ダクネスの生存を確認し、みなの無事も確認できた。此処までの作戦は順調だが要塞の内部構造が分からない以上行き当たりばったりになるだろう、日本の常識的に考えて何処かにコンソールのある部屋があるはずだが、そこまでの道筋をこれから手探りで探って行かなければならない。
「時間がない、早く行くぞ」
先程までのふざけた雰囲気を一蹴し、現在居る要塞の整備に使うだろうである器具が沢山置かれている準備室の様な部屋の扉を開き外に出る。
鍵は掛かっておらず、すんなりと扉を開くと前面には廊下が広がっており横に奥へと続いている様だ。
敵感知により周囲に害する反応を感じないので、直感のまま無警戒で駆けて行く。
飛び込んだ所は要塞の左側面である以上、侵入してそのまま正面の方向の扉を開いたのであれば、左側を進めば管制室に辿り着くであろう事は明白だ。
「敵の気配は今の所無しだ‼︎このまま進んでこの要塞を操っている奴の元に向かって、出会い頭に一言文句言ってやる‼︎」
魔術大国と噂される自国を破壊し、それでもなお進みをやめないこの要塞には一体どの様な人間が住んでいるのだろうか。昔という事で世代が変わっているのかもしれないし、もしかしたら自身の人格をコンピュータの様なものを使ってAIとして利用しているのかもしれない。何にせよその場所を押さえてこの進行を止めなくてはいけない。
支援魔法を掛け全力で廊下を走り抜ける。暫くして同じ部屋に辿り着いた事から、どうやらこの要塞は外周を廊下にしてその内側に部屋を割り当てている様だ、であれば中心部に向かって進むのが正解になるが、この要塞の核である中心部に入る入り口が見当たらない、どうやら階数が違うのか特殊な何かが必要なのかもしれない。廊下を曲がり中心に向かうと必ず壁にぶつかる、外観から見てまだ中心にまで距離があるはずなので此処で行き止まりになる事はまず無い筈だ。
「どどどうしましょう…行き止まりですか⁉︎そろそろ街に着いてしまうのではないでしょうか⁉︎」
行き詰まった状況にゆんゆんが慌て出す。俺の感覚ではまだ街に辿り着くには時間がかかる筈だが、此処で時間を取られてしまっては直に辿り着くだろう、管制室でコンソールをどの様に弄れば良いのかも賭けが強いせいな事もあるので、この捜索に時間を掛けるわけには行かないのだ。
走っている途中に階段が見えた事から階数を変えれば入り口がある可能性が高いが違った場合に失う時間は小さくは無い。かと言ってこのまま考えに時間を費やすのも得策では無い。
「ここは皆で散会するのはどうかな?このまま此処で固まっているよりかは各自で別の方向を散策して見つけた者がそこで対応するって事で」
思考に更け込む俺を見かねたのかミツルギが提案をする。確かに悪くは無い発想で俺自身も最初に考えたが、もし誰かがその管制室に辿り着いたとして果たして何が出来るかだ、もし失敗したとして周りにそれを伝える術はなく燃料となる核が暴発を起こしたら俺どころか位置によっては街ごと吹き飛びかねないし、何より防御システムか何かで敵が現れた時俺の命を守ってくれる者が居なければ危険だ。
「要するにこの壁の向こうに行ければ良いんですよね」
方針を決めようと口を開こうとした時、ウィズが素頓狂な声でそう言い出した。
「まあ、そうなんだけど。入り口が上か下か、もしかしたら何か別の方法があるかもしれないかで迷っているんだ」
いつも一人でいたので、何かあった時に一人で考える癖が出てしまったと思い、皆に考えを伝える。
「それでしたら私に考えがあります。出来るかどうかは分かりませんので皆さんで一応考えは止めないでください」
ニコリと彼女はわらった後、俺達に壁から退がって下さいと注意を促し、俺達を壁から離れさせると何やら詠唱を始めた。
「ちょっと待て…この詠唱は…まさか⁉︎」
彼女の口ずさんだ詠唱、それは先程この要塞に侵入した時と寸分変わらず同じもので、当然振り上げられた手には光り輝く光剣が生成され、彼女はそれをなんの躊躇いもなく振り下ろした。
「ライトオブセイバー‼︎」
振り下ろされた光剣は結界の時は違い、いとも簡単に邪魔だった要塞の中心部を囲んだ壁を切り裂き、俺達が通れるくらいのサイズの孔を開けてしまう。
「うわぁ…何て力業…これには紅魔族もビックリだな」
「そう…ですね…私達紅魔族には変わり者が多いですけど、流石に此処までゴリ押す人は居ないです」
その光景を唖然としながら眺めていると、ウィズは何事も無かった様に笑いながらこちらに戻ってくる。
「どうでしょうか?これならわざわざ入り口を探す必要もないでしょう」
「まあ、確かにそうなんだが…いっか‼︎結果オーライだしな、時間もないし行こうか‼︎」
中心にあたる重要な部屋であるならば壁にも何かしらの配線が通っている筈である為、不用意に穴を開けてしまってこの要塞が暴走でもしたらどうしようかと思ったが、先程から感じる要塞の進行による揺れのリズムが一定な事から多分だが大丈夫だと確信する。
「そんな適当で大丈夫ですか…」
不安そうに心配するゆんゆんを横目に開けられた穴から顔をだし周囲を確認すると、此処はどうやら階層的には二階部分に当たるらしく下の床までの距離が人の二人分は空いている事が分かる。
ここから見える限り部屋の間取り的には部屋の最後部に当たり、ちょうど俺達の下に入り口があるらしく正面にモニターがずらりと並べられており要塞のカメラが見ているであろう景色を映し出している。
そして部屋の中心部には真っ赤なまるで太陽を圧縮した様な球体が透明な円柱の様な筒の中に浮いている。憶測だがあれがこの要塞のエネルギー供給源だろう、あれを破壊する事がこの要塞を止めるに当たって最も手っ取り早い方法になるのだろうが、これだけの要塞をあのサイズのエネルギー体で補っているのならば、それだけの魔力を凝縮しているわけで、もし暴走した場合はこの街どころではない範囲が焦土と化してしまうだろう。
3人にここは二階にあたる旨を伝え、取り敢えず俺が最初に突入することになった。モニターに映し出された景色から見るに街に着くまでは多くはないがまだ時間がある。
「ミツルギは大丈夫だとして、ゆんゆん落下の衝撃を防ぐ手立てはあるか?」
「そうですね、風の魔法がありますのでそれで落下の衝撃を和らげるというのはどうですか?」
ミツルギが何か文句ありげな目線でこちらを見てくるのがわかる。しかし風の魔法か…色々と強力な魔法を見てきたために心なしか不安な気分になるがゆんゆんの事だから多分大丈夫だろう。
「よし、着地は任せたぞゆんゆん‼︎」
そう叫びながら部屋に飛び込む、最悪何もなくても骨折で済むだろうし、それなら回復魔法で何とかなるだろうがそれはそれで痛いので嫌ではある。
「任せてください‼︎」
詠唱を終えた彼女の掛け声と共に全身が浮遊感に包まれる。どうやら彼女の魔法が無事に発動した様で、そのまま落下の勢いを完全には殺さずに両足で着地する。
「こっちはオッケーだ‼︎みんな降りてきてくれ‼︎」
敵感知で周囲に反応がない事を確認すると3人に降りてくる様に合図する。俺の合図を確認し俺の後を追う様に風を纏い着地してくる。
「それでこれからどうするんだい?君ならおおよそ分かってはいると思うがあの赤いのがこの要塞のエネルギー体なんだろ?」
「ああ、そうだな。だからと言ってあれを斬るなよ、かなりのエネルギーが凝縮している筈だから爆発するぞ」
「そうだな……そう言えば他に人は居なかったのかい?流石に無人で動いているわけでは無いだろうし、何処かに居るのかそれとも僕達が来た時に逃げたのか」
ふむ…と間を開けて何かを考え始めたと思ったらそんな事を言い始めた。確かにそう言われれば此処に侵入してから誰も見ていないし警備もずさんな事を思い返す。もしかしたAIの様な人工知能が一人でに動かしている可能性もなくはない。
「いや誰も居なかったよ、その証拠に敵探知もここに来てから全くと言って良いほどに反応しない」
両手を上げお手上げの動きをする。
「取り敢えず機材を弄ってみようぜ、何か分かるかもしれない」
誰かがいる可能性は今の所害は無いので一旦置いておき、本来の目的であるこの要塞を止める方向に赴きを向ける。
「ゆんゆんどうだ?何か分かりそうか?」
二人で話している間にゆんゆんが前方のモニターの方向へ向かっていたので、何か手掛かりがないか確認する。
「いえ…どうやら古代文字が使われているみたいで…その…読めないですね」
なんだか申し訳なさそうに言うゆんゆん。どうやらここの使用言語は古代の言語を使用してプログラムが組み立てられている様で秀才と俺が勝手に思っていたゆんゆんにも分からない様だった。
が、しかしそう言えばとある事を思い出す。女神から与えられた特典は一つだったがそれとは別に共通で言語関係の知識を俺達転移者はインストールされており、こうして彼女達と会話をしたり依頼の申請用紙を読む事が出来ている。ならば古代の文字も俺なら読む事ができるのではないだろうか?
「取り敢えず俺にも見せてくれ」
ミツルギを放置し、ゆんゆんのいる方向に向かう。大量に並べられたモニターの下方に大量のキーボードらしきボタンがある規則に乗っ取って配置されていた。
「これが古代語か…まあ俺様に掛かればこんなもの楽勝だぜ……ん?」
この世界の言語であれば例え始まりの街よりも外の言語圏の違う言葉でもこの世界のものであれば理解する事が出来る。分かると言っても全てが日本語に翻訳されると言うわけでは無く理解する事が出来ると言うわけである。文法も文字の形も分からないのに理解する事が出来る状況に最初は違和感を覚えたが、それも今ではすっかり馴染んでいる。
しかし、この古代語はそんな事は関係なしに読む事が出来た。理由は分からないがキーボードに書かれた文字は日本語の平仮名と英語のアルファベットの二つだったのだ。
つまり、ゆんゆんの言う古代語とは日本語の事で、このキーボードの規格は日本で俺が使っていたものに準じていることになる。
「え?カズマさん古代語も読めるんですか?」
俺の反応を見て確信したのか彼女が驚きの表情を浮かべる。そういえば前に他所の国から入荷した雑貨の説明書をうっかり読み上げてしまった事を思い出す。
「まあな、取り敢えずここは俺に任せてゆんゆんは周りの見張りを頼む」
あまり弄っているところを見られたくはないのでゆんゆんを遠ざけキーボードをいじり出す。
まずどうやらキーボードのセット一つと画面が1セットになっており一番見やすい物に移動し、ESCで元にデスクトップに戻す。
「うわ…古い…」
表示されたのはWindowsxpだった、前から思っていたがどうやら転移される時間帯は人それぞれ違うのかもしれないという可能性が確信に変わる。どうやらこの要塞の作成者は九十年代に死んで俺たちよりも遥かな昔に飛ばされた様だ。そしてそこでこのハードからソフトウェアまで自身で作り上げたのだろうか。それとも無から有を作り出す能力を特典として頂いたのだろう。
とにかくそこから何とかしてこの要塞のプログラムを弄り停止しなくてはいけない。
起動中のプログラムを開くとそこにはビッシリとコマンドが描かれていた。
「…これもしかしてBASIC言語なのか?」
プログラミング言語の一つで、初心者用に扱われるそれは簡単が故にかなりの手間が掛かる仕様になっている。弄る側としてはやり易くて良いのだが並べられたコードから停止のプログラムを探すのは結構面倒くさい。最下列に停止のプログラムを書き込んでも良いのだが、それで何か変なエラーを生み出しても面倒なので一文一文探すことにする。
「ミツルギ‼︎お前プログラムに詳しいか?」
もしかしたら詳しいかもしれないと、奴に話を振るが画面に表示されたコマンドプロント画面を見て眉間にシワを寄せ
「悪いね、コンピュータ関係はさっぱりでね…」
罰が悪そうにそう言うと辺りを再び物色し始めた。
どうやら奴にはこっち関係の知識がない以上俺一人で棒大なコードを探さないといけない様だ。
「駄目だ、全く終わる気がしない‼︎」
正直言って膨大な量読んでいる事に対して横のバーが全くと言って進まない。このままだと最悪間に合わなくなってしまう可能性が出て来る。そうなってしまったら元も子も無い。
仕方無しに最下列に停止のコードを打ち込み無理やり発動させる。
「これでどうだ‼︎」
エンターキーを押しプログラムを起動させるが画面に表示されたのは警告の表示だった。内容はよく分からないがどうやら動力源に何やらトラブルがあると言う事だけは分かった。
「つまり無駄足ってことかよ‼︎」
結局の所コンソールからできる事はなく、何とかすべきだったのはソフトよりもハードのほうだったのだ・
ドンと思いっきりキーボードに拳を叩きつける。壊れるかと思い心配したが頑丈なのかそんな事はなく代わりに俺の拳に激痛が走り悶える。
「大丈夫ですか⁉︎」
音に反応したのかそれとも叫びに反応したのかゆんゆん達がが此方に寄ってくる。
「ああ、何とかな。それよりもこのデストロイヤーは暴走していてプログラムからはどうにも出来ない。原因はあの赤い球体の暴走らしい」
ビシッと球体を指差す。
「ああ、それなんだけど。暴走に関しては此処に全部載っているんだ」
皆の反応が味気なかった事に違和感を覚えているとミツルギが申し訳なさそうに一冊の本を俺に差し出した。どうやらこの要塞の制作者の残した日記らしく、何処にあったか聞くと奥の部屋に玉座の様な椅子があり、そこに座った死体が持っていたらしい。
「どれどれ…」
ミツルギが差し出した日記を分捕り内容に目を通す。どうやらこの日記の制作者は俺と同じ転移してきた日本人で特典は思った物を投影して作成すると言うものだった。そこからふざけた様な自分語りが描かれて最終的に動力源であるコロナタイトにタバコを押し当て暴走させて今に至ると言うわけである。
「なめんなーーっ‼︎」
ボーンと地面に日記を叩きつける。こいつの一時の感情で俺達が苦労していると思うと腹の底から煮え繰り返りそうだ。
一応緊急用の装置があるらしいが、その鍵を誰かに渡してしまい今は何処かの家宝になっているらしい。
「と言うわけなんだ。だから僕達は残り少ない時間でこの暴走したコロナタイトをどうにかしないといけないんだ」
キリッとキメ顔でミツルギはそう言った。さっきの本の件もあるが今が緊急事態でなかったら思いっきりぶん殴りたくなる様な清々しい程のキメ顔で彼は続ける。
「僕はテレポートで遠くに飛ばして貰おうと思うのだけど、ウィズさんはどう思いますか?」
テレポート、登録した場所に移動する上級魔法に分類される魔法だ。いろんな場所に物を飛ばしたり自分自身も飛ばせる便利な魔法だが、その分消費する魔力も大きい。
「それなんですがちょっと厳しいですね…テレポート自体はできなくは無いのですが。できる場所が全て人間の居住地の近くですので…」
テレポートには制約として転移できる場所が限られているらしく、また登録し直すにもその場所に一回本人が出向かないといけないらしい。
「ゆんゆんはできないのか?」
アークウィザードである彼女であればテレポートを習得する事が可能ではあるが使った事を見た事がない。
「すいません、テレポートは習得していないです…」
申し訳なさそうに彼女はそう言って頭を下げる。
ゆんゆんは俺達のパーティーの要なので魔力温存の意味で使わなかった可能性があったので聞いてみたが、やはり習得はしていない様だ。それにスキルポイントが余っておりそれを利用して今習得したところで此処以外に点する事はできないだろう。
「すると、此処でこいつと決着をつけないといけない訳か…」
再び筒に浮かぶコロナタイトに相対する。果たしてこいつをどうやって止めるかだ。
「ウィズは何かいい考えはないのか?」
この中で一番年長者であるウィズの意見を聞く。その事を彼女に言えば無言の圧で攻め来そうなのでやめておく。
「方法はあるにはあるのですがそれにはちょっと…」
どうやら彼女には何か考えがある様だが、何やら意味深げにミツルギの方向をチラチラ見ながら遠慮している。ミツルギに見られると困る事でもあるのだろうか…まあ…あるのだからそんな感じになっているのだが。
取り敢えずウィズの元に行くとそっと耳打ちされる。
「あの…私がリッチーだと言う事はなるべく他の方に知られたくないと言いますか…あの人みたいに正義感の強い方には特に」
彼女の思い浮かべるコロナタイトの暴走制御にはリッチーのスキルが必要でそれにはミツルギが邪魔になると言う事か。なんだかんだ言ってミツルギも根はいい奴そうなのでバラしても大丈夫そうだとは思うが、彼女が駄目だと思うならそれにしたほうがいいだろう。
「カブラギ、もう一度死体を調べてもらえないか?椅子の下の床とか何か隠されてるかもしれない気がする」
「ミツルギだと言っているだろう…いい加減覚えてくれ、それともワザと言っているのかい?まあ調べる分には構わないけど」
何回目になるか分からない名前ネタを再び繰り返し、呆れながらも死体のいた方向へと戻っていった。これを枕詞みたいな感じに会話の始めにつけると奴は素直に聞いてくれるんじゃないかと思う気がするのは気のせいだろうか。
「人払いは済ませた。それで考えって何だ?」
ミツルギが居なくなり3人になると、口を閉ざしていたウィズが話し始めた。
「このコロナタイトの属性は火に分類されます。今はこの様に暴走していますが、それを収めるには水属性の氷の魔法が必要です…私はその、氷の魔法が得意なのですが魔力が私自身の魔力で足りるかどうか…なのでゆんゆんさんの魔力をカズマさんがドレインタッチで私にまわしていただけないでしょうか?」
成る程、つまり魔法を発動させ続ける為に俺はゆんゆんからの中継役をすればいい訳か…。ウィズの魔力量を持ってしても抑えきれない程の魔力の塊であるコロナタイトやはり伝説と言われるだけの事はあるか。
「俺は構わないけど、ゆんゆんはそれで良いか?」
一応ゆんゆんに確認を取るが、彼女は状況を理解していない様で頭にハテナマークを浮かべている。
「え?どう言う事ですか?ドレインタッチ?カズマさんもしかしてウィズさんから教わったスキルってドレインタッチのことだったのですか?」
「そうだよ」
そう言えばカッコつけて言っていなかった事を思い出した。まあ普通の冒険者がそんなスキルを持っていたらビックリするだろうとは思うが。
「で、良いかどうかなんだけど大丈夫そうか?一回俺も受けたことあるけど何か生気を吸われる様な感覚だけど特に大丈夫だったぞ」
「え、それって大丈夫なんですか?」
「大丈夫さ………多分」
不安げに聞いてくるが、副作用なんてものは、即出てくるものも有れば長時間かけてゆっくり掛けてくるものもあるので一概に大丈夫とは言えないのだが多分ゆんゆんなら大丈夫だろう。
「多分って…カズマさんが言うと不安ですが、ウィズさんが教えたのなら大丈夫そうなのでオッケーです」
何か不本意な事が聞こえたが、これで状況が進むなら安いもんだろう。
「よし!じゃこれで行こう」
パンと手を叩き場を切り替え、ウィズを先頭にした縦列に移動する。途中ミツルギが戻ってきたが、モニターに映されたアクセルの街が最初に見た時よりも大きく表示されているので上手くウィズの事を誤魔化して詳しく教えられないので何か適当な事を言って丸め込み本来の入り口の門番をしてもらう事になった。
「では詠唱を始めます。カズマさんは魔法が発動したらゆんゆんさんの魔力を私に回してください」
「分かった」
彼女の言葉を受けそのまま二人の首根っこを掴む。ドレインタッチは心臓に近い部分になればより効率がいいのだが、それだとセクハラになってしまうので、こうして妥協して後頸部になっているのだ。
「え?私は後ろ向くのですか?何も見えないまま魔力を吸われるちゃうんですか⁉︎」
ゆんゆんが配列に文句を言い出す。まあ二人を横縦列に並べるのも構わないのだが変に騒がれても面倒なだけなのでこうして二人には背中合わせになってもらっている訳だ。
「良いから行くぞ、抵抗するなとは言わないけどなるべく大人しくしてくれよ」
初めてドレインタッチを受けた時、あまりの不快感に体をよじってでも逃げようと体が反射的に仰け反ってしまった事を思い出し念の為彼女にもそう伝える。
「…分かりました。でも吸い取る時は合図をお願いしますよ」
はあ、と溜息を吐きながらシュンと上がっていた肩を落とし、振りむていた首を元に戻した。
「カズマさん大丈夫でしょうか?」
俺たちのやり取りに対して気を遣って待っていてくれたのか、発動待機状態を維持したままこちらに問いかけてくる。
「スマン、俺達は大丈夫だ」
「では行きます。カースドアイスプリズン‼︎」
氷の上級魔法、それもリッチー程の高い魔力値を持つ彼女が放った魔法は俺の想像を超える勢いでコロナタイトを筒ごと凍りつかせていく。そうして周囲事氷で覆いながらもやはりコロナタイトは一瞬では凍ってはくれないらしく、凍り付きながらもすぐさまその氷を溶解させていく。
俺はその光景を見ながらゆんゆんの魔力を吸い取りながらウィズへと回し始める。
「え…きゃぁぁぁっぁぁぁぁぁぁ‼︎」
「あっ‼︎」
そう言えば吸い取る時に合図をしてくれって言われていた事を思い出した。
「スマンゆんゆん、言うの忘れてた」
「勘弁してくださいよ…私初めてなんですから優しくお願いしますよ…」
オイオイこんな時にモヤモヤさせる言葉言うんじゃねえよと言いたかったが、無自覚そうなのでそれを言うと俺が変な扱いを受けそうなので黙って魔力の流入に気を回す。
ドレインタッチ流しと勝手に命名したが、これがなかなかに難しい。吸うと吐き出す、この両立は鉛筆を持ちながら両手で違う文字列を同時に描く様な感覚に近く、少しでも油断すれば両者共に同じ方向に流してしまいそうな危機感を感じる。
こうして暫くドレインタッチを行なっていると、何故かだんだんコツと言うか彼女達の魔力の底が分かってくる。俺の貯蔵魔力は彼女達と比べれば大人の給料と子供のお小遣い位違うと言う事に気づく、薄々分かっていたが出来れば知りたくは無かった。
そして暫くウィズVSコロナタイトの構図は続き、若干だがコロナタイトの色が元の色だったのだろうか暴走前の色に戻り始めている。このまま行けばもしかするかもしれない。
しかし、ゆんゆんの魔力が底をつきそうになる。先程まで彼女は何だかんだ若干抵抗していたが、今はびっくりするほど大人しくなっており地面に腰を下ろし俯いている。
「大丈夫かゆんゆん‼︎」
念の為声を掛け返事が返ってくる事はなかったが、俯いていた頭が少し上がったので多分だが大丈夫な様だ。
ウィズの方向を見ると険しそうな表情を浮かべながらコロナタイトに相対し激闘を続けている。
そしてついにゆんゆんの魔力が切れてしまい横にバタンと倒れる。切れたと言っても完全には吸ってはおらずに生命力を保つ程度には残して最後に手を離した。
「ウィズ‼︎ゆんゆんが限界だ、最悪俺の魔力を流すけどあまり期待するな‼︎」
完全に意識がコロナタイトに向かっている為か、返事は帰ってこないが一瞬うなずいた様な気がした。
ならばと横を向いていた体を完全にウィズの方向へと向け、何時でも俺の魔力を流す準備をする。出来れば二人を連れ脱出する為に俺達の魔力は温存しておきたかったが、作戦が失敗して暴走したら今度こそここら一帯が焦土とかしてしまうので仕方ない。ミツルギの魔力も背に腹は変えられないので頼もうと思ったが、ソードマスターの魔力は低いのであまり期待は出来なさそうだ。
今の現状はウィズの魔力で何とか賄えているがそろそろ底が見えてきた。
「そろそろ流すぞ‼︎」
流石にこれ以上は無理だと思い魔力を流す。俺がギリギリまで流すのを躊躇っていたのかと言うと、前にベルディアが俺には神聖な何かが混ざっていると言っていた事を思い出したからだ、もし本当に微弱な俺の魔力に神聖な何かがあったなら同じアンデットの彼女にその魔力を流せば事が何かマイナス方向に進んでしまいそうな気がしたからであり、決して魔力が空になるのが嫌なわけではない。
彼女の首根っこを掴む力を入れて俺の魔力を一か八かで流し込んだ。
急に魔力を流された彼女はビックリしたのだろうか少しビクンと痙攣の様に一瞬震える。
「この魔力は…くっ‼︎」
やはり駄目だったのかと思いながら彼女の表情を見ると、ダメージがあったのか口の端から血液だろうか、リッチなので体液と表現した方がいいのだろうか、少なくとも良いものではない液体が流れる。
そして彼女から放たれていた氷の魔法が纏っていた薄氷色の冷気の様なオーラがどこかで見た様な黒い闇の様なものに変わり一瞬でコロナタイトを凍りつかせていた。