今回は見づらいとの指摘があったので少し文章に感覚を空けております。
「何とか…なったのか?」
魔力を使い果たしたのか、気絶し前からのし掛かってきているウィズの後ろからコロナタイトを目視する。先程見えた黒い輝きは何だったたと言わんばかりにその影を潜め、部屋はコロナタイトを中心にして全体的に氷が波及してぱっと見来た時よりもひどい有様になっている。
先程まで暴走していたであろうコロナタイトは安定したのか、先程までの赤々とした危ない輝きを止め、現在は氷の中で安定した様な澄んだ赤色を呈して止まっている。この状態なら暴発する危険性はほとんど無いと言ってもいいだろう。
それに、先程まで響いてきていた地面の揺れも今は感じられない事から要塞への魔力供給も無くなった様だ。つまりウィズの考えた作戦は大成功ということになる。
「おっしゃー‼︎作戦大成功だぜ‼︎」
一人でにガッツポーズを決め喜びを分かち合おうとしたが、俺の前後ろに居る二人は既に魔力切れを起こしておりノックダウン状態なので返事どころがリアクションすらなかった。
喜びとは共有しながら分かち合い共に喜び合うものだと思っていたのでこの状況は些か寂しいなあ、と思っていたら奥からミツルギが姿を見せる。
「おーい、要塞の動きが止まった様だけど君たちの考えた作戦は成功したのかい?」
どうやら様子が気になって持ち場を離れてきた様だ。ミツルギは部屋に入って早々に中心部にあったコロナタイトが納められている筒に視線を向け感嘆としている。
「成る程、君達で動力源であるコロナタイト事氷付けにして止めたと言うことか…これはまた随分と危険な賭けに出たね…」
フムっと顎に手を当てながら何かに納得する様にミツルギはそう言うと俺の元に近寄り腕を差し出した。どうやら起き上がるために差し出したと言う所だろう。
ミツルギに礼を言い起き上がり周りの状況を確認する。モニターの表示を見る限り要塞は動力源を失い、現在は予備に用意されていた貯蓄予備電源を利用して何とか現状を維持しているらしい。
であれば、早めにここから撤退しないと行けなくなる。この要塞と地面との接点は8本足になりその脚は直立では無く幾つかの節で屈曲しており、多分だがジャイロセンサーか何かで要塞が地面に対して並行になる様に計算され絶妙な加減で調整されていると思われる。つまり動力源がなくなれば最悪地面に崩れ落ちる危険性があると言うことになる、本来ならセーフティーみたいなものがあり、そうならない可能性もあるが、あるかもしれない可能性よりもない可能性を優先した方がもしもの時に対しての生存率が上がるだろう。
「やばいな…そろそろ脱出しないと崩れるかも知れない。俺はゆんゆんを背負うからカブラギはウィズを頼む、取り敢えず最下層に向かおう。もしかしたら緊急脱出用に何かがあるかも知れない」
「…ミツルギだと言っているだろう」
伸し掛かるウィズを退かしゆんゆんを抱き抱え背中におぶると、ミツルギが呆れた様にそう言って溜息を吐きながら地面に横たわったウィズを持ち上げる。
二人とも体勢が安定した所で入っていない本来の入り口から部屋を後にする。
部屋を出てまず先に階段が配置されている部屋に向かう。基本的にこう言った建築物にはデザイナーの様なものが存在し、その人がレイアウトを決めているのだが、この要塞みたいに単純な構造な物は単に従業員が覚えやすい様にか、何階層もレイアウトを考えるのが面倒なのだろうか、それとも構造的に耐久性を上げる為なのか、よく俺には分からないが基本的に同じ、又はに通った構造になっている事が多い。
ならばその階段の方角へと向かって進んで行くのみである。
暫く進んでいくと前方に何やら人形のモンスターの様な物が敵感知に引っ掛かる。ここからだと目視には遠過ぎるので千里眼を使用し前方を眺めると機械仕掛けの人型の人形、つまりゴーレムが巡回だろうか通路を歩いていた。今まで見なかったので安心していたのだが、どうやら制御室があるこの部屋のある階は違うらしく、この様にゴーレムが警備の為に蔓延っている。
この要塞の主電源が止まっているので警備関係のシステムは作動しないと思っていたが、個々に独立した自律機能があるらしく、今もこうして予備電源に切り替わった現状でも前と同じ様に巡回し続けているのだろう。
「おいマツルギ、前方に警備ゴーレムが居るぞ。お前なら何とかできそうか?」
「あのさ…そろそろいい加減にしてくれないかな?ここまで来たらもうワザとだよね…訂正するのも大変だからこれからはそのまま反応するよ。…でゴーレムだっけ?任せてくれと言いたいところだけど流石の僕も見て見ないとなんとも言えないかな」
ミツルギ等々この何時もの件にうんざりしたのかもう突っ込まないと言い始め、その後ゴーレムに関しては分からないと謙遜し始めた。コイツの実力は誇っても良いくらいには高いのを俺は知っている、ただ搦め手には滅法弱いので人間に対して、特に俺に対してはかなり相性が悪いのだ。良くも悪くも強すぎるモンスターと戦い過ぎたせいだろう、弱者の生存戦略に対する経験がそもそもないのだろう。
「成る程、よしじゃあその魔剣を口に咥えて戦えないか?ゴーレムならお前の方がステータス上だろ?だったらお前なら行けるって」
「あのね…僕がそんな器用にできると思っているのかい?」
呆れた様に溜息を吐くミツルギ。しかしこんなふざけた思考になるのも仕方がないのだ、現在俺とミツルギは背中にゆんゆんとウィズの二人を背負い両手が塞がっている状態にあるので、対応するには魔法が一番なんだが、生憎俺には初級魔法以上の魔法を習得していないので残念な事に火力が足りないのだ。であればミツルギがその魔剣グラムを口に咥えて某三刀流剣士の方の様に華麗に舞って頂くしか無いのである。
「だったら仕方ない、今から支援魔法を掛けるからこのゴーレムの廊下を駆け抜けるぞ‼︎」
「なんだって‼︎彼女を一旦置いて戦わないのか?」
俺の考えた作戦に口を出すミツルギ、確かにその考えは良いのだが、その方法だと時間が掛かり過ぎてしまうのだ。その作戦に従うと戦闘を行う度びに彼女らを回収する事を繰り返す事になる、そうなれば何十キロもある人形を上げ下ろしする事になるので終盤の疲労の溜まりも心配になってしまう。これがすぐ近場なら良いのだが、最終下層までの距離はまだまだあるだろうと仮定しているので、あまり理論的ではないのだ。
「そんな時間はない、よっしゃー‼︎行くぜムララギ‼︎」
即興で二人に支援魔法を掛ける、この支援魔法も何度もかけているせいか最近は詠唱の文章も頭の中で反芻して確かめることももせずに、頭空っぽでも唱えられる様になった。
強化された事を確認するとそのまま全力で前に進む。
「ちょっと待ってくれ‼︎僕の名前の言い間違えに関しては反応しないと言ったけど、それを逆手にとっての誹謗中傷は辞めてくれないか⁉︎全くの事実無根なんだが‼︎」
後ろで何か文句を言っているミツルギを放置してそのまま進む。やはり支援魔法を掛ければ遅かった俺の足もこの通り早くなりあっという間にゴーレムの元にたどり着く。
千里眼で姿は捉えていたがいざ相対すると中々にでかい、しかも此処が通路あるので逃げ様にも逃げ場がない。しかし、かと言って戦う訳にもいけない。
仕方が無いが奴の攻撃の隙を誘ってすり抜けるしか無いだろう。
此処は異世界ではあるがゲームでは無いので、一定以上敵を倒さないと消えない見えない壁や、ボス攻略に必要なアイテムを持っている事は無いのだ。他にもレベルがある、基本的にボスを倒すには遭遇したモンスターを逃げずに全部倒せば最低限倒せる程度には上がるのだが、この要塞自体がボスみたいな物なので必要は無いだろう。つまり逃げて損はないのである。
そんなこんな考えていると遠かったゴーレムが近くに見える。呼吸を整えて距離を詰めると、ゴーレムは俺達に反応したのか腕を振りかぶり前方へと突き出した。それに対して俺は下がらずに、ゴーレムの挙げた腕の側の方向へと踏み込みすり抜ける。
本来なら後方に下がるのだが、其れだと埒があかない。かと言って反対側に良ければ、奴が振り終わっていない腕の方向を調節できるので拳の餌食になるだろう。なので拳がぶつかるインパクトが起きる手前で上体を下げかわし振り抜けるのが意外と安全なのだ。
「ふう…」
案外すんなりいけた事に関して若干の達成感を感じたが、ゆんゆんを背負っている為に俺の高さがカサ増しされているので必要以上に膝を曲げないといけないので結構脚に疲労が溜まる。明日多分筋肉痛になるだろうな…。
一体すり抜けさらに前方に居るもう一体に差し掛かる時だった。
「おーい‼︎僕は鎧を着てるし彼女を背負っているから君みたいには上手く避けれ無いんだけど、どうしたらいい‼︎」
背後からミツルギの助けの要請が聞こえる。確かにガッチリと装甲を固めている以上アクロバット性を失うのは必然だろう、しかし支援魔法を掛けているので出来ない事は無いと思うのだが…。
戻るのもリスクだし、此処で見捨てても大丈夫な気がするはきのせいだろうか。ウィズは既に死んでいるリッチーだし、ミツルギはミツルギだし何とかなる様な気がしなくも無い。
「何とかって…全く、しょうがねーな‼︎」
後味が悪いので助ける事にする。
取り敢えず前方のゴーレムの振り上げを前方に回避し、露わになった無防備な背中に支援魔法で強化された脚で蹴りを入れる。そしてバランスを立て直そうとしている隙に、クリエイトウォーターとフリーズのコンボを発動させ廊下一面を凍らせ、再びまだよたよたしているゴーレムに向かって蹴りを入れる。
するとゴーレムはついに耐え切れなくなったのか前方に倒れ、そのまま慣性の法則に従い前方へと滑っていき後方にいたゴーレムに激突すると派手に粉砕する。
「ゴーレムを後ろのゴーレムにシュート‼︎」
「超エクサイティング‼︎」
両手でガッツポーズを決めて叫ぶ。尚、ゆんゆんは背中に上手く載せているので安心を。
興奮を落ち着けながらも、何か嫌な予感がしなくも無いのでゴーレムを眺めていたが、特に再生や破片が合体する事は無さそうなので安心する。
「これで大丈夫だろう、先を急ぐぞ」
「あぁ、ありがとう。正直君の発想力には驚きだけどとても頼もしいよ…話は変わるけどこの床は元に戻せないのかな?」
「ああ、もちろん無理だ」
「だよね…」
凍った床に悪戦苦闘しているミツルギを横目に先に進む。ティンダーで少しずつ溶かす手もあったが、前にも言った様に時間がない。それに魔力もそろそろ底が見えつつあるので出来れば魔法はこれっきりにしておきたい。
あれからゴーレムを躱し続ける、いちいち止まるのは面倒なので躱しては蹴りを入れ、ゴーレムをよろけさせてはミツルギを通してを繰り返す。これを繰り返すのなら正直ミツルギに目一杯に筋力強化の支援魔法を掛けて彼女らを両脇に抱えてもらった方が楽なのだが、ゆんゆんをミツルギに任せると言うのも考えると釈なので辞めておく。
そして階段に何とか辿り着く。
この要塞は何処かのテレビ局の様に複雑な構造はしておらず、そのまま下りと昇りが横に隣り合った状態で最上階と最下層がつながっている様で安堵の息が出る。
正直昔行った社会科見学みたいにわざわざ昇降の為に階の端から端まで行かないと行けないのかと思うと面倒この上無いからである。
「このまま降りるぞ、何か忘れて無いとか大丈夫か?」
「いや特にそんな物は無いはずだけど…」
一応念の為に確認する。ゲームで染み付いた癖だろうか、階をを変える前に取っておかないといけないアイテムやイベントとかがある様な気がしてならないが多分気のせいだろう。
階段を降りて行く。大分疲労は溜まっているが、ゆんゆんを背負っている為かアドレナリンがフィーバータイムを起こしているので何とかなりそうな気がする。詳しくは言えないが、ただ鎧の装備できない冒険者で良かったと思ったのは多分初めてだろう。
階段を降り切ると要塞の底面に辿り着く。流石の要塞も階段まで警備ゴーレムを置くことはなかった様だ。
まぁ、あそこまで外部からの侵入を拒む事を徹底していれば、そもそも警備ゴーレムなんて必要なかったのでは無いかとは思う。多分の憶測だろうが、あのゴーレムは念の為の警備兵だったのだろう、内部の裏切りとかありそうだし。
要塞の底面は予想通りそこまで広くはなく、地面には緊急脱出用のハッチと幾つかのパラシュートが壁にかけられている。奥に扉あるがそれは多分整備用か何かだろうから今関係はないだろうから無視する。
「取り敢えず2人を下ろして装着するぞ」
「ああ、分かった」
ゆんゆんとウィズを壁に掛けてパラシュートを装着する。古いのでゴムとかが劣化してそうだが、よく見てみると魔法か何かで防食しているのかマナタイトの様な鉱石とその周囲に何か魔法関係の言葉が描かれており、それを取り外して中の紐等を引っ張って見ると特に問題は無さそうだった。
やり方に関してはハーネスの様なものを装着して肩あたりの紐を引っ張るので大丈夫そうだ。やり方が丁寧に図解にもされて描かれており難なく着用できる。
「で、マツルギは何やっているんだ?」
俺が装着している隣でワタワタとパラシュートを装着しようとミツルギがもがいている。
「ミツルギだ‼︎急いでいる所済まないのだけど手伝ってはくれないだろうか?鎧が引っ掛かって上手くいかないんだ」
「はぁ…その鎧脱げよ。敵と戦う訳じゃ無いんだからさ」
「そんな事言ったってね…この鎧意外と入手が難しんだよ」
「はぁ…さいで」
反応しないんじゃなかったのか?と思いながらしょうがないので手伝う事にする。奴の鎧は何か強そうな名前のドラゴンを倒した際の報酬としてオーダーメイドの特注で作られたらしいので買い直すと言う選択肢は無いとの事だ。
ミツルギの選んだパラシュートはLサイズだったので、鎧を含めたサイズに切り替えて再び付け直す。鎧をつけた時用も存在する事に驚いたが、要塞なので細かい所に攻め込む時に必要になる時もあるのかと適当に納得させる。
「よしそれじゃ行こうか、絶対にウィズを離すんじゃねぞ」
「どちらかと言うとそれは君の方じゃ無いのかな?」
準備をすませ床のハッチを開くと気圧差の風が吹き出しよろけそうになるが何とか持ち堪える。そこから見える絶景に少し引き攣りながら落下予測点に危険が無いか確認する。
「ん?」
下をみると幾つもの黒い点が見える。なんだと思い千里眼で確認すると街の冒険者達が様子見にか来ていた様だ。要塞が止まったので安全だと思ったのだろう。
もし急に動き出したらどうすんだと思ったが、今となっては有難い。途中何かあったら彼等に何とかしてもらうことができるんのだから。
「どうしたんだい?何か不都合な事でもあったのかな?」
「あぁ、特には。ただ街のみんなが下に集まって居るだけだよ」
「ふう…何だそれだったらよかったじゃ無いか」
俺の表情に何かしらの不安を抱いたのか、俺から何も無いと聞くと案した様に息を吐いた。どうやら初めてのスカイダイビングで緊張でもして居るのだろう、流石の異世界でも上空から落下する事なんてまず無いだう。
取り敢えず危険が無いのは分かったので、ゆんゆんを抱き上げ念の為にパラシュートを装着させる。めぐみんの様に意識があると助かるのだが、魔力を吸い過ぎたためか未だに起きる気配が無い。
何とか装着を終えると、彼女の腰のベルトと俺のベルトを念の為にカラビナで止める、これで万が一手を離しても大丈夫だろう。
支度を終えて顔を上げるとミツルギも準備万端な様子でウィズを抱き抱えて居る。
「そんじゃ先に行かせてもらうぜ、絡まると危ないから俺が降りてしばらくしてから追って降りてくれよ。いいな」
「そこまで言われなくても分かっているよ」
「それじゃあな」
ミツルギに暫しの別れの挨拶を済ませると、そのまま脱出口を飛び降り地面に落下する。
「うぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっぁ‼︎」
落下による圧にびびりながら、ゆんゆんも浮き出したのを確認したら、片手を一時的に離してハーネスの紐を思いっきり引っ張る。
後ろから排出音と共にパラシュートの傘の様な物が飛び出て一瞬視界が止まり電車が急ブレーキした様な感覚を味わうと、落下速度が緩やかになりフワフワと落下する。
「ふぅ…死ぬかと思ったぜ…」
人生初のパラシュートに恐怖していたが、こうして終わってしまえば、なんて事は無い些細な事に思えてくる。まぁ二度目は御免だが。
緩やかに地面に着地すると周りの冒険者達が野次馬の様に集まって来る。
「取り敢えず現状は安全ってことかな、動力源をウィズ達の氷結魔法で凍らせてあるから今の所だけど動く事はないかな」
取り敢えず開口一番に現状を報告する。詳しく説明するのは面倒だが、プログラムも停止する様にインターセプトしているから万が一動き出しても大丈夫だろう。
カラビナを外し、ゆんゆんを離すとエリス教のプリースト…シスターに預ける。出来れば側にいてやりたかったが彼女の元に置いておけばひとまず安心だろう。ウィズに関してはどうやって説明しようか…取り敢えず砂糖水でも作って貰うか…
取り敢えずパラシュートを畳み纏める。これも何かの縁だろう、いつか役に立つかも知れないのでバックに突っ込んでおく。
そう言えばとめぐみんを探す為に見回したが居なかったので確認すると、どうやら念の為にと街の外壁で待機しているらしい。彼女らしいと言えば彼女らしい、やはり知能の高い紅魔族と言ったところか念には念をと言ったところだろう。
そんな事を考えていると俺の後を追ったミツルギのものと思われるパラシュートが降りてくる。俺が着地してから結構間があったことから結構ビビって躊躇ったのだろう。気を張る相手がいなければ人間そんなもんだろう。
「よう、どうやら無事着地できたみたいだな」
「まあね、取り敢えずこのパラシュート外すのを手伝ってくれないか?」
俺が降りて安全を伝えたので周囲の冒険者は既にお帰りムードとなっておりその為、ミツルギに群がる事は無く、こうして俺が外す手伝いをする羽目になる。
意識を失っているウィズを受け取りそっと地面に横にさせると、絡まっているミツルギのパラシュートを外して行く。外すと言ってもミツルギはもう使う機会はなさそうなので剣で装備ごと切って行くだけなのでそう時間は掛からないだろう。
あの後特に何かが起きる訳は無く。祝勝会みたいなものを挙げるから来てくれとダクネスに言われる。
彼女の装備は落下の衝撃でヒビが入っているがそれだけだったので、今回の件でいかに彼女の防御力が高いかを認めざるを得ないだろう。
祝勝会に関しては前回のベルディアの件とは違い特にやましい事は無いのでゆんゆんの目が覚め次第3人で向かうと伝えている。
初めてのお祭り騒ぎに浮き足立っている事は置いといて、あの機動要塞デストロイヤーのその後だが、このアクセルを管轄としている…要するに話を聞いた王都の連中が現れて数十人規模の直属のウィザード達が集まり研究の名目で要塞をテレポートで何処かへ運んで行ってしまったのだ。
探索が中途半端な事も含めて文句は合ったので突っかかろうとしたが、なんか銀髪の人が報奨金をくれると言っていたのでそれで矛を収める事にした。
ウィズはと言うと、教会のプリーストに預けてしまい回復魔法なんざ受けてしまった日には正体がバレてしまいかねないので、上手く周りをはぐらかしながら魔道具店に運び、現在はあのドレインタッチを教わった部屋で寝かせながら勝手に拝借した砂糖水を口に流し込んで様子を見ている状況だ。
「う…うん?あれ此処は…一体どこでしょうか?」
「お、目覚めたな。此処はウィズのお店の中だよ」
「そうでしたか…それでしたらあの要塞は結局どうなったのでしょうか?」
「要塞だったら、ウィスの魔法で上手く凍らせることが出来たよ。まあその要塞自体は王都の連中に持っていかれたけどな」
はあ…と取り敢えず目覚めた事に安堵する。魔法を使っただけで吐血する様な事態が起きたので心配だったが、取り敢えず意識があるなら何とかなるだろう。
「ははは、それは残念でしたね。私は此処でゆっくりしてから向かいますのでカズマさんは先に行かれてください。何時もの事ならこの後に何か祝勝会的な物があるんじゃ無いんですか?」
「そうだけど…大丈夫か?」
「私は全然大丈夫ですので…それより早く行ってあげないと2人が怒ってしまうのでは無いですか?」
「分かったウィズがそう言うんだったら俺はもう行くよ。一応ウィズも主役だから来てくれよ」
何だか早く出て行って欲しそうな事を遠まわしに伝えられた様な気がするので早々に退散する事にする。ウィズも女性だしきっと男の俺が知らない何かがあるのかも知れないので追及はしないでおく、セクハラで訴えられても困るしな。ただ起きてから両腕を摩っているのが気になった。
「遅いですよカズマ‼︎」
「お疲れ様です…それでウィズさんは大丈夫でしたか?」
待ち合わせ場所に向かうと既に目を覚まし回復したゆんゆんと今回爆裂魔法を撃てなくて御立腹のめぐみんが待ち受けていた。
「ああ、ウィズは無事に目が覚めて落ち着いたら向かうってさ。それにめぐみんはこんな事で怒るなよ…」
「そうでしたか…それは良かったです」
「そんな事とは何ですか⁉︎今回はたまたま出番が無かっただけですが、もし止める事が出来なければ私の爆裂魔法で一撃ですよ‼︎」
俺の報告に安堵するゆんゆんに、今回何も出番がなく体力を持て余しているめぐみんがそれを発散せんとブンブンと杖を振り回す。
この光景を見るとまたいつもの日常に戻ってきたなーと実感する。いつまでもこんな日常が続けば良いと思うが、そんな事は多分あの女神が許してはくれないだろう。あくまで俺はこの世界の魔王を討伐する為に送られて来たのだから。何かしらの催促が来るのかも知れない。
「では機動要塞デストロイヤー撃墜を祝して乾杯‼︎」
誰かの掛け声を合図に各自手に持っているシュワシュワの入った容器を互いにぶつけると一気飲みを始める。今回は俺達が主役の為面倒なスピーチがあるのが嫌だったが、酔いが回ると案外俺は饒舌になるのか意外とすんなり、何なら楽しんだ位のテンションで話始めるのだった。
そうして意外だったのかミツルギは酒に弱いらしく、すぐさま赤くなっては取り巻きの女性に介抱されていた。
「では、景気づけに此処は私の爆裂魔法を一発‼︎エクスプロォォォォォォォォ⁉︎」
「馬鹿野郎‼︎こんな街中で爆裂魔法なんざぶっぱなそうとすんじゃねーーーよ⁉︎」
酔いが回ったのかとんでもない事を口走ったので、すぐさまめぐみんの腕を握り引き戻しながら彼女の魔力をドレインタッチで吸い取る、爆裂魔法は威力に比例して魔力の消費も莫大なので少し吸って仕舞えばこの様に木偶の坊になってしまうのだ。
めぐみんの発言に凍りついたゆんゆんに、彼女の魔力を吸い取ってもう爆裂魔法は使えない旨を耳打ちで伝えて安心させる。流石リッチーのスキル、覚えてから数日でかなりのパフォーマンスを魅せてくれる。これなら今後はウィズから色々スキルを教わった方がいいのかも知れない。
「あの…カズマさん」
「ん?あぁウィズじゃ無いか、体調は大丈夫そうか?」
酒場で冒険者達の出し物を見ていると、背後からコッソリと呼ばれる。後ろを振り向くとそこにはウィズが柱に隠れる様に立って此方に手招きする。
何か秘密裏に話したい事でもあるんだろうか、このまま夜の誘いだったら良かったのだが、彼女の表情は真剣そのものだったのでそれは無いだろうと卑しい思考を掻き消す。
「で、どうしたんだウィズ?こんな人気のない場所に…」
「これは…その…言うべきか迷ったのですが、これからを思って見せておきますね」
彼女はそう言いながら俺に腕を突き出し、上から覆っていたローブの裾を捲った。そこに現れたのは真っ黒く爛れたウィズの腕だった。
「これは…え?」
「これは多分カズマさんが私に流した魔力が原因だと思います」
「俺が…」
突然の事にビックリするが、その可能性を考えなかったと言えば嘘になる。気づくべき要素は多々あり、最も近況はコロナタイトを凍らせる際に出た黒いオーラのような物だ。
「多分カズマさんの魔力は以前に私に放とうとした黒い炎の性質を魔力に秘めているんだと思います。今回私に魔力を流した事でそれが混ざりこうして私の腕を侵食し始めているのだと思います」
「それは…大丈夫なのか?」
「今の所は店のマナタイトで回復させた私の魔力で抑えていますが、この炎は一度着火した対象を燃やし尽くすまで消えないのが原則になっていますので、こうしてカズマさんに魔力事吸い取って頂きに来たところです」
「そうか…一応何とかなるのか…」
「これはリッチーである私だから何とかなりましたが、もし仮に今回流したのがゆんゆんさんでしたら恐らく気絶している間に燃え始めていたかも知れません」
取り敢えずは他の人に魔力を流さないで下さいと彼女は俺に忠告する。俺はそれを肝に銘じ、恐る恐る彼女の黒く変色した腕を触り魔力を吸収すると彼女の腕は見る見るうちに素の白い肌へと戻っていった。
「ふぅ、これで一件落着ですね…私自身カズマさんが吸収して戻らなかったらどうしようかと思いましたよ」
「全くだよ…まさか俺の魔力がこんな面倒臭くなってるなんて思いもしなかったよ」
元に戻った事で2人とも緊張の糸が切れたのか先ほどまでの真に迫った雰囲気は無くなり、何時もの感じに戻る。
「所で何でそんな事になっているんでしょうか?カズマさんのその力は一体どこで手に入れられたのですか?」
「さあね、それは良くわかんないから女神にでも聞いてくれ」
適当に彼女の話を受け流しながら話を逸らし、ウィズを連れて祝勝会へと戻って行った。