目を覚すとベットの上で天井から見るにどうやら教会に寝かされていた様だ。
「……」
起き上がり全身を動かし状況を確認する。
どうやら怪我や無理をした後遺症は回復魔法でおおよそ治っていたが、それでもやはり痛み自体は完治しておらず、手足を動かすと若干痛みが走る。
「おや、目が覚めた様ですね」
ガチャリと扉が開いた音がしたのでその方向を向くと、そこには果物を積んだバスケットを持っためぐみんが入って来た所だった。
「ああ、おかげさまでな。まだ全身に違和感があるけどそのうち治るから平気だろう」
率直に全身の状態を伝える。適当に誤魔化しても良かったのだが、めぐみんは意外にも勘が鋭い為隠した所で直ぐにバレるだろう。ならこうして伝えた方が後々の信頼関係的にもいい結果を持ってくれるに違い無いと思う。
「そうですか…まあ無理もない話です。あの後カズマは無茶した代償に全身痣だらけになりましたかね、正直駆け付けた時はカズマが死んでしまうのではないかと思ったくらいですよ。
「やっぱりそうか、悪い心配かけたな」
「いえいえ、止めなかった私にも責任がありますのでカズマが気にする事ではありません」
何だか普段雑に扱われている分こうして優しくされるとそれはそれでむず痒い感覚に囚われる。
「それでだ、ゆんゆんの調子はどんな感じだ?」
めぐみんの雰囲気から事件自体は収束している事が窺えるので早急に本題に入る。この部屋にあるベットは一台のみの一人部屋で他の患者はいない、普通であれば男女を分けるので元々居ないとは思うのだが特に身分の高くない俺が一人だけこうして隔離されると言う事は何かしらの理由があるのではないのかと思う。
「ゆんゆんですか?ゆんゆんならカズマの決死の捨身の結果無事に寝てますよ」
「何だその言い回しは…」
「ゆんゆんは取り敢えず無事ですよ。カズマよりも一日早く目を覚まして検査を一通り受けた後、記憶は残っていたのでその足で街のみんなに謝罪をしに街を回っていますよ」
「ゆんゆんの性格だからやっぱそうなるよな」
「それで先程おおよそが完了して疲れたのか、カズマが目を覚す前に寝てしまいましたよ」
どうやらゆんゆんは無事だった様だ。
バニルに取り憑かれて後遺症とかが残らないか心配だったが、それは杞憂だった様だ。しかし悪魔に憑かれると言うのはどう言った感覚なのだろう?最後の接戦の前に言った羞恥心と欲望のリミッターを外した的な事を言ってはいたが、そうなればある意味無敵になれるのではないだろうか?まあ、その後が怖いが。
「よっこいせっと」
「もう大丈夫なんですか?まだ寝ていても大丈夫ですよ。セナと言う方のおかげでここの入院費はおおよそ街が負担してくれるそうなので、カズマのお財布には全くのノーダメージですよ」
ゆんゆんの顔でも見に行こうかと思い起き上がったが、めぐみんからしたら入院費を減額させる魂胆に見えたらしい。
全くもって心外であるが、それでも普段の行いを思い返すとあながち否定できないので突っ込むのは勘弁してやる事にする。
…いやでも待てよ。
よく考えて見ればゆんゆんは今寝てるらしいし、起こすのはかわいそうだな。それに宿泊費は無料で休んでも名誉ある休日という事になる、ならばこのまま休んでしまった方が良いのではないだろうか?
「悪いなめぐみん…少しまだ調子が悪いみたいだ」
「そうですか、カズマが運ばれた時は全身の内出血が激しくて一刻を争う事態だったらしいですからね。しばらくはそうして休んでいてください」
「…おう」
普段見せる表情とは違って穏やかな表情を浮かべるめぐみんに若干の戸惑いを感じつつ布団に潜り込む。
何だか物凄い罪悪感を感じるのだが…。
しかし、覆水盆に返らず。一度言ってしまった事はもうどうにもならないのだ。ならそれはもう仕方ないと自分に言いかけせて、今日も穏やかに休むことにしようと思う。
掛け布団を持ち上げ本格的に眠りに入る。あながちめぐみんの言っていた事は的外れではなかった様で、眠る体勢に入って仕舞えばすんなりと眠りに入ってしまう。
ふと夜中に目が覚める。昼間から寝ていた影響だろうか、眠気などは既に無く頭はすっきりとしている。
こうなってしまうと何をしても眠れないので、夜風にでも当たって気分を入れ替える事にする。
重怠い体を動かしながら部屋を出る。ドアの向こうは今まで来た事が無かった階なのだろうか、ぱっと見教会の何処なのか分からなかったので取り敢えず上を目指す事にした。
教会の上には確か洗濯物を干す様な屋上があった様な気がする。まあ無ければ無いで別に構わないのだが。
「うお…意外に寒いな」
階段を上り屋上に出るとまだ冬の寒さが残っていたのだろうか少し寒く、腕をさすりながら手すりの方へと向かうとすでに先客が居たのか人影が見える、そいつは俺のよく知った人物で声をかける。
「…よう。気分はどうだ?」
そこにはゆんゆんが居て俺と同じ様に夜風にあたりに来ていた。
「カズマさん…起きていたんですね」
先日にあんな事があり俺に対して後ろめたさがあったのだろうか少し距離を感じる。
「ああ、おかげさまでな。それでお前の調子はどうなんだ?」
「…私の調子は大丈夫ですよ。カズマさんが無理をしたお陰でこうして無事に動ける様になりました」
バッと彼女は腕を広げて五体満足である事を証明する。
「そうか、それはよかった。俺も無理した甲斐があった」
「そうですね…でもカズマさんは何でそこまでして私を助けてくれたんですか?あのまま放置しておけば王都の方が派遣されて来るのに」
きっとギルドの冒険者の思考を読んだのだろう。俺達と別れてから彼女はバニルの力をある程度扱える様だったのを思い出す。
「逆に何でゆんゆんは街から逃げなかったんだ?王都から派遣される騎士を考えれば逃げるのが得策だったんじゃ無いのか?」
詳しく話すと其れはそれでややこしい事になるので話を逸らす。
「それは…まあそうですね。あの時の私はこの街でやりたい事がありましたので、それが済むまでは逃げるつもりはありませんでした」
「へぇ…それって何だよ?友達帝国でも作ろうとでもしたのかよ?」
「違いますよ‼︎あれは…その…何と言いますか…カモフラージュの様な物で…」
どうやらあの時に言っていた事は嘘だった様だ。しかしそれだと彼女の目的は一体何だったのだろうか?
「まあいいか。こうして誰の犠牲もなかったんだからそれで良かったんだよ」
ベルディア、デストロイヤー、過去の戦いではそれなりに被害はで…何だかんだ言って思いかえすとあまり被害はなかった様な気がしなくもないが、それでも今回は町の機能が一時的に停止しただけで、特に誰かが亡くなった様な被害は出ていないとのことだ。
ならそれ以外の事は知らない方がいいのかも知れない。
自身の度胸の無さに嫌気が差すが、それでも今は彼女とのこの距離感が心地が良かったのだ。
「そうですね…カズマさんがそれで良いと言うのであれば私もそれで良いと思います」
彼女は何か悲しげな表情でそう言った。
「それで?町のみんなには謝ったのか?」
「そうですけど…それってめぐみんに聞いたんですか?」
「まあそうだな?聞いちゃまずかったか?」
「いえ、別に構いませんけど。そうですね…今日周った所でおおよその家は終わったのですがまだウィズさんの所には行っていませんね」
まあ、あの時最後に後回しにして結局行ってはいないんですけど、と彼女はそう付け足す。
初心者の街とはいえアクセルも回ってみると意外にも広い。2日あったとは言え住民一人一人に話して回るとなるとそれはそれで時間が掛かるのだろう。
めぐみん曰く俺らが作戦会議している間にアクセルの街の住人に襲い掛かり老若男女全てを自身の友達に変えたらしい。
「だったら、明日は俺と一緒に回らないか?」
今回の件でゆんゆんが町の皆からどの様な扱いになったたのかが気になる。一応大丈夫だったとめぐみんから聞いてはいるがそれでも不安要素はあるのだ。
「私は構いませんが、大丈夫なんですか?体はまだ本調子じゃないんじゃ無いってめぐみんから聞きましたけど、そんなに無理をしたらまた治療し直しですよ」
「この位平気だ。あのシスターは口はかなり悪いけど、腕前だけは一流だからな。ほらもうこの通りだぜ」
心配するゆんゆんを他所に体を動かして大丈夫アピールをする。まあ多少は痛むがそれでも昼頃に比べれば大分マシになってきている。激しい戦闘は無理でも街を散策するぐらいには問題はないだろう。
「それなら大丈夫ですけど、何かあったら必ず言ってくださいよ」
「ああ分かってるって」
いざとなれば自身で多少応急処置ができるのでその辺りは問題ないだろう。
「それにしても心が読めるって便利そうだな、ゆんゆん的にはどんな感じだったんだ?」
明日の予定も決まり、特に話すこともなくなったので適当に会話を始める。適当と言っても一応気になってはいた内容になる、もしゆんゆんの口から奴の能力の詳細が聞ければ俺の冒険者カードに奴の心を見通す能力が追加されるかも知れないからだ。
そうなれば俺の戦闘に関して相手の行動の先を読める様になるのでかなりのアドバンテージを得られる事になる。俺のステータスの低さを補うにはもってこいのスキルだ。
「いえ…私自身どの様なものだったかと聞かれましても、正直よく分からないとしか答えられないですね…何かに例えるのであれば調べたい事が映像となって頭に入ってくる様な感じですかね?」
どう説明したら良いのでしょうか、と彼女は考えながらもどうにか表現しようと言葉を尽くすが、冒険者カードにスキル名が浮かばない以上無駄足に終わりそうだ。
「オーケーだゆんゆん大丈夫だありがとう。それで話は変わるんだけどあいつに取り憑かれて何か情報とか見れなかったか?」
よく映画などで見るような展開だが、意識を乗っ取られたりした仲間が敵と意識を共有して敵の本拠地や目的などの情報のイメージをトレースしたりする事があったりなかったり。もしかしたらゆんゆんも言わないだけで何かしら知っているのかもしれない。
「そうですね…一応この街の方達の表層意識をある程度読んだりはしていましたが、バニルさんに関しての情報は一切なかったですね…」
どうやら希望的観測は所詮希望的だった様で特に大した情報は得られていなかった様だ。
「成る程な…それは残念だ…ん?街の住人の心を読んだんだよな?」
「ええ…そうですけど」
「だったらその情報を利用して何かしようぜ、例えば知られたくない趣味とか秘密とか良い揺すりネタに使えそうだ」
何を言っているんですか…と若干引きながら苦笑いするゆんゆん。確かにしょうもない事かもしれないが、今回俺達が得た物といえばゆんゆんの持ち帰った街の人々の思考や記憶だろう。
「そんな事言えるわけないじゃないですか‼︎それに相手の思考を読めると言ってもそれに関連した事とかしか分からないですから知りませんよ‼︎」
「何…だと⁉︎」
どうやらバニルの見通す能力は、全ての情報を一度全て取り込み抽出するのではなく、読み取りたい情報を事前に指定しないといけなく興味のない情報は頭には入ってこないらしい。
「そんな事言っても何か気になる情報とか調べたんじゃないのか?」
暴走したゆんゆんが街に現れてから何日か経っている、普通の人間ならその間に時間を見つけては知りたい情報を知る事に専念するだろう。
「まあ、カズマさんだから言いますけど…確かに数人の方の記憶を幾らか覗きましたけど特に役に立つ様なものはありませんでしたよ。それに取り憑かれていた間の記憶が夢を見た時の様に徐々に薄れていっている様な気がします」
「そうなのか、それは残念だったな」
見通す能力自体ゆんゆんの物でないので、取り憑かれていた頃の記憶は徐々に失われつつある様だ。なら忘れない内に色々聞いて置きたかったが、そもそも街のみんなは重要そうな記憶を持ち合わせていなかった様だ。
だが、ゆんゆんの事だ、もしかしたら他人の事を配慮してあえて口を噤んでいる可能性も否めない。彼女の内気な性格からして人の事をそうベラベラと話す様な事はないだろう、普段からめぐみんの事を除いて他人の事情を話した事を聞いた事がない。
「はい、ごめんなさい…」
「どうした?別にゆんゆんが気にする様な事じゃないぞ」
「いえ、迷惑をかけてしまった上に何も情報を得られなくて…」
「そんな事一々気にすんなよ。俺からしたらゆんゆんがこうして無事に戻ってきてくれただけで良かったんだから、明日謝ってまたいつも通りにクエストに行こうぜ」
「そう…ですね。分かりました、ではまた明日」
彼女は目を伏せ、そう言い残してそそくさと部屋へと戻っていった。
何か言っては不味かったことでも言ってしまったのだろうか?疑問の答えは明日答え合わせするとして未だに眠気はなく意識は冴え渡っている。
まだ何処かにでも周ってみようかと思い一度部屋に戻る。
部屋に戻ると壁に例の大太刀が鞘に収まった状態っで壁に立てかけられている、てっきり置き去りになっているか紛失していたと思ったが、どうやらめぐみん辺りが気を利かせて回収してくれた様だ。
太刀を背負い部屋に備え付けられているフレアタイトの輝きを光源としたカンテラを拝借し、潜伏スキルを使用して教会を後にする。幸いにも誰にも遭遇することなく街に出て来れたが、あの事件の後始末の影響で暫く街の商店街は自粛を余儀なくされている様で明るかった店は暗くなっていた。
「マジか…」
思わず独り言が漏れる。時間をつぶす傍ら情報集でもしようかと思ったが、アクセルの街は現在休止中の様だ。そうなればやる事なんてものは無く途方にくれるしかないのだ。
そうなれば特にやる事もなければ眠るわけにもいかないので、適当にぶらつこうと暗闇に包まれた街の中を仕方なく進んで行く。
しかしそうは言ってもここは異世界なので何かしらのイベントがあるだろうと思っていたのだが、現実はそう甘くは無く何もない時に本当に何もない事はどこの世界も一緒な様だ。
街に掛かっている橋の手すりに体を預けながら茫然と川の流れを眺めていると、此の間リーンと森付近に避難していた時の様に後ろ髪を引かれる様な感覚を今度は背中に背負っている太刀から感じた。
どうやらまた何かに呼ばれているのだろうか。
特にやる事もなかったし、このままだと本当に何のために街まで降りてきたのか分からないので一か八か感覚を辿って行く事にした。
感覚を辿り、着いたのは予想通り例の森の入り口だった。今回も俺は見えない何かに誘われてノコノコとついてきてしまった様でそろそろ気をつけないと、何処ぞの頭の切れる敵の罠にハマってしまいそうで怖い。
森の前に立ちカンテラの明かりを灯し奥へと進んでいく。中の様子は前回と変わりはないのだが、時間が時間の為か不気味な雰囲気も相まってかとても怖い。
前の世界ならお化けなんて居ないと大見え切って進むのだが、この世界においてアンデットモンスターが居るので何もいないとは言い切れない。かと言って現れた時に関して言えば、現在の俺のコンディションは過去最高と言っても良いほどに充実しているので、むしろドンと来いと言いたい。
しかし、それはそれで突然現れるというのが今回の俺の恐怖心のネックだろう。感知スキルがあると言ってもそれをすり抜ける方法が無いとは言い切れないのだ。
そんなこんなで森を進んで行き例の泉にたどり着いく。
「やあ待っていたよ、でも随分と遅かったね待ちくたびれちゃったよ」
入るや否や奥にあった切り株に座っていたクリスから呼びかけられる。
どうやらあの後ろ髪を引かれる様な感覚を起こしていた者の正体はクリスだった様だ。
「色々仕組まれた様な感じだったけど、やっぱり全部クリスだったの仕業だったのかよ」
ほとんど考えるまでも無かったが、この太刀と言いどうも話が出来過ぎている様な感じがする事がずっと頭の奥で引っ掛かっていたのだ。
「まあね、本当だったら私が直接出向きたかったんだけど、色々忙しくなちゃって今回は君に御鉢が回ってきたわけさ」
「えぇ…」
はははは…と頭を掻きながら無邪気に彼女は笑いながらそう言った。
「まあでも無事何とかなったんじゃない。結果オーライってやつさ」
「そんな簡単に言わないでくれよ。こっちは危うく死にかける所だったんだぞ」
彼女が言う様に結果だけ見れば何とかなったのだが、その代償に街の皆はボロボロになってしまっているのだ。
「それで、結局何の用で俺をここに呼び出したんだ?この太刀だったら返すぞ」
背中に背負っていた太刀を手に持ち替え、彼女の方へと投げる。
正直に言ってしまえばもの凄くもったい無い行為なので出来れば回避したかったのだが、この太刀自体彼女の物なので返すのが道理だろう。
「おっとっと…危ないなもう、この太刀結構繊細なんだから扱いには気をつけてよね」
投げ飛ばした太刀を何とかキャッチしながら彼女は不満を漏らす。
「悪いな…つい力が入っちまったよ」
「もう、しょうがないな」
「それで、結局クリスって何者なんだ?あんまり他人の事情に踏み込んだりしない様にしてはいるけど、流石に今回は説明してくれないか?」
神具を集め、アンデット最高峰のリッチーすら倒してしまう盗賊の少女。正直言って俺たちみたいな転生者であれば納得できるが、そうであったのならまず白髪では無いはずだし魔王討伐に関しても積極的であるはずだ。
「そうだね…それに関しては…」
うーんと考える彼女、どうやら説明する気はないが、かと言って俺の扱いを蔑ろにする気はない様でどうやって話を逸らそうか迷っている様だ。
「まあ、答えられないんならそれで良いんだけどさ」
悩む彼女に助け舟を出す。前にも結論を出したが、現段階で彼女が俺にもたらす恩恵は小さくは無い。そのデメリットが彼女の存在の秘匿性の維持であったのなら寧ろ安いくらいだ。
それをわざわざ好奇心任せで藪蛇してしまったら元も子もない。黄金の卵を産む鶏を絞め殺す様な事はしないのだ。
「うん、なんか悪いね。でも話す気はない訳じゃないんだよ、ただ今はその時じゃ無いってだけで、いつかは話すつもりではいるんだよ」
いつかとはいつの事だろうか彼女は最後まで説明することは無かったが、それでもいつかはかの謎に終止が打たれるのだろうか。
「それで、他に用件とかあったのか?この太刀を回収するだけだったらわざわざ此処まで呼んだりはしないだろ?」
「そうなんだけどさ…また時間が空きそうだから今度は攻撃の手段について教えてあげるよ」
「お、良いね丁度その事について頼もうと思っていた所なんだよ」
攻撃の手段。今回のバニル戦で露見した俺の弱点…まあ正直ステータスが低いので悪魔に対して太刀で応酬するなどの何かしらの特攻が必要になるが、いつまでも攻撃だけが弱いってのも良い加減にして欲しかったと思っていた所だ。
「それでどうする?明日から行く?」
「いや、流石に暫くは休みだな。今回の戦いで大分無理をしたからな…その傷が癒えるまでは暫くお休みって感じかな」
流石の俺でもこのバットコンディション下でクリスの扱きに対して立ち回れる程器用では無いのだ。
「そっか、それは残念だね。なら…そうだね…」
おもむろに何かを考えるクリス。その表情には何処か悪戯を仕掛けようかと考えている子供の様な無邪気さがあった。
「うん分かったよ。それに関しては何とかなる様にしておくから君は安心して休んでいると良いよ」
「何だよ…なんか恐いな」
ウンウンとまるで匠のように頷きながらそう言う。
「それじゃ、もう私の用件は済んだよ。どうする?此処に泊まっていく?私は別に構わないけど」
「いや、流石に戻るよ。一応教会に泊めてもらっている身だから戻らないといけないんだ」
「そっか、それは残念だね」
「クリスはどうするんだ?街に戻るなら一緒に戻らないか?」
「それは今は遠慮しておくよ。まだ少し此処でやる事があるからね。それが終わったら街に戻るから暇な時にでも声をかけてよね」
ついでに彼女が何処を根城にしているか確認して見たかったがそうは行かないらしい。もしかしたら俺が泉に飛び込んだ事に関しての後始末がある可能性が無きにしもあらずなので、今日はこのまま解散する事にする。
「それじゃな、またよろしく頼むよ」
そう言い残しクリスを残して森を後にする。
それからは何事もなく教会に戻り、自分に当てられた部屋に入りベットに体を投げ出して眠りにつく。流石に森まで歩いたので疲れに身を任せて目を閉じる事で簡単に入眠できた。
「よし、それじゃ最後の挨拶回り改め謝罪周りに行こうぜ」
「あの…そこまで気分を上げなくても…」
俺の高過ぎるテンションについて来れないのか、オドオドと彼女はそう言いながらあまり目立ちたく無いとテンションを下げるよう俺に伝える。
「何言ってるんだよ、謝罪っていうのは体力と精神力を消費するんだよ。最初からそんなだったらすぐにバテちまうぞ」
「え、そうなんですか?でもわたし昨日は普通でしたけど」
昔ヘマした時に関係者全員に謝罪周りをした事があるのだが、その時はかなりに精神をすり減らされた物だ。なので今回は先にテンションを上げて下降していくモチベーションに対応して行こうって話だ。
「そんな細かいことは気にすんな。それじゃ行くぞ!おぉー‼︎」
「お…おー」
俺のテンションについて来れないのか後から続いて決起に参加する。まだバニルの件を気にしているのだろうか?そろそろ切り替えて欲しい物だ。
謝罪周りと言っても既にゆんゆんがおおよその街の住人の謝罪を済ませてしまっているのでやる事と言えばウィズのお店とその周辺だけだそうだ。
簡単そうに見えるが油断はできない。クレーマは数では無く質なのだ。99人が良い人でも1人厄介な住民が居れば全てが台無しになってしまうのだ。そうなれば面倒くさい事になる事待ったなしだ。
ゆんゆんを連れてウィズの魔道具店に向かう。
「邪魔するぞ」
ドアを開け、扉の上辺につけられたベルが鳴りこの店に客が来た事を知らせる。
本来なら何時もの如くウィズが慌ててやって来るのだが、如何やら今回は違うらしく予想外の人物が俺たちを出迎えた。
「ヘイ!いらっしゃい‼︎」
そう、そいつは顔上半分を仮面で覆った大柄の男。地獄の公爵にして見通す悪魔バニル伯爵だった。しかも何故かピンクのエプロンを前に掛けあたかもこの店の店員だと言う事を補聴している様だった。
「何でお前が居るんだよ‼︎お前はあの時ゆんゆんごと切り捨てただろ‼︎」
思わず声を荒らげ腰に帯刀した武器を引き抜きバニルに向かって振りかざす。
「謝りに来たのに騒がないでくださ……いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁーっ‼︎」
遅れて店に入ってきたゆんゆんは俺の行動に呆れながら注意しようとしたが、店の中に居た人物に気づき思わず絶叫した。
「おっと、これはこれはいきなり物騒では無いか、未だに進む事に躊躇しているヘタレ小僧に、思い人の心の中を読んでそれで満足している一人小娘の凸凹コンビよ」
出会い頭早々に爆弾をぶっ込んでくるバニル。やはりこいつは生きててはいけない存在なのだ。
「行くぞゆんゆん‼︎この場で最終決戦だ。攻撃が読まれる以上大技かまして周囲ごと吹き飛ばしてやれ‼︎」
「わ、わかりました‼︎」
剣を抜き振り回す俺に詠唱をするゆんゆん。此処はあの時の様な洞窟では無いので、酸欠や巻き込みなどの心配をせず加減をしなくて良いぶん思いっきり暴れられる。
「フハハハハハハハ出会って早々戦いを所望か!貴様らの行動原理は短絡的かつ単純であるな‼︎」
ゆんゆんの詠唱にかかる時間を稼ぐためにバニルとの接近戦を繰り広げる。
しかし、奴ははなからやる気が無いのか俺の攻撃を避けるだけで一向に反撃して来ない。一体如何いうつもりだろうか、考えれば大凡の考えはついたが、だからと言って戦わない理由では無いのだ。
「カズマさん詠唱終わりました!早くそこを離れてください‼︎」
「分かった」
クリエイトアースにて生成された砂を握りながら奴にぶつけ後方に下がる。それを見計らい彼女は魔法を唱えようとした。
その時だった。
「ちょっ‼︎ちょっと待ってくださーい‼︎私の店で暴れ回らないでください!」
突如店の騒音に気付いたのか奥の部屋から突然ウィズが割って入って来る。
「ウィズ‼︎退いてくれそいつを殺せない‼︎」
「フハハハハハハ、そこのポンコツ店主が退いたところで貴様如きでは我は殺せまい‼︎」
「こっコイツ‼︎」
ウィズが間に入り再び膠着状態に入ると、彼女は何故バニルがこの店にいるのか説明し始める。如何やらバニルはこの店で働いてその給料で新しいダンジョンをウィズに作って貰おうという算段だったらしい。
「成る程な〜それで、何で倒したはずのコイツが生きてるんだよ。確かに灰になって消えるところを見たぞ」
コイツが此処にいる理由は分かったが、一番の疑問であるコイツが生存している理由がいまだにわからない。冒険者カードにも奴の名前と経験値が描かれていた以上奴を倒したという結果は嘘では無いはずだ。
「それであったらこれを見るが良い」
ちょんちょんと奴は自分の仮面を指差す。何だと思い覗き込むとそこにはナンバーを示すのかIIの文字が仮面の額に新たに描かれていた。
「あんな良く分からん刀で斬り刻まれては流石の我輩も敵わんからな、二代目バニルと言うわけだ」
「なめんな‼︎」
この世の理不尽に対して殴りかかるが、バニルにすっと避けられる。
「まあでも我輩を倒した事に変わりは無いからな、今回は褒美にこれをやろう」
そういい俺の目の前にズイっと顔を近づけると何か紙の束の様なものを差し出しした。
何だかよく分からないが、何かをくれるらしい。俺はくれる物は遠慮なく頂く主義なので躊躇いなくそれを受け取り内容を確認する。
「…何だこれ?」
「商店街の福引でしょうか?」
見慣れない物にゆんゆんが補足するが、そう言う事を聞きたい訳ではないのだ。
「これは商店街でやっている福引でな、アクセルの街で一定額以上お買い物をすればもらえる代物であるが、生憎こんな店に来る客がいなくてな一応券に店の名前が書いている以上何枚か捌けないとこの店が配ってはいないのでは?などと誤解を招いてしまうのでこうして諸君らに渡す次第である」
「要するにサクラになれって事か?まあ別に構わないけど」
「え?何渡しているんですか‼︎後で近所の皆さんに配ろうとしていたのに」
「うるさい、貴様が配ったところで別に変わらんだろ。だったらこの運だけは良い小僧に引かせてこの店でもらった券と宣伝してもらった方が得策であろう‼︎」
バニルの渡した券をしまうとウィズが驚きながらバニルに問いただし喧嘩が始まる。先程暴れるなと言っていたウィズの言葉がブーメランになっていたが正直レベルの違いを感じずにはいられない光景だった。
「よし、そのまま外に出よう。また入院する事態になりかねん」
「わ、分かりました」
争う二人を他所に店を後にして商店街へと向かう。
残りの謝罪周りを終え、券の裏に記載された場所に行ってみると、そこには人集りができており騒がしくなっていた。福引の最終日ということもあるだろう、一等の商品は未だにでては居らず周囲の人間はそろそろ出るんじゃないかと最後に詰めかけている様だ。
福引のガラガラに近づけば近づく程その周囲には殆どが男性客で埋め尽くされ皆絶望の表情を浮かべた人達で埋め尽くされていた。此処は地獄か。
幾星霜の屍の山を越えようやくその場にたどり着く。途中金髪の奴やら色々いたが面倒なので見て見ぬ振りをする。
「なんか大袈裟じゃないのか?」
「毎年この福引会はお祭り騒ぎなんですよ。何でも一等は旅行券で二等は可愛い女の子が沢山いる喫茶店みたいな所の特別サービス券が当たるらしいですよ」
「へーそうなのか。それはそれで気になるな、今度行ってみるか?」
「ダメです」
ピシャリと場が凍るとはこの事を言うのかと言わんばかりに鎮まり、ゆんゆんの表情が笑顔で固まった。
「お…おう」
「良いですか?カズマさんは関わろうとしてはいけませんよ」
多分だが、ゆんゆんはその場所が示すところを知っているのだろう。それかバニルに取り憑いた時に覗き見たのだろうか?何にせよ関わらないのが一番だ。
ゆんゆんは本気で怒らせる方が難しいが、怒らせると手がつけられなくなる程だと前にめぐみんが言っていた気がする。
「と、とりあえず引いてみようぜ。運が良いって言ってもそう簡単に賞が出る訳じゃないんだし」
話を戻して券を受付に渡してガラガラを回す。こう言う物はどうせ当たりが出ないと相場が決まっているのだ、所詮はお祭りで話題作りになれば良い程度の賑やかしだから楽しめればそれでOKなのだ。
回数は5回ほど、あまりに沢山渡せば不正を疑われるのでこの枚数だが、できればもっと欲しいくらいだ。
「これは…」
一回一回溜めても面倒なので一気に回すと、最初に黄金色の玉がこぼれ落ちそれに続いてカラフルな玉が続いて落ちていった。
「一等出ました〜!!他にも多数の賞が‼︎これは稀に見る幸運の持主です」
カラカラとベルを鳴らされ、旅行券が渡される。他の券も渡されるが、それはゆんゆんがちゃっかり受け取り俺の元に返ってくる事はなかった。
「やりましたね、それでどこの旅行券ですか?」
「まあ待ってろって」
周囲の歓声の中渡された封筒を開きの中に入っている券を引っ張り出し内容を確認する。
「えーとアルカンレティア2組様ご招待だってさ」
券の絵を見た感じ温泉街の絵が描かれていた。丁度二人とも体がボロボロなので良い湯治になりそうだと期待に胸を膨らませる。
そう、この時の俺はまだ何も知らなかった。これが地獄の始まりだったとは…。