爆発音が鳴り響く中ダンジョンの奥へと辿り着く。
「全く、ボコボコと爆発して迷惑ですね。少しは周りの迷惑という物を考えてもらえないですかね」
後方で爆発する光景を眺めながらめぐみんはやれやれと呆れながらそう言った。
「お前それ俺らからすれば特大ブーメランだからな」
「何ですと⁉︎カズマには私の爆裂魔法とあの人形の汚い爆発が同じだと言いたいんですか⁉︎」
「何言ってんだよ…うるさい点は一緒だろ?」
「ほう、そこまで見たいのであれば私の渾身の一撃を見せてあげましょう‼︎」
「ちょっとめぐみんやめてよ‼︎こんな所で爆裂魔法なんて放ったら私たち生き埋めよ‼︎」
入って早々に喧嘩になりそうになるが、それをゆんゆんが諫める。やはり長い緊張状態が精神の余裕をジリジリと削り取ってしまっているのだろう。このままの状態が続くと不味い事に成りかねないので先を急ぐ事にする。
「ゆんゆん、打ち合わせ通りに前方に向かって風の魔法頼む。威力は抑え目でいいからな」
「わ、分かりました‼︎」
丸太を構え、後方に居るゆんゆんに指示を出す。人形は少しの衝撃で爆発するので風の刃が軽く当たれば良く、それが起因となって誘爆するので、例えいくらマナタイトがあるからと言って上級魔法を放たなくても良いのだ。
そして、その爆発を逃れても尚、俺達の方まで向かって来る人形をこの丸太で打つけて退治する寸法だ。この丸太は、外で振り回している戦士の物とは違いこのダンジョンで振り回しても良い様に短くカットされており他にも様々なルーンが刻まれている。
「よし、それじゃ突っ込むぞ‼︎俺は前方に居る人形を破壊して行くから、ゆんゆんは怯まずに後方から魔法での支援攻撃を頼む‼︎めぐみんは……めぐみんはそのリュックを離さない様に走ってついて来てくれ‼︎」
「分かりました‼︎」
「ちょっと待ってください‼︎何で私の時の指示に間があったのですか‼︎」
めぐみんのツッコミを無視し、丸太を脇に抱えながらダンジョンを猛進して進むと後方からゆんゆんの風の魔法が通り過ぎ前方の人形達が爆発してゆく。そして残った人形を体を捻りながら丸太を操り打ちつけて処理して行く。
幸いな事に人形はおおよその数が外に出て行ったのか、ダンジョンの中に残っている数は外と比べるとそこまで多くは無い。それに流石リッチーの作ったダンジョン、これだけの爆発が起きているというのに未だに崩壊の兆しがない。
同じリッチーであるウィズも店の売り上げが上がれば最終的にこんな感じにダンジョンを作成するのだろうか?今度聞いてみるのも良いだろう。そしてあわよくば俺専用のVIPルームを作って貰おう。
ダンジョンを丸太片手に突っ切り、邪魔な人形達を破壊していきようやく最後の部屋に辿り着く。
まあ、たどり着いたと言うか、部屋の入り口の前に着いたと言った方が正しいだろう。部屋の正面の空間に大柄な仮面を被った人型の何かが手元の土の塊をこねくり回して自分自身の容姿にそっくりな小型の人形を作成していた。
ぱっと見そいつは長身でタキシードの様なジャケットにパンツそして手には白い手袋をし、その顔には先程まで憎たらしい程視界に入っていた人形と同じデザインの仮面を貼り付けている。
一見丸腰に見えるが、その姿から放たれる威圧感から只者ではない何かを感じ、この短い時間で得た俺の直感はすぐさま逃げろと言っている。
「か、カズマさん…あの人もしかしてあの人形と同じ仮面をしていませんか?」
「そうだな、いやもしかしなくともあいつが犯人だろ」
「何ですかあの仮面は‼︎あのデザインは紅魔族の琴線に激しく響きますよ‼︎カズマあの人型モンスターを倒した暁には、あの仮面を私が貰っても宜しいでしょうか‼︎」
「お前はこんな時に何を言っているんだ…」
潜伏を使っているのか、それか人形作成に集中しているためか、それともどっちともか、幸いな事に事の元凶とも呼べる長身のそいつは、俺たちの事などお構いなしに自身の行っている作業に没頭していてこちらの存在に気付いていいない様だ。
丁度良いので此処で作戦会議を行い、これからどう攻めるかを決めようかと二人にハンドサインを出す。人型なのでもしかしたら話が通じる可能性があるかもしれないので、最初の掛け声などをどうするか考えていると、俺の前を誰かが横切り、あの人形の親玉の前へと姿を現した。
「あ、あいつ、いつの間に‼︎」
「ふふん‼︎」
「む?」
俺の意思に反して、めぐみんが親玉の前へと進み出る。背中には例のリュックサックが背負われているが、洞窟ではお得意の爆裂魔法が使えない為ほぼ丸腰に近い。
一体何がしたいのか、そんな事を考えているうちにめぐみんが行動を始める。
「そこの人形師‼︎まずは名前を明かし合おうじゃないか‼︎」
「ほう、もうこのダンジョンの奥地に辿り着くものが来ようとは」
名前を聞くめぐみんに対して、言おうと思っていたセリフなのだろうかめぐみんのセリフをガン無視して奴は話を始める。
「く…やりますね。ですがこの程度で諦めるほど私は弱くは無いですよ…」
しかし、流石はめぐみん紅魔族最強を名乗るだけあって、そこは譲れないらしく拳を握りながら無視された苦しみを耐え抜く。
「我が名はめぐみん‼︎紅魔族随一の魔法の使い手にして爆裂魔法を操りし者‼︎」
「ほう、それはそれは自己紹介恐縮の至りである」
久し振りに聞いた様なめぐみんの名乗り上げに流石の奴も度肝を抜かれた様だ。思わずと言うか反射的に目線が隣へとスライドして行く。
「あの…先程から私の事を見ている見たいですけど…一体何でしょうか?」
「いや、ゆんゆんも続かないのかなって」
「やりませんよ‼︎あんなの恥ずかしいだけじゃないですか‼︎」
やらないかなーと思っていたがやはり彼女はやらない様で、仕方がないので後方でめぐみんが名乗りを上げた後の事の顛末の行方を見守る事にする。
「では、我輩もその礼にあずかり名を名乗ろうではないか。我輩こそが諸悪の根源にして元凶!魔王軍の幹部にして、悪魔を率いる地獄の公爵!この世を見通す大悪魔、バニルである」
「な、何だって⁉︎」
めぐみんに触発されてか、奴は作りかけていた人形作成を止め、立ち上がると名乗りを上げた。
ただ者では無いとは思っていたが、まさか魔王軍の幹部だとは思わなかった。しかし、魔王軍幹部か幹部といえばベルディアを思い出す。奴は常に殺気を放っていたが、このバニルと名乗る魔王軍幹部からは全くと言っても良いほど何も感じない。
この世を見通すと言ったがもしかしたら千里眼なる物を持っているかもしれない…であればこのアクセルの街に来たのはベルディアの仇討ちなのかもしれない。そうなれば奴の狙いは俺達という事になり、奴の眼前にいるめぐみんが危険だ。
「ほう!この短時間で此処まで考えつくとは、流石あのベルディアを倒しただけの事はあるな。よもやこの様な小僧にやられるとは魔王軍も落ちぶれた物だな」
「なっ⁉︎」
思考を読まれた⁉︎見通すとは思考も含めると言うことか、なら考えれば考えるほど相手のペースになりかねない。不味い事になったな、思考を読まれる以上俺の存在意義が無くなるし戦力がアークウィザードだけになるのは心許ない。
「フハハハ‼︎貴様はまるで考える人であるな‼︎だが安心して欲しい、我輩が来た目的はアクセルの街に居る働けば働くほど貧乏になると言う不思議な特技を持つポンコツ店主に用があって来たのだ」
「ポンコツ店主だと?」
もしかしてウィズの事か?確かにお世辞にも商売が上手いとは言えないし利益が出ているとも考えられない。正直どう食い繫いでるのか謎だがそこまで言われる程なのだろうか?
「ほう、既に知り合いであったか」
「当たり前の様に俺の思考を読んでんじゃねぇよ‼︎やり辛いわ‼︎」
こちらが言葉にするよりも早く、思考を読みバニルは俺に喋りかけて来る。手っ取り早いが中々にやり辛い。
「おい‼︎私を無視して話出すとは良い度胸じゃないか‼︎」
「ほう、これはこれは失礼した。我輩とした事が小さすぎて視界に入っておらぬものだから忘れておったわ‼︎フハハハハこれは大変失礼であったな!フハハハ!」
「お、おのれ…」
プルプルと恥ずかしさ半分怒り半分で震えるめぐみん、そろそろ怒りが爆発してバニルに掴みかかりそうな危険な予兆を感じる。
「カズマ‼︎私は頭に来ました、こんな大男さっさと退治して早く皆と街に帰りましょう‼︎」
「ほう‼︎この我輩を倒すだと?ぶっちゃけ魔王より強いのではないかと言われるくらい評判のこの我輩を?自暴自棄になってそこの小僧に夜這いをかけていた小娘よ、何を怒っているのか分からぬがイライラするならカルシュウムを取るといいぞ、何ならこの我輩の仮面は魔竜の骨を使っておってな、少しくらいなら齧っても良いぞ。その短い身長も補えて一石二鳥でお得ではないか‼︎フハハハハ!」
「くっ…」
「え⁉︎めぐみんそんな事していたの⁉︎いつ?いつの話なのよ‼︎」
怒りが限界のなのかめぐみんの顔が真っ赤になり今にも飛びかかりそうだ。あともの凄くゆんゆんがめぐみんに食いついてる、これがガールズトークというものなのか。
「おいバニル‼︎お前の目的は一体何なんだ‼︎ウィズに会いたいならこんな所に籠らないでサッサっとアクセルに行けばいいだろう、それともビビって街に近づけないって事なら俺がウィズを此処まで案内してやってもいいぞ。それに魔王軍幹部がこんな所で道草食ってていいのか?ベルディアみたいに人間を狩ったりしなくていいのか⁉︎」
めぐみんをこれ以上煽らない様にバニルの意識を此方に向ける。
「目的か…そもそも我輩は魔王城の結界を維持するだけの言わばなんちゃって幹部でな、我輩はいわゆる悪魔族でその食事は汝らの嫌だなと思う悪感情だ、我々にとって人間は餌みたいなもので、それを殺すなど実にナンセンスでむしろ汝ら人間が生まれるたび我輩は喜び庭駆け回るであろう‼︎」
悪魔はてっきり人間の魂か何かを食い漁るものかと思っていたが、どうやら違うらしい。前の世界では力か何かをチラつかせ願いを叶える事を対価に契約を迫り、本人の意図しない形で願いを叶えさせた後にその者の魂を喰らうと言うものがメジャーになっている為、見つけ次第倒すことが善行だと思っていた。
それに、悪感情を喰らうというものはどういうものなのだろうか、こいつはその悪感情をどの様に食べるのか?そこに居るだけで全国の悪感情を吸い取るのだろうか?
「そこの小僧、変な事を考えているな。感情を摂取すると言っても色々制限があってな、その悪感情を放つ者の近くに我が居ないといけないのだ。それに悪感情にも種類があり恐怖を好むものがいれば、美人の姿をして近づきその気にさせた後、実は我輩でしたと血の涙を流させる事が好物の我輩みたいなものもいる」
「やっぱ、こいつ倒すか」
「えぇ、散って行った皆さんの為にもこのまま引き下がるわけにはいきません‼︎私達でこの悪魔を倒して仇を討ちましょう‼︎」
やはりこんな極悪で非常な悪魔見逃して置くわけにはいかない。
剣をバニルに向けて構える。正直おちゃらけた雰囲気で居るが、こうして相対して見ると全く持って隙が見えない。流石は魔王幹部、その役職は伊達では無いらしい。
そんなバニルに対してゆんゆんは一歩も引かずに相対し、その湧き上がるであろう闘志を向ける。やはりなんだかんだ言って紅魔族なのだろう、こう言ったときでも無意識にかどうかは分からないがポーズを決めている。
「ん?皆の敵?何を言っているんだ貴様ら?少し拝見させてもらおうか」
しかし、俺達の言葉に対して身に覚えがない様でバニルは困惑し、取り敢えず見ておくかと再び俺達の思考を見通し始めた。
見通す悪魔と言っても瞬時に全てを見通すわけではなく、それなりにファクターが必要なのだろうか?それとも何か選択して情報を読み取らないと情報処理が追いつかず今の様に一つ一つテーマの様なものが必要なのだろうか?
「フハハハハハハハ‼︎成る程そう言う事か‼︎安心しろそこの小娘、そこのバニル人形は人を殺しはせん。爆破して無力化した後近くの洞穴で掃除が済むまで待って貰っているのだ。まあ時間が掛かるがその分食事も用意している、それに監禁された事で否応なしに発生するであろう悪感情の中には我輩の好物もあるのでな‼︎終わった後の情報伝達と合わせて小僧の世界で言うハッピーセットという訳だ‼︎余分な心配だったなフハハハハ‼︎」
「ーーっ‼︎」
「おっとこれは素晴らしい羞恥の悪感情!大変に美味である‼︎」
どうやらあの隊長や、先遣部隊の皆は無事だった様だ。しかし、その事がわかった時点でゆんゆんのキメポーズを交えた宣言はスカしてしまったと言う事になり、行き場を失った感情が恥ずかしさとなってゆんゆんに帰ってきたのである。
特に彼女みたいな普段から引っ込み思案で前に出たく無い様なキャラだとその羞恥心は余計に強いだろう。
その証拠に先程から彼女は指をバニルに向けたままピタッと止まっており、その表情は真っ赤に染まっている。
「まあ、あんまり気にすんなよ」
「そうですよ、私から見てもかっこよかったですよ。まあゆんゆんにしてはですけど」
「急に優しくしないで‼︎そっち方がかえって傷つくのよ‼︎」
俺が声を掛けた後にめぐみんがゆんゆんの肩にポンと手を乗せながら励ます。
ここは無視しても良かったが、それはそれで傷つくだろうと思い慰めの意を込めて言ってみたのは良いのだが結局はどっちもどっちだったのだろう。
「…ふぅ、もう容赦はしないわ‼︎」
「む?」
彼女は深呼吸をし感情を切り替えたかと思うと瞬時に雷の魔法をバニルに向かって放った。
バニルはそれを事前に知っていたかの様にヒョイっとふざけながら横に飛び躱す。
「めぐみんは下がっていろ‼︎俺が前に出るからゆんゆんはそのまま後方支援‼︎後火属性の魔法は使うなよ酸素が無くなる‼︎」
「分かりました‼︎」
「あっ…ちょっと待ってください‼︎」
めぐみんの首元を掴み背後に引っ張り下げ彼女を前衛から離脱させつつ自身を前衛へと赴かせる。バニルは相変わらず戦う気は無いのかやれやれと言う程を保ちながらものらりくらりと攻撃を躱す。
「小娘よ、勘違いして大見栄きった恥ずかしい気持ちは分からなくも無いが、それを我輩に向けるのはお門違いというものでは無いか?」
「う、煩いわね‼︎誰のせいでこうなっていると思っているの‼︎」
ゆんゆんの魔法を躱し、俺の剣撃をも躱す。バニルの方は宣言していた様に俺達人間に危害を加えないのか、躱すばかりで攻撃をしてこず代わりに言葉で俺達を翻弄させて来る。
正直今までで一番やり辛い敵かもしれない。俺も含めて3人とも人生経験の浅い、言うなれば子供の様な集団である為、精神の脆弱な所を突かれてしまえば簡単に崩壊してしまう可能性がある。
「落ち着けゆんゆん、バニルの言葉に耳を貸すな‼︎アイツは言葉を使って俺達を翻弄するから余計な事は考えないで戦闘に集中するんだ‼︎」
「分かってはいます…分かってはいますけど‼︎」
彼女もバニルの言動の目的については大体は分かってはいる様だが、やはり図星を突かれ聞き逃せない事を言われれば反応せざるを得ないのだろう。
「ほう、中々に言うではないか小僧‼︎そこの小娘と話す時はついつい胸元に行く視線を誤魔化しなが話す様に心がけている貴様が果たして集中しろだなんて言えるのか‼︎」
「そそそ、そんな事してねーしっ‼︎」
「薄々そんな気がしていましたけど…やっぱりそうだったんですね…」
「ばっ馬鹿野郎‼︎これは俺達に動揺を与える作戦に決まっているだろう‼︎いちいち引っかかってんじゃねーよ‼︎」
男たる者目の前に剥き出しにされた物があるならつい目で追ってしまうのは人間の本能的に仕方がない事だ。これは自然の摂理であり俺は悪くない。
「まあ、ゆんゆんの格好を見れば誰しもそこに目がいくでしょうね。男の友達が欲しくてワザとやっていると思っていたのですが、どうやら素だった見たいですね」
「こ、この服しか里にはまともな格好が無かったのよ‼︎めぐみんなら知っているでしょう‼︎」
「いや、だからと言ってその格好を選ぶのはどうかと思いますけどね。もう見てくださいと言っている様な物じゃないですか」
「そんな訳無いじゃない‼︎」
どうやら、めぐみんの身体的コンプレックスを刺激してしまった様で、戦闘を中断してゆんゆんの弾劾裁判の様なものが始まってしまった。
まあ、俺の名誉が守られただけ良かったが、先ほどまでの戦闘の緊張感が台無しである。このままグダグダになってしまうとこの後セナ達に何を言われるか分かったもんじゃない。
「フハハハハハハハ‼︎貴様らは少し弄ればそれだけで我輩にとってのご馳走が出てくる素晴らしい人間共だな‼︎」
「お前は黙ってろ‼︎」
二人が言い合っている中ポツンと残され、ゆんゆんの発する悪感情を貪っていたバニルは片手で仮面をを押さえながら一人高らかに笑っていた。
これ以上は本当に面倒くさい事に発展しかねないので、剣を持って黙らせに掛かる。
「フハハハハハハハ貴様の攻撃など当たる物か‼︎どうやら師に巡り合って稽古をつけてもらっている様だが、教えて貰うのは回避ばかりで攻撃のの方法は全然の様だな‼︎フハハハハハハハ‼︎そんな状況で我輩に勝てると思うなど大きく出たものだな‼︎」
「クソ‼︎いちいち人の心を読んでんじゃねーよ‼︎」
バニルに指摘された通り、攻めに対して俺はクリスに多少の指南を受けたが実戦で使えるまでの基礎すら今現在出来てはいない。クリス的には下手に攻撃方法を学ぶよりも先に回避に重点を置いた方が生存が上がると今まで必死に避ける事だけに専念してきたのだ。それが今回仇となり今尚俺はバニルに指一つ触れる事ができない。
だが今それについて後悔している暇はない。コッチにはゆんゆんが居る以上攻撃は彼女にまかせ俺は奴の動きを封じ込めばいいのだ。
「ほう、中々に手強いな小僧」
「思考が読まれるならそれを踏まえた上でお前の逃げ場を潰していって攻撃を当てれば良いだけだ」
再び剣を構える。今尚言い合いを続けている彼女らを諫め再び戦闘態勢に入る。
正直バニルは俺たちに攻撃を加えないのでイマイチ緊張感が無いが、それでも奴は魔王軍幹部なのでここで倒さなくても、いずれは向き合う時が来るかもしれない。その時にまたこのやりとりを繰り返さないと思うとゾッとする。
「成る程…何としても我輩を此処で倒そうという訳であるな。正直ダンジョン内の魔物の掃除が終わったので次のレイアウトに取り掛かりたいので早々に帰って頂きたいのだが…」
バニルは申し訳なさそうに顎に手を当て考えにふける様なポーズをとりながらそう言った。
「緊張感ないな…お前は一体このダンジョンをどうしたいんだ?」
はぁ…と溜息が出る。何度真面目に戦おうと思い気持ちを切り替えてもすぐ緊張感が萎えてしまう。
「そうだな…我輩には長く生きた分とびきりの破滅願望があってな…」
長くなるぞと前置きをした後バニルが何故このダンジョンを乗っ取ろうとしているのかを語り始めた。
元々自分のダンジョンが欲しく、ウィズの所で働きながらお金を貯めてそれを資金に巨大ダンジョンを作ってもらいそこにボスとして君臨し、数多の罠やモンスターを潜り抜けた冒険者達と死闘を繰り広げ、敗北して勝ち残った冒険者がその奥に隠された宝箱を期待を込めて開かせ、中に詰まったスカという紙を見て絶望する様を見ながら消えたいらしい。
「最悪だなクソ野郎‼︎」
「流石にそれはどうかと…」
「うわ…そんな酷い事よく思いつきますね…」
「フハハハハハハハ‼︎そう褒めるでない‼︎」
俺たち3人がドン引きする様を楽しそうに見渡し爆笑するバニル。今こうして相対出来るのはもしかしたら運の良い事かもしれない。
このまま奴を放置すれば、俺たちはスカの書かれた紙の入った宝箱の為に魔王軍幹部の奴と戦わなくてはいけない事になる。流石にそれは嫌だ。
「さて、目的を教えたのだからお引き取り願おうか‼︎人形は全て土に戻し仲間はダンジョンが完成すれば解放する事を誓おう。知っての通り我輩は忙しいのだ‼︎」
高らかに宣言し俺達に戻る様に促す。しかし、だからと言ってハイそうですかと帰るわけには行かないのだ。
「全く小僧、貴様は随分と頑固だな。そんな事に固執せずにそこの胸部の出っ張っている小娘と戯れているが良い‼︎最近構っていなのか寂しそうにしているではないか‼︎」
「べ、別にそんな事無いわよ‼︎」
確かに最近と言うかここ暫くゆんゆんに時間を作っていない気がする。めぐみんがメンバーに加わって3人一組になってから、めぐみんと二人っきりになる事は多かったが、それに対してゆんゆんと二人っきりになるのは中々無かった。
横目でめぐみんを見るとそら言った事かと言わんばかりのジト目でこちらを見る。
その当人の彼女は図星だったのか恥ずかしさ隠しに再び魔法をバニルにお見舞いするが、やはり読まれているのか難なく躱されてしまう。
「はあ、全く世話が焼けますね…」
呆れた様にめぐみんがため息を吐くと、背中に背負っていたリュックサックの側面についている線ファスナーを下ろし手を突っ込むと何かを取り出してそれを続け様に数個バニルへと投擲する。
放たれた物は如何やら聖なる光を放っている液体の入っている小瓶だった。それがめぐみんの手を離れてバニルに向かい中の液体を撒き散らしながら飛んでいく。
その液体は確か属性を持ったポーションだろうか、話には聞いた事があるが、爆裂魔法に固執していた彼女がそれを使用するという事に驚きを隠せない。
「むっ‼︎これは…」
「ゆんゆん今です‼︎」
バニルはそれを躱すがそれをめぐみんは見越して居たのか、その躱した際に移動する着地地点を事前に指差し、そこにゆんゆんの魔法を放つ様に指示する。
どう言う理屈なのか分からないが、めぐみんの指定した所にバニルは跳び、そこにゆんゆんの魔法が放たれ炸裂する。
「なっ何…だと⁉︎この私がこんな所で…滅ぶのか…」
ゆんゆんの放った黒い雷がバニルの体を貫き、奴は膝を着き苦しみに悶える。ゆんゆんの使える上級魔法の中でも特に威力の高いカースドライトニング、その威力はバニルを屠るには充分過ぎる程だ。
「如何やら貴方は我々の思考を読む様ですが、私は随分と前に思考を読まれているんじゃ無いかと思い、考えと思考を別々に回転させる方法を編み出しました。正直こんな所で役立つとは思っては居ませんでしたが」
考えを読まれるなら、違う事を考えながら行動すればいい、めぐみんは思春期特有の思考伝播の妄想をその天才性を持って克服した様だ。
見通す悪魔バニルは、考えや思考を読み取る事は瞬時に行えるが、記憶や前の思考を読み取るにはほんの少しラグの様なものが生じるらしい。それは普段なら些末な事だが、戦闘となれば致命的だろう。
「く…まさかそんな事が出来る人間が居たとはな」
バニルはそう言い残すと体にヒビが入っていき、崩壊を始め最後には自慢の仮面を残して土くれとなってしまった。まるで何処かの泥人形だなと思いながら剣を鞘にしまい一息付く。
「結局何だったんでしょうね…」
はあと気が抜けたのか、特に考えもなしにゆんゆんは仮面を拾い上げ、その模様などを眺める。
「カズマ、その仮面私が貰っても良いですか?悪魔はともかくその仮面のセンスは私の琴線に触れますので」
「…そうだな、鑑定に出して特に問題と価値が無ければ構わないけど…何か見られているみたいで俺は嫌だな。飾るなら部屋に飾れよ間違っても屋敷のラウンジに飾るんじゃ無いぞ」
剣を抜く際に邪魔なので降ろした丸太を拾い上げる。何か忘れている様な不安感が心に引っ掛かるが、取り敢えず上に上がってセナに報告して運ばれた先遣部隊を回収しに行かないと、と思うとまだまだ気が抜けないなと心に喝を入れる。
「では、ゆんゆんその仮面を取り敢えず私に下…」
下さいとめぐみんが言おうとしたその時だった。
「フハハハハハハハ‼︎我輩を倒したと思ったか‼︎残念‼︎油断大敵と言う奴だな残念賞に喋るバニル人形をくれてやるわ‼︎」
突如仮面から奴の声が鳴り響いたと思った瞬間、仮面から砂が噴射されたと思うとその反動で仮面が跳びゆんゆんの額に張り付いた。
「ゆんゆん大丈夫か‼︎」
近付き仮面を引っぺがそうと掴んで引っ張るがビクともしない、コレは無理やり剥がそうとすると皮膚が剥がれる奴なので手を離す。
どうすればいいのか、思考を巡らすと小刻みにゆんゆんの体が震える、どうやら笑っている様だ。
「フハハハハハハハ‼︎残念だったな小僧‼︎先程貴様らが倒したのはあくまで私が土で作った分身体、本体はこの仮面なのだよ。よもや貴様らにはどうすることも出来ない、この身体この我輩が頂いた‼︎」