渋々馬車に乗り込み、ダンジョンへと向かう。
馬に引かれた後部の小屋の中ではセナと俺とゆんゆんとめぐみんの4人で座っている。何故同じ小屋の中にセナが居るかというと単純に女性の比率の問題で、警察のメンバーの中の女性がセナ一人になっており、なるべく女性で固まった方が良いと言う事で彼女が加わったのだが、何故か俺も同じ小屋に同室になっている。
配置としては俺の正面にめぐみん、隣にセナで俺の隣にゆんゆんが座っている。そしてめぐみんは鋭気を養うとそそくさと眠ってしまっている。
「なあ、何で俺も巻き込んだんだよ。正直あまりあの人と同じ空間に居たく無いんだけど」
「そ、そんな事言わないでください‼︎いきなりの初対面であんなに苛々している人と同じ部屋にしないで‼︎と言うか、そもそもカズマさんの所為で苛々しているんですから責任取って治めて下さいよ‼︎」
「そんなこと言うなよ‼︎俺だって頑張って仲良くしようとしたんだぞ」
「何をどう頑張ったらあんなに苛つかせられるんですか‼︎」
小声でセナに聞こえないように会話を始める。
話は少し遡る。
俺は小屋を決める際の女子はまとまった方が良いとの意見が出た時にそそくさと別の小屋へと逃げようとしたのだが、その途中何故かゆんゆんに捕まりそのまま女子の小屋へと引き摺り込まれる。俺は男子小屋に向かうと言ったのだが、ゆんゆんが真に迫った表情で首を振りながら来て欲しいと懇願したので渋々着いてと言うか引き摺られて此処まで来たのだ。
そして乗るや否やめぐみんが眠り始めたので、実質3人で現在気まずい空気になってしまっている。もしかしたら長年過ごした経験でめぐみんがこのまま寝ると分かっていたのだろうか。
「あの…何をそんなにコソコソ喋っているのですか?」
俺達の放っている不穏な空気を察したのか、そして先程の苛ついた態度はどこへ行ったのか、おずおずと俺達の行動を聞いてくる。
「い、いや〜めぐみんが寝ちゃったなー何て」
普段から周りを気にし過ぎるゆんゆんは、もしや聞かれたのでは無いのか?と思ったのかすぐさま話題を切り替える。
しかし、コミュニケーションの経験が少なかった為に墓穴を掘る様な返事をしてしまい、それを察したのかセナの表情に陰りが見える。
「そうですね。先程まで騒いでいたのですが、今はぐっすりと眠っていますね。こちらに来る前に何かされていたのですか?」
「いや別に何かしてた訳じゃ無いな。ただカッコイイとは何かってずっと語ってたな」
「そうですか…」
会話が途切れる。初対面だからそうだろうと言われればお終いだが、こうも取っ付きにくいとこれから何かあった時にいちいち気まずくなってしまう。出来れば何か共通な趣味とかあればいいのだが、そんな物は皆目見当付かない。
そもそも出会いが出会いだったので、その事が多分蟠りになっている事も含まれているのだろう。現時点での様子でしか分からないが彼女の性格はドが付くくらいに真面目なのだろう、なので少なからず俺に罪悪感を抱いているのかも知れない。
「はぁ…」
気まずい空気の中溜息を吐く。どう足掻いても無理そうなので此処は自然装って目を瞑り狸寝入りに逃げ込む事にする。万が一寝てしまっても着いた頃にはゆんゆんが起こしてくれるだろう。
「え?ちょっと何寝ようとしているんですか⁉︎二人っきりにしないでくださいよ‼︎」
目を瞑るとゆさゆさと揺らされながら耳元で小声でゆんゆんから文句が聞こえるが既に寝たフリを貫き通しながら無視する。
目を瞑り沈黙の重圧を耐えていると、そのまま寝てしまい。気づいた時には既に馬車はキールのダンジョンもある山の麓へと着いていた。
馬車が止まる制動を体で感じた後、ゆんゆんに若干憎しみ籠もった肩揺らしを受け、うつらうつらとしながら馬車の外へ出る。
「遅いですよ、何をやっていたのですか?」
出て早々に先に降りていためぐみんから洗礼を受ける。
「いやいや、最初に寝てたのはお前だろ?何自分は違うアピールしてんの」
「何を言っているのですか?私は着いた時にはちゃんと起きていましたよ」
「そう言う問題じゃないだろ」
「そこの二人、話は後にして先に進んでください」
めぐみんと言い合いをしていると後方のセナから急ぐ様に催促を受ける。
仕方なしに装備を確認した後、山道を登り始める。前回も此処を登ったのだが、その時は目を閉じていたのでイマイチその時の感覚と景色が一致しない。
目を閉じて進めば皆に正気を疑われそうなのでやめておくが、それでも感知スキルは常に発動させているので周りの気配は分かるのだが、それでも感度は今後の事を考えて低めに設定してあるので本当にうっすらしか分からない。
支援魔法と感知スキルの同時発動は意外にキツく、スマホを両手に持ちながら違う人間とメッセージのやり取りを行う様な感覚だ。戦闘になればその状況でテレビを見る様な物だろう。
気を抜けばバランスを崩してしまいそうな状況に焦燥を感じながら山を登る。最悪魔力切れを起こした際は、マナタイトはふんだんにあるのでそれで補えば良いのだが、削られた体力は眠らないと戻らないので注意が必要だ。
山道を進んでいく、皆道中に現れるモンスターの注意しているのか会話は無く雰囲気は少しピリついている。
まぁ元々会話は無かったんだがな…。
「セナさん、湧き出てきた正体不明のモンスターって一体なんですか?アンデットとかですか?」
「いえ、私も報告で聞いただけで実際に見たわけではないので詳しくは解りませんが、人型で奇妙な格好をしているとされています」
「何だそりゃ」
事実は小説より奇なりとはよく言った物だ、人型で変な格好と言ったらそれはもう不審者では?と思ったが、多分違うのだろう。
もし仮にそうであったらキールダンジョンは不審者のオンパレードという事になる。そんなものに関わった日には俺のSAN値減少は免れないだろう。
「実際に見てから考えたらどうでしょうか?」
「ん?ああそうだな」
ダンジョン周りを不審者が徘徊していると言う阿鼻叫喚の地獄絵図を想像していたのだが、ゆんゆんには俺の考えが煮詰まっている様に見えた様で心配そうに話しかけてくる。
「心配するな、いざとなったら逃げれば良いだけだからな。後は時間と役所か何かの人員がなんとかしてくれるさ」
「そんなこと考えていたんですか⁉︎」
世の中そのままで済むことなどはないのだ、何事にも最終的に責任を負う人間がいる以上、何の接点もない俺が逃げた所で他の人間が派遣されて何とかしてくれるだろう。
暫く山道を道なりに登りダンジョンの前へと辿り着く。何体かモンスターが湧いてくると思っていたのだが、そんな事は無かった。湧き出てきた正体不明のモンスターとの関連があるのだろうか?
「あ、多分あれですね人形に謎の格好、風貌が報告と一致しています。ですが…何と言いますか」
歯切れが悪そうに言葉を続けるセナ、俺も興味半分でセナの指差す方角を見るとそこには膝くらいの高さの人形見たいなのが整列して編隊を組みながら周囲へと広がっている。
正体不明のモンスターは一言で言えば仮面人形、服装はテーラージャケットにパンツ、そして表立って目立つその仮面。報告の通りの不審な格好だった。
「どうやら他の方々とも合流できそうですね」
先遣部隊と言うか、先にこのダンジョンに向かっていたメンバーらしき冒険者が休憩用にと設置された小屋から此方へとジェスチャーを送っている。
ジェスチャーの内容は人形に気づかれない様にコッチまで来てくれとの事だ。どうやらあの人形に何かある為それを警戒して欲しい、と言いたい様だがあの人形にそこまでの危険性があるとは思えない。不思議に思ったが、先人の知恵を蔑ろにする訳ないはいかないので潜伏スキルを発動し気配を断ちながら数名に触れた状態を維持し小屋へと近づく。
潜伏スキルは発動者に触れた人間にも効果が発言するので、この様に肩や腕を掴まって貰えれば大人数でもモンスターにもバレずに進む事が出来る。
小屋にたどり着く。小屋の中は意外にも広く荷物の割には人が少なくスペースが空いていた。
「先遣部隊、他の方々はどうなっているのですか?書類に記載されている人数と比べると大分少ないが」
セナは小屋の中に入るや否や書類を取り出して小屋の中のメンバーを数え出す。そして、どうやら書類との数が合わないらしく説明を求めているが多分ダンジョンに潜っているだけではないのだろうか?
「それが…部隊は私達を残して全滅してしまいました」
「何だと?どう言う事だ…説明してください」
セナが追求すると先遣部隊の隊長と言うか仕切っている人は悔しそうに状況を説明し始める。
どうやら先遣部隊は先に着くと、すぐにあの人形型のモンスターを発見したそうで、その様子を簡素にまとめてアクセルの支所に送ると取り敢えずサンプルを手に入れようと一体捕まえようとしたらしい。
まあ、あの人形もぱっと見は可愛いかどうかはその人の個人個人によるが、姿形は小型なので特に警戒は必要無いだろうと思い素手で鷲掴みにしようとした時だった
その人形が触れた瞬間光り輝くと共に爆発したのだ。
まさかそんな事になるなんて思わず、特に警戒せずに雑な陣形をとっていたが故に対応が遅れ、部隊に気づいた人形が次々に襲われては爆発を繰り返していき何とか逃げ延びられたこの数人がこうして今居る小屋に避難してきた訳らしい。
「成る程、それは災難でしたね。ですが安心してください、この後も事前に召集をかけておいた冒険者達がやって来ますので、その方々と連携をして対処していきます」
「そうですか…面目ありません」
「いえ、気にする事はありません。触れただけで爆発するなんてモンスター、今まで聞いたことがありませんので、それを予想するなんて事は困難でしょう。ですのでお気に病む事はありませんよ」
泣き崩れる部隊長を慰めるセナ。
急激に増殖を続けるかの様に増えていくモンスター、しかも触れるだけで爆発する上に自分から触れに行動するなんて、生物としてその行動は根本的にあり得ない。その神風特攻隊的な行動から見るに何かの使い魔か何かだろう。
仮に違うとしてもこのモンスターが自然に発生するなんて事は少なくともあり得ない。
最初、ダンジョン奥のモンスターを狩ってアルゴリズムが変化して見たことがないモンスターが住み着いたのかと思っていたが、どうやらそうでは無いらしい。ならば最奥に座していたキールを倒した事が原因なのか?
奥に住む主人がいなくなった事で新しいモンスターが住み着いたのだろうか、そうだったとしたら話が上手くできすぎている。偶然と言われればそうでしか無いが、キールをクリスが狩ったのはまだ昨日の事だ。いくらなんでも早すぎる。
だが、そう定義してしまえば話は合う。
奥に住み着いた新しい主人はあの人形を使い周囲の掃除や偵察をしているのだろう、モンスターはキールが用意したのか自然に住み着いたのかは分からないが少なくとも新しい主人に適応又は気に入られなかった場合にあの様に爆破して処分されると考えられる。
そして全てが無くなったら自分好みにでもレイアウトするのだろう。まるで社会の縮図だな。
「取り敢えずサトウさんは残っている私の部下を此処に案内して下さい。残念な事に今回のメンバーに盗賊や貴方みたいな冒険者は含まれていないのです」
チクリと嫌味の様に聞こえなくないが、セナの表情に余裕がないことからどうやら皮肉ではない様だ。
ゆんゆん達を残して自身に潜伏スキルを掛け、残して来たメンバーの元に向かう。
幸いにも残された部隊が痺れを切らして特攻して居なかったので安心しつつ、着くや否や状況を手短に説明し、俺に掴まって何往復かして小屋に向かう事を伝える。
「そんな事して何になる。そもそもみんなビビりすぎじゃないのか?」
「よせって、さっき説明した様に先遣部隊の何人かはそれでやられているんだ」
「それは皆が油断して居たからだろう‼︎俺はそんなヘマはしない‼︎」
「落ち着け、気づかれるだろう」
「ハッ‼︎何をそんなに恐れてんだ?この根性なしが」
事はそう簡単に上手くいかないのが現実。残って居た部隊は寄せ集めだったらしく、部隊の中の数名は元々グループを組んでいてそのリーダが作戦にケチをつける。
しかし、あの仮面人形はぱっと見雑魚モンスターに見えるのでそう思うのは仕方ないし、何なら俺もそう思っている。だが、あの先遣部隊の隊長の怯えようと余っている荷物の量を見ればあの人形の恐ろしさは考えるまでも無いだろう。
コイツにもその様子を見せてやりたいが、その為にはあの小屋まで連れて行かないといけない。
「おい、さっさと行って片付けちまおうぜ‼︎」
「「おう‼︎」」
俺の説得は虚しく、そのリーダーに続いて仲間がダンジョンの入り口へと向かっていった。
「俺らも行ったほうが良いのかな?」
「待て‼︎行くな‼︎」
何時もであれば気にせずに自業自得だと放って置くのだが、今回無意味に戦力が削れるのは不味いと本能が言っている気がしてならない。
「今回は報酬が良いんだ、このままあいつらに独り占めされてたまるか‼︎」
「行くな‼︎死にたいのか⁉︎」
「離してよ‼︎君には関係ないでしょ‼︎」
嫌がらせか何かを考えて止めるのだが、自分の危険が迫っていて余裕が無いので考え付かず弱気そうな彼に手を振り解かれる。
「あいつらが接触する前に俺に捕まれ潜伏を使う‼︎」
「はい‼︎」
「残ったメンバーは早く麓に避難しろ‼︎」
俺の周囲に居た数人が差し出した腕や肩を必死になって掴む。残されたメンバーはそうして良いか分からずにあわあわしている。
「おら‼︎くたばれや」
入り口の前を見ると、たむろっていた仮面人形に襲い掛かっている最中だった。隊長が振り下ろした武器が人形に触れたと同時に一瞬光り輝いたと思うと爆発した。
「ハッ‼︎思ったより大した事ないな。行くぞオメェら‼︎俺に続け‼︎」
「「おおおおおおーっ‼︎」」
「あの人形は見ての通り触れたら爆発する‼︎なるべく距離を取って攻撃しろ‼︎飛び道具のあるやつはなるべく奴等が近づく前にぶつけて爆発させろ‼︎」
隊長の装備は薙刀で、リーチが長かった為か爆発に巻き込まれずに済んだ様だ。それに大口を叩くだけあってか、それなりに頭も回り実力もある様で指示をしながら適格に人形達を処理していく。
しかし、先ほどから感じている嫌な予感は未だに拭い切れていない。
潜伏を掛けながら先程の小屋へと向かう、幸いにも彼らが騒いでいるお陰で逃げずにどうして良いか分からずにマゴマゴしている残されたメンバーは気付かれていない様だ。
血気盛んに仮面人形を狩っていく隊長グループ。もしかしたらこのまま人形共を大方狩尽くしてしまうのかも知れない。
細やかに期待していると、優勢だった状況は一変する。
大方倒し終えて油断していたのだろうか、そんな時に増援何か仮面人形達が入り口から再びワラワラと湧き出てくる。そして、爆発音を聞きつけてか隊長達を取り囲む様に周りの木々の隙間から外に出て行っていた個体だろうか、それらの集団が集まってくる。
様子としては、真ん中に隊長達のグループが追い込まれ、周囲を人形が囲んでいるといった様子になっている。
「〇〇‼︎どうしますか‼︎」
「おいおい…こんなの聞いてないぜ…」
流石の隊長もこの状況は想像していなかった様で、その表情には焦りを見せている。メンバーにウィザードがいれば状況が変わってくるが、生憎ウィザード達は今俺の腕を掴んでいる方達と小屋に居る者達になっている。
「ったく…しょうがねぇな‼︎お前等‼︎助けに行くぞ、魔法は使えるか?」
これ以上は奴らの命に関わる。クズマなどと普段から言われている俺でも流石に良心が痛む。
腕に掴まっている連中に話し掛けるが誰一人として返事をせず、代わりに帰って来たのは掴んだ腕の震えだった。皆この状況に恐怖しているのだろう、しかしこれでも冒険者の端くれ死ぬ事は覚悟しているはずだ。
「おい、誰か魔法を使えないのか?」
「使えないです…すいません震えが止まらないんです」
年はゆんゆんと同じか下だろうか、パッと見女性に見間違えるくらいに中性的な少年が何とか声を絞り出して俺に意思を伝える。
「何言ってんだよ冒険者だろ?モンスターの命を奪う以上コッチも命を賭けるのは当たり前じゃ無いのか?」
「そんな事言われても困ります‼︎我々は今まで後方で守られながら魔法を唱えているだけなんです。それに、こんな近距離で放ったら間違い無く気付かれます、その時に貴方は私達を守れるんですか⁉︎」
「それは…」
「仮に僕達の魔法で現状何とかなったとしても、未だに増え続けるあの人形達からどう逃げるっていうんですか?まさか出て来なくなるまで戦うなんて言うんじゃ無いですよね」
「だからって見捨てるのか?」
「そうだと言っているじゃ無いですか⁉︎それは最初に貴方が判断した事でしょう?途中で良心の呵責に耐え切れないからって助けようなんて都合が良過ぎます」
確かに彼が言う事は正しい。俺は隊長が人形に特攻した際に彼等を引き連れて小屋に向かっている、もしも助けるのであれば最初に隊長等についていくべきだったのだ。
それを後から助けようとして彼等を危険に晒そうだなんて、今更都合が良すぎるのだ。
一度手からこぼれ落ちた物は二度と戻って来ない。そんな事はこの世界に来る前から分かっていた事だ。
「確かに貴方はパーティーメンバーの自業自得と言えあのベルディア討伐を指揮し、その上機動要塞デストロイヤーを撃破した実績があるかのしれません。ですがそんな貴方に力を貸してくださった方々は今この場所に居ないんです。我々はゆんゆんさんやめぐみんさんみたいにアークウィザードでは無くただのウィザードですし、あの隊長ぶっている人はミツルギさんみたいなソードマスターではなくただの戦士です」
「いくら指揮能力が高かったとしても、僕達の事を何も知らないのに何でもできると自惚れないでください‼︎」
彼は泣きながら俺にもたれ掛かる。彼も彼で精一杯で限界なのだろう、もしも俺が彼なら、間髪入れずにあんなやつ見捨てて行こうぜ、自業自得だ‼︎と言っていたかもしれない。
自身の無力さに呆れて言葉も出ない。
折角貰ったチート能力も活かせずにクリスに頼んで自力を鍛えてもらって何とか頑張っていこうとした先にこれだ、本当に嫌になる。
彼の言葉でベルディアの事を思い出す。酒場でめぐみんが皆から罵声や食器を投げられている時に居た連中に奴等を見た。絶対忘れないと思っていたのに何故か忘れていた。
あの隊長等はめぐみんに対して自業自得だと罵って責任を取れとも言っていた、だったらこの状況は隊長達に取っての自業自得なのだろうか?
だが、それとこれとは別だろう、やられたからと言って命を奪って良い事にはならない。それにこれから作戦があるのだ、メンバーの減少はこちらに不利になるだろう。
「分かった、俺は一人で行くからお前等は走ってあの小屋に向かってくれ。あいつ等は俺が引きつけるし、小屋が近づけばゆんゆん達が気付いて助けてくれる」
最初からゆんゆん達に助けを求めれば良かったのだが潜伏を使用してる為、殆どの情報はシャットアウトしているに等しいのだ。いい加減小屋に戻って来ない俺を心配して出て来てくれないのかと思ったが、セナが居るのでそれは無いだろう。彼女は良くも悪くも真面目だ、規律に従ってゆんゆん達を危険に晒す事はしない筈だ。
それに警戒なのかカーテンを全部閉めてやがる。これじゃこっちの様子が分からないと思うんだが、まあでも人形が人影に反応するかもしれない以上余計なリスクは踏まない方が賢明なのかもしれない。
「何言っているんですか‼︎そんな事したらみんな気付かれて全滅ですよ‼︎」
「そんなのやってみないと分からないだろう‼︎」
「やらなくたって結果は見えていますよ‼︎冒険者の貴方があの火力をどうやって防ぐのですか‼︎」
「それは…」
「その時になったら考えるって思っている様ですが、そんな甘い考えは捨てて下さい‼︎貴方が言っている事は先程の隊長っぽい人と同じだと言う事に何故気が付かないんですか‼︎」
「ーっ‼︎」
彼の言う事に何も言い返せなかった。彼が言う事は何もかも正しくて、反対に俺は何もかも間違っていたと錯覚してしまうくらいの正論に俺の頭は真っ白になる。
正直どうにかなると心の中では思っていた。しかし、今の俺には個々を小手先でどうにかする技術はあってもあの大群をどうにかする手段は持ち合わせてはいないのだ。その役目は何時もゆんゆんかめぐみんが担っていたので必要は無いと目を背けて後回しにしていた。そのツケが今日この最悪なタイミングでこうして周って来た。
俺がクリスに求め、教授を賜ったのは自分を守る方法であってみんなを守る方法では無かったのだ、魔力値が低くてもマナタイトで増強させれば俺の中級魔法でも出力は出せたのだ。
しかし、全ては過ぎた事、後の祭り、時間を戻す術は無いのだ。
「お願いします…あんな人の為に命を賭けないでください…私は貴方に憧れて尊敬しているんです…街中の人を敵に回しても仲間を庇って…自分より強いミツルギさんにも喧嘩を吹っ掛けて、それでいて最後には街の冒険者をまとめ上げて幹部を倒した貴方に私は死んで欲しくは無いんです…」
色々話は都合の良い様に捏造されていたが、俺の行っていた行動は少なからず彼に影響を与えていた様だ。今まで何も出来なかったと思っていた人生は意味があったのだ。
「だけどな…」
「イントキシケーション‼︎」
俺のセリフは途中で彼の魔法で止められる。
話そうと言葉を発した時に彼の指が俺の頬に触れ、呪文を唱える。ゼロ距離で放たれた彼の魔法は俺の意識を奪わずに宙に浮かばせた、正確に言いたいがうまく表現できない…まあ簡単に言えば酔っ払っている様な感覚だ。
魔法による酩酊感に全身を支配され、思考や運動が制限される。しかし潜伏スキルは未だに継続している事から発動しているスキルは制限されない様だが、口がうまく動かないので呪文は唱えられそうに無い。
「な…にを…」
「カズマさんの行動を制限しました。貴方を止めるにはもうこれしかありません…」
「…」
「僕達はこのまま彼から手を離さない様にしながら抱えて小屋の方に向かいます」
思考がフワフワとしながら纏まらないが、思考の浮遊感に肉体の浮遊感が追加されたので多分持ち上げられたのだろう。
せめて事の顛末は知ろうと何とか感知スキルと最低限纏められた思考を向うに向けた。
「クソ‼︎近づくんじゃね‼︎」
「〇〇‼︎どうするんですか?」
周囲を人形に囲まれた隊長等は上手く武器のリーチや飛び道具を利用しながら時間を稼いでいで現状を維持している。正直此処まで持ち堪えられるとは思ってはいなかったので驚きだ。
しかし、隊長等の表情にはもう余裕はなく、極限状態なのか目が血走っており呼吸もだいぶ乱れている、そろそろ限界も近いだろう。多分要である彼が倒れればこのパーティー達は全滅するだろう。
「おいそこの奴ら‼︎誰かウィザードは居ないのか‼︎魔法で一直線に人形を破壊して道を作ってくれ‼︎」
「え…そんな‼︎」
隊長は残されたメンバーに気付いたのか、どうすればいいのか分からずに留まっていたウィザードに助けを求める。だが、それによりそこに人間が居たのだと人形達にバレてしまう。
「ら、ライトニング‼︎」
そこに居たウィザード達が呪文を唱えなが道を開こうとするが、増えていく人形達になす術も無くあっという間に囲まれ、それを魔法で倒そうと詠唱するが、逆にその隙を突かれて人形に抱きつかれる。
人形は何かに触れると爆発するので、抱き付いたと同時に閃光を放ち爆発する。
「うっうぁぁぁっぁぁっぁぁぁぁあああああ‼︎」
それを皮切りに次々とウィザード達に抱き付いた人形が爆発していき、それが誘爆を生み辺りに生えていた木々を吹き飛ばしダンジョン前はどんどん広場へと開拓されて行った。
「クソ‼︎どうなってやが…しまッ‼︎」
隊長はその光景を見て焦ってしまったのだろう、その隙を人形は見逃さずに隊長へとダイブし抱きつくと同じ様に閃光と共に爆発した。
俺の予想通り、隊長を失ったパーティーは統制を失い連鎖する様に迫り来る爆発の渦へと巻き込まれて行く。
そして、その爆発音を聞きつけ麓まで行っていたのであろう個体達がワラワラと湧き出し山を覆い始めた。
「早く行きましょう‼︎カズマさん聞いていますか‼︎」
意識をこちらへと引っ張り戻される。どうやら彼が何か言っているみたいだ。
「カズマさん、貴方は何も悪くは無いんです。貴方が居たおかげで今僕達は救われているんです、それだけは忘れないでください」
「…あぁ」
泣きじゃくっていた彼は今は泣き止んで懸命に俺を運んでいる。
ユサユサと揺られながら、稲妻の閃光音が鳴り響く。何事かと思い感知の意識をそこに無理やり持っていくと、爆発音で気づいたのだろうゆんゆん達が小屋の外から援護射撃の如く俺らの後方に稲妻を落として言っている。
「結界を張ります‼︎そこの冒険者の方々は急いで‼︎」
「はい‼︎」
少年達は急いでセナの指示の元小屋へと急ぎ俺の体はさらに揺れる、少年が結界の予定範囲の境界線を越えた所でボトレススワンプにより沼を作り出し人形の侵入を止め、その隙にセナはお札かなんかの紙で結界をはる。
中々早い手際だなと思いつつも浮遊感に限界が来たのか俺の意識が途切れる。
途切れる瞬間に天井が見えたのとゆんゆんとめぐみんが呼び掛ける声が聞こえた、どうやら小屋には無事戻れた様だ。