僕はゆんゆんの友達だって?
キースの口から放たれた驚愕の言葉に俺達はそれ以上の言葉を発する事ができなかった。
「どう言う事だよ⁉︎なあ、おい!」
ダストは必要以上にキースを揺らし言葉を続ける。しかし、その努力も虚しくキースはそれ以外の言葉を発する事は無くただひたすらに同じ言葉をぶつぶつと繰り返している。
これではどこぞの呪いの人形見たいなものだ。
「しかし、どうしたものか…これは多分元をどうにかしないとダメなタイプの呪いだな…」
ベルディアの死の宣告を思い出す。浮き出てきた黒いモヤはあれと同じくらいの規模になっている。その為多分になるが教会のシスターに頼んでも解呪は無理だろう。
しかし、僕はゆんゆんの友達、とはどう言う意味だろうか…確かにゆんゆんは友達が少ない事がコンプレックスだが、それでも意味不明に友好関係を広げるとは思えない。
「取り敢えずキースさんはこちらで預かりします。呪いに掛かった方がいらした場合、教会に引き渡すまではギルドで管理することになっていますので」
受付のお姉さんはそう言うとダストからキースを慣れた手つきで受け取ると奥の仮眠室へと運んでいった。
「それで、魔剣の勇者様は作戦とか何か対策はないのか?」
ダストは何やら考え込んでいるのか思い詰めた表情で硬直している、なので隣にいたミツルギに声をかける。
「とうとう君は僕を名前で呼ばなくなったね。まあそれはそれで構わないんだけど…作戦かそうだね、悔しいことに僕は彼女に対して手も足も出なかったからね…文字通りお手上げってやつさ」
「お前はいざと言う時本当に役に立たないな…」
「返す言葉もないよ。強いて言うなら、君がいると言う安心感が僕の危機感を鈍らせるのかな」
役に立たないミツルギに皮肉を使ってなじると何故か突然にミツルギはデレだし、全身に鳥肌が立つ。
「やめろよ気持ち悪いから…」
「はっはは…そうだね、らしくなかったよ」
やれやれと大人の対応をしてますよと言わんばかりに話を受け流すミツルギ。しかしその行為を許せないのか、後ろから取り巻きがやってくる。
「この男言わせておけば言いたい事を言いやがって‼︎ミツルギ様はな貴様の仲間を傷つけない様に手加減をして戦っていて、もし貴様の仲間を切ろうと思えばいつでも斬り捨てられたのよ‼︎」
「はいはいソウデスネー」
「わかればいいんだ」
ミツルギと話していると高確率で後ろからやって来る取り巻きA、コイツに関してはミツルギに心酔しているので何を言っても無駄であるため適当に流すのが吉なのである。
「取り敢えずミツルギに案がないと言う事は他に意見はないのか」
基本的にアクセルの街で有名なのはミツルギなのでこの場に居他のであれば全ての情報を耳にしている筈である、つまり奴が知らなければここの情報はそれまでという事になる。
仕方なしに辺りを見渡してクリスを探すが、いつも見かける銀髪の頭は今日は不在だった。
彼女はこの非常事態に何処に行ったのだろうか?探そうにも彼女の所在は仲のいいダクネスすら知らないと言う。前に俺も直接クリスに聞いた事があったが、その時は話を俺にとって耳の痛い話に切り替えられてはぐらかされて結局聴ける事は無かったのだ。
今回はと言うか今回も彼女の協力は無しで考えないといけない事になる。不安だが、いつもの事なので仕方がないと自分に言い聞かせる。
「カズマ、お前に言っておきたい事がある」
思考に思考を重ねていると、何か思い出したのかダストが俺に向き直り話を始める。
「何だよ?何かいい案が思い付いたのか?」
「いや、そう言う訳じゃないが、ただあのボッチは最初キースじゃなくてリーンを狙おうとしていたんだ。だけど俺達の妨害で仕方なく近くにいたキースに狙いを変えたんだ」
「成る程な…だから僕はゆんゆんの友達、か…」
「何かわかったのか?」
「いや、まだ確証に至ってないんだ。その時がきたらまた説明する。とにかく今はリーンに対して警戒する様に頼む」
ゆんゆんがキースにかけた呪いの様なもの、それは僕はゆんゆんの友達ですとうわ言を吐かせ続ける物。単純に考えれば友達を呪いによって増やしていくことに他ならない。そうなれば最初にリーンを狙ったと言うダストの言葉にも納得がいく。
同性でダストのパーティーメンバーであるリーン、俺とダストが何かやらかした時の後始末の際によく顔を合わせているので、もしかしたら友達になれるのではないかと心の何処かで思っていたのだろうか…。
いやまてよ、この考えはあくまでゆんゆんの話であってバニルの話ではない。バニルにとってゆんゆんの友達を無理やり作っても得は無い筈だ。であれば魔王軍幹部としてこの街に攻め入って内側からじわりしわりと崩していく作戦なのだろうか…。だとしてもこの行動は効率が悪すぎる、初心者の街なのだからゆんゆんの魔法と自身の格闘センスがあればこんなコスイ手を使わなくても堂々とできる筈だ。疲労して居たとは言え一応部隊を殲滅までもちこんでいるのは確かなのだから。
考えれば考えるほど思考の沼に嵌っていく、いつもの悪い癖だ。
ならば考え方を変えよう。奴はそもそもウィズに会いにこの街に来たと言っている。何をしに来たのかに関してはバニル自身何か言っていたがドタバタで忘れてしまった…であれば、もしかしたらそこにいる可能性もあるかも知れない。
「いいか、みんなはリーンを警護してくれ‼︎多分奴の狙いはリーンだ」
「それは別に構わないし、俺の仲間なんだから当然と言えば当然なんだが。それでカズマ、お前はどうすんだ?」
「俺は一度ウィズの所に行く」
「あの売れない魔道具店の所にか?確かのあそこの店主は実力者だそうだけど協力してくれるとは限らねーぞ?」
「ちげーよ、ゆんゆんの事で忘れていたけど、あいつのそもそもの目的がウィズに会う事だったんだよ」
「そうだったのか、で?何でなんだ?」
「理由は後だ‼︎」
話を後にしてギルドを後にする。
街はキースがあの様な状況で発見された事もあってか閑散としている。そう間隔の空かないうちに立て続けにベルディアやデストロイヤーと続いて不安が積もっているのだろう。
だが、それでもありがたい事にウィズの経営しているであろう魔道具店は現在も開店しており、ドアにはopenの掛札が掛けられている。
ドアを開き中に入る。
中に入るとそこは何時もと同じ雰囲気で、相変わらずの能天気な店長が店番をしていた。状況を見るにまだバニルは来ていない様だ。
「あ、カズマさんじゃないですか!いらっしゃいませ!。今日はどう言ったご用件でしょうか?」
「ああ、今日は買い物じゃないんだ。単刀直入に効くけどバニルについて知っている事はある?」
ウィズは俺の口からバニルの名が出た事に驚いているのかキョトンとした表情を浮かべる。
「バニルさんですか?ええ、色々ありましたけど…何かあったんですか?」
「あいつが今この街に来て暴れているんだ」
「ええ⁉︎あの方今この街にいらっしゃるんですか⁉︎」
バニルがこの街にいる事がそこまで意外だったのか、ウィズは俺の記憶の中で記録更新するくらい驚愕し戦慄した。多分過去に色々と詰られたのだろう…。
バニルとの古い知り合いだと言う事に同情しながらも今までの経緯を説明した。
「成る程、それで今ゆんゆんさんに取り憑いているんですね…」
「そうなんだけどウィズはこう言う時だったらどうすんだ?何かスキルとかあれば教えてくれれば助かるんだけど」
幸いスキルポイントにはまだ余裕がある。めぐみんの爆裂魔法くらいのレベルは流石に無理だが、中級魔法を取得する程度には貯まっている。念の為と言いつつ優柔不断で決められなくて残ったスキルポイントが役に立つ時が来る様だ。
「そんな事を言われましても…私も昔戦った事はありますけど、結局からかわれて終わってしまっていますので…申し訳ないのですけど私はお役には立てないみたいです」
ペコリとウィズは頭を下げる。昔ブイブイ言わせていたウィズが勝てなかった相手となると今回も泥沼試合になる可能性が出て来る。まあこの時点で既に泥沼なんだが…。
「そうか…そう言えば何でバニルはウィズに会いに来たんだ?昔戦った相手なんだろ、闇討ちとかしに来るのか?」
「いえ、それは多分ないと思います。バニルさんは多分ダンジョンを私に作って貰いに来たんだと思います。昔ダンジョンを作る際には私に声をかけると仰っていましたので」
「ダンジョンか…そう言えばダンジョンの主のキールもリッチーだったな」
「みたいですね」
なんで殺しあったのに仲がいいんだ?と疑問に思ったが、今はその事を追求するよりもバニルからどうゆんゆんを引き剥がすかに思考を割かないといけない。
「邪魔したな。今度はちゃんと客として来るよ」
「いえいえ、カズマさんにはいつもご贔屓にしていただいていますので…むしろ役に立てずに申し訳ありません」
その後適当に挨拶を済ませて帰路につく。
正直言えば当てが外れた、何も知らなくても何か手掛かり的なものがあると思っていたが、ウィズからは俺の知っている以上の情報が出てこなかった。
これではギルドに戻っても意味がない、しかし当てはない。一度策を弄しても駄目だったので自信も無い。
そんな事を考えているといつの間にか教会に着いていた。
「どうもー、あの口の悪いシスターいませんか?」
入り口の扉を開けてそうそう腕は良いがいけ好かないシスターを呼ぶ。この街のプリーストで一番の実力者と自称している彼女ならもしかしたら何かしらの打開策を呈してくれるかも知れない。
「へーそれって誰のことですか?もしかして修道女のコスプレしたあなたのことですか?変態ですね。もうあなたの存在は悪魔みたいなものなので浄化しても宜しいですか?」
「うぉい⁉︎」
声は突然に予想外の方向から飛んでくる、どうやらお目当ての彼女は扉の側面で有事に備えて立っていた様だ。死角からの毒舌に思わず変な声が出てしまう。
「びっくりした…気配遮断スキルでも使っているのかよ何も感じなかったぞ」
気配探知スキルは街の中だったので使ってはいなかったが、それでも一応は冒険者…それなりに気配などを読む事に関しては多少なりに自信があったのだがこの教会からは何も感じなかった。
「そうですね、私たちは基本的に淑女なので足音を立てたり気を荒らげたりなど、その様な無粋な行為は致しませんよ。貴方ではあるまいし」
「ほう、随分と今日は言うじゃねえか‼︎表出ろ‼︎俺のスキルで謝るまでヒーヒー言わせてやる‼︎」
何か嫌なことでもあったのだろうか、いつものシスターに比べて少し苛立ちの様なものを感じる。
「まあ、なんて野蛮なんでしょう。これだから冒険者は…レベルが上がると知性が下がる呪いでもかかっているのでしょうか…」
「ハン‼︎修道服着たゴリラが何気品正しく振る舞ってやがる‼︎見た目は細長い様な感じだけど、その服の下に鍛えた筋肉があるのは前に感知スキルで感じた時にわかってるんだよ!」
「…」
「…」
場が沈黙が包み込まれる。しかし俺達の眼は互いの目を睨み合ってい瞬きひとつしていない、いわゆるガンの飛ばし合いと言う奴だ。
目を逸らせば負ける。そのスタイルはどの世界も共通なのだろう。今は緊急事態なのだが、ここだけはそれであっても譲れないのだ。
そして幕は切って降ろされる。
「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉーっ‼︎」
「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーっ‼︎」
互いに掴み合い泥沼の喧嘩が始まった。
互いの威厳を賭けた喧嘩はすぐさま膠着状態になり、当然の如くうるさいと教主によって止められ、そのまま説教になる所だったが、急いでバニルに関しての説明をして事なきを得る。
そして、こうして部屋を借りて二人椅子に腰掛けている。
「そうですね…キースさんは先ほどギルドの職員の方によって運ばれてきまして、私たち総出で解呪にかかりましたが、結局どうこうする事はできませんでした。呪いの強度からして前回のめぐみんさんに呪いをかけたベルディアを彷彿しましたが、やはり今回も魔王軍の幹部の方でしたか」
「そうか、やっぱりあんたの腕前でも駄目だったか」
「ええ、こればっかりは申し分が立たないです」
「いや、気にしなくても良いんじゃ無いか?俺達もなんだかんで手も足も出なかったし」
やはり今回も蔓延するであろう呪いは教会の力を持ってもどうにもする事は出来ないらしい。そうなれば戦力は王都から派遣されるまではジリジリと減っていく事になる。
幸い呪いの進行は遅らせる事ができるらしいので、味方が敵になると言う最悪のケースは避けられる。
しかし、そうなってしまうとバニルの打開策の候補が一つ減ってしまう事になる。
「あんたは何か奴に関して思いつく事とか無いのか?プリーストなんだから悪魔とか退治するのは得意だろ?」
「その様な事を言われましても…どちらかと言うと私は後方支援担当の様な者なので皆さんみたいに前線に出て退魔魔法で悪魔を狩ったりとかはあまりしないですね…」
「そうなのか、てっきりその筋肉を生かして前線でバリバリ動いてるかと思ったぜ」
「ははは、面白い冗談を言いますね…私も貴方と同じで体が貧相なものでして…貴方と同じで」
「…」
「…」
再び沈黙
「「ははっ…ははははははははははははははははははーっ‼︎」」
両者ともに笑い始める。他人がこの光景を見れば二人とも狂気にでも侵されてしまったのだろうと勘違いするだろう。
「この女‼︎もう我慢の限界だぜ‼︎今日と言う今日は許さねぇからな‼︎」
「それはこちらのセリフですよ。いい加減貴方と言う邪悪を祓う時が来たのかもしれませんね」
「いい度胸だ‼︎こちとら常に前線で実力を磨いてるんだよお前なんかイチコロだぞコノヤロウ‼︎」
「ははは今日は随分と笑わせてくれますね、漫才師にでも転職されたらどうでしょうか?少なくとも今の冒険職よりかはよっぽど街に貢献出来ますよ」
「言ってくれるじゃねぇかこのアマ」
「そういう貴方こそ今日は口が回るじゃ無いですか」
両者互いに目標に対して結果を残せていないのか鬱憤が貯まっており、イライラした状態だったためか常に喧嘩腰になり何かあれば因縁をつけこの様にすぐ取っ組み合いの結果になる。
「このパワー系プリーストが‼︎どんだけ筋力が高いんだよ‼︎」
「うるさいですね…私の教えた支援魔法がなければ子供の身体能力しかない不甲斐ない男のくせに‼︎」
こうして何度かの取っ組み合いを経て煩いいい加減にしろと教会を放り出される。
だが、それでも収穫の様なものはあった。シスターはあれでも一応は何もできない自分に不甲斐なさを感じているのか、俺の持っていた木刀にルーンの様な文字を全体に彫りそのまま退魔の守護のような魔法をかけてくれた。
彼女曰く、腰の剣よりかは魔なる者に対して効果がありますとの事だ。
それと念には念をと身代わり人形の様な物を渡される。もしかしたらバニルの呪いに対して一度だけ無効になるかもしれないと言っていた。
もうこれ以上に当ては無いなと思いギルドに戻る事にする。
作戦はおおよそ考えてはいるがそれが最善だとは思えないが、今の所思いつかない以上はこの作戦で行こうかと思っている。だが、ギルドの皆も馬鹿では無いはずだ、俺の居ない間もそれぞれが考えを巡らし最善と呼べる案を考えてくれているかもしれない。それであれば俺もその作戦に乗りゆんゆんを救出しなければならないだろう。
閑散としている街を歩き、ギルドにたどり着く。騒ぎがない所を見ると、あれ以降バニルは活動をしていないのかもしれない。そうなれば奴は今何をしているのだろうか?捕らえたキースは放置されている以上これ以上何かをするわけでは無いだろうし…。
そんなこんなでギルドに着く。
中は先程と同じ様にホワイトボードの様なものに案の様なものを書き出しているが、どうするかが一向に決まってはおらず作戦名を書かれてはバツと平行線を辿っている様だ。
「首尾はどんな感じだ?何かいい案が浮かんだか?」
入ってきて早々にダストに話しかける。
「いや、全然駄目だ。あの嬢ちゃん普段ならどうにでもなるんだけど敵になるとここまで厄介になるとは思わなかったぜ」
ボリボリ頭をかきながらダストはそう言った。確かにゆんゆんは周りから結構舐められているか尊敬されるかの二択だったが、舐められていると言っても一応はアークウィザード、魔法関係の上級職なのである。性格面に関してはあれだが、実力は紅魔族を名乗るだけあってそれなりに高い。
「そういえばめぐみん達は?もう戻ってきてもいい頃なんだが?」
「いや、まだ見てないな?何処かで道草でも食ってんじゃねーの?」
キョロキョロと辺りを見渡す。しかしめぐみんの姿はなく、ダストに聞いても見ていないそうだ。あの後皆を起こしてこちらに戻ってくるならそろそろ着いてもおかしくは無い。
いや…。
そういえばとある事を思い出す。もしかしためぐみんはバニル人形に連れ去られた隊長達を回収しに行ったのかもしれない、それであれば時間が掛かることにも納得できる。バニルも具体的な場所は言ってはいなかったし、俺もそれどころでは無くすっかり失念していた。
「めぐみん達に何かあったのか?」
「いや、大丈夫だ。それよりも何かいい案を考え付いたか?」
「それが全然だ。どの案もゆんゆんを殺す事が出来ても捕獲する事に焦点を置くとそうしても最後の一手が思いつかないんだ」
「へー、でその足りない一手って何だよ?」
「一手ってそりゃああのゆんゆんを大人しくさせる方法だよ。最初の襲撃を経験してるから言えるけど格闘じゃ多分俺じゃあまず勝てないし、モンク職の冒険者に頼もうものなら中途半端に実力があるから殺しちまう。そもそものゆんゆん防御力が低いってのが問題だな…ってどうした驚いた顔して?」
「…いや、何でも無い」
珍しくダストが現実的な意見を言っていたので驚いてしまう。前からどこぞ無く立ち回りが不自然だと思っていたが、もしかして何かを隠しているのだろうか?
「それに関しては俺が何とかする。操っているのがバニルだったとしても、体はゆんゆんのものである以上癖があるはずだ」
「おーやっぱりいつも同じ屋敷で暮らしているだけはあるな」
そう、例え中にバニルが居ようとも体はゆんゆんのものなのだ。その体には長年使用したがゆえにある癖の様なものが存在する、簡単にいえば筋肉のつき方その一つに含まれる。例えバニルがどんなに強くてもその癖を理解しなければゆんゆんの肉体を現時点で使いこなす事はできないだろう。必ずダンジョンで行った土人形の時の動きをゆんゆんの体で行おうとするはずだ、そうなればゆんゆんの体の癖との齟齬が生じ何かしらの隙が生じるだろう。
それは他人から見れば些末な事だろうが俺にとっては十分すぎる隙になる筈だ。
「よし、一番最善だと思われる作戦を教えてくれ。それを俺の考えた案と合わせてバニルを迎え撃つぞ」
「おぉー‼︎」
拳を突き合わせてギルドの皆に宣言する。一般な冒険者なら無視されて終わるが、ベルディアとデストロイヤーを処理した経験がものを言わせ俺の発言はすんなりと皆に受け入れられた。
その後、俺たちは街はずれにある広い公園にに集まり作戦通りの配置に着く。
「で、何で私が一人で公園にいる訳?」
「落ち着けって、バニルの狙いは多分お前だ、ダストもそう言ってたし間違いない」
囮として公園のど真ん中に配置されたリーンが不満を漏らす。
作戦としてはリーンを囮にして奴をおびき出し、そこを俺らで叩くと言うシンプルなものだ。
単純だが、考えを読むバニルを相手にするには下手に難しい作戦を考えるよりもこの様にシンプルかつ単純な作戦の方が帰って功を奏すのだ。
「私が援護しないと厳しいんじゃ無いの?大丈夫なの?」
「まあ。そこは何とかなるだろう」
ゆんゆん、めぐみんがいない以上この町での一番実力がありそうなのはダスト曰くリーンになると言われている。まあ身内の色眼鏡もあるとは思うが。
だが、そんな事を悠長には言ってられない。確かに初手でリーンの援護が使えないのは手痛いが、とは言ってもウィザードは他に何人もいる、3本の矢を考えれば何とかなるだろう。
「と言うか本当に私を囮にして大丈夫なの?正直私あの子に関してあまり関わり無いわよ?あんたとうちの馬鹿が何かアホなことした時の後始末で顔を合わせたくらいだし」
「残念だけど、それで十分なんだよ。ゆんゆんからしたらあれくらいでしか同性の同年代と関わらなかったから一番思いがあるんだろうな」
めぐみんを除いてゆんゆんが同性と関わったのなんてウィズと受付のお姉さん位だ、しかも両方とも仕事を通してなので真の意味で対等に関わった人間といえば悲しいことにリーンくらいなのだろう。
「ヘーそうなんだ…」
そう言われ彼女は嬉しい様なありがた迷惑だみたいな表情をする。この事件がひと段落したら二人とも気まずくなるなーと思ったが、今は目の前の作戦に集中しなくてはいけないので考えるのをやめる。
「取り敢えずこれを持っておけ、囮になる以上危険が付き纏うからな」
「え…何これ?」
「シスター曰く、身代わりになるそうだ」
「へーそうなんだ。ありがとね」
そういい彼女に身代わり人形を渡す。一応3個ほどもらっており一つはダストに渡している。最初ミツルギに渡そうかと思ったが正攻法の奴はバニルとの相性が最悪なのでやめておいた。まあ、そもそもバニルに対して使い物になるかどうか不明だしな。
「マジか…」
そんなこんなふざけていたら作戦通りバニルが現れる。
作戦として想定しなくてはいけないのだが、いざ目の前にするとそれはそれで威圧感が凄い。
「ほう、吾輩とした事が。これはこれは…一杯食わされたと言う事か」
フハハハハハハハと笑いなが仮面に手を着き上体を後ろに反らす。どうやら作戦をどちらかから読み取った様だ、しかし何だろうか、今のバニルからとてつも無い違和感を覚える。
「さて、あの時の戦いの続きと行こうか‼︎良い加減楽になれよ‼︎」
「ほう、また向かって来ると言うのか、面白い吾輩も動き足りないと思っていたところである」
目的を奴の仮面に絞る。幸いこちらには加護のある木刀が握られている。
魔法を使いバニルを止める算段だが、タイミングを決めると奴の特性上バレるのでここで時間を稼ぎ一本取ればその先を皆が魔法で動きを何とかしてくれる手筈になっている。
「成る程な、貴様が吾輩の動きを封じ込めてそこらでコソコソしている奴らで動きを封じる作戦であるか…確かに良い作戦だとは思うが、果たして貴様に吾輩が止められるかな?」
「そんなのやってみないと分からないだろ‼︎」
全身を強化魔法で強化し、木刀を奴に向けて放つ。思考はなるべくせずに体が覚えている動きを心を無にしながら遂行させる。
頭はバニルの動きを追いかけ、奴の放つ攻撃を読み込み躱すか防御にするかの選択を行うのみにする。
「ほう、貴様もあの子娘の様な考え方をする様になったではないか‼︎だが、攻撃は全く持って出鱈目であるがな‼︎」
木刀の一振りをいなし、その間隙から拳が滑り込んでくる。その動きは事前に受けた事があるので側方に跳躍し躱す。そして着地した時の反動を使い奴の懐に潜り込み一薙するがそれを後方に下がる事で躱される。
変則的な攻撃は思考をするので事前に読まれる。分かってはいるがそれでもいつもの癖で行ってしまうのだ。
「やはり胸部に目が行くな‼︎相変わらずわかり易くて結構‼︎」
「…」
奴の挑発に無言で対応する。口撃で戦ってきた奴に言葉を返せば奴の土俵で戦う事を意味し勝利の機会は失われる。
「…サイテーだからあんたいつもゆんゆんと話す時目線が下に行ってたのね。」
ボソッと後方からリーンの声が聞こえる。
「おい待てって‼︎これは奴の心理攻撃だ、相手にすると奴のペースに嵌るぞ‼︎」
「フハハハハハハハどうした‼︎吾輩の言葉に耳を傾けないのではなかったのか?」
「あれはリーンの言葉に反応しただけだからセーフだ‼︎」
心の方向と共に木刀を振る。
しかし、それを跳躍で躱し蹴り放とうとする。だが、その攻撃こそ俺が待っていた動きであった。
普段絶対しない行動、それは跳躍。基本的に前衛にでない彼女はこの行為をすることは無い、したとしても高いものを取る時くらいなものだろう。
飛んだ彼女の足をすかさず木刀で払う。
「むっ⁉︎抜かった‼︎貴様がこの動きを待っていたのを忘れておったわ‼︎」
悪感情を摂取するのに満足して俺の思考を読んで知っていた事を忘れていた様だ。
圧倒的に呆気ない展開に違和感を覚える、本当に奴はダンジョンで戦ったバニルなのだろうか?
しかし、そんなことは気にしていられない。せっかく掴んだチャンスを逃すわけにはいかない。
「今だぁぁぁぁーっ‼︎」
加護のついた木刀で足を叩かれて苦悶の表情を浮かべるバニルに対して追撃を放つ。その間周囲に待機させたウィザード達やスクロールを持ったダスト達が一斉に姿を現し風の魔法を放つ。
放たれた風はバニルの四肢をそれぞれ斜め上方に固定し縛り付ける。流石のバニルもこれにはどうする事もできずなされるまま空間に固定される。
「小癪な事を…」
「よし。動きは止めた‼︎後はプリーストのみんな退魔魔法だ‼︎」
行動を封じバニルは嫌そうな表情を浮かべている。未だに嫌な予感は拭えないがそれでも状況だけを見れば勝利は目前である。
残るはプリーストによる退魔魔法による総攻撃になっている。教会に所属している魔法が使える者全てに招集を掛けているので火力に関しては問題ないだろう。
「この程度で吾輩を封じ込めたと思うでないぞ‼︎」
「カズマ‼︎奴が動き出すぞ‼︎」
プリーストの詠唱の完了していない最中、最後の足掻きなのか固定されているバニルがモゾモゾと動き出す。この後に及んでと嫌な予感がするが念には念を、ゆんゆんには悪いが動きを抑えるために一撃を入れることにする。
「悪く思うなよゆんゆん‼︎後でヒール掛けてやるからな‼︎」
木刀を目の高さで水平になる様に構え、一直線に奴の鳩尾に刺さる様に突きを放つ。木刀自体は念の為に丸くしてあるので貫通することは無いだろう。
「行くぞ‼︎ユニバァァァァァァァァァァァァス‼︎」
俺の放った突きはそのままバニルの腹に向かい一直線で突き刺さる筈だった。
「何⁉︎」
しかし、俺の木刀はバニルの腹部に届くことは無く、その直前で見えない何かに止められる。
風の魔法が四方から放たれている為風が当たって壁になっているのかと思ったが、木刀から伝わる感覚がそうでは無いと言っている。
「フハハハハハハハ、何をそう驚いている‼︎」
バニルは此処まで追い詰められてるにも関わらず余裕の表情で俺を見下ろしている。
不味い…と俺の全ての感覚がそう言っている。
「吾輩は今尚も…」
「「絶好調であるッ‼︎」」
「クソ‼︎…みんな逃げろ‼︎」
俺の叫び声虚しく、突如バニルというかゆんゆんの体から光が放たれ、周囲を物凄い速度で取り囲んで行く。
あまりの輝きに思わず腕で顔を隠し表情をしかめると胸元の何かが壊れた様な感覚する。どうやら身代わりが壊れたらしい。
しばらくして光が収まり腕を下ろし辺りを確認すると、皆地面に倒れキースの様にブツブツと何かを呟いており。俺の思い描いた最悪な光景がそのまま眼前に表現されている。
「フハハハハハハハ、静かになったであるな‼︎これで皆吾輩のオトモダチーと言う奴であるな」
奴は高らかに笑いながら喜びを表現したいのか奇妙なダンスを踊っている。
「…誰か無事な人はいないのか⁉︎」
慌てて周囲を確認すると、リーンとダストが何とか立ち上がってこっちに向かっていた。
「いったいどうなってんだ?」
「どうやら皆キースみたいに洗脳されたみたいね、カズマからもらった身代わりがなかったら私たちもああなっていたわね」
痛むのか二人とも頭を抱えながらも状況を把握しようとしている。
「不味いな…」
二人の会話に適当に相槌をしながら、バニルに向かって木刀を構える。踊ってはいるが光の発生条件が分からない以上油断はできない。
「ほう、貴様らまだ自我を持っておったか」
「ああ、おかげさまでな…」
「成る程あのシスターとやらに身代わりなる物を受け取っておったか。これは意外な伏兵だな」
もう思考盗聴されることに抵抗がなくなってきるのか奴の言葉に対して特に驚きはない。それよりも先程から感じている違和感の方が気になって仕方がない。
「では、今度は吾輩直々にトモダチになってもらおうではないか」
そう言いながらこちらにゆっくりとこちらに近寄ってくる、どうやらあの光はそう何度も発動できるわけではないようだ。
「クソ‼︎どうすればいいんだよ‼︎」
再び木刀を握る力を入れ踏み込む。時間稼ぎにしかならないが二人を逃すには十分だろう。
「ほう、この状況下でまだ吾輩に挑むと言うのか諦めの悪さはピカイチであるな」
奴はそう言うと今まで通りに構えると拳を振り落とす、俺はそれを側方に避け懐に一撃を入れようとするが。
「ライトニング」
ボソッと呪文が聞こえると電撃音が声と同じ方向から聞こえ、すかさず後方に跳ねると先程俺が立っていた足元が焦げる。続いて来た二撃目を木刀で受け止めるが、相性の悪かったのだろう、電撃を受け止めた木刀は目の前で爆ぜて柄のみが残った。
「何だ?もしや吾輩が魔法を使わないと思っていたのか?この身体は元々紅魔族のアークウィザードであるなら吾輩が使えるのも道理であろう?フハハハハハハハ‼︎残念であったな‼︎」
人間を傷つけないと言っていたバニルが俺たちに死のリスクを負わせた。それはつまり…
「つまらん事を考えていないで少しは体を動かしたらどうだ?」
「しまっ⁉︎」
気づけばバニルが眼前まで距離を詰めており、その手をこちらに伸ばしている。
この手に捕まれば加護がない俺はすぐさま皆と同じ様に洗脳されるだろう。
「安心するが良い、貴様さえ捕らえられれば後は…くっ⁉︎」
バニルの手が俺に触れそうになった瞬間、奴の体に向けて聖なる光が放たれる。
しかし、奴はそれを驚異的な察知能力で気づき後方に跳躍して躱す。
「まだそこに生き残りがおったか…」
バニルの向いた方向には教会のシスターが立っており、手には複数体の身代わりを持っていた。どうやら俺達と同じでこの光の洗脳から逃れていた様だ。
「カズマ‼︎リーンを連れて逃げろ‼︎後であの頭のおかしな紅魔族が来るんだろ‼︎それと合流して策を立て直して出直せ‼︎」
シスターの作った隙を見てダストが俺の後方から飛び出しバニルに特攻する。
「何いってんのダスト‼︎馬鹿なこと言ってないであんたも…きゃっ…ってカズマ⁉︎何すんのよ早くあのバカを説得して…」
「ダストが漢気見せてんだ‼︎ここはあいつの意見を汲んでやってくれ‼︎」
バニルに立ちはだかるダストを引き戻そうとするリーンを引き止め無理やり担ぐ。そして街の外に体を向けダストに一瞥をくれてやる。
「…リーンを任せたぞ親友」
「…任された親友」
お互いにその言葉以上は語らず、俺は暴れるリーンを背負いながら街の外へとただ逃げるのだった。