この女神の居ない世界に祝福を   作:名代

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今回は急いで書いたので少しおかしい所があるかもしれません…


アルカンレティア10

「…ったく」

 

はぁ…とハンスはため息を吐くと、源泉に片方の腕を突っ込んだ体勢のまま残された方の手で振り下ろされた俺の剣を受け止めた。

 

「…嘘だろおい…」

 

正直言って躱されると思っていたが、まさか素手のままでしかも片腕で源泉を汚染している状況下で受け止められるなんて、流石の俺でも予想出来なかっただろう。

一度剣を下げ、体勢を立て直そうとするが、ハンスの握力はゴリラ並みなのか俺の力ではびくともしない。

 

「なあ坊主…俺はお前を少しは評価していたんだぜ」

「そいつは光栄だな…生憎俺のオッサンに対しての評価は最低まで落ち込んじまったよ」

「そいつは残念だったな」

 

互いに嫌味と皮肉の応酬をしながらも、俺は危険を承知で横目で源泉に突っ込まれたハンスの腕を目視する。

本来であればこの様な高温の場所に腕を突っ込もう物なら火傷を患い、それどころでは無いはずなので何かしらの細工があると思っていたが、実際に俺の目に映った光景は俺の予想を遥かに上回りもはや現実その物をを疑う物だった

 

「何なんだよ…その腕は⁉︎」

 

ハンスの腕は、源泉に触れる箇所の手前辺りから、先程の姿写しの際に形取っていたドロドロの固形のスライムの様な歪な形へと変化していた。

数あるスキルを一通りは聞いていると自分自身思っていたが、この様なスキルは聞いたことがない。

 

「あ?何かおかしいかよ…ああ、成る程な。俺の腕を見ちまった様だな」

 

やれやれ残念だ、この世には知らない方が良い事もあるのだよと…とどこかの誰かがいいたそうだったが、ハンスの口振りからして意味はほぼ同じだろう。

 

「ああ、だけどそれがどうしたんだ?もしかして見られたら恥ずかしい物だったのか?」

 

売り言葉に買い言葉、このままでは奴のペースに飲まれると思い、思わず茶化した返事を返す。

力で勝てない以上、俺に残された勝ち筋は戦術のみだ、ならば流れは何としても死守しなければならない。

 

「いや、特にそういう事はないが…そうだな折角だからこう言ってやろうか、これを見られたからには生きては帰さん…とな」

 

ゾクッと背筋に寒気が走る。

ハンスは多分半分ふざけて言っている様だったが、奴から放たれた殺気が半分は本気だと言う事を物語っている。

一体このオッサンは何者なんだろうか?これまで色々と強敵と出会ってきたが、あのとき放たれた殺気はあの魔王幹部のベルディアに近しい物を感じる。

これは可能性の話になるが、ハンスは魔王軍幹部に近しい実力を持っている可能性があるのかもしれない。

 

「はっ‼︎どうだかな…俺の逃げ足を舐めんじゃねえぞ…」

「おもしれぇ事言うじゃねえか、確かに逃げ足だけは一流だったな」

 

そうして、俺とハンスの剣を使った綱引きの様な戦いが始まった。正直言って剣を離せばそのまま逃走スキルで逃げられるのだが、それだと折角買った剣が台無しになってしまうので何としても避けたい所なのだ。

その後、結果的に互いにというかほぼ一方的に俺が引っ張っているだけだが、最終的に膠着状態となってしまい、他所から見れば動きが止まってしまった様な状況なのだが、その状況を変えたのは予想外にもハンスだった。

 

「…興醒めだな」

 

俺が剣を必死に抜こうともがいている様を見て、敵に足る存在では無いと判断したのか掴んだ剣ごと俺を横へと放り投げた。

 

「…何⁉︎嘘だろ‼︎」

 

突然起きた重心の喪失に体勢を崩し、俺は呆気なくハンスの放った方向へと飛ばされ地面を転がる。

これでもこの世界に来てからクリスにシゴかれてそれなりに実力がついて来ていたと思っていたのだが、ハンスの前では意味を為さない様でいとも簡単に蹂躙される。

 

「はぁ…太刀筋は悪くないが他が全然だな、坊主お前あまり喧嘩した事ないだろう」

 

よろめきながら剣を杖代わりに立ち上がると、何かを察した様にハンスはそう言った。確かに、俺はこの世界に来るまで喧嘩どころか言い争いすらした事すら無いが、それはあくまで前の世界の話で、この世界に来てからは少なからずとも命のやり取りを何回かこなしている。対人としてもクリス相手に組み手を日常的に行っている。

 

「どういう事だよ、これでもそれなりのは戦ってきている筈だが」

「そういうんじゃねえよ。そうだな…」

 

ハンスは今尚毒を流しながらも顎に空いている片方の手を当てながら上手い表現がないか考え

 

「こう言えば流石の坊主でも分かるか、お前は相手に対して殺意を持って戦ったことがないだろう」

「…あ?」

「今だってそうだろ?剣の腹で俺を気絶でもさせようとしている、そんな甘温い考えでこの俺様を仕留められるとでも思ったか?」

「何言ってんだオッサン?温泉の浸かりすぎで頭がおかしくでもなったか?」

 

唐突に語り出すハンスに対して、俺の内心はクエッションマークのオンパレードだった。

…いやそれとも時間稼ぎをしようとしているのか?だが、そうであるならこのタイミングで行う必要性を感じない。このまま俺を仕留めてしまった方が効率的に考えて最善だ。

 

「…フン。俺とした事が少し急ぎすぎた見たいだな。単刀直入に言う、俺達の仲間にならないか?」

「悪いけど、どういう意味かさっぱり分からない」

 

唐突に起きた勧誘に頭が混乱する。正直話の流れが急すぎてイマイチ思考が追いつかないのだ。

 

「意味くらいは分かるだろう?お前は気付いてはいない様だが、その…っておい、またかよ。いい加減学んだらどうだ?」

 

殺意がどうとか奴は先程言っていたので、今回はそれを参考にして思いっきり剣で切り掛かったのだが、やはり予想通り俺の剣はハンスによって軽々しく受け止められてしまう。

だが、そんな事は百も承知で、前回の様に完全に剣を掴まれる前に刃を引き抜き後方に下がり、今度は歩幅に緩急をつけながら体幹の軸をずらし相手に次の手を読み辛くした状況を作り出す。

そして付け焼き刃だが、クリスに教わった舞の動きを取り交えながら再びハンスに斬りかかる。

 

「無駄って事が分からないのか?」

 

俺のできる限りの技術を詰め込んだ渾身の一撃を奴は呆気なく防いだ。

だが、それども攻撃の手を止める訳には行かない。クリスに教わった動きの中には防がれた時に対応するものもあり、すぐさまその流れに移行し次の一手へと切り替える。

 

「まだだ‼︎」

 

踏み込んだ足を軸に反対側の足をスライドさせる様に外側に移動させ、その足が地面を捕らえると同時に体を捻らせ奴の腕の下を潜りつつ切り抜ける。

奴はそれを上体を逸らすだけで回避するが、切り抜けた先で片足の膝を深く曲げ体勢をそのまま半回転させ、残った方の足で地面を蹴ると同時に片足の膝を伸ばしその反動を使いながら奴の体を脇から切り上げた。

これ以上は息が持たないので一度体勢を立て直すために後方に下がろうとするが、先程俺が振り上げた剣は奴を切るには至らず、そして奴が再び俺を捕らえるチャンスを与えるきっかけとなってしまう。

 

「クソ‼︎」

「はぁ…ったくしょうがないガキだな」

 

受け止められ、先程は外側に投げられたのだが。今回はそうは行かず、奴は源泉から一時的に手を離しそのまま自由になった手で拳を作ると、そのまま俺の鳩尾へと振り抜いた。

 

「ゴフッ‼︎」

 

鳩尾を殴られた事で横隔膜が一時的に痙攣を起こし、呼吸が一時的に出来なくなってしまい苦しさのあまり地面に転がりながら悶える。

これが殺し合いなら既に死んでいる状態だが、奴にその気は無いのか再び源泉に毒を流す作業を再開する。

苦しさに頭や視界がチカチカしながらも、どうやら先程言っていた殺意を持った戦いというのはこう言った甘い事を言うのだろうか?等と考えてしまっている。

 

「生憎だけど俺はお前達の仲間になる気は無いよ」

 

俺達のとハンスは言っていたので、多分奴は何かしらの集団に属しているのだろう。

同じ目的を持ち、共に同じ苦しみを味わい、悩み、追い追われ、そして目の前にそびえ立った様々な障害を苦労の果てに乗り越え、先程までは互いにその目標を達成した喜びを分かち合っていた。俺たちには強い仲間のようなうまく説明できない友情が芽生えているのだろう。

それは多分ハンスも同じだろう。そうでなければ俺を仲間にしようだなんて考えつく事はまず無いだろう。

もしこの毒沼事件がなければ頷いてしまったかもしれないが、今回はまた別だ。アクシズ教徒という悪魔はこの都から解き放ってはいけないのだ。

 

「そうかよ、それじゃあ仕方がないな」

 

そう言いハンスは肩から下の腕を自身の体から引き離すと、残された腕はまるで自我を持っているかのように接断面から外に新しく丸く膨らんで球体を生成すると、その中にドス黒い何かを生成し始める。

今ままでの流れからして多分毒だろう。奴は体を引き離し、そして残された腕で源泉を毒で侵そうとしているのだ。

まるで自分の意思を持ったような腕を源泉が溜まる池の淵に残し、距離を取っている俺に向かって進んで来る。その間引き離されている腕があった断面の場所からまるで生え変わるようにニュルッと再生した。

一体どのようなスキルを使用したのか見当もつかないが、少なくとも幻術等そういった類のものではない事は奴の姿を見ていて確信できる。

 

このままでは不味いな…と心の中で危険信号が鳴り響く。奴には俺を殺す気が無い事は殺気が無い事から分かるが、それでも俺がハイと言うまで痛めつけるくらいの意思を感じた。

 

くっ…こうなったらやれる範囲でやるしかない。バニルの時程ではないが、支援魔法を重ね掛けしていつも以上の負担を体に掛けながら身体能力を向上させる。

急激に上がった身体能力に対して自身の感覚との乖離を起こしてしまい、何かの球技の練習の際にいきなり重いラケットから軽いラケットに持ち替えたようなあの不安定な感覚に陥る。

 

「悪いけど今回ばかりは覚悟して貰うぜ‼︎」

 

これを使ってしまえば手加減等はとても出来た物ではなく、相手を怪我なく五体満足で気絶させる事はほぼ不可能に近いだろう。

それにこの状態になったからと言って奴を仕留められる保証はなく、状況が変わったそれだけでしかない。

 

「ほう、まだそんな小細工を残して居やがったか」

「こう言うものは最後までとって置くんだよ‼︎」

 

身体強化によりステータスを向上させ、剣を構え直し息を整えると未だに前方に立ってるハンスに再び斬りかかる。

 

「おっと、少しはやるようになったじゃねえか?」

「まだまだ‼︎」

 

能力が上昇した事により流石のハンスでも切先を掴む事はできずに手の甲で俺の剣を弾く。

一体何のスキルを使用しているのか、そして職業は一体何なのか依然として謎だが、それでも攻撃を続けなければそこで終わってしまう。

 

「これで終わりだと思うなよ‼︎」

 

奴の手の甲に弾かれた状態から踏み出し、奴の側方へと回り込むと同時に側腹部に一撃お見舞いするがそれを奴は難なく回避する。

どうやら奴は俺の間合いを完全に把握しているのか、わざとそう見せ付けているのかの如く俺の放つ攻撃を紙一重で奴は躱していく。これは俺のペースを崩すための煽りかどうか迷うが、結局のところ気にしなければ意味はないだろう。だが、それでも焦ったい感覚を押し付けるには十分すぎるが。

 

「ははは、どうした?結局そんなもんか?」

 

攻撃を躱しながら奴は俺を煽るような発言を繰り返す。

悔しいが、側からこの光景を見たら大人にじゃれつく子供のように見えるだろう。だが、であればこそ使える戦法があることにはあるのだ。

しかし、それはあまりに危険な賭けになるだろうし何より体の負担が大きいのであまり使いたくはないが、状況が状況なだけに使うしかないだろう。

ならそれを…

 

「おらっ‼︎何をボサっとしてやがる。折角相手してやってんだから少しは真面目にやれよ」

「しまっ⁉︎」

 

技の流れを考えている間に隙ができてしまったのか、死角から拳が飛んできており、気付いた時には眼前で避ける事ができずに無防備の状態でそれを受けてしまい、勢いそのまま後方へと飛ばされる。

倒れたらそこで終了だよ。とクリスの言葉が頭を過り、咄嗟に足を開きながら上体を屈めて剣を地面に突き刺しながらバランスをとり、そのまま後方へと滑っていく。

 

「しまった、じゃねえだろ?…ったく」

 

悪態をつきながらも止めをさそうとしない奴に若干の疑問を感じながらも構え直す。

 

「おっさん。さっきから思っていたんだけどさ、何で止めを刺さないんだ?」

 

先程から思ってはいたが、奴の攻撃は俺に距離を取らせるものばかりで効率よくダメージを与えるものとは程遠い。殺す気で来いと言っているのに奴自身はまるでその気が無いようだ。

 

「あぁん?何言ってんだお前は?言っただろ、俺はお前に仲間にならないかって言ってるんだよ。だからこうして慣れない手加減をしてやってんだ、俺の言っている意味は分かるか?」

「は?」

 

先程の様な事を言っており、それも心理戦の一つかと思って無視して居たがどうやらそれは本当だったらしい。

 

「何が目的なんだ?現に俺はこうしてお前に弄ばれているんだが?そんな奴を仲間にスカウトする程お前の人材事情は困窮しているのか?」

「あぁ、それか…俺が欲しいのは戦闘員じゃなくて諜報とかそう言った物の類だ。生憎俺らの仲間は皆頭が足りなくてな…」

 

はぁ…とため息を吐気遠い目をしながらそう語る、どうやら仲間関係で色々苦労している事は本当だった様だ。

だが、だからといってはいそうですかと仲間になるわけには行かないのだ。

 

「…そうかよ。残念だったな、俺の方は生憎仲間がいてな…そいつらを裏切るわけにはいかないんだよ」

 

確かに流れ的には奴の仲間になるのは当然かもしれないが、それはそれでこれはこれなのだ。

それに結果としてアクシズ教を世界に広めようとする事は何としても防がないといけない。ここで奴に屈っすれば初の仕事がアクシズ教の本拠地を叩き教徒を世界に放出させてしまうと言うものになってしまう。

それは何としても防がなければいけない事である。

 

「…強情な奴だな。まあ気長に待つとするか、この源泉を完全に汚染するにはそれなりに時間がかかるしな」

「はっその余裕いつまで持つと思うなよ‼︎」

 

再び奴に向かって飛びかかる。今度はただ斬りかかるのでは無く柄の下の方を持ちながら剣身を前に突き出し重心を前に傾ける。俗に言う突きだが、クリスから教わった舞と組み合わせて一つの型に押し込んだ技を使用する。

 

話している合間も変異させた腕により源泉を汚染し続ける奴に向かい、攻撃をする機会を窺う。

恐らくこの攻防戦が最後だろうと体が言っている。多分強化による反動がそろそろ限界を迎えるのだろう。

支援魔法を使用する際、本来は出力を上げたのならそれに耐えられる様に防御力の様な耐久値を上げなくては体に必要以上の負担がかかってしまい、体を強化するだけで身体にダメージを負ってしまう。

そして俺はそれを出力に傾けて使用しているため、通常に比べて少しずつ身体を蝕みながら出力を無理やり上げている状況になるのだ。

まあ、バニルの時は全てを出力に回したので少し動いただけで全身内出血まみれになった訳なのだが。

 

 

身体の活動限界時間を予期しながらも構えを崩さず機会を窺う。途中異変に気付いた都の連中が駆けつけるなど思ったが、麓の方からは依然として騒ぎ声が聞こえている為、助力はほぼないだろう。

我ながらまんまと陽動作戦に多大な貢献をしてしまったなと、自分の行った行動に対して成功とそれにより結果として自分の首を絞めてしまったなと複雑な心境になってしまう。

 

 

そして奴の視線が汚染の進行の確認の為に源泉に向いた瞬間を見計らって足を踏み出す。

突きにおいて必要なのは、その間合いの詰め方にあると誰かが言っていた記憶がある。

縮地だとか縮歩だか忘れたが、人間は前のめりになった際に自然とバランスを取る際に足が前に出る反射があるのだが、俺はそれをワザと利用して突きによる第一歩をそれに当てがう事で動作の初動を一つズラし、奴の反応を遅らせる。

反射を使い初動を誤魔化し、奴との間合いを一瞬にして詰める。

奴の腕は未だに源泉へと繋がっている事から大きな回避はできなくなり、結果奴は体を逸らすだけで避けなくていけなくなる。

袈裟斬りであったなら肩から降ろされる刃の方向へと腕を当てればいいが、突きであるならそうは行かず、先程の様に腕で防いだとしても斬り下ろしと比べて接点が絞られている為に流石の奴でも防ぎきれずにダメージを負うだろう。

 

「おもしろい動きをするな、手品師か何かか?何にせよ、まだまだだな」

 

出だし動き角度全て完璧だった筈だったのだが、それらを全て踏まえた上で躱されてしまう。腕は繋がっている筈と思い奴の腕に一瞥するが、その腕は源泉から既に切り離されており奴の両腕は自由になっていた様だ。

だが、避けられて終わりでは無く、重心移動や足運びを駆使しつつ流れる様に続けながら連撃を放つ。

 

「今回はしぶてぇじゃねぇか‼︎」

「まあな‼︎」

 

奴に剣を弾かれながら返ってくる反撃を紙一重で躱し、次の攻撃の流れに移る。一度でも奴に剣を掴まれたら終わってしまう状況に冷や汗が止まらないが、それでも動き続けなければ活動限界を迎えて動けなくなってしまうだろう。

 

踏み込み奴の首を狙い横なぎをするが、奴はそれを上体を逸らしながら回避し拳を俺に向けて放つ。それを体を半回転させ躱しつつ足を後方に引き突きの構えを取り気持ちばかりの溜めを持って奴の心臓を突くが、放った時には既に奴の姿はなく、何処かと思うと俺の側方に移動しており脇腹目掛けて足が振り上げられる。

後方に逃げたかったが、足の位置からしてそれは不可能だと悟り、すぐさま地面を蹴り上げ上方へと跳躍して躱す。

上方へ跳ぶと回避が出来なくなってしまうが、それを振り下ろしへの攻撃へと転換する事でそれを誤魔化しつつも奴に攻め入るが、それを迎え撃つ形で奴も俺に向かって跳躍しながら追い討ちをかける。

そして上空で互いの攻撃が交差し、互いに背を向けた状態で着地する。

 

「フン、残念だったみたいだな。お前の攻撃は結局俺には届かなかったみたいだな」

 

着地して早々俺に向かって振り返り勝利宣言のつもりだろうか、そう言うとやれやれと両手を肩まで挙げてヒラヒラさせる。

結局上空で交差した際に俺の攻撃は奴に当たる事なく素通りし、逆に奴の攻撃は俺の体の数カ所を一瞬の間に打ち抜いたのだ。

 

「ゴフッ‼︎」

 

全身を殴打され消化器を痛めたのか口からドス黒い血液が漏れ出る。そして体がとうとう限界を迎えたのか意識的に動かせなくなってしまい、片膝座りのような体勢で静止する。

 

「いい加減諦めたらどうだ?お前はどうやっても俺には勝てねぇんだよ」

 

俺が動けない事をいい事にまるで諭す様に語りかけてくる。最早自身の勝利を疑ってはおらずその姿は隙だらけだった。

 

「その油断が命取りだったな‼︎」

「あ?」

 

俺は油断している奴の脳天に向かって突きを放った。

俺の残していた必殺技とも言える技だが、それを使うと最早回復魔法なしでは1日は確実に動けなくなる位に肉体に負担を与えるので、確実に決めきれる場合のみに使用される技になる。

それは初級魔法に分類される電気系統の魔法と物を操る魔法を併せた傀儡の魔法とでも言うのだろう。

人間の肉体は微弱な生体電気で操られている為、電気の魔法を極力抑え選択された自身の筋肉に流し、それを操る魔法で調整しながら動かない体を無理やり動かそうと言う物だ。

動かない体を無理やり動かせる事と他に副産物的にだが、動作の初動がなくなるので武道で言う無拍子に限りなく近づく事が発生する。

 

その無理やりに放たれた一閃突きは奴の額を狙ったのだが、やはり土壇場の付け焼き刃だった為か剣先は額ではなく右目へとズレてしまったが、躱される事無く奴を貫いた。

 

「はは…やっちまった…」

 

俺の持つ剣は見事奴の眼球を貫き、傍目から見れば後頭部から刃が見えている状況にある。そうなってしまえば普通は生きてはいないだろう、この世界に来て冒険者をしていればいつかはこんな時が来ると思っていたが、ついに俺は人1人を手に掛けてしまったと言う事になるのだ。

一生背負う事になる業にどう向き合うか考えながらも残った僅かな力で剣を抜こうとするが、何故かその剣は抜ける事は無く、流石にスキルで足が動かせない位ボロボロだと言っても刺さった剣くらいは抜けるだろう、と思い再び力を入れ直すが一向に解決しない。

意識が跳びそうな疲労感を全身に感じながら考えていると、その原因は予想外の所から判明した。

 

「…油断?これは余裕という奴だ」

「なっ⁉︎」

 

死んだと思っていたハンスの残った片目が突如正気を取り戻しこちらを凝視した後、顔面に剣が突き刺さっているにも関わらず奴は俺の胸倉を掴みそのまま何時もの様に放り投げた。

復活する様子と言い、その光景はまるでホラー映画さながらだった。

 

「はっ、何驚いてやがる。全部お前がやった事だろう」

 

立ち上がろうにも回復魔法を放つ為の魔力もちょうど底をつき、全身に支援魔法の代償と言わんばかりに痛みが走る。

絶体絶命とはこの事だろう。何か方法がないか探るが、まさか戦闘になるなんて思わなかったのでそれと言って準備をしていなかったのが仇になった様だ。

 

「クッ…クソッ‼︎動け‼︎」

 

地面を叩き地団駄の様に足掻くが、それも虚しく何も起きる事はなかった。

 

「はぁ…全く今日は最悪な日だな。剣で顔面貫かれるわ誘いを断られるや…はぁ」

 

動けない俺を見て本当にダメになったなと確信したのか、奴は未だに顔面に剣が突き刺さった状態で俺に向き直る。

 

「どう見ても自業自得だろう?」

「あん?言うじゃねえか?魔力切れで何も出来ねえ癖によぉ」

 

俺を一頻りにコケにした後ある事に気づく。

 

「そう言えば剣が刺さりっぱなしじゃねぇか?どおりで片目が見えない訳だ」

 

正直これに関しては阿呆じゃないかと思ったが、俺が言葉を発す前に奴の顔面が突如として溶け出し俺の剣は行き場を失い地面に落下した。

その光景はまるでどこぞのターミネーター2の敵を彷彿とさせたが、もしかしたらそれよりもたちが悪いかもしれない。

 

「返すぜ。俺に突き刺さって何も無いとは中々にいい剣じゃねぇか」

 

ボトンと地面に落下した剣を拾い上げ、俺の剣に賛辞を送りながら倒れている俺の横にそれを放り投げた。

 

「いい加減諦めたらどうだ?俺は人間が大嫌いだが、それでもその有用性は評価していていてな。ここまでしておいて許してやるなんてそういないぜ?」

「チッ‼︎だからなんだって言うんだよ。悪いけど俺には大切な仲間が居るから無理だな」

 

「…そうかよ」

 

ポツリと奴は言葉を漏らすと、俺のもとに近づくと先ほど放り投げた剣を拾い上げて刃の部分を俺の首に当て、練習なのか挙げては下げてを繰り返し。

 

「それじゃあ仕方ねぇ。俺は仲良くなれると思ったんだがな」

「…そうだな。同じ苦しみを味わった者同士目的が同じだったら仲間になれたかもな」

「は、おもしれぇ事言うじゃねえか」

 

そう、同じアクシズ教徒に対して旅行を台無しにされた物同士、最後の目的が同じであったならばきっと俺達は友となれる筈だったのだ。

 

「あばよ。坊主」

 

振り下ろされるであろう自身の剣に対して特に恐怖は感じず、心中は安らかで俺はただその時を待つ。

 

「大切な仲間が居るなんて随分と嬉しい事を言ってくれますね」

「なんだテメらは⁉︎」

 

俺に剣が振り下ろされる前に何処かで聞いた事があるセリフが聞こえたと思うと、それと同時にどこから何かの閃光が走りハンスを襲う。

ハンスは、それを事前に察知したのか持っていた剣を放り投げると、すぐさま後方へと回避し態勢を立て直した。

 

「カズマさん大丈夫ですか⁉︎」

 

何かと思い首を声の方がした場所へと向けると、そこにはめぐみんを筆頭とした4人組が俺を挟む様にハンスと相対する様な形で立っていた

 

「貴方がこの一件の犯人だったんですね‼︎中々手こずりましたけど観念した方が良いですよ。この天才と言われたアークウィザードが貴方を打ち負かすのです‼︎」

「あなたが私のところてんスライムを盗んだ犯人だったんですね‼︎」

「あの…これってどう言う状況なんでしょうか…私何も説明も受けていないのですけど…」

「ああん?誰だテメェらは⁉︎」

 

めぐみん達がが奴に向けて高らかに責め立てる。セシリーに関しては正直諸悪の根源であるお前が言うなと思ったが、命が助かった以上文句は言えない。

そしてハンスはいきなり4人が集まった事により変化した状況に困惑の表情を呈している。流石に個性派と俺が勝手に言っているのが4人中3人いるのでもう状況は混沌極まりないだろう。

 

「悪い…俺の仲間達だ…」

 

なんか勢いで先程までの雰囲気が台無しになってしまったので、命を消され掛けていたにも関わらずいつもの癖で謝ってしまう。

 

「あんな奴と比べられて断られたのか俺は…」

「悪いって」

 

突如として現れた仲間達によって空気を変えられてしまった為、結果として置いていかれた俺たちは呆然と立ち過ごすのだった。

 

「それで、貴様らは何の用でここまで来たんだ?冷やかしだったら帰ってもらおうか」

「カズマさん‼︎これをどうぞ‼︎」

 

コホンと咳を吐き、場を仕切り直してハンスは目的を確認しようとするが、そんな事はお構いなしとゆんゆんが俺の元に駆け寄りマナタイトを差し出した。

ああ、悪いと。正直言って助かったのでそれを使い魔力を回復させると、即座に自身に治癒魔法を掛けて体を動かせる様にする。

 

「話を聞けや‼︎この小娘共め‼︎…コム…スメ⁉︎」

 

それに対して激怒したハンスが奴らにキレかかるが、何故かウィズと目があった瞬間に勢いは消失し、何かとんでもない物を見てしまったかの様に口をパクパクさせた。

そして周りの皆は空気を読んで静かになり、しばらくの沈黙の末にそれを破ったのはウィズだった。

 

「あー‼︎何処かで見たと思ったらハンスさんじゃ無いですか⁉︎お久しぶりですね、最後にあったのは魔王城でしたっけ?」

「…あーあ」

 

ウィズは久しぶりに昔の仲間にあった様な女子のテンションでハンスの秘密を全て暴露するのであった。

 

 

 

 

 

 

 

「全くお前の仲間のせいで全てが台無しになっちまったよ。どうしてくれんだ?」

「いや、俺に言われても困る」

 

ウィズが暴露した事により、ハンスは魔王軍幹部であり種族はデットリーポイズンスライムである事が判明してしまった。

 

「どうやらカズマに先を越されてしまっていた様ですね」

「ああ、そうだったな。でもなんでここが分かったんだ?」

「そうですね。私は似た様な光景を何度も見てきましたからね。最初のスライム騒動は予行演習で本命は他にあると思っていました、そしてスライム騒動の前に温泉の汚染事件があったとセシリーから報告がありましたので、そのスライム騒動を鎮静可能なまでに収めて一番怪しいここに来たのですよ」

 

ウィズに気を取られ身動きを取れなくなっているハンスを置いておき、彼女らの元へ向かい状況を確認したが、どうやらこの一件の考えの先読みはめぐみんが勝っていた様だ。

 

「ハンスさん‼︎何か私の事避けてはいないですか‼︎久しぶりにあったにしても冷たく無いですか?」

「うるせぇ‼︎いきなりやってきて滅茶苦茶にされれば誰だってキレるわ‼︎」

 

めぐみんと俺で事件の答え合わせをしている間にウィズとハンスは懐かしの思い出話を繰り広げている。

しかし、まさかハンスが魔王軍幹部だったとは…通りで俺の攻撃が全く通じないはずだ。

正直言って普通の人間にあそこまで弄ばれるとは苦痛しかなかったが、相手が魔王軍幹部であったのなら諦めがつく。

 

「チッ‼︎仕方ねぇウィズが相手なら逃げるしかねえか…」

 

どうやら同じ魔王軍幹部でも相性があるみたいでハンスは逃げる事にしたらしい。流石の魔王軍幹部と言えども無理な事もあるらしい。

 

「逃げようとしても無駄ですよ。ここは既に包囲されていますからね、どうやってここまできたのか分かりませんが簡単にこの都から逃げるなんて思わない事ですね」

「そうだ、諦めて罪を償え魔王軍幹部ハンス‼︎」

「あ⁉︎お前寝返りやがったな‼︎」

 

逃げようとする奴に対してやめておく様説得するめぐみん。

刑事物のドラマで言う決め台詞的な物だろうか?

 

「そう言えばオッサンはどうやってここまで来たんだ?」

 

ふと疑問に思った。

俺は潜伏を使えたが、おっさんは確かデットリーポイズンスライムであるのならそう言う類のスキルを持ってはいない筈だ。それに俺が来た時の警備員は通常運行の為強行突破したとも考えられない。

 

「ああそれだったらここの管理者の姿を借りたんだよ。お前も見ただろ?」

「そう言えばそうだったな」

 

確かに最初にハンスの姿を見た時は金髪の姿をした爺さんの姿をしていたなと思い出した。

 

「そう言えば、そのおっさんは今どうしているんだよ?何処かで眠らせているのか?」

 

流石に姿写ししている際に元ネタである人間がそこら辺をうろうろしていたら、せっかくの工作が台無しだろう。であれば何処かで眠らせておくのが定石だろう。

 

「そいつならもう食っちまったよ」

「え?どう言う事だ?」

「だから、食ったって言ってんだよ。当たり前だろう?利用価値の無い人間をわざわざ生かしておく理由もない」

「…」

 

正直言って考えが甘かったかもしれない。

一連の流れから舐めていたとい言えばその通りだが、こいつは魔王軍幹部。ウィズとは違ってなんちゃって幹部では無いのだ。

となれば、人間を狩るのはなんて事のない当然の摂理という事になる。グダグダな流れからその事を失念していたのだ。

 

「悪いなオッサン。ここの連中にはそれなりに恨みがあるから何だかんだ逃がそうかと思っていたけど…」

「そんなこと考えていたんですか⁉︎」

「お前は黙ってろ。…流石に魔王軍幹部なら逃すわけにはいかないな」

 

格好付けながらも自分の起こしてしまった事に責任を取るために再び剣を構える。今度は仲間が4人いるんだ、何とかなるだろう。

 

「ハン‼︎さっきまで手も足も出なかった坊主が随分と大きく出たもんだな‼︎仲間が出てきて強くなったつもりか?」

「ああ、そうだな‼︎おま…」

 

めぐみん達を後ろに下げ、互いに構えをとり第二ラウンドと行こうとするタイミングでハンスの半身が突如氷の魔力の翻弄に巻き込まれ、奴の体は氷の柱に半分埋め込まれた様な外見へと変貌した。

その出力はこの世界に来てまだ短いが、中々に見る事が無いとてつもない物だった。

 

「な…何しやがんだウィズ‼︎俺たちは互いに干渉し合わない筈だろう‼︎」

 

魔法の発生源は後ろのウィズだったみたいで、後方に視線を向けるとその表情はいつもの朗らかな物ではなく、地獄の形相そのものだった。

 

「私、言いましたよね。私が手を出さない条件を…ハンスさん貴方はそれを破りました」

 

どうやらウィズと魔王軍幹部との交わした約束は一般人に手を出さないという物で、ハンスはそれをこの源泉のある場所へと侵入する際に破ってしまったのだ。

 

「チッ‼︎これだからお前とやり合うのは嫌なんだ‼︎」

 

ハンスは半身を凍らされ身動きが取れなくなってしまっており。それに対してウィズは容赦なく氷魔法を繰り出そうとしている。

スライムであり液体状で物理攻撃が効かないハンスであっても、氷魔法は相性が相当に悪いらしく俺の時とは反対に瞬く間に追い詰められるて行く。

逃げようにも帰り道はウィズが氷の壁で塞いでいる為、凍った箇所を砕き肉体を再生させるが結局逃げられず遂に氷壁の隅へと追いやられる。

 

「落ち着け‼︎話せば分かる‼︎なあ‼︎一旦落ち着こうぜ」

 

先程聞いた過去の因縁からウィズは昔は凄腕のアークウィザードで、一度切れたら手がつけられなかったらしく、今回もそうなっている様だった。

そして、ゆんゆんがまるで私の出番ですと言いながらウィズにマナタイトを渡しているので、彼女の魔力は半永久的になりそこは温泉街なのに一面銀世界へと変貌する。

恐ろしきサポート力だが、そのマナタイトの出資の出所は俺の財布だと言う事を忘れないで欲しい。

 

「ハンスさん、覚悟はできましたか?」

 

走って逃げ回るハンスに歩きながら追いかけるウィズ。どこぞのホラー漫画の怪人ばりの構図に唖然とするが、これ以上は流石にハンスが可哀想だった。

 

「待ってくれウィズ、何も殺さなくても良いだろ?魔王軍の情報を吐かせるにも一度捕まえて王都で尋問した方が良いって」

「何を言っているのかわかりませんね…カズマさん危ないので退いて下さい」

「そうですよカズマさん‼︎早くそこを退いて下さい‼︎」

 

ハンスが追い詰められていく間短い間だったが、奴と過ごした復讐の日々を思い出し、気付けばゆんゆんの静止を振り切り、俺はハンスとウィズの前に躍り出てウィズに思い留まる様に説得する。

あれ程命の奪い合いをしていたのに、いざ失うとなれば惜しいと感じてしまう俺がいる事に今更だが気づいた。

 

「坊主…」

「悪いなオッサン」

 

一度殺され掛けたと言うのに俺は一体何をしているのだろうと、自身の行動に疑問を覚えたがそれでも不思議と後悔はなかった。

 

「そうですか…」

 

ポツリと彼女はそう言うと俺に向けて手を向ける。どうやら俺ごとハンスを氷漬けにするらしい。

一度救われた命だったが、どうやらここでまた失う様だ。

しかし、そんな俺を後方から払い除ける様にハンスは振り払った。

 

「なっ‼︎オッサン⁉︎」

「ふん、舐めた事しやがって‼︎俺は魔王軍幹部デットリーポイズンスライムの変異種ハンスだ、こんな小僧に情けを掛けられるほど落ちぶれてはいない‼︎」

 

あれ程肉体を凍らされたと言うのに、どこにそんな力があるのかと思う位に力強く払われ俺は遠くに転がされ、回り込んでいたゆんゆんにキャッチされる。

 

「何しているんですか⁉︎ああなってしまったウィズさんに立ち向かうなんて死にに行く様なものですよ‼︎」

「…悪いな」

 

悪いと思いながら彼女の言葉を受け止める。

そしてハンスの方に目を向けると、奴は人間の体をして居ただけらしく、本来は違う姿だと宣言しながらも擬態を解除し、一体どこにそんな質量があったんだと言わんばかりに膨張した。

 

「これは…」

 

奴の体は全長何メートルとかそんな数字を測るのがバカらしくなる程に大きくなり、その風貌はどこのゲームのラスボスにしても恥ずかしく無いものだった。

急に変わった姿にビックリしたが、だったら最初から使えと思わずにはいられなかった。

 

「これなら流石のお前でも凍らせきれまい‼︎」

「確かにその姿になられると厄介ですね…」

 

ははははっ‼︎と高笑いするハンスに一旦考えるウィズ。流石のウィズでもこのサイズになってしまえば先程の様に凍らせ切るのは難しい様だ。

 

「ゆんゆんさん」

「はい‼︎なんでしょうか?」

 

氷の魔法で周囲を凍らせながらハンスの動きを静止させつつ、彼女はゆんゆんを呼び出す。

それに対してゆんゆんは俺に対してここに居るように伝え、念のためにめぐみんを呼び押さえておく様に言うとその場を離れウィズの元へと向かっていった。

 

「ゆんゆんさんは氷の系統の魔法は使えましたよね?」

「はい、上級魔法なら一通り…」

 

どうやら足りない出力をゆんゆんで補うらしい。

しばらくゆんゆんの話を聞いて実力を確かめた後、外周を凍りつかされもがくハンスに対して呼吸を合わせ二人掛かりで氷の魔法を放つと巨大な体軀を持ったハンスの体躯は下方から包み込まれる様に広がり、それを阻止しようと猛毒を纏ったゲル状の職種が伸びてきたが、それをゆんゆんが尽く凍りつかせては防ぎながらウィズの作業に加勢する。

そしてゆんゆんが加わって早数分、永遠に見えた映画みたいな戦闘劇はウィズ側の勝利に終わり、あれだけ蠢いていたハンスの巨体は遂に沈黙してしまった。

 

その後ウィズは凍り付いたハンスの体が動かない事を確認すると、ゆんゆんに念のために掛けておく様に言っていた氷の魔法を止める様に伝えてこちらに向き直った。 

 

「めぐみんさん、爆裂魔法は使えますか?出来るのであればお願いしたいのですが」

「は、はい‼︎」

 

完全に凍り付いただけではハンスは死滅した事にはならず、大出力の止めが必要らしい。

ウィズに促されめぐみんが俺の元から離れると爆裂魔法の詠唱を始める。

 

「待ってくれ」

 

割って入る様にめぐみんの詠唱を止める。

 

「何ですか?邪魔ならさせませんよ」

 

そんな俺を怪訝な目で見つめる彼女に対して怯まず言葉を続ける。

 

「最後は俺の手でやらせてくれ、それくらいなら良いだろ?」

 

それを聞いた彼女は一瞬考え。

 

「良いでしょうカズマさんがそう仰るなら任せます。私も久しぶりに本気を出して疲れちゃいましたし」

 

俺の言葉を信用してか、先ほどまでの表情の険は消え失せ、いつも通りのウィズへと戻った。

その切り替わり様に今度からウィズを怒らせない様に注意しないといけないな、と心の奥底で1人勝手に誓ったのだった。

 

「悪いな、お前達もそれで良いか?」

「私は別に構いませんが…良いんですか?」

「まあ良いでしょう。何やら訳ありのようでしょうでし、その代わり後で事情を聞かせて下さい」

 

流石に2人も気を使ってくれたのか、呆気なく引き下がってくれた。

 

 

そして俺は空気と化していたセシリーの治療を受け、マナタイトの余りで魔力を回復させつつ氷像と化したハンスの前に立った。

こうなってしまえば流石の魔王軍幹部も形無しだなと思いつつ、掌をその氷像へとかざす。

 

そして俺はハンスの閉じ込められている氷像へとチート能力である黒い炎を放ったのだった。




次回まで暫く休みます
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