誤字脱字の報告ありがとうございますm(_ _)m
「ふと思ったんだけどさ、クリスは自分より強い敵にあったらどうするんだ?」
とある日のとある修行中の休憩の時間、俺は彼女のシゴキにシゴかれ体力の限界を迎え、動けなくなったので地面に寝そべって休憩している。
そしてふと唐突に思いついたのだ。
これほど強い彼女がもし自分より強い相手に出会った場合に一体どの様にして対応するのか。
俺なら搦手を使うか全力で逃げるのだが、クリスは堂々とその敵に対して相対して立ち向かうのか、それとも何か秘策があるのか?
「強いって…どうするかと言われればその時によるとしか言いようがないけど…それに強いにも色々種類があってね」
俺が寝転びながら肩で呼吸をしている光景を積み上げられた資材の上から見下ろしながら彼女はそう言うと、よっこらせとそこから降りて地面に落ちている木の枝を拾い、俺の顔の横の地面に絵を描き始めた。
「強さと言っても時と場合や条件があるんだよ、単純に一撃の力が強いのかそれとも手数が多いとか魔力とか権力とか様々な条件があってその強さを確立しているわけだから、その相手の強さの根拠を突き止めてその弱点を探し出せば基本的には大丈夫だよ」
成る程な…
どんなに強い者でも必ず弱点があると言うことか。
しかし、純粋に自分の上位互換が現れた場合はどうすれば良いのだろうか?
…いや、そしたら自分がされたら嫌なことをすれば良いだけか。
「他にも地の利とかもあるよね、砂地とか樹木生い茂る森とかその場に適応した戦闘方法を熟知しているだけでも有利が取れて強いとも言えるよね、後は…」
それからいろんな条件下での強いの定義が彼女の口から語られ、中々に為になるのだが果たしてその手法を俺が出来るのかと言われればまた別だろう。
彼女とはステータスは近しいのだが、経験が俺よりも段違いに多いため戦えば比べるまでも無く彼女に軍配が上がる。
「それはそうだけどさ、何も手がない状態で純粋に己の実力で戦わなければならなくなったらどうするんだ?」
「うーんそうだね…」
今言った状況や周りの環境とかでは無くただ単に純粋な力比べになった時に相手に勝つ心構えや考えを聞きたいのだ。
何かしらのスキルがあるのか、防御の構えや合気道のような受けに徹した型があるのであればそれを学びたいものなのだが…
そんな考えの中、彼女は俺の質問に対して顎に手を当てながらうーんと再び考え出すと
「そうだね…そうなったら逃げるしかないかな…結局生き残れば勝ちだからね。まあ許されるのなら後から立て直して闇討ちだね」
パチンと最後に指を鳴らしてポーズを取る。
結局そうなるのか…
いつもながらクリスはブレないなと思いながらも意地悪にも話を続ける。
「もし状況的に逃げられなかったらどうするんだ?何かスキルとかあるのか?」
「えぇ⁉︎またとんでもない質問が来たね」
前回の質問を慌てて捻り出した為か、想定外の俺の追撃が来て慌てているのを取り繕うために再び顎に手を当てて考え出す。
「まあ、そうだね…とにかく支援魔法で身体強化して殴りかかるかな?喧嘩は…じゃなかった、戦いは勝負とは違って生きるか死ぬかだからね諦めた方が負けってこと。つまり負けたと思わなければ必ず勝つって寸法さ‼︎」
「嘘⁉︎俺の師匠脳筋過ぎ‼︎」
思わずに口元に両手を押さえる様に当て何処ぞの広告のように悲痛の叫びを上げた。
確かに勝負は一本有りだとか点数とか勝ち負けの基準があるが、戦闘になれば最後に立っているのが勝者になるのでそこにルール等々はなく、簡単に言えば殺し合いであるのだ。
ミツルギなんかも自分のルールに囚われて対人戦にはギャップを感じて不利になりそうな感じがしなくもない。
…まあ、だとしても倒れるまで殴りかかるは横暴だろう、今まで散々言っていたテクニックとか何処に行ったんだよ。
「あはははは…」
ポリポリといつもの癖なのか頬を掻きながら目線が明後日の方向に向く。
やっぱり言えない事があるのか、それとも普通に盗賊なことあって小手先でどうしようも無くならない様に常に何かしらの作戦を考えているのか。
「…まったく、そんな事考えてないで次のステップに行くよ、今度は休憩中に余計な事を考えるくらいの余裕が無くなるくらい厳しめに行くよ」
「やべっ⁉︎」
薮蛇ってしまったのかクリスの表情が恐ろしいものへと変化する。
どうやら俺はとんでもない事をしてしまったようだ。
まあ、結局の所自身よりも実力の高い相手と戦わなくてはいけない時は事前に作戦を練っておき、それでもダメであれば政治的に倒すか逃げた後で隙を見て闇討ち、そして何も事前準備ができなく逃げられない状況にあったら普段から想定していた作戦を使用し、それらが叶わなければ逃げる自身の命を賭けて立ち向かうしかないと言う事だ。
…果たしてそんな状況がこれからやってくるのだろうか?
できれば来ないで欲しいが、俺のパーティーには多技のゆんゆんに一撃必殺のめぐみんが居るので、突然の場合は2人に頑張ってもらえば最悪なんとかなるだろう。
結局の所で他力本願なのは痛い所だが…
「そろそろ行こうと思うと思うけど準備はいいかい、坊や?」
互いに構えを取りながら静止しはや数十秒、俺達の間には一触即発の様な緊張感が漂っている。
調子に乗って1人でこの状況まで来てしまったが、オークが女と途中で分かった時点で彼女らを呼び戻しておけば良かったと今更に思う。
しかし、今は目を離せば奴からの強力な一撃が飛んできて俺を破壊しそうだ。
「ハッ‼︎いつでも来やがれ」
ハッタリをかまし、奴を誘う。
天気は晴れで風はひとつも無いと言うのに、まるで嵐の中にいるようなビリビリとした緊張感が俺を包み込み、足がかすかにだが震えてきている。
人間誰しも極限状態で緊張が限界に達すると震えだすと言うが、どうやら本当の事らしい。
「それじゃあ行くわよ、坊や‼︎」
ダッと奴が地面を蹴り上げると同時に拳を振り上げこちらに向かって迫り来る。
攻撃自体は単純なストレートだが、先程奴が言っていた様に武器を使用していたのは手加減だった事は本当の様で迫り来る迫力は先程とは段違いで、まるで2D映画から3D映画に切り替わった様だった。
しかし、それを見せつけられてハイそうですかと引き下がる訳にはいかず、俺は俺で考えながらも抵抗しないといけないのだ。
「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ‼︎」
迫り来るやつに対して対面するように、こちらも地面を蹴り駆け出す。
「まさか私の攻撃に対して正面から立ち向かってくるなんて嬉しいわね、感動しちゃう‼︎」
「うっせぇわ‼︎」
憎まれ口を叩きながら奴の殴りかかりを寸んでのところで回避し、勢いそのまま脛を蹴り上げる。
奴の事だ、どうせこのままではダメージが入らないのでそのまま追撃に入るために体を回旋させ奴の脇腹に肘を打ち付ける。
喧嘩・戦いにも悲しい事にターン制のような物があるので、やり尽くしたら一度引かなければいけない。
でなければ呼吸が間に合わなくなり酸欠となってブラックアウトしてしまうからである。
「あら、もう終わりかしら?それじゃ今度は私の番」
「何⁉︎」
一旦距離を取ろうと後方へと飛んだ所でその足を掴まれ、そのままジャイアントスイングの如く俺の体を振り回していく。
「どうする坊や?このまま私達の愛の巣まで飛んで行こうかしら?」
「そんな気持ち悪い場所に行ってたまるか‼︎」
俺の足を掴んで逃げられなくしたのはいいが、そのまま振り回して俺を飛ばそう物ならそのまま俺が逃亡を図るものだと思ってか、締めをどうしようか決めあぐねているようだ。
うわーと最初は思ったが、こうもグルグルと振り回されると一周回って冷静になってくる。
「いい加減にしやがれ、頭に血が上って後々大変になるだろ‼︎」
掴まれている脚の膝を折り曲げながら反対の脚でガラ空きになった奴の顔面を蹴り飛ばし、そのまま上体を回旋させ体を捻りながら地面に受け身を取りながら転がり立ち上がる。
「中々ひどいこと言うじゃない…それにあの状況で私の片目を潰すとは中々にやるじゃない」
「ハッお前だってちゃっかり蹴られた瞬間俺の足首を捻り潰しているじゃねえか」
そう、奴を蹴り飛ばし地面に転がりながら立ち上がる際に足に激痛を感じ足元を見てみると、何処ぞのB級映画の如く雑に俺の足首が明後日の方向へと何周も捻れてしまっていた。
奴の方へと目を向けると、たまたまだったのだが俺の蹴りが見事に奴の片目へとヒットして眼球を破裂させていたのだ。
「ええ、私から逃げようだなんておかしな事を言い出すから、いっその事逃げられない様に足をもいでおこうかと思ってね」
「怖⁉︎サイコパスかよ‼︎」
何処ぞのヤンデレキャラのようなセリフを吐きながら奴は両頬に手を当て体をくねらせる。
恐るべき愛情…いや欲と言った所だろうか?
あんなものはアニメの可愛いキャラが言うから可愛いのであって、現実の生物が言うものでは無いのだ。
…ふざけるのはここら辺にしてそろそろ本気で方をつけなくてはいけない。
回復魔法で捻り壊された足首を修復する。
普段回復魔法はよく使うのだが、支援魔法の反動によるダメージがメインであまり大きな外傷をしなかったので、大きな怪我をしても擦り傷が埋まる様に治るような映像作品のように綺麗にふわふわした感じに治るかと思っていたのだが、現実は非常で捻れた方向とは真逆の方に足首が回転して元の位置に戻り腫れが徐々に引いていった。
「うわ…結構えぐい治り方するんだな…今度は見ないでおこう」
グロテスクなものはあまり苦手では無いのだが、実際に自身の体がエグいことになると流石の俺でも少し気分が悪くなる。
よく交通事故で自分の腕が明後日の方向へと折れていても気絶していない事があり、周りの人が腕を指摘して本人が気づいて折れた自身の腕を見た瞬間気絶するみたいな話を聞いたことがるが、あながち嘘じゃないんじゃないんじゃ無いかと思う。
「へぇ、あなた回復魔法を使えるのね。てっきり戦士かと思っていたのだけれども意外ねぇ、坊やはプリーストなのかい?」
「いいや、俺はただの冒険者だよ。残念だったな予想が外れて」
「いいえ、むしろ感動しちゃったわ‼︎冒険者でここまでやるだなんて実力だけでここまでやって来たのね‼︎」
ますます欲しくなっちゃったわ‼︎と奴はそう言いながらこちらに飛びかかってくる。
「いい加減にしやがれ‼︎いつまでのお前の婚活に付き合っている暇はねぇんだよ‼︎」
迫り来る奴の抱え込みに対して状態を逸らしながら躱し、その隙に踏み込んで奴の肩に拳をめり込ませようとするが、奴はそれを事前に気づいていたのか躱し俺の腹部目掛けて思いっきり拳を振り上げる。
「ごはっ‼︎」
「まだまだよ‼︎」
奴の強すぎる力に対して俺の体は上方へと飛び、奴は痛みに悶えている俺の足を再び掴むと半回転しながら地面に叩きつける。
地面に叩きつけられ全身に痛みが走ったが、それだけでは終わらず再び俺の体が浮遊感に包まれる。
どうやらもう一度俺を叩きつけるつもりだろう。
いくらでも回復魔法で傷は治るかもしれないが、体が受けたダメージを治すことはできない以上これ以上はまずい。
「なろ‼︎」
持ち上げられた瞬間にすかさず俺を掴んでいる奴の手に空いている方の脚で踵落としをして拘束を解く。
「甘いわよ‼︎」
そのまま地面に着地して反撃に出ようかと思っていたが、奴の表情は驚愕ではなく予想が当たったというしたり顔である事に気づきすかさず防御を取ると、俺の腹部めがけて全力のストレートが飛んできた。
事前に気づけたので防ぎはしたが、完全に威力を殺すことは出来ずに俺の体は飛ばされ地面に激突して転がりだす。
「ごはっ⁉︎」
転がり終えると回転していた視界が戻り、気づけば明るかった視界に影がさしている事に気づき体を捻らせてその場から逃避すると、丁度先程まで俺がいた場所に奴の踵落としが振り下ろされていた。
「飛ばされたからって油断してると天国に直行よ坊や」
「…ハッ、お前に従えば結局天国行きじゃねぇか!」
「あら、上手いこと言うわね。わかっているなら諦めて私について来ればいいじゃない、このままだと痛い思いをしながら天国だけど、私の元に来れば気持ちよく天国に行けるわよ」
「俺からしたらどっちも地獄だよ‼︎」
叫びながら奴に向かい攻撃を仕掛ける。
奴の掴みてをはたき落とし、その反動を利用して奴の潰した目の方の顔面へと蹴りを入れる。
そして残った方の脚で奴の体を蹴りながら回避しようとしたが、その蹴りを奴の手で払われて体勢を崩される。
そしてその隙を狙って奴の拳が飛んでくる。
奴の事だ、俺の体を綺麗な状態で回収したいと致命的な所を狙う筈はないと踏み、そこに掌を回すと予想通りに奴の拳が当たる。
強すぎる奴の力に手が痺れそうになるが、ほとんど感覚の手癖で掴みながらそこを支点にして体を半回転させ奴の顔面に膝蹴りを喰らわせる。
そこで終われば次がまた来るので次の手に移ろうとすると、上から奴の拳が振り下ろされ地面に叩きつけられる。
そして追撃の足による踏み付けをなんとか回避して立ち上がり再びくる奴の渾身のストレートを防ぐ。
躱す事が距離的にも間合い的にも無理だった為防いだのだが、やはり威力を殺しきれずにそのまま後方へと吹き飛ばされそうになる、スキルを使用してなんとか留まるが、地面にタイヤ痕を残すように後をつけながら後方へ滑っていき、後方にあった樹木に当たり停止する。
何故こんな所に木が?と思ったが戦闘に集中するあまり、吹き飛ばされて少し奥に進んでいた事に気づかなかったようだ。
「しまっ⁉︎」
止まった安堵感と同時に危機感に囚われる。
目前にはオークが迫ってきているのに対して、俺の上と後方には木が生えており逃げ場が側方へと固定されてしまっている。
…逃げ場が無い‼︎
「追い詰めたわよ‼︎坊や‼︎安心してたとえグチャグチャになってもアレがあるなら躊躇いなく愛せるわよ‼︎」
奴は両手を広げて左右の退路を塞ぎそのまま俺に向かって迫ってくる。
それに対して俺のできる手立てはなく、ただ防御に徹するしか無いのだ。
「ゴハッ‼︎」
奴のタックルに対して念のために取っておいた防御スキルを使ったのだが、そんな抵抗虚しく木とオークとでサンドされ、あまりの痛みに視界がぶれる。
「これで終わりかと思ったら甘いわよ‼︎」
挟まれあまりのダメージに気を失いそうになり踏ん張るが、それを楽しむかのように奴は拳を握り連打を繰り出してくる。
「オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラ‼︎」
腕を前に出し防御スキルを使いながら奴の攻撃を防ぐ。
奴の攻撃力に対して俺の防御力はスキルを使ったとしても差を埋めることは出来ず。所々腕が折れては回復魔法を使いながら奴の攻撃を防ぐ。
「どうしたのかしら坊や‼︎黙って防いでばかりじゃ戦いにならないじゃ無い‼︎それとも女の子に殴られ続けられるのが趣味なのかしら‼︎」
「…」
「いい事を聞いたわ‼︎今晩坊やと致す時は乱暴にシてあげるわ‼︎」
全力で防いでいる最中奴は一方的に痛ぶっている為か気分が高まり訳の分からない事を叫び出した。
しかし、このままだと不味いな…。
どんな人間にも攻撃を続けていけば必ず一呼吸が入ってしまうのだ、俺自身それを懸念して蓮撃は抑えているのだが奴からは一向に息継ぎする気配がない。
やはりオークと言う規格外の生物だからだろうか?
隙が無いと言う事になったら反撃のチャンスがなくなると言う事になる。
ポケットに忍ばせたマナタイトがある限り奴の連撃を耐える事ができるのだが、反対にそれが尽きるまでに何かしらの反撃を考え付かなければ俺の体が色々な意味で天国へと向かってしまう事になる。
「どうしたのかしら‼︎少しは何か言ったらどうかしら‼︎」
殴られながらなのか、次の手が何も浮かばない。
避けて立ち向かおうにも一度防御を解かなくてはいけない。そうなれば奴の攻撃を受けて木に叩きつけられた後、張り付けられてサンドバック状態になるのがオチだろう。
では、どうすればいいのだろうか?
…ああ、そう言えば。
前に思いついた作戦を思い出す。
それをすれば最悪俺自身も巻き添えになってしまうリスクを孕むのでやりたくは無かったのだが、このまま行けば結果は同じだろう。
ならばリスクを持って勝利というリターンを得るしかない。
「オーク‼︎これでも喰らいやがれ‼︎」
連撃の最中奴に向かって手を突き出す。
防御を一時的にだが解いてしまった事により、奴の拳を左肩に貰ってしまったが今はそんな事を気にしている場合ではない。
肩のダメージを無視し、俺は奴に向かって黒炎を放つ。
体力的なものと、後に続く作戦を計算して出せたのは小さな火球だったが、威力はどんなサイズでも強烈だと言うことはこの世界に来てから実感している。
「どんなものが出てくるかと思ったら、こんな小さな炎なんて随分とお可愛いこと‼︎」
奴はそれを侮っていたのだが、野生の直感かそれとも生物として火を恐れる本能なのか言葉とは裏腹に俺の放った黒い火球を上体を逸らして躱す。
避けられた…
しかし、それも計算の内。
あの火球を侮りそのまま火ダルマになればそれが一番良かったのだが、そうはならないだろうと思い次の作戦を準備している。
その作戦は単純なもので、支援魔法を全力で拳に纏わせ奴の体を穿つと言ったものだ。
殺すことは出来ずとも奴の動きを一時的に無効化できることは可能だろう。そうすれば遠くに居るであろうゆんゆんを呼び出す事が出来るので止めをさしてもらおう。
「もらった‼︎」
そして奴が火球を避けた瞬間にその瞬間は訪れた。
奴自身俺の火球を避けた自分自身に驚きを隠せない様だが、どんな達人だろうとも予想外の事が起きたら隙ができる、その瞬間に奴に一撃を入れるのだ。
「甘いわね坊や‼︎何か嫌ものを感じたから避けたけど、そこまで簡単に隙を作るほど私は甘くはないわよ!」
俺が仕掛ける事を予想していたのか、俺の放とうとする渾身の一撃を奴は後方へ飛んで躱そうとする。
「させるかよ‼︎」
「何よ⁉︎」
しかし、そこは自分の方が一枚上手だろうと自負したい所だ。
奴が後方へと飛ぶ瞬間に奴の爪先を踏み込む脚で踏みつける。人型である以上呼吸は違っても動きは似るものだろうと思う。
そう、奴は俺に爪先を踏みつけられた事で瞬間的に後方に下がれなくなってしまい、その後方に下がろうとするエネルギーは行き詰まり、バランスを取るために前傾するという運動に加算される。
つまり、奴の体は必然的に俺の元に向かって来る事になる。
「今度こそ終いだ‼︎」
戻ってきた奴の体を全力を込めた拳で貫く。
戻ってきた奴の運動エネルギーと俺自身の全部をかけた一撃に挟まれる事による力を無防御の状態で全て受け止める。
手応えは今までの跳ね返される様なものとは違い、奴の体の奥深くへと沈んでいくものに変わっている。
そして、そんな攻撃を行った俺に対して何もない訳は無く、やつを殴った腕から足にかけての半身にヒビが入る様な感覚と共に、腕の感覚が消失した様に力が入らなくなる。
「…はぁ…はぁはぁ」
俺の一撃が綺麗に鳩尾に入った事により奴は気を失い、そのまま後ろの力無く倒れ口から泡が出ていた。
勝った…
誰の力も借りずに1人の力でモンスターに勝つ事が出来た。
皆からしたらどうもない魔物かも知れないが、それでも事前の作戦もなく単純な力でヤツに勝ったのだ。
達成感か、それとも奴を倒した事により緊張の糸が切れたのか立っていられなくなり、ストンと膝から崩れ落ちて尻餅をつく。
そうだ、ゆんゆんを呼ばなければ。
地面に座り、放心状態になっているとゆんゆん達の事を思い出した。
彼女たちは遠くで俺を見ている筈だったが、そろそろ来てもいいだろう。それに最悪途中で助けに来るもんだろうと心のどこかで思っていたが、彼女からの増援は無かった。
もしかして勝手に戦った事で呆れられて先に言ったのだろうか?
そういえば途中からうるさかったなと思いながらとりあえず目線を前に向けるとそこには先程倒したオークが居た。
復活したと思ったが、目の前には先程倒したオークが現在も泡を噴きながら伸びていることから、こいつは別個体だろう。
「嫌ぁぁぁあぁぁぁあぁぁぁああああっぁぁぁあっぁぁぁぁぁあっぁぁぁあぁぁぁあぁ⁉︎」
「あら一族でも実力のあるスワティナーゼをモンクでないのに拳で倒すなんて、貴方とっても素敵ね‼︎私と交わらない?」
そして、そいつも俺を求めてくる。
「…ああ、モテる男って辛いな」
相手は人間じゃないけど…
「どうかしら?」
「悪いけどお断りかな」
「そう…できれば同意の下で行いたかったんだけど…それじゃあ仕方ないわね」
やはりそうなるのかよ‼︎
内心突っ込みながら逃げる算段をするが、俺の半身は生憎先程の戦いでヒビまみれになっており力が入らずに動けない。
そして残念な事にマナタイトも先程の戦いで全て使い果たしてしまったので、残りは全てゆんゆん達に渡してあるバックに入っているものだけになる。
どうしようもない詰みに、やっぱり調子に乗って1人で向かうんじゃ無かったと後悔するが、時すでに遅し俺はどうやらこの後天国という名の地獄に落ちなくては行けなくなってしまった。
「それじゃあスワティナーゼには悪いけど、せっかくだしここで戴いちゃおうかしら‼︎」
スワティナーゼと呼ばれ先程まで死闘を繰り広げていたオークを奴はどかし俺の元へと向かう。
そして動けなくなった俺に対して覆い被さるように手を伸ばし、俺の上に乗っかってマウントを取ると俺の衣服に手を伸ばしボタンを外し始める。
抵抗しようともがくが、全身に力が入らないのと奴の力が強い事の両方の要因により手も足も出ない。
普段襲われる女性の恐怖がここまで凄いものだなんて知らなかった。
ああ、もうだめだ…お終いだ‼︎
「私のカズマさんに手ぇ出してんじゃないわよ‼︎」
「え?」
突如後方から声がした後に死角からゆんゆんが飛び出して来たかと思うと、そのまま奴の顔面に飛び膝蹴りをお見舞いして吹き飛ばしてしまった。
「カズマさん無事でしたか‼︎救出しようかと思ったのですがこちらに向かっていた他のオークと戦ってたら遅くなってしまいました」
彼女は俺が死闘を繰り広げていたオークを一撃で倒してしまい、そのまま俺に対して遅くなったことを詫びた。
ゆんゆんェ…強すぎだろう。
「…カズマが心配で急ぐのは分かりますが、私をここまでぞんざいに扱うのはどうかと思いますよ」
そう言えば手に何か持っているなと思って目線を下すと、彼女の手元には何故かボロボロになっためぐみんの首根っこが掴まれていた。
「あ、ごめんめぐみん…でも私が掴んでなかったらメスとは言えオークに捕まって大変な事になっちゃうかと思って」
どうやら戦闘の間爆裂魔法の使えないと言うか、使ったら自身を巻き込みかねないめぐみんを守る為、彼女を掴みながら戦っていたのだろう。
「そう言えばカズマは何故オークになんて喧嘩を売ったのですか?オーク相手ならカズマが潜伏を使って私たちが先頭を歩けば見逃して貰えるというのに」
「そうですよ、何故わざわざオークに喧嘩を売ったのですか?オークは異性に対しての特効を持っていますので相性が最悪なんですよ?」
はいどうぞとゆんゆんは俺が預けていたバックからマナタイトを数個取り出して俺に渡すと、それを見ていためぐみんが思い出したように質問しゆんゆんも追随してくる。
と言うかオークに対してそんな対処法があるのかよ。
「いや、そうなんだけどさ?オスの可能性もあったじゃん、そうなったら2人が危ないなと思ってさ」
思った事をそのまま言う。
先程の作戦はあくまでメスだったから出来た作戦であって、もしあのオークが雄なら最悪な事になっただろう。
「いえ、あの…カズマさん…オークのオスは昔に絶滅して今はメスのオークしかいないんです」
上司の間違えを否定するかの如く申し訳なさそうに彼女はそう言った。
「え?この世界にオークのオスは居ないの?」
「残念ですがいませんね。カズマの住んでいた国にはオークが居なそうなので分からないとは思いますが、紅魔の里周辺のオークのオスは随分前に絞り尽くされて精魂と共に命までも尽きたとされていいます」
仮にオスが産まれても成人になる前に干からびて亡くなってしまいます、と後に彼女は続ける。
つまり俺の心配は無意味だったと言う事になる。
早く言ってくれれば良かったのにと思ったが、そういえばジェスチャーを送る際に何か伝えようとしていたことを思い出し、それが合図だったのかと思いため息を吐いた。
「まあ、カズマさんが無事でしたので良かったですよ。いきなり喧嘩を売り出したので助けようかと思ったら他のオークがカズマさん目掛けて走ってくるので、そのオーク達と戦うので精一杯でした」
「そうですよ、この御時世男性の冒険者はこの辺りには現れませんからね、オークからしたらオスのカズマはほっぺたの落ちるほどにご馳走だったわけですよ」
成る程な…
怪我を回復魔法で治し、なんとか気力で立ち上がり周囲を見渡すとそこには数十頭のオークが色々な体勢で伸びていた
「これ全部ゆんゆんが倒したのかよ…」
戦いに集中して気づかなかったが、ここまでやっていたとは…。
今後彼女怒らせない様にしなければ、と心に誓ったのだった。