この女神の居ない世界に祝福を   作:名代

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問題児がいなくなった事により話がこうならざるを得ませんでした…

誤字脱字修正の方ありがとうございますm(__)m


アルカンレティア6

「ふー何とかなったな」

 

従業員を振り切り道の真ん中へとたどり着く。

 

「どうしたんですか、いきなり走るのでビックリしましたよ」

 

走りを止めたところで息を切らしたゆんゆんがそう言った。そこまで遠くまで走った訳では無いので何故そこまで疲れているのだろうと思ったが、人に腕を掴まれて走ったならペースが乱れるのでしょうがないだろうと思う。

 

「どうしたんですか?いつもならしょうがないとかいって買いそうな気がしましたけど?」

「ああ、それな。まあ気のせいだったらどうしようも無いんだけどさ、あの2人からはどうも悪意的なものを感じなかったんだよな」

「悪意ですか?」

「何て言うんだろうな、殺気みたいなやつだよ。ゆんゆんだってよく感じるだろ?」

「ええ、まあモンスターとかからならよく感じますけど…」

「あれに近いやつだよ」

「へーそうなんですか、私にはよく分かりませんね…」

 

不思議そうに俺の説明を書くゆんゆん。

簡単に言ってしまえば探知スキルの恩恵だろうか?スキルを常習的に使用して感覚を研ぎ澄まして行く毎に感じ取れるものがぼんやりだが増えて来ている様に感じる。

スキルによる演技ならともかく、あの様なあからさまな演技程度なら曖昧な感覚程度にならわかることができる様になって来ている。

 

「まあ、気を取り直して観光を始めようぜ」

「はい‼︎」

 

難しい事は置いておいて今回は魔王幹部等々心にひっかかる様な事はないので久しぶりに羽を伸ばすことができる。

そしてここは温泉街のど真ん中で隣には中身はアレだがかなりの美少女が歩いている、これはチャンスでは無いのだろうか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…はぁ」

「…」

 

そして現在、俺たちはテラスのある喫茶店に迎え合わせで座っている。

先程までのハイテンションぶりは一体何処へやら、俺達は意気消沈した状態で提供されたコーヒーに手を付けては口に運び何処か遠くを見つめる様に外の景色を眺めている。

 

「めぐみんが危惧していた理由がよく分かった様な気がしたよ」

「そう…ですね」

 

サービスに添えられたもうすでに何度も目にした入信書を折りたたみ紙飛行機を作る。

最初は凄い勧誘だなと思った程度だった。日本でも飲み屋街などに出れば夜の店などのしつこい勧誘などはそう珍しいものでは無く何処にでもある日常の様なものではあった。

しかし、この世界のそれは俺の知る限りの常識をかなり逸脱したものだった。

 

都そのものがアクシズ教に支配されているかの様に法律が制定されており、アクシズ教に所属していない方が非常識かの様にこの都は制定されている。

要するに、出かける先々であからさまなものから念入りに仕組まれたものまで様々なものまで仕込まれていたのだ。

いきなりあった昔の同級生の友達や、荒くれ者に絡まれた女性などよくここまでのバリエーションを揃えられたなと感心する程に手の込められた手口に、俺たちは様々な方法を駆使していき何とか逃げる事に成功するが、最後の小さな子供の純粋さを利用した手口にとうとう心が折れてしまったのだ。

 

「とんでもない処に来てしまいましたね…」

「ああ…そうだな。どうせだったらめぐみんに裏道教えて貰えばよかったな」

「…そうですね。わがまま言わずにそのまま引っ張っていけばよかったと思います」

 

これからどうしようか、と再び目線を外へと動かしながらコーヒーをすすると手に持っていた紙ヒコーキをそのまま外に投げる。

高台に建てられたこの喫茶店から飛ばされた紙ヒコーキはヒラヒラと下にもある温泉街へと姿を馴染ませながら消えていった。

 

「…取り敢えず宿へと帰るか…」

「そうですね」

 

俺達は会計を済ませた後に潜伏スキルをしようしながら街を降りていった。

行きと違い帰りは気配を遮断しながら道の隅をコソコソと戻る事で大分絡まれる頻度は減った。行きもこうすればよかったのだが、昇りは他の観光客の流れの人数が多いのであまり効果がなく、奴らはそれでもお構いなしに人をかき分けてくるのだ。

 

 

 

 

 

宿に戻り扉を開けると置いていかれ不機嫌面のめぐみんが居たが、俺たちの疲労困憊した表情を見て全てを察したのか何も言わずに飲み物を注いでテーブルの上に並べた。

 

「どうでしたか?アルカンレティアは?」

「最悪だったよ。一体何があいつらをそこまで掻き立てるのかが不思議でしょうがなかったよ」

「さあ、それは私でもわかりませんね…」

「めぐみんはこの都で暮らしていたのよね?その間どうやってあの人達をどう躱していたの?」

 

ゆんゆんがそう言えば、と不思議に思ったのか以前に抜け道以外の対策はどうしていたのかと問いかけると、彼女は少し渋る様な表情を浮かべた後に意を決したのか、複雑な表情を浮かべながら喋り出した。

 

「…そうですね…話せば長くなりますが、簡単に言って仕舞えばあの方々の仲間に変装していました」

「変装か?」

 

あの教団の手伝いみたいな話は聞いていたが、そもそもあいつらに混じっていた事になるのだろう。

 

「そうです。まあ、あまり人前に見せたくはなかったものですが」

 

そう言い、彼女は荷物から黒い縦長の箱を取り出すと、中身を俺達に中身が見える様に向けて開いた。

 

「これは…」

「ええ、あまり見せたくは無くさっさと捨てしまいたかったのですが、何故かこの街にもう一度来る予感がしたのでこうして取っておいたのです」

 

彼女の見せた小箱の中に納められていたのは、あの頭の逝かれた連中が首にぶら下げていたペンダントと同じものだった。

そう言えばいつも大事そうに持っていた事を思い出したが、あれは自分がアクシズ教だと誤解されない様に隠していたのだろう。

 

「そう言う事だったのか…そう言えば俺も持っていたな」

 

めぐみんのそれを見て自分も同じペンダントを持っていた事を思い出し、ポケットにしまっていたそれを引っ張り出しめぐみんの前に出す。

 

「カズマも持っていたのですか?それとも彼らに屈して入信してしまったのですか?」

「そんな訳あるかよ。これはとある筋の人から貰ったんだよ」

 

へーと並べられた二つのペンダントを見るゆんゆん。

 

「何か二つのペンダント少し違う様な気が…」

 

並べられた二つのペンダントを見て何かを感じ取ったのか、口元に手を当てながらそう言った。

 

「そうか?作られた時期が違うから少し違うんじゃ無いか?職人が違う人とかあるだろ?」

「そ、そうですね。私の勘違いでしたね」

 

同じ商品でもロットによっては全然違ったりする事がある。一番分かりやすいのはペンキの色だろうか?

ホームセンターや問屋で同じ色を買ってもロットが違えば若干違う時もあれば全然違う色になってしまう時がある。基本色を作る際は工場の人がロット毎にが配分を決めるので、その時の湿度などの環境や染料をそれだけ入れるかによって違いが出てしまうので必ず同じ色になる訳では無いらしい。

小さい物に塗る分には良いのだが、壁を塗る際にそれが起きると同じ色で塗っているのに最初の物が尽きた所と変えた後の場所でグラデーションが出来てしまうので塗り直しになってしまうのだ。

 

「それでめぐみんはそれをどこで手に入れたんだ?もしかしてアクシズ教に仲間が居たりしたのか?」

「カズマにしては勘が良いですね。まあそうですと言うと癪なので一応否定しておきたいのですが、その時には知り合いがいましたよ。宿の受付の方に確認したら今日中には戻ってくるそうとの事でしたが」

 

タイミングが良すぎて怖いのだが、めぐみんに仲間が居たことに驚いた。

彼女のその嫌そうな表情から多分利害が一致したから仲間になった感じだろうが、それでも組織に協力者がいるのは心強い。残りのゆんゆんとウィズの分を作ってもらえればこの旅行はかなり安全な物になるだろう。

 

「それじゃあそいつが帰ってき次第会いに行くか」

「いや待ってください。まだ帰ってきているかは分かりませんので動くのは夜にしませんか?ペンダントを持っていたとしても昼間に動くのは危険です」

「何でだ?」

「色々集まりだったり勧誘の手伝いなどをしないといけないので、それを行わないと不審に思われます。ペンダントを持っていてそれに加護が無いと教徒たちに知られると異端者として扱われて酷い目に合うと言われていますので、なるべく人のいない時間を狙うべきです」

「成る程な…」

 

今までに無いくらいに必死な彼女の説得に、前ここに来て色々苦労したんだなと若干可哀想に見えてきた。

だが、確かに彼女の言っていることもバカには出来ない。味方に装う事はただ敵対する事よりも悲惨な目に遭うのはどの世界にも共通している事だ。

 

「なら、この時間は自由時間にして俺は風呂に向かうぜ」

 

やる事が決まって肩が軽くなったのでこの都の特色である温泉を堪能しようと思う。

まあ温泉といっても楽しみ方は人それぞれに違いがある。単純に湯船につかり日頃の疲れを癒すことや、サウナに入って体に溜まるであろう老廃物を出すことや、効能を利用して肌を綺麗にするなどのアンチエイジング。様々なものがあるが、俺が楽しむのはそれらに属さない物になる。

…まあ混浴なんだが。

しかし、この旅館には混浴というものは無く、性別の別れた形式しか無いので何とかして2人を連れて行かないといけないのだ。

 

 

「そうですか、では私達はここに備え付けられている露天風呂でゆっくりしていますのでカズマは他の場所にでもいってください」

「あーそう来たか」

 

誘う前にめぐみんに断られてしまう。しかもゆんゆんも引き連れて。

彼女らの目を見るに、あれは完全に俺を軽蔑しなくも無い感じで少なくとも良い印象では無いのは確かだ。

 

これ以上の追求は自身の首を締めるだけなので、その様な事は一切考えておりませんでしたと言わんばかりに何事もありませんよと言った程で宿を後にする。

 

「これは一杯食わされたな…」

 

頭を掻きながら他の客に期待しようと思い混浴のある宿の場所を思い出し、潜伏スキルを使用しながら都の道をかき分けながら進む。

道中の住人に触れると潜伏スキルが対象外になってしまいその人に気付かれてしまうので、住人や観光客に気づかれない様に躱しながら進んでいく。

一見簡単そうに見えるが、色々な人種で入り乱れる人混みの中をかき分けて進むのは中々に過酷で、少しでも距離感を見失えば途端にぶつかってしまい潜伏スキルの対象となってしまい突然現れた俺の姿を見てビックリする。

街中を歩く人を躱す為に足運び・腕の位置・体重の移動など様々なテクニックを重視する動きが要求される事に、いつだったかクリスの言っていた事と重なる部分があるなと思い、これを自主練にするのはどうだろうかと勝手に決め感知スキルを上手くセンサーがわりにして器用に都の道を突っ切っていった。

 

そして銭湯に着くと申し込み用紙に仕込まれた入信書を引きちぎり、手続きを終えた後に大量の石鹸と入信書を貰いようやく湯船に浸かる事ができた。

湯気に依るものか、霧のようなモヤで視界が無く誰かの話し声が聴こえてくる。そして進んだ先には嬉しい事に女性の先客が居たのだが、男性と一緒だったのでフリーでは無いと思い悲壮感に打ち拉がれる。

そして何故か男性の方は湯船に浸からないのか、岩盤の上で1人黄昏れる様に下の風景を眺めていた。

 

「…聞かれていたか?」

「分からないけど何故かこっちを見ているわね、けどあの表情だと大体のことは察せられるわね」

「そうか、なら俺は先に出るぞ。作業はこれからだが人手があと1人欲しい。手伝えるか?」

「嫌よ。私はこれから他の場所に行くから無理」

「チッ、わかったよ。それじゃあな」

「ええ」

 

ここだとよく聞こえなかったが何やら不穏そうな事を喋っていた様な気がした、まあともかく何だかよく分からない会話を繰り広げながら男は温泉の外へと出て行ってしまい、この混浴温泉はお姉さんと2人きりという訳になる。

俺は湯気で見え辛いが、彼女の事を景色を見る振りをしながらガッチリと視界に収める。これは彼女が何かしでかさないか監視するためであり、決してやましい事をしている訳では無いのだ。

 

「あの…」

「お構いなく」

 

赤髪ショートの真ん中分けの女性は何やら俺に話しかけて来た様だが、その表情から不満が感じ取れたので先手を打って断る事にした。

涙目になった彼女はその後何回か繰り返し、最終的には何故か適当な世間話になり気づけば眠っていた。

 

最後の感じ仲良くなれそうだったが、多分何かの魔法か何かだったんだろうか?後から考えれば眠気のタイミングが不自然だったし太陽の位置もほぼ変わっていない事から眠るにしては短すぎる。状況からしてほぼ確実だろうと言っても過言でも無いだろう。

嫌な予感がして備え付けの時計を見ると、受付で見た時間から準備を差し引いて数分しか経っていなかった。

 

「まあ、俺が悪いんだから仕方ないか」

 

誰もいない事を良い事に独り言をポツリと漏らし、これ以上は湯当たりを起こしそうだと思い残念ながら第一回混浴ウォッチは幕を降ろした。

 

このままでは湯の効能で体は癒えても心は荒んだままなので、オプションで垢擦りからのマッサージへとコースを組みそこで憂さ晴らししようと手続きする。

途中やはり勧誘があったが寝たフリで誤魔化す。

しかし、そこはプロ集団?こちらが話さない事を言い事に話をどんどんと進めていく。しかも半裸で固定されている為逃げ出す事ができない。

頑張って耐えていると、温泉に居た大男も居た様で、隣から悲鳴のような叫びが聞こえてくる。どうやら奴もこの都の歓迎を受けている様だった。

 

「この石鹸たべれるんですよ‼︎それに入信して頂ければポイントも付きます‼︎」

「うるせぇ‼︎だからなんだって言うんだよ⁉︎んな事どうでも良いからさっさと仕事しろや‼︎」

 

ああ、俺もその気持ちが分かるぜ…としみじみに思いながらマッサージを受ける。

腕は確かなのだが事ある会話毎に勧誘があるので、地獄そのものでしかない。無理やり寝ようとしたが、眠ろうとすればする程周囲の音が気になってしまい苛立ち共に意識がハッキリとしてしまう。

 

 

 

 

 

「はーぁ」

 

一度知ってしまえば、その知識に関しての情報が図った様に出てくる事を何とか効果と言ったが、確かカーバス効果だった様な気がするが。その後もあの男が事ある所で被害にあっている光景を見る様になった。

その後も人混みを躱しながら店に寄ったりしたが、しつこく勧誘され続けとうとう嫌になり麓の湖に隣接された低めの堤防に腕を預けて黄昏れる。

どうにかして一泡吹かせたいが規模違いすぎて俺の手ではどうしようもない。

 

「よう坊主。お前も難儀している様だな」

「は?」

 

呆然としていると後ろから誰かに話しかけられる。

一瞬他の人に話しかけられていると思い無視しようとしたが、感知スキルには男以外の気配が感じられないので俺の事を指しているのだろう。

 

「何だよ、俺になんか様か?」

 

特に話しかけられる理由が無いので、警戒しながら奴の言葉に反応する。

 

「ああ、いきなり失礼したな。俺の名前はハンスだよろしくな坊主」

「そうか、俺はカズマって言うんだオッサン」

「オッサンって…おい」

 

坊主呼ばわりしたので俺自身で決めたルールに従いオッサンと呼んでやる事にした。奴は何だか訂正する様な雰囲気を出してきたが、俺はそれを全く意に介していないかの様に振舞う。

人間最初が肝心なのだ。最初で分らせておかなければその後はずっと舐められっぱなしなのだ。

 

「それで何か俺に様か?勧誘ならもう懲り懲りなんだけど」

「ああ、そうだな。それに関しては俺も同意見だ」

 

俺の意見に賛成しながら奴は持っていた石鹸と洗剤の入った袋を地面に降す。どうやら話は本題に入る様だ。

そして両手が空いた状態で改めて向き合うと、今まで気付かなかったが奴の体が全くぶれていないことに気づく。

一番身近な人で言えばクリスが近いだろう。奴と比べると天と地との差があるが、それでも俺や他の冒険者と比べればその差は歴然だ。

重心が安定する事は簡単に言って仕舞えば直立に関して一切の無駄がないと言う事になる。戦闘において酔拳など意図的に揺れるなら良いのだが、無意識に動きがあると言う事はそれだけ無駄が大きいと言う事になる。

その無駄が攻撃の重心を逃がしてしまう原因になったり余計な体力を消耗させてしまう。

 

つまり、奴は中々の手練れという事になる。

 

「そこでだ、どうだ坊主?俺と組んでここの住人に一泡吹かせてやらないか?」

「何…だと⁉︎」

 

この男、突然現れ一体何を言い出すかと思えばとんでも無い事を言い出しやがった。

 

 

 

 

 

 

 

「それで、方法はどうやって行うんだ?まさか爆裂魔法でも打ち込むのか?」

 

奴の宣言の後、取り敢えずここでは他の人に聞かれるという事で奴の根城である宿の部屋に案内され、こうしてもてなされている。正直俺相手にここまでしてくれると逆に恐怖を感じるが、感知スキルには奴1人の反応しかないため、念のため逃げ道を用意して部屋に入ってきた次第である。

 

「方法に関しては第一にお前が俺の仲間に加わるかどうか決めた後だ」

「チッそう来たか」

 

内容を説明して勧誘を断れば最悪阻止される可能性があるので、最初に共犯になってからという事だろう。

何事も連帯責任の様に罪を共有させ、責任で雁字搦めにして初めて信用できると言う訳だ。ありきたりなやり方だが、基本的に堅気がやるやり方ではないのでこいつはもしかしたらヤクザか何かなのだろうか?

もしかしてこいつはヤクザの元締めで報奨金で俺を仲間に加えようとしたのか?いや、それだったら温泉で何かしら行動を起こすのが自然だろう。

 

「で、どうする仲間になるか断るか?何も知らない今ならこのまま見逃してやるけどよ」

「…」

 

正直何かしらしたかった俺からしたら仲間が増える事は心強い。奴らに一泡吹かせて混乱している隙に俺たちは観光を満喫出来るという算段だが、ゆんゆん達を巻き込むわけにはいかない以上1人で行動を起こさなくていけなかった。

もしこいつの案に乗れば仲間が一時的に増えるし作戦も考える必要もない。形だけ見れば最高な条件だ。

 

「わかったよ。オッサンの作戦とやらに乗ってやるよ」

「良いだろう、俺に見込んだ通りだ」

 

がっしりと握手を交わし俺達は共犯者となった。

 

 

 

 

 

「それで?具体的には何をやるんだよ?さっき言ったように爆裂魔法でも打ち込むのか?」

「いや、あいつは流石に参加しないだろう。残念だが今回は俺らでやるしかない」

 

ハンスは俺の質問に答えつつ、テーブルの下に置かれていた大きめのボストンバックの中を漁り始めた。

一体何が出てくるのだろうか?もしこれが洋画だったら巨大なダイナマイトが出てくるのだが、ここは異世界なのでそれはないだろう。精々やばそうな何とかタイトが出てくるだけだろう。

…まあそれはそれで恐怖なのだが。

 

「そう言えば他に仲間がいるのか?あいつとか言ってたけど?」

「気にするな、坊主には関係のない話だ。そんな事よりこれを見ろ」

 

 

そう言えば一緒にいた女性はどこにいるのだろうか?もしかしたら共犯のメンバーに居るのでは?と思ったが、そうやらそれは無い様でメンバーは俺とオッサンの2人だけらしい。

そしてようやく見つけたのか、ドンと奴はテーブルの上に何かの包みを載せた。

 

「何だ?オッサンこれはいったい何なんだよ?もしかしてヤバイ物なのか?」

 

オッサンの出した包みは明らかにやばそうな雰囲気を出している。もしかして仲間が欲しいとは、これを取り扱うに当たって何か起きたとしても自分に被害が加わらない様にする事だろうか?

 

「これか?、安心しろすぐ見れば分かる」

 

そう言いオッサンは紙の包みを開き始める。最初は白い鉱石かと思ったが、どうやら包みは何重にも続いており厳重に包装されていた様で、何どめかの開封でようやく姿を現した。

 

「これは…一体?」

「これはところてんスライムって言ってな。今は粉だが水に触れれば元に戻る仕組みになっている」

「成る程な…」

 

正直言って呆れてしまった。

あれだけ厳重にしまって置いて中身がスライムとは興醒めもいい所だ。どうせならアクアタイトで町中水浸しにして温泉をぬるま湯にした方がまだマシだぜ。

 

「それで、こいつで何をするんだ?まさか街中に放り出してパニックにさせるとかか?」

「惜しいな、半分正解だが正確には違う」

 

奴は腕を組みながら偉そうに勿体つけやがった。

 

「勿体つけてないで早く言え‼︎」

「そうカッカするな、今説明する」

 

俺を宥めながらオッサンはスライムパウダーを再び梱包した後何処からか大判の地図を持ってきてテーブルに広げる。そこには何かの配線なのだろうか都の俯瞰図に色々な線が引かれ階層毎に何枚も分けられていた。

そして既に何かしらの作業を終えたのか、2色で殆どの配線にバツマークの様なものが引かれていた。そこは既に作業完了の印だろうか?

 

「この配線はこの温泉都に引かれたパイプの位置になっている。後は大体分かるだろう?坊主、お前はこのところてんスライムをこれから指定する場所に設置するんだ。勿論他の人間に怪しまれない様にな」

「マジかよ」

「でも、ほとんどバツマークがしかれてるんだけど、この数だったらオッサン1人で出来るんじゃないのか?」

「いや、俺も最初はそう思ったんだが、締めの作業があるから残りをお前に任せたい、時間的に早くしないと最初のスライムが腐っちまう」

「そうかよ」

 

 

これから始まるであろう大掛かりな作業に慄きながら、こんな下らない事にここまで念入りに準備してきたのかと思うとオッサンは余程酷い目にあったのだろうか物凄い執念を感じる。

確かに温泉にところてんスライムを配置できたなら入浴で無防備な人達をなす術もなく蹂躙できる。それにところてんスライムは喉に詰まる事はあっても人を殺す事は無いらしいと前にめぐみんが言っていた事を思い出した。それなら都がパニックになるだけで特に問題は起きないだろう。

問題はかなり山積みだが、それに関しての対策は取ってあるのだろうか?

しかし、締めの作業とは一体なんだろうか?

 

「なあ?このところてんスライムだけどさ、どうやって操るんだ?勝手に違う場所とか行ったりしないのか?」

 

よく動物使いとか話を聞くが、まず一個体に言う事を聞かせるのは中々に至難の技になる。もし全ての配管にところてんスライムを配置出来たとしても言う事を聞かずに何処かに行ってしまえば作戦は失敗に終わるだろう。

 

「その辺は安心しろ俺に考えがある。お前はただ配置してくれれば良い。それに試験的に事前に配置されている奴が何体か作動している」

 

どうやら作戦は馬鹿らしいが、本人は馬鹿では無いらしく作戦に関しての準備やリスク管理に関しては図面の正確さと言い一流と言っても良いだろう。ただ作戦がアホらしいのだが。

 

「それなら安心だな。取り敢えず夜に約束があるからそれまでに出来るところまでやっておくよ」

「ああ、頼んだ、期限は明日の夜までだ」

「あいよ」

 

適当に返事をしながらところてんスライムの入ったバックを受け取り肩に掛けると、そのまま部屋を後にした。

 

 

 

 

 

 

「戻ったぞ」

 

一通りできる限りところてんスライムの粉末の入ったカプセル的な物を、点検用の小窓的な所から入れ設置する。後は時間でオッサンが何かして作動させるらしい。

まあそんな作業を終え今自身の泊まる宿に戻ってきた次第だ。

 

「遅いですよカズマ、遅すぎてゆんゆんが倒れてしまいました」

「何があったんだよ…てか事ある毎にゆんゆんが倒れているんだけど、何なのお前はゆんゆんを倒さないと死ぬ病気なのか?」

「そんな事はありませんよ。ゆんゆんでなくとも別にカズマでも問題無しです。さぁ一緒に地面にキスをしようではありませんか」

 

戻って早々ゆんゆんがめぐみんの下敷きになっていた。近くにチェスの盤面があるのでまた例の意味不明なチェスでもやっていたのだろう。

そして迷惑な事に被害は突っ込んできた俺へと飛び火してきた。

 

「あーもう‼︎分かったから早くゆんゆんを起こそうぜ‼︎」

 

今回の人間躱しトレーニングの成果と言わんばかりにめぐみんの攻撃を上手く躱しながらゆんゆんを起こす様に促す。このままではパーティが魔王めぐみんによって全滅してしまう。

 

「クッ…小癪な…私の攻撃をこうも躱すとは…」

 

数回か躱すと、諦めた様にボソッとため息を吐いてゆんゆんを起こし始めた。

 

「うぅ…酷いよめぐみん…今回はデストロイヤーエクスプロージョンは禁止って言ってたじゃない…」

「あの時点では禁止でしたが、私がピンチになったので可能になりました。やはり爆裂魔法なしであのゲームをしようだなんておこがましかったのですよ」

 

またいつも光景だ…いい加減的しっかりして欲しいが、人の事を言えた義理では無いので黙っておく。

 

「皆さん準備は済んでいますのでいつでも大丈夫ですよ」

 

唖然と眺めていると横からヒョイとウィズが顔を出してそう言った。なんだかんだ言って全てが終わってから遊び始めた様で、昔みたいに急いで準備はなさそうだ。

 

「それじゃあ教会に行こうか…」

 

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