日常パートを書こうかと思ったのですが、理屈とかダラダラ書いていたら書けなくなってしまいましたm(__)m
アレからなんだかんだいって目的の場所へと到達する。気分的にはヘロヘロなのだが、彼女の用意したマナタイトにより断続的に魔力が回復していくので倦怠感はあるが肉体的には余りダメージ的なものはない様だ。備蓄していたであろうマナタイトは元々ポーチに入っていた位の量だが、殆ど無くなってしまい何だか申し訳なくなってしまう。
馬車を降りて山を少し登る、どうやらキールのダンジョンとやらは山の奥に作られているらしく、初心者向けという割には中々にアクセスが悪い様だ。
「集中してたから言わなかったけど随分と無駄が多いみたいだね、もう少しメリハリをつけた方がいいと思うよ。その調子で掛けていると君の魔力じゃすぐ底にきちゃうぞ」
「ぜぇ…ぜぇ…そんな事言われてもなぁ…急にそんな達人みたいな事出来る訳ねぇだろ⁉︎」
「ははは、まだまだこれからだね、頑張って精進したまえ弟子一号くん‼︎」
息を切らしながらスルスルと山を登っていくクリスに食らいつきながらもついていく。支援魔法で体は軽いはずなのだが、常時発動させているためか息が続かない。まるで濡れたマスクをして歩いている様な気分だ。
そして支援魔法を掛けていないにもかかわらず、彼女の登るスピードは早く、反対に支援魔法を掛けている俺は未だ彼女のスピードに縋り付くだけで精一杯である。
まぁ、装備品以外の荷物を全て背負っているのは俺なんだが。
登っていく際中に木々の根っこや植物の茎や木の枝に足を取られそうになったが、何とか踏ん張りながら必死に踏み留まる。なんか何処かの漫画で山登りは修行になると言っていたが、あながち的外れではないのだろう、普段とは違う凸凹した足場で安全を一々確かめずアクシデントがあったらその場で対処する、それにクリスの追跡がプラスされるのだ、もしこれの道中の罠が仕掛けられていれば最悪の事態になるだろう。
「なあ、そろそろ着かないのか⁉︎いい加減山登りは飽きたんだけど!それにもし時間が掛かるならそろそろ休憩挟まないか⁉︎」
「何言っているの?ダンジョンはまだまだ先だよ、君は全力だから気づいて無いようだけど、距離で言うとまだそんなに進んでいないよ」
「うそ…だろ⁉︎」
驚愕の事実、どうやら俺は進んでいた様で余り進んでいなかったらしい。前方を確認して後方を振り向き景色を確認すると、後方には霞が掛かって良く見えない…つまりスタート地点が見えなくなるくらいには進んではいる様だ。
しかし、これでまだまだと言うからには進む距離は更に続いているのだろう、これからこの地獄が続くと思うと気が滅入る。
そんなネガティブな事を考えながらも、そんな俺の事はお構い無しに遠くへ進んでいく彼女を視界に入れる。集合した時から気にはなっていたが彼女の背中の太刀は一体何なのだろうか、鑑定スキルを取っていないためその場での太刀の価値とかはわからないが、纏っているオーラ的な何から感じるに業物なのだろう。それに彼女の事だもしかしたら何かの神具なのかもしれない。
わざわざこの為に準備したのだろうか、それとも集合前に回収してあの池に沈める前で置き場所に困ったから背負っているだけなのかもしれない。
戦士では無く盗賊である彼女が何故太刀を持っているのだろうか、剣撃系のスキルは持っていない彼女に取っては邪魔なだけだろう。
一体何かの意味でもあるのだろうかと思ったが、そんな事を考えていると追いついて行く余裕が無くなるので考えるのは此処までにする。
息を切らしながらなんとか着いて行く事早数時間、先陣を切っていったクリスが突然立ち止まったので俺も後を追って彼女の横に並ぶ。
どうやら目的の場所に着いた様で、目の前には岩壁に掘られた入り口に相当するであろう穴が空けられているのが視界に入る。
「ふぅーやっと着いた。中々君もやるねー正直此処まで早く着いて来るとは思ってなかったよ」
「はぁはぁ…そうかよ…死ぬかと思ったぜ、俺はこんななのになんでクリスは息が切れていないんだよ…」
「そう?わたし的には結構疲れていると思っているんだけどな〜」
今回は何とかギリギリ彼女を視界から外さない様にしながら走り抜く事に成功したが、その彼女が息を切らさずにしかも軽く汗が滲んでいる程度なのが驚きだ。
俺は冒険者なので様々なスキルを使えるが、彼女の職業は盗賊なので取れるスキルには限りがある筈、なのに支援魔法を使っている俺よりも速度を出せると言うのはどう言う事だろう、単にステータスが俺よりも遥かに高いのだろうか。
彼女は誤魔化す様に笑いながら俺から荷物を受け取り背中に背負うと、そのまま何事もなかった様に洞窟へと入っていった。
「さてさて、それじゃあ探検と行こうじゃないか」
「はいはい、それで今回俺はそうすればいいんだ?クリスの事だから何かやりながらとかじゃないのか?」
念の為に確認する。クリスはいつも俺を鍛える様に指示を出してくる、今回もきっと何かあるに違いないと俺の感が言っている。
「おっ流石だね。最近はよく分かって来たんじゃないかな?今回は敵感知の感度を高めようかと思っているんだ」
「うえ…マジかよ」
「そんなあからさま嫌そうな顔をしないでよ!確かに何時もの修行に比べたら地味で面倒かもしれないけど、このスキルを高められたらそれはそれで色々と役に立つんだよ⁉︎」
彼女の提案にあからさまに嫌そうな表情を浮かべると、それに対して彼女が改める様に訂正を求めて来る。正直盗賊スキルを鍛えるのは構わないけど、俺はパーティー的にも唯一前衛なのでなるべく攻撃系のスキルとかを鍛えたいのが本音なところだ。
「別に鍛えるのは構わないけど、そんな事をせずにレベルを上げてスキルレベルを上げていけばいいんじゃないか?」
冒険者カードで習得したスキルは取ったら終わりでは無く、そこからさらにスキルポイントを消費して能力を高めることができる。例を挙げればめぐみんが爆裂魔法の威力をあげたり、ゆんゆんが魔法の詠唱速度を短縮したりと、一つのスキルにも様々な強化の個性が出て来るのだ。
「それはそれで構わないけど、その冒険者カードで手に入れたスキルはあくまで先の冒険者…君達の先輩の技術をトレースしているに過ぎないって事を知っているかな?」
「知らないし、特に知りたくなかったな…」
「まあまあ、そんな事言わないで話くらいは聞いてよ…君には損にはならない筈だよ」
何やらクリスにはクリスなりの考えがあるらしい。しかし、何時もの長い説明を受けるのは嫌なので興味なさそうな感じを纏いながら誤魔化そうとしたが、俺の意思より彼女の説明欲の様なものが勝ってしまったのか、彼女は説明を始めた。
「…コホン。まずその冒険者カードの由来は、技術の継承を目的として作られたんだよ。昔は今よりも魔王軍の侵攻が過激でね、軍の騎士の子が成長して一人前になったと思ったら魔王軍の幹部に殺されちゃったりとかして、とにかく戦える人達が少なくて前線を維持するのが限界で人員育成にかける余裕が無かったんだよ。」
まるでクリスは見て来たかの様に昔の話を話し始めた。
「それで国のお偉いさんが何とか時間を掛けないで強い騎士を作ろうと考えた結果、この冒険者カードが作られたって訳さ。それぞれの分野で秀でた才能と技能を持った騎士を選別して、その技術を規定のステータスの数値に到った人にトレース出来る様にして誰でもレベルを上げれば何の苦労をしなくてもその卓越した技術を得られる仕様にね」
「けど、安易に力が得られる代わりにこうして君みたいに技術を上げる努力しない者が出て来てしまったのも難点なんだけどさ。所詮冒険者カードで手に入る技術はその時に秀でていた人の技術にしか過ぎないんだから、こうして今の君みたいに応用を効かせて自分だけの能力を手に入れていくって寸法がベストなのさ」
「は〜成る程な…この冒険者カードってそう言う理由があったのか。このカードで能力を手に入れてもそれは仮初の力って事か?」
「そうだね。まあでも便利と言えば便利だからわたしは否定しないけど、もう少しみんなには技術を広げて行く努力をして欲しいものだね。ちなみに新しいスキルとか魔法を考案して冒険者カードに乗ると報奨金が出るらしいから君も頑張って技とか考えてみたら?」
「いや、それはやめておくよ。俺はゆんゆんとかと違って魔法の原理とか仕組みについて知らないし勉強したくもないしな。剣士カズマさんに必要なのは前衛でいかにモンスターを蹴散らせるかって事だけだね」
「ははは、君は相変わらず後ろ向きにポジティブだね。まあ魔法については魔力値が低い君には期待できないから、白兵戦をメインに教えて行くよ」
ドンと任せてくれと彼女は胸を叩く。
どうやら今まで何も考えずに使っていた魔法等のスキルはどこかの誰かの努力の結果と言う事もその目的もわかった。という事はそのスキルを土台にして自分なりにオリジナリティーを出していけば周りの冒険者の連中に対してかなりのアドバンテージを得られるのではないだろうか?
「それで、今日の敵感知のトレーニングはそうするんだ?さっきの話からすると、このスキルカードに載っている付与効果に乗っている物じゃ出来ない事なんだんだろ?」
「さっすがー!やっぱり君はステータスは低いけど頭の回転は早いね」
「うるせーよ‼︎嫌味か⁉︎そうなんだな⁉︎よーし表でろ!」
気になる事を聞いたのだが、褒め言葉なのか盛大なディスなのかよく分からない返事が帰ってきた。日本もそうだけど、なんか俺の周りにいる人間は何でこう思いやりの様な優しい心を持っていないのだろうか?
「いやいや褒めているんだよ。話を戻すけど、敵感知のスキルの感知だけを使って周囲の状況を把握するのが今回の目標だよ。スキルとしての敵感知はレベルに応じた周囲の敵の存在を暴き出す物だけど、上手く君自身の意思で感知の範囲に周囲の状況や様子を追加するんだ。上手くいけば視界を得られながら周囲の状況を把握出来るようになるよ」
敵感知は元々気配を感じるというシックスセンス的な感覚を極限まで害意持ったモンスターに焦点を合わせ、その存在を暴き出すという物。今回はその範囲を周囲の物にも対象にして視界では無く感覚で周りを把握するという事だ。
「うえ…俺感覚的なものは苦手なんだよな…昔スポーツとかやってたけで何やるにもこれはセンスだーとか言われてな。何か指南書的なものはない?あると俺的にはすごい楽なんだけど」
「そんな物ある訳ないでしょ。そんな考えだからセンスがないとか言われるんだよ、センスっていうのは蓄えられた経験や知識があって初めて発揮される物であって、最初かその事に特化した物じゃないんだよ」
「はいはい、サイですか…それにしても感覚でスキルを調節する…か、正直今まで頭に湧いて来たイメージを頼りにやって来たけど今回はそれをさらに俺自身のイメージで変化させて行く事になるのか」
「難しく考えない方がいいよ。今回の要になる敵感知のスキル自体は既に君の頭の中にインストールされている訳だから今回はそれを少し弄る的な軽い気持ちで行こう。そう言えば最初は目を瞑って周囲の気配に慎重になった方がいいよ」
彼女は力を抜いて落ち着いてやれと言っているが、今までよく分からずに奇跡的に上手くやっていた物を急に手を加えるとなるとそれなりに度胸がいる。
初めて両手放しで自転車に乗るような危なっかしい様な気がしなくも無い。取り敢えずやってみない事には始まらない、どのみちクリスは俺が少しでも出来る様なならないと解放する気もない様だ。
腹を括り頭にある的感知のスキルを発動させる。彼女の助言の様に目を瞑ると今頭の中に敵感知の領域が形成され、周囲にある俺に害意を持つであろうモンスター達の気配が洞窟から向いているのがわかる。
その気配を読み取る感覚を徐々に薄くしていき、対照的に俺の周囲にある木々なども範囲に設定し直す。それに呼応してか周囲の岩壁や木々の位置などが何となくだがっすら気配が読み取れる様な気がした。イメージとしては後ろに人が立っている事を感じる様な説明はし辛いが、物が僅かに発する気配や空気の流れ、熱音など五感で感じられる物を極限までに研ぎ澄ませ世界を感じると言った方が正しいだろう。
彼女が言っていた事は多分これの事なのだろう。しかし感知が出来たのは良いのだが、先程の支援魔法と同じで維持するのもまた困難であるのだ。このままだと俺の精神が悲鳴を上げてしまいそうな位にはしんどいが、目で物を見なくても周囲の状況がぼんやりだが分かるという全能感には思わず笑みが溢れて来そうだ。
「成る程な、でも目を開いて居ると視界の方が勝っちゃうから支援魔法みたいに常時発動するのは難しいな。まあ暇な時にでも練習するよ」
目を瞑っていればまだ薄らだが周囲一メートルくらいならわかるのだが、どうしても目を開いて景色を見てしまうとそこに意識が集中してしまうので途切れてしまう。テレビを見ながらゲームをしつつ勉強をする様なマルチタスクは正直男性脳である俺には難しいだろう。まあ左右の脳の情報を行き来させる脳梁を強化する支援魔法でもあれば話は変わるんだが、そんな都合の良い魔法はないだろう。
「え?何言ってるの?今日はこのダンジョンを目隠ししながらついて来てもらう予定だから後に練習なんてできないよ」
「は?」
キョトンと何言ってるのと言いたげに彼女は不思議そうな顔をしながら俺が楽な方向へと逃げるのを妨げる。そして彼女はカバンからアイマスクの様な目隠しを取りだし俺に渡した。
「マジかよ…ここに来て辛くないか?俺は支援魔法を常に掛けながら此処まで来てるし今もこうして掛けたままなんだけど、それに今度は敵探知を加えろとか鬼畜すぎないか?人間にできる範囲を超えてるぞ」
「そんな事はないよ、もしそうならそれは君の努力不足だよ。今は居ないけど私の知り合いの子達はそれに更に色々追加してたから大丈夫だよ」
「えぇ…クリスって何なの?昔の勇者の一族かなんかなの?そんな達人みたいな人達見たことないんだけど」
「そんな事はないよ、この位の実力者は最近は見ないけど昔は一杯居たよ。確かに君はアクセルの街から出て来た事はないから分からないと思うけど、魔王軍幹部とやり合ってる前線メンバーに追いつこうとしたら君のそのステータスと職業だとこれくらい出来ないと話にすらならないよ」
「うげ…痛いところをついてくるな。確かにステータスには自信が無いけど、俺は知将向けだからそこは何とかそれでフォローするから大丈夫だ」
「そんなこと言っても君のパーティーは君の他にはウィザードの子が2人だけじゃ無いか。もしそんな事を考えて居るなら前衛を1人入れた方がいいと私は思うけどね」
「はぁ…全くクリスには敵わないな…一応はお願いしてる立場だからな、仕方が無いいっちょやってみるか‼︎」
「おーいいね。君のそう言う所嫌いじゃ無いよ」
パチパチとお伊達に乗せられたと言うか、手の上で転がされた俺の発起に拍手を送るクリス。しかし言ってみたは良いけど、考えて見れば支援魔法を常時掛けながら敵感知を行い続けると言う作業を同時にこなさないといけない事になる。
大丈夫なのかこれ、と考えながらクリスから目隠しを受け取りそれで目を覆う。
視界が目隠しにより覆い隠され視界が闇一色へと変わり出す、それに合わせて敵探知を発動させ周囲を探る。感覚のコツはまだ掴めていないが、ゆっくり歩いていけば壁にぶつからない程度には把握出来る。
「よしそれじゃあ行ってみようか。流石にダンジョンの中だからゆっくり歩いてあげるから安心してついて来て良いよ」
「ああ任せるよ。モンスターが出てきたらどうすんだ?道の端で潜伏で隠れていればいいのか?」
「いやいや、冗談はよしてよ。この状態で君には戦ってもらうよ、まあ流石に今回は目隠ししてもらってるから多少は大目に見てあげるから大丈夫だよ。それにこのダンジョンは一応は初心者向けだから今まで君達と戦っていたモンスターよりかは弱いと思うよ」
「そんな事言われてもな…わかると言っても正直動き回る相手に対しては自信が無いと言うか…なあ?」
「まあ、その辺りはやってみて決めるよ」
正直歩き回るのもしんどいんだが、それにこの状態で戦闘までやらないといけないのか…ぶっちゃけ懐中電灯なしでホラーゲームをプレイする様な危険さを感じるんだけどな。
それじゃウジウジしてないで行くよ、と彼女はそのままダンジョンの入り口を突っ切って行った。
「おい待てよ、俺今目が見えないんだぞ‼︎急に行くなよ、せめて動く前にどうするか説明をしてから進んでくれ‼︎」
俺を置いて先に進んで行く彼女に文句を言いながら続いて行く。足元の気配を感じ続けていないと引っ掛かって転んでしまうので注意が必要だ。
「それで、目的の隠し通路って何処なんだ?このダンジョンは2、3階が最終階って聞いていたけど」
「そうだねー、ギルドに提供されたマップを見るとそろそろなんだけどね」
壁に手を当て恐る恐るすり足気味に進んで行く。モンスターの方は既に先人の冒険者達によって狩り尽くされているのか今の所遭遇する事はなく安全に進めている。だがモンスターが居ないのは良いのだがこのダンジョンにあるお宝等も先人の冒険者達によって発見されて居るので、収穫の方も無しという残念な結果となって居る。
ダンジョン事態は制作者の性格が反映されて居るのか凸凹のないバリアフリーの様な構造になっており、引っかかる事は無かった。そして長い時間敵感知を発動していて、いくらかコツが掴めてきたのか壁の模様など細かいものは分からないが今では歩くことが出来る様になってきている。ちなみにクリスはどの様に写って居るかというと、その身体的特徴が合間ってかスレンダーなマネキンの様なイメージ像が俺の頭で処理されている。
「ちなみに所々ある宝箱みたいな物があるんだけど、それは開けなくて良いのか?それともミミック的なトラップなのか?」
途中宝箱の様なシルエットが脳内に描かれるが、彼女はそれを尽く無視して言っている。であればミミックやトラップの可能性を考慮しないといけなくなってくる。まあ大方のトラップ等も既に先見の冒険者によって解除されたままになっているのもあるのだが。
「お、よく気がついたね…と言いたい所だけど、周囲の構造物に気を取られすぎて本来の敵感知が疎かになっているよ。同時に発動したままは辛いと思うけど気を引き締めてもう一度イメージし直してごらん」
どうやら彼女のいう通り周囲の気配を探る事に集中して、本来の敵感知が疎かになっていた様だ。
もう一度気を入れ直し本来のスキル能力を含めて再び敵感知を発動し直す。すると宝箱から敵を示す赤アイコンが頭に描写される、どうやらこれはミミックか何かの類である様だ。
どんなものかと思いその宝箱から距離を取りながら足元位にあった小石を掴んでその宝箱の前にぶつける様に投げた。
「ちょっと何してるの⁉︎危ないよ‼︎」
それをみたクリスが俺を咎める。しかし投げた物はもう戻らない、投げられた小石は綺麗な放物線を描きながら宝箱にぶつかり、今度はそれに反応したのかミミックの敵感知のマーカーが強くなったと思ったと思うと、その小石を後ろにあったのだろう大きな口が突如現れて宝箱ごと小石を飲み込み、暫くの咀嚼の内に宝箱のみを吐き出した。正直あまり細かく分からなかったが、わかる範囲でエゲツナイ事が起きている事だけは分かった。
「うえぇ…マジかよ」
「もう、気をつけてね。ある程度は私がフォローするけど、勝手な事をされると流石の私でも限界があるんだよ」
「ああ、悪い悪い」
そのまま何事も無く進んで行くと、ようやく目的の最後の部屋へと辿り着く。本来はこれで終わりなのだが、クリスが慣れた手つきで壁の模様か何かを弄り押して行くと、正しいパターンに反応してか壁が変形して新しい道が形成される。
そこから先が未開のルートとなる。アイテムも宝箱も一新されるが、モンスターまでも一新されるので気を引き締めて行かないと命の危険性を孕むだろう。
「よし、それじゃあ気を引き締めて行こうか。此処から先はマップが無いから迷わない様に気をつけてね、君も腰の剣を構えておいた方が良いかもね」
「ああ」
彼女はそう言いながら腰に下げていたマジックダガーを取り出し構えながら進んで行く。本来なら後衛の俺が道をマッピングしながら進んで行くのだが、現在この様に視界を制限しているのでまだ紙などに書かれた文字や絵などは見る事は出来ないので今回は勘で行くことになっている。
「気をつけてモンスターだよ‼︎」
「おうよ‼︎俺はこいつを何とかするから残りを頼む‼︎」
「うん分かっ…ってそれだと殆ど私が相手する事にならない⁉︎」
進んで行くと、やはり避けては通れなかったアンデットの群れに遭遇した。気配的には四体程だったが取り敢えず俺の近場に居た奴から相手をする事にして残りを彼女に任せる。
やはりまだまだ経験不足なのだろう、動いていなければ狭い範囲で分かるのだが、こうして動かれると頭の中で描かれる像がブレにブレて下手くそ写真選手権の様になってしまい、俺はそれを必死に剣で追いながら攻防戦を繰り広げて行く。
初心者用ダンジョンでも後半訪れれば難易度が上がるゲームとかあったので、隠し通路の先はまた違うのかと思っていたが、こうしてモンスターといざ相対してみて見ると、そういう事はない事を実感する。
支援魔法を掛けていることもあって、何とか攻撃を当てる事に成功してモンスターを討伐すると、既にクリスは討伐を終えて居たのか壁際で俺の戦闘を終えるのを待っていた。
「待たせたな」
「そうだねー、まだまだ修行が足りませんなー」
普段ならすぐ討伐できるモンスターにてこずりながら若干息が上がっている俺を見て彼女は笑いながらそう言った。じゃあお前がやって見ろよと言いたいが、彼女はそんな事は朝飯前だよとやり遂げてしまいそうなのでやめておく。
暫く進み幾分か戦闘を終えて進んで行くと、ようやく最後の部屋らしき所に到達する。本来ならダンジョンの主か宝か何か有るはずなのだが、其処には何も無くただの行き止まりとなっている。
「此処で終わりか?何か有ると思ったんだけど何も無かったな」
「いや、そんな筈は無いんだけどね…」
クリスも予想外だったのか先程と比べて声に余裕がない様に感じる。俺的には何も無くても良いのだが、盗賊である彼女的にはそれでは済まないのだろう。
「君も少しは考えて貰えるかな?此処が多分最深部の筈なんだよ、目隠している君にはまだ分からないと思うけどこの部屋には彼の紋章が描かれているんだ」
「紋章?」
色々疑問に思ったが、彼女がそう言うならそうなのだろう。仕方ないので敵感知の精度を限界まで高めて行く、正直マナタイトが底を着きそうなので支援魔法を薄めにして敵探知もギリギリにしていたのだが、そんな悠長な事は言っていられないらしい。
動きを止め、全ての感覚を無に戻して部屋の隅々までの気配を探る。すると部屋の奥に少し違和感を感じる、多分隠し扉か何かで仕切られているのだろうが隙間風の様な何かが突き抜ける様な気配を掴み取った。
「開ける方法は分から無いけど、この奥の壁の先に部屋が有る」
「本当?オッケー流石は私の弟子1号君だ‼︎」
そう言いながら彼女は部屋の奥の壁を弄りながら何か仕掛けがないか確かめ始める。しかし、暫く待っていても彼女がその仕掛けを解く事は無かった。多分この扉を開ける方法は無く、このダンジョンの主の意思でのみ開くとかそんな感じだろう。
「はぁ…正直この手は使いたくは無かったんだけどね…」
「どうしたんだ?何かするのか?」
「いいから、君も早くこの部屋から出た方が良いよ」
「お…おう」
暫くして諦めたのか、彼女は懐から何か瓶を取り出して指示通りに俺が部屋から出る頃を見計ってそれを壁にぶん投げた。
壁にぶつかったそれは爆発ポーションだったのか、物凄い轟音を立てながら爆発し、あたり一面を埃まみれにしながらも壁に大穴をこじ開けたのだった。
「よし、それじゃ行こうか‼︎」
「えー嘘だろ」
彼女の元気に満ちた声を聞きながら奥へと進んで行く彼女に続いて部屋へと入っていく。
その先には小さな部屋になっていた。その部屋のレイアウトの半分はベットに占拠され、ベットの上には誰なのか分からないが女性の亡骸が寝かせられており、その隣に椅子に腰掛けたミイラの様な誰かが居た。居たと言うのは俺の感知スキルがそのミイラを認識したからである。ただ寝ているのか、敵意とかそう言った意思を感じない。
「やっと見つけた、君を見付けるのに苦労したよ…キール君」
彼女はそのミイラの名前を悲しそうに呼びながら、正面に相対すると背中に背負っていた太刀を取り出して構える。その太刀の刃はこの世では無い様な輝きを放ち、神具の一つである事を示していた。
「君の奥さんとの約束だからね。安心して、次の人生でも君達は一緒だよ」
ポツリと言葉をこぼす。多分これは彼女の事情なのだろう。
ふう…と彼女は目を閉じて息を整える。そして精神統一を済ませたのか、目を見開いたかと思うと一瞬にして椅子に座っていたミイラを細かく切り刻んだ。
そのあまりの手際の良さ、多分何かの型のだろうか、その研ぎ澄まされ洗礼された動きは俺の感知スキルでは、ブレるとかそんなチャチなものでは無くほんの一瞬、彼女の気配は先程のモンスターみたいにブレるのでは無く、俺の認識から完全に消えていた。