この女神の居ない世界に祝福を   作:名代

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まだ忙しい為次回の投稿も遅れます…


アルカンレティア2

クリスの演舞に目を奪われ早数分。魅入った際の時間感覚はは永遠の時間すら一瞬に感じさせてしまう程に早く、演舞を終えたクリスは若干だが汗を滲ませながら木刀を鞘に納めて戻ってくる。

 

「いやーやっぱり久しぶりに動くと疲れるね、一通りの流れを舞ったけどそれを見てどう?真似できそう?」

「いや無理だろ」

 

はははっ、と久しぶりの運動で一汗かいた様な爽快感を感じさせながら彼女は今行った行為を俺に真似しろと難題を叩きつけられたので、開口一番にそれを否定する。

 

「何でさ⁉︎私結構一生懸命にやったのにどう言う事?根性なさすぎだよ」

 

正直に答えたのに彼女から帰って来たのは罵声だった。

 

「いや普通に考えて一度に複雑な動きを見せられて真似しろなんて無理だって」

 

動きの基礎を教わったからと言っていきなり応用が出来る訳ではないのだ。何処かの漫画みたいなチート系主人公であれば即座に真似できるのだが、ステータスが凡人並である俺には無理難題に近い。

 

「まあそうだよね…勢いで押し切れば行けると思ってたけどさすがに無理だよね」

「当たり前だ‼︎」

 

ごめんごめんと彼女は頭を掻きながら謝ると再び俺に木刀を取る様に指示する。先程の雰囲気から一転どうやらここからが本番の様だ。

 

「一度に連続して真似るのは難しいから幾つかのパート毎に分けて教えていくよ」

「ああ、それで頼むよ。と言うか最初からそうしてくれよ」

 

まあまあ、と彼女は俺を宥めながら再び木刀を構え直す。

 

そこから彼女の烈々な指導が始まった。

最初は腕の動きはなしで足運びだけ真似することになる。以前から重心移動には気をつけていたが、どうやらそれだけでは無くそこに追加して膝をどれだけ曲げられるかが重要になって来るらしく、上半身を傾けないでスライドさせる様に上体を動かしバランスを安定させる。どこぞのチューチュートレインを彷彿とさせるが、実際の動きにそれを組み合わせるとなるとかなりしんどい。

 

「はい、そこで腰を落として上体をスライドさせる‼︎目線を下げないでそのままで、今はいいけど次は木刀を持ってやってもらう事になるからそのままだと相手の姿が見えなくなるよ‼︎」

 

動きながら彼女の指導が飛んでくる。頭の中では次の動きが分かっているのだが、体が想像した動きについて来ずに頭のイメージと実際の体の動きがどんどん乖離していく。

上段下段そして中段、この三つの構えと動きをバランス良くつっかえる事無く流れる様にこなして行く。何度も練習しているこれがあくまで動きを覚えると言うだけの行為である事に若干の不安を覚える、この先に実戦で使用すると言う目的がある以上この演武を無意識下で行える様にしないといけない。

 

「クソ‼︎頭では分かっているんだけど体が言う事を聞かない!」

「最初みんなそんなもんだよ。焦らずに何度も繰り返して覚えていけば考えなくても行える様になるよ」

「…クリスって意外と脳筋な所あるよな」

「え⁉︎」

 

最初は一発で覚えろと言っていたクリスが疲れて小休止している俺を慰める様にそう言ったが、何だか運動部の先輩がよく言っていた言葉に頭の中で重なる。

だが、彼女が言っている事は間違ってはいない。脳にはそれぞれの神経領域があり一定の動きを繰り返す事でその動作に対する領域が広がって行き、その動作に関しての動きが良くなるとされている。よく音楽家の人が熱心に練習するがあまり局所性ジストニアとなり楽器を奏でようとすると手が痙攣するなどあるが、その神経領域に問題が起きたのではないのかと言われているらしい。

あれ?って事は努力したら不味いんじゃないのか?

まあそんな事はさて置き、旅行に行ってしばらくクリスに会えないとなると、今日中におおよその動きを覚えて自主練で何とか動けるところまでいかなければ練習しても中途半端になってしまって時間の無駄が生じてしまう。なので何としても今回中に動きをある程度のレベルまで習得しないといけないのだ。

 

「ほら、考え事してないで集中集中!雑念は手元を狂わせるよ!」

「痛⁉︎」

 

これから先どうしようかと考えていると、彼女はすぐさまその雑念をキャッチし木刀で俺の臀部を叩き喝を入れる。相変わらずの鬼教官ぶりに表情が引きつりそうになるが、何とか堪えて動きを再開する。

 

 

 

幾分か動きを繰り返してようやく彼女からの及第点を貰う事ができる。正直上手く行って無いと自分自身で自覚しているが、今の俺に必要なのは完璧な動きでは無く一通りの流れを覚える事になっており、動きを洗練して行くのはその後の段階になる為今はこれで良いと言う訳になる。

次の段階に進み、手ぶらからようやく木刀へと切り替わり、今まで意識していなかった腕の動きが加わる。やってみて分かった事だが、足と手を同時に動かすとやはり上下の動きにズレが生じてしまい流れが途中で止まってしまう。

意識に追いつかない体の動きに、合わさらない腕足の動きが加わった事により、折角の演武がヘンテコダンスへと変貌を遂げる。正直恥かしいのでクリスに見られていない所でこっそり誰にも見られずに練習したいのだが、そうなれば誰も指摘してくれないので練習にならなくなってしまう。

 

「うわ⁉︎マジかよ‼︎」

 

腕の動きが早まり、足運びが遅れたために転倒する。俗に言う足が縺れたと言う訳だが、もしこれが戦闘ならここで止めを刺されて終了だろう。

 

「ほら、動きが合わさっていないよ。パート毎とは言え急に一連して流れを通すなんて出来る訳ないんだから、動きを一コマ一コマ分けてもっとゆっくりしなよ」

 

どうにか改善しようとしている所を彼女に指摘される。分かってはいるのだが、それが実際に出来るかはまた別なのだ。彼女の言う様に動きをできる限り遅くしコマ送りの様に一つの動作を確かめる様に再現して行く。

ただでさえ疲労している所にゆっくりと動作を行う事で体への負担が増長されて行く。

クリス曰く、動きに無駄が多ければ多いほど体への負担が増えていき、逆に無駄がなければその分体への負担が少なくなって来るらしい。

 

「よし、じゃあ今日はこれまで。動き自体は何と無く分かって来ただろうから、次に私に会う時までには何とかしておいてね」

 

体の疲労が限界に達して動く事だけが精一杯になった頃に、それを見計らってか彼女が手を叩きながら叫ぶ。

 

「あ、もう駄目だ、今日はもう動けねえ…」

 

彼女の言葉を皮切りに緊張の糸が切れたのか、残っていた最後の力が抜け地面へと横たわる。今日はもう何を言われようが全ての物事からバックれて休もうと心に誓った。

 

「お疲れさん。最初はどうなるかと思ったけど、最後の方は形だけだけど何とかなったね」

 

地面に寝そべってゴロゴロする俺に近づきながら彼女はそう言った。手にはどこからか持ってきたのか飲み物が入ったコップが握られており、そのうちの一つを受け取るとそのまま口につける。

 

「ああ、おかげ様で何とかできそうだよ」

 

中に注がれた水を一気に飲み干しコップを彼女に返す。本当なら洗って後日返す所だが、今の俺は何もしないと決めているので、だらしなくても仕方がないのだ。

彼女は俺が差し出したコップを受け取ると、そのまま倒れている俺の横に座る。

 

「この調子で行けば、そう遠く無いうちに動きはマスターできると思うよ」

「そうだな、おかげさまでここに来た時と比べて随分と動ける様になって来たよ、ありがとな」

「ふふっ、どういたしまして。それで君はこの後どうするの?」

「ああ、別に何もないな…結局暇でやる事がなかったから、近くの道具屋あたりでぶらぶらしていただけだし」

 

修行を始めたのは昼頃だったのだが、今はちょうど夕暮れ時になってしまっており、何かをしている途中に話しかけた事を彼女なりに気を使ってくれたのだろう。

 

「そうだったんだ、それはよかったよ。それじゃまた今度ね」

「ああ、遅くまでありがとうな」

 

それを聞いて安心したのか彼女は起き上がり踵を返して何処かに行ってしまった。夕日を背に彼女の姿が小さくなって行く様を眺めていると、その気配を察知したのか振り返り控え目に手を振った。

 

「ふーあぁーあ」

 

疲れがそろそろ限界なのか眠気が俺を襲い始める。特に盗まれても困るものはないので公園の隅で大の字になっているこの状況下でお構いなしに襲ってくる睡魔に身を任せ、体が沈む様な感覚とともに意識を手放した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…ズマサン、か…マさん」

「…ん?」

 

微睡の中、誰かが俺を呼ぶ様な声が聞こえる。

人が折角気持ちよく寝ている所を邪魔する者はいったい誰なのだろうか?取り敢えず目を開き相手の顔貌を確認しようとする。

 

「何…だ?」

「ようやく目が覚めましたか。買い物の帰りに公園の前を通ったら、誰かが倒れていて危ないと思って近付いたらカズマさんだったのでビックリしましたよ」

 

どうやら声の主はゆんゆんだった様で、見上げてみた彼女の表情は驚愕と安堵の表情が混ざり合った複雑な表情をしていた。まあそんな表情になるのも無理もない、俺が逆の立場なら普通にドン引きするまでである。

 

「いや…ちょっと素振りしてたら疲れてな。少し目をつぶって瞑想しようと思ったら寝てたよ」

「それどこからどう見ても完全に寝ようとしているじゃないですか!」

 

適当に誤魔化そうとするも、お構いなしにゆんゆんは突っ込んでくる。何だか久しぶりにこんなやりとりをしたなと思い何だか目頭が滲んできたぜ。

 

「ふぁーあ」

「欠伸してないで早く起きてくださいよ‼︎一緒に居る私まで変な目で見られるじゃないですか!」

「いいじゃないかそれくらい、俺たち仲間だろ?辛い時も楽しい時も一緒に共有しようぜ!」

「こう言う時にそう言う事言わないでください!」

 

ゆんゆんの突っ込みにムッとする。慣れだろうか、何時もなら嬉しそうにしていたゆんゆんだったが最近は俺がふざけているかの様にツッコミが返している。まあ昔の様に自己肯定感が低いままと言うのも一緒にいてめんどくさかったから、ある意味いい方向へと進んでいるのだろうか。

 

「オーケーオーケー分かった。起き上がるから耳元で騒がないでくれ」

 

まったく、と彼女は呆れながら起き上がる彼女に続いて俺も起き上がる。空を見上げれば先程の夕日とは一転満点の星空で、明るいと思っていたのはちょうど俺のいる所に街灯の光が当たっていたからだった様だ。

 

「それじゃ帰りますよ。明日から旅行なんですからこんな変な所で風邪でも引かれたら困りますよ」

 

表情には出ていないが、何処となく楽しそうに彼女はそう言った事からどうやら明日が楽しみで仕方がない様だ。

 

「ああ、そうだな。俺とした事がうっかりしてたぜ、さあ帰ろうぜ…あれ?めぐみんは?一緒に買い物に行ってたんじゃないのか?」

 

近くにいると思い周囲を眺めるが、そこにめぐみんの姿は無く彼女は一人でここまで来た様だ。そうなるとめぐみんとは途中で別れたのだろうか?

 

「めぐみんですか?めぐみんでしたら何時もの日課で爆裂魔法を放った後にぐったりしていたので屋敷に運んで、自分の部屋で横になっていると思いますよ」

「成る程…相変わらず、めぐみんはブレないな。こんな時でも爆裂魔法の日課だけは続けるのか」

「そうですね…それがめぐみんですから」

 

二人でめぐみんに呆れながら屋敷に向かう。

そう言えば今日の食事の当番はめぐみんだった事を思い出す。ゆんゆんに話を聞くと爆裂魔法を放ったのは日が暮れる前だったので、時間的には回復しているだろうが明日旅行に行く以上足の速い食材を使い切ってほしいと伝えていない。

残ってたら後から夜食にすれば良いかと適当に流すが、果たして食べ切れるだろうか?

 

「ただいま、戻ったぞー」

 

屋敷に戻りゆんゆんは汗をかいたので先に風呂に入ると言い、俺と別れラウンジとは別の廊下を進んで行った。

さて今日の献立は何かなと扉を開け、ラウンジへと抜けるとそこには野菜と格闘するエプロン姿のめぐみんが居た。

この世界ではキャベツの様に野菜に生命が宿っており、気を抜けば死んだフリをした野菜が調理の際を狙って暴れだすと言われているが、まさかそんな御伽話的な光景が眼前で繰り広げられるとは思わなんだ。

 

「この!しつこいですよ!いい加減我にひれ伏して調理されるが…痛⁉︎」

 

この野菜達の買い物当番は俺だった様な…野菜を買って混ざる確率はそこまで高くないはずだが、どうやら新鮮な野菜を選んだつもりだが生きていたままの物を選びすぎた様だ。

何と言うフレッシュ感あふれる野菜だろうか、生きていたなら旅行から帰って来ても鮮度が保てそうだから残して置けば良かった。

 

「あ、カズマ!帰って来ていたのですか、お帰りなさい…じゃなかった。親愛なる我が従僕よ、闇の探究から帰還ご苦労であった。ならば次の命令を示そう。そう、この魔なる生物を我と共に退治するのだ。……………………あの…見ていないで助けてもらえませんか?」

 

新調したであろう杖で飛んでくるキャベツや人参共と鍔競り合い等々を繰り広げている。普段後方に居て尚且つ爆裂魔法を放ったら動けなくなって待機している普段のめぐみんを知っている俺から見たら、野菜達とは言えこう必死に戦闘を繰り広げている光景は中々見ない貴重な光景だろう。

そんな彼女の戦う光景を眺めている事に集中しており、彼女のなりのヘルプに気づかずにいた為、気付けば涙を浮かべながら素の言葉で必死に助けを求めていた。

 

「ったく、しょうがねーな!」

 

丁度クリスが回収し忘れていた木刀を抜きながらめぐみんの方へと突っ込んでいく。ゆんゆんが風呂に入って居なければ中級魔法で一発だったのだが、さすがに入浴中の彼女を呼び出せるわけもなく。単騎になるが、野菜相手なら俺一人で十分だろう。

疲労でヘロヘロになって居た為あまり動けないと思って居たが、先程まで寝ていた為か魔力と体力がある程度だが回復して居たことに気付く。

ならば、今こそ修行の成果を見せる時じゃないかと、絶好の機会に恵まれた事に感謝しつつ木刀を構える。

 

「お、カズマ!それは新しい技ですか?今までみた事がありませんよ」

 

扉を閉めている為、逃げ場がなくそれでも調理される訳にはいかないと、キャベツ達は暴れ続けている。そして、木刀だが獲物を持っている以上野菜達はめぐみんにプラスして俺も攻撃対象に加え勇猛果敢に突撃してくる。

稽古で学んだ動きは体がしっかりと覚えている。ならば余計な事は考えずにその動きを反芻すれば良いだけになる。

 

「食らえ!三界流転‼︎」

 

上・中・下段、天・地・人、全ての階層を纏めて切り刻んでいくクリス直伝の演武。本来は動きを俺が覚えやすい様に気を利かせて多分彼女が考えた舞だが、俺自身もうこれは一種の技で良いだろうと勝手に技にしたと言う悪しき伝統によって生み出された訳だ。

 

「おお‼︎あのつまらない事しか言わなかったカズマが今日は一段とカッコ良く見えます‼︎」

「喧しいわ‼︎」

 

めぐみんの野次を物ともせずに、先ほど覚えた演武の動きを再現する。上方から落下しようとしているキャベツに下から突き上げようとしてる人参、その他色取り取りの野菜達に向けて木刀を振り下ろしては振り上げた。

最初のキャベツは何とか切り裂き、続いての人参は捌ききれずに鳩尾への突撃を許してしまう。腹部に響き渡る痛みに若干のデジャブを感じつつも何とか堪え、人参が着地をする前の隙だらけの状態な所を横に薙いで上下に分ける。

残った野菜達も何とか叩き落とす事に成功するが。全てを終わらせて木刀を鞘に仕舞い、先程の演武を深く考えてみると振った回数に比べて当たった回数の比が打率の悪いバッター程度だと言う事に気づき、俺自身まだまだだと言う事を思い知らされる。

実戦になれば、修行の目標とは違ってただ綺麗に踊れば良い訳では無いのだ。もちろんフォームは技を行う上で重要だが、生きるか死ぬかの状況で必要なのは攻撃を当てる事の他ない。今日教わりたてと言う事もあるが、やはり動く相手を的にしなければ実戦に使用するには程遠い。

 

「何とかなったみたいですね、ありがとうございます。まあ私が本気を出せばこの野菜程度どうって事無いんですがね‼︎」

 

今回得た教訓を得て教わった演武をどう改善しようか考えていると、野菜片たちを片付け終わっためぐみんがお礼を言いに来た。だが、やはり負けず嫌いな所が出てしまったのか強がって見せた。

まあ、確かに爆裂魔法を使えばこんな野菜達を木端微塵にする事は造作でもないと思うが、この屋敷を吹き飛ばしかねないのでやめておく様に伝えておく。

 

「それでは料理の続きを……うわ⁉︎」

「どうしためぐみ…うおっマジか⁉︎」

 

料理を再開しようと再びめぐみんがキッチンに向かうと、待ってましたと言わんばかりに残って居たであろう野菜達が飛び出して来て、先程の状況を再現する様に再びめぐみんを襲い始める。

 

「か、かかカズマ⁉︎先程の踊りみたいなヤツをもう一度お願いします‼︎」

「いやいや、あれは別に踊って居た訳じゃないからな‼︎」

 

驚きのあまりにどうでも良い事を指摘してしまう。どう言う事だろうか、一度倒したならこのイベントは終わりの筈では無いのか?変な所でファンタジーゲームみたいな所は多いのに、この世界ではこう言う面倒なのが現実見たいな所が多い気がする。

めぐみんは慌てながら再び地面に置いておいた杖を拾い上げると、飛翔してくるサンマを打ち返す。この世界のサンマは畑から生える上に空を飛ぶのだろうか?それとも跳んでいるのだろうか?よく分からない疑問が頭を埋め尽くすが、このままではめぐみんがやられ兼ねないので木刀を再び引き抜く構える。

しかし、回復したとは言え疲れが完全には抜けきっていなかった様で、筋トレの後の様に足がガクガクと震える。例えるならトレーニングでオールアウトするまで追い込んだ後の箸すら握れないあの感覚に近い、本当にあの時はどうなるかと思って不安になった程だ。

どうやら先程動けたのはどうやらまぐれだった様で、今日はもう同じ事はできないだろう。

 

「ああもう⁉︎出張るなら最後まで頑張ってくださいよ‼︎」

 

めぐみんが文句を言いながら杖で野菜達と応戦する。爆裂魔法しか使えないと言っても、それなりにレベルが高いらしく腹立たしい事に筋力は何故か俺より高い。

結局スキルポイントを爆裂魔法に費やし杖での武術に関してのスキルを取っていないので、動き自体は素人だが何故か彼女の攻撃は野菜に命中し数体撃ち落としている。

しかし、彼女は後衛のアークウィザード、体力はそこまで高いわけではなく、気付けばすぐさま野菜達に囲まれる。

 

「クッ……なかなかやりますね、この私をここまで追い詰めるとは…まずはその行動力に賛辞を送りましょうか…」

 

多勢に無勢、単体の威力はそこまででは無いが、こうも多数に囲まれると数の暴力と言うものを思い知らされる。

 

「大丈夫かめぐみん‼︎」

「大丈夫な訳ないでしょう⁉︎この状況を見ればわかるでしょう‼︎今まで何を見ていたのですか‼︎」

 

遠くからめぐみんに安否を問いかけるが、すぐさま否定される。

 

「仕方ありません。あまり使いたくは無かったのですが、こうなってしまった以上どうしょうもありません…ふん!野菜達!運が良かったですね‼︎この最強と謳われたアークウィザードと言われた私の本気を見せてあげましょう‼︎」

「おぉ⁉︎何だ?ついに別のスキルを取ったのか‼︎」

 

追い詰められためぐみんは野菜共に本当に賛辞を送りながら決めポーズを決めた。何かするようだが、もしかしたら爆烈道を諦めて新しいスキルを習得したのかも知れない。

これで上級魔法を使えるアークウィザードが二人になり、戦闘面に関しての後衛は完璧になるだろう。後は俺の実力が何とかなればな…。

 

そんな事を考えながら眺めているとめぐみんが詠唱をし始める。

が、しかし彼女が唱えている詠唱は多少のアレンジが加えられているが、いつも聴いているものとおおよそ一緒だった。

…つまり。

 

「おぉぉぉぉぉぉぉい⁉︎人の屋敷に何かまそうとしてくれんだ‼︎」

 

必死に叫ぶもめぐみんに俺の声は届かず聞いていない。それに野菜達は先程まで暴れていたのが嘘だったように静まり返っている。

どうやらこの世界の野菜達は空気を読むのだろう。先程まで殺されかかっていたと言うのに何故爆裂魔法の詠唱を待つのかは意味不明だ…もしかして聞き入ってたりしないよな。

 

「いや待てよ…」

 

ゆんゆん曰く本日の爆裂魔法は既に終了していると聞いていた事を思い出す。

もしかして興奮のあまり自身の魔力が枯渇しているのを忘れているだけなのかもしれない。

だが、もしもと言う可能性がどうしても拭きれない。どこからかマナタイトを調達して自身の魔力を回復させている可能性も無きにしろあらずだ、この世界に今までの世界の常識はおおよそ通用しない。

普通は大丈夫と言う考えは即座に捨てた方がいいだろう。

 

「穿て‼︎エクスプロージョン‼︎」

「しまっ‼︎」

 

そんな事を考えている内に詠唱を終えためぐみんが爆裂魔法を唱えてしまう。圧倒的油断‼︎そして不注意、これが仕事なら始末書物だろう、まあ始末書以前に吹き飛んで粉々だろうがな。

 

「ってあれ?おかしいですね…詠唱は間違ってはいないはずなんですがね……あっ…爆裂魔法はも使ったのでしたね…これは失敗失敗……痛⁉︎いきなり何をすんですか⁉︎」

「うるせえよ‼︎危うく屋敷ごと吹き飛ぶ所だったじゃねえか‼︎」

 

不審に思いながら杖に不備がないが確かめ今日は爆裂魔法を放てないと言う事を思い出したのか、何処となく悪びれていたので思いっきり掴みかかる。

人間本当に危機感が訪れれば疲労を無視して動けると言うが、どうやらそれは本当らしい。現に疲労で足が震えていて動けなかった足がこうしてめぐみんを抑えに走り出していた。

 

「今は止めて下さい‼︎まだ野菜達が居るんですよ‼︎」

「確かに‼︎」

 

めぐみんと取っ組み合いをかましていると、今はそれどころでは無いと指摘される。だが、屋敷の中で爆裂魔法を放つと言う行為に関しては、何かしらの行動を起こして意識させないと後々同じ事を繰り返しそうで怖い。

しかし、また野菜達を倒すとなると体力の使い切った俺だと泥沼試合になりそうだ。

と言うか野菜多すぎないか?疑念の持った俺はめぐみんの方を向く。

 

「何ですか?私の顔に何かついているのですか?」

「何でこんなに野菜が多いんだ?買い置きは確か最初に出てきてた奴ら分くらいしか無かった筈だけど」

「それはですね、明日から旅行という事で私も腕によりを掛けて夕食を御馳走にしようと思い買い足しました‼︎」

 

どうやら俺の疑問は正解だった様で今戦っている野菜達は今日買い足された分だった様だ。なので冷蔵庫から飛び出てこれたのだろう。

 

「ドヤ顔で何を言ってるんだよ…お陰でこうなってるんだから何とかしろ‼︎」

「私なりに盛り上げようと思って必死に厳選したのになんて事をいうのですか‼︎」

 

責任のなすり付け合いだが、このままでは野菜相手に全滅しそうだ。そもそもキャベツ何玉あるんだよ…3人なら一玉で十分だろ…。

現在俺達二人に対して野菜達が徒党を組んでキッチンで向き合い互いが互いを牽制し合い膠着状態になっている。

ここで無駄な動きをすれば取られる。共に緊張しながらも警戒を怠らずに睨み合いながら機会を窺う、正直側から見れば大爆笑だが野菜に全滅されたとあっては今後のパーティのメンツが立たない。

ここは何としても勝利を収め、明日の旅行を煌びやかなものにしたい。

 

…ゴクリ

唾を飲み込んだ際の嚥下の音が響く。

組織に俺の様な司令塔がいるが、どうやら野菜達にもいる様で奥に鎮座しているキャベツがそれに当たるだろう。

もし、そいつを倒せれば野菜達は混乱しそれに乗じてめぐみんが叩けば、残った野菜達は一人で太刀打ち可能だろう。

 

体も大分回復してきた。一振りくらいなら大丈夫だろう。

なら、このまま動かない訳にはいかない。

 

「うぉぉぉぉぉぉぉぉ!弾けろ野菜共‼︎」

 

屋敷の何処かで音がなり、野菜達が目を逸らしたであろうタイミングに木刀を構えて突っ込む。技はなんて事の無い振り下ろし。

しかし、野菜達も馬鹿では無くすぐさま態勢を立て直し此方に跳んでくる。

距離はギリギリ間に合うかどうか、疲れていることが災いし若干スピードが遅い。これではキャベツに届く前に野菜達が俺に届いてしまう。

 

攻撃は既に放たれ止まる事はできない。木刀がキャベツに届く様が視界に映るが、同時に人参やサンマの鋭利な先端が此方に跳んできている。

 

取った、両者共に勝利を確信し。取られた、と同時に敗北を確信した。

 

「ライトニング‼︎」

「うぉ⁉︎」

 

勝負が決まる最中、突如眼前に黄色い閃光が走りあっと言う間に野菜達を丸焦げにして行く。

俺は何とか状態を横に倒し地面を転がる羽目になったが回避に成功し、痛い体を持ち上げ状況を確認すると風呂上がりなのかパジャマに着替えて湯気が立っているゆんゆんが、びっくりした表情のままそこにいた。

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