誤字脱字の訂正ありがとうございます。m(_ _)m
回復魔法で全身のダメージを治癒したが、依然として抜けきらない疲労を背負いながら周辺を見渡す。
辺りにはゆんゆんが薙ぎ倒していったオーク達が伸びていたのだが、その中に見慣れたものを見つける。
「おっあったあった。てっきりもっと遠くに飛ばされたのかと思ったよ」
戦闘が白熱し気づけば元々いた場所よりもだいぶ遠くに移動していたので失った魔法剣も遠くにあると思っていたのだが、不幸中の幸か飛ばされた方向が進行方向だった為、意外にも近くの地面に突き刺さっていたのだ。
「何か刺さっているとは思いましたが、やっぱりカズマさんの剣だったんですね」
「まあな、コイツだけは絶対に手放さないと決めていたんだけど結局飛ばされちゃってな」
やれやれと地面に突き刺さった剣の下へと歩いていき、柄を掴むとそのまま上へと引き抜きその刀身を目を凝らして眺める。
元々筋力パラメーターの低いのだが、それでも俺の手から弾かれるほどの圧力を外部から受けた以上刃こぼれを起こしている危険があるからだ。
この剣を買った店曰く、この魔法剣はこのアクセルに関して滅多に出回らない物であるらしく、高い値段相応に質が良いらしい。
そして、刃こぼれしたらすぐ直しに来いとまで言われており、それ程までに気にかけるのであればこの剣は相当な業物なのだろう。
「…良かった。特に刃こぼれして無いみたいだ」
光に当て角度を変えたりして刃を確認するが特に目立った傷等々は見つからなかったので安心する。
これから紅魔の里に行く以上、アクセルに戻るのは少なくとも明日以降になってしまうので、ここで武器を使用不可にされるのは堪ったものではない。
「そういえばいつもその剣大事にしていますね。やっぱり何か曰くとかあるんですか?」
「いや別にないけどさ、やっぱり最初に買った高い剣で今まで色々と共に過ごした物だからな、それなりに思い入れがあるんだよ」
剣を鞘に収め腰に戻すと、ゆんゆんが横から話しかけてくる。
「まあ、とにかくここを離れようぜ。コイツらがいつ目覚めるかわからない以上長居して目覚めでもしたら大変だからな」
「そうですね。マナタイトの予備はまだありますが、またこの数を相手にすると残りの道で他のモンスターと遭遇した時の対処が間に合わなくなりそうですね」
バックに入っていたマナタイトの数はアクセルを出た時よりも半分程まで数を減らしていた。
あの凶暴なオークの事だ、すぐに目覚めて俺たちを再び襲うだろう。そして、それをゆんゆん達が再び掃討したとして残るマナタイトは残り僅かだ。
紅魔の里までの道のりはまだ半分程で、相手取るのはゆんゆんになるのでこれ以上の消費は抑えたいところだ。
ボーとしているめぐみんに声をかけ3人集まると、先程と同じように俺を先頭にして先を進む。
本当ならオークの戦いがトラウマになりかけているので俺を後方にして貰いたいが、基本オークは群れを好むそうなのでアイツらが目覚めて追っかけてくるまでは遭遇する事はそうそう無いとのことだ。
平原を進み森へと場面は変わる。
先程までは俺達は距離を取っていたのだが、今回は森で隠れるものや他の生物の気配が沢山あるので先程まで使えなかった潜伏が使える様になったのだが、何故か2人とも俺の体に紐を巻きつけそれを掴みながら進むことになっている。
…え、俺はペットなの?
てっきり前みたいに肩とかに触れるか、手を繋ぎながらとかだったのに今回はバニルから買い取ったのか、盗賊スキルの共有の効果がある紐を取り出して気づけばこうなっていた。
紅魔の里は元々隠れ里のようなもので一般的に見つからないと言われていたらしく、ベターだがこうした深き森林の中に隠されているらしい。
…まあ、今は観光業の収入が多いためこうして大々的にされているらしいが。
隠れ里とは一体?
それでも昔は森に辿り着かれないように迷わせるような術式やら魔法が施されていたらしいが、現在では見る影がない。
「そう言えば紅魔の里ってどんな感じなんだ?雑誌とかでよく見る秘境とか言われてるけど、住んでる身としては違うだろ?」
拾った枝で木々の隙間に張り巡らされた蜘蛛巣を振り払いながら進んでいる途中ふと思った。
観光地でも旅行に行くのと暮らすのではまた見え方が違うと言うのはよくある話だろう。ならばこれから見るであろう表の顔と見えないであろう裏の顔両方を知って、それを側から見て楽しむと言うのは面白くないだろうか?
「そうですね…側から見れば秘境とか言われていますけど、私たちからすれば故郷ですから。よくある村みたいなものですよ…ただ」
「ただ?」
自分の里について説明を始めた彼女の語尾に何やら不穏な言葉が付随した。
「いえ、なんでもありません…カズマさんのことですから行けばきっと分かりますよ」
フッとセンチメンタルに思いを耽りながら彼女はそう言うと目線をめぐみんの方向に向ける。
どうやら彼女のトラウマスイッチ的な地雷を踏んづけてしまったのだろうか?
「…何故このタイミングで私に目線を向けるのでしょうか?詳しく説明お願いいたします」
「あっ」
話には入ってこなかったが一応話を聞いていた為こちらを見ていたのか、ちょうどゆんゆんが横を向いたタイミングで目が合ってしまった。
ゆんゆんはめぐみんの方向を見たのか、それともただ横向いたのかその真意は不明だが分かることは今現在めぐみんに組み伏せられていることだけだ。
「痛たたたたたたたたたたたたたーっ⁉︎」
「さぁ‼︎詳しく説明して貰おうではないですか‼︎私が居ることで何故里に憂いがあるのでしょうか‼︎」
「違うの‼︎別にめぐみんが何かしたとかそう言うのじゃないの‼︎」
あーまたやっているよ。
というか紐が俺につながってるから漏れなく俺も引っ張られ…痛たったたたたたたたたたたたたったたた‼︎
「痛てーよ⁉︎俺を巻き込んで暴れるな‼︎潜伏スキル使っているからって大声までは隠せないんだよ、他のモンスターに気づかれたらどうすんだよ‼︎」
「きゃあ‼︎」
紐を手繰り寄せ2人の体勢を崩し抵抗しないと踏んだところで説教する。
俺の潜伏スキルでは姿や気配や小声くらいなら隠せても、じゃれつくような大声までは隠し通せないのだ。
「いてて、それくらい分かっていますよ。ですが、それでもやられたらやり返すのが紅魔族というものです‼︎」
「うるせーよ‼︎敵にバレたら最終的にやられるのは俺たちなんだからな‼︎」
キリッとキメ顔をするめぐみんに怒号を飛ばす。
なんかゆんゆんが里の紹介を躊躇ったのがわかる気がした。
「ゆんゆんも何か言ってや…」
めぐみんを正座させ説教しながらゆんゆんにも何か言ってもらおうと目線を上げ、ゆんゆんの方向へと向けようとした時だった。
「…」
「…」
めぐみんを挟んで正面にそいつは居た。
身長はおおよそ130センチあるか無いかで、肉付きは少なくほっそりしており力がない様に見えるが俺を見たその眼光は紛れもなく獣のようで…
つまりオークではないが人型のモンスター、多分だが小鬼だろう。
単体ではそこまで危険はないのだが、それ故オーク以上に群れて行動するため厄介だとギルドで聞いたことがあったが、聞いた話での生息場所はここでは無く何処か別のところだっと言っていた。
何故こんな所に?
前の生息地で何かあってここまで追い詰められたのか?
しかし、そうだとしたら少なくともモンスターの強い紅魔の里周辺に来るだろうか?普通に考えればもう少し安全な所に来るだろう。
そう言えば俺の世界では本来の場所に居ない外来種は、おおよそ人間の手によって運ばれていきた本はペットだったものって話が常設だったが、果たして小鬼を飼うだろうか?
…いや流石の紅魔族でもそこまではしないだろう。
だとしたらゆんゆんの手紙にあった様に魔王軍がそこまで迫って来ているのか?
「居たぞーっ‼︎紅魔族のガキ2人に男1人だ、早くこっちに来てくれ‼︎」
目が合い、はや数秒のち先に声を上げたのは俺ではなく小鬼だった。
しかも人間の言葉を喋り出すときた。
本来喋らない下級モンスターが喋り出した時は例外を除いて魔王軍の関わりがあると前に誰かが言っていた気がする。
ならばコイツらは魔王の配下になるだろう。
すっかり忘れていたが、紅魔の里が魔王軍に襲われかけて危なかったのでここまで来ていた事を思い出す。
気をつけて置くべきは野生の強力なモンスターだけだと思っていたが、魔王軍の連中もいる事を失念していた。
野生のモンスターだけなら最悪なんとでもなったが、知能を持っているとなると話はまた別になる。
「チッ‼︎なろ‼︎」
考えるよりも早く体が動く。
叫ばれてしまった以上仲間がここに向かって来るのは道理、一度見つかり視界に入ったままの状態で再び潜伏は使えないので、踏み込みできる限り最速で小鬼の首を勢い良く引き抜いた剣で跳ねる。
「ぎゃっ」
首を刎ねて飛び散る血を風の魔法で弾きながら周囲を感知スキルで探る。
奴が叫んで仲間がこっちに向ってくる前に彼女らを連れて里に逃げ込まなければいけない。
この狭い森の中だ。囲まれたら一巻の終わりだ。
「マジかよ…」
感知スキルによって現れたのは夥しいほどの魔物の反応だった。
質の悪い烏合の衆だったらゆんゆん魔法で一掃できるのだが、いくつか混じって強い個体の反応が混じっている。
反応は元々こうなる事を予想して配置していたのか、俺たちを囲む様にに躙り寄りながら向かっている。
こうなってしまえばめぐみんを庇いながらゆんゆんと長い攻防戦を繰り広げなくては行けない。
「カズマさん‼︎」
小鬼の残った首から下の遺体を蹴り飛ばし、ゆんゆんにアイコンタクトを送ると何かに気づいたゆんゆんが叫びながら俺の後方へと指を刺した。
何だと思い後方へと視線を向けると、上空から鳥型のモンスターが一羽を先頭に複数体が俺目掛けて急降下してきた。
「マジかよ‼︎」
意識外からの攻撃。
下手に感知スキルを弄った事が災いしたのか、空への警戒を失念してしまい鳥型の接近を許してしまう。
この距離間合いならゆんゆんの魔法でも間に合うとは思えない。
「次から次へと、魔王軍っていうのは本当にめんどくさいな‼︎」
幹部単体とはいくつか死闘を繰り広げたのだが、群として相対することは今までに無かった。
ゲームでも良くあるボスが強い個体一匹よりも中ボスクラスの敵がわんさか湧いて来る戦いが厄介だという現象だ。よく言うマルチタスクという奴だが、男性脳である俺には如何にも苦手な分野だ。
まぁ、だからといってハンスやバニルみたいなやつともう一度戦えと言うのは流石に嫌だが。
俺に向かって落下してくる鳥型を横にずれる事で躱し、それによりできた隙に付け込んで剣を振り上げ胴体を前と後ろに分ける。
先陣切って来たやつは潰したが、残りをどうするかと思い顔を上げるとゆんゆんが魔法を放ったのか複数の雷が線となって上空を走り羽ばたいていた鳥群を叩き落としていった。
「周囲一帯をモンスターが囲んでいる、俺はいいからゆんゆんはめぐみんを守ってくれ‼︎」
はい分かりました、無理しないでくださいというゆんゆんの返事に対して、冗談じゃありません私も戦えますというめぐみんの食いぎみの返事が返ってくる。
…いや爆裂魔法を放ったら俺達も巻き込まれて死ぬからな。
そんな事はさて置き状況は最悪である。
敵の反応は近づき木々の隙間から敵の姿が確認できる。
樹々生い茂る森の中、いつぞやのクリスの訓練を思い出す。
「さあ今日はこの森の中で訓練にしよう。私との組手もだいぶマンネリして来たからね、たまにはこういう刺激もいいでしょ?」
時はだいぶ巻戻り何時ぞやの時間になる。
朝起きてゆんゆんと会話を済ませた後、約束場所に向かいいつもの如く先に待っていた彼女と合流すると、そのままこの森まで案内された。
「ここを訓練の場所に使っていいのか?奥には大切なものがしまっているんだろ?」
そう、この森の奥にはクリスの回収した神具が沈めてある泉があるのだ。
当然それらを守るために様々な仕掛けや工夫をしていることも重々承知している。
そんな神聖な場所を俺との戦闘訓練に使用してもいいのだろうか?暴れ回る分それ相応に荒れると思うのだが。
「大丈夫だよ。確かにあまり褒められた事じゃないかもだけど人払いは済んでるし、それに結界を構成している道具達とはだいぶ距離があるからね。君があの炎を使わない限りは大丈夫だよ」
「成る程な、一応安全に関しての配慮はされている訳か」
「そうそう、だから君もそんな事は気にせずにジャンジャン行こう」
そう言いながら彼女は大量の何かを詰め込んだバックを手に持って森の中へと入って行った。
クリスに戦闘方法を教わりながら時は幾分か過ぎたが、彼女が手に道具の入った物を持ってくるときはおおよそその内容がハードになると相場が決まっている。
明日は筋肉痛確定だなと思いながら彼女の後をついて行く。
隠された森と呼ばれるだけあってか、森の中に入ると木々の隙間から多少は木漏れ日が入ってくるのだが、それでもクエスト等々で通った森と比べると比較にならないほど薄暗く景色もあまり変わりがない。
「よーし、今日はここら辺でやろうかな?」
ドスンと手に持った荷物を下ろすと、その場でストレッチを始める。
後ろを確認すると、ここら辺というには、だいぶ奥まで来ているのだろう入り口を示す光が消えて闇が見えた。
「それで?わざわざ森に来ていったい何をおっ始めようってんだ?山菜取りとか?」
クリスはたまにトレーニングと称してまた別の行為をさせる事がある。
前回はわざわざ鉱脈まで行って道具を借りてマナタイト発掘に興じた。それはそれでいい体験になったし筋力もついたのだが、それが戦闘訓練になるかといえばそれもまた微妙なのだ。
今回もまた別の訓練だろうか?
「いや、今日は本格的にやろうかと思ってね。わざわざこうして色々と武器を調達して来たんだよ」
俺の発言に呆れながらも、持ってきたバックを開くと中には色々と小道具のような武器が所狭しと敷き詰められていた。
今回はこれを使って戦うというのだろうか?
「戦うって言ってもこんな場所じゃ狭いだろう?もっと開けた場所に行こうぜ?」
「いやいや、それだったらわざわざここまで来た必要がなくなっちゃうじゃん。今回はこの狭くて障害物の多い場所で訓練にしようと思っているのさ」
「マジか‼︎」
確かにこう言ったシチュエーションはなかな想定していないので提案してくれたことには感謝だが、それはそれとして嫌な予感がするのだ。
「さあさあ、準備した準備した。早くしないとそのままの状態で始めちゃうよ」
バックには俺用とクリス用と二つに分けられており、それぞれ同じ木刀や小道具等々色々なものが敷き詰められていた。
「それじゃあ私は一旦姿を隠すから、私からの攻撃が合図ね」
クリスから受け取った武防具を装着して準備が整ったことを確認すると、彼女はそう言い残して姿をくらました。
普通は潜伏をしようしても、相手の視界から一度消えなくては行けない制約があるのだが、彼女の場合は俺の視界に居るはずなのに周囲の景色に溶け込むように姿がぼやけ出して消えたのだ。
多分俺と同じ潜伏スキルなんだろうが、本業な事もあってか俺と比べて段違いだ。
さてと、それはさておき、俺は俺で彼女の攻撃に対応しなくては行けない。
潜伏スキルに対応する感知スキルを使用しながら彼女の姿を探す。本来であれば感知スキルがあれば潜伏スキルを見破れるはずなのだが、彼女の気配をまるで察知できない。
しかし、それとは別に俺に向かって飛来する何かを感知しそれを木刀で弾く。
「おっと⁉︎」
弾かれたものは石かと思ったが、流し目でそれを確認すると木をトリミングして作られた小さいナイフだった。
器用な事するなと思い間がらも、続いてくる第二波に対応する為目線を戻す。
十数回にもわたる投げナイフの応酬を受けながらどこから投げているのかと飛んで来た方向へと視線を向けると、今度は反対側からナイフの気配を感じ側方へずれる様に避ける。
「へーなかなかやるね。君の事だから最後のヤツは当たると思ったんだけどな」
「甘いな、こちとら普段からどれだけシゴかれてると思っているんだよ‼︎」
スキルなのかそれともこの森の性質なのか、どこからか彼女の声が響く様に聞こえてくる。
「それじゃあ今度は私自ら出向こうかな?」
声の方向とは裏腹に後ろの樹々の隙間を縫うようにクリスの姿が現れる。
相変わらずよくわからない動きをするもんだ、と思いながら彼女は腰に下げていた木のダガーを抜き俺に向けて構える。
「遠くからちまちま攻撃して来てたのに、今度はいったいどう言った風の吹き回しだ?」
「へー言うね。そう言う君は弾くばかりで私の居場所全然掴めてなかったでしょ」
皮肉を返したら図星を突かれる。
全く耳に痛い話だ。
感知スキルで飛んできたナイフは弾けたが、飛んで来た方向が色々な場所からだったので実際に何処から投げられたものかは結局の所わからなかったのだ。
多分、罠作成のスキルで投擲機を作り出して樹々の隙間に仕掛けたのだろう。
「それじゃ行くよ」
「いきなりかよ⁉︎」
唐突に彼女はダガーを構えるとそのままコチラに向かって突進してくる。
このままだといつものやられるパターンになってしまうので木刀を薙いで牽制する。
しかし、そんな事は分かっていると彼女は体を屈めそれを回避する。
だが、相手の行動が分かっているのは俺も同じで、はなから想定していた通りに足の踵の部分で地面の土を抉りながら彼女に飛ばす。
「やるね‼︎」
褒めているつもりか彼女はそう言いながらも退く事はせずに、上体を逸らして土を躱し再び体勢を戻す勢いを利用しながら俺に斬りかかってくる。
「危な⁉︎」
振り下ろされた彼女のダガーを彼女の手首を抑える事で止める。
しかし、そこで終わる彼女ではなく、すぐさま体勢を変え掴まれた手と片足をうまく軸にして上段の回し蹴りを放つ。
「まだまだ!」
それを体を逸らせ何処ぞのマトリックスのように回し蹴りを避け、地面に木刀を刺しそこを支点に後方へと一回転する。
正直バク転なんて出来るのかと思っていたが、曲芸師のスキルをとる事によって可能にしたのだ。
「お見事、順調に成長していて私も感心したよ」
そう言いながら先程投擲していたナイフを再びこちらに向けて投擲する。
牽制のつもりだろうか?
何故このタイミングかと思いながらそのナイフを避けながら彼女の元へと構えながら向かう。
「はははは、君私に集中し過ぎだよ」
「何の事だ?」
ナイフを躱わしながら彼女に近づくと、今度は自身が使っていたダガーをこちらに向かって投擲した。
距離・タイミング・狙い、共に俺の嫌いな位置だったが、それでも避けれないことは無く少し掠ることを許容するのであればギリギリだが避ける事は出来るので、その絶妙な体運びでそれを躱す。
「はい、チェックメイト」
いったい何のことだ?
先程のナイフにワイヤーが括り付けられて戻ってくる仕組みでもあるのだろうか?
一瞬の内に思考を回し、答えを探すが彼女の言葉の真意が分からなかったが避けたダガーから目線を戻した瞬間に全てを悟った。
「しまっ⁉︎」
目の前にはいつの間にか木が聳え立っていたのだ。
先程から彼女が投げていたナイフは牽制ではなく、俺を木に誘導する為のもので最後のダガーは意識をそこに集中させる念の一押しだったのだろう。
「グッ…ガハッ‼︎」
体を丸め痛みを最小限にしたつもりだが、それでも支援魔法で強化し全力で走っていた為、威力は大きく全身にかなりの激痛が走る。
「ほらほら、ちゃんと気をつけなきゃダメだよ?せっかく場所を森の中にしたんだから」
「クソッタレが…これを狙ってやがったな…」
痛みに悶えていると待ってましたと言わんばかりにクリスがニヤニヤしながらこちらに向かって来た。
「森の中は木と言う障害物が多いんだから感知スキルを偏らせるとすぐ木にぶつかるからね。特にさっきの君みたいにナイフに注意が向いちゃうと危険だよ」
「そうだけどさ」
「ほらほら、寝てないでそろそろ立てるよね。時間は有限だからちゃっちゃと次に行こう」
「鬼か⁉︎」
治癒魔法で痛みを取りながら飛び上がると、再びクリスの姿は消えていた。
どうやら二回戦の様だった。
その後、さまざまなバリエーションで散々な目にあったが、それでも何かを得られた様なそんな達成感はあった。
場面は戻り紅魔の里周辺の迷いの森へと戻る。
周囲の感知スキルには多数のモンスターの気配があるが後方のゆんゆんが牽制の意味を込めて中級魔法を放っている為、徐々にだが数が減って来ている。
しかし、相手の数が多すぎる為に焼け石に水状態だ。
しかし、この状況は非常に不味い。
「そろそろ来るぞ、気をつけろ‼︎」
最初に来た小鬼の脳天に何時ぞやのクリスの様にナイフを投擲し脳天に直撃させる。
しかし、相手は他勢に無勢、剣を構え直線に突き抜け様に駆け抜ける。
2人はめぐみんがポーションで相手を牽制し、その時間を使い詠唱を済ませ上級魔法を放つという内容になっている。戦い方としてはセオリーだが、それ故にめぐみんのポーションが尽きてしまえばそれまでになってしまう。
タイムリミットは長くは無い。
一刻も早くコイツらを殲滅しなくては夜になり夜行性のモンスターが出現してしまう。
いや、そもそも夜になるまでにどうにかしなくては、このままコイツらに捕らえられ殺され無かったとしてもろくな目に遭わないだろう。
逃げ場を確保する様に集まりつつある小鬼を蹴散らして行く。
俺のレベルも結構上がったもんで、この程度の下級モンスターであるなら一撃で屠れる様にはなっている。
「道が開けて来た、着いて来い‼︎」
感知スキルで敵の居場所を割り出し、集まりの薄い場所に突撃してそいつらを蹴散らす。幸いな事に森の中な事もあってか完全に包囲されている訳では無いので上手くすれば逃げられる可能性がある。
その作戦で一筋の道の様なものが出来上がり、そこに2人を呼び撤退させる。
「カズマさん後ろ‼︎」
「何⁉︎」
状況を整理してルートを設定をどうするか考えていると後ろからゆんゆんの声が響く。
咄嗟に疎かになっていた感知スキルを発動させ周囲を確認すると頭上から弓矢が放たれていた事に気づく。
幸いにも気づいたことが早かったため体を逸らして矢を躱し、飛んで来た矢の軌道を沿う様にナイフを投擲する。
完全にクリスの見様見真似だったが、狙撃スキルが上手く作用したのか、遠くで小鬼の様な断末魔が聞こえ感知スキルの反応が消えた事が確認できたので安堵し、2人を呼ぶ。
俺の指示に気づいたのか、ゆんゆんはめぐみんに伏せる様に指示すると上級魔法のライトオブセイバーを使用し回転切りの如く体を回し、周囲を一掃する。
そして、一時的にだが周囲にモンスターが居なくなる状態を作り出し俺の元へと向かってくる。
「大丈夫ですか?」
「ああ、何とかな。助かったよゆんゆんがいなかったら矢の筵だったよ」
「いえいえ、それほどでも…」
周囲に小鬼が居ない事を確認し、潜伏スキルを使用しながら先に進む。
「いいですかカズマ、このまま進めば時期に紅魔の里に着きます。そうすれば里の皆でこのモンスターを一掃できますので時間をかけてでも安全にお願いしますよ」
息を潜めながら進んでいるとめぐみんが口を開く。
「ああ、わっかてるさ。けど大丈夫なのか?紅魔の里は今の所ピンチって話だろう、俺たちを助けるほどの余力はあるのかよ?」
「わかりませんが、あの人たちがこんな雑魚相手に遅れを取るとは思えないんですよ」
「まあ、現にその雑魚達に遅れをとっている訳なんだけどな」
「うるさいですよ!今はふざけている場合では無いでしょう」
ふざけながらも周囲の敵を感知スキルで判別して避けながら進んでいくと、開けた場所の手前に着く。
「はーい、これはやられたな」
「な、何があったんですか?」
思わず口にした言葉にゆんゆんが反応する、めぐみんは何かを察したのか杖を持って構えている。
「完全に追い込まれたな、安全そうに見えた道を進んでいたつもりだったが、単純に誘導されただけみたいだったな」
「え?追い込まれたって事ですか?」
「まあ、そうなるな」
感知スキルでなるべくモンスターがいない所を選んでいたつもりだったのだが、思い返せば相手が潜伏スキルを持って居る事を想定して訓練していたかのように絶妙な配置だったことに気づく。
クリスによく言われた様に、一つの事に囚われすぎていた様だった。
「このまま進んだ広場のような所に大勢の反応が見える。かと言って他の道に進めばそれはそれで面倒な事になりそうだな」
「それで、どうするんですか?」
「どうするって…なあ?」
質問する彼女に対して俺はめぐみんの方へと顔を向ける。
普通の一般人なら分からないが、パーティーメンバーである俺たちにはその動作が答えだった。
「…つまり私の爆裂魔法の出番という事ですね」
俺の言葉に待っていましたと嬉々として彼女は答えた。
自分で書いておいて何ですが話が進まないですね…次回には紅魔の里に着きますので何卒容赦を…。