この女神の居ない世界に祝福を   作:名代

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遅くなりました。


バニル強襲4

仮面から砂が噴射されたその反動でそれは跳び、ゆんゆんの顔面に張り付くと暫くの抵抗の後にゆんゆんの肉体は魔王軍幹部バニルによって支配されてしまった。

 

「どうなってるんだよ…おい、大丈夫なのかゆんゆん⁉︎」

「フハハハハハハハ、無駄だ小僧。さっきから言っている様にこの身体は既に我輩の物になっているのだ、もし我輩に危害を加えよう物ならそれ即ち、この小娘に危害を加える事になるぞ‼︎貴様らにその様な事…グハッ‼︎」

「そうですか。それはよかったですね‼︎では遠慮なく行かせてもらいましょうか‼︎」

「あっ馬鹿⁉︎何やってんだ‼︎」

 

バニルがゆんゆんの体を乗っ取った優位性を説明してる際に、その様な事は俄然しないと後ろからめぐみんが現れ、その仮面ごとゆんゆんの顔面を何の躊躇いもなくストレートで打ち抜いた。

 

「何て事してくれるんだそこの小娘‼︎貴様仮にも親友なのだろう‼︎遠慮と言うものを知らんのか‼︎」

 

後方に仰け反り体勢を立て直したバニルは不満そうにそう言った。確かに逆の立場で俺が体を乗っ取られてゆんゆんに遠慮なくぶん殴られたら結構ショックだ、せめて手加減はして欲しいものだが…

 

「えぇ、全く持って遠慮なんてものはしませんね。ゆんゆんとは常日頃からこうしてドツキ合っていますので、私からしたらこんな程度ではむしろ生温いくらいですよ」

 

はぁーと拳に息を吹き掛けるめぐみん。普段から事ある毎に喧嘩の様なものをしているので加減が分かっているのだろうか、大怪我にならない範囲でゆんゆんを殴る。

しかし、それでも威力強過ぎないだろうか?油断してたと言っても結構後ろに仰け反ってたぞ。

 

めぐみんの凶行に呆然としながらも、俺は警戒を怠らずにゆんゆんが何かしでかしても対応できる様に注意する。

 

「クッ、手加減しているみたいだが、丸っ切り遠慮と言うものを感じないぞ‼︎それに思考がゴチャゴチャして読み取りづらい。本当何なのだこの小娘は」

 

先手を取られペースをめぐみんに握られた為、バニルは一度めぐみんから距離を取り立て直す。

 

「全く、そんな事だから紅魔族は野蛮で頭のおかしな一族と呼ばれるんだ‼︎」

 

距離を空けて安全を確保すると、何時もの手順なのだろうかバニルは言葉を発して話術による悪感情の生成に移る。

しかし、めぐみんはそれを良しとはせずにバニルとの距離を詰めると、上体を屈めて油断したバニルの頬、鳩尾に拳を沈めて行く。その姿はボクシングの選手のようだった。

 

「貴方の言葉は聞きませんよ、そんな事気にしていたら紅魔の里では暮らしてはいけませんからね」

「クッ…全く。ならばこうしよう」

 

バニルは諦めたような声を放つと、ゆんゆんの額に張り付いた仮面に手を掛けようとする。多分だが、バニルは仮面を外しそれをめぐみんに与えて依代を変えようと言う魂胆なのだろう。

そんな事をしたらさらに面倒な事になるだろう、爆裂魔法の使い手であるめぐみんの体を手に入れたら、夜中に爆裂魔法を唱えてその迷惑から来る悪感情でも吸い取るつもりかもしれない。

 

「…間に合え‼︎狙撃‼︎」

 

先程セナからもらっていた、封印の効果のあるであろう札をバニルの仮面に向けて投合する。

 

「何⁉︎何なのだこの札は⁉︎我輩の手が弾かれるでは無いか」

 

ヒラヒラと俺の手から離れた札は、空間を漂いながらなんとか外れる前の仮面に張り付きバニルの離脱を防ぐ。バニルは仮面を外そうと自身の本体の仮面に触れる事は叶わなくなった。

これからどうなるかは分からないが、押さえつけるにしてもゆんゆんの身体の方が都合が良さそうなので体を変えられる訳にはいかないのだ。

 

バニルは動揺しながらも、めぐみんの殴打を躱す。流石のめぐみんでも相手がバニルになれば不意打ちでしか攻勢を取れないらしい。最初のうちは入っていた攻撃も今では簡単にいなされてしまっている。

 

「フン‼︎小娘、考えを読まれない様に思考をバラバラにしようと努めているが故に一手一手がわかりやすいわ‼︎」

「何を⁉︎…しまっ⁉︎」

 

バニルは突き出しためぐみんの腕を掴むと、上体をめぐみんの懐に踏み込ませそのまま背負い投げの要領で投げ飛ばした。

 

「あう‼︎」

「めぐみん⁉︎大丈夫か‼︎」

 

倒れためぐみんに駆け寄り怪我の状態を確認するが、打撲だけで特に目立った怪我はない様だ。

柔道の型には相手を気遣って地面に触れる前に技者が手前に引くと受け手の負担が減ると言うが、バニルはそれをしたのだろうか。

 

「大丈夫ですよカズマ…これでも一応は学校で武術をやっていましたから受け身ぐらいは取れます…まぁ殆どサボってはいましたが」

「意味ねえじゃねぇか‼︎」

 

打ち所が悪かったのか意識を失うめぐみん、取り憑かれているとはいえゆんゆんに負けた事が悔しかったのだろうか。

 

「テメェ‼︎いい加減にしろ‼︎」

 

剣は抜けないのでめぐみんと同じ様に素手喧嘩でバニルに相対する。いざ正面に立ってみると分かるが、バニルから放たれるオーラの様な雰囲気にはあのベルディアを上回る程の邪悪さを纏っていた。

 

「フハハハハハハハ、今度は小僧か‼︎だが良いのか?どうやら貴様はあの小娘の様に考えをバラバラにする事ができないではないのか‼︎」

「うるせぇ‼︎やってみないと分からないだろ‼︎」

 

バニルの挑発を跳ね除け、奴に殴りかかる。流石にめぐみんみたいに器用に手加減する事は出来ないので顔面は除外して腹周りを中心に狙いを定める。

 

「ほう、なかなかにやるではないか…どれどれ」

 

俺の攻撃を躱わしながらも、バニルは俺に視線の焦点を当て思考を読み始める。

 

「ほう、成る程な。何処かで見た戦い方をするかと思ったが、貴様はあやつに稽古をつけて貰っていたか」

「…何?」

 

あやつとはもしかしてクリスの事だろうか、なぜコイツがクリスと知り合いなのだろうか。もしかして昔は魔王軍の幹部だったのだろうか?それとも戦った事があるのだろうか。

そんな事を考えながらもバニルへの攻撃を辞めずに前に踏み込み渾身のブローをバニルに解き放つ。

 

「フン、甘いわ‼︎」

「クソッ‼︎」

 

バニルはそれを余裕で躱すと、俺は重心の行き場を失い前方によろける。

流石に敵前で倒れる訳にはいかないので前方へと前回りしながら受け身を取り立ち上がる。

 

「中々に器用な事をするな小僧。まあでもいい加減貴様の相手も飽きてきたな」

 

唐突にバニルは羽織っていたであろうゆんゆんのマントを外し地面に投げ捨て、それによりマントに隠されていた彼女の胸が露出される。

 

「フハハハハハハハ‼︎人間に手は出さないと言ったな、あれは嘘だ」

 

身を軽くした奴は高らかに笑いながら、バニルは俺の方へと向かって距離を詰め先程とは打って変わって攻勢へと転身した。

 

「くっ‼︎」

 

バニルの攻撃は一見出鱈目に見えるが、それでいて統制が取れているのか、一つ躱してもその躱した先を予想してか拳が回り込んで来る。それら全てを交わし切る事は今の俺では不可能に近く、適所適所で威力の低そうな所を見計らってガードして凌ぐ。

 

「フハハハハハハハ‼︎どうした‼︎先程とは違って注意散漫ではないか‼︎そんなにこの娘の膨らんだ胸が気になるか‼︎」

「おのれバニル‼︎流石魔王軍幹部だな、やる事一つ一つが外道だろコンチクショー‼︎」

「おっとこれまた羞恥の悪感情‼︎御馳走様である。全く貴様ら人間と居ると食事に事かかさないで助かる」

 

前言訂正。実は少し余裕があるのだが、眼前で揺れるタワワに俺の視線は釘付けになり機会を逃してしまう。これは男の性で有る以上仕方がない事なのだ。

 

「良い加減この状況も飽きてきたな。この小娘の身体から出て来れない以上、外に出てこの札を外して貰いに行かなくては行けないのだが」

「させると思っているのか、俺はベルディアを倒した男だぜ。このままお前も退治してやるよ」

 

「良いのか?あのベルディアの様に倒すと言うと貴様の憎からず思っているこの小娘の体も漏れなく燃え尽きてしまうぞ」

「やっぱり読んでやがったか、読めるのは思考だけじゃなくて記憶も含まれるのか」

「当然、なんと言ったって我輩は見通す悪魔、この世の全ての事情は全て筒抜けと言っても過言ではない」

 

俺の記憶を当然の事の様に読み取るバニル。どうやら思考と関連した記憶だけを読み取るだけかと思っていたが、違ったらしい。

予想以上の悪辣さに嫌悪感を示すが、とにかくゆんゆんの肉体を停止させればどうにかなるかもしれない。

 

「ほう、この小娘の足を傷付けて我輩を歩けなくする作戦か、良い作戦だが貴様は先程から一度も我輩に触れることすら出来てはいないではないか」

 

腰に下げた剣を抜き構えると、既に思考を読まれていたのか制止を受ける。

 

「悔しいが、もう俺にはこの作戦しか残っていないんでな」

「成る程では…」

 

バニルがパンと手を叩いたと思ったら一瞬にして俺との距離を詰め、俺の眼前にはうすら笑みを浮かべた仮面のデザインで埋め尽くされる。

 

「なっ⁉︎しまっ‼︎」

 

気づいた時には既に遅く、俺の体は空中で一回転した後地面に叩き付けられる。

空気投げ、本来なら相手の行動に合わせて行われる合気道の一種なのだが、奴はそれを何の初動も無く遂行した。一体どんな動きをしたらそうなるのだろうか。

 

「フハハハハハハハ、小僧‼︎貴様はそこでお休み‼︎」

 

全身に響く痛みに耐えている俺にピッと指を俺に向けると、バニルは体を翻しその足でダンジョンの出口へと向かっていった。

 

「ま…待てよ」

 

声を掛けるが返事が返ってくる事はなく、ただ静かにバニルの足音がダンジョンに響くだけだった。

 

「…大丈夫かめぐみん」

 

ゆらゆら何とか起き上がり、自身に回復魔法を掛け何とか動ける様にすると近くで倒れていためぐみんに近づき安否を確認する。返事はないが正常なリズムで呼吸をしていることから大事はないだろう。

仕方がないので彼女を背負い、隅に置かれていた重たいリュックを掴みながら、そのままバニルを追いかけに出口へ向かう。

 

 

 

 

 

 

「おい何だコイツは‼︎カズマんとこのお嬢ちゃんか⁉︎」

 

何とかバニルを追ってダンジョンから出ると、奴の周囲を囲む様に別れた冒険者達が丸太を抱えて相対していた。人数を確認すると、数が減っていないことから誰一人として欠ける事はなく生き残れた様だ。

 

「何と‼︎我輩のバニル人形に囲まれて生き残った者がいようとは、あの小僧も中々面白い作戦を考えたものだ」

 

「何だ?別れる前と随分と雰囲気が違うじゃねぇか、一体何があったんだ?」

「あの仮面何処かで見た様な気がしますね」

「あの、ゆんゆんさんどうかされましたか?」

 

バニルを囲みながら、彼らは質問を繰り返すが特に返事は返って来なかった。

 

「おい、追い付いたぞ」

 

何とか入り口に立ち、バニルの背後に立つ。安全だと思うがめぐみんを柱に立て掛け、剣を抜きバニルに向き直る。

 

「ほう、結構強めに叩きつけたのだがな…そうか回復魔法を使えるのだったなこの芸達者め」

 

どうやら俺の心を読んだ様で、一人で疑問で悩み勝手に解決した様だ。

 

「おい!みんなコイツはゆんゆんの体を乗っ取った魔王軍幹部だ‼︎相手の思考を読む厄介な奴だ!皆気を付けろ‼︎」

 

奴を警戒しながら、周囲に情報を伝える。もしかしたら誰かが攻略法を思いつくかも知れない。

 

「何だと‼︎あれが魔王軍の幹部、此間倒したあのベルディアと同じ」

「思い出しました‼︎あれは見通す悪魔、手配書に書かれた仮面のデザインと同じです‼︎まさか冒険者に取り憑くなんて」

 

周囲の冒険者達に動揺が走る。これでゆんゆんに対して周囲は緊張感を持つだろう。

問題はこれからどうやって奴を確保すれば良いのだろう、と言う事だ。俺みたいに単体で刃物を持って足を傷付ければ歩行を封じられるので確保できるが、集団でそれをしよう物なら軽くでは済まなくなる。何せ相手は魔王軍幹部、手加減なぞしようものなら此方がやられかねない。

 

「おら!魔王幹部なんぞ知った事か観念しろ‼︎」

「ほう‼︎中々気骨のある奴だ‼︎だが貴様もあの小僧同様時々胸に目線が行って注意散漫だぞ‼︎」

「うっうるせぇ‼︎」

「フハハハハハハハ図星か‼︎貴様からかなりの悪感情が出ているぞ」

 

周りの女子、セナしか居ないが彼女の目線が冒険者のオッサンに突き刺さる。俺は周囲に誰も居なかったが彼は周りに人が居るからその不甲斐なさは俺の想像を絶するだろう。

 

「みんな、打撲系の武器か素手で頼む‼︎回復なら俺がするからとにかくゆんゆんの体を動けない様にしてくれ」

「分かってはいますけど、彼女動きが素早過ぎて捕まりません‼︎」

 

少年は少年なりに考えたのか、彼女の足元を氷の魔法で固定しようと魔法を連発しているが、やはり先を読まれているのか尽く躱されている。

何か良い方法は無いものだろうか…

時間が経つにつれて俺達の動きは落ちていき奴に喋る隙を与えてしまう、そうなってしまっては連携どころではなくなってしまう。

 

「そうだ‼︎丸太だ‼︎皆丸太で頼む」

 

増産されているのか、周囲には新しい丸太がいくつも転がっている。丸太なら骨は幾つか折れてしまうが、彼女の命の危険まで行かないだろう。

 

「そうだな、支援魔法頼む。行くぞ‼︎」

 

オッサンは支援魔法をかけられ身体能力を底上げされ、近場にあった丸太を持ち上げると、それをバニルに向かって振り回す。

しかし、ゆんゆんに取り憑いたとは言え奴は魔王軍幹部、そんな事は予想したと言わんばかりにそれを躱す。それもそのはず奴は思考を読むのだから丸太を振るなんて遅い攻撃当たる筈はなかったのだ。

だからと言って、それを止めるわけにはいかない。数撃てば豆鉄砲も当たるのだ、俺も丸太を拾い残りのメンバーも丸太を拾い奴に向けて振るう、流石の奴もこの数なら筋が見えていてもかわしきる事は不可能だろう。

 

「成る程、丸太ならこの小娘に致命傷を与えず、我輩の動きを防げると言うわけか。相変わらず大胆な事を考えつく物だ」

 

ふむふむと何度も迫り来る丸太の応酬を躱しながら感心する。相変わらず何て奴だ。

 

「ふむ、ならばこうしよう」

「何⁉︎」

 

何かを考え付いたのか奴は丸太の応酬を高い跳躍で抜けると、そのまま大木の前で立ち止まった。

周囲の木々が丸太へと換装している中、その大木は太過ぎる理由から使用されなかったのだろう、周囲の木々が切り倒されて出来たスペースの中一本だけポツンとその木が残っていた。

 

「ぐっ、うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ‼︎」

 

バニルはその木の前に降り立つと、気合を入れるであろう掛け声と共に力むとそれを引き抜く。最初は無理だろうと思っていたが、徐々に地面からメキメキと音が響き最終的にはスッポリとクレーターを残して奴の手元に収まった。

 

「何て奴だ…俺たち総出でも無理だったあの大木を引き抜きやがった‼︎」

 

若干無理をしたのか、ゆんゆん体から汗が流れる。どうやら奴が他人の体を依代にするに当たって、それなりに彼女の体にも負荷が掛かるらしい。

 

「はぁはぁ、はぁはぁ…これは…良い丸太であるな」

 

戦利品である丸太を眺めながら奴は感嘆の言葉を漏らす。

 

「何て馬鹿力なんだ…ゆんゆんの体の負荷とかは大丈夫なのか」

「安心しろ小僧、依代に扱う人間対して吾輩はその様なミスはしない」

 

念の為確認するが、如何やら心配はない様だ。しかし、どうもコイツといると緊張感が無くなってしまう、このままだとそのままグダグダとゆんゆんの体を持っていかれてしまいそうだ。

 

「いい加減飽きたんでな、そろそろ片付けさせて貰おうか。なに殺しはしないので安心してくれ」

 

その言葉と同時に奴は手に持っていた木をそのままフルスイングし、周囲に居た冒険者を容赦なく丸ごと吹き飛ばした。

俺は嫌な予感がしたので伏せたが、他の冒険者達は避けることが出来ずに悲鳴と共に大木に蹂躙される。

 

「フハハハハハハハ‼︎貴様らなど所詮その程度なのだよ」

 

「何て無茶苦茶な事してくれるんだ‼︎人間は傷つけないんじゃ無かったのか‼︎」

「ほう、あれを躱したか。運が良かっただけはあるな。それに関しては時と場合と言う奴だ、貴様ら人間も言うだろう?状況が変わったから今回の件は無かったことにしてくれとな」

「政治家みたいな事言いやがって‼︎そんなふざけた理屈が通じると思っているのか‼︎」

「フハハハハハハハ!誠に痛い所をついて来るでは無いか‼︎」

 

顔を手で覆いながら高笑いするバニル。

奴にとっては俺達の命が尽きないのであれば細かい安否などはどうでも良いのだろう。それはゆんゆんの身体もいずれはギリギリのところまで使われ捨てられる事を示唆するかもしれない。

 

そして、ひとしきりに笑い満足したのか、何かにヒラめいた様にポンと手を叩く。

 

「そうだ、言い事を一つ思いつたぞ…」

「何⁉︎これ以上どうしようってんだ‼︎」

 

仮面で覆われていない顏の下半分の表情が笑みに歪む。

奴は人の思考記憶を読む事を得意とする。つまりこの場で俺もしくはゆんゆんにとって行っては欲しくは無い行動を率先して行うことができる。

 

「フハハハハハハハ!それは後でのお楽しみという奴である‼︎小僧!貴様はことが終わるまでそこで指を加えて見ているが良い!」

 

そう言って奴は立ち上がり、体勢を立て直そうとする俺に対して掌底を喰らわせて怯ませると、俺に背を向けそのまま歩き出して行った。

 

「ぐふっ!‼︎」

 

奴の掌底は俺の鳩尾に入り、下から突き上げて来る想像を絶する痛みに暫く悶えざるを得ず、暫くの間身動きが取れずに奴が山を下るのをただ見逃す他なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「起きろめぐみん‼︎」

 

痛みが引いた頃を見計って起き上がり、近くに掛けておいためぐみんを起こす。他の皆はバニルの放った丸太の一振りによって気絶したままで起きる気配はない。

 

「ああ、カズマですか…ゆんゆんはどうなりましたか?」

 

目が覚めたばかりでやや虚な目で彼女は俺を見据える、その表情から俺がバニルを取り逃したことに関してうっすら気づいている様な節を感じる。

 

「駄目だったよ、結局取り逃がしちまった」

「そうですか…でしたらアクセルの街に向かってください。ゆんゆんは多分そこにいると思います」

 

寝ぼけながら放っためぐみんの言葉は、何時もなら冗談だと思い無視している様な虚言に類の物だが、今回に限っては不思議と的を射ている様な気がしなくも無い。

 

「何でそう思ったんだ?」

「私を誰だと思っているんですか?何でも出来そうなあの悪魔がわざわざゆんゆんを使って何かをするなら、それはおおよそアクセルの街位しかありません。ゆんゆんとの付き合いは家族の次に長いですからねそれくらいなら分かりますよ」

「すげぇところから根拠が出てきたな…」

 

聞いただけでは荒唐無稽な話ではあるが、奴がゆんゆんの体を持っているとすれば無くは無い話になる。少なくとも今現在当てはない以上めぐみんの話を信じてアクセルの街に向かうのが最善策なのだろう。

 

「それじゃあ背負っていくけど掴まるだけの力はあるか?」

「いえ、このまま行っても進行が遅くなりますので、私は少し休んでから追いかけますからカズマは先に言ってください」

「そうか、悪いな。そうだ、後でセナに事情を説明しておいてくれ全員伸びてて状況がわからないと思うからな」

「分かりました。カズマも気をつけて」

 

事情の説明とゆんゆんに関する説明をめぐみんに任せて近くにあった丸太を拾ってバニルの後を追う様に山を降りる。

 

行きとは違い帰りは山を下ることになる。時間が惜しいのでゆっくり降りる事などはせずにそのまま勾配に任せて全力で走り抜ける。

坂道とは言え飛び跳ねながらの下降は自由落下に近い不安定感が与えられ如何にバランスを取るかが重要になってくる。障害物は丸太を前方に突き出す事で全て吹き飛ばせるので解消されるが、足元のバランス感覚はまた違く丸太でどうこうする事は出来ない。

 

 

 

 

山を降り麓の馬車亭の様な場所に出る。

時間はもう夜に差し掛かっている為か人影が少なく、奴の姿が捉え得られると思ったがその考えは甘かった様だ。

そもそも奴が馬車を使う道理も無いはず。悪魔である以上俺には考えも付かない何かしらの能力で街に向かっている可能性があるかもしれない。

 

先手必勝、先にアクセルの街に向かうことにする。仮に居なかったとしても街の住人に事情を説明すれば何かしらの手段が得られるかもしれない。

受付で馬車の券を買い、そのまま後ろに設置された小屋に乗り込む。時間も時間なので定員は俺しかおらず何時もと同じくらいにスペースが空いている。

それを良いことに丸太も載せる。馭者に咎められそうになったが、セナの名前と賄賂を幾らか渡したら大人しくなり許可を出してくれた。流石は国家権力だぜと思ったがもしバレたら何かしらの処分を受けそうなので程々にしようと心にちかった。

 

しかし、丸太はこのままではアクセルの街で動かしにくいので加工することにする。

加工と言っても大それた事はせずに、削り出して木刀にするだけなんだが、それでも長さや太さ厚さに気を付けなければ耐久力が下がってしまう。

手持ちの剣をナイフ替わりにして丸太を削って行く、その際に出て来たおが屑は小屋の窓から捨てれば大丈夫だろう。自然の産物なら自然に帰るのが道理、俺は何も悪くはない。

 

 

馬車に乗りはや数十分、両刃の剣で丸太を削っていくことに若干の面倒臭さを感じながらも何とか形にする事ができる。昔修学旅行か何かで買った木刀のイメージがあった為か俺の予想以上に出来の良いものが仕上がった。

 

「お兄さん、アクセルの街に着いたよ」

「あいよ」

「お?なんか中が随分と綺麗になったな?」

「ああ、それは俺からの感謝の気持ちですよ。予想してた時間よりも早く着いた気がしますので、急いでくれたんだと思います。ですのでこれは少しばかりのお礼ですよ」

 

タイミングを見計らった様に馬車がアクセルの街へ着いた報せが入る。

フッ、とらしくもないニヒルをかます。おが屑は全て道中に捨て、細かいものはウインドブレスで吹き飛ばしむしろ俺が乗ってきた時よりも綺麗になっている内装を見て一頻り満足した後、操縦士に礼を言い馬車を後にする。

 

 

アクセルの街は出発した時と変わらずに賑やかなままでとても事件など起きては居ない様だった。

もしかしたら俺が先についたのか?

疑問に思う。バニルはゆんゆんにとりついているとは言え顔半分は胡散臭い仮面に覆われている状況にある、その状況なら馬車には乗れず歩いてきているかもしれない。

道中作業をしながらだったが外に向けて警戒をしてはいたが、もしかしたら見逃していたのかもしれない。

 

だとすれば事前に街の冒険者に頼んで待ち伏せ作戦ができるかもしれない。先程の状況は皆疲労で動きが鈍っていたのが原因で奴を仕留め切れなかったのであれば、此処は俺達のホームなので地の利はこちらにある以上もしかしたら呆気なく終わってしまえる可能性がある。

ならば善は急げと木刀を肩に背負いギルドへと足を運ぶ。

 

 

 

ギルドに着き扉を開くと、街の喧騒から一転して昔のベルディアの時を彷彿とさせる様に中は沈黙に包まれ何やら会議が行われていた。

 

「ああ、やっぱりか」

 

その中の金髪…ダストが俺の存在に気づき俺に声をかける、それによりギルド全員の視線が俺に突き刺さる。その光景に若干慄きながらも言葉を発する。

 

「やっぱりって事は何かあったんだな」

「有り体に言えばそうだな…なあカズマ、ゆんゆんの事で聞きたいことがある」

 

普段とは打って変わって真面目そうな雰囲気を纏ったダストに少々意外と言う違和感を覚えながらも話を聞く。

 

「…何だよゆんゆんの場所は分からないぞ俺も知りたいくらいだからな」

「そうか…やっぱりお前も探していたのか…取り敢えず何があったかを先に話してくれないか?そしたらこの街に起こった事を一から説明してやる」

 

そう言われ先にキールダンジョンで起こった事を一から説明する。

 

「そうか、魔王軍幹部が絡んでいやがったのか…通りで強いわけだ」

「戦ったのか?」

「そうだ、いきなりギルドに現れたと思ったら友達が何だとか言いながら俺達のメンバーを襲って連れ去っていったんだ。その時に取り押さえようと思ったら抵抗されてな、アークウィザードだから近接戦なら勝てると思っていたが、全ての動きを読まれて、そこのアホルギでも手も足も出なかったぞ」

「そうか…それで仲間は何処に行ったんだ?」

「分からない、それをこれから探そうって時にお前が現れたんだ」

 

どうやらゆんゆんはダストの仲間を襲ったらしい。

しかし、そんな事をして奴はどうしようと言うのだろうか?奴の目的は悪感情を食らう事なので、人を拐って恥ずかしい格好をして見世物にしようとしているのだろうか?

それであれば奴好みの羞恥の悪感情が啜れるが、持続性がないので違うと俺は考える、もしそうであれば一度にまとめてしなくては効果的ではなく効率も悪い。それにゆんゆんの体でなくても良いはずだ…俺が言うのもなんだが人に恥ずかしい感情を啜るならそこで踏ん反り返っているミツルギにくっついてアホな行動をすればプライドの高い奴の事だ、想像を絶するほどの悪感情を得られるはずだ。

あえてそれをしない…つまりゆんゆんの特性を活かした行動をするはずだ、彼女の性格からすれば外側よりも内側、つまりゆんゆん自体に効果が集まる様にするだろうと俺は思う、と言うか俺だったらそうする。

 

「おい‼︎キースが見つかったぞ!」

 

そんな事を考えていると仲間が見つかったのか、ギルドに居なかった冒険者達数人が誰かを運んで中に入ってきた。

 

「大丈夫か⁉︎キース‼︎おい!しっかりしろ‼︎」

 

すかさず仲間であるダストが駆け寄り声を掛け揺さぶるが以前キースは錯乱した状態で何かを呟いている。

 

「誰かプリーストはいるか⁉︎何か様子がおかしい‼︎」

 

ブレイクスペルを習得している為か奴の体から呪いの様な黒いもやが見える。俺の魔法では敵わなそうなので専攻しているプリーストに任せた方が良いだろう。

俺の声に反応してか一人のプリーストらしき女性が前に出てきて解呪魔法をキースに掛けるが、反応は良く無く以前モヤの様なものは消え無い。

 

「どうなってやがんだ畜生‼︎」

 

ダストが悔しそうに地面にヤツ当たる。

その姿はベルディアがめぐみんに死の宣告を行った後の俺に酷似した。

 

「なあダスト、キースが何か言っているのが分かるか?」

「あ?…ああちょっと待ってくれ」

 

俺の声で我を取り戻したのか、ダストは落ち着きを取り戻してキースの言葉に耳を傾ける、それに合わせて俺も読唇術でキースの言葉を読む。

 

「何々…僕は…ゆんゆんの友達です…だって‼︎」

 

ダストがキースの言葉を読み上げ驚愕の声をあげた。

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