この女神の居ない世界に祝福を   作:名代

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遅くなりました。前みたいに週一では書けなくなりましたが見て頂ければと思います。


デストロイヤー襲撃2

「どう言う事ですか⁉︎何で私が作戦から外されているのですか?あの様な巨大要塞と言ったら爆裂魔法でドカーンじゃないですか‼︎」

 

ゆんゆんの説得が終わり一安心していると、横から不満なのかめぐみんが乗り出して来る。

これからウィズの説得だと言うのに紅魔族の血筋だろうか、どうも此奴はでしゃばって来る傾向にある。普段の作戦なら何だかんだ言ってゆんゆんが後処理してくれるから良いのだが今回に限ってはそれも無理だろう。

 

「あのな…今回の作戦でのめぐみんの役割はどうにもならなくなった時に、その爆裂魔法で軌道をズラしたりとかする最終秘密兵器なんだから大人しくしていてくれよ」

「そそそ、そうですか⁉︎私が…最終…兵器‼︎………まあ…それでしたら仕方がありません‼︎紅魔族最強と謳われたこのめぐみん‼︎その役目をしっかりと果たそうじゃないか‼︎」

 

グググっと掴みかかって来るめぐみんを引き離しテーブルに備え付けられたベンチへと押しやって行きながらそう言いかけるとカッコ良くポージングした後に案外すんなりと座ってくれた。

どうやら最終兵器というワードが聞いた様だ。

この二人とパーティーを組んではや数ヶ月、彼女達をコントロールする術を少しずつだが分かり始めてきた気がする。まあ紅魔族に限るのかも知れないが、それぞれの心に響く様なジャンルのワードを文章に組み込んでいけばすんなりときいてくれるのだ。今ところ勝算は五分五分って所だが…。

それから最終兵器と言う言葉を小声で反芻しながらそわそわしている彼女を他所目にウィズの元へと向かう。流石年長者なだけあってか、先程と変わらずに落ち着いた様に立っていた。

 

「…と言う訳だから、一応許可を貰っておこうと思ってな。それでウィズはこの作戦に賛成か?」

「えぇ私は特に構いませんよ」

 

どうやら、特に問題はなかった様で安心する。まぁ彼女の意見でこの作戦が決まったのでそうして貰わなければ困るのだが。

これで犠牲となるメンバーの了承は取れたので、作戦は第二段階となる。大層な事を言っている様だが結局は配置について説明するだけなんだが。

 

 

 

 

一通りの作戦に必要な配置を済ませ、準備はおおよその詰めに入る。

おおよその地形はギルドに備え付けられている地図を眺めて把握したが、実際にその場所に来てみると予想以上にその通りだったので感心する。

配置としては向かって来るであろうデストロイヤーの進行方向に対して直線的な線を引き、街と交わる地点よりやや外側にゴーレムなどのクリエイターが生成する兵器を配置させ、戦士などの前衛はその後方に待機させ、後衛は其処よりも側面に接近した要塞を囲む様に配置する。

そして俺達はそれよりも前衛に配置し、要塞の進行に合わせて人間ロケットを行える様にこれから準備を急ぐと言う状況だ。

 

「はぁ…自分で言っておいて何だが、爆弾岩の爆発の衝撃で飛んで行くとかどう考えても無理があるだろ…」

 

行く途中、考えれば考える程にこの作戦の無謀さに頭が痛くなりそうになる。

 

「やっぱり今からでも中止にして別の作戦にしませんか?」

 

そんな俺の漏れ出た心の声を聞いたのか、ゆんゆんも疲れた様な呆れた様な表情でそう言った。

 

「流石にそれは時間が無いだろう、それにもう考えたく無い」

「そうですか…」

 

キリッと投げやり気味にそう言うと、彼女も察しがついていたのか二人揃って項垂れる。どうせだったらミツルギのチートがデストロイヤーを結界ごと吹き飛ばせるくらい凄いビームの様な物が出る仕様だったら良かったのに、と半分八つ当たりに近い目線を奴に向ける。

 

「何か嫌な視線を感じるんだけど…それと作戦決行が近いのだからそんなネガティブな事は言わないでくれるかい?こっちの士気にも関わるのだけども」

 

如何やら俺の八つ当たりは無事奴に届いた様で、物凄い愛想笑いの様な微妙な表情を浮かべながら此方に苦言を言う。

ちなみに俺とミツルギは支援魔法を掛けながら木製の板と工具を運んでいる。

そんなこんなで配置の場所である丘に着くと、既に先回りしていたのかダクネスが爆弾岩を数体並べて待機していた。彼女の姿を見るに鎧の下に着るアンダーが一部煤けていることからそうやら一体位か爆発したのだろう。しかもそれでいて彼女自身の肌には傷一つ無いことも窺える事から、先程の耐えれる発言もあながちただの強がりではないのだろう。

 

「どうだこの数を‼︎わざわざ近くの小さな炭鉱まで行って優しく運んで来たのだぞ!!」

「おぉ良くやったな」

 

ドヤァと清々しいほどのドヤ顔をかます彼女に適当な返事を返しながら先程まで運んでいた木材を下ろし俺達を載せる箱を組み立て始める。

 

「はぁ、これから街を掛けた一世一代の勝負があるって言うのに何でこんな事をしないといけないんだよ」

 

自分で考えた作戦なのだが、組み立てて行くうちに段々とめんどくさくなってきたので、取り敢えず一緒に組み立てているミツルギに愚痴る。

 

「あのね…この街の命運が掛かっているこの状態で良くこんなことが言えるね…もっと緊張感と言うものをだね…」

 

適当に何となく愚痴った独り言の様な感じだったのだが、ミツルギにとっては真面目に言った様に聞こえた様で説教が飛んでくる。何だろうか、此奴は一々人の言っている事にマジで回答しないと気が済まないのか?これから何回かは関わる気がするから適当に流して欲しいのだけども。

 

「あーはいはい」

 

適当に返事をしつつも組み立てる手を動かす。作業自体は至ってシンプルで四角の板を床にして四方を囲む様にするだけなのだが、爆破の衝撃に耐え得るだけの強度を出す為に周りの補強を強めないといけない為、こうして色々と型に沿って組み立てている訳である。

他にも途中に多少は方向変換出来る様に船の底面のような舵を取り付ける。まあこれは使えば飛ぶ際の出力が落ちてしまう欠点もある為時間があればつけようと言う話になってはいるが…

支援魔法を掛けているとはいえこれが中々めんどくさい、ステータスの差なのだろうかミツルギはテキパキとしているが俺は精一杯の力でやっと持ち上げられる位なのだ。

 

「おーい、ゆんゆん手が空いてるなら手伝ってくれよ‼︎」

 

遠くに居るゆんゆんを呼ぶ。此処に着いた際に特に作戦は決まっていなかったのだが、暗黙の了解なのだろうか男は力作業と言わんばかりに女性の二人は見張りに徹し、俺達はこうして黙々と組み立てに勤しんでいるのだ。

 

「何でしょうか?デストロイヤーでしたらまだ見えませんよ」

 

見張りをウィズに任せて彼女が此方にむかってくる。

 

「なあ、ゆんゆん冒険者カード見せてくれないか?これからの作戦にあたって確認しておきたい事があるんだ」

 

適当なそれらしい言い訳を彼女にしつつも彼女から冒険者カードを提示させようとする。

 

「え?いきなりなんですか…別に構いませんけど、何か悪い事考えていませんよね…」

 

そう言って彼女は俺に素直にカードを差し出した。何時もなら察しのいいめぐみんが止めるのだが、今回は町の外壁の上に待機して貰っている為今此処には居ない。

 

「サンキュー」

 

パシッと彼女から冒険者カードを奪い取ると其処に記されたステータスを確認する。

 

「やっぱり俺よりステータス高いじゃねーか⁉︎」

 

叫びながら彼女の冒険者カードを地面に叩きつける。カードは地面にバウンドしながら後方へと転がって行く。

 

「あー⁉︎私の冒険者カードが⁉︎」

 

彼女は慌てながらカードを拾いに行き、半泣きで俺に訴えかける。

 

「何するんですか⁉︎カードを無くしたらどうなると思っているのですか‼︎」

「どうもしねーよ‼︎全く何で最弱な冒険者の俺がこんな力作業しないといけねぇんだよ‼︎この中で低いと思ってたゆんゆんの半分もねぇーじゃねえか‼︎」

 

俺はこの世に蔓延る理不尽を代表するかの様にオーバリアクションで叫ぶ。側から見てこんな見苦しい奴は居ないだろう。

 

「え…カズマさんそんなにステータス低いんですか…首の無い人を倒したりしてたじゃ無いですか?」

 

俺の発言に意外だったのか驚いた様な表情を浮かべた後に少し残念そうな表情を浮かべる。

確かに俺は魔王幹部のベルディアを倒したが、それだけであって他のモンスターを討伐したりはしていないのである。それには仕方ない理由があるのだ…雑魚はゆんゆんが魔法で蹴散らし、大型モンスターはめぐみんが爆裂魔法で吹き飛ばしてしまうので、基本的に俺は彼女らの詠唱の間の時間稼ぎと支援魔法でのサポートがメインになってしまう。そうなってしまえばクエストで得られる経験値は彼女らのものになってしまい俺の元には来ないのである。

 

「と言うわけだゆんゆん君。君にはこの力作業を手伝っていただこうじゃ無い。何、気にする事はないさステータスの低い俺でも出来たんだ君ならば更なる効率が期待できそうだ」

 

ふはははは、と高笑いしながらゆんゆんの肩をガッチリ掴み、出来かけである箱の前へと彼女を引っ張って行く。途中抵抗を受けたが支援魔法を使っているためか何とか木材のある場所に着いた。

 

「はぁ…もう仕方ないですね、運ぶだけですから組み立てはお願いしますよ」

 

若干と言うか殆ど呆れながら彼女はため息を吐き観念したのか木材の置かれている場所に向き直る。

 

「あれ?」

 

これで大丈夫だろうと彼女に背を向けると素っ頓狂な声が聞こえる。

 

「何だ?まだ何かあるのか?」

 

説得に失敗したのかと思い後ろを振り向くと、其処にあった筈の木材は無くっていた。

 

「あれ?何で無いんだ?」

 

驚きつつも組み立てているであろう箱の方を見ると既に完成しているでは無いか。

 

「箱なら二人で痴話喧嘩している間に終わったぞ。全く私が居たから良かったものの本来なら…」

 

はぇ〜と二人で眺めているとダクネスが呆れた様に横から現れたと思ったら説明を始めた。すっかり忘れていたがそう言えばダクネスも組み立て班に混じっていた事を思い出した。ただいた場所が丁度死角だった為存在を忘れていたのだろう。

 

「成る程な、ありがとうな」

「すいません…ありがとう御座います」

 

適当に手を上げ礼を言いゆんゆんは丁寧にお辞儀をする。

 

「あの…一応僕もいるんだけど」

 

箱の影からひょっこりとミツルギが顔をだし、自分も頑張っているアピールをする。

 

 

 

 

 

 

「あっ、皆さん見えてきましたよ‼︎凄い速さですね」

 

箱を組み立てた疲れを取るためにストレッチをしながら休憩していると、ウィズが遠くに居るデストロイヤーを捕捉したのか此方に向かって来る。

箱は既に丘の先端にあたる場所に設置され、その後方には爆弾岩がスリープの状態で設置されている。爆弾岩は一応逃げ出したりし無い様にゆんゆん達により眠らされていたのだが、どうやら睡眠状態でも衝撃を与えれば爆発する様で、こうしてそのままの状態で置かれている。

 

「よし、それじゃあ向かうぞ」

 

先程までののんびりした雰囲気から一転し、皆真面目な表情で箱へと乗り込んで行く。念の為、前方には防御力の高いミツルギを配置し間にウィザードの二人、そして後方に俺がおり、その最後方にダクネスが少し分離した形で作られたスペースに盾で構えている。爆弾岩の爆発力を利用し飛ぶ算段なのだがこの急遽作られた箱が爆発に耐えられるとは思えないので彼女には爆破の威力はそのまま爆炎を防ぐ為の緩衝材となってもらう訳である。

 

「ダクネスさんは大丈夫でしょうか…」

 

箱の中に入りタイミングを見る為に要塞を眺めていると、不安そうにゆんゆんが言った。どうやら緩衝材役である彼女の事が心配なのだろう。

 

「心配は要らないんじゃねーの?なんだかんだ言ってベルディアの攻撃も耐えていたし、パーティーの盾役であるクルセイダーなんだからこう言った荒事にも耐えられると思うぞ」

「そうだぞ、カズマの言われるのは癪だが、こう見えて体は頑丈な方だ。爆発位耐えるのも朝飯前だ」

 

俺の言葉に横槍を刺す様に彼女が割り込んでくると、ドンと胸を叩きながら自身の防御力を誇示し出した。

 

「…そうですか?それは頼もしいですね…頑張ってください」

そんな彼女を見て安心したのかゆんゆんは視線を要塞へと戻して、襲撃に備える。

中々頼りになる事も言うんだな、と思いながらダクネスの方を向くと

 

「…ハァハァ…遂にこの爆発と対峙する事が出来るのだな…クゥー堪らん‼︎早く来るのだ…デストロイヤー‼︎」

何か小声で聞こえるが多分興奮しているダクネスがいた。そう言えばこいつはドMだったなと改めて実感したと同時にゆんゆんがそっぽ向いてる時で良かったと思うのであった。

 

 

 

 

 

ダクネスを含め仲間全体にに支援魔法を掛けながら要塞突撃に向けて備えていると、遂にその時が来てしまう。

作戦を考える際に何度も眺めたスケッチに描かれていた8本の足が遂に眼前に姿を見せる。

機動要塞デストロイヤーは聞いた話通りに蜘蛛の様な形状をしており、真ん中が本体の要塞でそこから左右4本の計8本の足が生えている。本体の前方にカメラがあるのだろうか幾つもの目玉を彷彿とさせる球体が幾つも張り巡らされている。

機能は多分それだけでは無いだろう、本体の上部には空型のモンスターを迎撃する為のバリスタだろううか、機関銃の様な物もいくつか設置されている。

 

「うわぁ…やっぱりデケェーな」

 

その予想以上に大きな巨体に慄きながらも何処か壁の薄い場所は無いだろうか探す。魔道大国ノイズの技術力はかなり栄えていたと聞く、つまり予算に関しては足りないなどと言う事は無いだろう。そして魔法で結界を張っているからと言って装甲板が薄いと言う事も無さそうだ、下方からは8本足、上空からはバリスタ、上からなら何とかなりそうだったが想像以上の装甲に思考が停止しそうだ。

トドのつまり最悪足を切り落とせば何とかなりそうとか思っていたが、あそこまでしっかりした作りなら3本落とした所で残りの4本で補うだろう。

 

「で、カズマ、君ならどう攻める。こう言うのは負けを認めるみたいで悔しいが僕にはサッパリだ。ドラゴンとかだったら手はなくは無いのだけど流石にここまでデカいのは初めてだ」

 

一応ミツルギなりに考えていた様だが、明確な答えは出てこない様だ。確かエンシェントドラゴンを討伐したと聞いたが、此処までの大きさではなかった様だ。

千里眼で視力を強化し外壁を眺める。自動で動くと言っても何も起きないとは限らないのはこの世界でも同じ、もしかしたら整備用の入り口があるかもしれないと眺める。

時間が経つごとに突入へのリミットが迫るが、それと同時に要塞の様子が近づくことでハッキリと見えてくる。それにより薄らだった装甲の模様までクッキリと目視出来る様になる。

そのせいか遠目では薄ら模様だと思っていたものが、何かの足場の様に出っ張っていたのが見える。つまり誰かがそこを渡る様に意図している事になる、理由はさっき考えた様に整備か交換か強化のどれかかそれ以外かわからんが何かの手掛かりになる可能性を秘めている事は確かだ。

足場の続く先を追いかけて行くとやがて装甲、本体の丁度側腹に当たる部分に扉の様な四角形の跡が見える。多分開けるには魔法の何かが必要になるのだが、その辺は二人の何方かの火力が何とかしてくれるだろう。

 

「あそこだ‼︎本体の丁度側腹側に扉のような物が見える‼︎其処に向けてくれ‼︎」

要塞の方角を指で指して説明するが、3人は千里眼が使えないのでイマイチ伝わらない。

 

「ダクネス‼︎今から俺の指示する方向にこの箱を動かしてくれ」

「分かった!!」

 

仕方ないので直ぐにポジションに戻りやすく力の強いダクネスに頼み、箱の方向と上下の角度をを変えてもらう。要塞との大まかな距離は千里目のズームの倍率から計算出来るとして問題は爆発の際にどれだけの出力が得られるかだ、中途半端だと届かない可能性が出て来る。ウィズの魔法で途中浮力を追加する事を思いついたが、それだと結界を破る事に問題が生じてしまう。流石のウィズも上級魔法を間髪入れずに発動する事は出来ないだろう。

しかたなしに此処は運とダクネスの頑張りに任せる事にしよう。あと船の舵はミツルギに任せる形になる、時間が余ったのでつけては見たのだがもしかしたら爆発の際に衝撃で吹き飛んでしまう可能性もあるので有れば良し程度に頭の片隅にでも入れておこう。

 

「カズマさんそろそろ来ますよ‼︎」

 

前方からウィズの声が聞こえる。正面を見ると殆ど目前に要塞が迫ってきていた。

 

「少し待ってくれ‼︎まだ距離が足りない」

 

さっきも言ったように爆弾岩の出力が分からない以上出来るだけ側に寄っておきたい。それに要塞のあまりの大きさに感覚が麻痺してしまっているのだろうが、地面を見ればまだまだ距離がある事を示すように道が見える。

 

「カズマ‼︎調整終わったぞ」

「よし、じゃあ今すぐ持ち場に戻ってくれ。距離はまだあるがあの速さだとあと1分も無い」

 

箱の角度を変え終わったダクネスを再び船の後方へと戻し盾を構えさせる。スキルに盾の効果範囲を増やす奴があるらしくそれを使用してもらい、彼女の背中を後ろから抑えながら片手を爆弾岩に向ける。

体勢をそのまま、首を後ろに向け要塞の距離を確認する。

 

「3、2、1…今だ‼︎」

 

タイミングを見計らい、着火の魔法ティンダーを解き放つ。小さな火炎球が爆弾岩に激突すると化学反応を起こしたように閃光を放ったと同時に前方から爆発音が聞こえ、それと同時に物凄い衝撃が正面から激突して来る。

ひとしきり衝撃に耐えきると、今度は浮遊感に襲われる。如何やら飛ぶ事に関しては成功したようだ。

 

「私はもう大丈夫だ‼︎後はそっちを頼む‼︎」

 

ダクネスの声にハッとする。このメンバーの中で突入場所が分かるのは俺だけだと言う事を衝撃で失念していた。このままでは軌道修正が効かずに何処か違う場所に吹き飛んでしまう。

慌てて前方を向くと眼前には巨大な要塞の甲板が広がっており、その光景に圧巻する。

 

「カズマ、僕はどっちに舵を切ればいいんだ⁉︎」

 

ミツルギに促されるまま千里眼で視界を広げ再び模様を辿りながら扉の様な四角形を探す。

 

「もう少し右だ‼︎一回転じゃなくて半回転位で回してくれ‼︎」

 

意外と俺の読んだ方向とのズレが少なく尚且つ出力も充分、多少ズレたがむしろ此処までいい条件が揃う事はこの先無いと思えるくらいに良好だった。

 

「了解だ‼︎」

 

ミツルギの掛け声と共に箱が傾き四角形の方へと向きを変える。急な方向転換に女性陣の悲鳴が聞こえるが何とか箱の縁を掴んで耐えているようだ。そして魔法の詠唱が途中で途切れるのかと思ったが、一度詠唱を終えればある程度の時間なら意識を集中させておけば維持できると前言っていた事を思い出す。

 

「今だ‼︎作戦通りウィズから頼む‼︎」

「分かりました‼︎」

 

俺の掛け声を合図にミツルギと位置を交代し、箱の前方に移動するや否、腕を振り上げ光の剣を生成する。

本来ならどっちでも良かったのだが、火力はウィズの方が上らしいので念を込めてに彼女を結界を抜ける為に先に出した。もしこれで駄目だったら上空に火炎球を飛ばして避難を勧告しなくてはいけない。

 

「ライトオブセイバー」

 

彼女の呪文を唱えると同時に生成された光剣を勢いそのまま振り下ろし要塞の装甲に激突する。本来なら魔法を弾くであろう要塞の纏った結界も彼女の圧倒的な魔力量に押されてか完全には弾き切れずに装甲にぶつかり続ける。

そして不幸中の幸いか、結界と魔法がぶつかり合っている事がうまく作用しているのか、箱は地面に落ちる事はなく装甲の横の位置を維持し続けている。だが、この魔法の応酬が終われば呆気なく地面に真っ逆さまになるだろう。

 

「ゆんゆん、魔法の準備頼む‼︎」

「は…はい‼︎」

 

ウィズが結界を破壊した程で彼女に魔法を発動させる様に指示を出す。此処からは時間の勝負になる、結果は如何なるかは分からないがウィズが結界を破るの待っていては間に合う物が間に合わなくなってしまうだろう。全てが上手くいくことを前提で指示を出しつつミスが起きた時に軌道を戻せる様に策を練り続けるのが定石だ。

手に汗握りながらウィズを見守る。足場の箱はぐらつき視界は弾かれた光で不良、結果はこの光が消えた時かウィズの声による伝達か分からないが、俺達に出来る事はこの状況で待つ事だけである。

そしてその時は訪れる。金属のカッティングの様な音が鳴り止み紙が破れる様な音に変わる、前方の閃光は消え可視化された結界の一部切り裂かれた様な光景になっている事が見て取れる。

どうやらウィズはやり遂げたらしい。しかもそれでいて彼女の表情に疲労は見えない、リッチー聞いてある程度実力が有るのかと思って居たが、どうやら化け物じみた存在らしい。

 

「ゆんゆんさん早く‼︎この筐体が落下します‼︎」

 

ウィズの声にハッとしたのか、我を取り戻したゆんゆんはウィズを押し除け前に躍り出ると遅れて魔法を発動させ光剣を装甲へとぶつけた。

やはり結界が丈夫な分、装甲もそれなりに厚い様だったが結界と比べると脆弱で彼女の一振りで破壊され横穴をこじ開ける。

 

「皆、飛び乗れ‼︎落ちるぞ‼︎」

 

装甲に穴が空き、彼女の光剣が解除され消えるのを確認次第要塞の中へと飛び乗って行く。幸い狙った部位が要塞の湾曲の上部分だったので飛び降りる形で中に侵入出来る。

ミツルギ、ゆんゆん、ウィズは前方の位置にいたので簡単に飛び乗れたが、俺は真ん中に居たため出遅れる。

 

「間に合ってくれ‼︎」

 

一歩、二歩、踏み込むが間に合わない事に気付く。

視界には間に合って安堵している二人と、俺が間に合わない事に気付いて驚愕と心配の入り混じった表情を浮かべた3人が映る。しかし、いらない事に対して頭の回転が早いと定評の俺がこの事態を想定していなかった訳は無く。

そっと腰に束ねて掛けてあった鍵爪付きロープを振り上げる要領で投げ、ミツルギの鎧の隙間にに引っ掛ける。

 

「うわ⁉︎一体何だ‼︎」

 

俺の状態を知らないミツルギがいきなり鎧に鍵爪を引っ掛けられ一人分の体重を載せられ、混乱と共にジタバタする。それを見たゆんゆんが紐ごとミツルギを押さえにかかる。

 

「落ち着いて下さい‼︎カズマさんが落ちちゃいますから‼︎」

 

急に抱きつかれる様な形で抑えられミツルギがフリーズする。あれだけ女性にたかられていた様だったが手を出していなかったのだろうと思いながら紐にぶら下がりながら助かった事に安堵する。

だが、それと同時に俺はとんでも無いことを忘れていた事に気付く。

 

「うあああああああああああああああああああああーっ⁉︎」

 

俺の後方から女性の叫び…ダクネスの断末魔が聞こえ辺りに鳴り響いたのだ。一応俺の考えでは俺よりも先にステップで先に行っている予定だったが、どうやら素早さ等も全て防御に振り分けていたらしく間に合わなかった様だ。

 

「ダクネーーーース‼︎」

 

腕に紐を巻き付け、上体を固定すると下を眺めながらダクネスを視界に入れ彼女が徐々に小さくなって行く様を何も出来ずにただ黙って見ていた。

 

「あぁぁぁぁl‼︎このまま落下したらどうなってしまうんだぁぁぁぁぁぁ‼︎」

 

しかし、彼女もその頑丈さに自信があるのか、自分が死ぬ可能性よりも地面に叩きつけられた時に感じられるマゾヒズム的快感に期待に胸を膨らませていた様だった。

 

「此処まで来ると病気だな…」

 

何だか心配した自分がバカだったと溜息を吐きながらロープを伝って上へと登って行く。

ゆんゆんのサポートに頼りながら何とか登り切ると千里眼を使い下を覗く。かなり見えづらいが上体を抱えながら悶えているダクネスが確認できる、どうやら何とかなったみたいだ。

 

「だだだダクネスさんは大丈夫なんですか⁉︎」

 

ゆんゆんは俺が地面を見るや否やミツルギを放り投げ俺の元へと掛けてくる。何だかんだ言っても彼女の事が心配な様だ。

 

「ああ…必要な犠牲…だったな…」

「え、えぇぇぇぇぇぇ⁉︎そんな…ダクネスさんが…」

 

俺の言葉にワナワナと肩を震わせるゆんゆん、何だかんだいってそれなりに交流はあったのだろうか彼女の喪失に動揺を隠せない様だ。

 

「まあ、嘘だけどな」

「……」

 

俺の一言にゆんゆんの表情が凍り付く。こういった現象は漫画だけだと思ったが実際にその音が聞こえてきそうなくらいにその時の彼女の表情はそれを物語っていた。

 

「ふう…どうなるかと思いましたけど大丈夫そうでしたね…まあダクネスさんはお気の毒でしたが無事なら何よりだと思います…」

 

俺の生存報告を聞いた後に彼女の無言の揺さぶりを受けその力強さに視界がグワングワンして後ろに倒れ、それに満足したのか彼女は何事も無かった様に振る舞った。

 

「全く君は何を考えているんだ‼︎ 」

 

どうやらミツルギの鎧にグラップルした事に対して不満があるのか文句を垂れてくる。

 

「まあ過ぎた事だし、あんま気にすんなよ…それにストレスは万病の元だからな。それにお互い無事だったんだこの事は綺麗に流さないか?」

 

ポンっとミツルギの肩に手を乗せ、慰めるかの様に誤魔化しにはかる。こう言った沸点の低い相手はまともに対峙しないのが一番だぜ

 

「はぁ…君と話していると、まるで僕が悪者の様になるのは気のせいなのかな…」

 

はぁーと呆れた様に溜息をついてこの会話を締める。実際ミツルギからしたら自分が大人の対応をした様に感じると思うが、結局問題の解決になっていない社会に出ればかなり損するタイプだろう。


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