今回は軽めですが下品な表現がありますので注意です…
「あーあ」
どこか遠くに吹き飛ばされた安楽少女を追想しながら感傷に浸る。
きっと彼女の事だ、どこか遠くで上手くやって行けるだろう。特に根拠は無いが、そんな気がする。
と言うかめぐみんが魔道具店で買っていたのはテレポートのスクロールだったのか。
「あの…」
「ん?」
安楽少女が吹き飛んだであろう方向を眺めていると後ろから申し訳なさそうにゆんゆんが話しかけてくる。
「先程はすいませんでした…寂しそうなあの子を見ていると何だか昔の私を見ているみたいで放っておけなくて…」
どうやら先程俺に楯突いた事を謝罪したいようだ。
安樂少女の特性上、ゆんゆんの様な孤独に囚われた人を陥れるように姿形がロールされるので、彼女が引っ掛かってしまうのはしょうがないと言えばしょうがないのだ。
「別に気にすんなよ。ゆんゆんの事だから結局こうなるって分かってからさ」
「それはそれでひどいです‼︎」
泣きそうだった表情から一転、怒った様な表情になったかと思うと彼女は先に紅魔の里へと歩き出した。
あれ?俺なんかしちゃいました?
…そんな事はさて置き先に進まないと日が暮れてしまう。
夜になれば夜行性の魔物達が現れて俺たちが危険な目に遭ってしまう。
「あーあ、怒らせちゃいましたね」
先に進むゆんゆんを遠目に見ながら呆然としていると、先程から後ろにいためぐみんに野次を飛ばされる。
「普通あれで怒るか?」
「そうですね…まあ乙女心は複雑ですから、特にゆんゆんは繊細ですからカズマみたいにデリカシーが無いとすぐにでも気を損ねてしまいますよ」
「失礼な…と言うか、アクセルの街の中で乙女心と一番かけ離れているお前に言われたくはないわ‼︎」
「何ですと⁉︎この私が乙女に見えないと言うのですか‼︎」
「そうだよ‼︎乙女だ何だ言うんだったら少しはその爆裂魔法を控えて皆の言う女子力とやらを磨いてみたらどうだ‼︎」
どん、と胸を叩きながら謎の宣言をするめぐみん。乙女を名乗るのであれば少しは大人しくなって欲しいものだ。
…少なくとも名前をからかわれて近所の子供をどつきまわすのだけは本当に勘弁してほしい。
「この私に爆裂魔法を使うなとか正気ですか‼︎とても正常な人が言う事とは思えません、緊急事態なので里に着いたら里一番の回復術師の元に案内してあげますよ‼︎」
「余計なお世話だっつーの‼︎」
めぐみんの嫌味に対して逆ギレし、いつもの如く彼女の頭を鷲掴みしてそのまま拳で左右を挟んで拗らせる。
「オラオラ謝りやがれ‼︎」
「痛たたたたたたたたたた⁉︎ゴメンなさーーい‼︎」
取り敢えず調教の意味を含めながら彼女に謝ることを強要する。
力で言う事を聞かせると言うのはあまり良くは無いのだが、口喧嘩で彼女に勝てるとは思えないので仕方ないのである。
そう言えば、親から虐待を受けた子供が将来その親を介護するときに今度は子供が虐待し返すという事例があるのだが、このままいけば彼女の武力が俺を上回った時に立場が逆転して痛い目を見る様な気がする。
そう憂いながら手を離すと彼女はスルリと俺の手から離れて杖を構えて俺に相対する。
「はぁ…はぁ…死ぬかと思いましたよ」
「あぁ、俺も初めて人を殺めちまうかと思ったよ」
「正気ですかあなた‼︎」
ふーふーと威嚇しながら構える彼女を他所に、すでに先に進んでいたゆんゆんが1人で行き過ぎた事に気づいたのか涙目で遠くで体育座りしている事に気づく。
「やべ‼︎話しすぎた、ゆんゆんがいじける前に行くぞ‼︎」
「全く、1人が嫌なら先に行かないで待っていれば良いものを」
一旦俺たちの戦いは延期という事でゆんゆんの元へと走って向かう。
一度完全にいじけた彼女を元のコンディションに戻すにはかなりの労力と時間が必要で、前に一度なってしまった時は一日部屋に閉じこもってしまってめぐみん共々どうしようか作戦会議をしたのも記憶に新しい。
「みんな置いていくなんて酷いです…」
「いや、先に行ったのはゆんゆんだからな」
彼女のいた場所に着くと、やはり半べそかきながらうずくまっていた。
そして着いて早々俺が悪いみたいなことを言ってくる。
しかし、そこはキッパリと言っておくべきだろうと思い残酷だが彼女に言葉を掛ける。現実は非常なのだ。
そんなこんなで俺達の行道は続いて行くのだが、やはり危険なモンスターには遭遇しないのが吉なので先に俺が先行して俺の後ろを彼女らが着いて来るという流れになった。
ゆんゆんが居るので大丈夫なのでは?と思いがちだが、この世界はゲームとは違いモンスターは単体で出てくる事は少なく、群れを成していることが少なくない、なので油断すれば大勢の魔物に囲まれ彼女の処理できる数をゆうに超えてしまうのだ。
そうなれば彼女は生き残れても俺とめぐみんが生き残ることが難しくなる。
などと考えるが、結局先行すると言ってもやれる事と言えば敵感知と千里眼を使いながら道を進んで行くだけなのだが…
それでも数体のモンスターの群れを回避することができたので僥倖といえば僥倖なのだ。
まあ、流石にグリフォンとか出てきたらお終いなのだが、俺の幸運の高いステータスが幸いしたのかそのようなモンスターは影すらみていない。
「…」
もしかして最初からこうすればよかったのでは無いだろうか?
いや、すでに終わった話なので今更振り返したところで意味はないだろう。
後ろを確認すればいつもの2人がいつもの様にいちゃついていた、こればかりはいつもの光景なので慣れたが側で見せられ続けられる俺の気持ちにもなってほしいものだ。
そんなこんなで俺が先行して広き草原に作られた街道を進んでいくと、その先の木陰にで人影の様なものを見つける。
こんな所に人がいるのかと思ったが、生憎この周囲に人が来ることは殆どないそうで、人型で居るとしたらそれはオークだとギルドの冒険者が言っていたと思い出す。
距離にしておおよそ数百メートル。
ギリギリ千里眼で影がわかるくらいなので、その位の距離だと思うので危険は無いと思うが、迂回するにも今回は奴のいる場所に木陰があるだけで他に木々や岩地も何も無い完全な平野になっている為、遠回りしたところで気づかれる危険性がある。
仕方なしに後ろにいる2人にサインを送りモンスターが居るので待機する事を知らせる。
オークか…よく大きな大人向けのコンテンツに出てくるという事は物心ついた男ならわかるのだが、ここは異世界なのでもしかしたら心優しい可能性があるのかと他の冒険者に聞いた事があるのだが、答えは俺たちの世界と同じという答え事だった。
オークは同じ人型であればどの様な種族とも交配が可能で、捕まったとなれば即座に自決したほうがいいと言われる程らしい。
…生憎俺の後ろに居る2人は女性で捕まれば悲惨な目に遭うのは間違いないだろう。俺たちの世界のお約束ではどんなに強くてもオークの前には意味をなさず蹂躙されるのがセオリーとなっている。
なので例えどんなに強いゆんゆんだとしても勝てない可能性があるのだ。
もしその様な展開になれば俺の脳は破壊され再起不能になるだろう。それだけは何としても避けたい。
しかし、そうは言ったものの現状回避する方法といえばこのままオークが何処かに居なくなるのをここで待つのか、それとも夜になってから潜伏スキルで夜影に隠れながら進むかになる。
どの選択肢も時間がかかるので避けたい所だが、それしか方法がないのなら仕方がないと思った所であることを思いついた。
それは完全に無茶で無謀な考えなのだが、一度思い付いたらそれしか考えられなくなってしまう。
何処かで聞いた思考の罠らしいが、思いついてしまったのならそれはもう仕方ないのだ。
それはそのオークをこの場で倒してしまおうと言うものだ。
正直ここら辺のモンスターはレベルが高いと聞くが、オークはあくまでゴブリンに続く雑魚モンスターだと良く言われている。
ならば俺でも倒せるのではないだろうかと思うのは必然だろう。冒険者とはいえ俺自身のレベルも魔王軍幹部を屠ってきた事もありアクセルの街の中では上位に入る程になっている。
まあ、仮に手も足も出なかったら逃走スキルで逃げれば良いので、むしろ俺だけなら何とかなるかもしれないと思うのだ。
クリスの修行の甲斐あってか対人戦闘に関してはそれなりに実力があるだろうことは自負している。
それに相手は一匹なので案外あっけなく倒せてしまう事ももあるだろう。
腰に掛けている剣の柄に手を当てながら街道を進む、後ろの方で何やら慌ただしくなっているが多分それは俺の危険を察してだろう。
確かに俺は今までの先頭に関して何も出来ないほどの悪態しか晒せていなかったが、日々の訓練により少しは戦えるようになってきているのだ、それを今回は証明して彼女らに俺の力を示す。
すでに俺の姿が相手に気づかれていたこともあってか幾メートル進んだ所で相手のオークと相対する、
「よう」
掴んでいた剣の柄にかかっていた力を更に込める。
「あら、いい男じゃない。お姉さんといい事しない?」
「は?」
その言葉使い、声のトーンを聞いてある事に気づく。
そう、このオークの性別はメスだ…。
というかお前喋れたのか。
まあ、生物学的上雄と雌に分かれるのは必然的といえばそうなのだが、俺の頭の中には雄以外の考えがなかった。
だとしてもまさかメスがこうして俺の目の前にいるなんて誰が思い付いただろうか?
てっきりオークは他の種族を使って繁殖するのでオスしかいないと思っていたが、どうやら逆のパターンが存在すると言う事になる訳だ。
こう何回も思い込みにやられると自分自身の頭の硬さに思いやられるが、今現在目の前にオークがいるので油断はできない。
「悪いけどそれはお断りかな、この先に用があるから見逃して欲しいんだけど」
メスでしかも意思疎通ができるとなると、そもそも戦う必要はないんじゃないのかと思うほどに俺の戦意は後退している。
ならば会話で交渉すればもしかしたら通してくれる可能性がある。相手もこんな貧弱な冒険者の相手など無理にでもしたくはないだろう。
「そう…残念ね…できれば合意の上での方が良かったのだけれども、断られたんじゃあしょうがないわね。まあ私としては無理矢理の方が好きだから好都合なのだけれど」
寂しそうな表情から一転、メスのオークの表情は口角を最大限に上げて荒々しい鼻息を吐き出し歓喜の表情を浮かべた。
「ーーーっ‼︎」
その表情を見た瞬間背筋が奮い立ち、今まで感じたモノとは違った恐怖と悪寒が俺の体を支配した。
それは自身の命の危険とはまた違ったもので、何と言って説明したいいのかわからないと前置きをさせてもらえるのであればそれは自身の根底を覆させる恐怖という事だ。
自身が汚される恐怖といった方が良いだろうか?世の中には死ぬよりも恐ろしいことが山ほどありそれぞれに名前があったような気がするが、そのうちの一つに含まれているといっても過言でもない。
そんなオークの言葉に思わず体が勝手に動き、気づけば俺の体は奴の間合いと思われる範囲から外れるように後方へと跳躍していた。
微かに振える腕を何とか静止させながら腰にかけた鞘から剣を抜き取り奴に向ける。
「へえ私とやり合おうって事かしら?」
「それはお前次第だな、このまま見逃してくれたら食料を幾つか分けてやる。どうだ?悪くはないと思うんだが?」
本能が全力で逃げろといっている。
遭遇するまでは敵感知による反応は微々たるものだったのだが、何かの擬態か奴が俺を獲物と決めつけた瞬間に後方からおぞましい程の謎の狂気にみたいたオーラーのようなものが湧き出し、俺の敵感知スキルの反応がいきなり危険ゾーンへと変化した。
「何を言っているのかしら、困った坊やね。ここは私たちオークの縄張りよ、ここに入った雄は何人たりとも逃しはしないわね」
フンスと鼻息を荒らげながらオークは体に力を溜め込む。
「それに不思議と坊やからはとても強い生命力を感じるわ、肉体はとてもヒョロヒョロなのに不思議ね…」
「…うわぁ」
「坊やの子供はさぞかし強い気がするわね、これは乙女の感よ!」
「こんなひでぇ乙女が居てたまるかよ‼︎」
ぞっとする奴の発言に思わず持っていた剣で奴の懐を切り裂く。
「あら。坊やかわいい顔して随分とひどいことするじゃ無い、私ますます気に入っちゃったわ‼︎」
意図せずに放った俺の一薙ぎは簡単に奴の手に収まるように捕まれ、糸も容易く防がれてしまう。
「はっ‼︎お前みたいな奴はこっちからお断りだぜ‼︎家に帰って自分でも慰めてやがれ‼︎」
このままだと完全に奴のペースに飲まれると判断し、皮肉とともに剣を掴んでいる奴の手首を思いっきり蹴り上げ把握を解き、剣の拘束を解放させるとそのまま再び後方へと回避する。
「あら、つれないのね…でもそんな坊やを屈服させた時に出る涙はとても甘いのよね」
じゅるりと舌鼓をして俺をどう痛ぶってやろうか考えいる奴に相対しながら思考を巡らす。
「おぞましい事言ってんじゃねぇぞ‼︎」
再び剣を構えて全身に支援魔法を巡らす。もはや素のステータスだけでは奴には到底敵わないと思い知らされたので、もはや出し惜しみしておく理由はない。
その状態を維持しながら今度はフェイントを交えながら奴に向かって横薙ぎを放つ。
それを奴は先程と同じように掴もうとするので、足運びに緩急をつけてタイミングをずらし奴の手を交わし懐へと潜り込む。
まだ完全に動きを習得したわけではないのでぎこちないが、それでもクリスから教わった事はある程度はできているのだろうか。そんな疑問を頭の隅で考えながら切り込むための一歩を踏み出す。
踏み出し、全体重を乗せた俺の一撃は見事に奴の側腹部を一線し、そのまま奴の後方へと切り抜ける。
「はぁはぁ…どうだ‼︎」
全体重を乗せた一撃は躱される事はなく奴の側腹部を切り抜いた、もしこれで奴にダメージを与えられたのならこの方法を繰り返していくだけだ。
「あら、やるじゃない」
「何…だと⁉︎」
切り抜いた奴に側腹部には、うっすら線が入っているだけで、俺の想像した切創は何処にもなかった。
どういうことだ?確かに手応えはあった、俺の攻撃が見逃された訳でも防御魔法を使った訳ではない。
で、あるのであれば考えられるのは一つだけ。
純粋な奴の防御力が俺の攻撃力を上回っているのだ。
「ごめんなさいね…あまりにも坊やが可愛かったから黙っていたのだけれど私に斬撃系の攻撃は効かないわよ」
「…マジか⁉︎」
近接タイプの癖に斬撃系に耐性があるだと⁉︎
もしもこれがゲームなら製作者側に文句の一つでも言ってやりたい所だ。普通物理耐性じゃなくて魔法耐性だろう、なに無茶苦茶なバフ付けてんだゴラ。
他にも色々と鬱憤が連鎖して思い出されるが、そんな事を考えている暇はないので頭の中からかき消す。
「坊やの得物はそれだけかしら?だとしたら諦めた方が良いんじゃないかしら?なぁに痛いのは最初だけよ、慣れれば直ぐにでも天国を味合わせてあげるわ」
「はっ‼︎文字通り比喩じゃなくて本当に天国にもってか‼︎良い加減にしやがれ」
再び剣を構える。
斬撃が奴に効かないのならそもそも奴の肉体を切ろうと思わなければ良いのだ。
基本的に日本刀は斬れるが海外の剣は叩き斬るといった本当かどうかわからない通説があるのだが、それに倣えばこの剣でも鈍器になるという訳だ。
物を斬る場合は当てるタイミングや角度そして抜くタイミングなど面倒な手順があり、それ故に斬れた時に与えるダメージや出血など様々な効果があるのだが、剣を鈍器として扱うのであれば単純な打撃系しか与えられないが、面倒な角度等などが大分緩和されるのだ。
硬い皮膚に対して剣が棍棒となるのであるのなら、斬るのではなく打力を持って奴を粉砕すればいいだけの事だ。
打力に脆い部分はクリスに身を持って教わっている。
要するに体幹ではなく、そこから伸びる四肢を狙えばいいのだ。四肢には体幹と違って神経が豊富なため受けた時に怯む可能性が多い。
「坊や中々に面白いことを言うじゃないの、ますます物にしたくなったわ」
「だからお断りって言ってんだろ‼︎」
俺を掴みにかかる奴の飛びかかりを済んでの所で側方へと躱し、そのまま奴の向こう脛へと剣を叩きつける。
「もらった‼︎」
「ぐっ‼︎」
やはり弁慶の泣きどころとはよく言ったもので、先程の斬撃ではびくともしなかった奴の表情が苦悶に満ちる。
足には脛骨と腓骨の2本の骨で構成されており、その周囲を筋肉が囲んでいると言う形になっている。そしてスネの前方だけ筋肉で囲まれていない箇所がありそれを弁慶の泣き所と言う。そこを叩かれると先程の奴の様にものすごい激痛に襲われることになる。
余談だが、骨の表面には骨膜が存在しそこには沢山の神経が集まっており骨折の時の激痛はこの骨膜の神経を傷つけた時に起こる痛みと言われている。
「はっ‼︎流石のお前も弁慶越えは出来なかったようだな‼︎」
剣を構えながらも高らかに挑発する。知能があると言うことは交渉もでき煽ることも心理戦もできるのだ。
「ふっふふふ、やるわね坊や…ここまで痛みを受けたのは久しぶりよ」
効いたと言っても単純にダメージ不足な為か、奴の苦悶の表情はすぐさま収まり体勢を立て直す。追い討ちを掛けようと頭を叩きつけるが、そこは奴も馬鹿ではないのですぐさま立ち上がり回避される。
「まだまだ余裕のようだけどな、それが何処まで持つか楽しみだぜ」
「あらやだ、ちょっとダメージを与えただけでイキがちゃってとても可愛いじゃない」
脛に痣が出来つつある状況でも奴は怯むことなく、むしろ親戚の子がやんちゃしたことを成長と見て嬉しそうにする叔母のようだった。
奴が余裕そうなのはそう見せて俺に精神的プレッシャーを与えようとしているだけだと自身に言い聞かせる。
力はともかくスピードは支援魔法を使っている俺の方が高く、奴の攻撃は大振りな故に躱すのにそこまで苦労しない。
ならばそのまま続ければやがては奴の体力切れを狙うことができるかもしれない。
「なんだか勘違いしたままで可哀想だから言ってあげるけど」
「何だよ」
俺が奴をどう追い詰めるか計算していると、奴はまるで気づいていないのねとため息を吐きながら俺に説明を始めた。
「私は先ほどからあなたを掴もうとしているだけで、一度も攻撃はしていないわよ」
「何…だと⁉︎」
言われてみれば確かに奴の攻撃は大振りでどれも俺に向かって一直線で…
「クソッタレが‼︎」
今更になって気づく。
奴の攻撃はどれも俺を取り押さえる為のものばかりで、一度足り共も俺にダメージを与える行為をしていなかったのだ。
そう、追い詰めた気持ちになっていたのが、気づけば自身が追い詰められていたのだ。
こんな屈辱は然う然うにない。
「そうよ‼︎その表情が見たかったのよ‼︎私は雄と交わるのも好きだけれどもイキった雄の心を折るのも好きなのよね‼︎」
「クッ…この性悪オークめ‼︎」
「ふふふ、満足させてくれたお礼に私の力を見せてあげるわ…ふぅーはぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあぁぁぁぁぁぁぁ‼︎」
「何する気だ‼︎」
今まで俺を痛ぶっていた奴の表情が歪み力を溜めたかと思うと、奴は近くにあった木陰を作り出していた木を一本両手で掴むと、一回の力みと踏ん張りでその木を根っこごとから引き抜いた。
「あら、思っていたよりも立派な木じゃない」
そう言いながらその木に生えていた枝や根っこを意外にも丁寧にへし折っていく。
そして、その樹木は姿を変え一本の丸太へと姿を変えた。
「これは…良い丸太ね。坊やはこの丸太を見てどう思う?」
太陽に丸太を翳し、うっとりと目を細めながら手に持ったものを吟味する。
その光景は何処かの技匠が自身の最高傑作を自賛するようだった。
「すごく…大きいな…ってまた丸太かよ‼︎もう良い加減にしやがれ‼︎」
何というメタ的な展開に驚愕する。
前回まで味方だったものが気づけば敵に回ってしまったそんな感じだ。
「あら奇遇ね、坊やも丸太を使ったことがあるのかしら?やっぱり私たち気が合うのね」
言葉とは裏腹にオークはその巨大な丸太を持ち上げこちらに向かって振り下ろす。
咄嗟にそれを側方へと躱すが、その巨体が地面にぶつかっただけで生じる衝撃がこっちにも影響及ぼし、バランスを崩されそのまま横へ転がる。
「さっきまでの勢いはどこに行ったのかしら‼︎」
「うるせーよ‼︎丸太は反則だろ‼︎」
転がりつつも受け身をとり体勢を立て直す。
バニルのいたダンジョンで活躍した丸太だったが、まさか敵に使われるだけでここまで厄介になるとは思わなかった。
…しかしどうしたものか。
先程まで攻略の糸筋が見えていたのだが、奴が丸太を使い出したことによりまた一から考え直しになってしまった。
どう足掻こうと剣であの丸太を切る事はできないし、かと言って叩いて破壊することもできない。
魔法攻撃ならと思ったのだが、生憎奴にダメージを与えることの出来るものは無く、ゆんゆん達は後ろに待機させたままだ。
「ほらほら、このままじゃやられちゃうわよ‼︎」
そんな俺の考えを否定するように再び奴は丸太を振り回す。
バニルに取り憑かれたゆんゆんですら数回しか振り回せなかったと言うのに、このオークはそんな事はお構いなしと容赦なくそれを振り回し周囲の地形を変えていく。
このままでは不利なっていくのは確実だ、ならば多少のリスクを覚悟してでも攻勢に出なければいけない。
「あまり使いたくはなかったんだけどな‼︎くらいやがれ‼︎」
「あら?何する気?それともようやく私の元に下る気になったのかしら?」
「それはお断りだってさっき言っただろう‼︎」
オークの放つ丸太の振り下ろしを寸での所で躱し、その丸太を両手で抱え込むように抱きこむ。
「何のつもりかしら?あなたの力で私の丸太を止めらると思ったのかしら?」
「さあな、それは見てのお…ぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉーっ⁉︎」
しがみついたのは良いのだが、それを良いことに奴に丸太ごと俺の上体を振り回される。
一体どんな馬鹿力してやがる‼︎
「どうしたのかしら?何か作戦があったようだけどこのままじゃいずれは吹き飛ばされるわよ‼︎」
「うるせえぇぇぇぇぇ‼︎これでもくらいやがれぇぇぇぇぇぇえ‼︎」
しかし、俺を殴りつけるのではなく振り回したのは不幸中の幸いだろう。振り回されながらも俺はあるスキルを放つ。
「何よこの炎‼︎消えないじゃないの‼︎」
女神からもらったチート能力黒炎を丸太に移るように発動させ、黒炎が丸太に完全に定着したことを確認すると、振り回す勢いを利用して間合いの外に出るタイミングで手を離し、そのまま着地して剣を抜いて構える。
そして、黒炎を消そうと振り回すが、その炎が消えない事を悟ると、いきなり何の前触れもなく俺に向かって丸太を投擲した。
「危ねぇ‼︎何しやがんだ‼︎」
寸での所で剣を当てがい、その軌道をギリギリだが逸らす事に成功しダメージは掠った腕の傷だけに抑えることに成功したが、代わりに俺の持っていた俺の愛剣が後方へと弾き飛ばされてしまう。
「中々やるじゃない、正直ここまでやるとは思わなかったわね。そこまで私と交わるのが嫌なのかしら?」
「ああ、悪いな生憎こっちは俺を待っている奴がいるんでな」
「待っている?あんた今まで女の子に相手されなさそうな雰囲気な癖に待っている女の子がいるのかしら?」
「まあな、悪いが先約がいるからお前はお断りだぜ‼︎」
売り言葉に買い言葉、ハッタリでも良いから奴に言い返さないと黒い炎で丸太を燃やした事で変わり始めた流れが戻ってしまう。
「他の女…」
「もしかして何も知らない初心な男の子が良かったのか?残念だったな‼︎」
何故かショックを受けている奴に追い討ちを掛けるように罵声を浴びせる。
正直自分で言っていて物凄く恥ずかしいし、これを録音されたら俺は一生その人に逆らえないほどの黒歴史となるだろうセリフを堂々と吐き出している。
「そ、そんな…い、いやあぁぁぁぁぁぁぁっぁぁっぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっぁぁっぁぁぁぁあぁぁっl‼︎」
「…うわぁ」
正直ここまで嘆かれるとドン引きなのだが、これはこれでもしかしたら見逃してもらえるチャンスではないだろうか?
「だから俺のことはあきら…」
「なんて最高なのかしら‼︎見たことのないスキルを使う気の強い冒険者の心を折りながら、慕う女の子から坊やを寝取れるなんてそんなの幸せすぎて嫌になっちゃう‼︎」
「何でだよ⁉︎」
落ち込んでいた表情から一転、奴の表情は今まで見たことのないくらい恍惚とした表情で口からは過去最高に涎が垂れている。
その姿はオークバーストモードとでも言ったようだろう。もはやあれは理性を持った化け物ではなく、己の欲望に従ったモンスターへと成り下だがったのだ。
このような恐ろしい状況、たとえ逃走スキルを使ったとしても逃げ切るのは難しいだろう。
ならばここは力を持って抵抗しなけれないけない。
バニルの時ほどではないが支援魔法を最大限に使いながら自身の肉体を強化する。
一度使用したらタガが外れた様なもので、行きすぎた強化で体の負担は既に限界を超えてしまっているので、早く決めないと自分の魔法で自身の身を滅ぼしかねない。
剣が無い以上使える武器は己の肉体しかないのだ。
「悪いが、このままやられる訳にはいかないんでね」
クリスに教わったつけ焼刃の格闘技の構えを取る。教わった時間は短かったが、それでも学んだことは教わった時間以上だと俺の体に刻んだ傷が物語っている。
「構えたね…坊や…」
「はぁ?」
俺が格闘技に構えを取った瞬間に奴の歓喜の様な叫びは無くなり、場の空気は先程までの張り詰めた様なものへと回帰する。
「私が武器を使っているのは、一種の手加減みたいなものでね、相手を気遣っているってこと…こうして武器を捨てて素手でやると言うのは私を本気にさせたと言う事よ」
先程まで荒ぶっていた奴の呼吸は驚くほど落ち着いており冷静に見えたが、奴の目は完全に俺を捉えて離さないと言いたげで、まるで一発決めたような程にガン決まって血走ったものだった。
「それに驚いたね坊や…奇しくも同じ構えだ…」
「ああそうだな、鏡を見ているみたいで気持ち悪がな」
どう言った運命の悪戯なのか、俺と奴の構えは腕の位置・腰の高さ・重心共に全てが同じだった。
どう言う事か疑問に思ったが、今は考えるほどの余裕がないのでその後に考える事にする。
今はただコイツを倒す事だけを考えなければ色々な意味で死が待っている。
「「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉーーっ‼︎」」
こうして男と漢?のぶつかり合いが始まった。
オークの戦闘が最後まで書ききれませんでした…