この女神の居ない世界に祝福を   作:名代

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遅くなりました、年末は忙しくなりますので遅くなるかもしれません。
誤字脱字の校閲ありがとうございますm(_ _)m


アルカンレティア11

掌を奴だった氷柱にに翳し黒炎を放ち、それが燃え移ると先程までの戦いは嘘だったかの様に簡単に燃え広がり、氷漬けにされていたハンスの肉体を最も容易く消し去った。

アルカンレティアに来て2日程しか居なかったが、普段怠惰的に過ごす2日と比べたらとても濃い日々だったと今更ながらに感じつつ、ハンスに対して惜しい仲間を失ったと思い黒い炎が奴の肉体ごと燃え切るまで感傷に浸りながら眺めた。

 

「これで一落着だな…っておい⁉︎」

 

ジーンと心の底から何か込み上げて来た様な気がしたが、そんな事はお構いなしとめぐみんが俺の袖を思いっきり引っ張り自身の顔面の高さまでに引き下げた。

 

「何ですかその黒い炎は⁉︎そんな隠し玉もっていたのでしたら早く言って下さいよ‼︎」

 

そう言えばめぐみんにこの能力を見せるのは初めてだったなと、この世界に来てからの事を思い返す。確かウィズとゆんゆんには見せていたけども説明まではしていなかった事も思い出す。

 

「そうだな…なんて言ったらいいか分かんないけど俺専用必殺技みたいな奴だな」

「そうなんですか‼︎もう一度‼︎もう一度でいいので見せて下さい‼︎」

「嫌だよ疲れるし、それに制御出来ないんだぞ。目的も無しに使えば近くの物を燃え尽きるまで消えないから使った後が大変なんだよ」

「そうなんですよね…一度その黒い炎でぼや騒ぎがありまして、その時は消火作業に大分骨を折りましたよ」

 

このチート能力に関して説明しているとゆんゆんが話に割り込んでくる。俺がこの世界に来て最初に起こした事件の対応に追われた事を根に持っているのだろうか?

 

「何ですかそれ⁉︎全然使えないじゃ無いですか!…ですが本当に困った時にしか使えないと言う点には中々に評価が高いですね」

「お前は何かのソムリエか」

 

ウムウムと頷きながら何かに納得するめぐみん。彼女はいったいどこにたどり着こうとしているのだろうか?

 

「そういえばセシリーは?」

 

一応、黒い炎を見られたからにはそれなりに口止めをしようと思っていたのだが、先程まであった彼女の姿はなくそこには誰もいなかった。

 

「セシリーですか?彼女でしたら既に教会に報告に行きましたよ。…まああれでも一応は重役みたいですし」

「マジか…あいつそれなりに立場が上だったのか」

「いえ、特に根拠はありませんので気になる様でしたら後で聞いて下さい」

「んだよ、嘘かよ」

 

参ったなと思ったが、セシリーの事だから言いふらした所で誰も信じまい。

 

 

ハンスを討伐し気が抜けたのか、先程まであった緊張の糸が切れ体から力が抜けてくる。正直ここまで体が保ってくれるとは思わなかったので、無自覚の内に俺自身のレベルが上がって基礎能力が上昇しているのかも知れない事に気がつく。

 

「…悪いゆんゆん。俺動けないからさ、宿まで運んでくれないか?」

「え?ちょっといきなりどういう事で…重たい⁉︎」

 

男に向かって重たいとは随分と酷い言い草だなと思いながら彼女に体を預けると、言葉とは裏腹にしっかりと俺の体を支えてくれるのであった。

 

「まったく、世話の焼ける人ですね」

「そうですね、面倒なので途中で捨てて置いても大丈夫なのでは?」

「それは流石に酷いよ…」

 

体格差だろうか、片足の靴が地面に擦って後を描いているがその辺はもう仕方がないだろう。

 

 

魔力の使い過ぎによる気だるさに任せゆんゆんにしがみつき、そのまま俺は宿へと向かう。

その後俺はそのままベットへと寝かされ、残った彼女達は小さな祝勝会をあげているのか隣の部屋でどんちゃん騒ぎをしているのがここまで聞こえてくる。

色々あったが、果たしてそのまま宿に向かってもよかったのだろうか?仮にも魔王軍幹部を討伐したのだから事情を聞きに役所の様な場所の役人が来ても良さそうだが。

何にせよ。全てこのまま丸く収まりそうなので俺は何も言わずにこのまま寝ていた方が都合がいいのかもしれないので、このまま目を瞑り深い眠りへと意識を手放した。

 

 

 

 

 

 

朝になり目が覚める。

外を見ると丁度朝日が登ってきたタイミングだった。昨日寝た時間は意外にも遅くはなかったのでいつもより少し早く目が覚めてしまった様だ。

このホテルのチェックアウトは昼前なので、それまで少し時間が空いてしまう事になる。何時もなら叩き起こす所だが、流石に今日は可哀想なので潜伏スキルで気配を消しながらいつでも帰れるように荷造りを済ませると、貸し出しのタオル等々を持ち出しある場所へと向かう。

 

 

着いたのはこの都で一番高い位置にあると言われる温泉で、そこから見える景色はこの都一番だそうだ。

受付で料金を払うと俺は真っ先に混浴へと向かった。実はこの温泉の隠れ場的な絶景スポットはこの混浴になっているらいい、何でもこの都全体を見渡せる角度がある範囲が少ししか無いらしく、男女で有利不利が出ない様にこうして混浴にして男女共に楽しめる様にしたとの事だそうで、決して俺が混浴に入りたいという訳ではないのだ。

 

そんなこんなで、堂々と混浴へと進出し扉を開けると、やはり朝早いだけあってか俺以外の客は誰も居なかった。

…まあ予想通りと言えばそうなのだが、それでも期待してしまう俺が居ないと言えば嘘になってしまうのもまた事実なのだ。だが、それはそれでこの隠れスポットを独り占めできるので良いのかもしれない、と意気込み俺は体を洗い流す。

そして浴槽に浸かり外側へと体を進める。この温泉は上から見ればかまぼこの断面の様な形をしており、外縁が広がるような形になりちょうどその縁へと移動ししたの様子も楽しめると言う物になる。

他の温泉の女湯は覗けない仕組みになってるので所々の視界がぼやけているが、それでもこの絶景は中々に拝めないだろう。

 

その景色やどこぞのシンガポールのホテル屋上のプールを彷彿とさせたが、あくまで画像でしか見たことが無いのと都会の風景とはまた違った自然の景色に圧巻される。

そんな感動に浸りながら、結局この旅行で得られたのは戦友の喪失とそれによる膨大な経験値と疲労感であった。

あれ?そう言えばこの都に湯治しに来たんじゃなかったんだっけ?と思わずに居られないが、こうして治療効果のある温泉に浸かれているのでまあ良としようじゃないか。

日の位置を確認しながら時間を逆算しつつぼんやりと景色を眺めていると、誰かが入ってきたのか後方で扉が開く音がする。

もしや女性が来たのかと思い内心ワクワクしていたのだが、この時間そしてこのタイミングからしてどうせ男だろう。こう言ったイベントで肩透かしを食らうのは異世界でも共通だろう。

後ろの人物は入って早々体を洗うと、そのまま真っ直ぐこちらに向かって近づいてくる。

タイミングからしてもしかしてところてんスライムを仕組んだ犯人は俺だという事に気づいたことだろうか?

気配を手繰り忍び寄る相手に集中していると、俺の意に反して呆気なく相手が話しかけてきた。

 

「どこに行ったのかと思ったらこんな所に居たんですね」

「は?」

 

その相手の正体は俺の予想を遥かに上回るもので、侵入者はゆんゆんだった。

 

「はぁって何ですか⁉︎私だって温泉くらい入りますよ!」

「いやいやいや…」

 

あまりの急展開に思考が追いつかなくなる。

あれ程までに混浴になるまいと抵抗のような姿勢をしていたゆんゆんが、まさか自分の意思で混浴に入ってそれも俺の隣まで来るなんて事があるだろうか?

一体彼女に何があったのだろうか?もしやこのゆんゆんは偽物で実はバニルだって事はないだろうか?

…いやいや、流石にそれは無いだろう。仮にそうであったのならわざわざ俺にウィズを預けて旅行に行かせるのだろうか?

 

「あー、安心して下さいバスタオルは巻いていますのでこっちを見ても大丈夫ですよ」

「…いや違うだろう。それで俺を追いかけて何か用でもあったのか?」

 

これ以上慌てふためくとなんか負けた気が気がするので、ここは冷静に対処しようと心を落ち着かせてさりげなく尚且つ焦りを勘づかれない様に話を続ける。

 

「それはそれで傷つくんですけど…まあそうですね、用といえばまだカズマさんに事の顛末を話していなかったので温泉に入りながらついでに話そうと思いまして」

「なんだそう言う事かよ。まあでも丁度良かったのかもな、なんだかんだ言ってここに来てから落ち着いて居られる事も無かったしな」

「そうですね…本当にこの都は賑やかでしたからね、方向性があんな感じでなかったら楽しかったのですが…」

「本当だよな、全く何をどう捻くれればあんな感じになるのか、奴らの崇拝する女神様に確認してやりたいよ」

 

もし女神が本当に存在するのであればバチが当たってしまいそうだが、何はともあれ結果的にこの都を救ったのだからこれ位は許して欲しい。

まあでも加護があるくらいなのだから、この世界には崇拝対象である女神は居るのだろう。

しかし、話は変わるがバスタオル一枚の女子を隣に景色を眺めると言うのも何だかこっちまで恥ずかしくなってしまう感は否めない。

何というか目線がどうしても彼女の胸に行ってしまうのだ、普段なら曝け出している格好が悪いのだと本人の前で言いながらガン見してたのだが、今回はこれはこれでなんだか手持ち無沙汰になってしまうと言うか目線に若干困るのだ。

しかもゆんゆんの顔も温泉のせいか若干だが火照っているのか真っ赤になっている。自分から混浴に来ておいて何恥ずかしがっているんだと言いたくなるが、せっかくの機会にそんな野暮な事は言えない。

自身のチキン加減に呆れてしまうが、ここは男の意地で何とか話を盛り上げて切り抜けてしまうのが吉だ。

 

「それで結局どうなったんだ?あの後眠っちまったからどうなったか分からないんだよ」

 

結局の所ハンスを倒した後の顛末を俺は知らないのだ。

 

「そうでしたね。その事を話そうと思っていたんですよ、あの後カズマさんは寝てしまったので色々と気になると思ってたので」

「いやいや、ベットに寝かせたのはゆんゆんだろ?」

「え⁉︎眠いから今日は寝かせてくれって言っていたのはカズマさんじゃ無いですか‼︎」

「あ、そうだったっけ?」

 

適当に意味のない責任をなすりつけようとしたが、彼女はその時の事を覚えていたようだ。

 

「…コホン。では何からお話しましょうか?」

 

咳払いをし何から彼女はまず何から話そうかと話題を選択し始める。

確かに何から話した方が良いかの判断は困る。

特に俺はハンスと手を組んだ以上、その事がバレてしまえばゆんゆんの性格上秘密にする事はできないだろうし、仮に秘密にできたとしても勘のいいめぐみんに感づかれるのは遅くは無いだろう、そうなればこの後で吊し上げられるのは火を見る様に明らかだ。

なので再び人狼ゲームの如く俺は再び自身の状況を隠しながら話を慎重に進めないといけなくなってしまう状況下に再び追い込まれてしまったのだ。

 

「そうだな、いちいち聞くのもあれだから俺が眠ってからの事を順に追って話してくれ」

 

とにかく今はゆんゆんに話してもらう事が先決だろう。下手な質問は藪蛇の可能性があるので注意したい所だ。

 

「そうですね。では順を追ってお話します」

 

コホンと軽く咳払いをして彼女は語り始めた。

 

「カズマさんをベッドに寝かせた後に私たちは軽くですけど祝勝会みたいな物を開きました」

「やっぱりあの騒ぎはパーティーしていたのか、こっちまで声がして来たぞ」

「ははは…それはすいません。でもやろうと言ったのはめぐみんですから…それで話は戻るのですが、その途中に…と言っても時間はもう夜遅くで終了しようかと思っていたのですが、教会に状況報告を済ませたセシリーさんが遅れてやってくる形になりまして」

「結局あいつもやってきたのか、まあでも全ての元凶だからな最後に説明してもらわなきゃな」

「セシリーさん曰くあのハンスと名乗る大男が仕込んだ毒は源泉の完全汚染には至らなかったようで、一部は今も閉鎖していますがじきに解放されるとの事です。それと事件の前に起きたスライム騒動ですけど、それはウィズさんの話によってハンスがデットリーポインズンスライムの力で操作していたという事で話がついた様です」

「そうなのか、結局アイツ1人が全部仕組んだと言う訳になるのか…やっぱり魔王幹部なだけはあってか恐ろしいやつだったな」

 

どうやら教会の奴らは今回の事件に俺と言う共犯が居ることは分かっていなかった様で、さっきまでの緊張感は何だったのかと言うくらいに力が抜ける。

 

「そうですね。それ以上のことは流石に部外者に教えることは出来ないそうで、その後セシリーさんは口を噤んでいたのですが、めぐみんが無理矢理シュワシュワを飲ませたことで続きを聞くことが出来まして…」

 

どうやら話はそれだけではなかった様だ、流石にセシリーの性格上続きは言えませんとか言ったに違いないだろうが、それに対して続きを吐かせるその方法はめぐみんらしいと言えばらしいのだが…。

 

「それで、アイツはその後に何を言ったんだ?」

「それがセシリーさんお酒が回りすぎていた様で、話していた内容がよくわからなかったです…」

「何だよそれ…」

 

はあ…と、ため息を吐く。

さすがめぐみんと思っていたが、やっぱりめぐみんかとガッカリせずにはいられない。と言うか何やってるんだよ。

とにかく俺の正体はバレてはいない様なので、この先も余程のボロを出さなければ分かりはしないだろう。

 

「それで?よく分からなかったって言ってたけど断片的に何を言っていたか分からなかったのか?」

「いえ…特には…ただところてんスライムがどうとか言っていたのは覚えていますけど」

「ところてんスライム?あのハンスの仕業じゃなかったのか?」

「ええ、一応報告ではそうなっているのですけど、多分ですけどセシリーさんはその出所を教会にバレないように何とかしたいようで色々手を回したのかもしれないですね」

「そうだろうな。そこまで罰則があるわけじゃ無いけど見つかったらそれなりに折檻されるからな」

 

1人で仕組んだにしては数が多いですね、とか言われたら面倒だったが、どうやらそんなことは無かったようで。ゆんゆんは昔から思い込みが強いところがあったのでいつか面倒なこ事になるかと思っていたが、今回はそれがいい感じに表に出たようだ。

 

「成る程な、結局全てはアイツが1人で起こした事件だったって訳か。やっぱり魔王軍幹部なだけあって末恐ろしい奴だったよ、まあ今思えばよく生きて帰って温泉に浸かれたもんだと思うよ」

 

石段に背を当て両手を上げて後頭部で組みながら寄りかかりながらそう言った。なんだかんだ言っては手加減されてはいたが結果として俺たちは幹部であるハンスを撃破したのだ。

その後もこの都としては後遺症として幾つかの先頭のお湯も汚染されてしまっており、ゆんゆんの話では今入っている温泉も俺がくる前には汚染されていて入れなかったらしいのだが、こうして現状入浴出来ていられるのだからそれはそれとして良かったのかもしれない。

 

「そうですね…なんだかんだ言ってこのアルカンレティアに来てからゆっくり温泉に浸かれることはありませんでしたね」

「そうだな、本当に色々あったからな。でもこうして最後に楽しめたからあの騒動も時間が経てばいい思い出になるのかもな」

「それは流石にいいとは言えませんけど…」

 

俺がなんかノスタルジックな感じに締めようと思ったのだが彼女は許せなかったらしくキッパリとそれを否定した…やっぱ駄目なのか。

 

「でもこうして最後にいい思い出が出来たので全てが悪かったとは思いません」

 

俺がどう返したらいいか悩んでいた所に彼女の返事が返ってきた。成る程な考えることはやっぱり同じだったようだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、羞恥心が勝ったのかそれとも逆上せたのか、いそいそと互いに時間をずらして銭湯から宿へと戻った。

最後に湯治を行うという目標は完了したので体の痛みは大分緩和されたのだが、まだハンス戦の疲れは完全には抜けてはいないようだ。

都の大通りを降り、宿に戻るとすでに荷造りを終えていた三人に出迎えられる。

 

「遅いですよ、ゆんゆんといい一体何処で時間を潰していたのですか?」

 

先頭に立っていためぐみんに俺の荷物の入ったバックを押し付けられながら早くする様に急かされる。どうやら俺が長湯している間に彼女が荷物を詰めていてくれたようだ。

念の為にバックに入っていたところてんスライムを、ハンスに合う前に何処かの茂みにバレないように細工をして隠しておいてよかったと、俺の直感に感謝する。

 

「悪いな、チェックアウトは何時だっけ?」

「その時間は後10分程度と言ったところでしょうか?もし間に合いそうも無かったらカズマを置いて先にアクセルに戻ろうかと思いましたよ」

「悪いって。それじゃ後は街の奴らにお土産でも買ってもう帰るか?」

「そうですね。まだ帰りの馬車までの時間もありますし、ついでに街の住民にでも買っていきますか」

「え?めぐみん街の方にお土産を渡すほど仲の良い人いたっけ?」

「うるさいですね、あなたと一緒にしないで下さい。流石にそれくらいの義理をたてる相手ぐらいいます。全く…すぐ気を抜くとそう言い出すんですから、どうやら一度痛い目を見ないと分からないようですね」

「え?ちょっとからかっただけじゃない。それに…って痛い⁉︎」

 

会話の途中でいつものイベントが発生してしまったようだ。

今までなら止めていた所だが、流石の俺も学習し、こう言った場合は何もせずに見守っておくのがいい事を知ったのだ。

 

「それじゃ、先に降りながらお土産見てくるから後で追いかけてこいよ」

「え?ちょっと待ってくださいよ‼︎」

 

めぐみんに捕まりわちゃわちゃにされているゆんゆんを遠目に俺は宿を後にする。チェックアウトは多分彼女らがやってくれるだろう。

決して面倒だから放置するわけではなく、これはあくまで……まあそう言う事なのだ。

 

「あのー私はどうすれば…」

 

そういえばウィズが居るのをすっかり忘れていた。だけども多分大丈夫だろう、根拠はないけど。

三人を置いて行き俺は再びアルカンレティアの街道を降るのだった。

 

 

 

 

 

 

「と、言うわけで帰るけどお前たち来る時より疲れていないか?」

 

事前にアクシズ教のペンダントをぶら下げる事で勧誘を防ぎ、もはやスター会得の無敵時間の如く邪魔なものは無いとばかりに買い物を済ませ、再び彼女らと合流する。

再び姿を見た彼女らは先程とは違い何故か服がはだけて髪もボサボサだった。

あの短い間に一体何があったのだろうか?疑問は尽きないがどうせくだらない事が原因なのは間違い無いだろう。

しかし、だからといって決めつけはよくないと、心の奥底で思っている俺がいる事もまた確かなのだ。

 

「…ウィズ、何があったか聞いていいか?」

 

流石に2人に聞くのは怖いのでこっそりウィズに問いただす。先程まで一緒にいたのなら何が起きたのか詳しく説明してくれるだろう。

 

「私に聞かれても困ります。最初はいつもの様に戯れていたのですけどゆんゆんさんが何かマウント的な発言をしたのでしょうか?会話の内容はよく聞こえなかったので分からなかったのですけど、そこからヒートアップしてしまって…」

「成る程‼︎よく分からん‼︎」

「そんな⁉︎」

 

詳しく知ろうとすると藪蛇な気がしたのでこれ以上は知らぬが仏だろう。

取り敢えず馬車の券に記された場所まで荷物を運ばないといけないので、仕方なしに支援魔法の出力を上げて皆の荷物を持ち上げて踏み出す。

それを後ろから着いてくる3人、完全に荷物持ちな気がするがこれ以上この重たい雰囲気の中で立ち止まるよりかは幾分マシだろう。

 

 

 

 

「…」

 

馬車について早々さっきまでの険悪な雰囲気は一体どこに行ったのか、俺の眼前にはいつもの様にイチャイチャしている2人がいた。

俺の悩みの時間を返せと言わんばかりに力が抜けたが、結局の所特に問題がなくて良かったとの良しとしよう。

 

 

 

 

 

 

そして馬車が進み、結局疲れていたのかゆんゆんとウィズが眠ってしまい、起きているのはめぐみんと俺の2人だけとなる。

他にも空いている座席はあるのだが、他の人乗られると3人とも見てくれは美人なので何かとトラブルに成りかねないので空席も余分に買っているのだ。

先程の事もあり気まずいので対面にある壁にある小窓から外の景色を眺めていると、意外なことにめぐみんが口を開いた。

 

「…すいませんでした」

「…何の事?正直身に覚えが多すぎて、どれを言っているのか分からないんだけど?」

「はぁ?人が謝っていると言うのにふざけているんですか⁉︎」

 

急にしおらしくなって不気味に感じたのでいつもの調子で茶化したら、今度は本当に怒らせてしまった様だ。

 

「悪い悪い、それで何に謝ってるんだよ。あの取っ組み合いもいつもの事だろう?」

「いえ、その事ではなく事件の事です」

「あれは互いに誰が犯人か早く見つけ出す競争みたいなものだろう?多少のイザコザは醍醐味みたいなもんなんだから気にすんなよ」

「そうですか、まあカズマならそう言うと思いましたけどね。それで気になる事がいくつかあるのですが?2人も寝ていますので聞いてもいいですか?」

「ん?ああ、別に構わないけど?」

 

どうやらところてんスライムの時のことを謝っている様だったけど、それとは別に何か気になる様なことでもあったのだろうか?

もしや俺がハンスと結託していることに気づいてなんていないだろうか?

 

これで何度目だよと突っ込みたくなるが、ハンスと手を組んだ時点で何かしらの形で追及される日が来ることは予測できていたので、仕方ないと言われれば仕方ないのだ。

それにゆんゆんもそうだが、やはり紅魔族な事もあってか彼女らの間の鋭さは油断ならない。

 

「ではお言葉に甘えて…それでカズマは何故あの大男ハンスが今回の事件の犯人だと分かったのですか?」

「何故かってなぁ?そうだな、あえて理由を言うなら直感だな」

 

どうやら今回の事件についての俺の見解を聞きたいだけの様だ。しかし、だからと言って油断してボロを出せばゆんゆんの時と同様に追求は免れないだろう。

 

「直感ですか?確かにカズマは運がいいですからね、今回は偶然見つけた感じですか?根拠的な物はなかったのですか?」

「まあ、そうだな。完全に運といえば嘘にはなるけどな、ゆんゆんと温泉街を周ったときに温泉に毒が盛られたって聞いて単純にパイプを辿ったら最終的にあそこにたどり着いたって訳なんだよ」

 

嘘は言っていない。本来の作戦に温泉の源泉に毒を流すなんて話は元々なかったので、結果的に約束の時間よりも早くあの場所にたどり着いた事になる。

 

「成る程…カズマにしては動きが早すぎると思ったのですけどそう言われてみればそうなりますね」

「だろ?結局は行動力の速さが物を言うんだよ、けどお前たちがスライムを退治に協力しないで俺のところに来たら温泉街はもっとひどい目に遭っていたかもしれないんだろ?」

「そうですね、私は結局あまり役に立ちはしませんでしたが…ですがスライムと言ってもところてんスライムは知識があれば子供でも狩れるくらいですからね」

「まあ、それはそれだ」

「いいんですよ。それにここでだけの話ですが私は正直カズマを疑っていました」

「え?俺を?どうしてだよ」

 

ギクっと背筋に緊張が走る。やはり少し怪しかったのだろうか。

 

「セシリーに出会った所からカズマの様子が少し変でしたので何か企んでいると思っていました、それに私達と別行動しようと提案したのもなんだか臭過ぎましたよ」

「…成る程な、でもしょうがないだろ?あいつはアクシズ教だしな。慣れているめぐみんからしたら仲間かもしれないけど俺からしたら面倒な連中の幹部みたいな物だからな」

「まあそう言われるとあの人たちを擁護はできませんが、それでもいざと言う時は頼りになる人達ですよ」

「まあそれは否定はできないけどな、なんだかんだ言って人数分のペンダントを用意してくれたのと事件の後始末に巻き込まれない様に取り計らってもくれたんだろう?」

 

その辺は感謝しかない。例え源泉の汚染を防いだ英雄だとしてもはいそうですかと帰されるわけではなく、犯人以上のインタビューという名の取り調べ受けて帰る日が数日くらい伸びてしまったのは確かだったのだろう。

それを彼女は上手く話を逸らして俺たちを部外者として除いてくれたのだろう。まあ手柄を横取りされたと言えばそうなんだが。

仮に全ての手柄を手にしたとしても、アクシズ教の勧誘がより酷くなるので辞退していただろうし。

 

「やっぱりなんだかんだ言って気付いていたんですね」

「まあな、そこは気の使えるカズマ様だからな、それで?他に聞きたいことはないか?」

「そうですね…では何故犯人探しの時に私達とは別行動をしたんでしょうか?その理由が結局思いつきませんでした」

「ん?あーそれな。特に意味はないよ。強いて言うならアクシズ教の掌の上で転がされたくなかっただけかな」

「…何だか考えていた私がバカらしくなりましたよ、何か裏があると思ってゆんゆんを押しかけたりしたりしたのですが考えすぎだったみたいですね…」

「まあ、何というかお疲れだったな」

「誰のせいだと思っているんですか⁉︎」

 

何とか全ての事件を解決し、そして俺の都合の悪いことを隠蔽してこの旅行は幕を閉じるのだった。

 

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