作戦3は魔法攻撃による弱点の詮索。
周りに配置したウィザードによる段階的多属性の攻撃を加えその反応を見て弱点属性を探るというもの。それが分かり次第ゆんゆんにその属性の上級魔法を放ってもらう寸法だ。
今現在で判明してるのは雷では無い事だけで他の属性は未知となっている。
「みんな作戦3だ ‼︎」
俺の掛け声と共に周囲のウィザードから魔法が放たれる。まず最初は火属性になっているので中級魔法であるファイアーボール等が放たれていく。
周囲から囲む様に放たれたそれは奴に当たると同時に火だるまにしていった。
「うわぁ…」
正直此処まで一方的に集中攻撃を食らわせていると何だか可哀想になってくる。
「クソが‼︎こんな魔法俺に通じるか‼︎」
火だるまになっていた奴が大剣ごと体を一回転させると、奴が纏っていた炎が一瞬にして消える。どうやら火属性は弱点では無い様だ。
「舐めた真似を…いいだろう一人残らず皆殺しにしてくれるわ」
奴は大剣を持ち直すと周囲に居るウィザード達に向かって斬りかかる。
「させるか‼︎」
それをダクネスが咄嗟に間に入り受け止める。その間に周囲のプリースト達が対属性の支援魔法を重ね重ねダクネスに掛けていく。
「次行くぞ‼︎」
指示により次の魔法が放たれる。属性は風になりバリエーションは多岐にわたる為、様々な種類の魔法が奴に向かって放たれる。
その魔法は近くに居るダクネスにも及ぶが、支援魔法や元々の耐久力によりダメージは最小限に抑えられている筈だ。
「あぁぁぁぁ良いぞこれは…最高だ‼︎カズマに協力して正解だった‼︎」
風の魔法を全面に受けている彼女の表情は悦に浸っている様な幸せなものだった。こんな時に恐ろしいクルセイダーだよ。
「俺の名前を呼ぶんじゃねえ‼︎周囲に誤解されるだろうが⁉︎」
周りの視線は俺の性癖を疑う様なそんな物へと変わっていく。
「小賢しい真似を‼︎正々堂々正面から来る奴は居ないのか‼︎」
風の魔法も違うのか奴の一太刀により風の魔法が切り裂かれ、周りに散っていった。このまま消耗戦に持ち込まれると流石に不利になっていく、そろそろなんとか見つからないのかと俺自身焦りを感じる。
「まだだ、次行くぞ‼︎」
ダクネスとミツルギが時間を稼ぎ、ダクネスごと魔法を奴に叩き込んでいくと言う行動を何度も繰り返し残りの属性もあと少しになる。周りの冒険者達から、もしかしたら弱点なんて物はないんじゃ無いかと言う最悪な結末が頭を過ぎり始める。
二人も支援魔法や回復魔法で持ち堪えて貰っているが、流石に体力の方は限界が近いのか息が不規則になってきている。
「次だ‼︎俺達はまだいける筈だ‼︎」
周りを鼓舞しながら命令を出す。次は水属性の魔法になり周囲から水の弾丸やポンプから放出される水の線が奴に向かって放たれる。
「いい加減にしろ‼︎俺は魔王様の加護で魔法は効きづらくなっている。それ以上は無駄だ」
奴はうんざりだと言いたげに叫びながらダクネスの剣撃を躱し放たれた水の魔法を全て躱した。
「もうダメだ…」
周囲のウィザードから落胆の声が聞こえ始める。このままこの声に釣られていけば士気が落ちかねない。
二人が時間を稼いでいる間、再び思考を巡らせているとある事に気づく。今まで受け止めていて平気だった奴が水の魔法を避けたのだ。しかもフリーの状態だったらともかくダクネスの攻撃を躱しながらだ。
つまり奴の弱点は水と言う事になる。
「みんな水だ‼︎水属性が奴の弱点だ‼︎」
俺の叫びに奴が少し反応し、それにより俺の考えは確信に変わる。アンデッドに対して水は聞いたことが無かったがこの世界ではそう言う事なんだろう。
周囲のウィザード達が活力を取り戻し水の魔法を唱え奴に向かって再び魔法を放っていく。がしかし、何度も魔法を唱えた後なので皆残りの魔力が少なく威力や出力が下がってしまい全て奴に躱されていく。
「フン‼︎こんな水鉄砲見なくても避けられるわ‼︎」
奴は二人の攻撃を捌きながら水の魔法を躱していく。周囲の冒険者に対して奴の体力は未だに衰える所を見せない。
「ゆんゆん何か水系で命中率の高い魔法は無いか?」
弱点は分かった以上ゆんゆんを出し惜しみする訳にはいかず、此処で再び最終兵器を投入する。
「威力は低いですけど広範囲の魔法ならあります、ただ規模が大きいので詠唱に時間が掛かりますよ」
「この際何でも良いそれで良いから頼む」
分かりました、と彼女は頷き詠唱を始める。今まで聞いた事のない詠唱に戸惑いながらも二人に指示を出す。流石の上級職、支援魔法を掛けられ続けているとは言え此処までの長い間戦い続けているが、その勢いは一向に衰えてはいない。
「コントロール・オブ・ウェザー」
彼女が掲げた手から何か力の塊の様な物が空へ放たれると、そこを中心に魔法陣が広がり黒雲がそれを覆う様に集まりだす。周囲のどよめきと共にその光景を見ていると、やがてその雲から雨が降り始め俺達を濡らしていった。
「これは…」
雨を浴びた奴の体から黒い煙の様な物があがる。どうやら水の魔法により奴は弱体化した様で纏っているオーラの様な物が無くなっている。
「ほう…どうやら俺を弱体化させる事に成功した様だが。それで上手くいくと思っているのか?」
奴はそう言うと手に持っていた頭部を頭上に投げる。一体奴は何を考えているのだろうかと思ったが、直ぐにその考えを改める。
頭部を投げた事により奴の左手が開き、両手で大剣を握る。奴の大剣は本来は両手剣として扱われていたらしく、これで本来の戦い方に戻った様だ。つまり今までは手加減していた事になるのだろう。
「危ない‼︎二人とも一旦引いて体勢を立て直せ‼︎」
二人に指示を出すが、奴の速度は弱体化したにもかかわらず早く動き、あっという間に剣撃で二人を吹き飛ばしてしまい続いて落下する頭部を受け止めた。
あの頭を投げる行為には片手を空ける以外にも、目線を上げ俯瞰的に状況を眺め対応すると言う事もあるのだろう。
「おい、そこの貴様、確かあの頭のおかしな方の紅魔族の娘の仲間だったな」
剣を携え奴は俺の方を見ながらそう言った。飛ばされた二人は体力的に限界なのか必死に起き上がろうとしているが力が入らないのか立ち上がろうとしては崩れるを繰り返している。
奴はその様子を見て自身の勝利を確信したのか、俺を挑発するかの様に賭け打ちを申し込んできた。
「ああ…そうだけど、それがどうかしたか」
前に出て奴と相対する。正直に言うと俺が前に出ても出来ることは殆ど無いだろう。精々切り刻まれるのがオチだ。
「此処まで俺を追い詰めたのはお前が初めてだ。褒美に俺との一騎討ちをしてやろう」
「はあ、何言ってやがんだ?俺は只の冒険者だぞ、一騎討ちで勝てると思ってるのか?アンデッドになって頭も腐っちまったか?」
緊張のあまり奴を挑発してしまった。しかし、奴はそんな俺を見越していたのか、城を焼かれた時と比べて怒りの感情はなく。
「そんな事は誰にでもわかる。誰も貴様には期待などせんよ」
「喧嘩売ってんのか?」
反対に挑発を返され激昂する。
「ははは、まあそれはさて置きだ。ハンデをくれてやろう、俺は此処から動かない。貴様から好きなタイミングで来るがいい」
二人を事実上始末し、勝利を確信したのか勝利の余興に指揮官である俺との一騎討ちを望むらしい。一見紳士そうに見えて中身は体育会系の様な者なのだろうか。
「良いだろう。死んでも後悔すんなよ」
俺はその提案に乗る事にして、奴の大剣のリーチの外に移動つつ後ろに居るゆんゆんにだけ見える様に指で作戦4−2の合図をする。
作戦4−2、これは作戦3以降に二人が倒されてしまった際に考えた最終手段になる。本来は危険な賭けだが、先程の雨によって弱体化して様々な耐性が下がっている今なら行けるかもしれない。
奴に相対して距離を取る。奴のリーチよりも若干こっちの方がリーチは長い様だ。奴の周囲を周りながら時間を稼ぎ、彼女の咳を合図にスキルを発動した。
「スティィィィール‼︎」
窃盗魔法これによりやつの装備や持ち物を剥ぎ取れる。これで出来なかったら次はさらに危険な賭けになるので出来れば此処で成功させておきたい。
「な、貴様卑怯だぞ。正々堂々戦わんか‼︎」
発動の間際に奴の不満が聞こえてくるが、此処は勝負の世界で勝った者が正義なのだ。
「よっし‼︎ひとまず成功……ぉあっ⁉︎」
窃盗スキルは成功し俺の右手に重みがのし掛かった。奴の方を見ると右手にあった大剣が無くなっており、自身の手元を見るとその無くなった奴の大剣が握られている。
奴の大剣は重すぎて俺には扱えないが、奴から攻撃手段を奪えたので上々だろう。
「おい貴様、仕切り直しだその剣を返せ‼︎」
「誰が返すか‼︎作戦4−2だ今だゆんゆん行け‼︎」
奴の負け犬の遠吠えを無視し、彼女を呼ぶ。事前に合図して知らせておいたのですでに詠唱は済んでおり、間髪入れずに奴に魔法を打ち込んだ。
「ライトオブセイバー」
背後から現れた彼女の手に再び生成された光剣を丸腰の奴に向けて振り下ろす。何時もなら自慢の剣で弾いたのだが生憎それは俺の手元にあるので、必然的に奴はその光剣を必死に自身の肉体で防がないといけなくなり、白刃取りの体勢で受け止める。
「うおぉぉぉぉ⁉︎畜生‼︎こんなのアリかよ⁉︎」
両足で踏ん張り、両手で光剣を挟んでいる。つまりこの状況が奴にとって最も隙のある状況になる。
「貰ったぁぁぁぁぁぁ‼︎」
「待て‼︎一度良く話そう、話せば…うぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁ‼︎」
奴の懐に踏み込み黒炎を放つ。放たれた炎は奴の先程ゆんゆんに砕かれて剥き出しになっていた側腹部に付着するや否物凄い速度で燃え広まっていき、奴に決定的なダメージを与える。
俺の放った黒炎は加護が付いているであろう鎧を何とせずに飲み込み奴を燃やしていく。加護があるので燃えないと思い破れて剥き出しになっていた部分を狙ったのだが、どうやらそれは杞憂だった様だ。
全身に炎が回った事を確認すると、ゆんゆんは光剣を解除し俺の隣で消えていく様を眺める。
「これでおわりで…ムグ⁉︎」
「余計な事を言うな」
フラグを立てそうな彼女の口を無理矢理塞ぐ。この世界にも言霊という概念があるのかどうか分からないが、余計な事は言わない方が良いだろう。
全身に火が回りもがき苦みながらも奴は此方に手を伸ばす。ゆんゆんが構えるが俺はそれを手で静止させる、結局最後までその手は俺に届く事は無く、奴の肉体は灰も残さず綺麗に消滅した
念の為に冒険者カードを確認すると、討伐欄にベルディアの名前が刻まれている。
「終わった〜」
奴が消えた事に安堵感を覚え、気が抜けたのか全身の力が抜け膝から崩れる。
「やりましたねカズマさん‼︎」
隣でガッツポーズを取りながら彼女も勝利の余韻に浸っている。
「ああ、そうだなこれで一見落着だな」
周りに居た取り巻きの冒険者達が集まり出し、プリーストらがダクネスやミツルギを介抱し始める。
色々賭けな要素が多かったが、如何やら上手くいった様で今回の死者は多分0人だろう。予想では俺を含めて数十人犠牲となる予定だったがそれは違ったらしい。
「おい、ちょっと待てって⁉︎」
余韻に浸っていると、怪我の無かった冒険者達が俺らを担ぎ挙げていった。今回は俺達の自業自得だったのだが、彼等は許してくれたのだろうか?
冒険者達は騒ぐだけ騒いだら次は酒場だと言い、アクセルの街に戻っていった。今回の報酬は均等に山分けになるだろうから皆ハメを外しすぎて大変な事になるだろう。
「髪と服がわちゃわちゃに…」
彼女も一緒に担ぎ上げられたのだろう、髪や服が揉みくちゃになっている。
「クソ、俺も担ぐ方に紛れたら色々触れたのに‼︎」
「そんな事考えていたんですか⁉︎」
うっかり本音を漏らしてしまうと、彼女はそれを聞いていた様で腕で体を出来るだけ隠す様に肩を抱いた。
「いちいち聞いてんなよ⁉︎…全くもう、ほら行くぞ」
取り敢えず話を有耶無耶にして彼女を連れアクセルに戻る。如何やら二人は冒険者達に連れられて街に戻った様で姿が見えない。
「よお、元気か?」
彼女に対しての最低限の礼なのか、めぐみんが入り口近くの小岩に掛けられていた。爆裂魔法で動けない様で俺達に気づくと気怠げに此方を見上げる。
「えぇ、お陰さまで。周りの様子を見るに如何やら無事に成功した様ですね」
「ああ、無事に犠牲者ゼロで済んだよ。これもお前の爆裂魔法で雑魚を蹴散らせたお陰だ」
一度の全力を放った彼女を労う。彼女の爆裂魔法が無ければ初手で召喚されたアンデッドナイトによって陣形を崩され、皆が消耗してしまい作戦が機能しなかっただろう。
「そう言って貰えると、私もいた甲斐があります」
取り敢えず彼女を背負い街へと向う。彼女にかけられた呪いが本当に解除されたか如何かを確かめなくてはならない。
潜伏を掛けながら3人で教会へと向かう。街はすっかりお祝いムードでその光景は何処かの夢の国を彷彿とさせた。そう言えばこの世界にもレジャーランドみたいな施設はあるだろうかと思ったが、生きるか死ぬかの世界にはないだろうとすぐに思いつき溜息を吐く。
「あら、来たのですね。話は聞いておりますので中へ」
教会に着くと入り口にシスターが立っており、用意が済んでいると俺達を中へ案内する。これもクリスの差し金なのだろうか。先読みされる事態が続き彼女の正体が掴めなくなってくる。
中に入り何時もの部屋に案内され、めぐみんは真ん中の椅子に座らされる。
「確かめるといっても、要するにまた退魔魔法を掛けると言うだけなのですが」
シスターは前置きを続けながら詠唱を始める。彼女と言い上級職の唱える詠唱は聞いても綺麗な音楽の様で心が浄化される様だ。
「セイクリッドブレイクスペル」
彼女の掛け声と共にめぐみんを囲む様に魔法陣が現れそこを起点にして光の柱が現れ彼女を包みこむ。前回はここで黒いモヤで阻まれたが、今回はそんな事はなく、一頻りに淡い光が彼女をただ包んでその後に弾けて散っていった。
「これは…」
シスターはその光景を見て驚きの表情を浮かべる。この件に関しては半信半疑だったが確信に変わったのだろう。
「本当にあのデュラハンを倒されたんですね。正直何かの幻影か身代わりを噛ませられたのかと思っていましたが…」
彼女の表情を見るに、何時もの嫌味ではなく本気で驚いている様だった。討伐からまだ時間が経っていないが、未だに俺自身もデュラハンを討伐した実感が湧かない。
「ああ、ようやく俺らの実力がわかった様だな」
「あーはいはい、そうですね」
彼女は俺の小言を何時もの様に軽く遇らう。
「本当に解けたのですか?本当に私はこの呪いから解放されたのですか?」
未だに信じらないのか彼女が繰り返し尋ねる。
「嘘なんかついてどうするんだよ。めぐみんお前はもう死の呪いに怯えなくていいんだよ」
俺の言葉に安心したのか、ポツリと彼女の頬から雫が落ちていき、やがて一筋の流れを作った。
「うぅ…よかっ…た。本当に良かった」
嗚咽で何を言っているか分からないが、この4日間の死の重圧から解放されたのだ。その苦しみは俺なんかには計り知れないだろう。
「よ“がっだよ”ー。めぐみん‼︎」
彼女につられゆんゆんが泣きながら抱きつく。いつもゆんゆんに対してはつっけんどんな彼女だったが、今回はそんな事をせずに一緒に抱きつきながら喜びを分かち合っている。
俺も抱きつきに行こうかと思ったが、シスターの目線が突き刺さっているのでやめておく事にした。
「では、私はこれで。御代の寄付は前回の事でチャラにしておきますので要りませんよ。この部屋は暫く人を入れない事にしますので、用が済むまでは御自由に」
彼女も口ではああ言っていたが、内心心配してくれていたのだろう。来た時に比べて表情から険が抜け、穏やかな表情になっている。
「色々ありがとな、俺あんたがこの教会に居てくれて良かったと思ってる」
出来る限りの言葉で感謝を伝えようとしたが、良い言葉が思い浮かばず結局いつもの様な悪態にに近い上から目線な言葉が出てしまう。
「ふふ、そうですね」
しかし、彼女はそんな俺の気持ちを理解していたのか、軽く微笑みながらドアを閉め部屋を後にした。
二人が泣き止むのを待ちながら早数分、外も暗くなってきたので教会を後にする。
今日は流石に酒場には行けないので、雑貨屋で夕食を買い揃え前回借りた部屋を別に借りて、そこで細やかなパーティを行った。
周りの活気が無い分しんみりした感じになったが、それはそれでいつもと違った新鮮さがあって面白かった。
「はぁ」
しかし楽しいパーティも束の間で、始まって早々二人とも酔っ払ってしまい楽しいパーティーも早々に終わりを迎えた。出来れば彼女達に飲ませたく無かったのだが、この世界にはそんな規定は無かったのと既にゆんゆんが飲んでいたので止める事は出来なかった。
やる事もないしかと言って眠気もないので、酔い冷ましに街を散歩していると酒場の方から大騒ぎが聞こえて来る。今日のデュラハン討伐に参加した冒険者達がその報酬を使ってドンチャン騒ぎをしているのだろう。
何時もなら中に混じってどんちゃん騒ぎをしていたのだが、今回の一件の全ての原因がこちらある以上俺達が混ざるのは野暮になるだろう。
雑貨屋でスポーツドリンクの様な飲料を買い、公園でボーとしながらブランコを漕ぐ。今までベルディアの件で頭が一杯だったのだが、現在それが無くなり一時的なのだろうが無気力症の様な気分に陥る。
今回の一件で俺のレベルが大分上がったので、そろそろ拠点を移すのも手かも知れない。だけど彼女達がそれを許すだろうか。
「何考えてるの?君達もあの中に混ざらないの?」
「おわっ⁉︎」
考え事をしているといつの間に居たのか、隣のブランコにクリスが座ってゆっくり漕いでいた。危うく半開きにしていたスポーツドリンクモドキをこぼしてしまいそうになる。
「はぁ、考え事も良いけど周りも見ないと駄目だぞ〜。全く遠くから呼んでも反応が無いから心配したんだよ」
軽く咎める様に此方を見ながら彼女はブランコを漕ぐのを止める。
「ああ、何か悪いな…あ、そうだ‼︎色々と教えてくれてありがとなお陰で色々助かったよ」
ひとまずクリスに礼を伝える。今回クリスのトレーニング等々が無かったら呆気なく奴に殺されていただろう。それに関しては彼女に礼を尽くしても足りないだろう。
「そう言ってもらえると私も教えた甲斐があるってもんだよ」
「お礼にまた何か奢るよ。流石に今日は無理だけど」
「あははは、別にあの場に君が混ざっても誰も何にも言わないと思うんだけどな…あ、じゃあこうしようか。奢るの別にして明日付き合ってほしい事があるんだよ」
思いついた様に彼女は続ける。とは別にってこいつ両方取るつもりかよ…
何時もならそんな面倒くさそうな案件断ったのだが、今回が今回なので彼女の頼みを聞く事にする。彼女の頼みは簡単で運ぶ物があるからそれを手伝って欲しいとの事だ。一見簡単そうだが彼女の事だ何かしらありそうな気がしなくも無い。当日は警戒しなくては…。
「それじゃ私は帰るから、君も今日はゆっくりと休むと良いよ」
彼女はそう言ってブランコから降りると何処かへ去っていった。一昨日と言い彼女がいなくなる時は気配までも消える様で何だか不気味だ。
ボーとしながらアルコールが回っている余韻を楽しんでいると、パーティーも大詰めなのか騒がしかった酒場から喧騒が消え、フラフラと帰宅する人影が見え始めた。
このまま公園に居ても仕方がないし一度戻るか。
持っていた飲料を一気飲みして容器を空にした後、気まずいので潜伏を使い人を避けながら宿に戻った。
部屋に戻ると出た時と変わらない状況で二人が倒れていた。急性アルコール中毒なんぞ起こされたら溜まったもんじゃないので確認すると、そうやら普通に酔い潰れているだけの様だった。
取り敢えずベットまで二人を運び毛布を上から掛ける。季節は秋から冬になりかけているのでこのままだと風邪をひいてしまう。
二人の安らかな寝顔を見ていると色々あったが、この光景を守れただけでも価値があったのだろうと思える。
空いているベットを整え、俺も二人の後を追う様に眠りについた。
朝目が醒めると、まだ二人とも寝ていたので昼頃を空けておく様に書き置きを残して部屋を出る。
公園に行くと彼女が既に待機していた。ただいつもとは違い後ろに大きなリアカーの様な大きな物が置かれており、昨日言っていた彼女の頼みとはあれを引きながら何かを運べと言うものだろう。
それを見てこのまま引き返そうと思ったが、恩がある以上はやらなくてはいけないのだろう。
「やあ、来た様だね。うん時間通りで何よりだよ」
「なあクリスさ…その後ろにあるリアカーで何か運べって事じゃないよな?」
念の為先程考えていた事を確認する。
「ふふふっ、言わなくても分かるなんて流石私の弟子一号君だね。説明する手間が省けるから助かるよ‼︎」
彼女は俺が言ったことで説明を省き、ついでに俺にそれを言わせる事により説得する手間も省いたのだ。全て計算だったら末恐ろしい女性だよまったく。
察しがいいと言うか、後ろの物を見れば大体分かる事を当てたところで何も嬉しくは無いが、要らんことしたようだ。
「それじゃあ行ってみようか、さあ弟子一号君君はコレを運んでくれたまえ」
フォフォフォっと何処かのお偉いさんの様に笑いながら彼女は進み始める。それに置いていかれない様にリアカーの持ち手の部分を持ち上げ引っ張って彼女の後を追っていった。
「ああそうそう、コレも修行の一環だから支援魔法を使ったら駄目だよ。もし使ったら私もその荷台に乗るからね」
ビシッと無邪気に笑いながらとんでもない事を言い出した。今はこうして荷台に何もないので軽いが帰りには重くなるだろう、その時に支援魔法なしで運ぶの流石にキツイ。
「はあ、しょうがねえな」
覚悟を決め、俺はリアカーを引っ張っていき彼女について行く。一体どこに行くのだろうと思ったが、如何やら目的の場所は今居るアクセルの外らしく、出る前に装備は大丈夫か確認を受ける。
そこからの通る道は昨日も通ったベルディアが住んでいた城へ続く道で、今回はそのさらに奥へと向かっていった。
「なあ、クリス…このまま行くとデュラハンの住んでいた城にたどり着きそうなんだが、一体どこに向かっているんだ?」
「あれ、言ってなかったけ?そうだよ、今日はあのデュラハンの居た城に行くためにこうして向かっているんだよ。」
そんな事聞いた覚えは無かったが、もしかしたら聞き流してだけかもしれないので強くは言い返せない。
「マジかよ、それって大丈夫なのか?倒したとは言え魔王軍幹部のいた城だぜ、敵とか居ないのかよ」
確かにクリスは強いが、それはあくまで人対人であって巨大なモンスター相手になれば俺同様に火力が足りないのだ。それに肝心のパーティーメンバーは冒険者の俺と盗賊のクリスの二人になる、バランスとしては最悪の部類に入るだろう。二人の職業では前衛も後衛もあったものではない。
「大丈夫だよ、魔王の幹部が退いたとは言っても此処はアクセルの街だよ。季節も冬になり掛けているし雑魚敵でもそう遠くまで行かないと出てこないよ」
心配は要らないと彼女はそう明言しながら歩き続ける。確かにモンスターどころか野生動物一匹すら俺達の前に現れる事は無い。
「どうなってんだおい…」
不思議に思いつつも彼女の後ろをついていく。
やがて目指していたベルディアの城に辿り着く。黒炎を巻き込んだゆんゆんの風の魔法により立派だったお城は、現在ほぼ全壊と言ったところで見る影もなく崩れていた。
「うわー、随分と派手にやってくれたねー。これじゃ目的の物が残ってるかわからないじゃ無いか」
うへーと彼女は若干引きながら崩壊している城の跡地に入って行った。城は壁も崩れていれば屋根もなくなっている箇所が多い、そして1日経ったと言うのに所々で放たれた黒炎が今尚燃え続けている。
「この黒い炎に触れると危ないから気を付けろよ、燃え尽きるまで消えないらしいからな」
ズンズン進んでいくクリスに注意するが、そんな事を気にも留めないかの様に彼女は進んでいった。もしかしたら彼女はこの炎の正体に気付いているのだろうか?そんな疑問も湧いてきたが、兎に角俺もリアカーを城の前に置いて彼女の後について行く。
「この辺りが怪しいかな…」
彼女は何かスキルを使っているのか、手を突きながら地面を弄り始める。
「君もボーとしてないで手伝ってもらえるかな?反応があるから多分このフロアにあると思うんだよね」
何の反応があるのかは分からないが、ボーとしてても仕方ないので散らかっている瓦礫等を退かしていく。一体この城に何が有るのかと思ったが、一応は魔王軍幹部の住んでいた城なのだからお宝でも有るのかもしれないという事を思いつくと、先程の疑問がスッと消え胸のつっかえが無くなった。
「おっ‼︎あったあった、此処だよ」
やがて目的の場所を見つけたのか彼女は俺を呼ぶ。彼女が指した場所には隠し扉の様な細工が施された床の板があり、それを二人がかりで開けるとそこには階段が続いていた。