この女神の居ない世界に祝福を   作:名代

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遅くなりました…
誤字の指摘をして頂いた方々ありがとうございます。


アルカンレティア5

先程までは何事も無かったウィズの体が徐々に透けていっている事に気づいた。

一体何故今頃に、と思ったがバニルの攻撃を受けて仕舞えば流石のウィズも駄目だったと言う事になるのだろう。あのアンデットの王と言われるウィズをここまで追い詰めるとは流石は元魔王幹部と言う所だろう。

あの時奴が本気で闘ったのであれば俺達がこうなっていただろうと思うと背筋が少し凍えてくる。

 

「しかし、どうすればいいんだろうか?」

 

腕を組み、この問題に対してどうすれば良いのか真剣に考える。

確か砂糖水がどうとか言っていた事を思い出したが、生憎砂糖水なんて物はなく、可能性としてあるのはゆんゆんの持っているお菓子くらいだが、どれもしょっぱい物なので無理に等しいだろう。

後に振り向き二人を見る。しかし、俺の意を介さないかの様に二人はいつもの様にイチャイチャしている。正直いつもしているのによく飽きないと感心するが、三人でいる時にされると疎外感を感じるのは気のせいだろうか…まあ、混ざりたいかと言われれば答えはノーになるんだけど。

 

そろそろ収まる頃合いなので眺めていると、俺の予想は的中し二人の息が切れ肩で呼吸をし始める。こうなればほぼキャットファイトは終了になり、話掛ける事ができるのだ。

 

「おーい。話は終わったのか?」

「ええ、まあ一通りは終わりましたよ…ですがまだカズマの話は終わっていませんよ。よくも寝起きによく分からない水を飲ませてくれましたね‼︎」

 

近づきながら声をかけると、何故かゆんゆんは地面に倒れて気を失っており、その上にめぐみんがのし掛かっている様な体制になっている。いつもの事だが、何故いつも気を失っているのかは未だに謎だ。

そして彼女は俺に気づくと標的をゆんゆんから俺へと変えたのか、文字通り目の色を変えながら俺に向かってにじり寄って来る。

 

「落ち着けめぐみん、話せばわかる…それに今は非常事態なんだ」

「非常事態?何をおしゃっているのかよく分かりませんね‼︎この状況下に置いて他に優先される事があるでしょうか‼︎いいえ!ある筈がありません‼︎」

「クソ‼︎話を聞いちゃくれねぇ‼︎」

「覚悟はいいですか?」

 

俺の話など聞くものかとめぐみんがにじり寄って来る。その姿はまるで表現できない何かの様でいつもゆんゆんが恐怖する理由が何となくだがわかった様な気がした。

今更分かったところで解決になるないので勘弁して欲しいところだが。

 

「えいや‼︎」

「危な⁉︎」

 

飛びかかってきためぐみんを寸でのところで躱す。

飛びつき重心の支えを失っためぐみんはそのまま地面に突伏しながらずって行った。

 

「ク…流石ですね」

 

体を起こし、服に着いた埃を叩きながら彼女はそう言った。

一体彼女は何がしたかったのだろうか?疑問は尽きないがそれでも彼女なりに意味はあったのだろう。

 

「落ち着いた様だな、それで話なんだが」

 

彼女に向き合いながらも警戒を解かずに話しかける。

いつものふざけた様な感じが災いしたのか、俺が真面目な話をしようとしても冗談だと思われ中々聞いてくれないのだ。

 

「ええ、何となくですがカズマがふざけていない事はわかりました」

「おお、そうかようやく分かってくれたか」

 

適当に感激しつつ、めぐみんをウィズの所に移動しながら状況を説明する。

 

「って何ですか⁉︎消えかけているのではないですか⁉︎」

 

事前に説明をしていたのだが、やはり実物を見るとびっくりするのか驚愕の声を上げる。確かにいきなり同行人がグッタリ倒れながら姿が透過し始めたらびっくりするだろう。

 

「まあそうなんだけどさ、それでどうしたら良いのか聞きたいんだけど」

「そうですね…」

 

俺に問いかけられ若干困ったのか、彼女は腕を組みながら必死に答えを探っている。三人集まれば文殊の知恵と言うのでゆんゆんにも聞いてみようと思い先程のリングを見ると、先ほどと変わらない体勢で未だにグッタリとしていた。

 

「あーあ」

「そんな目でこっちを見ないでくださいよ。そもそも元を辿ればカズマが無理やり起こさなければこんな事にはならなかったのですからね」

 

ゆんゆんの状態を無言の眼差しで訴えると、それに反抗してか語尾を強めて俺を糾弾し始める。どうやら墓穴を掘った様だ。

 

しかし、めぐみんでも分からないとなるともう打つ手が尽きてしまう。

最初に回復魔法をと考えたが、アンデットである彼女にとって回復魔法は攻撃魔法と同等で、掛ければ途端に体が浄化されるらしい。

ならば反対にアンデット系の何かのスキルが有ればいいのだが、そもそもそんな都合のいいスキルを取得しているわけではない。

 

…いや待てよ。

 

アンデットから教わったスキルが一つあった事を思い出す。そして、目の前には最上級の魔力タンクがあることに気づく。

その二つの条件があって試さないなんて選択肢は存在しない。

 

「…カズマもボーとしないで何か考えてください。このままですとせっかくの旅行が葬式ムードになってしまいますよ」

「ああ、そうだった。悪い悪い」

 

適当に謝りつつ潜伏を使いながら彼女ににじり寄る。魔力は心臓に近ければ近いほど回収しやすいと聞く、だが流石に女性相手に胸部を触る様なことはできないので首根っこを掴むことで今回は我慢する。

 

「許せめぐみん‼︎」

「は?えっ!ちょっと⁉︎突然何を…あ、あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ‼︎」

 

空きだらけのめぐみんの首根っこを掴み、そのまま魔力を吸い取りながら体を降ろしウィズに触れることで直接魔力を流す。これなら俺の魔力に汚染される事無くウィズに魔力を渡す事が可能だろう。

 

「よし‼︎やっぱり魔力を入れれば何とかなったか!流石にどうなるかと思ったけど終わってみれば案外あっけなかったぜ」

 

魔力が流れるとウィズの体の濃さが見る見るうちに元に戻っていく。何物でもない魔力を流す事が彼女にとっての回復魔法になる様で、この調子で流し続けていけば時期に元通りになるだろう。

俺の考えはやはり正しかったのだと胸を撫で下ろす。もし間違えたら彼女に残り時間を無為に過ごしてしまっただろう。

 

「……無事事態が収束してよかったですね…それで覚悟はいいでしょうか?」

「あっ…」

 

一難去ってまた一難というのだろうか、それとも二難去って三難目とでも言うのか俺の手にすっぽりと握られた彼女からドスの効いた声が聞こえて来る。

事態を急ぐあまりに彼女の扱いを間違えてしまった様で、今尚彼女は怒りが込み上げてきたのか震えだし俺の腕から振動が伝わって来る。

 

「今日と言う今日こそは許しませんよ‼︎」

「まっ‼︎ちょっと待ってくれ、緊急事態だったんだ許してくれよ‼︎」

 

いえ許しませんと、俺の手を振り払いながら彼女が飛びかかって来る。今回に限っては俺の不注意から来ているので彼女の成すがままにしようかと思ったが、それはそれで今後俺が舐められるのでいつもの様に頭部を押さえつけながら反抗する。

 

「いい加減に落ち着いたらどうだ、前は勝てたかも知れないが今回は負けねぇよ‼︎」

「クッ‼︎女の子相手に支援魔法とは…持ち前のクズさに磨きがかかりましたね」

「やかましいわ‼︎」

 

彼女に指摘された様に、素での腕力では彼女に勝つことは出来ないので支援魔法を使用しパラメーターを上げながら取っ組み合いに参加している。

掴み合いとなれば単純な力の比べ合いになるので多少の動きやコツがあるが、それでも常時発動している支援魔法を使った俺と同等に渡り合えている事実が微妙に俺を苦しめる。

 

「まだまだ甘いんだよ‼︎」

「あっ‼︎卑怯ですよ‼︎」

 

もうほぼ俺の八つ当たりに近い猛攻を受け、うっかりなのか隙を見せた彼女の足を払い、勢いそのまま再び彼女を地面へと転がしていく。コロコロ転がり偶然にも先に突伏していたゆんゆんの元に言ってしまい激突する。

ボーリングだったらストライクだったなと思いながらその光景を眺める。

 

「あの…ここは何処でしょうか…あと何故私はカズマさんと一緒に旅行しているのですか?」

 

後ろで何かが動いた音がしたので振り返ると、ちょうどウィズが目を覚したのか眠そうに状況判断して俺に答えを求めてきた。

無理も無く。いきなり起きて道のど真ん中だと流石に混乱するだろう、ちょうど二人も伸びてるし。

 

「やれやれ…また一から説明しないといけないのか…」

 

両手を挙げやれやれと呆れたジェスチャーをしながらため息を吐き、彼女の元へ説明しに向かった。

 

 

 

 

 

「成る程…って全てバニルさんの仕業だったんですね⁉︎」

「まあ、そうなるな」

 

程の良い厄介払いだったのさ、などとは言えないので普段から頑張っているウィズへのご褒美という感じの体で今回アルカンレティアの旅行に連れてきたと言うことにしている。

事情を知るのは俺とバニルの二人で、バニルは心を読めるので多分バレる事はないだろう。

 

「おおよその事情は分かったのですが、あそこの二人はどうして眠っていらっしゃっているのですか?」

「あーあれか?…話せば長くなるけど良いか?」

「いえ…何か嫌な予感がするので今回は遠慮しておきます」

 

やはり人生における経験の差だろうか?俺の悪巧みも直ぐに見抜かれて見事にスルーされる。

やはりアンデットの王、生きている年数が違うのだろう。その事を彼女に聞いたら間違えなく消されそうなのでやめておく。

 

「おーい、休憩は終わりだから戻ってきてください‼︎」

 

のんびり突伏している二人を眺めていると、時間が来たのか操縦者のおっちゃんが声を張りながら知らせる。

 

「もう終わりか、おい二人とも行くぞ」

「…」

 

返事がないただの屍のようだ。とは行かず普通に倒れているが、多分めぐみんは狸寝入りしている気がしなくもない。

何故このタイミングで狸寝入り?と疑問は尽きないが何か意味でもあるのだろうか。

 

「おいめぐみん、お前は起きているだろう」

「…」

 

彼女の横に立ち問いただすと、心なしか体が少し揺れた様な気がした。

偶に寝ている時に無意識に体がビクつく時があるが、今回はそれとは違うだろう。

 

「取り敢えず吸い取って見るか」

 

脅し文句を言い、再び彼女の首根っこを掴もうと彼女の上から覆う様に距離を詰める。先程はある程度手加減したが、今回は俺の魔力を全快させる程度にしておいてやろう。

 

「あー‼︎とてもよく寝ました‼︎何なら良い夢も見れましたよ」

「清々し過ぎて何も言えない」

 

取り敢えずめぐみんは放置してゆんゆんを揺さぶって起こす。

 

「起きろー良い加減起きないとすんごい事するぞー」

 

ゆんゆんは多分本気で寝ているだろう、寝息も聞こえるし。モンスターもでるか分からない道でここまで熟睡出来るのも謎だが、その分俺たちを信頼してくれているのだろうと思うことにした。

まあ、だからと言って起こさない理由にはならないので適当に脅しながら起こす様に促す。

 

「あれ?どうしてまた眠っているの…?確かめぐみんに…」

 

不味いな…このままだとまた面倒なことになりかねない。何でこの二人に関わるとこうも面倒な事になるのだろうか。

俺が悪いのか?俺のせいなのか?

残念だろうが多分俺のせいだろ…

 

「まあ、色々あったって事で早く馬車に乗ろうぜ、このままだと置いて行かれかねない」

「え?ちょっと⁉︎」

 

適当に頭に浮かんだ疑問に答えを出しながらゆんゆんを馬車へ案内する。この調子だとアルカンレティアに着く前に過労死してしまいそうだ。

 

馬車に乗ると、馬車の隊列の中で俺が最後だった様で操縦者のおっちゃんが合図を出し、歩みを止めていた馬たちが再び動き出した。

 

「………」

「……」

「……」

「あのー空気がとても重たいのですが、私が寝ている間に何かあったのでしょうか?」

 

三人とも沈黙を保っていると、それに耐え切れなくなったのかウィズが音を上げる。

顔見知りとは言え、いきなり他所のパーティーに急遽加入した状態でこの沈黙に耐えられる筈はなかったのだろう。もしも新しい部署に移動になってこんな空気間だったら直ぐさま異動願いを提出するまでである。

 

「いや、いつもこんなもんだぞ。いつもだったらゆんゆんが持ってきたボードゲームとかやるんだけど、それがなければ皆考え事したり眠たっりしてるな」

「そうなんですか…てっきり何時もみたいに賑やかにしているものばかりと思っていましたので」

 

確かに側から見れば賑やかな集団かも知れないが、馬鹿騒ぎをした後は大体皆疲れるのでこうして静かになってしまうのだ。仮に常にさっきまでの馬鹿騒ぎをしていたなら俺の体力は半日で尽きてしまうだろう。

 

「それでしたら、この新作のボードゲームはどうでしょうか‼︎」

 

話が切れそうになったタイミングでゆんゆんが割り込んでくる。どうやら暇なウィズにつけ込んで今日の為に購入したボードゲームを一緒にやってしまおうと言う算段なのだろう。

確かに折角の客人がいるのにこのまま放置というのも失礼だろう。

 

「そうだな、折角だからやろうぜ」

 

彼女のバックを勝手に漁り、包装されたままのボードゲームの箱を引っ張り出す。それを焦って止めるゆんゆんに何とか状況を変えられたと喜ぶウィズ、仕方ないですねと内心ノリノリなめぐみんの三人でこのふざけたボードゲームを始めた。

 

 

それからは、この世界のお決まりなのかふざけたルールにキレ散らかしながらボードをひっくり返すなどあったが、それ以外に特に何かが起きる事は無く、馬車は安全運転のままアルカンレティアへと俺たちを運んだのだった。

 

 

 

 

 

「ここが、アルカンレティアか…温泉街とは言った物のまさか山になっているとは思わなかったぜ」

 

ついて早々目の前には開拓され各地に温泉がひしめき合う街が広がっていた。草津温泉の温泉街を予想していたが、流石は異世界といったところだろうか俺の予想を遥かに飛び越えた光景に開いた口が塞がらなかった。

 

「ようこそアルカンレティアへ‼︎観光ですか?それとも入信ですか?今なら外部に行ってアクシズ教の良さを広めると言うお仕事がありまして…」

「あ?」

 

ついて早々に町の入り口に居た観光大使の様なお姉さんに捕まり、宗教の勧誘をし始める。あまりにも急な展開に表情が引き攣りどう対応しようか混乱する。

日本にいた頃は玄関に来ても居留守等々で追い払えたが、ココはアルカンレティア。郷に入れば郷に従えと言う物だろう。観光大使である彼女が積極的に勧誘をしているのであれば、この都ではそれがルールなのだろう。

 

「いえ、私たちは観光しに来ましたので。アクシズ教に関しての事はまた後でにします」

 

ズイっとめぐみんが後ろから現れると瞬く間に観光大使に対応し、そのまま俺達の腕を引いて宿泊予定だった宿へと有無を言わさずに引っ張っていった。

 

「おい待てよ、どうしたんだよ急に」

「今は静かに、事情は後で話しますのでカズマは潜伏スキルをお願いします」

 

いきなりの事でびっくりしたが、何だか手慣れた様子だったので彼女の指示に従い潜伏スキルを使用する。

それにより俺に触れているパーティーが周囲から隠れ、町の住人の不思議なものを見る様な目線が消える。後は効果が被ってしまい意味をなさなくなってしまうので、町の住人などとぶつからない様に気をつけるだけなんだが、やはり観光都市と言われるだけあってか人の数がアクセルと比べて多いのでなかなかに躱しきれす数人にぶつかっては幽霊でも見る様な視線を受ける。

 

引く手はやや乱雑だが。それでも裏道などを駆使してなるべく人気のない道を通り宿へとたどり着く。

何故ここまで道に詳しいのか分からないが、彼女から発せられる緊迫感を感じるに余程危険な事らしい。

 

「着きましたね…皆さん無事ですか」

「ぜぇーはーぜぇーはー無事なのは確かだけど、いったいどうしたのよ。急にカズマさんごと引っ張り出してびっくりしたわよ」

 

着いて受付の話を聞かずに手続きを済ませるとそのまま部屋へと直行し、俺達が全員部屋に入った事を確認すると扉の鍵を閉め解放される。

とにかく急な事だったので、皆状況が掴めておらず最初に口を開いたのはめぐみんでは無くゆんゆんだった。

 

「そうですね、この都もあれからしばらく経っていたのでマシになっていると思って話はしませんでしたが、入り口に居た観光大使のやり口を見て危険を感じましたので皆さんには悪いとは思いましたがここまで連れて行きました」

 

過去にこの都に訪れた時に何か事件でもあったのか、彼女の表情は真剣そのものだった。

 

「へぇ…それでこの都が何だって言うんだよ」

「それはですね…いえ。最初は話すより見て頂いた方が早いかもしれません」

 

そう良い彼女は部屋のテーブルに備え付けられたサービスに関しての契約証を拾い上げる。

 

「良いですか、これは一見ただのルームサービスに関しての契約書に見えません」

 

手に持った契約証を俺に渡す。一見ただのクリップボードに挟まれた契約証に見えたが、彼女はその契約書をクリップから外し上下に揉み込んだ。

 

「良いですか、見ていてください。これがこのアクシズ教の連中のやり方です」

 

彼女の丹念なもみ込みにより、少し分厚めだった契約書が3枚に分かれ地面にひらひらと落下した。

 

「何だこの詐欺ドラマの様なトリックは…で、これが隠れていた用紙か、それどれ」

 

めぐみんにより分割して落下した用紙を拾い上げる。

内訳の一つは表面にあったルームサービスの契約書、二つ目は両面真っ黒のフィルムの様な質感の用紙、そして三枚目はアクシズ教の入信書だった。

何だと思い一枚目と三枚目を重ねて光を通すと、ちょうど名前の記入欄が同じ位置に重なった。つまり、二枚目の紙はカーボン用紙か。

 

三枚とも同じ様に重ね、爪で上から強く擦る。もしも二枚目がカーボン用紙であれば紙に付着した黒鉛が下の紙に移される事になる。

もうほぼ確定だろうと思い、二枚目をめくるとやはり予想通り契約書に爪の後にそった線が転写されていた。

 

「悪質だなおい、これじゃアクシズ教じゃなくて悪質教だろ⁉︎」

 

ビターンと契約証を地面に叩きつける。

 

「分かりましたか?これがこのアルカンレティアに息づく闇なのです‼︎彼らは我々をアクシズ教にする為にはあらゆる手段を使用し今尚仲間を増やしているのです‼︎」

 

ババーンと普段の演出も合間ってか高らかに宣言する。

 

「私も里を出て最初にこの街に来た時はそれはもうひどい目に会いました。まあ色々得るもの物もありましたが…」

 

それからはめぐみんが最初にこの都に来た思い出話が始まった。

冒険者になる為にアクセルの中継地であるこの街に辿り着き、冒険者登録をしようとしたが最低基準レベルに到達できていないので断られ、ノラ冒険者として他のパーティーに紛れ込みクエストを行っていたらしい。

そして、何故か因縁のある邪視使いの悪魔に見つかり戦闘になったのだが、運よく都の司祭と取り巻きに出会い運よく退治したと言う事があったらしい。

 

「その間もアクシズ教の様に振る舞ったり、所属していない宗教の勧誘の真似事をしたりして大変でしたよ。でもまあそのお給料でアクセルに辿り着けましたから結果的には良かったのですが…」

「成る程な、だから裏道とか契約書の仕掛けに詳しかったのか」

「えぇ、そうです。ちなみにこの仕掛けを提案したのは私です。まだまだ試作段階だったのですが、ここまで形にするとは発案者としては恐怖に震えますね」

 

ウンウンと最初は糾弾していためぐみんだったが、話していて思い出補正が働いてきたのか運動部のOBが思い出を語る様な雰囲気を醸し出している。

そして用紙をうっとりと眺め始めているではないか。

 

「何余計な事をしてくれんだよ⁉︎」

「あー⁉︎何するんですか⁉︎」

 

彼女の手から契約書の下二枚を抜き取り、目の前で破き捨て、彼女の上体をこれでもかと揺さぶった。

 

 

 

 

「それでカズマさんはどうされるのですか?」

 

揺さぶりに揺さぶりをかけ、バランス感覚がバグったタイミングでめぐみんをベットへと放り投げ、それを追ってゆんゆんもベットの方へと向かった。

さてこれからどうするかと考えていると、ちょうど良いタイミングでウィズが話しかけてきた。

 

「そうだな…特に何も思いつかないから観光でも行こうかな」

「そうでしたか、それでは私は汗を流したいので先にお風呂いただきますね」

 

しまった、その手があったかと後悔したが既に後に立たず。既にウィズは備え付けの温泉へと姿を消してしまった。

 

「めぐみん大丈夫⁉︎」

「あー目が回るー」

 

視線を隅にずらすと、吹き飛ばされて目を回しているめぐみんとそれを介抱するゆんゆんがいつもの習慣をしていた。

 

「取り敢えず、いったん外に行くけどゆんゆんはどうする?」

「そうですね…折角きたので私も着いてきます」

「え?そしたらめぐみんはどうするんだ?」

 

めぐみんの介抱があるので行けませんと断られるかと思ったが、あっけなく着いてくると言われ若干びっくりした。

 

「めぐみんは寝ていますので大丈夫ですよ」

「あ、本当だ」

 

よく見るとさっきまで唸っていためぐみんがぐっすりと眠っていた。さっきまでのは一体なんだったのだろうと疑問に思うが、何だかゆんゆんの笑顔が怖いので聞かない事にした。

受付に適当に話を済ませ外に出る。

 

「うぉ、さっきも思ったけど人が多いな」

「そうですね、観光する場所としては結構有名ですからね」

 

やはり観光都市と言う事はあってか、外は屋台などの様々な店で賑わっていた。

中でも色々な種族が犇めきあっている光景が物珍しかった。

 

「ゆんゆんはこう言う所は初めてか?」

「そうですね…いろいろ行きましたけど結局何処にも受け入れてもらえませんでしたからあまり記憶にはないですね」

 

おっといけない、このまま行けばゆんゆんのトラウマを刺激してしまいそうだ。

 

「へーそうなのか。めぐみんがココにいたって言ってたけど合流できなかったのか?」

「そう…ですね。アルカンレティアの必要レベルが高めでしたのでここには居ないと思ってそのまま他の街に行ってしまいましたね。まさか野良冒険者になっていたとは思いませんでしたね」

 

野良冒険者は、何らかの事情でギルドに登録せずに他のパーティーに紛れ込み報酬を山分けしてもらい生計を立てる人を言うらしい。何かしらの事情はいろいろある様だが、一番多いのはめぐみんの様にレベルが足りない者を言うらしい。

 

「すげーなおい、ドワーフとかエルフとかいるぞ。へー初めて見たな」

「確かカズマさんはアクセルの街が初めてでしたっけ?確かに街では他の種族の方はいませんでしたからね」

 

物珍しそうに街を見ているとゆんゆんが解説してくれる。所々棒読みなところがあるので多分徹夜で覚えてきたのだろう。

 

「はーいお客さんアルカンレティア名物のアルカン饅頭はいかが?」

 

歩いていると客引きに出会う。

俗に言うキャッチというものだが、単純に商品の説明的なものだろう。それに相手は耳の尖っているところからエルフだと見た。折角の異種族との交流なので話すだけでも良いだろう。

 

「へー饅頭か」

 

店頭に売れ筋商品なのか、饅頭が積み上げられ並べられている。フワフワそうな生地で正面にアルカンレティアをモチーフにした焼印が押されている。

 

「折角だしな…」

「ちょっと待った‼︎そこの兄ちゃんそんな貧相な饅頭じゃなくてうちの饅頭を買ってみたらどうだ?肉汁たっぷりの目玉商品だぜ」

 

店員に注文しようとすると隣の店員が大声を出しながら割り込みに走ってくる。

姿を見るにドワーフの様だが、まさかお伽話の姿そのままで出てくるとは中々に意外だった。もっとこう予想を裏切って生々しかったりファンシーだったりするのかと思っていた。

 

「コラ‼︎何人の商売邪魔するんですか‼︎このお客さんはね、私の店の饅頭を買いたいってきてくれたのよ‼︎」

 

いや別に買いたくて来た訳じゃないんだけどな…

 

「そんなもんあってたまるか‼︎貴様らの種族お得意の怪しい魔法とやらでたぶらかしたんだろう、それにこんな貧相な饅頭じゃあこの旦那は満足してくれねぇんじゃないか」

 

げへへと悪辣な笑みを浮かべながらドワーフがこちらにに視線を向ける。

まるで悪代官にでもなった様な気分だ。

 

「何を⁉︎あんたの所の饅頭なんか獣臭くて堪んないのよ‼︎秘伝の味とか言うけど汗でも入っているんじゃないの‼︎」

「あんだと⁉︎」

 

喧嘩は俺を抜きにしてヒートアップしていく。これは段々と話し合いのゴールが何処かに行って結局何がしたかったのか分からなくなる奴だな。

 

「ゆんゆんはお腹空いているか?」

「いえ…出る前に期限の近い物を処理しましたので特には…」

 

そういえばゆんゆんの事を確認していなかったと思い聞いてみると案の定出る前に食べてしまっていた様で、バツの悪そうに目を逸らしながら白状した。

 

「そうか…喧嘩してる事だし。邪魔しちゃ悪いからさっさと行こうぜ」

「あ、はい…え?」

 

単に面倒になったとかじゃなく、拉致が開きそうもなかったのでゆんゆんの腕を掴みそのまま店の反対側へと走っていった。

 

「あ、ちょっとお客さーんそりゃないよ‼︎」

 

遠くで文句の様な叫びが聞こえたが、気にしない事にしよう。お土産なら帰りに買えば良いだけだし、まだ買わなくても大丈夫だろう。

 

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