この女神の居ない世界に祝福を   作:名代

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誤字脱字の訂正ありがとうございます。
本当はもう少し話を進める予定でしたがこうなってしまいました。


紅魔の里4

ウィズがテレポートの魔法を唱えた後に俺たちは光に包まれ、気づけばついこの間まで地獄のような日々を過ごしたアルカンレティアの前に来ていた。

 

「この景色も久しぶりだな。結局観光らしい観光はしなかったけど」

「そうですね…あまりいい記憶はありませんけど、過ぎてしまえばあれはあれで楽しかったような気がします」

「…まあな」

 

よくある事だろう。

昔に過ごした辛く厳しい時代や思い出などを、彼女の言うようにいつの間にかアレはアレで面白かったと錯覚してしまう現象。

確か何か名前があった様な気がしたが、難しくて思い出せそうにない、仮に思い出したところで意味はないので特に問題はないだろう。

 

…まあ面白かったと言っても、もう一度あの旅行を繰り返せると言われれば全力で拒否するので、結局のところ思い出の中の輝きなのだ。

 

「とにかく今回は寄らないからな、俺たちの目的はあくまでお前達の故郷である紅魔の里だからな」

「ええ、それに関しては私も賛成ですけど…」

「何故こっちを見るんですか?私がいつアルカンレティアに寄ろうなんて言いましたか?勝手な言いがかりもいい加減にしてもらおうか‼︎」

 

物資的には余裕を持たせているので、どこにも寄る必要性はなく尚且つバニルに期限を迫られている以上、余計な時間を食う危険性を孕むアルカンレティアに寄るなんてことはリスクでしかない。

まあ、セシリー等々にあの事件の後に都がどのように変化したとか聞いてみたくないと言えば嘘になるのだが。

 

そんな事はさて置き、さっさと紅魔の里に向かおうかと思う。

現在地はアルカンレティアの入り口手前。ここから馬車で行きたいところだが、生憎と紅魔の里へ行く馬車は存在しないらしい。

何故かとゆんゆんに尋ねたところ、紅魔の里は魔王城から近いためモンスターの強さがそこら辺の地域と比べて桁違いに高いらしく、警護の為に冒険者を雇うとその賃金が移送費を超えてしまう程らしい。

経営者側の立場から言わせれば、リスクに対してのリターンが小さく人情でやったとしても得をするのはほんの数人程度らしい。

ならば紅魔の里は外に対していったいどの様に対して接触をしているのかと言えば、その卓越した魔術センスで強敵どもを蹴散らしながら移動するのではなく、簡単にテレポートの魔法で設定した場所まで一っ飛びだそうだ。

 

ならば、俺たちもそうすれば良くないかと思ったが、紅魔族は気分屋的なところが多いらしくいつ何処にテレポートしてくるのかはわからないそうだ。

なので、基本的に里帰りするには彼らのよく利用するであろう街に宿を借りて、しばらくの間滞在して他の里の誰かが飛んでくるのを待つと言うのがセオリーらしい。

 

何でそんな面倒臭い事になっているのかと言えば、そもそも紅魔族であれば基本的に皆アークウィザードであるのでテレポートを使うことは造作もないらしいのだが、それはそうとめぐみんは論外として何故ゆんゆんが使えないかと確認したところ、現在取得するのにスキルポイントを貯めている最中らしい。

 

そもそも紅魔族は学校を卒業するにあたってスキルポイントを貯め上級魔法を習得するらしいのだが、ゆんゆんは色々あってか先に中級魔法を取得したため同期と比べて些か習得が遅れているらしい。

それに関して茶化しながらゆんゆんに突っ込んだところめぐみんが庇ってきたので、多分だがめぐみんに関して何かしらあったのだろう。

 

そんなこんな多岐にわたる理由を述べて見たものの、結局のところ俺たちが一番早く確実に紅魔の里に向かうには紅魔の里へ一直線に歩くしかないのだ。

 

「取り敢えず歩いていくぞ、アルカンレティアは何かあったらどうせ嫌でも向かう事になるんだから今は諦めよう」

「だから何故私を見ながら言うのですか‼︎」

 

特に理由はないのだが、多分ある意味だが一番あの旅行を楽しんでいたのはめぐみんだと勝手に決めつけているので、不思議と目線が向かってしまう。

 

 

 

 

 

その後、俺達は何事もなくピクニック気分で一面に広がる草原を歩き始める。

こうして長距離歩いて、結局徒歩になるのだから自転車の一つでも作れば良かったなと思ったが、今度はタイヤのゴムを作り出すところから始めないといけないかと思うとアルミの面倒くささを彷彿としてきたので止めておこうかと思う。

何しようにも面倒なら、いっそのこと蒸気機関車でも作ってみるのもいいかもしれない。

例えモンスターが現れたとしても、時速数十キロでぶつかって来たのなら大凡のものなら弾き飛ばせるし、馬車がメインのこの世界の移動方法に革命を起こせるかもしれない。

そうなれば日本の知識で革命を起こすと言う、ありきたり的な事をできるかもしれ…いや待てよ。

もし蒸気機関車で繋いでしまったらアクシズ教徒が一斉移動してしまうかもしれない。あの教えは俺たちみたいな怠惰に暮らしている者からしたら蜜みたいなもので、運悪く広がってしまえば折角移動した世界が地獄と化してしまう。

 

流石にそれは不味いので止めておこう。やはり異世界に大掛かりな技術を提供すると言うのはその世界のバランスを崩しなねない。

 

 

 

「あれ?カズマさん、おかしいですねこんな所に人影が見えますよ?」

 

そんなこんな特に話す事もないので考えながら歩いていると、ゆんゆんが何かに気づいたのか木陰にある人影に指を指しながら俺に問いかけてくる。

 

「何だろうな?こんな所に人がいるとは思えないんだけど?」

 

ここがアクセルの街の周囲であれば街の住民が遊んでいて疲れたから休んでいるだけだろうかと思うのだが、ここは紅魔の里の周辺になり余程の事がなければ人が通らないとパンフレットに載っている程危険な所だ。

もしかしたら逸れた冒険者が街に戻るつもりで疲れて休憩しているだけかもしれない可能性もあるが、紅魔族の誰かが新たなスキルを得ようとアルカンレティアまでのレベルアップ周回をしている可能性がある可能性もある、そうであったのなら里までテレポートで飛ばして貰えば一気に予定を縮められる可能性が出てくる。

 

「どうしますか?話し掛けますか?それとも無視していきますか?」

「へぇ…ゆんゆんにしては珍しく警戒していますね。カズマ、私は無視して行く事に一票です、里周囲に人が訪れるなんてそうそうありません、もうこれは罠と言ってもいいかと思います」

 

成る程な、とめぐみんの意見を聞きながら感服する。

ここはアクセルの街周辺とは違い、実力を持った冒険者でも忌避する程のヒエラルキーに位置するモンスターが居てもおかしくはないだろう。

 

「待ってろって、取り敢えず確認するから」

 

ここは取り敢えず千里眼で木陰を覗いてみよう。もしかしたら切り株がたまたま人影に見えるだけかもしれない。幽霊の正体枯れ尾花とはよく言ったものだ

 

「んーどれどれっておい…」

 

千里眼で見えた光景は、木陰で休む怪我をした少女だった。

四肢を包帯で巻かれている事から誰かから治療を受けていた事は分かるのだが、周りに人が居ないことから取り残されたのだろうか、そんな哀愁を漂わせている雰囲気を感じる。

 

「どうでしたか?何か見えましたか?やっぱりめぐみんが言ったみたいにモンスターでしたか?」

「いや…多分だが怪我人っぽいな、全身に包帯を巻いてる女の子が居る」

「怪我人ですか?」

「あぁ」

 

罠のような気がするが、もし本当に怪我人であればこのまま放って紅魔の里に向かうなんて非道なことはできない。

罠感知のスキルは持っているので、それを発動させながら近づくのはどうだろうか?

 

「罠な様な気がしなくもないが…どうする?助けるか?」

 

念のため確認する。

一応怪我人だとボソッと言ってしまったせいか、若干めぐみんの表情が曇っている。何か責任を感じているのだろうか?それとも何か嫌な予感を感じ取っているのか?

 

「そうですね…一応話を聞いてみるのもいいかもしれないです。もし何かありましたら私が魔法を放ちますのから」

 

そう言いながらゆんゆんは腰からマナタイトの取り付けられた杖を取り出して構える。いつでも魔法が放てると言った所だろうか?

 

「めぐみんもいいか?逃げることに特化した俺が確認するけど、もし危なかったらゆんゆんが魔法を放つしめぐみんに被害はないと思うけど」

「ええ、私は別に構いませんが。気をつけてくださいよ、見た目が可愛いほど厄介なものはありませんからね」

「それに関してはお前達から学んでいるから大丈夫だ」

「え⁉︎それってどう言う意味ですか‼︎可愛いのは認めますが厄介とでも言いたいのですか‼︎」

 

そこまで言えばそうなるだろと言いたいが、今は議論をしている時ではないのだ。

 

腰に下げた剣を抜き取り構える。

スキル罠感知を発動させながらにじり寄るようにその人影へと近づく。チョウチンアンコウの様に光る器官をぶら下げて餌を呼び寄せて食らうのであれば、人影の半径5メートル周囲が間合いとなるだろう。

支援魔法で脚力を強化し、最悪の事態になっても即座に範囲外に跳躍できるように体の準備をしておく。

そうしてその人影の正体と相対するとその全貌が明らかになる。

 

「何だそりゃ」

 

何かあるかと思いながら警戒していたが、その人影は小さな少女だった。

その風貌は大怪我をしたのか、先ほど見たように包帯を全身に巻来ながら少し血を滲ませていた。

どうやら完全な治療を受けたわけではなく応急処置を受けた申し訳程度の処置で、このままいけば膿が酷くなったり傷口から菌が侵入し感染症となってしまうリスクがある。

 

「大丈夫か?その怪我はどうしたんだ?」

 

近づき話しかけると、普通なら俺が突然現れて驚愕しても良いはずなのにその少女は不気味なほどに落ち着きながら俺に目を見ながら。

 

「アナタハ、イッタイ?」

 

と拙い言葉を使いながら俺に問いを返すのであった。 

 

「…」

 

その少女の話し方に強烈な違和感を覚える。

本来であれば言葉を覚え話始めるのは一歳辺りのはず。これはめぐみんの妹の思い出エピソードを聞いたときに確認したから共通だとして、その片言の話し方は違う言語を使っていた人が別の言語を話す際に生じるイントネーションの差とはまた別のものだ。

 

どう説明したら良いのかわからないが、簡単に言うのであれば発音の癖のアクセントが綺麗にズレているのだ。

これはマークシートのテストで0点を取る様なもので、どんなにできなくても0から1を生み出す解答ではなくパターンに当てはめて解答する性質から、詳しくは違うが25点くらいはふざけても取れるのだ。

つまり片言でもある程度はピッタリ合うところが少なからず存在してしまうのだ。

 

そして、それが存在しないと言うことは、この少女は本当はしゃべれるが何か理由があってカタコトで話すと言うことになる。

街に登ってきて馴染む際に保護欲を沸き立たせる為そう言ったあざとテクニックみたいなものは聞いた事があるが、この状況でそれを使うと言う事は俺たちに取り入ろうという事になる。

 

一体何故だろうか?

助けを求めるのであれば、そのまま普通に話しかけてくれば良いのにそれをわざわざしないと言うことは、どれはもはや…もはや何なのだろうか?

 

「どうでしたか?逃げないと言う事は本当に怪我だったと言う事でしょうか?」

 

俺が呆然と立ち尽くしている事に痺れを切らしたのか、遠くで見ていためぐみんが俺の元に近づいてくる。

ゆんゆんは依然と魔法をすぐに発動できるように杖を構え、地面には魔法陣が展開している。

 

「丁度良いタイミングだなめぐみん、お前はこれをどう思う?」

「どうって言われましても…」

 

特に何かする様子ではなかったのでめぐみんに近づくように指示し、少女の様子を彼女に観察させるように進める。

俺のどっちつかずな態度に怪訝そうな目で俺を見つめると、仕方なしに少女の方へ目線をずらす。

 

「そうですね…」

「アノ…アナタチハイッタイ?」

 

俺たちの視線に不安になったのか少女の表情が徐々に曇っていく。

確かに怪我をして身動きが取れず小岩に腰掛けている状態で、どこの誰かもわからない旅人にジロジロと眺められれば不安にもなるだろう。

 

「取り敢えず回復魔法をかけておくか、怪我が癒えれば安心して何か話してくれるかもしれないし」

「そうですね、マナタイトも蓄えがまだありますしこの子一人分でしたらまだまだ余裕でしょう」

 

仕方なしに回復魔法を掛ける。

完全に回復して逃げられるとその先でモンスターに襲われて危険なので、最低限の応急処置的な範囲で治癒魔法を掛ける。

 

「…どう言う事だよ」

「これは…」

 

治癒魔法を掛けるが、その魔法が効力を発揮する事はなく少女の姿は依然として傷だらけのままだった。

 

「まさか呪いか?」

「その可能性もありますね、アクセルの街周辺と違ってここら周辺のモンスターは強敵揃いですからね、呪いの一つや二つ使える奴がいても不思議ではありません」

 

血液凝固因子の働きを阻害する蛇の出血毒があるように、回復魔法の効果を阻害する呪いがあっても不思議ではない。

ここはいつもいるぬるま湯ではなく危険な溶岩地帯なのだ。

 

ともかく、呪われているのであればそれを解呪すれば良いだけで、続けざまに解呪魔法を放ちその流れで再び治癒魔法を当てる。

 

「マジか…やっぱり俺も魔力値じゃ効果いまひとつか?」

 

これならいけると、半ば確信の様なものを抱きながら魔法を連続で放ったが、それでも効果はなく少女の傷が治ることは無かった。

 

「…いや待てよ」

 

何だか嫌な予感がすると言うか、胸騒ぎがする。

罠感知でこの少女が何かしらの囮に使われている事は無いことが証明された訳だが、もう一つの可能性を忘れていたことに気づく。

 

そう、この子自体がモンスターだと言うことに。

 

罠感知を解き、今度は敵感知に切り替える。

クリスの教えで応用の周囲の気配を探ることはしていたが、範囲を広げたせいで本来の敵を感知するという機能が薄くなっており、少女位の直接的な危険度がない者であったら反応しないことがあるのだ。

 

そんな事はありませんように、何かの間違いでありますようにと、改めて本来の敵感知を発動すると俺の予感を証明するように前方の少女に反応と警戒を示した。

 

つまりこの少女はモンスターという事になる。

 

「めぐみん離れろ‼︎こいつはモンスターだ‼︎」

「何ですと⁉︎」

 

剣を構え直しめぐみんに後方へと離れる様に指示する。

もし、うっかり触れる位に近づいたら某寄生する獣の漫画の様な感じに顔が開いて丸齧りされる危険性があるのだ。

 

「…ドウシタノ?」

 

距離を取られて本性を表すかと思いきや、意外にも少女の姿は変わらずいきなりの事でビックリしてキョトンと呆けている。

 

「何もなしか…一体どうするか。モンスターならこのまま放置しておいた方がいいのかもな」

「そうですね、私もそれがいいと思いますよ。下手に手を出して全滅なんて嫌ですからね…そういえばカズマの持っているマップの付録にモンスターの情報が書かれていませんか?

「ん?ああそうだなよく見たら裏面に何か書いてあるや」

 

ギルドで受け取ったマップの裏面に色々と情報があるのだが、下の方に軽くだが周辺のモンスターの情報が書かれている。多分さらに詳しくは有料的なそんな感じだろう。

それによると、丁度無料の範囲内に少女に関しての記載が名前と挿絵だけあった。どうやら無料版に載るくらいのメジャーなものだったのだろうか、それともかなり危険だから乗っているのか、気になるがその真意は読めばわかるだろう。

 

「成る程な…この子の名前は安楽少女だ」

「ああ、あの安樂少女でしたか」

「知っているのか?その割には全然気づかない感じだったけど」

「そうですね…知っていると言っても本で見たみたいな感じだったので、こうして実物を見るのは初めてですね」

 

百聞は一件にしかずとは言うが、やはり本の知識と実物とはまた違うのだろう。それに人型を取る以上個体差があってもおかしくはないだろう。

 

どうしようかと再び考えようとすると、めぐみんは成る程と害がないと分かるや否や安樂少女の体を触り始める。

その姿はまるで新しいおもちゃを貰った子供の様だった。

 

「やはりこの怪我は擬態でしたか!通りででカズマの治癒魔法が効かないわけですよ。よかったですね」

「…え、何が?」

「カズマの魔力が低くて効かないのかと思っていましたが、そんなことは無かったという事です」

「うっせ!」

 

その後もめぐみんの知的好奇心は収まらず、安樂少女はめぐみんにされるがまま色々な場所をいじられ放題になっている。

 

 

 

 

 

「安全でしたら呼んでくださいよ‼︎私だけポツンと一人ぼっちだったんですよ‼︎」

 

少女の扱いに関して暫く考えていると、何かあった時に備えて待機していたゆんゆんが痺れを切らしてこちらに乗り込んできた。今までずっと魔法が発動できるように待機していてくれたのだろう。

 

「悪い悪い、すっかり忘れてた。あまりにも無害だったから気が抜けちゃってさ」

「それでも一声あっても良いじゃないでしょうか‼︎待機って言っていつも放って置かれますけど流石にそろそろ泣きますよ‼︎」

 

そういえばすっかり忘れていたと謝罪をするが、彼女はそれを許すことはなく少女の観察をするめぐみんの隣でゆんゆんに説教される。

 

「それで?結局あの女の子は一体何だったのでしょうか?カズマさんが治療していたのは見えたのですけど」

「ああ、それはだな」

 

事の経緯を彼女に説明する。

この少女が安樂少女という名前で怪我の正体がただの擬態で本物では無いことまで説明する。

 

「へーそうなんですか」

 

俺の話を聞いて興味を持ったのか、色々しているめぐみんの輪にゆんゆんが加わり場の空気がまるで女子会みたいにになっており、様々な質問をして少女は片言でそれに答えるという流れになっている。

安樂少女の方も彼女らが残ってくれるのかと期待しているのか曇っていた表情が笑顔へと変化している。

 

「さーてどうすっかな」

 

そういう存在なのだからそのままにしておくのが自然の流れとしては良いのだろう。あと数分放っておけば彼女らも気が済んでこのお祭りも終焉を迎える。

そう言えば、この世界に来て初めの頃色々勉強しようと思って魔物図鑑的な物を買った様な記憶があることに気づく。

確かそのままバックに入れっぱなしにしていた様な気がしたので彼女らが戯れる傍、背中に背負っていたバックを降ろし中を漁ると奥の底で下敷きになっていている硬い物を見つけたので力任せに引っ張り出す。

 

「やっぱりあったな」

 

面倒で整理しなかった自身のズボラさにあきれながらも、結果として役に立った事に感謝しながら本を開き安樂少女に関して記載されているページを探す。

やはりメジャーなのか、後ろに付録している索引に太文字でデカデカとそのページが記載されている。

 

…何だか嫌な気がするな。

 

そんな気持ちを押し殺しながら記されたページに目を通すと、そこには恐ろしい記述が記されていた。

 

安樂少女は基本的に無害で、一見害のない生物に見える。

だが、その傷ついた姿は強烈な庇護欲を沸き立たせ、立ち寄る旅人の好奇心を刺激し自分が何とかして懐いてもらおうなどと優越感に浸らせ、その独占欲を擽らされらた旅人を魅了し捕らえてしまうのだ。

しかし、そうなってしまったら最後で、その旅人は安楽少女から離れることできずにひたすら彼女の世話をするという流れになる。

基本的に安樂少女は我々の前では食事を取らず、反対に我々の空腹を察知すると自身の体から成る果実を差し出すそうだ。

その果実は空腹の我々には禁断の果実に近しい程の強烈な美味しさを誇り、やがてその果実なしでは生きられない程の魅力を備えている。

 

しかし、その果実には栄養分など無く、その果実ばかり食べ続けていればやがて栄養失調となり、結果としてその旅人は死に至る事になる。そして、その死した冒険者の肉体に彼女ら安樂少女は根を張り養分を吸い取るといったプロセスになっている。

 

このページを見たという事は現在目前か近くに安樂少女がいると言う事が推測される。

もし、この内容を見て尚且つ目の前に安楽少女が居たのなら苦しいとは思うが、読者の手で駆除してほしい。それがどんなに苦しい決断だとしてもどうかお願いしたい。

それが残された他の冒険者たちへの救いになるからだ。

 

「…」

 

興味本位で除くいてしまったのだが、何だかものすごく重い内容になっているので思わず本を閉じてしまった。

まさかここまで人間に特化しているとは流石に思わなかった。

 

 

 

 

 

 

 

「おい、そろそろ行くぞ。時間はあんまりないんだ」

 

退治するかはともかく、今はこの場を離れない事には何も始まらないのだ。

とにかく一度彼女らを離れさせた上でこの本の内容を説明して安樂少女が危険だということを知ってもらわなければいけない。

 

「えっと、もう少しだけこの子と一緒にいても良いでしょうか?」

「え?何で?」

「この子私たちがここに来るまでずっと一人ぼっちだったみたいで…」

「完全に絆されているじゃねぇか‼︎これは安樂少女の罠なんだよ‼︎こうやって相手に同情させて一緒に残るように仕向けて死んだところで養分を吸い取って奴らは生きてんだよ‼︎」

「え?でも死んだあとだったら養分を吸い取られても構いませんけど‼︎」

「そういう事を言ってんじゃねぇ‼︎同じぼっち同士何シンパシーを感じてんだよ‼︎いいか、こいつは俺たちが腹が減ったら中毒性のある果実を差し出して…」

「カズマー‼︎何故かこの少女が果物をくれましたよ‼︎今日のデザートはこれにしましょう‼︎」

「言ってるそばから何やってるんだお前はーーっ‼︎」

 

言っている側から狙った様なタイミングで自身の体からできた果実を千切ってめぐみんに渡したらしい。タイミングといいもしかしてコイツは俺たちより知能が高いのかもしれない。

 

「あっ‼︎何するんですか‼︎安樂少女の渡す果実は止まらなくなる程の美味しさを持った禁断の果実と言われているのですよ‼︎」

「うるせーっ‼︎お前これが危険な物だって知ってんだろ‼︎どうせ禁断とかそんなワードに惹かれてんじゃねーよっ‼︎」

 

喜びながらその危険な果実を掲げているめぐみんから無理やりそれをぶん取り、勢いそのまま全力を持って遠くまで投げ飛ばした。

 

「あーあ、里の皆に自慢してやろうと思ったのですが、カズマのせいで台無しです」

「こっちはお前のせいでゆんゆんの説得が全部台無しだよ‼︎」

 

そんな彼女とのやりとりをしている合間にゆんゆんは安樂少女の元へと戻って話し相手になっている。

不味いな…説明文を見ている感じゆんゆんとの相性最悪だなと思ったのだが、まさにその通りだた。

孤独を癒すのは孤独を知るものか孤独を知らないカリスマ性を持つものと相場が決まっているのだが、安樂少女は完全に矛盾した両者を備えている。

 

大変に心苦しいのだが、かくなる上はそういう結末しかないのだろう。

 

「ゆんゆんどいてくれ、そいつは俺たちに同情させて死ぬまで世話をさせるモンスターなんだ、退治するのは無しにするから先に行こうぜ」

「いえ…あの…この子を里に連れて行くのは駄目でしょうか?」

「え?駄目に決まっているだろう…モンスターだろそいつは」

 

この後に及んでとんでも無い事を言い出すゆんゆん。

確かに里に持っていけば餓死する恐れは無くなるかもしれないけど、その果実の中毒になってしまったら最悪全滅してしまう可能性があるのでそれは無理な話だ。

 

「…分かっていますよ。これが何者なのかは学校の図書室で学んでいます。ですが、困っているこの子を置いて里に戻るほど薄情にはなりたくありません‼︎」

「その傷も言動も全て偽物なんだぞ?」

「それでもです、仮に全てが偽物だったとしても私はこの子と一緒に居てあげたいです」

 

やはり孤独を極めし者は同じ同類に惹かれるのだろう。この数分に満たない短時間で彼女の心を虜にしてしまっている。

 

「ゆんゆんがそこまで言うなら、ここでそいつを退治する」

 

やはり、こうするしか解決策はないのだろうか。

俺が剣を再び構えると、彼女が俺と安樂少女の間に割って入るように両手を広げて入ってくる。

 

「ワタシヲコロスノ?」

「悪いけどうちの相棒を虜にするんならそうなるな、嫌だったら解放しろ」

「カズマさん‼︎」

 

俺の言葉に激怒するように彼女が俺の名前を呼ぶ。久しぶりにみるゆんゆんの激昂に足が引けるが、ここで引くわけにはいかないのだ。

 

「はぁ…全くいつまで痴話喧嘩みたいな事をしているのですか…私としてはこんな危険な場所に留まらないで、明るいうちに先に進みたいのですが」

 

そういい割って入ってきたゆんゆんにさらに割って入るようにめぐみんが現れると、手に持っていたスクロールを発動させた。

 

「え?」

「全く、だから私は無視して進みましょうと言ったのですよ。急げば回れとは言いますが、カズマとゆんゆんが居るのでしたら善は急げですよ」

 

よく分からない事を言いながら発動したスクロールの効果はテレポートに近い様なもので目前に居た安樂少女は淡い光に包まれたかと思うと何処かに消えていってしまった。

 

「こんな事もあろうかと買っておいたのですよ、里の近くにまだ未討伐の安樂少女が居ることは事前に聞いていましたからね。まあゆんゆんの事ですからこうなると思っていましたよ。安樂少女もどこか分からない所で一から人生をやり直す事でしょう」

 

まあ喧嘩になるのは予想外でしたが、と彼女は付け足した。

 

「えっえぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇーーーっ‼︎」

 

予想外な展開に思わずなのかゆんゆんが感情のままに絶叫した。

 

 

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