この女神の居ない世界に祝福を   作:名代

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遅くなりました。
誤字脱字の訂正ありがとうございますm(__)m
今回もあまり話が進みません…


アルカンレティア8

セシリーと別れ俺たちは宿へと戻った。

 

「それで皆さんはどうされるのですか?」

 

宿に戻ると待っていたウィズに迎え入れられ、いつもの様にテーブルに並んで会議が開かれる。

 

「そうですね…取り敢えず言うのであれば、最初は現場検証ですね。事件があった温泉に向かってその時の話や現場を抑えましょう」

「そ、そうね」

 

ばばばっといつの間にかセシリーから受け取った地図をテーブルに広げて事件の起こった場所をマーキングしていく。

記されていく目標を横目で眺めていると、前回確認した地図に対して所々にハンスが記していたであろう部分が重なっていく。若干の焦りを感じるが、そこはハンスも馬鹿ではないのでそこから足が付かない様に色々と切り離されているらしい。

逆に言えばそこが作戦時に発生してしまう安全地帯となる訳だが…

 

「そう言えば、カズマさんはどうされるのでしょうか?」

「そうだな…俺は別行動しようかな。やっておきたい事もあるしな」

 

めぐみんが仕切りどんどんと話を進めて行く最中にゆんゆんが質問を飛ばす。どうやら考え事をしていた事を見抜かれていた様だ。

 

「そうですか、まあ最初からカズマは戦力にしていませんのでどうぞお好きにお願いします」

 

そしてめぐみんは俺のその返事をよく思わないのか、食い気味に返事を返す。どうやら俺が協力しない事に何かしらの反感を覚えている様だ。

本当は協力してやりたいのだが、その場合俺とハンスとの約束が反故されるどころか反逆行為になりかねない。

めぐみんからすれば俺は今回の件に関しては攻略本の様な物だろうが、それだとつまらないので今回は別行動にして競い合うと言うのはどうだろうか?

 

「ああ、そうさせて貰う。ゆんゆんとウィズはめぐみんに協力してやってくれ」

「え?まあ私は構いませんが…カズマさんはあの集団に囲まれても大丈夫ですか?」

「ああ、ペンダントもあるし何とかなるだろう」

 

取り敢えずゆんゆんたちをめぐみんに押し付け分断させる。これにより俺の計画を邪魔するものは居なくなる。

 

「そうですか、本当に協力しないつもりですね?」

「ああ、まあ別にお前達に対して何か悪意があるわけじゃないから安心してくれ。そうだな…それじゃあこうしよう、今回誰が早く犯人を突き止めると言うのはどうだ?勝った方が負けた方の言う事を聞くというのは?」

「そうですね…何か嫌な予感はしますが、カズマがそこまで言うのであれば良いでしょう‼︎その挑戦受けて立ちます‼︎」

 

ビシッと適当に競争にかこつけて話を逸らす。これならば別行動にしても文句はないだろう、何せ競争なのだから。

 

「では、カズマはこの部屋から出て行ってください。作戦会議の内容を聞かれるとこちらも不利なので」

 

話が決まれば俺たちは敵同士となる訳なので部屋を追い出される。

何故俺が居間から追い出されるのか意味不明だが、これ以上言い争って藪蛇したらそれはそれで面倒なので抵抗を止め、彼女の意見を素直に聞き隣の寝室へと移動する。

 

「…」

 

寝室に入ると扉をきっちりと閉められ声が微妙に聞き取れない位の音量に下がってしまう。このまま彼女らの行動が分からないのであれば仕込み中に偶然出会してしまう危険性が出てきてしまう。

しかし、そんな事になるだろう事は大体分かっていたので、スキル聞き耳を使用して彼女らの声を聞き取って行く。

 

スキルの熟練度的な物が低い為か、多少声が曇っているがそれでも彼女らの行動ルートを知るには充分すぎる程の情報量だった。

 

成る程な…。

流石知能の高い紅魔族と言われるだけあって中々に核心に近い様なことを言っている事に感服する。仲間になれば便利だが、敵に回れば中々に手強い。

 

まあ良いか、俺は言われた事をただこなすだけで後は流れに任せるのみだ。

適当な言い訳を自分に言い聞かせつつ瞼を閉じる。あくまで体裁としては旅行しに来ているのに一体俺達は何をしているのだろうと、今更に思うのだがそれ以上の追求は明日のモチベーションに関わるので止めておく事にする。

俺の旅行を台無しにした奴らに目にものを見せてやるのだ。

やるべき事を再確認し、目標のXデーに備えて鋭気を養う為にここは早々に寝ておく事にする。

 

 

 

 

 

 

朝、目が覚めると既に皆の姿はなく、声どころか気配すら感じないので既に外にスライム捜索へと向かったのだろう。体を休めに来たのにご苦労なこったと思いながら用意して置いた着替えに袖を通す。

朝食は幸いにも食堂で食券を使用するタイプだったので食いっぱぐれる事はなかったが、今までみんなで食べていた分どうも寂しくなってしまう。

一通りの作業を終えロビーに鍵を預けると、そのまま宿を後にして人気のない裏へと周る。

流石にところてんスライムの粉を皆のいる部屋に持って行く訳には行かなかったので、こうして宿の裏の物陰にスキルで隠蔽しながら隠して置いたのだ。

 

「良かった、誰にも取られていないみたいだな」

 

もしかしたらあのシスターに嗅ぎつけられて取り返されていないか不安だったが、どうやら杞憂だった様だ。

スキルを解き、粉の小分けされた袋を纏めた物をバックに押し込む、途中アクシズ教徒に見つかったら大変なので底の方まで押し込んでおく。

 

それじゃあ2日目と行きますか。

 

バシバシと頬を叩き気合を注入する。

よくゲームであるスニーキングミッションなどあるが、そんな物とは比べものにならない位に緊張している事が手の震えに気づかされる。

 

「大丈夫だ…俺は魔王幹部を2人もやった男、カズマ様だ。これくらい朝飯前だ…」

 

自分にできるとほぼ自己暗示に近い掛け声をかけて安静を図る。それにより心なしか手の震えが収まった様な気がした。

 

後は潜伏を自分に掛けて目的のパイプの場所へと向かう。昨日はなるべく遠くの場所から攻めていた為、今回は近場がメインとなっている。

作業自体は簡単で時間があれば子供でもできる様な内容だが、期限が今日の夜となっているので焦らざるを得ない状況下にある。

アクシズ教徒ではない俺がこの作業を遂行するのはほぼ無理ゲーに近いのだが、クリスから教わった盗賊スキルが不可能な期限の作業を無理やり遂行させている。

本人に言えばいつもの様に修行と言う名の暴力の応酬を受けてしまうので、今回のことは口が裂けても言えないだろう。

 

「まずは…今日の一つ目かな」

 

メモに描かれた目印のあるパイプの継ぎ目の部位にたどり着き、点検用のハンドルを捻り蓋を開く。

蓋を開くと中から強烈な温泉独特の匂いに襲われたが、そこは持ち前の気合でどうにかして、ところてんスライムの袋を一つバックから引っ張り出しそのまま開かれている口へと放り込む。

後は袋に施されたであろう半透膜的な素材の都合による選択的透過性により、水分が袋内へと染み込み元のスライムへと還る仕組みになっているそうだ。

後はこいつがハンスの言う謎の仕組みによりパイプ内に忍び込み来るべきXデーに備えて待機してくれるらしい。

 

「残りは…まだ沢山あるな…」

 

やり始めは簡単だろうと思っていたが、この都に張り巡らされたパイプのラインをこの地図に照し合わせてどれがどれにあたるなどと考えていると徐々に混乱してしまい、また一から配線を考えないといけなくなってしまうのだ。

これの作業が意外にも俺の精神を蝕み苛つきと疲労を与えてくる。ハンスが何故協力者を求めたのかが若干だがわかった様な気がしてきた。

 

蓋を閉め、痕跡をスキルで消して証拠隠滅して次も場所へと向かう。

バックに残るところてんスライムの数はまだ沢山ある。果たして今日中に全て設置できるのだろうか?

 

 

 

 

2つ目の場所に向かう。めぐみんらのタイミング的には既に此処を調査した後だろう。他にも昨日俺が設置した場所を調べられていたので通り道に何かされていないか再び調べたが、流石にパイプの中まで調べるまでの事はしていなかっただろう、特に邪魔された様な痕跡はなかった。

詰まる所、彼女らはところてんスライムを事件が起きたその時に仕込んだ物と思っている様だ。なので今現在この都に仕込まれつつある現状に気付いていない様だ。

 

「…さてと、ちゃっちゃと済ますとしますか」

 

再び継ぎ目に備え付けられた点検用のバルブを捻り蓋を開こうと手を伸ばそうとする。

 

「…っ⁉︎」

 

そのままいつもの様にハンドルを捻ろうとした所で違和感を覚えた。

前回俺が彼女らの調べた後に比べてどうも周りが普通過ぎる。前回調べた時は人が何かしら手を加えた様な形跡があったが、今回はそれが全くもって何も感じなかったのだ。

もしかして彼女らよりも先に来てしまったのだろうかと思ったが、あの几帳面なゆんゆんが仲間にいる以上計画がずれる事はそう無いだろう。

であるならば、この自然さは逆に不自然だと思うのは当然だろう。必ず何かしらの狙いがあっての事だろう。

感知スキルを高めて周辺を見渡す。最終的には目を瞑り周囲環境と同化し、音や肌に触れる風の流れ空気の匂いや味など全ての感覚を余す事なく鋭くさせ周囲にある違和感に目を向ける。

 

そしてバルブ周辺に薄らっと魔力の残滓の様な物を感じ取る事になんとか成功する。後はそこに特化した形で感知スキルを集中させて正体を暴くだけになる。

意識をハンドルに絞ると魔法の構造的に罠に近い物を読み取れる。つまり、俺がこのハンドルを何も警戒せずに捻れば罠が作動して術者に何かしらの警報か何かが伝わるという仕組みだろう。

理屈は単純だが、それでも此処まで隠蔽したのであれば最早脅威でしか無いだろう。これはめぐみんが考えゆんゆんが実行したのだろうか、それともウィズが手を貸したのか謎だが、案外恐ろしい組み合わせだなとつくづくそう思った。

取り敢えずは術者と繋がっているであろう魔力戦的な物とダミーを繋いで、本来の物を罠解除で解除する。これにより術者に罠が解除された事に気づかれずに解く事ができる。

 

「…全く、末恐ろしい連中だよ。普段からこれくらいやってくれれば良いんだけどな」

 

俺の前だと大体余計な事をしているのだが、今回に限りはそうではなかった様でこうして手が込んだ罠なんかを仕込んでいる。もしかしかしたらウィズが入れ知恵でもしているのだろうか?

せっかくなのでこのまま彼女もパーティーメンバーに巻き込んでみようかなと思ったが、多分店の経営で断られるだろうと勝手に頭が結論を出した。

 

…いや。ウィズが加わったのなら果たしてこの程度で済むのだろうか?

適当な事を考えながらハンドルに再び伸ばした際に再び疑問が頭に浮かび込んだ。そしてその疑問は徐々に大きくなり確信へと置き換わる。

 

ばっと再び伸ばしかけた手を退かし周囲を探知スキルで再び探る。

もしこれが二重の罠であるならハンドルに仕込まれた罠は囮となる訳になる。ならばこのハンドルは見つけて貰わないといけない為、ハンドルの罠は必然的に隠蔽を緩める必要性が出てくる。

正直言ってあの罠を見つける事に結構苦労し、それでも見つけられたと言う結果に自画自賛した訳だが、この周辺にはそれ以上のものが隠されている訳になる為更なる集中力やスキルを要求される事になる。

ハンドルで引っ掛かったら拾い物で本命は他に在るとしたら何処にどの様なタイプを仕掛けるか。

考えれば考えるほどに思考の沼に沈み込んでいくのを感じる。

 

最初の罠が自身に伝える警報の役割があるなら果たして2つ目は何するかだ。もし、二つ目も警報なら同じ様にハンドルに仕込むか蓋に仕込む訳になるのだが、一つ目を解除した時点で罠に関する反応は既に無くなっている。

ならばあり得るのは、他に仕込まれているのか、それとも俺が見逃したかそもそも存在しないの三つになる訳だが、結果的にはその三の何も無いであって欲しいがこの世界はそこまで都合が良い言なんてないだろう。

考え方を変えて、今度は自分だったらどうするかを考える事にする。

最初に警報の罠を仕込んで、もしそれを解除したなら次はどうするか?俺だったら油断した所で一発でかいのをお見舞いしてやる所だが、そんな罠を仕込めばすぐさま二度目の探知スキルに引っ掛かるだろう。攻撃的な罠は術式に敵意が入ってしまうので完治しやすいのだ。なのでそれを隠すには盗賊スキルが必要になるので彼女らには無理に近いだろう。

 

…いや待てよ。

もしかしたら俺の考えが凝り固まっているかも知れないと再び考えを改める。もしかしたら前提を固定されている可能性があるかもしれない。

せっかくの探知スキルだが、元は敵の気配を感知する物をクリスの助言で改良している為に、認識外の盲点が生まれてしまう欠点が生じてしまっている可能性がある。よくある灯台下暗しと言うことわざある様に、俺の探知スキルに此処は無いだろうと言う除外フィルターが掛かってしまい本来見えていた物が見えなくなっている危険がある。

最初に魔法的トラップがあるので、二つ目も魔法トラップがあるだろう。や彼女等は三人ともアークウィザードの由来する魔法使いであるので魔法トラップがあるなど。先入観によって見方を狭めてしまっている危険があるのだ。

ならば、今度は物理的トラップがあると言う事を前提として、それを強くイメージする。無意識的に排除していたファクターを改めて意識し探知スキルの精度を向上させる。

 

「…見つけた!」

 

改めて探知スキルで周囲を探ると、ちょうど俺の居るパイプの下に反応が現れた。

温泉街に蔓延るパイプは、林の中やあらゆる場所など何本も交差し俺の足場を構成しているが今回はちょうどその下方に地面がある。

この点検場所に向かうには上から攻めれば早いのだが、帰るには森の先の様に返しがあるみたいな感じで少し出辛くなっているのだ。なので、帰りはパイプの下を降りて地面を歩いた方が時間や労力的には効率が良いのだ。

つまり、最初の罠に引っ掛けて逃げるために降りた所を仕留めると言う手順になっている訳で、もしハンドル部の罠を解除されてもそれを看破する頭があるのなら効率よくいくためにパイプの下を降りる可能性が高いので、油断仕切った所を罠に嵌めると言う算段だろう。

危うくそんな恐ろしい罠に引っ掛かってしまう所だったと思うと寒気が止まらない。気づかずにめぐみんの罠に嵌り捕まろう物なら後世まで笑い物にされるだろう。

 

「危なかったぜ、全くウィズも恐ろしい事を教え込んだ物だ」

 

普段の狩猟クエストで罠を張った事があったが、2人とも二重トラップなんて物を扱った事はなかったので恐らくウィズが入れ知恵でもしたのだろう。

流石はアンデットの王リッチーといった所だろう。モンスターだが、敵に回らなくて良かったと今でも思う。

 

最後の方は、ほぼスキルに頼り切りになったが、それでもなんとか彼女等に見つかる事なく仕込まれたトラップ群を取り除く事に成功し、見事配管にところてんスライムを仕込む事に成功する。

これから彼女等の監査が入った場所を探索するとなると、これ等の工程をこなさなければいけないと言う事になると思うとやや嫌な気がするが、それは仕方ない事だろう。

 

「ここも済んだし次に行こうかな」

 

額に流れる汗を袖で拭うと、次なる場所を確認する為にリュックに収納された地図を広げ確認する。

彼女等が行くであろう場所を先回りし、完全に隠蔽してところてんスライムを仕込み彼女等の仕掛けるであろう罠を解除する手間を省くのも良いが、最悪バレてしまう可能性が出てきてしまう。

今回の場所は何とかバレてはいなかった様だが、それでもこれから先でバレる可能性が無いわけではない。

 

どうしようかと考えたが、悩んでいる分時間が無駄になってしまうので取り敢えずは予定通りにこなしながら途中で思いついた方向に路線変更すると言う事で納得する。

そうと決まれば地図をしまい、次の予定である配管へと足を進めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「これで大体何とかなったか…」

 

途中かなりのバリエーションに富んだ彼女等のトラップ等に手を焼いたが、それでも何とか解除に成功して程良い疲労が全身を支配していた。

ハンスの語る作戦から規模を考え、それ他の要素を踏まえて必要最低限のところてんスライムを俺の独断と偏見で逆算した結果に算出された基準量を何とか配置する事ができた。

後は適当に穴を埋める様に配置していけば良いのだが、ここまでやったのなら少しくらい休憩しても良いだろうと、近場にあったアルカンレティアでは珍しいエリス教の運営する喫茶店へと向かう。

 

「いらいっしゃいませー!ここはエリス教の運営するカフェになります。申し訳ないのですが身分を証明できるものはありますか?」

 

入って早々にスタッフに道を塞がれる。

アクシズ教とエリス教は文字通り犬猿の仲である為、仲が結構悪いのだ。

悪いと言ってもアクシズ教が一方的に絡んでくるので、エリス教等はそれを煙たがりこうしてエリス教の憩いとなる聖域を慎ましく経営しているのだろう。

 

「これで大丈夫か?」

 

身分証といってもこの世界では冒険者カードくらいしか無いのでそれを出すのだが、奇しくもここはアルカンレティア、必要な身分証明書となれば自信が冒険者である証ではなくこのエリス教の証であるペンダントの事だろう。

 

「はい、大丈夫です。あなたも大変でしたね」

「まあそうですね」

 

ペンダントを差し出した瞬間従業員たちの警戒心は嘘の様に消え、俺を歓迎する方向へとシフトしていった。

あの悪名高きアクシズ教となれればどんな理由があろうとエリス教のペンダントを持ち歩くなんて考えないだろう。それにしても従業員の疲れた様な表情を見ているに余程ひどい目にあっているのだろう。

 

適当に注文を済ませ外を眺めていると、何だか外が騒がしくなっている事に気づく。

何だと思い千里眼を使い外を眺めているとどうやら誰かが追いかけられている様だった。

 

「また迷える仔羊たちが邪神教に囚われていますね」

 

誰が追いかけられているかと思い眼を凝らそうと力むと、隣から注文の飲み物を運びにきていたウエイトレスがポロッと言葉をこぼした。

 

「側から見るとあんな感じなのかよ…」

「そうですね。でも安心してください、ここにいれば流石のアクシズ教の方も手を出したりしてきませんので」

 

その言葉を聞き周囲を確認すると、ガラスや壁などに耐久性を上げる術式の様な物で店を強化しており、中にはアクシズ教を指定した人払いの効果があるものも見受けられた。

 

「そうだな、それなら一安心…」

 

これだけの事をしていれば一安心だなと思い、安心しつつも再び外を眺めていると外で追いかけられている人間のピントが合い正体が判明した。

 

「げっ‼︎おっさんじゃねーかよ‼︎」

 

予想外の事実に椅子を倒しながら起き上がる。

それにより大きな音が店内に響き、周囲に恥を晒してしまったが、そんな事を気にしている暇は無く急いで軽食と飲み物を飲み干し店員に料金を払い店を後にする。

そこから全力疾走で騒ぎの場所まで駆け抜け、食後の為若干気持ち悪くなったが、それでも何とかハンスのいる所の近くまで辿り着く。

 

「クソ‼︎離しやがれ‼︎俺は貴様等の言う宗教なんかに興味はないんだよ」

 

悪態をつきながら体にしがみ付いて離そうとしない多数の教徒達を必死に引き剥がしながらも悪戦苦闘している。

何でこんな状況になっているのか分からないが、多分奴らの勧誘を全て断ったが為にこんな結末を迎えたのだろう。

 

取り敢えず何かあっても良い様に潜伏スキルを発動している為、奴らに見つかってはいないがそれだと自分は助かってもハンスは助からないだろう。

ならば仕方ないと、俺はある人物を急いで探してこの場に呼び寄せる。

 

「お巡りさんこの人達です‼︎」

 

意外にもこの都の警察はエリス教の人間もいるらしく、こうして好き勝手するアクシズ教の取り締まりを行い、勧誘があまりにも酷くなると今回の様に駆けつけどこかに運んで行ってしまった。

 

「痛たた…全くふざけた連中等だ」

「大丈夫かおっさん?」

 

周囲のアクシズ教が散らばり真ん中に1人ハンスが放り出される。さっきまでとは打って変わって雑に扱われる様に若干笑ってしまいそうになるが、流石の俺も空気を読みここは我慢する。

 

「ああ、坊主か…助かったぜ、あのまま囲まれていたら堪らなかったぜ」

 

頭をぼりぼり描きながら罰が悪そうにそう言うと、囲まれていた際に服に仕込まれた入信証を引っ張り出してクシャクシャに丸めると床に叩きつけた。

 

「あのふざけた連中め…目に物見せてやるからな‼︎」

 

もはやマジックでも見ているかと思う程にたくさん出てくる入信書の量に唖然としながらもハンスが何かしないか観察する。

 

「それでだ、坊主首尾はどうなっている?」

「ああ、そうだったな」

 

気持ちを切り替えたのか、急に真顔になったハンスが現時点での進捗を確認し出してきたので、すかさず地図を広げて説明する。

 

「成る程な、流石に全ては無理かと思っていたが、ここまで効率的かつ計算しながら設置するとはお前も中々やるな」

「ああ、決められた仕事はやるさ。それでおっさんの方はどこまで行っているんだ?」

「ああん?俺か?俺の方はおかげさまで順調だ。後お前がヘマしなければ作戦は完璧だろうよ」

 

自身のタスク処理の能力を勘繰られるのが嫌なのか、嫌味が返ってくる。

 

「まあ、取り敢えず夜にこの都の裏手にある山に来てくれ」

 

返ってきた嫌味に対して眉間にシワを寄せ不満そうな表情を浮かべていると、罰が悪そうにハンスがそういった。

 

「オッケー分かったよ、夜にそこに行けばいんだな」

「後、他に…」

「何だよ、どうしたって言う…」

 

その後何か言い掛けたところでハンスは口をつぐんだ。不審に思い奴を問いただすが、途中に後ろから物音が聞こえ何だと振り向くと先程警察を呼び解散させていたアクシズ教徒達が再び集まり出してきていた。

 

「マジかよ」

 

その光景に呆気に取られながらも、その異質な光景に足が竦んでしまい動けなくなってしまう。

 

「何ボーとしているんだ‼︎急げ坊主、こっちだ‼︎」

 

しかし流石のハンス。俺より長く生きている為か、このような事では動じずに裏道へと俺を引っ張り込む。

だが、裏道に入ったからといって奴らの追跡から逃げられると言うわけでは無いので、ここからまた地獄の逃走劇を行わなくてはいけないのだ。

 

「ちょっと待ってくれ‼︎」

「何呑気なこと言ってやがる、このままだと追いつかれるぞ」

 

こっちだと誘導するハンスは支援魔法で強化している俺を優に超えるほどの速度でこの都を駆けていく。冒険者では無いと言っていたが、一体何の職業につけばこれ程のステータスが得られるのだろうか?

不思議に思いながらも何とか必死にハンスに食らいつく様に後を追いかける。

 

アクシズ教の追いかけは今までの比ではなく、余程なびかないハンスに対して意固地になりなおかつ執着でもしているかの様な位追跡がしつこく中々に撒けない。

 

「クソ‼︎今日は何でここまでしつこいんだよ‼︎」

 

目の前を器用に飛び跳ねるハンスを見逃さない様に追いかけながらも振り向くと、そこには先程から全く同じ距離に奴らが全力疾走して追いかけてきていた。

その追いかけて来ている教徒達の中にシスターの様な服装を着ている物達がいることから、どうやら俺たち以上に支援魔法を掛けて底力を上げて追いかけてきている様だ。

 

「仕方ない、坊主聞け‼︎」

「どうかしたか?」

 

逃走の最中突然ハンスが声を荒らげる。

 

「このままじゃ拉致があかない。二手に別れるぞ」

「ああ、分かった」

 

確かにこのままだと追い付かれないにしても永遠に鬼ごっこに付き合わされる羽目になりかねない。ならこうして二手に分かれた方が得策だろう。

奴らはプリーストの支援魔法で俺たちにようやくついて来ている状態なので、二手に分かれればその均衡を崩せる可能性が出てくる。そして、仮に片方に全て人数が寄ってもこっちが単独になれば隠れるなどやりよう派いくらでもあるだろう。

 

「3・2・1でいくぞ」

「おう」

 

走りながら合図を決め、それに合わせて2人とも別れ道で二手に別れる。そこからハンスの方を振り向かずにしばらくした後に後ろを眺めるとそこには…

 

「誰もいない…」

 

つまりアクシズ教徒達は全てハンスの所へ向かったと言う事になる。

さらばハンス、後は俺に任せてくれ…

まあ、どうやって作戦遂行するのかは分からないのでどうにもならないが、支援魔法もなしにあそこまで出来たのだから、先程みたいに捕まっていたならともかく逃げるだけなら今回くらいはどうにかして逃げてくれるだろう。

 

…とにかく疲れたから一旦宿に帰ろう。

 

先程まで追い掛けられていた極限状態から安全な所に着いた為か、どっと疲れが湧き出してきた。

このままところてんスライムを仕込むのも良いのだが、夜に疲れで動けなくなっても困るの宿に向かう事にする。彼女等の予定では宿に買ってくるのは少し後になり多分煩くなるだろうが、それでも安全に休むには十分すぎるだろう。

時刻は既に夕方だが、約束の時間まで多少はあるだろうと思うので英気を養う為に一旦宿に帰る事にする。

 


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