この女神の居ない世界に祝福を   作:名代

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すいません。12月は忙しいので投稿が遅れるかできない時が出てきますm(__)m


カズマの日常7

朝になり現在広場にて彼女を待っている。

時間からしてそろそろ来るだろう。今回めぐみんには待機と言う名の自由時間を与えている、もし何かあった時に店の中で爆裂魔法なんぞを放たれた場合にはこの街を追い出されかねない。

 

「お待たせしました。遅くなってすいません」

 

約束の時間よりまだ5時分前にも関わらず彼女が謝りながらこちらに向かって走ってくる。

 

「別に走らなくても良いぞ、集合時間前なんだし」

 

肩で息を切らしている彼女を宥めながら地面に置いておいたバックを持ち上げ肩に掛ける。中には何も入っていないが今回尋ねるウィズは現在道具や雑貨を売っているらしいので、何かあったらこれに入れて持って帰る予定だ。

 

「そう言っていただけると…私も…」

「いいから、息整えてから喋ろ」

 

ゼェーハーしている彼女が落ち着くのを待ち、落ち着いたのを確認したのでウィズの店に向かった。

 

「魔道具店って書いてあるし。ここがそうか?」

 

場所は街の商店街の奥の方に位置しており、特に目立つわけでも隠れ家的な雰囲気を纏っているわけどもなく普通の店に並んで開かれていた。

 

「多分そうじゃないですか?ウィズって書いてありますし」

 

間違えたら恥ずかしいので二人で店の周りを眺める。扉のガラスを覗くと、中のの様子が見え久しぶりなので自信が無いがウィズらしき人が確認できた。

どうやらこの店で間違いはない様なので扉を開き中に入る。

 

「いらしゃいませ…あれ?カズマさんじゃないですか。お久しぶりですね」

 

中に入ると彼女は俺の事を覚えていた様で、懐かしむかの様に相手をする。

 

「ああ、久しぶりだな、それで来て早々悪いんだけどこの前言っていたスキルを教えて貰う約束なんだけど今からで大丈夫か?」

「ええ大丈夫ですよ。ちょうど今はお客さんも居ませんし」

 

さささどうぞっと、入り口の横に置かれたテーブルに案内され、ウィズはお茶を出す為か店の奥へと消えていった。

 

「この調子なら大丈夫そうだな。店の中を見るに別段変な所もない様だし、ただの思い過ごしで済みそうだな」

「その様ですね…すいません私の考え過ぎだったみたいです」

 

椅子にもたれかかったままゆんゆんに話しかけると申し訳なさそうにそう言った。別に責めるつもりは無かったがシュンとした彼女を見ると何か俺がいじめた様で胸が痛い。

 

「しかし変わったものが沢山あるな、ゆんゆんから見てこの魔道具店は普通なのか?」

 

今まで色々な道具屋等に行ったがこの店はそれなでと違った異様な雰囲気と言うか、他とは違う強烈な個性な様なものを感じた。

 

「確かに見て見れば他所では見たことのないものばかりですね。でもマナタイトとかメジャーな物も色々ありますね、後は…」

 

そう言いながら彼女は自分のわかる範囲で商品の説明を始める。店には個性が出るというがどうやらこの店は突出しているらしい、だがフランチャイズやチェーン展開等で統一された店などを見てきた俺からすれば新鮮で面白そうだった。

 

「お待たせしました。お茶入れましたので良かったらそうぞ」

 

コトっと俺たちの前にお茶を差し出される。

ありがとうと礼を言いながらお茶に口をつけると、ウィズが話を始めるが。

 

「それでどのスキルがいいですかね…」

 

と悩み始めた。流石に全部を教えるには時間がかかり過ぎるし、習得が難しければ難しいほど冒険者の俺にかかるスキルポイントの負担は増大するので、手頃に覚えられ尚且つ汎用性が高いものに限定される事になる。

 

「あ、それではコレなんかはどうでしょうか?」

 

ポンと彼女が閃いた様に手を叩く。

 

「では、申し訳ないのですがゆんゆんさん少し手伝って貰えませんか?」

「え、私ですか?」

 

突然指名された事に驚きながらも仕方無しにゆんゆんが立ち上がる。どうやら他人に対してアクションを起こす事で発動するので俺以外の相手が必要になる様だ。

 

「では、腕を出してもらって良いですか?」

「え…あ、はい」

 

おずおずと差し出されたウィズの手を彼女が不安そうな表情を浮かべ握る。

 

「別に痛く無いので大丈夫ですよ。ちょっと魔力を頂くだけなので」

「え?魔力を?え?何されるんですかわた…きゃぁぁぁぁぁぁ⁉︎」

 

何されるか分からない恐怖にキョドりだすゆんゆんに対してウィズは容赦なくスキルを発動させ、彼女のは悲鳴を上げながら膝から倒れ出した。

 

「だ、大丈夫ですか⁉︎」

 

バタンキューと倒れるゆんゆんを受け止める。先程の発言からして如何やらゆんゆんから魔力を吸い出した様だ。

 

「…如何やらやり過ぎてしまったみたいですね。今までモンスター相手で常に全力でしかやったことなかったので加減を間違えてしまいました…」

 

奥の部屋に案内され、ゆんゆんをそこまで運び寝かせるとウィズは謝罪した。

 

「いえ、別に命に別状が無ければ大丈夫だよ。頼んでいるのはこっちだし」

 

全くウチのエースに何かあったら如何すんだと言いたくはなったが彼女に非は無いのでやめておく。

 

「そう言って頂けると私としては助かります。それでは気を取り直してスキルについて説明しましょうか、今回のスキルはドレインタッチと言いまして触れた人の魔力とか生命力を吸い取る事ができる事と逆に送る事もも可能です」

 

そう言いながらゆんゆんに触れると土気色だったゆんゆんの表情がみるみる戻っていった。如何やらウィズによって吸い取られた分の魔力を戻された様だ。

 

「どうですか?冒険者カードの方にスキルが表示されていると思うのですけど」

「ああそうだったな」

 

忘れてたと言わんばかりに彼女に促されるまま冒険者カードを取り出して習得スキルの欄を確認すると、そこにはドレインタッチの名前が表示されている。必要スキルは予想と比べてそれほど高くは無いのでその場で習得する。

 

「う…う…ん…は⁉︎私は一体何を」

 

ゆんゆんが目を覚ます。如何やら先程までの事を覚えていないのかボーとしている。

 

「おう目覚めたかゆんゆん。ウィズがスキル使おうとしたら貧血で倒れたらしいぞ」

「そ、そうだったんですか…すいません迷惑かけてしまって」

 

殊の顛末を細かく話すと話がややこしくなりそうなので、ウィズにアイコンタクトして頷いたのでごまかす事にした。

 

「それでスキルは如何なったのでしょうか?」

「ああ、それなら問題なしのバッチリだ」

 

グッと親指を立てる。

 

「それでしたらよかったです」

 

ホッと息を吐き肩を撫で下ろし、新しく淹れられたお茶を受け取り口をつける。

 

「すいません、お客さんがいらした様なので私は一度店に戻りますね」

 

飲み終えた後のコップを回収してウィズは表の方へと走っていった。商品の在庫が沢山あった為繁盛していないのかと思っていたが如何やらそうでは無いらしい。

 

「で、どんなスキルを習得されたのですか?」

 

念の為というか単純に興味があるのか聞いて来る。しかし正義感の強い彼女に果たして教えて大丈夫なのだろうか?一抹の不安が残るが連携するにあたって何かあっても嫌なので此処は素直に教える事にする。

 

「んー何と言ったら良いか…簡単に言えば相手から魔力を分けて貰う様な感じの力だな」

 

言葉を慎重に選びドレインタッチについて説明を始める。紅魔族は知力が高いので余計な事を言うと勘付かれる危険性がありウィズとの間にわだかまりが生まれない様に配慮しないといけない。

 

 

 

説明を終え彼女に語弊なく教える事に成功したが、あれから時間が経つがウィズが部屋に戻ってこない、何かトラブルでもあったのだろうか?

ゆんゆんに待つ様に伝えて表に向かう。先程の部屋と商品が置かれているスペースには一本道の廊下と暖簾で区切られているので此処から中の様子は分からないが、ウィズと歳をとった男性の声が聞こえて来る。

どうやら話途中の様だが、声のトーンが何時もの談笑の時の物とは違い真剣味が混じっていた。

 

「どうかしたのか?」

 

暖簾を潜り店の中に出る。店のカウンターを挟む形でウィズと誰かは分からないが初老位の男性が立って話をしている。

男性の方は何やら設計図の様な物を持っているので建築か不動産関係などだろうか、どちらにせよこの魔道具店に何の様だろうか?

 

「あ、カズマさんゆんゆんさんは大丈夫そうでしたか?」

 

俺に気づいたウィズが一旦話を止め俺の方向へと振り返る。

 

「ああ、お陰さまで大丈夫そうだよ。で、何の話をしてたんだ?こっちまで声が聞こえて来たぞ」

「それなんですが…」

「それについては私が」

 

ウィズが話を渋っていると、痺れを切らしたのか前にいた初老の男が話を始める。

話を聞くと、この方は不動産を営んでいる方で今回此処を訪れた理由はウィズの能力を見込んで幽霊が住み着いて怪奇現象が起こる屋敷を御祓して欲しいそうだ。だが、しかしウィズが言うにはその霊は昔屋敷に住んでいた貴族の隠し子で特に実害も無くただそこに居るだけなので、何か害意を持って近付かなければ何も無いらしいので断っているらしい。

確かにそこに取り憑いている霊にとってはそこに住んでいた先人なので追い出される筋合いはないが、その管理者である初老の爺さんからしたら迷惑その上ない話だ。

 

「お願いしますよ、このまま屋敷の手入れができませんと屋敷がどんどん傷んでしまって価値が下がっていってしまうのですよ」

「そんな事を言われましても…あんなかわいそうな子を消し去るなんて私にはできません」

 

そして話は再び平行線を辿る。どうやら爺さんが訪れるのは初めてでは無いらしく、数年前に一度頼んでウィズが様子を見てからこうして機会が有れば伺っているらしい。

 

「でしたら住んで頂くのは如何でしょうか?家賃は免除しますので住んで頂いて多少で良いので手入れをしていただけないでしょうか?」

「それも困ります‼︎」

 

仕方無しに爺さんは妥協案を提示し始める。御祓が駄目ならせめて屋敷が劣化しない程度に手入れをして欲しいのだろう。しかしウィズにも家というか住み込みなのか分からないが住む場所があるのだろう、彼女が首を縦に振ることはなく。

 

「あの…」

 

ふと、とある事を思いついたので、二人の話の間の割って入る。

 

「何でしょうか?」

「もし良ければですけど俺が住みましょうか?こう見えて冒険やってますので退魔魔法なんてお手の物ですよ」

 

子供の幽霊なら何かあってもターンアンデッドで祓う事が出来そうだ。日本とは違いこの世界では幽霊に対してアクションを起こせる為か不思議と恐怖心が無くなっているのだろうか?

多少の事に目を瞑ったとしても家賃無しで住む場所を手に入れる事は魅力的だった。

 

「それは本当ですか?」

 

予想外の俺の発言によりびっくりした様に爺さんは目を開き俺の手を取って握手する。

 

「ちょっと待ってください‼︎あの子を成仏させるつもりですか⁉︎」

「そうだけど?駄目か?」

「駄目って訳では無いですが…」

「大丈夫だって、危害を加えてこなければ何もしないって」

「本当ですか?」

 

何やらあの屋敷に住んでいる幽霊に思い入れでもあるのか、幽霊に退魔魔法を使用する事を止めようとして来る。

俺としてはどっちでもよかったのだが、何も無ければ何もしないと約束し爺さんの事務所に向かった。

 

 

 

 

 

それから簡単な手続きを済ませ、屋敷に向かう。本当は俺一人で独占しようと思ったのだが、何故かゆんゆんとめぐみんもついてくる事になってしまっている。如何やら一人で幽霊屋敷に住む事を心配してくれている様だった。

 

「此処が例のお屋敷ですか?私が思っていたよりも随分と大きな場所ですね。まあ私としては広い自室が頂ければ問題はありませんが」

 

ついて早々にめぐみんがそう言った。現在めぐみんはゆんゆんの借りている部屋に居候している状態にある。クエスト報酬を山分けしているので部屋を借りれるとは思うのだが、ゆんゆん曰く実家に仕送りをしているらしくあまり自分の為にお金を使わないらしい。

 

「ゆ…幽霊か…何もしなければ被害は無いって言っていましたけど、もしもの時は私の魔法でどうにかならないでしょうか…」

 

ゆんゆんは単に仲間外れになりたくなかったのでついて来た様だ。しかしこの間のアンデッド退治は大丈夫だったのに何故こんなに震えているのだろうか。

 

「とにかく中に入ってみようぜ、幽霊にはあって見ない事には分からないし、既に成仏しているかもしれないだろう」

 

怯える彼女を他所に中に入ろうとする。

 

「カズマさんは退魔魔法を使えるからそんな事が言えるんですよ‼︎」

 

納得出来ないのかピーピー文句を垂れながらめぐみんの後ろに隠れながら俺に続いてくる。

 

「ゆんゆん私に隠れるのは構いませんが、いざとなった時に私が使える手札は爆裂魔法だけですのであまり意味はありませんよ」

「だったら他の魔法も取りなさいよ‼︎」

 

めぐみんは呆れた様にそう言うが、足元を見ると少し震えているのがわかる。如何やら紅魔組に関してはあまり期待できない様だ。

 

 

門を潜り敷地内に入ると、長年手入れがされていなかったのか草木がこれでもかと言いたげに生い茂っていた。

 

「やはり、外から見える様に凄い事になっていますね。これはしばらく草刈りに時間がかかりそうですね」

 

後ろからめぐみんが面倒くさそうに言ったのが聞こえてくる。確かにこのままだと夏には虫達がパーティーを始めてしまいそうなので、寒さが本格的になる前に刈ってしまわなきゃいけないだろう。

敷地内を見渡すと前回の訪問の跡だろうか、草木が折られ分けられモーゼの海みたいな道が作られており、そこから玄関らしき扉が見える。

 

「この道で良さそうだな、俺が先行してやるから行くぞ」

 

分けられた道を進むと予想通りに玄関に辿り着く。鍵は預かっているので解錠し中に入る、外見が外見だけに屋敷のなかは広くまるで中世のお屋敷の様だった。

 

「しばらく誰も住んでいなかったと言われている割にはそこまで汚れていませんね。私はもっと蜘蛛の巣とか色々あって景色が灰色になると思っていましたが」

 

キョロキョロと辺りを見渡していると気づいた様にめぐみんがそう言った。確かに中は予想よりも荒れてはいないが、見渡せば埃が積もっている箇所が多々ある。

しかし、管理人が言った様な年数放置されていたとは思えない位には綺麗だった。

玄関から出てすぐの部屋にラウンジの様な広い部屋にたどり着いた。共用スペースに当たるのか壁には暖炉が掘られていたりソファーや大きなテーブルなどが設置されている。

 

「このくらいの汚れでしたらすぐ片付きますね」

 

部屋に着くと、よっこいせとゆんゆんは背中に背負っていた大きな鞄を下ろす。俺はそれに指を指し。

 

「なあ、これって私物を全て詰め込んだのか?」

「いえいえ、さすがの私でも手入れのされていない屋敷に荷物を持って来たりしませんよ」

 

ガサゴソと彼女はカバンの中身を取り出していく。内容は単純で、洗剤や雑巾などの清掃道具が沢山仕しまわれていたようで、それらが部屋に並べられていった。

 

「此処までされるとゆんゆんの収納能力には脱帽だな。収納アドバイザーか何かなのか?」

 

並べ終わった洗剤などの掃除道具の量は多く正直あのバックに収まるとは思えないもので、ちょっと引いてしまった。だが、再び掃除道具を買いに街まで戻る必要が無くなったのでゆんゆんには感謝しかない。

 

「取り敢えずまだ昼頃だから暗くなるまで清掃だ。まずはこの部屋を掃除してその後は各自で個人的な部屋を決めてその部屋を掃除して終わったら風呂などの他の共用スペースを頼むな。あとお札の貼っている部屋には近づくなよ、幽霊になる前の子が住んでいた部屋だからな」

 

途中までウンウンと頷いていた二人だったが最後の言葉に反応してビクンと震えた。そんなに幽霊が駄目なのだろうか?殆どアンデッドと変わりがないじゃ無いか。

 

「とと、とにかくこの部屋から片付けましょう。ほらめぐみんも行くわよ」

 

如何やら汚れても良い服装に着替える為か二人は作業着の様な物を抱えると何処かに消えていってしまった。

そしてポツンと部屋に残されてしまったのでゆんゆんの残した掃除道具を手に取って掃除を始める。

やはり異世界だろうか、メラニンスポンジや界面活性剤などの特殊なものはなく90年代を彷彿とさせる様なものが並べられていた。折角の異世界なのだから某魔法使いの映画の様に魔法でパパパッときれいに欲しいものなんだがこの世界の常識は変に原始的な部分が目立つなと思わずにはいられない。

まずは軽く叩きをかけ、こぼれ落ちていったホコリを箒で掃いていく。前の住人が手入れを怠らなかったのか特に油汚れなどこびりついたものはなく、単に積もった埃を払っていく様な単純な清掃で済みそうだった。

 

「お待たせしました‼︎めぐみんが途中邪魔してきたので遅れましたがこれで始められます」

 

掃き掃除の佳境が終わった所で二人とも着替えが終わったのかラウンジに入ってくる。しかし途中で何かあったのかめぐみんが絶望した様な表情を浮かべていた。

 

「めぐみんは如何したんだ?なんか勝てない何かを見たようなそんな表情をしているけど?気分が悪いならソファーを綺麗にしてやるから横になるか?」

 

おおよその予想は着くが、なんか不憫に思えてきたので休ませようとソファーの埃を払う。こういう時に粘着テープの付いたローラが有れば良いのだが…。

 

「あ…大丈夫です。何時もの事ですから…何時もの…事…はぁ」

 

大きなため息を吐くと、彼女は掃除道具を持ち上げ埃を掃き出した。その彼女の背中には哀愁の様なものが漂っており敗北者の様だった。

 

 

 

 

 

 

それぞれの部屋の掃除が終わり、共用部分の他の皆は掃除に入っている。やはり屋敷と言った所か部屋が沢山あり、とても3人で住む様な所では無いくらいに広いので果てがない様に見える。しかし住む範囲を決めて掃除すればそこまで時間のかかるものではない。

話は少し変わるが、住むにあたってウィズから条件というかお願いを受ける。内容は三つに分かれておりそのうちの二つは簡単なんだが、最後の一つはこの札の貼られた部屋を掃除するというものだった。

 

「はあ…」

 

思わずため息が出る。二人にも協力を頼んだのだが初めて見るくらい拒否され、ゆんゆんにはずいぶんと遠回りな言い方で躱された。別に怖い訳ではないがウィズに退魔魔法が禁じられている以上魔法に関しては丸腰で挑まなくてはいけなくなってくる。バケツには掃除道具が入っておりこれで対応しなくてはいけない。

覚悟を決めドアノブを捻り扉を開ける。さて鬼が出るか蛇が出るか、どんな事になっても幽霊関係なら最終的にエリス教のアークプリーストが居るので大丈夫そうだろう、しかし中は如何なっているのだろうか?何処かのホラー映画の様に呪の文字や殺してやるなどの呪詛が刻まれていなければ良いのだが。

しかし、そんな俺の考えを裏切る様に中の景色はサッパリしており飾りすぎず落ち着いた、まるで年頃の少女の様なシンプルな部屋だった。

しかしながら部屋は埃が凄かったので窓を開き空気を入れ替えて、なるべく配置を変えない様に掃除を始める。某ホラー映画では部屋の家具を動かして呪われたという話があると聞いたことがある、可能性は低いがゼロではないので現状を維持しつつ埃を払い、新しく卸した雑巾で部屋を拭いていく。

 

「ありがとう…」

 

掃除がひと段落した頃にボソっと遠くの様な近くの様なよくわからない距離から何かが聞こえた気がした。

部屋を見回りやり残しが無い事を確認したあと部屋を後にする。特に何も無いなと全身を確認し念の為に自身に退魔魔法を掛けるが特に反応がなかったので多分大丈夫だろう。残りは草刈りと他の使用しない部屋になるだろうから今日はこの辺りにして荷物を宿屋から運び出す事にしよう、もう暗いし。

 

 

 

 

 

ラウンジに戻るとそれぞれ作業が終わったのか食卓用だと思われるテーブルに着席し談笑していた。そしていきなり現れた俺の姿を見てびっくりしたのか体を跳ね上げている。

 

「わわわ…何だカズマですか⁉︎全く驚かさないでくださいよびっくりするじゃ無いですか」

 

椅子から転げ落ち尻餅を着きながらめぐみんはそう言った。そしてゆんゆんは一瞬にして姿が消えたと思ったらテーブルの下に瞬時に隠れていた様でテーブルクロスの下から服の裾がはみ出ていた。

 

「なんだよじゃねえよ…声を掛けなかった俺も悪かったけどそこまで驚くことは無いだろう…あとめぐみん早く体勢を戻せよパンツ見えてるぞ」

 

頭をかきながら面倒臭そうに指摘するとささっとワンピースの裾を下に下げる。

 

「どこ見てるんですか⁉︎変態ですか貴方は⁉︎」

「いやいや、見せつけてるそっちが変態だろ」

 

言いがかりに対して抗議しつつ、掃除道具を棚にしまっていく

 

「ゆんゆんもいつまで怯えてないでいい加減出てこいよ。隠れたとしてもその様子じゃ意味ないからな」

 

俺が指摘するとのそのそと罰が悪そうにテーブルの下から彼女が罰が悪そうに出てくる。

 

「これから俺は一度荷物を取りに宿屋に向かうけど夜はどうする?各自で済ますか酒場に行くか?」

 

それとも俺が作ろうか?と聞こうとしたがそうすると二人のことだからなんだかんだ言って最終的に料理当番を押し付けられそうなので押し黙る。

 

「そうですね…各自で済ますのも味気ないですし、キッチンには料理道具はありませんし、暫くはいつものように酒場で食べるのがいいのではないでしょうか?」

「私もそう思いますね、掃除したと言ってもまだ埃っぽいですし酒場でいいのでは?」

 

二人ともいつものように酒場で済ませたいらしく、各自荷物を運び次第に酒場に集まる事になった。そこからは特に何もないいつも通りの食事をすませ、屋敷にもどると各自持ち込んだ家具などの最終調整を済ませる為に部屋に戻りそのまま一夜を過ごす事になった。

 

 

夢を見た。

とある貴族とのメイドの物語。

主人公はその二人の子供、その子供は本来生まれてはいけない存在で隠されるように屋敷に幽閉され暮らしていた。

それでもたまに現れる親との過ごす日々に満足していた。

しかし、父親が病に倒れた、助かる見込みは無いらしい。そこから少女の人生は変わり始めた。

様々な出来事に巻き込まれて耐えていたが、やがて少女は父親と同じ病気にかかり床に伏せっていき、その人生に終止符を迎えた。

今ではこの屋敷に住み着きこうして…

 

 

 

 

ふと目が醒める。本来なら一度眠ったら起きないはずなのだが、自然に寝ぼける事なくスッキリした状態でこうして覚醒する。

何かよくわからない違和感を感じベッドの横を見ると、そこには金髪の少女が座っているような浮いているようなそんな感じでそこに居た。

 

「ーっ⁉︎」

 

ビックリしてのけぞろうとしたが金縛りにあっているのか体がベッドに縛りつけられたように固定され動けない。

 

「心配しないで…挨拶しに来ただけだから」

 

実際には声になってないはずなのだが念話なのか頭の中に響くようなそんな感じがした。アークウィザードのスキルに似たようなものがあったがそれに近い物だろうか?

抵抗できない以上何しても無駄なので逃げるのは諦めて色々試す事にする。まずはあの子に向かって念話が出来るか試す、やり方は分からないので取り敢えず相手に伝われと何か適当に少女に向かって念を飛ばすイメージをする。

伝われ…伝われ…つ・た・わ・れ⁉︎

 

「え?ファミチキくださいって何?」

 

如何やら伝わった様だ、彼女へのコミュニケーションは念じるだけで伝わるそうだ。

 

「で?なんの用って聞くのは流石に野暮だよな…ここは君の家だしな。でも管理人の手に渡っている以上は此処はもう俺の家でもあるからな出て行ってくれは流石に無理だよ」

 

取り敢えず俺に被害は無さそうなので会話を始める。

 

「ううん、出て行けとかそういうことじゃ無いの。ただ私の事を追い出さそうとせずに、この屋敷に住む人は珍しかったからお話してみたかったの」

 

如何やら彼女は夜の話し相手が欲しかったらしい。幽霊と言っても女の子と言った所だろうか、なかなか可愛い幽霊も居たものだと思う。

 

「それだったら大歓迎だよ。けど明日は朝から草刈りをしなくちゃいけないから長くは無理だからな」

「うん」

 

こうして俺は彼女と夜を語り合ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして迎えた朝、どうやら俺は途中寝てしまった様で朝起きると既に彼女の影はなかった。成仏した訳では無さそうだったがこれで良かったのだろうか?ウィズの願いの一つは冒険話を屋敷で楽しそうに話すなのでこれで大丈夫だろう。

取り敢えず3人で庭の草木を刈り綺麗にしていく。

そして三つの目のお願いの要である彼女の墓場を見つける。此処を掃除しようと言ったが二人は気味悪がって近付かないので、水をかけ墓石の苔を剥がして行く。

そして現れた名前は昨日の幽霊が名乗った名前と同じ物だった。つまり此処は彼女の墓になる。

ウィズの最後のお願いはこの墓の清掃だった。掃除をしているとアンデッドがわいてくるとかそんなギミックがありそうだったがそんな事は無さそうだ。

 

 

「ちゃんと私との約束守ってくれているみたいですね」

掃除が終わる頃に突然後ろで声がきこえ、勢い良く後ろを振り向くとそこにはウィズが立っていた。

 

「うわぁ⁉︎居たのか‼︎びっくりしたぞ」

「そんなにビックリしなくても…」

 

良くも悪くも彼女はリッチーで死んでいるので影が薄いのだろうか

 

「で、何か用か?話だったら中でゆっくりしながらしようぜ、ゆんゆんがお茶入れてくれてるみたいだし」

「いやお構いなく、私は様子を見に…」

 

ウィズが話を始めようとした時だった

 

 

 

「緊急、緊急冒険者の皆さんは至急ギルドへ集まってください。繰り返します…」

 

ウィズの声をかき消す様に街全体に警報が鳴り響いた


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