には念を入れもう一度放っておきたい。
「分かりました、もう一度だけですよ」
呆れたように彼女は再び詠唱を始め風を纏った槍が生成されていく、そしてそこにまた黒い炎を流し込んでいく。念の為大量に購入してポケットに貯めておいたマナタイトがすごいスピードで無くなっていき、ズボンが軽くなって行くのを感じる。
「よし、もう一発だ‼︎」
「はい分かりました‼︎」
流し込んでいる間に吹っ切れたのか彼女も投げやりに槍を投げた。今度は先程とは反対方向の火が回っていない方向に飛ばしてもらい、指定した場所にブレずに衝突すると再びそこから炎が広がって行く。
これだけ回れば十分だろう。俺の考えなら、そろそろが頃合いなので急いで自身に支援魔法を掛け始める。そして暫くすると城の方から黒い塊が街に向かって飛び出して行くのが見えた。
「よし、作戦は成功の様だな、それじゃ俺達も行くぞ。舌を噛むなよ‼︎」
支援魔法をかけ終えたタイミングで彼女を抱えて街まで走る。ベルディアの馬の速度は分からないが開戦の少し後までにアクセルへとたどり着ければ上々だろう。
木々の間を抜け来た道をなぞりながら街へと向かう。此処でコケてしまえば作戦が大幅にズレてしまう、ベルディアを街に誘き出す手間が無ければゆんゆんを出来れば街に置いて来たかった位に彼女は重要な戦力なので遅れるわけにはいかないのだ。
走っている途中で聴き慣れた爆発音が鳴り響き弱い爆風がこちらまで来る。どうやら最初の作戦は成功した様だ。
作戦1はまずアンデットナイドの一掃。前回はこれによりゆんゆんが脱落してしまったので、今回はめぐみんによる爆裂魔法で全滅させると言う手筈になっている。ミツルギの談ではアンデッドナイトはベルディアの周囲に囲む様に出現したので、今回上手くいけば奴ごと爆破出来るかもしれない。仮にアンデッドナイトが出なければ作戦2に進み爆裂魔法は使用しない事になっている。
この爆破があったなら予想どおりアンデッドナイトが現れたのだろう。出来ればめぐみんの爆裂魔法というカードは捨てたく無かったが致し方ない。
転倒防止のために少しだけ遠回りになるが平坦な道を選んだのだが、日々のクリスの特訓により大分体が鍛えられていたお陰なのか予想よりも少し早く街が見えて来る。クリスは一体何者なのだろうか?
街の前に着くと既に戦闘が始まっており、陣形が組まれている。
作戦2はダクネス、ミツルギを主体とした戦術でゆんゆんが来るまでの時間稼ぎがメインになる。まずダクネスがベルディアの攻撃を防ぎ、それで出来た隙をミツルギが攻撃すると言う至ってシンプルな作戦になる。もしこれがNPC相手のゲームなら違ったが、実際の戦闘ならば奇を衒ってた作戦よりも意外に純粋に基礎をぶつけた方が効果的なのだ。兎に角これで俺が来るまでの時間を稼ぎ作戦3へと移行する。
「奴らが見えて来たぞ、ゆんゆん準備はいいか‼︎」
「私の方は大丈夫です‼︎」
それを合図に彼女の体勢を変え両手をフリーにさせる。これにより魔法の操作性が向上する、詠唱は俺が走っている間に済んでいるので大丈夫だろう。
「ライトニングストライク」
落雷の上級魔法によりベルディアの頭上に雷が落とされる。奴はそれを察知し横に流れるダクネスの剣を弾きながら横に躱すが、その先に居たミツルギの一振りを躱しきれずに受ける。だが流石魔王軍の幹部と言ったところか、攻撃を受けるにしても左手に持った頭部を守りながら体を捻りダメージを最低限に抑えている。
「ほう、成る程な…」
奴は跳躍してミツルギ達から距離を取り頭部を俺達の方向に向けると、何かを見定める様に此方を見詰める。
「前回と比べてやけに動きが違うと思ったらお前が居たのか…」
どうやら今回の作戦の考案者が俺という事に気づいた様で、再び本来あるはずの顎の位置に手を当て考える仕草をする。そして奴はある答えにたどり着いたのか体をプルプルと震わせ始めた。
「そうか…さっきまで此処に居なかったという事は、おおお…お前が俺の城にあんな事をしてくれたのかぁぁぁぁぁぁ‼︎」
めぐみんの爆裂魔法と言い、俺の黒炎等々で奴の城はこれで完全に住める場所では無くなった。住処を追われた奴はその怒りをぶつける相手をようやく見つけたのだ。
「そうだ、あれは俺とこのゆんゆんの功績だ。覚えておけ‼︎」
ビシッと奴に指をさす。すると俺の頭上の彼女から声が聞こえる。
「え?もしかして私の所為にもされてないですか⁉︎」
一緒の功績にしてやったのだが、彼女はそれが不満の様で俺の上で驚いている。
「クソ‼︎やはり貴様はあの時殺しておけば良かったわ‼︎」
奴は後悔する様に負け惜しみを吐き捨てた。優しさは時に未来の自分の首を絞めるのだ。
「はっ‼︎ざまぁねえな‼︎」
奴を挑発し焚きつける。我ながらゲス過ぎるとは思うがこれはめぐみんの為なので仕方ない。これは仕方ないのだ(笑)
その後も出来る限り奴の突かれたく無いところをついていく。
「このガキが‼︎黙って聞いてればペラペラ言いやがって‼︎まず貴様から抹殺してくれるわ‼︎」
奴は追いかける二人の追及を振り切りながら此方に向かって来る。そのスピードはアンデッドにしては早く、油断すればすぐさま俺の命を刈り取れるほどだった。
だが、此方にも強力なカードはあるので。
「行けゆんゆん‼︎名誉挽回するぞ」
詠唱をしている為返事は無かったが、彼女は俺の言葉に頷くと呪文を唱えた。
「ライトオブセイバー」
再び放たれた光剣の魔法、前回は弾かれたが今回はどうなるかだ。前回は縦に振り下ろしたが、今回は横に薙いだ。
「同じ魔法をそう何度も食らうか‼︎」
奴はその横薙ぎを飛び上がり回避する。だが、彼女はそれを事前に予測していたのか光剣を完全に振り切らずに、足運びと腰の捻りを駆使して光剣をもう一度反対に返した。
「何だと⁉︎」
避けた光剣が返ってくるは思わなかった様で、とっさに手元の大剣で受け止める。此処までは前前回までとは同じだが今回は違う。
「その首、貰った‼︎」
光剣を防いでいる大剣の反対側に周りながら腰にさしている剣を抜き取り、奴が大事そうに左手に持っている頭を狙いながら剣を振り下ろした。
「甘いわ‼︎そんな事くらい対策済みだ‼︎」
若干裏返った声で奴が叫び、左手で持っていた頭部を頭上へ投げると俺の剣を掴み俺ごとのまま後方へと投げ飛ばした。
「マジかよ⁉︎」
最悪腕で防がれるとは思っていたが、まさか投げられるとは思っておらずそのまま無抵抗に飛ばされ地面を転がる。
幸いにも受け身は取れたので然程痛みは無かったが、ゆんゆんが一人残される形になってしまう。この状況は結構不味い。
互いに拮抗している二人の剣。奴は器用に自身の頭をキャッチし再び抱える。
「モディフィケーション」
彼女の追加の呪文により、光剣の形状が変化する。一本の光剣が枝分かれし始めて七支刀の様な形に形状変化し、結果として奴の側腹部を掠め抉った。
「ぐぅ‼︎」
奴が怯んだ隙に彼女は後方へと下がる。そして遅れて二人を筆頭にした残りの冒険者が俺達を囲む様に配置する。
よし、準備は整った。これで作戦3に移れる。