この女神の居ない世界に祝福を   作:名代

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いつも誤字脱字の修正ありがとうございます。
最初から間違えがなければ良いのですが…

感想ありがとうございますm(__)m。なるべく返信しようと努力します…


アルカンレティア9

宿に着くと、いなかったと思っていた三人が既に帰宿して居間で休んでいた。

 

「おや、随分と遅かったですね。こちらはおおよそですが作戦は完了しましたよ」

「マジか」

 

どうやらハンスと逃げ回っていた間に彼女等は昨日考えていた作戦を完了させてしまっていた様だ。

だが、もし俺の予想する様に作戦を完了させていたのであれば、現時点で俺を吊し上げられていなければおかしい事になる。つまり俺の予想していた作戦ではなく、あの仕組まれていたトラップを全て設置完了させて後は誰かが引っかかるのを待っている様な感じだろうか?

だとすれば、この状況にも納得するだろう。

 

「もう犯人はわかったって事か?」

 

念の為にカマを掛ける。

流石のめぐみんでも俺が犯人である事を突き止めたのであれば話をはぐらかさざるを得ないだろう。

もし仮にバレていたとして確保に飛び掛かられても部屋の位置的に俺はドアの前にいる以上、すぐにでもこの宿の部屋から脱出することが出来るので大丈夫だろう。

 

「いえ、現時点ではまだ確定とまでは行きませんね、ただ聞き込みで大分犯人の様な人の特徴は絞れました」

 

自信有り気に言う彼女だが、要するに未だ確実な情報は掴めていないのだろう。

 

「それでカズマはどうですか?何か犯人に繋がる情報は掴めましたか?」

「いや、その辺はまだ見つかってはいないな」

 

俺の現在の進捗を言える訳はないので適当にはぐらかすと、彼女は俺が結局何の成果を得られていないと思い込みまだまだですねと両手を挙げ煽ってくる。

正直苛っとしたが、そこは我慢しなければいけないだろうと自分を落ち着かせる。

 

「それで、今は何をしている時間なんだ?」

 

特に何も得られなかったが、一通りの意見交換を済ませたので本題に移る。

めぐみんが仕切っている以上このまま待つだけと言うのは、どうにも腑に落ちない。これから何かを行う為の準備段階か何かだろうか?

 

「そうですね。いろいろありますが簡単に言えば相手の出方待ちという所ですかね」

「へー、そうなのか」

「なのでこうして私はここで待機しています。もし何かあればセシリーがここに来るでしょう」

「マジか、連絡を待っているって事は罠でも張っているって事か?」

 

自分自身で言っておいて白々しく感じるが、念の為確認しておく。

紅魔族の知力は高いとされている以上、もしかしたら裏をかかれている可能性があるのだ。

 

「そうですね。まああくまで引っ掛かればラッキー程度の物ですが…そんな事よりいいんですか?カズマも何もしなければこのまま負けになってしまいますよ」

「ん?ああ、そうだな…まあこれからまた外にでも出向くさ」

 

このまま休憩にしたかったのだが、それだと彼女に怪しまれてしまうので仕方無いがまた外に出向いてところてんスライムの設置でもしようかと思う。

 

「そうですか、でしたらゆんゆんを一緒に連れて行ってください」

「はぁ⁉︎」

「え?ちょっとめぐみん何言ってるの⁉︎」

 

適当な事を考えているとめぐみんが突拍子もない事を言い出した。しかも巻き込まれたゆんゆんも聞いていなかったらしく、後ろでくつろいでいる所でびっくりしていた。

 

「人手はウィズで済んでいますのでゆんゆんを連れて行ってあげて下さい。まあそうですね、強いていうならカズマに対するハンデみたいな物です」

「それはどうも、でもいいのか?まだそっちも確信は無いんだろう?」

「ええ、でもこのままゆんゆんをこちらに置いていても意味がないのでカズマがうまく使ってください。競争にしていて目的がずれている様ですが、私たちの本来の目的は犯人を見つけ出してところてんスライムの所在をはっきりさせる事ですよ」

「…まあ、そうだな」

 

「ちょっと待ってよ、何で私を含まないで話が進んでいるのよ‼︎」

 

 

 

 

 

 

「…」

 

こうして俺たちは2人で再び街へと繰り出す事になってしまったのだ。

確かに言われてみれば俺たちの目的はところてんスライムの事件の解決だったなと改めて思い返す。しかし、それがいつの間にかどっちが先に見つけるかという話になり、ハンスの繋がりのある俺はどうにかして落とし所を探しながらもぐだぐだと作業を進めていたのだった。

 

「それでカズマさんはどの様な形で犯人を追っていたんでしょうか?」

 

どうしたものかと考えていると後ろでゆんゆんが申し訳なさそうに聞いてくる。そう言えばめぐみんに押し付けられたのを忘れていた。

 

「そうだな…」

 

彼女の質問に答えようとして言葉に詰まる。

結局のところ俺は三人の仕掛けた罠を解きながらところてんスライムを仕込んでいただけに過ぎない為、何をしていたかと言われればお前達の邪魔をしていたんだよ、としか言いようがないのだがそれだと何故そうしていたのかと怪しまれる事は免れないだろう。

だが、かと言って何と答えたら良いのかも分からないのでこうして悩まざるを得ないのである。

 

「まあ、そんな事はさておき折角来たんだから観光しないか?今回はこれもある事だし」

 

胸元にぶら下げたペンダントを取り出しゆんゆんに見せつける。今回は前回と違い、このペンダントがある為にアクシズ教の勧誘を受けずに街を歩くことが出来るのだ。

それに時間が夕方な事もあり、勧誘の対象である観光の方々はおおよそ餌食になるか抵抗した後など手をつけ終わった後なので、昼間と比べて落ち着いているので手伝いに出ると言う事も無い。

ある意味一番この街を観光するにはちょうど良いタイミングでは無いだろうか?

 

「そうですね…それも悪くは無いと思いますけど良いんですか?めぐみん相手に何でもするとか言っていましたけど…」

 

俺の誘いに心配そうに尋ねる。思い返せばそんな事を口走ってしまった様な事をあった気がする。

 

「ああ、その辺の事は大丈夫だろ、何せ言う事を聞くだけだからな」

「えぇ…」

 

ゆんゆんは俺の適当な発言に困惑するが、実際問題負けた時にいったい彼女がどの様な命令を下して来るのかは、その時になって見ないと分からないのでその時になったらその様に逃げるかどうかはまだ分からない。

 

「とりあえず観光名所にでも行こうぜ、あのよくわからない本にいろいろ書いてあったろ?」

「えぇまあそうですけど」

 

適当に彼女の手を取り引っ張っていく。

時は夕方の為、観光客を対象としたイベント事ははおおよそ終わっているので特に何かをするとは行かないが、それでも2人でいろいろ行動すると言うのはめぐみんが来て以来の久しぶりな気がする。

なんだかんだ言って予定を立てるのはめぐみんのため、行動するとなると三人になるのは必然だろう。

まあ、だからと言って変に2人きりになればパーティーメンバーであるめぐみんをハブにしてしまうのでそれは出来ないのだが、今回は違う目的とは言えそれを望んだのでそうなったのだ。

 

「そうですね、カズマさんが大丈夫だと言うのでしたら私も行きたい所がありましたので」

 

ゆんゆんと出会って早数ヶ月、そろそろ俺の扱いを分かってきたのか仕方ないと俺の言う事に付き従う様になってきた。

それが信頼からくるのか、それとも諦めからくるのかは分からないが、結果として俺の思う方に進んでいるので良しとしよう。

 

「それで、どこに行く?」

「そうですね…でしたら昨日買い損ねた名物のアルカン饅頭を食べてみたいです」

「そう言えばそんな物もあったな」

 

そう言えば昨日喧嘩していて面倒だった饅頭屋があった事を思い出す。

結局なんかウソぽかった気がしたので無視してしまったのだが、ここの名物であるのなら他の店でも取り扱っているだろう。図々しいと言われ慣れている俺でもその店は流石に気まずいのだ。

 

適当に街を登っていくとお土産屋の様な店を見つけたので店員に聞くと、俺の予想通りに饅頭があったので2人分購入して彼女に分ける。

 

「そう言えば紅魔族は旅行とか行かないのか?」

「そうですね…」

 

ふと疑問に思ったので聞いてみると、意外に難問だったのかそれとも何かの地雷を踏んでしまったのか思い悩む様に彼女は唸る。

果たしてそこまで考える事なのだろうか?

 

「私達紅魔族は中々外に出ていかない種族でして…意外に思われるかもしれませんが同級生で里を出ているのは私達2人位なんです」

「マジか…王都のほうに行けばお前達みたいのがぽんぽん出て来るのかと思った…」

「紅魔族はそんなに居ませんよ⁉︎」

「ほら、みんな上級魔法とか使えるんだろう?だったら他の冒険者組織の奴等がスカウトしに来たりしないのか?」

 

彼女ら紅魔族の高い知能と魔力を欲する冒険者は五万と居るだろう。むしろ紅魔族をメインとしたパーティーがあってもおかしくは無いだろう。

もし俺が普通の汎用性の高いチートを持っていたのであれば順当にまともな紅魔族を仲間にしただろう。

 

「確かに数名の冒険者達が私達をスカウトしに里に何度かいらっしゃった事がありましたけど、何故か分かりませんが皆里を出る事を拒んで里に引きこもってしまうんですよね…」

「マジか⁉︎でもまともな奴とかが取り合ったりしないのか?」

「いえ…驚くかもしれませんが、里のみんなはめぐみんの様なと言いますか寧ろめぐみん以上に変人と言いますか…」

 

これ以上は皆の名誉のために黙っておきますと言いたげに黙秘を貫くゆんゆん。わりかし常識的な彼女にとって紅魔の里は居心地の悪い里だったのだろうか?

 

「まあ、そう言う時もあるよな」

「それでも良いところはあるんですよ」

 

適当に流そうとしたら、ゆんゆんはそれでも長所的なものはあるんですとすかさずフォローする。

まあ、皮肉にもその発言が紅魔族をどう思っているかの決定打になってしまったのだが…

 

「へぇ…それじゃあ、たまに里の人に会ったりするとかは無いんだな」

「そうなりますね。私たちの他にも数名居るそうなのですが、大分歳が離れていますのであっても多分分からないと思いますね」

「そうだよな。他に居なかったら紅魔族が変人なんて話は聞かないからな」

「そう言う偏見で色々言われて悔しいですが、里のみんなをみていると否定できないですね…」

 

はははは、と乾いた笑い声を上げるゆんゆんを横目に前方をみていると、何かあったのか騒ぎ立てている様子だ見えた。

 

「何かあったみたいだな」

「そうですね、行ってみますか?」

「そうだな、まあ見て行く分には何も無いから大丈夫だろう」

 

正直折角の観光中にさらに面倒事に巻き込まれるのは嫌だったが、それでも何か面白そうだと言う野次馬根性が俺の足を進める。

めぐみんがいれば多分巻き込まれるが、今回はゆんゆんしかいないので無理やりであるが最悪見て見ぬふりが可能だろう。

 

「…いったい何があるんだ」

 

人を掻い潜り出た先には銭湯だろうか何やら作業員の様な格好をしたプリーストが客人らしき人と話をしていた。

話を盗み聞くと、内容としては温泉に入ったら何やらピリピリしていて前に入った時に感じたものと比べて不快に感じたとの事だった。

そして最初はその人がただ騒ぎ立てているだけだったのだが、次第にその銭湯に入った客人達が同じ様な事を訴え出し、最終的に手が追えなくなって来たあたりでプリーストが現れて何かのスキルをしようして検査した所、薄らだが毒の状態異常が検知できたそうだ。

 

「成る程な…」

「何か分かったんですか?」

「まだ何とも言えないな…」

 

それ以上の話は関係者では無いので聞けなかったが、俺には聞き耳スキルがあるのでそれを使い奥にいる関係者から話を無理やり聞き出す。

盗聴すると、どうやら同じような事が別の所でも起きているらしく、ここが初めてでは無いようで、そのまま話を聞き続けると関係者は同じような事が起きた他の温泉のある場所を挙げ始めた。

場所の名前を聞くに宿やここと同じ銭湯が挙げられたが、名前からして経営者が同じやフランチャイズ的な共通点は無いとの事だ。

だが、パイプの流れからすれば同じ源泉から引かれた湯だと言う事が分かったが、関係者達はその事にまだ気付いていないようだ。

 

「何か分かりましたか?」

 

聞き耳スキルを使いながら話を聞いていると気になるのかゆんゆんが俺の上体を折れ揺らし始めた。

 

「まだ聞いてる最中なんだからやめろって⁉︎そんなんだから友達ができないんだろうが‼︎」

「何ですかそれ⁉︎私が話を聞きたいのと友達がいない事にどんな関係があるって言うんですか‼︎」

「後で説明するから静かにしてくれって」

 

何とかゆんゆんを宥めて盗聴に戻ろうとすると、既に話は終わってしまったのか資料を片付ける音が響くだけだった。

 

「ほらみろ‼︎お前のせいで話が終わっちまったじゃねえか‼︎」

「そんな⁉︎」

 

適当に理由をつけてゆんゆんに八つ当たりする。

 

しかし、源泉に毒を入れるか…。

このアルカンティアにはいくつかの源泉があると言っていた気がしたが、一体誰が仕掛けたのだろうか?

めぐみん達がところてんスライムを除去するために入れたのだろうか?いや普通にそんな事をするとは思えないので却下だが、となると第三勢力だろうか?

俺達の他にこの都に恨みを持つ犯行だろうが、それだとめぐみんの仕掛けた罠に引っかかる事になる筈で、今回の犯人は俺以上に罠解除に関して精通している者になる。

 

「まあ、いいや。次行こうぜ」

「え⁉︎いいんですか?ここは何とかするぞって言う場面じゃないんでしょうか?」

 

ハンスと言いめぐみんと言い、各自皆それぞれの担当が何とかしてくれるだろう。それにこの都にも警察のような者達も居るので下手に俺達がでしゃばるよりその人達に任せた方が良いだろう。

俺たち下層部の人間は上層部の指示なしに動くわけにはいかないのだ。

 

「いや、ここは警察に任せようぜ。俺たちは俺達のやる事があるんだからさ」

「そんな…まあ確かに警察の方が居ますからね」

 

理由をつけてゆんゆんを懐柔する。

本来冒険者達は依頼をこなしてその報酬で生きて行く事を生業としているのだ。ここで適当に出て行って解決して仕舞えば本来この問題に向き合い解決するべき人達の仕事を奪ってしまう事になるのだ。

あくまで俺は冒険者、住み分けが必要なのだ。

 

「よし、それじゃあ次に行こうぜ」

「あー残念ですけどカズマさん…ウィズさんに呼ばれました…」

 

ゆんゆんは何か考え事をしているような格好した後にそう言葉にした。

その光景に一瞬何してんだこいつと思ってしまったが、そういう時もあるだろうと思い黙っていたが、どうやらウィズとテレパシーか何かのスキルで交信していたようだ。

 

「どういう事か聞いても良いか?」

「めぐみんの方で何かトラブルがあった様で作戦会議をするとの事です。それで…カズマさんは一応対立していますので詳しくはちょっと…」

 

ごめんなさいと彼女はそう言い残してそそくさとその場を去ってしまった。

折角の観光だというのに最後のお楽しみだけ残され置いてきぼりとは何だか不遇すぎる気がしなくも無いが、めぐみんが動き出したと言う事は毒を流した犯人が見つかったか、それともハンスが捕まったかのどれかかもしれない。

このまま宿に戻って会議を聞きたいが、先ほど聞き耳スキルをゆんゆんの前で使ってしまった手前多分何かしらの対策が講じられているだろう。

ならば先に問題の源泉に向かって状況がどうなっているか調べる事にしよう。もしかしたら犯人につながる何かが見つかるかもしれない。

 

ゆんゆんの姿が見えなくなるのを待ち、ちょうど夕焼けの影に消えた所で体を翻し源泉のある裏山に向かう事にした。

 

 

 

 

裏山に向かい入ろうとすると、さすがにここの生命線である源泉を管理する所であってか警備体制が厳しくなっていた。そう言えばパイプの配線的に全てに源泉がここと関係性を持っている為、ある意味アルカンレティアの心臓といっても差し支えはないだろう。

だが、俺には潜伏があるのでそれらをくぐり抜けて案外早く奥にある目的の場所へと辿り着く。

いまいち場所が掴めないので伸びているパイプをちょう辿り、ようやくそれらしい場所に着く。

そして、源泉が湧き出し溜めている池のような所の淵に近づくと、ここの管理人だろうか老人の様人物が立って源泉に何かをしていた。

 

さすがにこれは誤魔化せないなと、腰にぶら下げたロープに手を当て拘束のスキルであるバインドを使用しようと構えていると、その老人は潜伏しているにも関わらず俺の存在に気づきこちらに振り向き。

 

「…何だよ坊主か、ビックリさせるなよ。約束の時間より早かったな、驚きはしたが時間を遅れてやって来るよりは良いだろう」

 

と言った。

 

「何だこのジジイは⁉︎」

 

気づかれた事で全身に動揺が走り、ロープに伸ばしていた手を即座に剣の柄へと切り替え抜刀し構える。盗賊でも無いのに潜伏をしている俺に気づいた以上ただ物ではない事は確かなので即座に斬りかかろうと体勢を切り替え飛びかかる。

 

「ああ、そうだった。この姿じゃわからないよな」

「は?」

 

そいつは飛びかかった俺に対して眉を寄せ疑問を感じていた様だが、何か答えが見つかったのか納得した様にそう呟いた。

飛びかかる最中、その発言に対して何か親近感を感じたので咄嗟に体をかえして距離を取る。

 

「悪いな、この姿じゃ無いとここまで安全に来られないんでな」

 

老人はそう言うと体をどろっと溶かしてあっという間に元の姿に戻る。そして現れた姿は俺を坊主と呼んだハンス本人だった。

いったいどんなスキルを使ったのだろうか、その異質な姿写しの方法に嫌悪感を感じるが俺もこの世界に来てまだ日が浅いので知らない事もあるだろうと、いちいち気にしてはいられないとそれを無視して剣を鞘に納めて話を始める

 

「何だオッサンかよ。ビックリしたよまさか姿を変えれるなんて思わなかったよ」

「まあな、それよりもスライムはどうなったんだ?あれから増やしたのか?」

「いや、なんだかんだいって追手を撒いたりして時間が掛かってあまり出来なかったよ」

「そうだな、確かにあの状況下であれ以上は無理だな」

 

あの後女の子と遊んでましたなんて事は言えず、すべての責任をアクシズ教徒の仕業に仕立ててしまう。本当に悪いのは何でもアクシズ教徒のせいにしてしまう我々かもしれませんねと特大ブーメランが帰ってきそうで怖いが。

 

「まあ良い、準備が終わったなら作業を始めよう」

「そう言えば方法はどうするんだ?前から思ってたけどスライムをこの街にあるパイプに仕込んでそれからそれをどう運用するのかーて」

「そうだな、まあ見てろ」

 

これから起こる事に一応共犯者なので内容を確認すると、耳で聴くよりも目で見た方が早いだろうと行動に移そうとハンスは再び源泉の方へと足を進める。

そして源泉に前に立つと、そのまま腕を茹っている源泉へと腕を突っ込んでいった。

 

「おい都の方を見てみろ」

 

そのえげつない行為に対して若干ドン引きしていると、源泉に腕を突っ込んだ苦痛に表情を歪めながら俺に向かってそう叫んだ。

こんな事で都がどうにかなるかよ、と取り敢えず下の方を眺めると各地に温泉店で騒ぎが起きている雰囲気を感じたので、すかさず千里眼で確認すると温泉街は溢れ出たスライムによってスライム街へと変貌していた。

念の為フォローするが、この都の温泉街は千里眼で見えない様に何かしらの術式でモヤが掛かっており、深夜のアニメの如くうまく中が視認できないのだ。

 

「何だよこれは‼︎とんでもないお祭り騒ぎじゃ無いかよ」

 

あたふたするアクシズ教徒を眺めると、不思議と煮え繰り返った腑がフッと静まり返るのを感じた。これで明日は気持ちよく帰れるだろう。

しかしこのまま終わって良いだろうかと思いリュックに入っていたシュワシュワと二つのグラスを取り出した。

 

「なあオッサン、シュワシュワは飲めるか?気分も言い事だしこれで一杯行かないか?」

「ん?何だそれは…成る程な、普段はそんなもん口にしないが今日くらいは良いだろう」

 

グラスにシュワシュワを注ぎ腕のお湯を払っているハンスに渡す。

源泉に付けたんだから治癒魔法でも掛けようかと言おうかと思ったが、ハンスの腕はそんな事はなかったかの様に綺麗だったので、余計な事は何も言わずにツマミを渡す。

 

「…フン。普段は何も感じなかったが、こう言う時の飲むと格別と言うのは本当だったな」

「だろ」

 

そうして日が落ち切るまで街の騒ぎを眺めながら2人で会話を楽しんでいた。

 

 

「なあ、オッサン俺はもう帰るけど、これからどうすんだ?」

「ああん?何言ってやがる。お楽しみはこれからが本番だろ?」

 

アクシズ教徒達の騒ぎを見る事も大分楽しんだので、そろそろ何とかしないといけないので都に戻り早急にところてんスライム狩りに協力しようかと思いハンスに別れの挨拶がてら今後の動向を確認すると、急にそんな事を言い出した。

一体これ以上何をするのかと思いハンスの様子を確認していると、奴は再び源泉に体を突っ込み今度は緑色の何かを流し始めた。

 

「おい…オッサン…それはいったい何だよ」

 

シュワシュワで気分が良くなっていたが、その光景を見てしまい酔いが一瞬にして覚め、意識が現実に戻されてしまう。

 

「何だよ見て分からねえのかよ…どう見ても毒だろうがよ」

 

何だこいつ酔っ払っているのかよ、と思ったが良い辛い体質だったのだろうかその表情は至って真剣な物で源泉の汚染は広まりつつある。

 

「…なあ都をところてんスライムで溢れ返して奴等いひち泡吹かせるじゃなかったのかよ‼︎」

「ああん?そんな事して何になるってんだ?ところてんスライムはただの陽動でこれが本命ってわけだ。この源泉が汚染されっちまったら流石のあの忌々しいアクシズ教徒もお終いだろうよ‼︎」

 

はーはっはっは‼︎と笑うハンスに対して自分のした行為の重大性に気づく。人は恨みに囚われると善悪の判断が出来なくなるというが言うが、どうやらそれは本当でこうして目の前で取り返しがつかなくなろうとしている。

確かにアクシズ教の信者達に旅行を台無しにされていたが、それでもこの都の温泉を汚染して使用不能にしてしまう程ではなかった筈だ。

しかし、ここまで手を貸してしまった以上俺にそのつもりが無くても俺の責任になってしまうのがこの人間社会の性質だろう。

 

「なあオッサン、さすがにそれはやりすぎじゃないのか?」

「ああ?何怖気ついてんだよ。ここまで来れば俺たちは一蓮托生だろ?安心しろよお前の逃げ道はちゃんと用意して……何のつもりだ坊主」

 

剣を鞘から抜き構える。

ここまでしておいて善行をしようなんて身勝手だが、さすがにこれ以上は見過ごせなかった。ハンスにとってこの街にどれ程の恨みがあったか知らないが、俺は気が済んでしまった以上これから先に付き合うつもりはないのだ。

 

「悪いなオッサン、少し眠って貰うぞ。さすがに都の人間に見つかると俺も捕まるから安心してやられてくれると助かる」

 

構えを解かずにハンスへと躙り寄る。奴の立ち振る舞いからかなりの手練れという事も、あのおぞましい変身スキルを持っているという事も分かっているので、油断すればすぐさま組み伏せられてしまうだろう。

 

「おいおいここまでしておいて仲間割れかよ…勘弁してくれよ。何がそんなに気に喰わないんだ?坊主もこ都の惨劇を見ただろう?折角来たのに入って早々アクシズ教の勧誘から始まり都の商売人もグルで買い物をしようとすれば入信書と石鹸と洗剤。人とぶつかれば入信書と石鹸洗剤・ホテルの宿泊の契約書の下にも入信書と石鹸洗剤・トイレに入れば紙の代わりに入信書と石鹸洗剤・久しぶりに会ったという友人?からも入信書と石鹸線材何もするにも入信書と石鹸洗剤・この町では生きているだけで入信書と‼︎石鹸洗剤‼︎そう‼︎石鹸洗剤石鹸洗剤石鹸洗剤石鹸洗剤石鹸洗剤石鹸洗剤石鹸洗剤石鹸洗剤石鹸洗剤石鹸洗剤石鹸洗剤石鹸洗剤石鹸洗剤石鹸洗剤石鹸洗剤石鹸洗剤石鹸洗剤石鹸洗剤石鹸洗剤石鹸洗剤石鹸洗剤石鹸洗剤石鹸洗剤石鹸洗剤石鹸洗剤石鹸洗剤石鹸洗剤石鹸洗剤石鹸洗剤石鹸洗剤石鹸洗剤石鹸洗剤‼︎」

 

もはや後半から石鹸洗剤の呪詛でしか無かったが、それでもハンスの怨みは恐ろしい物だと思い知らされる。確かに事ある毎に入信書とこの都特製の石鹸洗剤、確か食べれるらしいがついてきていたと思う。

しかし、だからと言ってこの都の温泉を全て毒で汚染していい理由にはならない。まあ俺が言える立場には無いのだが。

 

そんな特大ブーメランが帰ってきそうな立場にあるわけだが、それでも超えてはいけないラインはあるのだ。ところてんスライム被害はところてんスライムを排除してしまえば大丈夫だろうし、そこまで被害は無いはずだ。しかし、毒を流してしまい源泉自体が汚染されて仕舞えばこの都の観光資源は失われ毒の蔓延る死の都へと変貌してしまうだろう。

そうなればこの都に居るアクシズ教徒は必然的に他の街へと移住を始めてしまう。もし住みやすいアクセルの街に来て仕舞えば、俺の第二の故郷である街がこの街見たいな地獄へと変貌してしまう。それだけは何としても防がなくてはいけない。

つまり、これはあくまで正義の戦いでその正義は俺にあるのだ。

 

「悪いなオッサン。俺はこの都の住人を外へ放つ事だけはしたく無いんだよ」

 

剣を構え、ちょうど剣に対して腹の部分が当たる様に向きを変えると、そのままハンスへと振りかぶりながら再び飛びかかった。

 

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