環境が変わったので前みたいな頻度では更新できないかもしれません。
アルカンレティアから帰ってきて早々俺は馬車の長旅に疲れたのか寝てしまい、気づけば翌日の朝になっていた。
寝たと言っても帰ってきてから屋敷の掃除や食料の買い出しを済ませて一息ついた所で休憩がてら遅めの昼寝をした所、気づけば次の朝まで寝ていてしまったのである。
かったるいが、仕方なく風呂に入り支度を済ますとラウンジへと足を運んだ。
部屋の中には既に起きていたのかゆんゆんが深刻そうな表情を浮かべながら手紙だろうか便箋に書かれた文字を読んでいた、これを言うと失礼だが彼女に他の友人は居ないって言っていたので多分故郷から来た手紙だろうか?
それにしては何だかぼーとしながら自分の世界に入っている様だけど。
取り敢えずは放っておこうと思い、次はめぐみんがいるであろうソファーに目線を向ける。
「っておい、何だその毛玉は?」
何かをいじくり回している様に見えたので、何かあるとは思っていたのだが、彼女の持っていたものは一匹の猫の様な生物だった。
猫の様なと言う表現を使ってしまうのはどうかと自分自身思うが、シルエットは明らかに猫だから仕方ないと思う。しかし、猫なのは姿だけで後ろには羽の様な物やその他色々の付属品の様なものが生えており、その入り混じった存在を俺は何と説明したらいいか分からなんだ。
「ああ、カズマですか。おはようございます」
「いやいや、おはようございますじゃあないだろ。何だその生物は?どこで拾ってきたんだよ⁉︎」
「これはそうですね…話せば長くなります」
ふ…と彼女は何処か遠くに視線を向けたと思うと、今までこの猫に関して何があったのかを語り始めた。
時は遡り、時代は学生の頃まで戻るそうだが、その時に出会い色々あってこうしてめぐみんが飼うことになったらしい。
「成る程な…まあ食い扶持が一つ増えた所でそこまで家計が厳しい訳じゃないんだし大丈夫だろ」
「本当ですか?」
「ああ、けど面倒はお前が見ろよ、俺は一切合切面倒を見ないからな、そこはよろしく!」
「はぁ…全くこの男は…まあそんな事を言うだろうとは思っていましたが…それでも許可してもらえたのは感謝しますよ」
彼女は呆れ顔で俺にお礼を言うと、腕に抱えていた毛玉を揺らしながら話しかけ始める。
「ところでその毛玉の名前は一体何なんだ?」
本来なら微笑ましい光景なのだが、問題はそうでは無い事に気づく。
彼女の名前はめぐみん、紅魔族であるがその独特のネーミングセンスにより名付けられたその名前は同じ紅魔族のゆんゆんとは違い彼女自身のお気に入りとなっている。つまりそんな彼女の名付けた毛玉の名前は一体どんな内容になるのだろうか?
謎は尽きない。ペットの様なネームセンスを持つ一族の事だ、もしかしたら動物に関しては俺らとは逆に普通の一般的な名前になる可能性がある。
特に根拠は無いのだが…。
「この子の名前ですか?この子の名前はちょむすけです」
「はぁ…」
どうやら俺の予想は外れてしまったようで、普通に自分らと同じ様な名前をつけていた様だ。
「オーケー予想通りだ」
流石の俺もパーティーの大半というか俺以外が紅魔族で埋め尽くされている中で過ごした日々は伊達ではなく、もう彼女らの事で驚く様なことはあまり無くなって来ているのが現状だ。
「まったく…失礼な人ですねー」
そんな俺の反応が気に食わなかったのか、ちょむすけに話しかける形式で俺を詰り始める。
よく分からない生物であるちょむすけは、どうやらこれからもこの屋敷に住み着くようで…まあ俺が許可したんだが、果たしてもう1人の住人はそれを許してくれるだろうか?
そんな事はさて置き。
「それで?こいつ何か芸とか出来るのか?お手とか?」
テレビ番組で出てくる猫や犬などの特集でよく芸が出来る的な特集を組んでいたことを思い出す。
まあできたところで何になるとかそういった事は無いのだろうが、出来たらできたで面白くはあると思う。
そもそもこの世界に愛玩動物を飼うと言う概念があるかどうかはわからないが、もし違ったのならそれはそれで俺の住んでいた国との文化の違いということで誤魔化そう。
「お手ですか?そうですね…言われてみればやってみた事はないですね」
「ないのかよ…まあ出来なくても他に芸があれば役に立つからな…他に何かないのか?」
「ないですね。ちょむすけはちょむすけ以上の何者でもありませんそれ以上でもそれ以下でもね‼︎」
ばばばと息よくポーズをするめぐみん。
隙あればカッコつける彼女に対して呆れながらも話を再開させる。
「それで結局何も出来ない訳か…」
「カズマは一体動物に何を求めているのですか?カズマだって他の冒険者から比べたら何も出来ないじゃないですか?」
「うるせーわ‼︎結構気にしてるんだから言うんじゃねーよ‼︎というかそもそも一日一回爆裂魔法使ったら何も出来ないお前に言われたくはないわ‼︎」
藪蛇とでも言うのだろうか、そもそも動物を馬鹿にした皺寄せだろうか、めぐみんからキラーパンチが飛んできて、それは俺の心に見事に突き刺さった。
非は俺にあるのだが、パーティーのリーダーである俺の威厳に関わってくるのでここは何としても謝るわけには行けないのだ。
机に乗り出し反対側に立っているめぐみんの元へ体をスライドさせるとそのまま彼女の頭をゲンコツで挟み込む絞るように捻る。俗に言うグリグリというやつだ。
「い、痛いです⁉︎止めてください!私が何したって言うんですか⁉︎」
「わからない様だったら、その減らず口に聞いてみるんだな‼︎」
我ながら酷く理不尽なことをしているなと思いながらも手に力を込める。流石に支援魔法は大人気ないし危険なのでほぼ無しにしているが、それでもこめかみに拳を押し付けられると言うのは痛いものなのだ。
「…それでちょむすけに関しては飼ってと言いますかウチで面倒を見てもいい事でいいんですね」
「いいって言ってるだろう。別に芸が出来ないからって飼育禁止にするなんて一言も言ってないだろう?」
「確かにそうですね、ですがあの流れだとそんな感じがしたのでつい…」
一悶着あったが、俺の気が済んだので手を外すと彼女はちょむすけを抱き上げすぐ様俺から距離をとりこちらを伺ってくる。
俺自身猫アレルギーだとかそんな事はない為、別に問題は無くただふざけただけだったのだが、真面目に聞いてきた彼女からしたらそうとられてしまったのだろう。
でも最初にいいっていた様な気がしたのだが…。
「まあでも何かできたらいざと言う時に…」
「売りませんよ」
キッと俺を睨むめぐみん。
冗談で言ったつもりだったが、彼女はそう受け取らなかったようだ。
「ゆんゆんもそれでいいよな?」
「…」
念の為聞いてみたが特に返事は返って来る事は無く、ただ沈黙だけが帰ってきた。
不思議に思いゆんゆんが居たであろうテーブルの方を向くと、彼女は先ほどと変わらない体勢で何かを見つめ続けている。もしかして何かに呪われているのだろうか?
よく映画とかで悩み事をしていているヒロインか主人公がいて、周りが放っておけみたいなことを言っていて放置しておいたら手遅れになって解呪するには何処ぞの呪術師を倒せ的な展開になったりするみたいな事があるかもしれない。
そんな事が起きてしまえば面倒な事になってしまうので早急になんとかしなければいけない。
「ブレイクスペル‼︎」
短絡的で安直な考えかもしれないが、とりあえず解除魔法を掛けてみたがうんともすんとも言わない。
もしかして俺のレベルが低いから聞いていないのかと思ったが、それだったらベルディアの死の宣告のように黒いモヤのようなものが出てきて阻止されるので違うと思う。
「急にどうしたのですか?もしかして気でも触れましたか?」
そんな俺の行動に疑問を抱いたのか距離をとっていためぐみんが近づいてくる。しかもさりげなく小馬鹿にしてくるあたり先ほどの発言を許してはいないらしい。
「そんなんじゃねえよ。ゆんゆんを見てみろ今日姿を見てからずっとあのままなんだよ、もうこれは何かに呪われてああなってるんじゃないかって思ってさ」
「あーあれですか?」
ゆんゆんの方向へ指をさし、めぐみんにゆんゆん状況を伝え、不安な様子の俺に対してめぐみんはいつも通りの冷静さでため息をつく。
「ゆんゆんは何か重大な選択に迫られるとああして固まってしまうんですよ」
どうやら今回の様な事はよくある様で、呪いだとか病気だとかの心配はないらしい。
取り敢えずホット一安心だが、果たして別の意味で大丈夫なのだろうか?取り敢えず聞いてみることにする。
「マジか、でもずっとあのままで大丈夫なのか?このまま自分の世界から戻ってこないとかあったりしないか?」
「いえいえ、むしろ邪魔した方が面倒なことになりますよ、前に私の同級生がふざけてちょっかい出した時は……………いえそれ以上は私の口からは言えません」
これから思い出話でも始まるかと思ったのに何故かめぐみんは暫くの間沈黙し何が起こったのかに関しての説明を拒否した。
「怖えーよ‼︎何が起きるんだよ‼︎」
「とりあえずあの様な状態になってしまったのなら、そっとしておいてあげた方がゆんゆんの為であり私たちの為でもあります」
「…まあいいか。でもゆんゆんは何を読んでいるんだ?何かの手紙みたいだけど?もしかして何かの請求書?」
よくある何かの請求的なものだろうか?ゆんゆんはしかりしていてもたまにドジな所があるので、もしかしたら何かを破壊してしまってその請求がきてしまったのだろうか?
いや待てよ、何かの問題事ならゆんゆんよりめぐみんの方が可能性としては高くないだろうか?
「…なんで私の方を見るのですか?言いたい事があるのなら聞こうじゃないか‼︎」
「いや別に、特に意味は無い」
襲いかかるめぐみんを片手で制しながらゆんゆんを見る。
もしめぐみん関係が原因なら、こうして逆上して襲いかかってくる事はないので除外するとして、あの用紙には一体何が書かれているのだろうか?
気になるのでいっその事潜伏スキルで近づいて中身でも見てやろうかと思い彼女に向き直ると。
「中を覗こうとするのは止めておいた方がいいですよ、ゆんゆんの前に置かれている封筒はこう魔族の有名な技師さんが作った封筒でして、他の人に覗かれない為に受け取り主の許可なしに中を見たり封を開けると何かしらの制裁を受ける仕組みになっています」
俺のやろうとした事を察したのか、さっきまで暴れていためぐみんの動きがピタッと止まり、ゆんゆんに持っている手紙について説明し始める。
流石は紅魔族。俺の予想を超える恐ろしいものをポンポンと作り出す恐ろしい種族だ。
「おいおいマジかよ。うっかり覗いちまうところだったよ」
「人の物を覗こうだなんて邪なことを考えるから危険な目に遭うのです」
しかし、そうなるとどうやってあの状態のゆんゆんを元に戻せるのだろうか?
「なあ本当にあのままで大丈夫なんだろうな?」
「ええ、別に構わないと思いますよ。お腹がすけば勝手に近くにある物を食べますし、意識は明後日の方へ行ってますので外に出なければ問題ありませんよ」
念の為確認するがどうやら今回の件は日常茶飯事のようだ。しかし、勝手に動くとなるともはや夢遊病ではないだろうか?
「まあ、面倒だし害がない様ならいいか」
その後、猫と遊んでいるめぐみんを尻目に今後どうするか考えていたら何だか面倒になったので、気分を変えに外にでも出ようかと思うのだった。
「このまま居ても何もない様だから俺は外に出て暇つぶしてくるわ」
「え?ちょっとカズマー私もたまには連れてってくださいよ‼︎」
何に?と思ったが、それを聞く前に既に俺は外に出てしまったのだ。
「へーそんな事があったんだ。君も相変わらず巻き込まれ体質だね」
クリスはそう言いながら俺が買ってきた名物アルカン饅頭を口にしながらそう言った。
あの後猫の世話をし始めためぐみんを固まっているゆんゆんの隣で眺めていたが、2人とも俺に対して何も反応せず、ゆんゆんにいたっては多分自分の世界に入っているのか心あらずと言った様だったので、2人じゃ危険も多くてクエストが出来ないので、やむなしに外に出てきたのだ。
そして世話になっている人にお土産を渡し回り、丁度最後に現れたのがクリスだった為にこうしてお土産で一杯引っ掛けながら旅行で何が起きたのかを愚痴っている状況になっているのだ。
「そうなんだよ…結局最後は何とか満喫できたけど最初の方はかなり厳しくて参っちまったよ」
「へーそうなんだ。それで魔王軍の幹部を何だかんだ無事に討伐したんでしょう?どうだったの?」
話した内容は殆ど包み隠さず話したが、やはりハンスに協力した事は伏せている。
秘密と言うのは2人以上に共有して仕舞えば隠していないと同義なのだ。
「いや全然。正直言って殆ど手も足も出なかったよ、相手が手加減してくれなかったら今頃女神の元へ逆戻りだったよ」
「えー嘘だーそんなわけないじゃん、私が鍛えてるんだよ?」
一体そんな自信はどこから来るのか、そんな事はあり得ないと言った表情で彼女は驚いた。
いやいや、結局のところ冒険者でしかない俺にどこまで期待を抱いているのかよく分からないが、これ以上の期待は最終的にプレッシャーとなって俺を押し潰しかねないのでこの辺りで解除しておかなければならないだろう。
「あのな…クリスに色々と教えてもらっているのは正直ありがたいしとても助かっているけど、俺は冒険者だからステータス的に魔王軍幹部はキツイんだよな」
「えーそんな事言わないでよ。君はなんだかんだ言って私の考案したトレーニングについて来れたんだから大丈夫なはずだよ」
そんなの謙遜だよ、と彼女は俺にフォローするがそれでも結果として俺が劣っている事に変わりはないのだ。
「いやでもな…」
「はぁ…まったく君は手が焼けるな…えぃ‼︎」
腕を組みどう話題を変えようと悩んでいると唐突に横から顔面にかけて拳が飛んできた。
「ゴフッ‼︎」
正直何が起きたのか分からなかったが、ただ一つ言えるのは頬が痛いと言う事だった。
そして俺は側方へと吹き飛ばされ何も反撃できずにただ地面を転がり、受け身も取れなかった事もあり全身に入る痛みに悶える。
「うそ…私の弟子弱すぎ…」
対するクリスはと言うと、謝るなんて事はせずに口元を押さえて何処ぞの広告バナーの様なポーズと表情を浮かべていた。
いきなり殴って来ておいてその対応は流石に理不尽過ぎはしませんかね?
「何すんだよ‼︎痛てーよ⁉︎」
「え…あ、ごめんごめん!てっきり避けるのかと思ってたんだけど」
「いきなり来て避けられるか⁉︎」
突拍子もない展開に混乱しないように精神を落ち着かせながらクリスに返答する。
「ごめんって、でも避けれると思ったのは本当だよ?」
「それで殴るとかサイコパスかよ」
「それで、結局クリスは何がしたかったんだ?」
予想外の出来事だったためか全身にダメージが入ってしまったので、回復魔法を掛けて再び彼女の隣に座る。流石に今度は殴られても逃げられるくらいの距離はとったのだが。
「そうだね…私的にはそろそろ他のギルドでもやって行けるくらいの実力が付いたと思っていたんだけどね」
「んな訳あるかよ‼︎冒険者舐めんなよ‼︎」
「でもレベルは高いでしょ?」
「…まあそうだな」
そういえばハンスの事があった後に冒険者カードを見ていなかったなと思いカードを取り出し、その内容を確認するとそこに書かれていたレベルは想像を超えていた数値となっていた。
そして、クリスに殴られ痛かったので低いと思っていたステータスも冒険者にしては高いものになっている。
「やだ、俺のステータス高すぎ‼︎」
「でしょー」
まあでも考えてみればベルディア・バニル・ハンスの経験値が入っているので高くなるのは必然だろう。
普通の冒険者であれば拠点を他所に移して報酬の高いクエストをこなすらしいが、大きな屋敷がある以上そこまでして金を稼ぎたいとは思わないのでこのままで大丈夫だろう。
「まあ結局は経験だって言ってたぜ、どんなにステータスが高くても攻撃が当たらなければ意味ないってさ」
俗に言うミツルギタイプの様なものだろう。どんなにハードであるステータスが高くてもそれを使いこなすソフトが無ければただの宝の持ち腐れなのだ。
「そうだねー私なりに色々頑張ったんだけど、まだ足りなかったみたいだね」
「え?おい嘘だろ?」
ゴゴゴと漫画の世界だったら背景に効果音が出て来そうな程のオーラ的なものが滲み出てくる。
「まったく仕方ないんだから…君だけだよ?ここまで教えてあげるのは…」
「マジか…一応俺病み上がりだぜ?」
「殺すか殺されるかの時に相手が配慮してくれると思う?」
「それは流石に思わないけどさ…」
分かればよろしいと、彼女はそういうと食べ終えた饅頭の包み紙を箱にしまうと、そのまま構えをとる。
流れからしていつもの組み手だろう。
しかし、流石にレベルも上がったし前回そろそろ終わりにしようみたいな話が出ていたこともあり、今までのように手加減があるのかどうかは怪しいところだ。
「それじゃあ行くよ‼︎」
「おう‼︎」
勢い良く叫んだ俺の返事と共に彼女の姿は消える。
おいおい、どう言う事だよと思い、念のために一歩後方に下がり距離を取ろうとするが、その一瞬の合間に彼女の姿が現れる。
「なっ⁉︎」
「遅いよ‼︎」
気づけば顎に掌底を当てられそのまま後方へと体を持ち上げられ、数秒間の浮遊間の間に鳩尾に肘を叩き込まれそのまま顔面を把持され地面に叩きつけられる。
何かしら返そうと思っていたが、体が言う事を聞かずにそのまま成すがままに蹂躙される。
「やっぱりクリスは強…っておい⁉︎」
地面に叩きつけられたと思ったが、それで終わりではなかったらしく追撃と言わんばかりに俺の顔面目掛けて踵落としが下される。
「喋ってる暇は無いよ。今回はいつもみたいに一本毎に休憩は入れない実戦方式でやって行くから、どっちかが動けなくなるまでやるから覚悟しておいてね」
パンパンと拳を叩きながら堂々としながら彼女はそう言うと降ろした踵を俺の頭上から外し再び体勢を立て直す。
このままだと一方的にやられるだけなので、何としてでも反撃をして彼女から一本取らなければいけないのだ。
「はは…なんて理不尽なんだよ俺の師匠は…」
悪態をつきながらも立ち上がり再び構えをとる。正直にいえばあまりふざけてはいられないのだが、それでも言わずにはいられないのだ。
「やれやれって感じだね、それでどうするの?続ける?それとも休む?」
「いや、続けるに決まってるだろ、このままやられっぱなしってのは俺的にも性に合わないからな‼︎」
地面を蹴り上げクリスの懐へと潜り込む。
先手からいきなり俺から仕掛けるとほとんどの割合で彼女からの洗礼と言わんばかりのカウンターが飛んでくるので、先に殴りかかるフェイントを仕掛けながら側方へと上体をずらす。
「いいフェイントだね…でも視線が思いっきり横を向いてるよ‼︎」
「おわ⁉︎嘘だろ‼︎」
俺のフェイントを最初から知っていたかのように彼女は俺の進行方向へと足を出して俺の出足に引っ掛け、その出足払いに見事に引っかかった俺はそのまま回り込むはずだった場所へと転んでしまう。
だが、どうせそんな事になるだろうと思ってはいたので、転倒の際に掛かる運動エネルギーを移動する力に転換してもう一歩踏み出し、回し蹴りを放つ。
「お、これはなかなか」
自分自身でこれはいい線行ったのでは?と思っていたが、結果はいつも通りのように彼女に受け止められ賞賛の言葉共に自分自身にはまだ余裕があると見せつけられる。
そしてガラ空きになった軸足に足払いをかけに彼女の足が迫る。
このまま行けばいつもの様に彼女のペースに乗せられるだけだが、こう何度も同じような流れでボコボコにされ続けえていれば大凡のことは予想ができる。
俺は負け癖がついてきそうな戦いを繰り返すごとに、このタイミングでこれをされたらまずいなと言う思考を働かせるようになる習慣がつくようになっている。
「おら‼︎これでも食いやがれ‼︎」
彼女に片足を抑えられた状況で、軸足となっているもう片方の脚を一瞬の瞬間に彼女の顔面に向かって蹴り上げる。
重心の要である頭部が一気に落下する様な浮遊間に襲われながらも、俺は抑えられた足で彼女の顔面を挟み込むように狙いを定めた足は見事に彼女に的中した感触を得た。
そう俺は真の男女平等を願うもの、たとえ女性だろうがその顔面に蹴りを入れることは雑作もないのだ。
…まあ、そんなことはさて置き。
目まぐるしく変わっていく俺の視界が安定して光景を写した時の状況としては、俺の両脚は彼女の顔面を蹴り、初手で止められた回し蹴りを放った足で挟みこむ様に止まり、俺は彼女の顔面を両足で挟み込み両内腿の力と腹筋で体勢を固定している。
簡単に言えば彼女の顔面を両足で挟みどこぞの軍隊式の腹筋でその状態を保持していると言う事になっている。
「へーなかなか面白いことを考えるんだね、危険より安全を取る選択をする君なら捨て身で攻撃しないと思っていたけど、これはびっくりしたね」
「おいおい…嘘だろ?」
彼女を確認すると、なんと片手ずつで俺の蹴りを防いでおり、今尚も足首を掴んで俺の足が動かないように握りしめていた。
急いで外そうとするが、何かのスキルなのか力を入れてもびくともしない。
「あれ?これで終わりかな?だったら次は私の番だね」
はははと笑いながら身動きも取れずに中に浮かんでいる俺の足を持ち上げ揃えると、一呼吸の内に掴み直す。
「そーれ‼︎」
そして可愛い掛け声とは裏腹に、彼女は俺が地面に触れる前に自身の体を捻り、まるでホームランを打つかの如くスイングで俺の体を近くの木の生えている場所まで投げ飛ばした。
「マジか⁉︎」
彼女に投げ飛ばされ、風を切る様な音ともに視界が溶けた水彩画の様にぼやけ自身の状態が把握出来なくなり、気づけばそのまま木に激突していた。
これが漫画であればそのまま木を蹴り返して再び彼女の元へと舞い戻るのだが、現実はそうは行かずにただ痛みに悶える。
「痛って‼︎少しは加減してくれ‼︎」
激痛をすぐさま治癒魔法で回復させ前を向く。本来ならクリスが笑ってるところだが、俺の視界に映ったのはクリスの拳だった。
「危な⁉︎」
寸での所で彼女の攻撃を躱し横に飛び抜ける。
俺が躱した事により俺に当たるはずだった拳はそのまま俺にぶつかった木に当たり、炸裂音と共に木に裂け目を作り出すと切れに縦に割れ、何処ぞの髪型を彷彿とさせるような形に倒れた。
「今のは危なかったね、避けなかったら暫く教会で入院だったね」
避けて硬直している俺を見て満足したのかいつものようにニッコリしながら彼女はそう言った。
先程一本取られ掛かったのが余程悔しかったのか、俺に恐怖を刻み込めて満足げに拳についた木粉を払う。
「全く恐ろしいサイコパスな師匠だぜ…」
「そんな事言わないでよ、私も今のはやり過ぎたなって思ったんだから」
はははととても俺からは笑えない冗談を言いながら再びおれは彼女に向き直る。
「悪いけど、今日は一本取れるまで付き合って貰うからな‼︎」
「望む所だよ‼︎」
こうして俺の修行は苛烈を極めるのだった。
「戻ったぞー」
ガチャリとボロボロになった体を引きずりながら屋敷へと戻る。
あの後木刀だなんだ色々んな種類の武器を使って組み手をする羽目になり、正直魔力も体力も限界に達しているのでふざけた応酬でめぐみんに襲われればひとたまりも無いだろう。
「戻りましたか」
ドアを開けると、一日一爆裂に連れていなかなかった事に不満を募らされていたのか、むすっとしていためぐみんがちょむすけと戯れながら俺を出迎える。
まあ、そこら辺は予想通りなんだが、と視線を横にスライドさせていく。
そう問題はめぐみんではなくゆんゆんだったのだ。
「あー駄目だったか」
恐る恐る視線を机に向けると、ゆんゆんは朝と同じ体勢で固まっていた。
もはや呪いだろうこれは。
「……ゆんゆんでしたら相変わらずですよ」
「うそーん」
まあ、そんな事だろうとは思っていたので特に問題はないのだが、問題はまた誰かが厄介ごとを持ち込んだ時に最終手段であるゆんゆんが居ないとパーティーの最大火力である彼女を封じられた状況での行動になってしまうので、それだけは避けておきたい所なのだが…。
「取り敢えず夕食にしませんか?既に準備は済んでいますので」
「お、おう。そうだな早く食べようぜ、俺もう腹減っちまってさ」
取り敢えずは先送りの見て見ぬ振りで行くとして、何かがあったらその時に考えよう。
その後俺達は食事を済ませたが、結局ゆんゆんは食事に手を付けず、またそれをめぐみんは咎めずウィズの店で買ったラップのような保存力を高める道具で保存して彼女の隣に置いて置いた。
…まあめぐみんは勝手に食べるって言ってたしな。
風呂に入ったが、特に屋敷の先人からのコンタクト的なポルターガイストは無いので、多分ちょむすけの件は許されたのだろう。
何かあって怪我でもすればめぐみんが手段を選ばないで除霊しそうなので、これで良かったと内心ほっとする。
布団に入り、明日何をしようか考える。
デストロイヤーやアルカンレティアの一件のゴタゴタで忙しかった事も相まってか、こうして暇な時間を与えられると逆に何をやればいいのか分からなくなる。
でも何かやると言っても結局寝てるだけだし大丈夫だろう。
そんなこんなでうつうつしていると突然身体の上に何かが伸し掛かる様な感覚に襲われる。
まさか、屋敷の幽霊がちょむすけの報復にやってきたのだろうか?大体風呂の時間にコンタクトを取ってくるので風呂が大丈夫ならOK的な感じだと思っていたが、今回は違ったようだ。
取り敢えず目を開け伸し掛かってきた正体を確かめ様と思う。もしかしたら屋敷荒しかもしれないので抵抗はしないが顔だけでも覚え無くては…。
「え…」
そう思い目を開くと、俺の眼前には二つの赤い光が浮かんでいた。
その光景を俺は前に見ていたことを思い出す。
…それは、そうあのベルディアの決戦の前の晩だった様な気がする、その時は確かめぐみんが…
ってまためぐみんか?
もしかして幽霊にちょむすけをやられたので俺に退治でも頼みにきたのだろうか?だとしたらどうした物だろうか。取り敢えずウィズに相談してなんとかしもらうしかないだろう。
「おい、め…」
めぐみん何やってんだよ、重いから降りろよ。っと言おうと思った矢先にいつもの癖で千里眼を使ってしまいその正体に気づいてしまう。
その正体はめぐみんではなく…ゆんゆんだった。
「えへへ…起きちゃいましたか?」
ぱっちり目があってしまい互いに気まずくなると、暫しの沈黙の後なんとゆんゆんから話しかけられる。
しかもどこか恥ずかしそうにそして何か不安な気持ちも感じられる。
「どうした?食事だったらちゃんとおいておいただろ?」
「違います…私…」
スーハーと結構長い時間深呼吸をして彼女はようやく口を開いた。
「私…カズマさんの子供が欲しいですっ‼︎」
彼女の発言に俺の時間は静止した。