この女神の居ない世界に祝福を   作:名代

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だいぶ遅くなりました。今回は色々なオリジナルの設定が出てきますのでご容赦下さい。m(_ _)m


カズマの日常8

デストロイヤーの襲撃を跳ね除けてから早数日、国からたんまりと報酬を頂戴した俺は平日の昼間からゴロゴロと堕落した生活を満喫していた。

この世界の悪い所は娯楽が少ない所にあるだろう、まずインターネットが無い、この時点でもう全てが台無しだった。もし可能であるならクリスに頼んで異世界からの電波をキャッチする神具でも無いか聞いてみるのも良いかも知れない。もしかしたら特典で物を作り出す力を貰い、ケータイ電話か何かを作成している奴もいるかも知れないし。

考え事をしていると部屋の扉がノックされる。この屋敷にいるのは2人なので多分そのどちらかだろう、こうしてゴロゴロしているので外に連れ出そう画策しているのだろう。

 

「カズマさーん、いい加減外に出ませんか?たまに降りて来て遊び相手になってくれるのは有り難いのですけど、このままだとダメ人間になってしまいますよ」

「ああ、そうだな。それは大変な事だな…ああ大変だ。あと1日寝かせてくれ」

 

どうやら今回はゆんゆんが来た様だ。昨日はめぐみんが来て爆裂魔法に付き合ってくれと言いに来たが、適当な理由で言いくるめて追い出すと渋々ゆんゆんを連れて出ていった事を思い出す。

この調子だと今日もその繰り返しだろうと布団の中に潜り込む。やはり布団は最高だ、疲れた俺の心をこうも優しく包んでくれる、もうこれは布団と結婚するしか無いのだろう。

布団に包まり暖かさを感じていると、ブツブツと扉越しに何か唱えている声が聞こえた後、破裂音と共に俺の部屋の扉が吹き飛んだ。扉は加減したのか幸いにも壊れたのがヒンジ部分だったので修理するのは簡単だったろうが、直すのはこないだ鍛治スキルを取った俺なのだろうと思うと嫌な気分になる。

 

「何すんだ‼︎もし俺が扉の手前にいたらどうすんだよ‼︎殺す気かよ‼︎」

 

ベットから起き上がりドアがあった場所を見ると、そこには貼り付けた様な笑顔を浮かべたゆんゆんと実力行使に出たゆんゆんにドン引きしているめぐみんがいた。

どうやら俺を外に連れ出そうとしているゆんゆんを何時もの日課に連れて行こうと此処まで来た様だったが、ちょうど爆発させるタイミングにここに来た様だった。

 

「カーズーマーさーん」

「分かった‼︎分かったからその手を離せ‼︎着替えるから、外着に着替えるから離してくれ‼︎」

 

彼女は笑顔を崩さずに俺の所までくると、唖然としている俺の頭を鷲掴みにて外に引き摺り出そうと引っ張り出した。流石の俺も女の子1人にここまでされるのは嫌なので抵抗するのだが、悲しくもレベルの差なのか、腕力では敵わずに後ろに引きずられていく。

めぐみんに助けを求めようと視線を送ったが、乱暴に変わってしまった友人を見て唖然としている様でボーとしていた。

 

 

「まったく、何でこんな寒い時期こんな事をしなくちゃいけないんだ…」

 

季節は秋なのだが此処は日本とは違い気温は冬ぐらいに肌寒くなってきている。もしかしたら冬には日本とは比べ物にならない位に寒くなるのでは無いだろうか?こんど寒さや暑さ無効の支援魔法がないか教会のシスターに聞いて見ようと思う。

隣には上機嫌なゆんゆん、後ろにはいつも通りのめぐみん、何か事件でも起こされるよりかはマシだがもう少しの間堕落した生活を送りたかった。

 

「で?今日は何処に行くんだ?クエストに行くならギルドは反対方向だぞ、それともめぐみんのいつもの日課か?」

 

向かっている方向は街の中と外を繋ぐ門でもギルドのある街の中心部とも違った別方向へと進んでいる。このまま行けば商店街の方に出るだろう。

 

「商店街ですよ、そろそろ装備を変えようかと思いまして。ほらカズマさんの服も段々ボロボロになっていますので」

「ああ、成る程な。確かにそろそろ買い換えようかと思ってたとこだったな、あれから着ることも無かったからすっかり忘れてたよ。めぐみんも一緒っていう事は何か買うのか?」

「そうですよ。あの要塞デストロイヤーの撃墜任務の報酬は参加者全員に配られましたので、今回は私も頂いておりますので杖を新調しようかと思っています」

「と言うわけで今日は3人でお買い物にして、任務は明日にしようかと思っています」

 

エイエイオーと手を振り上げるゆんゆんに次ぐように渋々手を挙げる。これで無視しよう物なら次は俺では無くゆんゆんが引き籠ってしまいそうなのでなるべくノリに付き合う事にした。

何故かテンションの高いゆんゆんについていきながら商店街の方に着くと、その久しぶりの光景に来たばかりの頃に来た時を思い出し、あれから色々あったなとしみじみとした何とも言えない余韻に浸る。

 

「取り敢えず装備の方の服屋に行きませんか?」

「そうだな、まずこの一張羅を新しいのに買い換え無いとな」

 

基本鎧とかは鍛冶屋にあるのだが、俺たちみたいな軽装備しか装備でき無い者達は革や軽い素材を使ったローブなどを扱った服屋の様なところに行くのだ。まあ言うて前回行った所と同じなのだが…

基本冒険者の装備は最初に既製品を使い、実力が上がり所持金が増えれば今度はオーダーメイドの装備を作り愛用すると聞く。折角なので今回良いものがなければ俺も作ってみようかと思う。

ゆんゆんとめぐみんのローブなどの装備は紅魔の里に行かないと売って無いらしい。まあデザインが結構奇抜なのでセレクトショップか何かに行かないと売ってなさそうな気がしたが…。

 

2人と別れ前回利用した職業フリーの装備のコーナーに向かう。色々あったがこの世界に来てまだ季節が夏から秋に変わったくらいなのでそこまで品揃えが劇的に変わる事はなく、前と殆ど同じ様な装備品を再び眺める。

前は単純に見掛け等を基準にしていたのだが、俺も色々経験したのか色々知識がついて来たので今まで出会ったシュチュエーションを想像しながら装備を物色する。この世界でも安かろう悪かろうなのか、安い物は生地もエンチャントも微妙なものになっている、そして高い物は高いものなりに良いものになっており、ディスカウントの様に旬が過ぎたものが安く売り叩かれているものもある。

 

今回はボロボロになった装備を買い換えるのが主になっている。なので先に今まで装備していた使い慣れた装備を集めて確保し,それを基準に何か新しくて良い物があったら取り入れて行くスタイルにしようかと思っている。

レベルがあの時から上がりそれによりステータスが上昇している為、あの時に装備出来なかった鎧などが装備できる様になっている。前回より広がった選択肢を加味しながら棚などを眺める。

 

一応俺の低いステータスでも装備することの出来る鎧を見つけて装備してみたが、やはりステータスがギリギリだったこともあるのか重くて動き辛い。これでは剣を振るのが厳しくなってしまう、ミツルギの様に大剣を携えながら大きな火力でゴリ押して行くスタイルなら良いのだが、俺の場合は手数を用いて少ない火力を補って行くスタイルなので方向性が真反対になってしまう。

なるべく今着ているケープの様なマントみたいな動きやすい装備で無いといけない。あるなら同じ形で性能の高い物で揃えれば取り敢えずは支障はないだろう。

 

「はあ…」

 

取り敢えず前に買ったマントと同じデザインの物で魔法耐性のエンチャントが付いている物を選び、同じ流れで胸当てなどの動きの邪魔にならない最低限の防具を新調する。他にもクリスとの組手用にジャージの様な運動着の様な服を購入する。

その後剣を鍛治に出してメンテナンスしてもらい、待っている間に小細工などに使う道具を買い揃える。此の間教わった狙撃スキルがあるので簡易的な弓と矢を買い背中に背負う。弓筒等は一纏めにショルダーに掛けられるように紐を作って貰い、剣で戦う時はワンタッチで外せる様に金具をつけてもらう。

弓は試し打たせて貰ったが、狙撃スキルのおかげか体がまるで知っているかの様に動き、予想以上に綺麗なフォームを描きながら矢を放つことが出来る。こんな方法で今まで努力を積み重ねて手に入れたであろう達人達技術の模倣が可能になってしまうのならそれは恐ろしい事なんだろうが、生きるか死ぬかの世界において簡単に取得できる事はまさに幸運だろう。

的の中心に射られた弓矢を眺めながら、これを自分がやったのだと違和感を覚えながらも実感する。狙撃スキルは距離によって精度が下がり、冒険者カード項目には威力向上、射出速度向上、命中精度向上があるので、バランスを考えながらの強化が必要だろう。

 

 

 

買い物を済ませ、鍛冶屋に預けていた剣を受け取り、2人と約束した合流場所に向かう。

 

「あ、カズマさん来ましたね」

「おっす、悪いな。結構待ったか?」

「いえ私はそこまで」

 

既にゆんゆんが先にいた様なので話しかける。

 

「ところでめぐみんは?一緒にいたんじゃないのか?」

「いえ…めぐみんはずっと杖を選んで居たので、カズマさんが先に来て待たせない様に此処で待っていました」

 

ゆんゆん…良い子だ。

ジーンと涙腺に言葉が響いたが、ここで泣くわけには行かないので抑える。

話によると武器屋の杖が売っている売り場で珍しい杖が売られていたが、どうもめぐみんの所持金では一つしか買えないらしい。なので後腐れがない様に今も尚悩んでいる様だ。

 

「取り敢えずその杖売り場に行こうぜ。悩むって事は結局どっちを買っても後悔するんだから俺が上手く説得して決めさせてやるよ」

「えぇ…それで良いんでしょうか…」

「まあ大丈夫だろ。結局は爆裂魔法しか打たないから、その杖がどんな性能だろうと誤差みたいなもんだろ」

「それ、めぐみんの前では絶対言わないでくださいよ。きっと怒って手がつけられなくなりますから」

 

おお怖い。流石のゆんゆんだ。めぐみんの扱いを分かっている。まあ俺もそんな事だろうとは思っているのだが、俺が思うのとゆんゆんが言う事では言葉の重みが違う。めぐみんは爆裂魔法キチだから慎重に言葉を選ばないとその場で爆裂魔法を放とうとするのだ。

 

 

2人でめぐみんのいる武器屋に向かう。

ウィザードが使う武具は二階にある為、階段を上りフロアの奥に進むとショーウィンドウにへばりつき舐め回す様にめぐみんが杖を吟味していた。

パッと見ホラー映画の様な光景に身の毛がよだったが、なんかもう見慣れて来た様な気がすると思うと自然に落ち着いて来た。何だろう、これが適応すると言う事なのだろうか…。

いつかこの状況が普通の光景だと思って何も感じない時が来ると思うとそれはそれで嫌な気がする。

 

「ん?おや、カズマじゃないですか?どうしましたか、私は今杖を選ぶのに必死なのでもう少し他の所を見ていて下さい」

「いやいやそろそろ時間だから早く決めてくれないか?」

「別に良いじゃ無いですか。どうせ終わった所で家でゴロゴロしているに決まっているですし、このままブラブラしていても何も生み出せないことに関しては同じですよ」

 

このロリガキ‼︎言わせておけば言いたい放題い言いやがって。

…落ち着け。此処はCOOLになるんだサトウカズマ。このまま怒ればめぐみんの思う壺だ。

 

「よし、先に帰る」

「え⁉︎」

 

横で不安そうに眺めていたゆんゆんの表情が驚きへと変わる。

 

「ちょっと⁉︎カズマさん何言ってるんですか?説得するって言ってじゃ無いですか⁉︎」

「いやだってさ…何か面倒くさくなってさ…な?」

「な?じゃ無いですよ⁉︎折角外に出たのにまだ数時間じゃ無いですか‼︎」

「大丈夫だって、人間日の光は15分あれば十分だって言うだろ」

「え?そうなんですか、それは初めて聞きました…って話を逸らさない出くださいよ‼︎」

「いやいや、健康面の話をしていたんじゃ無いのか?てっきり心配してくれていたのかと思って嬉しかったんだけどな」

「え⁉︎そ…それはそうですけど。それとこれとは話が別です‼︎」

 

話を逸らそうとしたが失敗に終わる。付き合いが長いだけあってかだんだん俺への耐性を持ち始めているのだろうか、前は赤子の手をひねる様に逃げられたのだが今回はそうは行かせてくれない様だ。

ちなみに日光を受けると体にあるビタミンDが活性型になるので骨を生成する機能が上がるのだ。引きこもっているとこの活性型ビタミンDを生成出来ずに骨粗鬆症になってしまうので注意である。

 

「それじゃあしょうがないな…このままだと埒が開かないから2人で時間潰しにでも行かないか?」

「え?2人でですか?…そうですね、めぐみんがこれじゃあ仕方がないですね。いきましょう」

 

適当な場所まで行こうと提案したら、予想外に反応良くあっさりと親友をおいて彼女は店を後にする。

 

 

 

 

 

その後何故か機嫌がいいゆんゆんと適当な店でお茶をしていると、悩みに悩み抜いた末に選んだであろう杖を持っためぐみんが追いかける様に見せに来た。時間も時間だったので此処で昼食にする事にして俺の午前は終わった。

 

「うっ…くぅーっ‼︎」

体を伸ばして外の公園へと向かう。ゆんゆん達は何時ものめぐみんの日課に向かって行ってしまった。一緒に行かないかと誘われたが、生憎今回は先約があるため今日も遠慮した。

あのめぐみんも流石に飽きたのか最近コロコロと場所を変えているらしく、偶に変な場所に撃ち込んで半泣きでゆんゆんが修復作業を行なっていた時もあったそうだ。

 

「お!今日も来た様だね」

「ああ、待たせたか?今日は3人で外食していたから遅くなっちまった」

 

公園で待っていたクリスに話しかける。この期間はずっと部屋でゴロゴロしてして居たのだが、体の感覚が鈍るとステータスの低い俺にとっては死活問題なのでクリスの訓練だけは屋敷を抜け出して参加する様にしている。

今回はいつもと違って腰のマジックダガーともう一つ太刀の様な刀を背負っていた。

一体どう言うつもりだろうか、彼女の体格と職業からしてその装備は向いていないと思うのだが彼女なりに考えがあるのだろうか。

 

「いや特に待っていないかな。私もそんなに早く来たわけじゃ無いしね」

「そいつは良かった。で?所で今日は何をするんだ?またトレーニングとかか?」

「いや、流石に何時もトレーニングばかりだと流石に君も飽きて来ると思うから今日は探索に行こうかと思うんだ」

 

ビラっと彼女は懐にしまっていた一枚の依頼用紙を俺に差し出した。

 

「ん?これは…」

 

この紙に描かれたのはキールダンジョンと書かれている。以前俺もこの用紙を見たことがあるのだが、受付のお姉さんに確認した所「このダンジョンは初心者が最初に腕試しで行う場所ですので、カズマさんが求めている様なものは既に取り尽くされていますので他のクエストをお勧めいたします」と俺には勧められず他のクエストを勧められた事も記憶に古くはない。

アイテムは撮り尽くされ、強いモンスターも殆ど狩り尽くされたダンジョンで一体彼女は何を考えているのだろうか。

 

「見覚えがあるかな?まあ君の事だからもしかしたら一度肩慣らしか何かで潜った事があるかもしれないと思うけど、今回は何とこのダンジョンに新たな抜け道の様なものが発見されたとの情報が入ったのだよ」

 

エッヘンと無い胸をはるクリス、しかしその情報が本当なら他の冒険者が黙っている筈がないだろう。

 

「だったら、もう他の冒険者が探索しているんじゃないのか?少なくとも俺だったら知った瞬間には寄せ集めのメンバーで取り敢えず一度向かっているけどな」

 

俺が溜息混じりに指摘するが、彼女はそんな事はどこ風吹く事ないと先程までの威勢を保ち続けている。

 

「ふふふ、そこがこの私の真骨頂なのだよ弟子一号くん。なんと今回この隠し通路を発見した時の情報を仕入れた際の第一号は私なのでした。そしてすかさずギルドの受付さんに今日一杯でいいからと口止めをしてもらったのさ」

「なん…だと⁉︎」

 

彼女のあまりの手際の良さに呆気に取られる。しかし隠し通路か、確かキールダンジョンについては受付のお姉さんも広い割には特に価値のあるお宝は無く、本当に腕試しの様に作られたダンジョンだと言っていた記憶がある。

ならば、もし隠し通路があればそこには広さに見合ったお宝があると言う事になる。未だに誰も踏み入っていないダンジョンの捜索、危険が付き纏うが盗賊のクリスが居るのであれば最悪の事態は免れるだろう。

 

「よし、じゃあ行こうか。ちなみ何か出て来たら取り分は2;1だからね、なんて言ったって私が此処まで下準備したんだからね」

「俺はそれで構わないけど、2人でいいのか?もっと他のメンバーとか呼ばないか?」

「それに関しては大丈夫だと思うよ。前人未到のダンジョンと言っても所詮はアクセル周辺のダンジョンだから危険はそんなに無いはずだよ」

「なら大丈夫そうだな、色々準備が必要だから一旦解散するか?」

「いや、その必要はないよ。心配性の君の事だから色々言うと思って既に君の分の準備も済ませているのさ」

 

ドサっと大きなリュックサックを俺の前に投げ出す、開けて見ると非常食やダンジョン探索に必要な小道具が詰め込まれていた。

 

「いいのか?これ揃えるのに大分掛かったんじゃないのか?言ってくれれば払うぞ」

「はは、気にしなくても良いよ、これに関しては私のお下がりだしね。それに使い終わったら返して貰うし、消耗品に関しては手に入れたお宝から天引きしておいてあげるから気にしなくても良いんだよ」

「そうか、それはそれでありがとな」

 

言われてバックの中身を確認すると確かに使用感があったが、それ以上に丁寧に手入れをしていたのか保存状態が俺が今まで見た道具のそれを凌駕していた。やはりこう言った事には性格が出るんだろうなと改めて思う。

中の物を一つ一つ確認する。此処にあるものはクリスが探索に使う為にチョイスした物である為、此処で覚えておいて後で個人的に揃えておいた方が今後の役に立つだろう。

 

「よし、それじゃ気を改めて行きますか‼︎」

「おー!」

 

パンと両手を叩きながら決起する彼女に続いて俺も手を挙げ彼女に続く。此処が公園で尚且つメンバーが俺だけでなければ張り合いがあったのだが、この状況は側から見れば子供のお遊びにしか見えないだろう。

そんな事はさて置き。置いてあるリュックサックを拾い上げ、ギルドに進んでいく彼女の後について行った。

 

そしてギルドでコソコソと色々手続きを済ませ現在は馬車の集まりにいる。どうやらキールダンジョンはこのアクセルの街からは遠く、一度馬車で近くまで行かないといけないらしい。

券を買いに受付にいくクリスを押し止め流石に此処まで料金を出して貰うのは悪いので馬車代はなんとか払い、指定された馬車に乗る。幸い、今回は貸し切った訳ではないのに、俺達以外の乗客は居らず2人きりになる。

 

「折角だし、トレーニングでもしない?」

 

器具の説明を一通り説明を受けて何とか物にして、やる事が無くなったのでボーと外を眺めて居ると唐突に彼女が提案して来た。

 

「これから、洞窟探索だって言うのに何言ってんだよ。流石の俺だって初めての場所に行くんだからなるべく体力を温存しておきたいんだけど」

「まあまあ、そんな事は言わずに。内容は何時ものとは違って体を動かす物じゃないから大丈夫だよ」

 

どうやら、座りながら組み手とか、そう言った肉体系の特訓ではない様だ。もしそうだったら着く頃には体力が尽きて探索の途中で力尽きてしまいそうだ。

 

「それで?一体何をするんだ?」

「ふふふ、それは簡単な事だよ。今の君に足りない筋力等のパラメータを補う方法だよ、正直言って今の支援魔法だけじゃそろそろ物足りなくなって来たんじゃないのかな?」

「確かにな…単純なステータスで言えば支援魔法を掛けてようやくゆんゆん達のステータスに近づくって感じだからな、もう少し力が欲しくて重ね掛けしているんだけど、どうも重ね掛けしても筋力等が上がっている気がしないんだよな」

「だろうね、支援魔法は掛ければ掛けるほど上昇する数値は下がっていくんだよ。筋力を上げればそれで掛かる負荷を安全に受ける為に周囲の組織を強化しないと行けなくなるんだ」

 

成る程、要するに支援魔法はリミッターを外していく様な物だろうか、人間は本来の力の数十パーセントしか実力を出せないと言われている。これは本来の力を出すと周囲の組織がその筋肉の収縮に耐えきれずに決壊すると言われているからである。よく火事場の馬鹿力と言うがこれは要するに緊急事態だからリミッターを外そうという事になるだろうか。

なので支援魔法を発動すると、そのリミッターを外して体にかかる負荷を免荷して居るのではないだろうか。それか単純に魔力で筋力を強化してそれに掛かる負荷を魔力で緩衝しているのかもしれない。

どちらにしても力を上げれば上げるほど肉体に負担がかかりそれを無意識に抑える負荷を抑えるのに回す為、上昇数値が下がってしまうのだろう。

 

「成る程な、よく分かったけどそれでクリスの言う方法って何だよ、新しい支援魔法でも教えてくれるのか?」

「いやいや、流石のクリスさんでも職業でないスキルは使えないよ。まあその方法事態はは単純だよ、常に支援魔法を掛け続けて君の体に負荷を掛け続ける状況を作るのさ。そうすると徐々にその状態に適応して行って上限が増えると言う算段だよ」

「何それ、無茶苦茶じゃねえか⁉︎そんな体育会系の人達が考案した根性論みたいな方法でうまく行くのかよ‼︎」

 

理屈は何となくわかる。少量の毒を常に喰らい続ければそれに対する耐性を持つ様に、常に支援魔法を掛け続けていればその反動に対しての耐性も上がると言う訳なのだろう。しかし、そうなると常に精神集中の状態を保ち続ける事になるだろう。魔力の使用は感覚的に言えば息を止めたり常に走り続ける様なスタミナの概念に近い物であると俺は思っている。

何が言いたいかと言うと、この長時間の支援魔法の発動は俺にとっては長時間のマラソンに近いのである。クリスが俺に求めるのは24時間マラソンを半永久的に行えと言う物だろう、そんな事は分かっていてもできる物ではない。

 

「大丈夫だって、それに私の鞄にはコツコツ集めたマナタイトが入っているから後のダンジョン探索には気にせずバンバン使ってね」

「おいおい、って事は俺のバックに入っている道具が殆どで、残りが入っていると思っていたクリスの鞄にはマナタイトがはいっているってことか?」

「そうだよ。流石私の助手一号だね」

「はぁ…しょうがねーな」

 

どうやら彼女はこうなる事を事前に決めていたのか、リュックに詰められたマナタイトをこちらに渡す。全く、いつになってもこいつには敵わないんだろうなと諦めに近い溜息が漏れる。

仕方なしに目を瞑りなるべくリラックスしながら支援魔法を自身に掛ける。支援魔法をかける事により全身に何かに包まれるかの様な何時もの浮遊感を感じる。

しかし、常に支援魔法か…今まで生と死の境目で使用していたので気付かなかったのだが、何もない状況で発動して見ると意外に制御が難しい。感覚としては魔力を体に纏い離れない様にする様なものに近く、どちらかと言うと外側よりも内側の修行に分類されるだろう。

 

「あまり強化をしすぎない方がいいよ。最初は本当に微弱強化くらいにして常にその状態を維持する事に専念して」

「あぁ、分かった。やって見るよ」

 

俺が苦戦しているを見るに耐え兼ねたのか、彼女の助言が聞こえて来る。確かに何時もの一度に全力で上げれるだけ上げていた事に気づき、支援魔法の出力を最低のラインまで下ろす。

やはり大きな力ほど扱うのが難しいのか、出力を下げるとさっきまでの苦労が嘘の様に安定する。これなら楽勝だなと思ったが、あくまで最低出力なので何時もの俺のステータスと余り大差が無い状態になるのでこれで戦闘が出来ても殆ど意味はないのだろう。

 

「最初はなるべく動かない様にね、動くのは魔法の維持が安定してきて余裕が出てきたらやる様にね」

「ああ、そうさせて貰うよ。意外にも結構辛いなこれ、何時もの戦いの時はそうでもなかったんだけどな」

「あー。それはそうだね、多分今まで君が自分に掛けてきたのは、掛けて終わりの掛け捨て魔法だったからで、今は常にかけ続けている状態になっているからね。制限時間が無い分制御が段違いに難しいんだよ。けど、もし君がそれを調節できる様になったら強化の幅にメリハリがつくから時と場合で色々と使い分けられるよ」

 

成る程、今までは掛け捨ての様な物で一度掛ければその魔法に込めた分だけの時間が持続するものだったのが、今回は常にかけ続けている状態になる訳だ。そうであるならこの修行は俺の予想以上に辛い物になるだろう、例えるなら常に全力で走っている様な物だ、辛く無いわけがない。だが、逆に考えれば使用する魔力の調整が出来る様になるので、節約等の運用にはかなりのアドバンテージが得られるだろう。

しかし、そんな事を言っては居られない。折角クリスが面倒を見てくれているのだ此処は彼女に期待に応えなくてはいけないだろう。


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