この女神の居ない世界に祝福を   作:名代

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ギリギリになってしまいましたので大分誤字が目立つと思います。
此処からオリジナル要素が増えて行きますのでよろしくお願いします。
誤字報告していただいた方ありがとうございます。本来なら自分でやらないといけないのですがとても助かっていますm(_ _)m


カズマの日常6

「何ですかこれ?」

 

俺の差し出した紙を彼女達は眺めながらそう言った。

 

「何って依頼の用紙だけど…」

「そう言う事を言っているんじゃ無いんですよ」

 

バンバンと彼女は机を叩いて抗議する。

仕方なしに説明を始める。今回受注しようかと思っていたクエストは採掘現場の岩盤を破壊すると言う物で、募集者の欄に炸裂魔法と書いてある。めぐみんの爆裂魔法はその下に爆発魔法、炸裂魔法と存在する、要するに上位互換である爆裂魔法が使えるのであれば対応可能だろう。

概要を説明し終えると納得したのか、二人とも落ち着いた表情を浮かべる。

 

「成る程、これならあの迷惑な爆裂魔法も役に立ちますね」

「だろ、俺ながらナイスアイディアだと思ったんだよ」

 

俺の考えに同意するゆんゆんに答え、めぐみんの方を振り向くとさっきとは打って変わって不機嫌そうにそうに

 

「何ですか⁉︎私の爆裂魔法は迷惑だったとでも言うのですか⁉︎あのですね、この際なので言っておきますけど私の爆裂魔法は芸術の様な物で決して採掘道具の代わりでは無いんですよ⁉︎」

 

バーンと机に乗り上げながら彼女は高らかに宣言した後、何時もの様に爆裂魔法に対する思いを話し始めた。いつものパターンだがこのまま続くとかなり時間を取られるので話を無理やり進める。

 

「うるせえ‼︎今回迷惑かけたと思っているんなら、少しはその爆裂魔法で周りのみんなの役にたてよ‼︎」

 

めぐみんの頭をむりやり鷲掴みガシガシ揺らす。俺よりもステータスが高いと言っても小柄なので軽く揺らすだけでブンブンと揺れる。

 

「わかりましたよ‼︎やれば良いのでしょう‼︎ですから揺らさないでください‼︎あああ頭がー⁉︎」

 

流石に観念したのか、彼女はやめる様にせがむので揺らすのを止めると目が回ったのかベンチの上でフラフラしている。

 

「よし、これで大丈夫そうだな」

「何が大丈夫なんですか⁉︎あわわ…大丈夫めぐみん?」

 

ゆんゆんに支えられてなんとか体勢を立て直すめぐみんを眺めながら受付に向かい依頼の手続きを済ませる。受付でめぐみんについて何か言われるかと思ったが、特に何も言われなかったので多分メンバーの制限等は大丈夫だろう。

 

「よし、受付も済んだ事だし。一丁やって行こうか」

 

再びテーブルに戻り声を掛けるとオーと3人とも腕を上げ現場に向かった。

 

 

 

 

 

現場は馬車に乗って数時間の所にある鉱山に指定されており。此処ではマナタイトはもちろん火を起こすフレアタイト等々が採石され色々な場所へと出荷されている。

 

「おー絶景だな此処は」

 

入り口から採掘が進んだ鉱山の断面が見える。元々は他ただの山だったのだろうが、こうして人の手でここまで少しづつ砕かれてはまた砕かれてを繰り返して此処まで来たのだろう。

鉱山について早々視界に広がる光景に思わず声を漏らす。日本ではテレビとかでしか見ていなかった分、こう言った形で実際の現場を見られると言う事は新鮮で尚且つこの絶景なので感動してしまうのだ。

 

「ああ、貴方達はギルドからいらした冒険者達ですね。話は伺っております、ささどうぞ此方へ」

 

突っ立ったまま鉱山を眺めて居ると職員だろうか、作業着に身を包んだ中年の男性がこっちに向かって来てそう言うと、事務所なのだろうか奥の小屋へと案内される。

小屋の中に入ると外見とは違い意外と広く、事務所として機能しているのだろうか様々な書類が置かれており事務所の中心部分にはテーブルが置かれそこにここら一帯の高山を記した図面が敷かれていた。

 

「では、そのテーブルの周りのお好きな席にお座りください」

 

職員に促されるままに椅子に着席する。椅子は客人様なのか新品の様な質感だった。

俺達が着席した事を確認すると先程の職員が話を始める。

 

「いきなりで申し訳ないのですが本題に入らせて頂きます。我々はこの採石場でマナタイト等の鉱石を採掘しているのですが、その途中とても硬い岩盤に当たってしまい現在作業を中断している状態になっております」

「そこで今回爆発系の魔法を使える方をお呼びしてその岩盤を破壊、そして散らばった破片等を回収するという内容を予定しております」

 

職員の話をまとめると、作業員に破壊できない岩盤等が存在してそれをめぐみんの爆裂魔法で破壊し飛び散った石等を回収して欲しいとのことだ。

 

「分かりました。今回爆裂魔法を放つのはこの…めぐみんと言う子になります」

 

一瞬めぐみんの名前を出すのに躊躇する。この採石場においての危機的状況に現れたピンチヒッターがそんな名前では示しがつかないと思ったからだ。

しかし、だからと言って適当な偽名にすればこの場でめぐみんがキレて襲い掛かって来そうだ。なので仕方なしに彼女の本名をここで言う。

 

「ふふふ…この私の爆裂魔法の力お見せ致しましょう」

 

自身の力がようやく誰かに必要とされた事で機嫌がいいいのか、何時もより少しテンションが高かった。

 

「そうですか…めぐみんさんと仰るのですか。今日はよろしくお願いします」

 

おお…意外にも職員は彼女の中二的な挨拶も意に返さず通常通りのトーンで彼女に相対する。

 

「めぐみんさん…もしかしてそのお名前と赤い目…そこのもう一人のお嬢さんも合わせて二人は紅魔族の方ですかな?」

 

うむ…と彼女達を眺めると何かに気付いたのか、目を伏せてそう言った。

 

「は、はいそうですけど…それで何か問題でもあるのですか…」

 

それに対してゆんゆんはオズオズとあまり不躾にならない様に返した。

 

「いえ、特に問題と言ったものはありません。失礼な事を伺ってしまって申し訳ございません」

 

職員は一度頭を下げ、話を続ける。

 

「では、状況については此処で話すよりかは一度見ていただいた方が宜しいかと。問題の現場はこの奥へとなっています」

 

ささ、っと職員は俺達を再び案内し始める。

 

 

 

 

 

小屋を出て鉱山の奥へと案内される。奥と言っても採掘されている途中なので洞窟等ではなく、大きな山を端から切り崩している様なので側から見たら山を抉り取った断面図の様な物を見せられている様な物だろう。

場所は流石に岩盤の正面では無く、少し離れた高台の上に4人佇んでいる状態だ。

 

「おお流石に此処まで来れば芸術みたいだな、写真でも撮っていくか?」

 

この世界に訪れてから初めて見る山の断面を見て感嘆の言葉を漏らす。日本とは違いこの世界にはクリスタルの様な鉱石が多い為、目に映る光景は煌びやかなものになるのだ。

 

「写真ってなんですか?」

 

横で聞いていたゆんゆんが不思議そうな表情で此方を見てくる。今気づいたが、図鑑のモンスターや人物も考えてみればこの世界では手描きのスケッチが用いられている事が殆どで写真の様な物を見た事は無かった。

 

「そうか…ゆんゆんは知らないか…簡単に言えば、この光景を一瞬にして紙に写すものなんだけどな」

「そうですか。カズマさんの居た国の技術は凄いですね、日本でしたっけ私は聞いた事は無いですが一体何処にあるのでしょうね」

 

出来れば日本に戻って色々な物資をこっちの世界に持ち込んで色々やってみたい物はあるが、多分それは無理だろう。

 

「着きました、問題の岩盤は此方になります。周りを削って行く事も出来たのですが、それですと山の中心に残ってしまって効率が下がってしまうと考えましたので、現状そのままになっております」

 

職員の指差す方向には他の鉱石の埋まっている層とは違い、周りとは違って何も無いノッペリとした岩盤の層が見える。多分それが職員が言う今回の破壊して欲しい岩盤の様だ。

 

「よし、早速だけどめぐみん行けるか?出来ればあの岩盤だけ破壊できる様に調整してもらえると有り難いんだけど」

 

念の為にめぐみんに確認を取る。もし彼女が全力で放った場合に周りに埋まっているフレアタイトに誘爆する危険性が無いことも無い。

 

「大丈夫ですよ。そのくらい私にも分かっています。此処で全力で放ったら確かに私の爆裂魂は満たされますが、その代わりに周りの鉱石達が誘爆してしまうじゃないですか」

 

どうやら最悪な光景は俺の思い過ごしだった様で肩の力を抜く。

 

「おお、よかった…」

「まったく…大袈裟ですね。流石に私も色々懲りていますので前みたいに全力で放つ時と場合は選びますよ」

 

はあ…と溜息を吐きながら彼女は詠唱を始める。高速詠唱のパラメーターを取っているためか日に日に彼女の詠唱速度が早まっている気がする。

 

「エクスプロージョン」

 

彼女が魔法を唱えるとそれに呼応して前方にある岩盤が大きな音を立てて爆発し、砂煙が此方まで爆風を乗って吹き飛んでくる。それを腕で目を覆いながらやり過ごす。

 

「如何ですか‼︎我が爆裂魔法は‼︎私の手に掛かればあの硬い岩盤だけを破壊する事など動作も無いですよ‼︎」

 

ドサっと何かが倒れる様な音がした後に彼女の高らかな自慢の様な声が聞こえて来る。確かにフレアタイトに誘爆したのなら連鎖的に爆発音が続くのだが、今のところそれが起きる事は無さそうだ。

 

「ゆんゆんこの砂煙をなんとかしてくれ、此処ままじゃ如何なったかわからねえ」

 

しかし、自分自身の目で確かめない訳には納得できないのでゆんゆんに風の魔法で吹き飛ばしてもらう事にする。

 

「…分かりました」

 

暫くの彼女の詠唱の後にトルネードの魔法が発動され、辺りの土煙が吹き飛んでいき霧散する。

 

「おぉ…」

 

視界が晴れ俺の目に飛び込んで来たのは、粉々に砕かれ鉱石がみえる様になった鉱山の断面だった。

 

「流石です。流石は紅魔のウィザード様ですね。魔力切れで動けない様でしたら此方をお使いください」

 

コトっと、魔力切れで動けなくなっているめぐみんを思ってか、彼女の眼前に赤い鉱石が置かれる。

 

「これは…マナタイトですか?にしては赤いですし…フレアタイトにしては色が濁っていますね…」

「流石ですね、これは人工的に作られたマナタイトで、こう言った作業場などで魔道具を動かす際に大量に使用する際などによく使われている物ですよ」

 

へぇそうなんですかと、彼女は受け取ったマナタイトを握りながら何かを呟くと魔力を吸収したのか手に持っていた赤い水晶体は消滅し、彼女は手を着きながら何事もなかった様に立ち上がる。

 

「大きさにしてはそこそこって所ですね。人工のマナタイトなんて里で聞いた事はありませんね、一体何を原料に作っているのですか?」

 

彼女が職員に聞くが、彼は申し訳なさそうに

 

「それに関しては私にも分かりませんね、私達はあくまで使う側ですので。ですが管理人がアクセルの街に居る貴族から輸入していると何処かで耳に挟んだ記憶がありますね」

 

ムムムっと必死に思い出そうとするが、如何やら昔の事らしく思い出せないらしかった。

 

「別に気にしていませんので大丈夫ですよ‼︎後は飛び散った岩盤の片付けでしたよね‼︎」

 

余計な事を言いそうなめぐみんを後ろに下げ牽制し前に乗り出し話を進める。本来の予定ではめぐみんは此処で退場して貰う予定だったのだが、マナタイトで回復してしまった以上は問題を起こさない様に立ち回らないといけない。

 

「そうでしたね、採掘が魔道具により効率化された事で人件費が下がった分こうしたイレギュラーな単純作業を行う際に人手不足に悩まされるのですよ」

 

ははは、と乾いた笑い声を上げながら此方ですと先程の岩盤が立ちはだかっていた場所に案内される。そこにはゴロゴロと岩盤だった物があちこちに転がっていて、待機していた作業員がせっせと運んでいた。

取り敢えず掛けられるだけ作業員に支援魔法をかけ、細かい物から拾って行く。そう言えばめぐみんは何処かと探すと彼女は役目は終えましたと言わんばかりに木陰で休憩をしている。対してゆんゆんは何か唱えるのかぶつぶつと詠唱をしている。

何をするんだと横目で彼女を眺めていると、詠唱が終わり魔法を唱える。すると彼女の足元からゴーレムが数体現れ他の作業員達が苦労して運んでいた岩石群を軽々と運んで行った。

 

「如何ですか?私も結構役に立ちますよ」

 

先程から出番がなかった事を気にしていたのか、役に立った事を嬉しそうに此方に自慢する。

 

「よくやったな、さすがはゆんゆんだ」

 

此処は素直に彼女を褒めることにした、このまま褒めちぎれば彼女は調子に乗って沢山のゴーレムを作って作業を早く終わらせてくれそうだったからだ。

 

「ふふふ、そうですか‼︎」

 

やはり、彼女は俺の予想どおりのチョロさで、おだてに乗せられ次次と新しいゴーレムを作成して行き、沢山あった岩石等々があっという間に片付いて行った。

あれ、俺が動く意味なかったんじゃね?と思ったが、何もしていないと言う烙印を押されないためにも少し動いたほうがいいと思い小石達を拾って行った。

 

 

 

 

 

 

「今日はありがとう御座いました、お陰で作業が始められます。またあの様な岩盤がありましたらギルドの方に依頼という形で再び届けますので宜しくお願いします」

 

めぐみんの爆裂魔法により岩盤を破壊し、残りをゆんゆんの召喚したゴーレム達が片付け俺は細かい物を他の職員と共に拾って行き今日の作業は終了した。

その後は二人を待たせ職員と事務手続きを行いその足で事務所を後にする。特に何か起きたと言うわけでは無いがドッと疲れた様な感覚に襲われる。

 

「お待たせ、今日はもうやる事が無いから二人とも帰るぞ〜」

 

暇だったのか入り口近くで取っ組み合いをしている二人を止めると帰りの馬車に向かう。帰りの券は依頼主から支給されているので特に不自由無く馬車にありつけほぼ貸し切りの状態になっている。

その途中にめぐみんは疲れたのか杖を支えにして器用に眠り始めた、マナタイトから魔力を回収したのが少なかったのかそれとも単純に疲れたのかわからないが、このまま大人しくしてくれる分にはいい事だろう。

 

「そう言えば、デュラハンを倒されてどの位レベルが上がったのですか?」

 

ボーと外の夕陽を眺めているとゆんゆんが思い出した様にそう言った。

 

「そう言えば見てないな…」

 

あの時はめぐみんの件もあってかバタバタと落ち着かなかったので冒険者カードを見る事もなかったなと思いだし、ポケットに入れっぱなしだったカードを取り出し表紙されているレベルを確認する。

 

「うおっマジか⁉︎」

 

想像以上にあがっていたレベル表記に驚きの声を上げる。それが気になったのかゆんゆんが横から覗き込む様な形で見てくる。

 

「うわっ‼︎カズマさん大分レベルが上がっていますね。そう言えば私と会った時はまだレベル1でしたっけ?」

 

この世界に来てからそんなに時間が経ってはいない筈だが、レベル一桁がいきなり十代後半になっている事に唖然としながらスキルポイントを見るとかなり溜まっている事に気づく。

 

「そ言えばゆんゆんと会った時はレベルは1だったな。まだ最近の筈なのに随分と昔に感じるな…」

「そうですね。あれからまだ数ヶ月しか経ってませんけど魔王幹部の事で結構色々ありましたので長い様に感じます」

 

魔王軍か…ゆんゆんの言葉にこの世界にきた目的を思い出す、俺の後続は魔王軍幹部に屠られてきたらしいが奴が居なくなった事により、これから何人か俺みたいな転生者が増えて行くのだろう。魔王討伐ももしかしたら時間の問題かもしれない。

残りはベルディアを除き魔王幹部は後7人いる事になる、俺自身魔王を倒せるとは思っていないが、このままいけば幹部には当たる機会があるのでは無いかと思うがあのベルディアの様にすんなりと討伐出来るとは思えない、このまま二人を連れてこの街から出るのもいいのかもしれないが、レベルだけ上がって戦闘力が今のままでは何分心許ない。暫くはクリスの下に厄介になっておいた方が良いだろう。

 

「スキルポイントがあるのでしたら中級魔法は如何ですか?めぐみんはアレしか使えませんので私がお教えしますよ‼︎」

 

彼女は身を乗り上げてそう言う。

 

「それもいいんだが…って前にお前が魔力値が低いから覚えても威力が出ないって言ってたじゃんか‼︎」

 

前のゴブリンを討伐しに山に泊まった時を思い出す。若干小馬鹿にした様に言われたのを俺は忘れていなかった。

 

「そう言えば…そうですね。まあそんな時もあったとは思いますが、その時はその時今は今ですよ」

 

何やら昔聞いた様なフレーズが返ってくる。お前はオカンか‼︎と突っ込みたくなったが多分通じないのでやめておく。

 

「まあ、必要になったら頼むよ。このまま俺が魔法系のスキルをとったら3人ともウィザード系になってバランスが悪くなるしな」

「そっそうですね…」

 

悲しそうにしゅんとするゆんゆん、しかしこれはしょうがない事なのだ。

俺が魔法を取得したとしてもこれだと後衛が増える事になる。俺の役割は支援系と前衛の二つをこなさないといけないのでその考えだとパーティのバランスが崩れる事になる。

 

「あ、そう言えば…」

 

支援系のスキルを考えているとある事を思い出す。

 

「どうかしましたか?もしかして忘れ物ですか、さすがに此処からまたあの鉱山は遠いのでまた明日になりますけど」

 

何やら彼女は俺が忘れ物をしたのだと勘違いしたのか、自分もないか確認するためにバックを漁り確認する。

 

「私は特に無いですね、で何を忘れたのですか?安い物でしたらチケットの方が高いので買い換えた方がいいと思いますけど」

「違えよ‼︎スキルだよ、あのリッチーがスキルを教えてくれるって約束だったろ。スキルポイントも大分溜まってるしそろそろ良いだろうと思ってな」

「そう言えばそうでしたね…でも大丈夫でしょうか?評判は良いみたいですけど裏で何やっているかわからないですよ」

 

ゆんゆんにしては珍しく慎重な事を言う。何時もなら何事にも文句言いながらも賛成するのだが。

 

「まあ、大丈夫だろう。店を構えている以上評判を守るために悪さは出来ないだろうし、ゆんゆんにも来てもらうから安心だしな」

「はあ…まあ私が一緒に行く分には構いませんが、何かあったらすぐ逃げてくださいよ」

「任せとけ、逃げ足には自信があるからな」

 

ドンと胸を叩く。

 

「もう遅いので明日にしましょうか、多分この馬車のペースだと着くのは夜になると思いますので」

「そうだな、今日は疲れたし帰ってゴロゴロして休みたいしな」

 

外を眺めると落ち掛けていた夕日が沈み反対方向が暗くなり始めている。このまま向かっても多分店は閉まっているだろうし、開いていたとしてもウィズの迷惑になるだろう。

 

「取り敢えず帰って飯にしようぜ、昼から何も食ってないし」

 

 

 

 

 

 

空が真っ黒に染まり、夕方から夜へと差し掛かった所でアクセルへとたどり着いた。季節は冬に差し掛かっている為時間的には5時くらいだろう、まあこの世界の常識は前の世界と同じだったらの話だが。

めぐみんを起こし馬車から引き摺り下ろすとその足で3人共酒場に向かう。ベルディア討伐後の活気は大分落ち着いたのかお祭り騒ぎだった酒場はいつもどおりのただ賑やかなものへと戻っていた。

 

「報告は俺がやっておくから、二人は先に注文を頼む。俺は何時ものカエルでいいから」

「分かりました」

 

二人を席へと残して受付へと向かう。

 

「おう、カズマじゃねーか‼︎お前今までどこに行ってたんだよ。せっかく幹部を倒した英雄なんだから堂々としてろよ‼︎」

 

受付に向かう途中金髪のチンピラ、ダストに出会った。フラフラと俺のもとへやってくると肩を無理やり組んでくる。

 

「うるせえな、って大分出来上がってるじゃねえか‼︎どんだけ飲んだんだよ…。まあ、アレはうちの身内が起こした事だからな、よくてチャラになってくれれば良いかなって事で放っておいてくれると助かるんだけど」

 

めぐみんの習慣に付き合っている時に空いた暇な時間を一緒になって悪さして潰していたためか、男の中では仲が良い部類に入る程になっている。

出会った時は最悪な印象だったが、飲んでいない時は意外にも気さくで良い奴だった。まあ酒場で会うと大体俺の勘定に酒を紛れ込まされるんだが。

 

「そうかよ。俺は誇って良いと思うんだけどよ、カズマがそう言うんだったらそれで良いさ。お陰で暫く遊んで暮らせそうだしよ‼︎」

 

ハハハっと笑っていると後ろの席からポニーテルの奴…リーンが立ち上がりダストを俺から引き剥がすと再び席に引きずり戻して行った。

 

「ゴメンね、此奴は私が回収するからやりたかったこと済ませちゃって」

「コラ離せって!!此処から俺の話術で今夜の食事を奢って貰おうと思ったのによ‼︎」

「煩いわね‼︎人にたかっている暇があったら私たちの借金早く返しなさいよ」

 

彼女はそう言って会釈をすると逃げようとするダスト再び押さえながら格闘し始めた。さっきアイツは遊ぶ金はあるとか言ってたが気のせいだったのだろうか。

取り敢えずさっきのは無かったことにして受付に向かう。

 

「ああ、カズマさんですね。お疲れ様です、クエストについては鉱山の方から連絡が来ていますよ。めぐみんさんを連れて行かれたので嫌な予感がしたのですがそれは大丈夫だったみたいですね」

 

いつも通り受付のお姉さんは俺を迎える。やはりめぐみんを連れて行くことに関して俺と同じ不安を抱いていた事は変わらないみたいだ、まあ前回までの爆裂騒ぎを踏まえればそうなるだろうと思うのも仕方ないのだが。

 

「ええ、何とか。前回の件で大分懲りたみたいで暴走はあまりしなくなりましたね」

「そうでしたか。ああそう言えば報酬を渡して居なかったですね」

 

今回の依頼料ですと数万エリス分の札束と硬貨を渡され、それを受け取った。

 

「ありがとうございます。また爆発関係で似たようなクエストがあったら教えてください」

 

受付のお姉さんにお礼を言うと次の仕事への伝手を回して貰うよう伝えて二人のいるテーブルへと戻って行く。

今回のクエストで分かったのだがモンスターの討伐しないクエストも移動に時間が掛かるが危険が少なくリターンも大きい、爆発系の魔法は才能が無ければ使いこなせない上に消費魔力も多いので取得する人も少ないので供給が少ないらしい。戦闘面に関しては使いづらかったがこう言った感じのクエストならかなりの有用性が見出せそうだ。

なるべく鉱山や土方関係にこう言った感じでコネクションを使えばめぐみんビジネスが成立するのでは無いのだろうか。

 

「お帰りなさいって、何だか悪そうな顔をしていますね。嫌な予感がしますよ」

 

新しい可能性を見つけほくそ笑んでいると、それが表情に出ていたのかめぐみん突っ込まれる。

 

「気のせいだろう、ちょうど飯も来た所だし冷めないうちに食っちまおうぜ」

 

彼女の言葉をよそに運ばれて来た食事に手をつける。めぐみんは何故か不服そうだったが食事を口にするとどうでも良くなったのかガツガツと食いついた。

 

「めぐみん…行儀が悪いわよ」

「煩いですね…ゆんゆんは食べ物に困ったことが無いからそんな事が言えるのですよ。この世界は弱肉強食、油断していると無くなってしまいますよ」

 

行儀を咎めるゆんゆんに対してめぐみんは煩しそうな表情をした後にヒョイっとゆんゆんのオカズをこっそり掠め取った。その手付きは実に鮮やかでもしかしたら盗賊の職業適性を思わせる位だった。

 

「え、ちょっと待ってそれ私が最後に食べようととっておいた奴‼︎」

 

視線を戻し、自身の食事のメインを奪われた事に気づきめぐみんの方向を向くが時すでに遅し、メインのおかずはすでに彼女の口に中に入ってしまっており取り返しがつかない状態になっている。

 

「あぁぁぁぁ‼︎めぐみーん⁉︎なんて事してくれるのよ⁉︎」

 

彼女の慟哭と共にめぐみんに抱き付くが既に食事を終えていたのか、体を丸めて防御の姿勢をとりゆんゆんの攻撃を耐える。

 

「油断しているゆんゆんが悪いのですよ。もし此処が私の実家でしたらゆんゆんはオカズどころか主食のご飯すら奪われていますよ」

 

めぐみんは一体どんな家庭環境に育ったのか不憫でならない、そして二人は同級生だそうなのだが此処まで生活の質に差が出るのだろうか?確かゆんゆんは族長の娘と言っていた事を思い出すにきっと大切に甘やかされて育てられたのだろう。俺もよく弟と色々オカズを奪い合って親に怒られた記憶がある。

 

「あぁ‼︎煩いから静かに食べろよ‼︎」

 

一応リーダーなので二人を止める。このまま行けばいつもの様にゆんゆんがめぐみんに泣かされる所までのお約束になってしまう。

俺が注意するとピタリとめぐみんが止まり、勢いが残ったゆんゆんがめぐみんの後ろへと転がって行った。

 

「カズマ…貴方にも食事の厳しさを教えて差し上げましょう」

 

彼女はそう言うとヒュッと物凄い速度で箸が俺のカエルの唐揚げ目掛けて進んでくる。

しかしそれをめぐみんの手首を掴む事で難なく防ぐ。恐ろしく早い動きだよ、俺で無ければ見逃しちゃうね。

 

「何ですと⁉︎」

 

止めらる事を予想していなかったのか驚きの声を上げる。

 

「甘かったな、兄弟で取り合ったのはめぐみんだけじゃ無い事を教えてやろう」

 

ビシッと二人共構えを取る。

此処から先は少し動きを間違えるだけでやられる。めぐみんにデメリットがないのが腑に落ちないが此処は人生の先輩である俺が生きる厳しさを教えてやらないと行けないのだ。

 

「じゃあ行きますよ‼︎」

「おう‼︎かかってこいや‼︎」

 

その日の夜酒場には必死に他人の食事を奪おうとする少女とそれを防ぎながら必死にかきこむ少年とオロオロとどうやって止めようか困っている少女の姿が見えた。

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