隠し扉を開き、中に入るとそこには階段が続いており、何処かに繋がっている様だった。
「さあ行くよ。君も足元気をつけてね」
彼女はそう言いながらポケットから小石の様な物を出すとそれを壁にぶつける、それにより衝撃が加わった小石から淡い光が放たれる。どうやらランタンの代わりらしい。
彼女はそれで辺りを照らしながら躊躇いなく奥へと降っていった。まだまだ俺も知らないスキルがあるのか彼女の行動を見ながら後ろを続いていく。
あの火災騒動により中に配置されていたモンスターは大方排除されたらしいのか、敵感知しても城の中にモンスターの気配はない。
階段を降り切ると、一つの部屋に辿り着く。そこだけは厳重に守られているのか如何にもと言った様に装甲で固められた壁が設置されていた。
「さあ、弟子一号君。君の出番だよ‼︎」
ガシガシ持っていたダガーで壁を叩いたり、鍵開錠などのスキルを使用したがその壁は一向に開かずに遂には俺に助けを求め始めた。
「いや、俺に言われても…クリスで無理だったら俺にも無理だから」
変な期待をされても困るので此処はキッパリと断る。ここは色々試すとこだろうけど、ろくな事にならない気がするのでこれでいいのだ。
「いやいや、黒い炎だよ。聞いたよ君あのデュラハンを倒した時鎧ごと黒炎で燃やしたんだってね。だから今回もこの扉をその炎でやって欲しいんだよ」
ニヤニヤと珍しいもの見たさに彼女はそう言った。必死に隠していたがどうやらあの戦いの時に使ったのが広まっていた様だ。
後でギルドに行った時に何も無ければいいのだが…。
「だけどな…こんなところでそんな物ぶっ放したら間違いなく俺達も燃えるぞ」
「え?そうなの?コントロールとか出来ないの?」
それを聞いて不思議そうにこちらを見るクリス。そんな事出来たら今頃俺も有名人になってるよ。
「ふーん、そうなんだ…よし‼︎じゃあこうしよう。私は一旦外に出るから君は炎を放ったら急いで此処から脱出する事でどうだい?」
「出来るか⁉︎俺が燃え尽きちまうわ‼︎それにこの壁を燃やしたら中身まで燃えちまわないか?」
高出力だったとは言え、この黒炎はこの城をここまで破壊し尽くしたのだ。それをここで放とうものならただでは済まないだろう、この黒炎は確実にこの宝物庫の様な部屋を燃やし尽くすだろう。
「大丈夫だよ、この中には君の炎でも燃えない物が入っている筈だから気にせず放ってみて」
そう言いながら彼女は我先に降りてきた階段を上がり始める。
「はあ…全くしょうがねえな」
彼女が階段を登り切った事を確認した後、自身に支援魔法を掛ける。炎の出力は低めであの壁を丁度燃やせるくらいに加減して…
「黒炎よ‼︎」
ボゥっと放てれた黒炎が壁に着火した事を確認が出来ると、そのまま階段を駆け上がって行った。
それにしてもこの炎でも燃えないものとは一体なんだろうか…。自分で言うのもなんだがあのベルディアの鎧ですら燃やし尽くしたこの炎の耐性を持つのなら、それはもう神具と言われる領域にあるのだろう。
階段を無事登り切ると彼女が先に座って待っていたので、さりげなく俺も隣に座ってみたが彼女は特に気にも止めずに話しかけてくる。
「魔王軍幹部ベルディア、君にとって彼との戦いはどうだった?やっぱり怖かった?」
先程とは雰囲気が違い真面目なトーンで言う彼女に戸惑いながら、どの様に答えを返そうかを考える。
「そんな事言われてもな…あの時はめぐみんが死の宣告を受けちまってな、その事で頭が一杯だったからよく覚えてないんだ。まあでも怖かったかと言われれば怖かったな、これで駄目だったらこの街はお終いだったしな。みんなが居てそして協力してくれたから何とかなった感じかな」
色々考えに考え考えた結果の作戦に色々な偶然が重なりあの様な結果になったのだ。それに対してどう思ったかと聞かれたら、それは偶然勝ったとしか言いようがないのだ。それか、みんなの力を合わせて立ち向かい協力の末に掴み取った勝利と言うのか。
どちらにしろ俺自身の功績ではないのだ。
「そっか…君はそう言うんだね。君らしいと言えば君らしいね、でも君達が魔王軍幹部を倒してくれたお陰で他の国に居る皆の士気も上がってきてるみたい。だからありがとうね」
彼女は今まで見せたことのない様な神秘的というか何か神聖な凄みを持った表情を浮かべながら俺に礼を言った。何だろうか、クリスを通して誰かが俺に伝える様なそんな奇妙な感覚に陥る。
「その…何だ、あれだよ。クリスの激励というか…あれがあったから立ち向かえた様なもんだし。そういう意味だと俺もクリスに礼を言わなくちゃな。改めてありがとな」
一方的に礼を言われるのは結構恥ずかしいので、礼には礼をと言う事にして彼女に礼を言う。そして互いに礼を言った後に互いの顔を見ると、何だか二人ともなれない事をしているようで笑いがこみ上げて来て、二人揃って吹き出してしまい、暫く笑い合っていた。
「そろそろ良いんじゃないかな、火を使ったから君の魔法で中を換気して貰ってもいい?」
彼女に言われてハッとする。地下室は密室になっている為その中で火を使えば部屋の中の酸素濃度が下がってしまい低酸素血症になってしまい一気に全滅となってしまうだろう。
しかし、この世界にその様な科学的常識は存在するのだろうか。いや考えすぎか…火を使って居れば息苦しくなるくらい実体験で学んだ人が居ればそれで伝承されて常識へと昇華されただけかもしれない。
「おう、任せとけ」
ウインドブレスにより、外から風を流し込み中を換気する。流石に無理かと思ったが、案外いけるもので徐々に降りつつ風を流しながら先程の部屋の前に辿り着く。
「うわ…凄い事になってんな。自分で言っといてなんだけど流石に引くわ」
先程のロックされた部屋の扉の前に立つと、見るも無残の燃え尽きていた。しかし、扉と宝物庫らしき空間に間が開けられていた様で何とか燃え移っていなかった様だ。
「ふーん、何とか大丈夫だったみたいだね」
やったね、と彼女は俺の後ろから宝物庫の空間を眺める。
「何とかって…賭けてたのかよ。クリスもたまに物凄く大胆な時あるよな」
「そんな事無いよ。一応だけど保険も掛けてあったんだ」
俺の指摘に対して笑いながら誤魔化して、俺を抜かして先に宝物庫だった空間に向かった。そして宝物庫の手前から盾の様な物を引きずり出してきた。
「私が大丈夫だっと思ったのはこれのおかげさ、見た目は埃を被っているけどなかなかの物だよ」
取り出された盾は彼女が言った様に埃に塗れており、とても良い物だとは思えないが神具と言われている以上チートの様な能力があるのだろう。しかし、彼女はそんな俺の気も知らずか盾に積もった埃を払いなだら説明を始める。
「この盾の名前は聖盾イージスと言ってね、オリハルコンで出来ていて高い防御性能に加えてあらゆる魔法を弾く能力があるんだよ」
聖盾イージス、彼女に名前を言われて女神から渡されたチートのカタログに記されていた事を思い出した。宝物庫に置かれた物を見ているとこの盾以外の他にも、色々みて来た記憶にあるのだが、女神に提示物された様な物物が並べられていた。
つまりこの部屋には神具の原点の様なものや様々な物で溢れて帰っていることのなる。神具と言われるものは簡単に沢山手に入る物ではないので、かなりの幸運の持ち主か、それとも俺達を殺すかどうかしないと手に入らなかったのだろう。
「何考えているか大体分かるけど、当ててあげよっか。何でこの部屋に沢山の神具が存在しているのかと言うとこかな」
キョロキョと部屋を見渡している俺を見ながら彼女が見透かした様に言った。何も教えてくれなければ皆そう思うだろうと彼女を見ると少しドヤ顔で腕を組んでいた。
「大体そんなところかな。で、結局何でこんな所にそんなものがあるんだ?」
聞いて欲しそうな顔をしている彼女に問いかける。流石の彼女もここで勿体振らずに説明してくれるだろう、でなけらばここでボイコットして逃げてやろうと思う。
「そんな顔しなくても教えてあげるよ、此処にある神具は君みたいな変な名前を持った人達が持っていた物なんだよ」
取り敢えず時間が惜しいから運びながら説明しようと言う事になり、重たい物から二人でこの部屋から運び出し始める。
「大体そう言った人はアクセルに定期的に現れるんだけど、ある時から急に現れなくなってね。不思議に思って調べてみたら此処に辿り着いた訳だよ。魔王軍幹部ベルディアは君達みたいな人を狩って、こうしてその人が持っていた神具を回収していたんだよ」
「なるほどな…」
確かに俺の後続が現れてこなかった理由が分かった。しかし、それだと俺が来た時に狙われる事になるのだが、それは単純に運が良かっただけなのだろうか。
「けど、なんであいつらはこれを使わなかったんだ?これがあれば俺達どころか魔王に下克上できるんじゃないか?」
俺だけの神具があるのであれば、俺だったらこれらを部下に武装させて街に攻め込ませて街の住人を一網打尽にするのだが。
「それね、君も何となく察していると思うけど、この神具は持ち主以外に対しては対して効果を発揮しないんだよ。君がいつかミツルギとか言った人の魔剣を掴んだ時があったみたいだけど、その時に加護である膂力は付加されなかったでしょ。それと一緒で他人が持てば頑丈なだけの道具にしかならないんだよ」
なるほどな、個別認証みたいなそんな感じのシステムがこの神具とかに組み込まれているのか…確かに言われてみればダクネスを横に弾き飛ばした時に支援魔法以外のステータス上昇は無かったなと思い出す。
「それじゃあ何でクリスはこれを集めてんだ?持ち主が居ない以上誰にも使えないんだから意味がないんじゃないか?」
俺はてっきり自分で装備するか何処かへ売り飛ばす物だと思っていたが、その条件だと最早何の役に立つのかすら分からない状態だ。
「なぜ集めてるか…そうだね。さっき効力はないっていたけど多少は使えるやつもあるんだ。例えば補助的効果をもたらすな道具とかだったら持続時間とかが極端に下がるけど使用は可能なんだ」
「だから危険と言うわけか…」
彼女も言葉に続く。回収と言う事に損得は無いが、彼女にはその行為に意味があるのだろう。
「そう言うわけだよ」
「ところで、それどうするんだ?売らないなら何処かに秘密の保管場所でもあるのか?」
彼女の行動理念はさておき、こんな危険な物を彼女が管理し切れるとは思えない。俺だったらクリスがいない隙に持ち去ってしまうかもしれない。
そう言えば彼女は一体どこに住んでいるのだろうか、いつも彼女と別れた後は消える様に居なくなってしまうのだ。
「まあね、これから君に運んで貰うからついでに案内するよ」
彼女はそう言って置かれていた神具に封印といった措置を行ない使えなくすると俺に運ぶ様に差し出す。
「さあ、運びたまえ」
可愛く言えば良いとでも思っているのか、彼女は普段見せない位の飛び切り笑顔を俺に向けながらズシンと重たい神具を渡す。
「マジかよ。これを全部運べって言うのかよ…」
盾ばかりに目線が行っていたが、奥に他の神具ある事に気づく。一体ベルディアは何人の日本人を屠って来たのだろうか?あの女神が提示した特典には神具以外にも俺の様な能力だけを選択した奴も居るのだろう、それを加味すると相当数の日本人が餌食にあったと言う事になる。
俺もああなっていたと思うとゾッとする。色々なパラメーターが低かったが幸運値が高かった事には感謝をしなくてはいけないと思った。
その後も文句を言いながらも自身とクリスに支援魔法を掛けながら神具を上の階に運び出す。流石は神具と言ったところで、重さは全然感じられず運び易いのだが問題はその神具を持って繰り返す移動する階段にあった。
一つなら問題ないのだが、こう何度も繰り返されると流石に足がパンパンになってくる、先程のリアカー運びも間違いなく尾を引いているだろう。
全ての神具を二人で運びだし、入り口から持ってこれる所まで運んだリアカーに乗せていき何とか運び切ることができた。
「ふぅ〜これで全部だろう?流石の俺もこれ以上は無理だ、もうクタクタだよ」
最後の神具運び終わったと共に腰を下ろす、流石のクリスも疲れた様で隣でしゃがんで居る。
「流石に疲れたね…暫く休憩にしようか」
「言われ…無くても…もう動けねえよ」
彼女の言葉を合図にバタンと後ろに寝そべる。季節は冬に差し掛かっていると言うのに全身汗まみれだ。
「で、次にこれを何処に運べば良いんだ?街か、それとも隠れ家的なやつか?」
次の予定を彼女に聞く。
「隠れ家とはちょっと違うけど、隠し場所みたいな所があるからそこまで頼むよ」
彼女が場所をざっくり説明し始める。どうやら隠し場所は森の奥にあるらしく此処から距離もあるあらしい、なので出発する前にこうして長めの休みを取る事になっている訳だ。
「へえ、まあ俺は全然構わないんだけど、何でこんな事しているのか聞いて良いか?さっきは危険とか言っていたけど流石にクリスがここまでする義理は無いんじゃないのか?此処まで手伝っておいて言うのも何だけど」
「理由か…そうだね私自身に特に得は無いからね…それに関してはいつか言うかもね。だからその時が来るまで君は私を手伝い続けないといけないんだよ、弟子一号君」
なんだかんだ言って彼女は話す気は無いのだろう。そしてそれを餌に俺をこき使う事を宣言する彼女にビックリする。
彼女の事だ、これから先も神具に関する事に付き合わせ続けるのだろう。俺は別に構わないのだが、ゆんゆん達との行動に支障をきたさないか心配になる。
「はあ…さいで。まあ此処まで来た以上付き合うけど、一応俺にもパーティーがあるからそっち優先で頼むな」
念の為断りを入れる。正直此処まで面倒な事になると思っていなかったが、戦い方を教えて貰った恩があるので完全に断る事は流石の俺でも出来ないのだ。
「別に無理して協力しなくても良いからね。私も何時も活動してる訳じゃ無いし…そろそろ良いかな?休憩もここら辺にして行こうか」
よっと彼女は立ち上がるとリアカーの方に向かう、おれも彼女に続き立ち上がるとそのままリアカーの持ち手を掴み先行する彼女について行きながら城を後にした。
森を進みながらはや数十分、途中に目印なのか動物を象った様な小さな石像が設置されている事に気づく。
「なあクリス、この石の人形みたいな物は何なんだ?目印か?」
「ああ、これね。これは何というか人払いの結界みたいな物だよ、鼠牛虎とか順番に進んでいかないと奥に行けない様になっているんだよ」
「へぇ、そうなのか、今更なんだがクリスは俺達の国に詳しいのか?神具といいこの結界といい、何だか俺達の国から来たみたいじゃないか?」
前から疑問に思っていた事を改めて彼女に問いかける。彼女の言った結界の突破方法はまさに干支の順列そのものだった、それに加えて神具の情報についても気になる。
「そうだね。確かに私は君達の国についての知識を持っているけど、だからと言って君達の国から来た訳じゃないんだよ。ただ皆最初はアクセルに来るみたいだから話をしているうちに色々教わったのさ」
彼女は歩くのをやめずにそう言った。確かに彼女の特徴は俺達日本人の物とはかなりかけ離れた容姿にその国特有の名前をしており、神具で容姿を変えない限りはこの世界の住人であるのは確かだろう。
「そうか、なんか疑ったみたいな事聞いて悪かったな」
特に悪いとは思っていなかったが取り敢えず謝罪する。
「別に気にしなくて良いよ。私も色々隠し事しているからお互い様ってやつだよ」
そんな俺の気も知らずか彼女はありふれた返事を俺に返す。
「さあ、着いたよ。此処が神具の隠し場所さ」
干支の石像を幾つか超えた先に開かれた広場の様な場所に出る。小さな泉に大きな大木が聳え立った少し寂しそうな雰囲気を醸し出す様なそんな場所だった。
「へえ、此処がそうなのか。で、何処に隠してるんだ?木にでも埋め込むのか?」
ぱっと見だが、この場所に物を隠せる様な場所は見当たらなかった。もしかしたらあの城のように隠し扉の様なものがあるかもしれないが、仮にだとしたら小屋か何か建物を建てるのではないのだろうか、よく地面に隠し扉的なものがあるが、そんな物をこの世界で作ってもすぐ風化してしまうのが落ちだろう。
「違うよ、この泉だよ。この泉は聖水で出来ていてね、悪しき物を追い払う効果があるんだよ」
聖水、ベルディア討伐の際に聞いたことがあるが、確かアンデッドをどうにかする様な感じの効果があった様な気がする。だが此処でそんな物を張っても意味がない様な気がしなくもないが。
そんな俺の考えを余所に彼女は俺が運んできたリアカーに乗せられた神具を次から次へと泉に放り込んでいった。
「そんな雑に扱って良いのかよ⁉︎流石に傷つかないのか?」
「大丈夫だよ、この泉はこう見えて結構深いからね。女神様でもない限り取り出す事は出来ないよ」
女神と聞いてあの女神を思い出す。もしこの神具達が再利用される時が来たのであれば、あの女神にお願いする事になるのだろうかと思うと少しだがゾッとする。
「まあ、使うことも無いだろうしそれだけ深いのなら誰にも取られる事は無いだろうな」
「でしょ」
彼女は全ての神具を泉に落とし終えたのか両手を組みながらとなりでウンウンと頷いている。伝説と言われている神具を果たしてこんな雑に扱って良いのだろうか。
「じゃあ来た道を帰ろうか、そこのリアカー忘れないように気をつけてね」
やる事を全てやり終えた彼女は踵を返すと、そのまま泉に背を向け森を後にする。
はあ‥。
溜息を吐きながら再びリアカーを持ち上げながら彼女の背中を追いかける。
空を見上げると丁度太陽が真上に登っている、如何やら時刻は正午位だろうか、ゆんゆん達の約束までには何とか間に合いそうだが果たしてこのまま帰れるのだろうか。
来た道を戻り、今度はアクセルの街へと帰って来た。
「今日はお礼と言っても此処まで付き合ってくれてありがとうね、それじゃあ私は他に用事があるから今日は此処で解散だね」
街に着き、リアカーを貸出の業者に返す。返している間に彼女が気を使ってか飲み物を買って来てくれ、俺に一つを渡して申し訳なさそうにそう言った。
元々は午前中の約束なので彼女が謝る通りはないのだが、彼女なりの気遣いだろう此処は素直に受け取りお礼を言う。
「こっちこそありがとうな、正直こんな事で済むなら安いもんさ」
カチャンと飲み物の容器を挨拶代わりに互いにぶつけて彼女と別れ、ゆんゆん達が待っているであろうギルドに向かう。
「遅いですよ、何やっていたんですか。もう来ないんじゃ無いかと思ったじゃ無いですか」
ギルドに着いて早々ゆんゆんに怒られる。備え付けの時計に目を向けると時刻は一時頃となっており彼女達は1時間ほど待たされた事になる。
自分で此処を集合場所にしておいてこう思うのも何だが。前回の事件の原因と言ってもいいめぐみんを此処に集合させるのはどうなのだろうか…しかし大量の報償金を受け取ったギルドの冒険者達はめぐみんの事など気にも止めず昼間から酒盛りを始めている。
「悪い悪い、でも昼頃集合で別に12時集合とは言ってないんだけど」
謝罪しつつも弁解を挟む。このまま彼女のペースに乗せられれば何か変な要求をされかねない。
「そ、それはそうですけど…」
返す言葉がなくなったのか彼女は再びベンチに座り、逃げる様に隣に座っているめぐみんに話を振る。
「そうですね…私はまだ食事が終わっていないのでもう少し遅く来ても良かったですね」
モグモグと食後のスイーツなのかプリンの様な物を頬張りながら彼女はそう言った。
「そうえば、ベルディア討伐の報償金が出ていますので受け取りに行ったらどうですか?」
そう言えばと思い出す。基本的にこう言った話題やイベント事には外される事が多かった為か俺も報酬の対象という事をすっかり忘れていた。
「そうだった、取りに行くからもうちょっと待っててくれ」
二人に待つ様に伝えてから受付に向かう。流石に一日経っている為か他の冒険者達で賑わっている事はなく、受付嬢は暇そうに書類を眺めていた。
「あら、カズマさんじゃ無いですか。魔王軍幹部の討伐おめでとうございます、今回は報酬が山分けになっていますが皆さんの要望でカズマさんは報償金の一割である三千万エリスをお渡し致します」
「は?」
受付嬢の口から放たれた突飛押しもない額に思わず言葉が漏れる。三千万エリスって何だ?サラリーマンの平均年収の何倍あるんだよ。
「あの…驚くのはわかりますけど早く受けっとて貰えませんか?私もこんな額を一度にお渡しするのは初めてなので早く受けとってもらわないと落ち着かないのですが…」
ドスンと普段聞くことのない札束が置かれる音を聞きながら呆然としていると、痺れを切らした様に受付嬢が不満を漏らす。確かに目の前の大金を置きっぱなしにするのもセキュリティー的にも如何なのかと思うので袋に三千万エリスをぶち込み、潜伏を掛けながら急いで銀行へと飛んで行った。
暫くして無事銀行にお金を預けてギルドに戻ってくる。
「やあ、こんな所に居たのか。打ち上げにも来なかったから探したぞ」
戻る途中女性の声が後ろから聞こえ、人違いだったら恥ずかしいので偶々を装いつつこっそり後ろを振り向くと、そこにはダクネスが一人突っ立ていた。
「何だ、ダクネスか…てっきり俺のファンが声を掛けて来たのかと思ったぞ」
これ以上彼女達を待たせるわけにはいかないので適当な軽口で返す。
「うむ…確かにお前の活躍を見ればファンの一人でも出来そうだが、いかんせん今までの悪行の方が凄いからな。気持ちまだ悪評が強いだろうな」
「うるせえよ‼︎」
フムと真面目に返すダクネス。本気でファンが居るとは思わなかったが冷静にここまで分析されてその結果がそれだと何か傷つく。
「それはそれで、此間の事で礼を言おうと思ってな呼び止めさせて貰った。あの戦いでの作戦見事な物だったぞ、今度機会があれば是非誘ってくれ」
彼女はそう言って手を差し出す、握手をしろという事だろうか俺も手を差し出すと握り返されたのでこれでよかったのだろう。
「では、私はこれで。お前も急いでいた様だからな引き止めて悪かった。後ミツルギも貴様の事を探していたから時間が空いた時にでも会うといい」
手を離すと彼女はそう言い残し踵を返し街の商店街の方向へと去っていく。そしてダクネスの言葉で未だに彼女達を待たせている事を思い出した。
息を切らせてギルドに着き、ドアを開けて二人を見ると、やる事が無かったのか二人はチェスの様な物で遊んでいた。
前回やる事が無かったのでゆんゆんと二人でやった事があるのだが、ルールがぶっ飛び過ぎてたのでお蔵入りになった物だったが俺以外の相手が出来た事で復活を果たしたのだろう。
内容はチェスと同じような感覚で役職毎に何か能力がある様なそんな感じの内容だったような気がする。
「やっと来ましたか遅かったっですね、カズマが帰ってくるまでの間にゆんゆんが四回も撃墜されましたよ」
「う〜」
ゲームも終盤だったのか、ゆんゆんに止めをさした後こちらに気づいたのかめぐみんはそう言いながら盤を片付け始める。そして負けたゆんゆんはと言うと何度も負けて戦意喪失したのか机に突伏して項垂れている。如何やら何度もやって彼女が勝てなかったのはただ単に俺の運が良いだけではなく、彼女が単純に勝負事が向いてないんじゃないのかと思い始めている。
「悪い、待たせたな。流石に額が額だったから、銀行に預けに行ってたんだよ」
特に言い訳が思い浮かばないので素直に謝っておくことにする。
「そうですか、別に私は構いませんが…ゆんゆんもいつまで項垂れて居るんですか、シャキッとして下さい。今日からまた自給自足の生活が始まりますよ」
机に突伏して居るゆんゆんの首根っこをを無理やり引っ張り起こす。
話を聞くとめぐみんは如何やら今回の報酬を大分減額されたらしい。本人は不満の様だが今回の一件をこの程度でお咎めなしになったのなら安い物だろう。
「で、如何すんだよ。またいつもの日課から始めるか?」
いつもの調子でめぐみんに問いかけると、少し寂し気な表情を浮かべ。
「いえ、今回の一件で迷惑を掛けてしまいましたので、暫く爆裂魔法は封印しようかと思います」
「は?」
「え?」
彼女の発言にゆんゆん共々素っ頓狂な声を上げる。ゆんゆんにしても驚きだったのだろう、たまにする俺の無茶振りの注文を受けた時の様な表情を浮かべて居る。
「ど、どうしちゃったのめぐみん⁉︎」
慌ててゆんゆんが理由を尋ねる。
「いえ、暫く自粛すると言っただけで二度と使わないとは言ってませんよ」
彼女なりの今回の件のケジメなのだろう、彼女が暫くと言ったのだから本当に暫くなのだろうが、しかし、いつまでと期限が無い以上は最後まで本当に打たない可能性も無きにしもあらず。
「でも…」
ゆんゆんが言い悩む、昔から一緒にいた仲だからこそ彼女の言っている事の重要さに気づいたのだろうか。
「いや、その必要は無いぞ」
バンと、机に、あるクエストの受注用紙を叩きつけた。