モブキャラは名前を考えるのがアレなので〇〇と表記しています。
「あの…何でしょうか?」
「貴方がサトウカズマですね。私はセナと申します」
「はぁ…それは丁寧にどうも。それで何かようですか?」
セナと名乗る女性は俺をキッと睨みつけながら話を続ける。
「キールダンジョンにて謎のモンスターが発生し、近隣の人々が迷惑しています。調べてみれば最後にあのダンジョンに入ったのはあなた方と聞きました、ですので事情を聞きに来た次第です。何か心当たりは?」
「いや、特に無いな…入ったのは俺だけじゃ無いし、もう1人の方に話は聞いたのかよ」
「いえ、彼女に話を伺おうとしましたが見当たらず、調べてみれば住所不明で風の様に現れ風の様に去ってしまうとの事でこちらでも所在は掴めていません。なので手っ取り早く所在の明かな貴方に話を伺いに来ました。もう一度尋ねます、何か心当たりは?」
突然の来訪に一方的に俺を犯人とした不躾な態度、状況証拠だけなら確かに俺達が犯人だと疑っても仕方がないが、だからと言って此処まで一方的に決めつけられるのは心外だ。
「無いね。俺はあくまでクリスについて行っただけだし、関わった人に話を聞けば分かると思うけど俺はずっと目隠しをしていたんだぜ。仮に何かあったとしても俺が犯人な訳ないだろ」
「確かに…馬車の者に話を伺った際にはその様な事をおしゃっていた様な気がしますが…しかし、かと言ってそれがダンジョン内でもそうだったという証拠にはなりません」
彼女は口元を押さえながら俺の主張を頭で反芻し、考えながら言葉を返す。どうやら俺を解放するつもりは無いらしい。此処が屋敷でなければすぐさま撒けたのだが、生憎、今現在寝起きで装備も何も無い上にラウンジではまだ2人は寝ている。この世界に関しての警察の役割やそれに付随する法律、犯人逮捕までのやり方等々知る機会がなかったので調べずにここまで来てしまい、結局警察が何処まで踏み込んで来るか分からないが、此処で逃げたとこれで2人を人質にされそうだ。
「はいはい、それじゃ俺はどうすればいいんだ?」
「警察署の方で尋も…話を聞かせて頂きます」
今こいつ尋問って言いかけなかったか?この世界ではもしかしたら尋問に拷問を用いるかも知れないと思うとゾッとするが、最悪原因はクリスにあるので何かあっても彼女が助けに来てくれそうな気がするので流れに任せようと思う。
「では、こちらに…」
「いやいや、ちょっと待てよ。俺の格好を見てくれよ、さすがにこの格好で警察署まで行くかよ‼︎」
俺の現在の格好は昨日のクエスト様の装備になったままなので、その後に行ったパーティーの臭い等々が染み込んだままになっている。流石の堕落しきった俺でもこの状態のまま外に出るのは憚れる。俺にも世間体という物があるのだ。
「ああ、すいません。てっきりそれが私服だと思いましたので」
「失礼だなコイツは‼︎」
その後、屋敷周囲を囲まれ逃げ出さない様にと監視されながらも俺は着替えを済ます。前回買っといて良かったと思いながら買い物のつでに購入していた洋服に着替える。
デザインは微妙と言うか、店にある服のデザインがどれも無地の物しか無いのであまり代わり映えが無いが、それでも先ほどの格好よりかは幾分マシだろう。
「あれ、カズマさん?何処か行かれるのですか?」
下に降りてラウンジに向かうと、ちょうど起こそうと思ったタイミングでゆんゆんが起きていた。
「ああ、悪いな。今日は警察官の彼女とデートなんだ」
「そうなですか気をつけ…え?デート⁉︎」
俺の発言に驚くゆんゆん。まだ少し寝ぼけているのだろう顔が少し気怠そうだ。
「そうなんだ、何でも俺の話が聞きたいそうなんだ…全くモテる男は辛いぜ」
フッと澄ました表情でスカして見せると、先程の衝撃で目が覚めたのかゆんゆんの表情がやや疑い半分呆れ半分の微妙な表情へと変化していた。
「それって単純に何か悪さして事情を聴かれているだけじゃ無いんですか?」
「うっ‼︎」
流石ゆんゆんだ…この世界に来てから一番長い付き合い為か、俺の突かれたく無い事情を正確に見抜いてくる。
「図星ですか…それで一体今度は何をしたんですか…」
「いや、分からん」
「分からないって、どういうことですか?」
「昨日キールダンジョンに行ったんだが、どうにもそこから謎のモンスターが発生したらしくてな。それで最後に行った俺が疑われている訳だ」
「えぇ⁉︎完全に濡れ衣じゃ無いですか‼︎」
「そうは言ってもな…最後に入ったのが俺達だしな…それにクエストの内容だけど未開エリアの探索が主だったし、ダンジョンの主もついでに倒しちゃったしな」
「また随分と一度に色々やってしまいましたね…」
ゆんゆんも流石にフォローできなくなったのか言葉に詰まるり返答ができなくなる。今回に限っては流石の俺も言い訳ができないので無理もないだろう。
着替えを済まし、ゆんゆんにもしばらくまた遅くなると伝える。ゆんゆんは何処か寂しそうな顔をしながら俺を送り出し、セナと名乗る警察官の後について行く。
正直何も悪い事をしていないのに警察に連行されて行くというのは些か心に来るものがある。本来であれば、パトカーか何かで中がわからない様になってはいるが、この世界にはそんな物はなく…まあ同じ街にあるのなら必要は無いんだが、前後警察に挟まれながらわざわざ街のど真ん中を突っ切って行くのもアレだ。
「なあ、もっと路地裏とか迂回して行かないか?正直何も悪いことしていないのにあんたらに囲まれると、まるで俺が悪いことしたみたいになっちうんだけど」
既に周りの人は俺の姿を見るにコソコソと何かを話し始めている。声のトーンからしてあまり良い話では無いことはわかる。多分ついにやったわあのクズマとか言っていそうだ。
きっと明日の新聞は三面記事で俺の悪口だろう。
「別にやましい事が無ければ問題ないはず、仮に貴方がそう思うのであれば日頃の行いが悪かった自分自身を恨んでください」
「クソッ‼︎なんて奴だ‼︎」
俺の必死の訴えかけにも彼女は動じず、眼鏡の位置を戻しながら冷淡にそう言った。
しかし、日頃の行いか…確かに色々やってきたがそこまでの事はしていない気がするが、周りの反応を見るとそうでもない様な気がする。きっと気のせいだろう。
「うお⁉︎誰かと思ったらカズマじゃん‼︎何で警察に捕まっているんだよ‼︎うははははははっ‼︎ついに屋敷の女どもに手を出して捕まったか‼︎」
「捕まっていねぇよ‼︎ただの事情聴取だ‼︎手元に手錠で繋がれていないことから察っせよ‼︎」
連行の途中にダストが現れこれ見よがしに俺を名指しで批判し始め、そしてそれに呼応してか周りの反応が悪化する。成る程、俺の評価が著しく低いのはコイツと絡んでいたせいか。
しかし、原因が分かった所で時既に遅し、こうなってしまってはもう手の打ち用がない、諦めて落ち着くのを待とう、人の噂も四十九日と言うしな。
「そこの金髪、これ以上の発言は侮辱罪に当たります。また牢屋にぶち込まれたいのですか?」
「うぇ…あんたはあん時の女警察官‼︎おー危ね危ね‼︎こんな事でまた牢屋で過ごすとか考えられねぇぜ」
見かねたセナがダストを注意すると、ダストはセナの存在に気づいたのか血相を変えて何処かへと去って行った。
…と言うかあいつ捕まったのかよ。セナは確か新しく赴任したって事はあいつはそう古くない期間で捕まっていた事になる。我が悪友ながら大丈夫なのだろうか?
一回見直そうかな俺の人間関係…
不安を押し留めながら署へと連行される。最初の方は恥ずかしかったが、後半になるにつれて心が無になってきたのか何も感じなくなり、着く頃には別の事を考え始めていた。
「着きました、尋問部屋は一番奥です」
「へいへい」
奥の部屋に通される。部屋には長机と横に挟む形でパイプ椅子が二つ置かれている。
「てか、何で俺尋問されないといけないの?何も悪いことしてないよな。どう見ても犯人を捕まえた後に行われる事情聴取そのものなんだけど」
「何を言っているのですか、あなた方の侵入を機に起こったのならもはや調べるまでも無いでしょう。そして貴方が原因であればあの魔物達が行った責任を取って頂くことになりますので」
「マジか」
俺を椅子に座らせ、その対面に彼女が座ると部下に持って来させたファイルを受け取り内容を確認しながら詳細の説明をし始めた。
そして彼女は一通りの説明を終えるとファイルを閉じ一息付く。どうやら話は段々笑い話では済まなくなってきた様で、既に報告では山の麓の農家などが被害を受けており、そして現在も損害は増え続けているらしい。
これ以上被害を増やさないためにも関係者から原因を聞き出し特定し、早急に対応しなくてはいけないらしい。あと、もし被害原因が俺達の過失であれば2人で被害額を折半しなくては行けないらしい。
「それで、何回も聞きますが原因に心当たりはありませんか?此方としても早く対応に向かいたいので早くして頂けると助かるのですけど。損害賠償の額もこれ以上増やしたくは無いでしょう」
「そうは言われてもね…答えてやりたいのは山々なんでけどさ、俺は本…当に何も知らないんだよ‼︎いい加減クリスは見つからないのかよ‼︎もし原因があるならあいつしか知らねえって‼︎」
「成る程…どうしても口を割らない訳ですね」
「どうしてもって言うか、知らないものをどう答えろって言うんだよ‼︎」
「ならばこうしましょう」
彼女は痺れを切らしたのか部下に何かを持ってくる様に指示を出す。そして、しばらくするとファミレスでよく見るようなプッシュ式の呼び鈴が長机に運ばれてくる。一体これは何だろうか、もしかしてこの機械からけたたましい音が鳴り響かせて拷問しようってんじゃないんだろうか?
「これは嘘に感知してなる魔道具になります、もし貴方の発言に嘘があればこの機械が鳴りますのでその事を頭に入れて行動して下さい」
「マジかよ‼︎この世界にはこんな面倒な物もあるのかよ」
嘘発見機、日本であれば心拍数や脳波を計測して本人にやましい事があれば、動揺により変動した数値がグラフとなって現れる物だ。しかしあくまで感情による物なので訓練を積めばコントロールできるし、その本人に罪の意識が無ければ反応する事は無いのでその信憑性はあくまで参考程度とされている。
この機械はそう言った類のものだろうか?いや、あのセナの自信のある表情から見るにこの世界においてあの機械は信用するに至る物だろう。であればこれからの発言において気をつけなければ自身の首を絞めてしまうだろう。
まぁ…やましい事など何一つも無いので気にする必要は無いのだが、それでも冤罪がある以上安心は出来ない。
「おや、目つきが変わりましたね。何かやましい事でも?」
俺の雰囲気が変わった事を察知したのか、セナは俺に食いかかるように挑発した。そして気のせいかさっきまでとは打って変わり、これが本来の喋り方なのだろうか口調が荒々しくなる。
「別に何も無いさ、ただその機械が誤作動して俺が冤罪犯に仕立てられない様に気を付けようと思っただけさ」
「随分と余裕ですね。いいでしょうその表情すぐさま剥がして見せましょう」
クイっと彼女は眼鏡を持ち上げる。どうやらこれからが彼女の本領発揮なのだろう。まぁ彼女が俺に特に何かしたって事はないんだけどな。
「では聞きます。貴方は昨日キールのダンジョンに向かいましたね」
「はい」
俺が答えると魔道具に反応はなかった。周りの職員の反応を窺うに嘘があるとその場でベルの音がなる様だ。
「メンバーはギルドに登録されたクリスと言う少年だ」
「いいえ」
ベルに反応なし。
「貴様‼︎屋敷の前ではクリスだけみたいな事を言っていたではないか‼︎つまりあの時の発言は嘘だったという事か?」
「いいえ」
ベルに反応なし。
「クソ‼︎どういう事だ‼︎ベルの故障か?職員‼︎他の探知機を持ってこい‼︎後クリスは見つかったのか?」
「はい‼︎今お持ちいたします‼︎クリスという盗賊の方は未だに消息が掴めていません。洞窟のモンスターですが、それは現在手の空いた冒険者によって駆逐作業に向かっています」
どうやら魔導具の故障を疑ったのだろう、嘘探知の魔道具の交換を他の職員に頼み他の部屋から予備を持って来させる。
「ふ、時間をかけさせたな、それでは続きを。先程の発言はどういう事だ?」
「クリスは少年では無く女の子だよ。まぁ確かに少年に見えなくもないけどな」
「クッ〇〇め‼︎」
現在俺の眼前には先程の魔道具に加え、もう一つの魔道具が置かれて計二つ仲良く並んでいる。その光景は昔に見た音階の違うベルを並べて曲を再現する動画を彷彿とさせた。
そして、俺が間違えを指摘すると、報告書を作成した職員の名前だろうか聞いた事の無い名前を憎しみを込めて叫んだ。
ちなみにクリスに前「クリスってパッと見少年みたいだよな」と言ってしまった事があるが、その時の彼女の表情は般若を超える様な正に鬼の形相でその日の修行は過去最高にキツかった。
「コホンッ‼︎話を戻します。それで、そのダンジョンでは隠された未開拓の道を進んだそうですね、そこで何か変わった事はありませんでしたか?封印を解いたり、何かを破壊したとか?」
「いや…特に思い当たると言ったら、魔物を殆ど駆逐した事かな?持ってきた宝は全部鑑定に出して呪いとかは無かったって言ってたし。他にも主を倒してたから、今回に関しては全くの逆だと思うんだよ」
ベルに反応なし。
「どうやら本当の様ですね。ではそこで何か見ましたか?それこそ術式とか?」
「いやだから言ったろ、俺は目隠ししてダンジョンを進んでたんだから景色どころじゃなかったんだよ」
ベルに反応なし。どうやら彼女の当てが外れたらしく勢いがどんどん無くなっていく。
「つまり貴方は今回の件に関しては全くの無関係だと言いたい事か?」
「はい」
ベルに反応なし。
「クッ、やはりクリスの方だったか‼︎…申し訳ありませんサトウさんどうやら自分は間違っていた様です」
はぁ…と溜息を吐き今までの非を謝罪するセナ。どうやら高圧的な態度は仕事柄だった様だ。
「まあまあ気持ちは分かりますよ」
形勢が逆転して精神が落ち着いてきて余裕が出て来たのか、落ち着いた様に尚且つそれでいてなだめる様にセナに話しかける。先程までは喧嘩腰だったが、流石に謝罪した人間に不敬を働くほど俺はクズでは無いので敬語で話す事にした。
「まあ、完全に俺に非が無いわけでは無いと思いますし、それに市民が困って居るんだそれを守るって言うのが冒険者の務めだと思います。もし良ければ俺も原因探索に協力しますよ」
「サトウさん…私は貴方の事を誤解していたみたいです」
セナはまるで聖人を観る様な感じで俺の事を注視した。それもその筈、先程まで犯人扱いして弾圧しようとしていた人間に親切にされたのだ、そんな事をされたなら多分俺でも落ちてしまうだろう。
ふふ、これで俺の立場は安定だ‼︎
しかし、そんな考え虚しく部屋にベルの音が鳴り響いた。
「どうやら、その言葉は心からの言葉では無い様ですね。ですが手伝って頂けるならありがたい話です」
「クソ‼︎何でこんな時に鳴るんだよ‼︎」
ドン‼︎と机を叩きながら項垂れる。
ベルがなった事により、セナの表情は百年の恋から醒めた様なまるでゴミを観る様な表情だった。
「ああ、分かったよ‼︎手伝うよ‼︎だからそんな目で俺を見るな‼︎」
「ありがとうございます。移動にかかる手間はこちらで用意しますので、指定の時間に馬車の集いに向かって下さい。それとゆんゆんさんとめぐみんさんでしたっけ?お仲間さんも来れる様でしたら連れてきて下さい、多分馬車小屋に空きができると思いますので、後間違ってもあの金髪の方は呼ばないようお願いします」
空気に耐えられずに大声でもう一度了承して誤魔化す。一体誰があの魔道具を作り出したのだろうか、もし会う機会があったのなら一発ぶん殴ってやりたいところだ。
そして金髪と言ったら多分さっき遭遇したダストの事だろう。多分あいつの事だ、セナが着任してからの数日間に色々問題でも起こしたのだろう。
「こちらでも総力を挙げて捜索しておりますが、一応クリスさんに遭遇された場合は所に伺う様に伝えてください」
「ああ分かった、面倒だけど伝えておくよ。けど、あんまり期待すんなよ」
念を押されて警察署を後にする。あいつらは余程俺の事が信用できない様だ。
このままコソコソ帰ると変な誤解が街の住民に残ったままになってしまうので、今後の俺の信用問題に関わってくる。なので堂々と胸を張りながら来た道を戻る、心なしか先程まで蔑む様な周りの視線が少し綻んできた様に感じる。
無罪を勝ち取り勝訴の紙を掲げながら屋敷に戻りたかったが、生憎日本語は彼女らに伝わらないので、諦めて普通に帰ることにした。
「おーい、戻ったぞ。全くいい加減にしてほしいよな、こんな善良的な市民を連行するなんてよ」
悪態をつきながら屋敷の玄関を通りラウンジに入る。
中に入ると2人揃ってテーブルを囲み、あのふざけたチェスをしていた。一体あれの何処が楽しいのだろうか、正直チェスのコマに特殊効果がついてるなんて面倒なだけだろう。
「ああ、カズマですか。お帰りなさい」
「お帰りなさい、起きたらめぐみんから連行されたって聞きましたけど大丈夫でしたか?」
一応俺の事を心配してくれていたのだろうか、俺の安否を確認してくる。
「まあ何とかな。それで話があるんだが、一旦そのチェスを置いてくれ」
「え?今良いところなのに置けと言うのですか?ちなみにこのチェスでは夕食の料金が掛けられているのですが、その責任は取れるのですか⁉︎」
「いやいや、めぐみん話くらい聞いてあげようよ」
「何を言っているのですかゆんゆん‼︎負けそうだからって一旦流れを止めて曖昧にしようと思ったって無駄ですからね」
「そ、そんな事無いわよ⁉︎」
どうやらふざけている様に見えていたが、彼女らにとっては真剣勝負だったようでめぐみんの反対を受ける。
…いや話くらい聞いてくれても良く無い?
「あー分かった。これから話す事について手伝ってくれたら夕食くらい奢るぞ」
「え?本当ですか⁉︎」
「え?良いんですか?」
コホンと咳払いしながらそう言うと、まるで即オチ2コマみたいな感じでめぐみんが掌を返した。何て分かりやすいんだコイツは。
「やりましたね、やはり頑張って予約を譲ってもらっただけの事はありました」
「そ、そうよね。折角の機会だもの一番高いのを頼もうかしら」
「おい、ちょっと待て酒場とかの話じゃ無いのか?」
話の雲行きが怪しくなってくる。
「何を言っているのですか、普段の所でしたらわざわざ勝負しないで適当に難癖つけてゆんゆんに無理やり奢ってもらうに決まっているじゃ無いですか」
「え⁉︎最近おごる機会増えていると思ってたらそんな事考えていたの⁉︎」
「あっ…」
「今あっ、って言ったわね‼︎」
「ゆんゆんはいちいち細かい所まで気にし過ぎなんですよ、そんなだからいつまで経ってもぼっちなんですよ」
「それとこれは関係ないでしょ‼︎関係…ないよね」
話が脱線し、俺の目の前でイチャイチャしだす2人。
可笑しいなこの世界は一体いつから百合空間になってしまったのだろうか、そして俺はいつか追い出されるのか?。
不安を抱きつつも2人のやりとりが終わるのを待っていたが、結局何時もの取っ組み合いになってしまったので取り押さえる。
「で、何処に行きたかったんだよ。資金はまだ有るから良いけどよ」
「そうですね…」
近くにあったブランケットでグルグル巻きの簀巻き状態にされためぐみんが不満そうな表情で話始める。
「ゆんゆん友達を増やそうとピンチなパーティーを助けていた所、そのパーティーの方に関係者が混ざっていまして、そのお方がお礼と言って人気で中々予約が取れないレストランの予約を仲介して頂けましたので今度行く話になってました」
「へぇ、因みにいつ何だ?今日の夜か?」
「いえ、一週間後です」
「まだ先じゃねぇか‼︎もっと後に決めろよ」
「そんな事言われましても…突然カズマが居なくなって何も出来なくなったので仕方がないじゃないですか‼︎」
「確かに」
「でしょう!‼︎」
一瞬今夜の晩餐会は豪華なものになりそうだと期待してしまったが、まだ先の話だった様だ。
結構後に楽しみがあれば、そこを目指して頑張ると言う人とそれが気になって集中できない人の2人に分かれるだろう。まぁどっちとも考えは悪くは無いが、頑張って苦しい日を過ごして目標だったものを眼前で掠め取られた俺からしたら、後者の意見に若干だが賛同するだろう。どっちが本音かと言われれば内容によるとしか言えないのだが。
「それで話って何だったったのでしょうか?」
「ああそうだった、2人の話に乗せられてすっかり忘れる所だった」
椅子に縛りつられているゆんゆんに突っ込まれて思い出す。一応集合時間があるので忘れてしまうと何かしらの冤罪か何かをかけられるなどの嫌がらせを受けそうだったので危ない所だった。
危機を乗り越え、一息落ち着いた所で2人に今回の事を説明する。
「成る程、よく分かりました。まあ夕飯を奢って貰えるわけですし今回は特別にこの私の爆裂魔法の使い手の腕をお貸ししましょう」
「いや、打つなよ。ダンジョン内でお前の爆裂魔法が炸裂した日には俺たちは生き埋めだからな」
「え⁉︎」
「ゆんゆんは予定とかは大丈夫か?」
「えぇ、私は特に何も無いですけど」
「よし、それじゃあ各自着替え次第再び此処に集合で」
パンと手を叩いて2人の拘束を解いて、各自部屋に戻るように指示を出す。朝きていた装備は流石に着たく無いので予備の物を開けて袖を通す。そう言えば髪を切っていなかった事を鏡を見て気づく。この世界に床屋なんてものを見た事は無いが、生活に必要ならば何処かにあるのだろう。
剣を腰に差しラウンジ戻るといつもの如く2人は準備を済ませて先に待っていた。どうやらこの世界の女性は準備にあまり時間がかからないらしい。
「おや、ようやく来ましたか」
「悪い待たせたな、場所は俺が案内するから…めぐみんのその大きなバックは何だ?ダンジョン探索とは言ってもそこまで時間は掛からないと思うから置いて行ったほうがいいぞ」
ゆんゆんはいつも通りの格好なんだが、背中に巨大なリュックサックを背負っている。デザインか何かのルーン文字的な物なのかわからないが何かの文字の羅列が所狭しと描かれている。
「これは私の秘密兵器です。今はお見せできませんが、来るべき時が来た時にこの子は真価を発揮するでしょう‼︎」
「マジか‼︎」
「ふふん‼︎如何ですかカズマ、これで私も役立たずの汚名返上を果たす事ができますよ‼︎」
「それでゆんゆん、あのバックの中身は何なんだ?」
「ちょっと⁉︎何ネタバレしようとしてるんですか‼︎」
「さぁ…?何かゴソゴソしているのは知ってはいたのですが、流石に中身まではわからないですね…。でもあのリュックの模様は衝撃を緩和する術式ですよ」
「と言う事は衝撃に弱い物が入っているのか」
「何勝手に中身を当てようとしているのですか⁉︎こういうのはピンチになった時に颯爽と正体を明かすのがカッコイイのではないですか‼︎」
はいはい流すがそれでもめぐみんはカッコイイとは何かと、俺が中学生の頃に熱を出して考えていた様な内容を語り出した。正直言って自身の恥ずかしい黒歴史が共感と共に穿り返されるのでやめてほしい。
「…と言うのが私の思うシュチュエーションなんですよ」
「そうかそうか、めぐみんの言いたい事は大体分かったから早く行くぞ、もう時間がない‼︎」
聞いてあげないと終らなさそうなので聞いていたが、集合の時間が近づいてきたので止めに入る。ゆんゆんに無理矢理行くぞとハンドサインを出してそのまま屋敷を後にする。
「ちょっと待ってください‼︎まだ話は終わって居ないですよ‼︎」
俺達が玄関に向かった事に気づいたのか、文句を言いながら大きなリュックサックを背負いながらコッチに向かって走ってくる。
めぐみんと合流し、馬車の停留所へと向かう。時間的には少しだけ余裕があったのだがやはりセナとその取り巻きは既に到着し待って居た様だ。
「遅い、あなた達は一体何をしていたのですか‼︎」
「遅いって言われてもな…ちゃんと約束の時間には来ただろう?」
「それでも限度という物があります。まさか指定した殆どギリギリの時間に来るとは‼︎」
如何やらふざけている暇は無く、早々に準備を済ませて来た方が正解だったらしい。
社会人の常識といった所だろうか、暗黙の了解とか伝統などこの世の中には見えないルールが多々あり、それを常識と言いながらルールを押し通し、あたかもコッチが間違っているかの様に話を捻じ曲げ責め立てる。
もしそうであるなら事前にそのように説明を済ませれば良いのだ、その方が結果として効率も良い。なんでも自分が考えているように世界が出来ているわけではないのだ。どの世界にも正しいも間違いも無く、あるのはその人の都合だけなのだから。
「まあ落ち着けって、怒るとシワが増えますよー」
「何だと‼︎」
そのまま言い返したかったが、それはそれで面倒なので適当に茶化しながら侮辱する事にした。案外このやり方が一番俺の心に禍根を残さずにやり返せる。
「まあまあ、時間が無いんだろ?早く行こうぜ」
「まったく…この男は」
埒が明きそうにないのと続ければ後々自分に返ってきそうだなと思ったので話を逸らし貸し切ったであろう馬車に乗り込み、キールのダンジョンに向かった。